説明

生乾き臭抑制剤

【課題】繊維製品から発生する生乾き臭に対して優れた抑制能を有する、生乾き臭抑制剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物からなる、生乾き臭抑制剤。


(式中R1はアルキル基、アルケニル基又は−O−R3(R3はアルキル基又はアルケニル基である)を示す。破線は二重結合であってもよいことを示す。R2はアルキル基又はオキソ基を示す。但し、R2がオキソ基の場合、R2は、R1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対してγ位に二重結合する。nは1〜3の整数を示す。一般式(1)で表される化合物の総炭素数は10〜16である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生乾き臭抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の生活環境への関心の高まりから、身の回りの不快な臭気(本明細書において、「異臭」ともいう)を除去することが以前にも増して望まれている。タオル、寝具等のサニタリー用品、衣料等の繊維製品に付着する臭気は、タバコなどの外的要因の他に、繊維製品の使用を繰り返すことにより生じる、人体由来の内的要因が挙げられる。
【0003】
下着、タオル及びハンカチを初めとするヒトの皮膚と直接接触するような繊維製品、又は皮脂を含んだ汗や角質などを吸収又は付着する可能性のある繊維製品は、洗濯後、被洗物を洗濯槽内等の湿気の多い場所にしばらく放置した場合、室内干しの場合、雨や汗で濡れた場合、又は乾燥が不十分の場合に、特有の臭いを生ずることがある。この臭いは一般に生乾き臭と呼ばれるものであり、十分な乾燥を行うことで大部分を除去することができる。しかしながら、十分な乾燥を行い、生乾き臭が感じられなくなった繊維製品であっても、汗や雨などで繊維製品が湿気を帯びると雑巾臭様の生乾き臭が生じることがある。繊維製品がこの生乾き臭を一度発生するようになると、洗濯後の十分な乾燥により一時的には生乾き臭を除去できるが、使用時に雑巾集様の生乾き臭が再発し易くなる。このような再発し易い生乾き臭は、室内干しの場合のみならず、低温乾燥機能を備えた洗濯機又は乾燥機を用いた場合や、室外干し乾燥の場合でさえも湿気を帯びると生じる場合がある。
再発性の生乾き臭の特徴的な点は、洗濯し十分に乾燥した後は発生しない、ないし殆ど低減されるが、湿気を帯びるだけで臭いが発生する点にある。再発性の生乾き臭は、長期間タンスなどに収納した場合に生じ易い。しかしながら、下着、ハンカチ又はタオルなど、ヒトの肌との接触機会が多く、洗浄−使用サイクルの期間の短い使用頻度の多い繊維製品は、一度この生乾き臭が発生するようになると使用中に臭いが再発してくることが