説明

玉軸受の玉配列方法及び玉配列装置

【課題】 玉に接触することなく、比較的簡易な装置で容易に玉をほぼ等間隔に配列しうる玉軸受の玉配列方法及び玉配列装置を提供する。
【解決手段】 複数の玉3を周方向に沿ってほぼ等間隔に配列させる玉軸受の玉配列方法である。この玉配列方法は、内外輪1,2間の軌道面空間kに磁石5を近接させ当該軌道面空間kに磁界を与えて内外輪1,2間に転動可能に介在する複数の玉3のそれぞれに磁極を誘起し、隣接する玉3間のそれぞれに磁気反発力を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受の玉配列方法及び玉配列装置に関する。
【背景技術】
【0002】
玉軸受として、内外輪間において周方向に沿って等間隔に配列した複数の玉と、この等間隔を維持しつつ各玉を転動自在に保持する保持器とを有するものがある。このような玉軸受の組み立て方法は、まず複数の玉を内外輪間の軌道面空間に入れ、これらの玉を周方向に沿って等間隔に配列させた後、保持器を装着する方法が一般的である。この組み立て方法において、複数の玉を等間隔に配列する玉配列方法としては、串玉割方式や磁気玉割方式と呼ばれるものがある。
【0003】
串玉割方式は、例えば円環状の基部とその基部から軸方向に延設されるとともに周方向に等間隔おきに設けられ且つ長さが順次変化する串部とを有する串状の玉割り串を用いて複数の玉を等間隔に配列させるものである。すなわち、内外輪の転動空間内に玉割り串を挿入し、各玉を串部によって分離することにより、複数の玉を等間隔に振り分けている。しかしながらこの串玉割方式では、玉割り串の串部と各玉とが直接的に接触するため、玉に接触きずや圧痕が発生し、製品精度に影響を及ぼす恐れがあった。
【0004】
また、磁気玉割方式は、玉の等配状態に対応させた位置に、玉と同数の磁石を等間隔に点在させ、点在する各磁石のそれぞれに玉を吸引させることにより、これらの玉を等間隔に配列するというものである。しかしながらこの場合、点在する磁石のうちの一の磁石に複数の玉が引き付けられるなど、玉の振り分けを円滑に行うことが困難である。
【0005】
そこで、互いに偏芯させた状態で内外輪を相対回転させて玉を周方向に沿って分散配置させた後、玉の等間隔配置に対応した位置に設けられたエアーノズルからのエアーによって玉を等間隔に保持する技術が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−161926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の従来技術は、接触きずの防止に有効であり、また玉が磁化されることがないという利点がある。ただし、内外輪を互いに偏芯させるための装置や、エアーノズルを備えたノズル装置が必要となるため、これらの装置を設置するためのスペースや装置費用が必要となる。また偏芯作業を伴うための作業時間が必要となる。
【0007】
本発明は、かかる状況に鑑みなされたものであり、玉に接触することなく、比較的簡易な装置で容易に玉をほぼ等間隔に配列しうる玉軸受の玉配列方法及び玉配列装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
玉軸受の玉配列方法に係る本発明は、内外輪間の軌道面空間に磁石を近接させ当該軌道面空間に磁界を与えて前記内外輪間に転動可能に介在する複数の玉のそれぞれに磁極を誘起し、隣接する前記玉間のそれぞれに磁気反発力(磁気排斥力)を生じさせることにより、複数の前記玉を周方向に沿ってほぼ等間隔に配列させることを特徴とする。
この場合、磁石を玉に接触させる必要がないので、非接触で玉を配列させることができる。また、磁気反発力を用いているため、円滑に玉を配列させることができる。
【0009】
上記の玉配列方法においては、前記軌道面空間に周方向に均等な磁界を与えるのが好ましい。
この場合、軌道面空間に周方向に均等な磁界を与えているため、各玉に誘起される磁極は、当該玉の周方向位置に関わらず一定となる。よって、玉の周方向位置に関わらず隣接する玉間に均等な反発力を生じさせることができる。したがって、玉を等配列する前の玉の偏在状態に関わらず、円滑に且つ精度よく玉を等間隔に配置することができる。
【0010】
上記の玉配列方法においては、前記磁石を近接させた状態で前記玉を転動させるのが好ましい。この場合、玉の等配列に要する時間を短縮することができる。
この玉配列方法においては、前記内外輪を相対回転させて玉を転動させるのが好ましく、これにより玉の移動がより円滑となり、玉の等配列に要する時間をより効果的に短縮することができる。
【0011】
また、前記磁石は円環状であるとともに、その内径は前記内輪の外径以上とされ且つその外径は前記外輪の内径以下とされており、前記内外輪と同軸の状態で前記円環状の磁石を前記軌道面空間の軸方向一方側に配置して前記玉と前記磁石とを近接させるのが好ましい。円環状の磁石を内外輪と同軸で配置することにより、軌道面空間に対して周方向に均等な磁界を与えることができる。また、磁石の内外径を上記のように設定することにより、軌道面空間の軸方向側に磁石を配置することができる。
【0012】
これらの玉配列方法においては、玉配列前に保持器を予め載せておくのが有効である。すなわち、前記玉のそれぞれを収容する複数のポケットが周方向に沿って等間隔に配置され且つ前記ポケットの軸方向開口部から前記玉を挿入しうる円環状の冠形保持器を用意し、径方向を水平とした前記軌道面空間上に前記軸方向開口部を下向きとした前記保持器を載置しながら前記玉を周方向に沿ってほぼ等間隔に配列させるのが好ましい。
【0013】
玉を等間隔に配列する課程においては玉が周方向に転動するが、玉を転動させる前に予め保持器を載せておくことにより、玉を転動配列させるだけで全ての玉が各ポケットの軸方向開口部位置のそれぞれに配置された状態を形成することができる。よって、その後保持器を上方から押圧等するだけで容易に保持器を玉軸受に組み付けることができる。
【0014】
玉軸受の玉配列装置に関する本発明は、径方向を水平とした状態で玉軸受が配置される軸受配置部と、前記軸受配置部に近接して当該軸受配置部の下側に設けられ、前記軸受配置部に配置された前記玉軸受の軌道面空間に磁界を与えて複数の玉のそれぞれに磁極を誘起し、隣接する前記玉間のそれぞれに磁気反発力を生じさせる磁石と、前記軸受配置部に配置された前記玉軸受の玉を転動させる転動機構と、前記軸受配置部に配置された前記玉軸受を上方から押さえ付ける押圧機構と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
このような装置によれば、簡易な構成で上述した玉配列方法を実施することができる。また、軸受を軸受配置部に置き、その上に保持器を置いた状態で上記転動機構を駆動させることにより、玉を迅速かつ等間隔に配列すると同時に保持器の各ポケットの軸方向開口部に玉を分配することができる。更に押圧機構により保持器を下方に押さえ付けることで保持器を組み付けることができる。つまり、ワークを軸受配置部に置いたままで玉の等配列から保持器装着まで行うことが可能となる。よって、軸受製造工程の高速化や簡略化、及び製造設備の省スペース化が可能となる。
【0016】
上記の玉軸受の玉配列装置において、前記転動機構は、前記玉軸受に内外輪間の相対回転を与える回転体であるのが好ましく、これにより玉の移動がより円滑となり、玉の等配列に要する時間をより効果的に短縮することができる。
【発明の効果】
【0017】
磁石により軌道面空間に磁界を与えて玉同士を反発させたので、玉に接触することなく、比較的簡易な装置で容易に玉をほぼ等間隔に配列することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1〜図3は、本発明の一実施形態である玉軸受の玉配列方法を説明するための図である。
本玉配列方法を行うにあたっては、先ず、内輪1と外輪2との間の空間(軌道面空間)に複数の玉3を入れて、玉を等配列する前の軸受体4を用意する(図2参照)。そして、この軸受体4に磁石5を近接させて、軸受体4の軌道面空間kに対して磁界を与える。磁界は周方向に均等な磁界とする。この磁界により、玉3のそれぞれに磁極が誘起され(図3参照)、隣接する玉3間のそれぞれに均等な磁気反発力(磁気排斥力、図3の白抜き両矢印参照)を生じさせることができる。この状態で、内外輪1,2を相対回転させると、玉3が周方向に転動し、この転動の課程で、上記磁気反発力の作用により玉3が周方向に沿って等間隔に配列され、玉が等配列された軸受体7となる(図2参照)。なお、図1の例では内輪1を回転させているが、外輪2を回転させてもよい。また本玉配列方法では、転動機構としての回転体6に磁石5を装着し、回転体6とともに磁石5を回転させているが、磁石5は回転させずに固定しておいてもよい。
【0019】
玉を等配列する前の軸受体4の軌道面空間kに対して周方向に均等な磁界を付与するため、本玉配列方法では、円環状の磁石5を用いるとともに、これを軸受体4と同軸で配置する(図1及び図2参照)。図3は、磁石5によって玉3に誘起された磁極のS極(Sと表示)及びN極(Nと表示)を示す図である。また図3では、磁石5によって生じる磁界のうち玉3を通過するものを矢印で示している。磁石5によって付与された磁界が軸受体4の周方向に均等であるため、磁石5によって各玉3に生ずる磁極の配置及び強さは、玉3の周方向位置によって変化しない。すなわち、磁石5によって各玉3に発生する磁極の配置及び強さは、内外輪1,2の周方向及び径方向に対し、玉3の周方向位置に関わらず一定である。本玉配列方法では、磁石5が円環状であり且つ内外輪1,2と同軸で配置されているため、各玉3と磁石5との相対的な位置関係は、玉3の周方向位置によらず一定である。
【0020】
したがって、玉3相互間に生ずる磁気反発力は、各玉3の周方向位置に関わらずほぼ一定となる。よって、本玉配列方法は、玉を等配列する前の軸受体4において玉3の偏在状態がどのようなものであっても対応することができる。また、本玉配列方法を実施する過程において玉3は周方向に移動するが、この移動中の各玉3にあってもその周方向位置に関わらずほぼ一定の磁気反発力が作用し続ける。よって、本玉配列方法は、配列開始時における玉3の偏在状態を問わず適用することができるとともに、安定して玉3を等配列させることができる。なお、磁石5は永久磁石としている。磁石5を永久磁石とすることで、常に安定した磁極作用が玉3に付与される。
【0021】
磁石5は、その内径が内輪1の外径以上とされ且つその外径は外輪2の内径以下とされている。よって、磁石5は軌道面空間kの軸方向側に配置される。さらに磁石5は、その内径が内輪1の外径よりも大きく且つその外径は外輪2の内径よりも小さくされている(図2参照)。そして、内外輪1,2と同軸の状態で円環状の磁石5を軸受体4の軸方向一方側に配置して玉3と磁石5とを近接させている。磁石5の内外径を上記のように設定することにより、磁石5と玉3との間に内輪1や外輪2が介在しない状態で玉3に磁石5を近接させることができる。よって、軌道面空間kに配置された玉3と磁石5との距離を接近させることができ、比較的弱い磁石5であっても十分な強さの磁極を玉3に誘起することができる。このことは、磁石5の製造コストの低減に寄与する。
【0022】
磁石5は、その軸方向一端側がS極とされ、その軸方向他端側がN極とされている。本玉配列方法では、磁石5のN極側又はS極側のいずれかを玉3に近接させる。なお、図3は、磁石5のS極側を玉3に近接させた例であるが、磁石5のN極側を玉3に近接させても良い。
【0023】
磁石5は玉3の軸方向一方側に配置される。よって図3のように、玉3の誘起される磁極のN極とS極とを結ぶ直線L1が軸方向に近くなる。この場合、隣り合う玉3相互間において、同極(N極とN極、又はS極とS極)間の距離d1が、異極(N極とS極)間の距離d2よりも長くなる(図3参照)。d1<d2であるから、玉3同士を引き付け合う力よりも、玉同士を反発させる力が勝り、隣り合う玉3相互間に磁気反発力が生じる。玉3相互間の磁気反発力を大きくする観点から、同極間距離d1と異極間距離d2との差(d2−d1)を大きくするのが好ましい。(d2−d1)を大きくするために、上記直線L1を軸方向に近づけるのが好ましい。上記直線L1を軸方向に近づけるためには、磁石5の径方向幅を抑えて磁石5を軌道面空間kの軸方向側に局在化させるのが好ましい。よって、磁石5の径方向幅W1を軌道面空間kの径方向幅W2の80%以下とするのが好ましい。
【0024】
本玉配列方法では、回転体6が前記磁石を近接させた状態で内外輪1,2を相対回転させる。この相対回転は、玉3のそれぞれを円滑に転動させる。よってこの相対回転は、玉の等配列に要する時間の短縮に寄与する。なお、磁石5の強さや、玉3と軌道面とのすき間の大きさによっては、内外輪1,2の相対回転が不要となる場合もありうる。しかし、通常の内部すきまを有する玉軸受では、内外輪1,2を相対回転させることで玉3が転動する。内外輪1,2を相対回転させることは、等配列に要する時間を短縮できる点や、磁石5の磁力を最小限として玉3の磁化の度合いを抑制することができる点から好ましい。
【0025】
相対回転の回転数は特に限定されないが、例えば500〜800rpm程度とすることができる。相対回転の回転数が小さすぎると玉が等配列するまでに要する時間が増加する場合がある。相対回転の回転数が大きすぎると玉の等配列に要する時間を短縮するメリットは少ない場合がある。ただし、相対回転の回転数の最適値は、軸受の内外径、玉の総数、又は磁石の磁力等によって適宜調整することができる。
【0026】
外輪外径φ35mm、内輪内径φ19mm、軸方向幅7mm、ボール直径φ3.9mm、ボール総数12個の玉軸受で実験を行った。磁石5は、図1及び図2で示すような円環状の永久磁石を用いた。図1に示すように、回転体6を回転させて内輪1を500〜800rpmで回転させた。内輪1の回転中、外輪2は固定させておいた。その結果、玉を周方向に沿って等間隔に配列させるのに要する時間は2秒程度であった。
【0027】
本玉配列方法は、磁石5と玉3とを接触させない状態で行うことができる。例えば図1の実施形態では、磁石5の軸方向一端面5aと内外輪2,3の軸方向端面との軸方向位置が同一となっている。このように本玉配列方法は、磁石5と玉3との間に一定のすき間を設けた状態で行うことができる。したがって、玉3と磁石5とが接触して玉3がきずつくことがない。
【0028】
なお、本玉配列方法では、軌道面空間kの軸方向一端側から磁石5を近接させているが、軌道面空間kの軸方向両端側から磁石5を近接させても良い。この場合、軌道面空間kの軸方向一端側に近接させる磁石の磁極と、軌道面空間kの軸方向他端側に近接させる磁石の磁極とが異なるようにする。例えば、軌道面空間kの軸方向一端側に磁石5のS極側を近接させた場合、軌道面空間kの軸方向他端側には磁石5のN極側を近接させる。このように、軌道面空間kの軸方向両端側に異なる磁極を近接させても、上記配列方法と同様に玉3に磁極が誘起される。
【0029】
本発明の玉配列方法では、径方向を水平とした前記軌道面空間上に前記軸方向開口部を下向きとした前記保持器を載置しながら前記玉を周方向に沿って等間隔に配列させるのが好ましい。この点については後述の玉配列装置についての記載と併せて説明する。
【0030】
図4は、本発明の一実施形態である玉軸受の玉配列装置10の概略を示す正面図であり、図5は同側面図である。この玉配列装置10は、上述した実施形態の方法により玉3を周方向に等間隔で配列することができる。また玉配列装置10は、ワークを1箇所(後述の軸受配置部)に留めたままで玉3の等配列と保持器の装着とを行うことができる。
【0031】
玉配列装置10について具体的に説明する。図4及び図5に示すように、玉配列装置10は、径方向を水平とした状態でワークとしての玉軸受11が配置される軸受配置部12を有している。また玉配列装置10は、前工程において玉入れされた軸受体4を搬送する搬送用ベルトコンベア(図示省略)を有している。軸受体4は、この搬送用ベルトコンベアによって軸受配置部12の後方(裏側)に搬送されてくる。この軸受体4は、エアシリンダ21(図5参照)によって動作する移動子(図示しない)により前方に押し出されて軸受配置部12に配置される。
また図4及び図5に示すように、玉配列装置10は、図示しない操作ボタンや操作画面等を有する操作ボックス20を有している。
【0032】
図6及び図7は、軸受配置部12近傍を拡大して示す斜視図である。図6はワークとしての玉軸受11が配置される前の状態を示し、図7は玉軸受11が軸受配置部12に配置された状態を示す。図6及び図7では、図面右側が玉配列装置10の前方であり、図面左側が玉配列装置10の後方である。よって、図6及び図7において、玉を等配列する前の軸受体4(ワーク)は、図面左側から軸受配置部12へと供給される。なお、図7では、玉軸受11の上に保持器8が載置されているが、この点については後述する。
【0033】
軸受配置部12の周囲には、軸受配置部12に配置された玉軸受11の外輪2を下方から支持しうる外輪支持部13が設けられている。外輪支持部13は板ばね部材とされている。外輪支持部13の先端部は、軸受配置部12に配置された玉軸受11の外輪2における下側の軸方向端面と当接する。
【0034】
また軸受配置部12の周囲には、上下動するステージ14が設けられている。ステージ14は、その周囲の平面部分15と面一となる状態(図6に示す)と、平面部分15よりも下がった状態(図7に示す)とを採ることができる。ステージ14は全体としてほぼ円環状をなしており、その中央部分には磁石5及び回転体6が配置されている。ステージ14は樹脂製である。
【0035】
永久磁石である磁石5は円環状をなす。玉軸受11(ワーク)は、磁石5と同軸となるように軸受配置部12に配置される。軸受配置部12に玉軸受11が配置されると、磁石5は当該玉軸受11の軌道面空間kの軸方向下側に位置する。この磁石5は、軸受配置部12に配置された玉軸受11の軌道面空間kに周方向に均等な磁界を与えて複数の玉3のそれぞれに磁極を誘起し、隣接する玉3間のそれぞれに均等な磁気反発力を生じさせる。
【0036】
玉配列装置10は、軸受配置部12に配置された玉軸受11に内外輪間の相対回転を与える回転体(転動機構)6を有している。回転体6は磁石5の径方向内側に配置され、且つ磁石5と同軸で配置されている。回転体6は、玉軸受11の内径(内輪内径)とほぼ同径の外周面を有する。回転体6は樹脂製とされている。回転体6は、磁石5よりも上方に突出している。回転体6は、その下方に設けられたモータmによりベルトを介して回転する(図4及び図5参照)。
【0037】
また玉配列装置10は、保持器8を軸受配置部12に供給する保持器供給機構を有している。この保持器供給機構は、鉛直方向に立設された丸棒16に挿通されつつ積み重ねられた複数の保持器8をストックするストック部17と、ストック部17の保持器8を一個ずつ軸受配置部12に供給する供給部18とを有している(図6及び図5参照)。供給部18の内部にはエアシリンダによりスライド移動するプッシャーが内蔵されており(図示省略)、このプッシャーが積まれた保持器8のうち最も下側にある1個の保持器8を分離して軸受配置部12に供給する。なお、図面を見やすくするため、図4では丸棒16、保持器8及び供給部18の記載を省略しており、図5では保持器8を破線で示している。
【0038】
玉配列装置10は、軸受配置部12に配置された玉軸受11を上方から押さえ付けることのできる押圧機構30を有している。この押圧機構30は、エアシリンダ31によって下方に押し下げられる押圧子32を有している。押圧子32は樹脂製でほぼ円柱状をなしている。エアシリンダ31により発生する押圧力により、押圧子32は軸受配置部12の軌道面空間k(つまり複数の玉3)上に載置された保持器8を上方から押圧する。
【0039】
玉配列装置10は、玉軸受11を軸受配置部12から搬出する搬出機構を有している。この搬出機構は、軸受配置部12に配置された玉軸受11を移動させる第一の移動子41を有する(図6及び図7参照)。移動子41は、エアシリンダ42(図4参照)により水平方向に移動し、玉軸受11を軸受配置部12から軸受配置部12外へと移動させる。また搬出機構は、第一の移動子41により玉配列装置10内の所定位置まで移動した玉軸受11を玉配列装置10外にまで移動させる第二の移動子(図示省略)を有する。この第二の移動子は、エアシリンダ43(図4参照)により水平移動する。搬出機構により玉軸受11は軸受配置部12から玉配列装置10の外側に至るまで移動する。
【0040】
玉配列装置10は脱磁器44を備えている。脱磁器44の上面44aに玉軸受11を載置することで玉軸受11の玉3が脱磁される。上述した搬出機構による移動の際に、玉軸受11は脱磁器44の上面44aを移動する。脱磁器44の上面44aを移動している間に玉軸受11が脱磁される。
【0041】
玉配列装置10の動作について順を追って説明する。
上述したエアシリンダ21によって、玉軸受11(玉を等配列する前の軸受体4)が移動して軸受配置部12に供給される。軸受配置部12に配置された玉軸受11は、回転体6や磁石5と同軸の位置に配置される。玉軸受11が移動する際には、ステージ14と平面部分15とは面一となっており、玉軸受11の円滑な移動を可能としている。
【0042】
次に、ステージ14が下方に下がる。ステージ14が下方に下がることにより、回転体6がステージ14の上面よりも上方に突出する。玉軸受11は回転体6に下方から支持され、ステージ14の上面から浮いた状態となる。ステージ14による支持を失った玉軸受11は、磁石5により下方に引き付けられ、この引き付け力により回転体6の先端部が内輪1に挿入される。回転体6の先端部は内輪1にほぼすき間無く内嵌し、回転体6と内輪1とが一体回転しうる状態となる。
【0043】
磁石5は、玉軸受11の内外輪1,2及び玉3を下方に引き付けるが、このうち内輪1は回転体6により支持されている。よって、内輪1の下方への移動は回転体6により規制される。一方、外輪2は外輪支持部13の先端部上に載っており、当該先端部により下方から支持されている。外輪支持部13は、磁石5による引き付け力に抗して外輪2を上方に押し上げる。外輪支持部13としては板ばねが採用されている。仮に外輪支持部13が無い場合、外輪2は内輪1よりも下方に引き付けられやすくなる。なぜなら、内輪1は回転体6により下方から支持されているのに対し、外輪2は下方から支持されない状態となるからである。外輪2が内輪1よりも下方に引き付けられると、玉軸受11の内部すきま(ラジアル隙間やアキシャル隙間)が小さくなり、玉3が転動しにくくなる。しかし、外輪支持部13によって外輪2を押し上げることにより、玉軸受11の内部すきまの減少を抑え、玉3を転動しやすくしている。このように外輪支持部13は、内輪1と外輪2との軸方向位置のずれを抑制している。
【0044】
次に、玉軸受11の軌道面空間k上(すなわち玉3上)に保持器8を載置する(図7参照)。この保持器8は玉軸受11に適合した仕様であり、玉軸受11に装着することができる。保持器8はいわゆる冠形保持器である。図6及び図7に示すように、保持器8は玉3のそれぞれを収容する複数のポケットpを有し、このポケットpが周方向に沿って等間隔に配置されている。ポケットpは保持器8の軸方向一方側に開放されており、ポケットpの軸方向開口部p1から玉3が挿入される。保持器8はナイロン等の樹脂よりなる。軸方向開口部p1の開口幅は玉3の直径よりも狭いが、保持器8の弾性変形により玉3は軸方向開口部p1を通過してポケットp内に収容される。この保持器8を玉軸受11の軌道面空間k上に載置する。保持器8は、軸方向開口部p1を下向きとした状態で軌道面空間k上に載置される。よって保持器8は、複数の玉3の上の載置されることとなる。保持器8の外径は外輪2の内径よりも小さく、保持器8の内径は内輪1の外径よりも大きい。よって保持器8は、玉3のみによって下方から支持された状態で玉軸受11上に載置される。保持器8における玉3との接触部分は、軸方向開口部p1の開口縁である。上述した保持器供給機構は、玉軸受11の軌道面空間k上に位置合わせしつつ保持器8を玉軸受11上に載置する。
【0045】
このように保持器8が載置された状態で、回転体6を回転させる。内輪1は回転体6と一体的に回転する。内輪1と外輪2との相対回転数を多くして玉3を円滑に転動させるためには、内輪1の回転に同調した外輪2の回転を抑制しておくのがよい。上述した外輪支持部13は、内輪1の回転に同調した外輪2の回転を抑制するのに寄与する。上述したように外輪支持部13は、磁石5による引き付け力に反して外輪2を上方に押し上げているが、この押し上げ力により外輪2と外輪支持部13との間の摩擦力が高まる。外輪支持部13における外輪2との接触部分に外輪2との摩擦係数を高める材料(例えば樹脂やゴムなど)を設けておくことは、外輪2の回転を抑制するのに役立つ。
【0046】
このように内輪1を回転させて内輪1と外輪2とを相対回転させると、玉3が転動するとともに、玉3相互間に作用する磁気反発力により玉3が周方向に沿って等間隔に配列される。保持器8を玉3に対して押し付ける力は保持器8の自重のみであり、また上述の如く保持器8における玉3との接点は実質的に軸方向開口部p1の開口縁のみである。よって保持器8は、玉3の転動をほとんど拘束しない。また保持器8はフリーの状態で玉3上に載置されているから、適宜周方向に回転しながら最も安定した状態を採ろうとする。よって、転動する玉3が周方向に沿って等間隔で配置される過程で、保持器8のポケットpの位相と玉3の位相とが一致する。よって、保持器8を載せた状態で内輪1と外輪2とを相対回転させるだけで、全ての玉3が各ポケットpの軸方向開口部p1のそれぞれに配置された状態となる。
【0047】
次に押圧子32によって保持器8を上方から押圧する。この押圧により、各玉3がポケットp内に収容される。次いでステージ14が上がって平面部分15と面一となる。ステージ14により玉軸受11は押し上げられ、回転体6の先端部が内輪1から抜ける。そして、上述した搬出機構により玉軸受11は搬出される。この搬出課程において玉軸受11は脱磁器44の上面を通過し、脱磁される。
【0048】
このように保持器8を載置しながら玉3を配列させることにより、保持器8を玉軸受11上に載置する際、各ポケットpの位相を考慮する必要がない。また、玉3の等配列と保持器8の組み付けとを一カ所で行うことができる。よって、製造工程の高速化や簡略化、及び製造設備の省スペース化が可能となる。
【0049】
なお、上述した玉配列方法や玉配列装置では、軌道面空間kの周方向に均等に磁界を与えることにより、玉を周方向に沿って等間隔に配置したが、玉の周方向間隔は必ずしも等間隔でなくてもよく、ほぼ等間隔でもよい。すなわち、冠形保持器8のポケットpの軸方向開口部p1は所定の周方向開口幅を有しているので、この周方向開口幅の範囲内で玉の位相ズレが許容される。つまり各玉3は、各ポケットpにおける軸方向開口部p1の周方向開口幅の範囲内に各玉3が位置する程度に周方向に沿って等間隔に配置されればよい。
また、前記玉3を転動させる転動機構としては、前記回転体6に代えて、軸受体4を揺動させる揺動機構や軸受体4を振動させる振動機構を用いてもよく、この場合でも、玉3の移動が円滑となり、玉3の等配列に要する時間を短縮することができる。さらに、磁石5として電磁石を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の玉配列方法の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の玉配列方法の一実施形態を説明するための図である。
【図3】磁石によって玉に磁極が誘起された状態を説明するための図である。
【図4】本発明の玉配列装置の一実施形態を示す正面図である。
【図5】図4の玉配列装置の側面図である。
【図6】図4の玉配列装置における軸受配置部近傍の拡大斜視図(ワークとしての玉軸受が存在しない状態)である。
【図7】図4の玉配列装置における軸受配置部近傍の拡大斜視図(ワークとしての玉軸受が存在した状態)である。
【符号の説明】
【0051】
1 内輪
2 外輪
3 玉
5 磁石
6 回転体
8 保持器
10 玉配列装置
11 玉軸受
12 軸受配置部
30 押圧機構
k 軌道面空間
p ポケット
p1 軸方向開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪間の軌道面空間に磁石を近接させ当該軌道面空間に磁界を与えて前記内外輪間に転動可能に介在する複数の玉のそれぞれに磁極を誘起し、隣接する前記玉間のそれぞれに磁気反発力を生じさせることにより、複数の前記玉を周方向に沿ってほぼ等間隔に配列させることを特徴とする玉軸受の玉配列方法。
【請求項2】
前記軌道面空間に周方向に均等な磁界を与えることを特徴とする請求項1に記載の玉軸受の玉配列方法。
【請求項3】
前記磁石を近接させた状態で前記玉を転動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の玉軸受の玉配列方法。
【請求項4】
前記内外輪を相対回転させて玉を転動させることを特徴とする請求項3に記載の玉軸受の玉配列方法。
【請求項5】
前記磁石は円環状であるとともに、その内径は前記内輪の外径以上とされ且つその外径は前記外輪の内径以下とされており、
前記内外輪と同軸の状態で前記円環状の磁石を前記軌道面空間の軸方向一方側に配置して前記玉と前記磁石とを近接させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の玉軸受の玉配列方法。
【請求項6】
前記玉のそれぞれを収容する複数のポケットが周方向に沿って等間隔に配置され且つ前記ポケットの軸方向開口部から前記玉を挿入しうる円環状の冠形保持器を用意し、
径方向を水平とした前記軌道面空間上に前記軸方向開口部を下向きとした前記保持器を載置しながら前記玉を周方向に沿ってほぼ等間隔に配列させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の玉軸受の玉配列方法。
【請求項7】
径方向を水平とした状態で玉軸受が配置される軸受配置部と、
前記軸受配置部に近接して当該軸受配置部の下側に設けられ、前記軸受配置部に配置された前記玉軸受の軌道面空間に磁界を与えて複数の玉のそれぞれに磁極を誘起し、隣接する前記玉間のそれぞれに磁気反発力を生じさせる磁石と、
前記軸受配置部に配置された前記玉軸受の玉を転動させる転動機構と、
前記軸受配置部に配置された前記玉軸受を上方から押さえ付ける押圧機構と、
を備えたことを特徴とする玉軸受の玉配列装置。
【請求項8】
前記転動機構が、前記玉軸受に内外輪間の相対回転を与える回転体であることを特徴とする請求項7記載の玉軸受の玉配列装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−78043(P2007−78043A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265282(P2005−265282)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000109059)ダイベア株式会社 (1)
【Fターム(参考)】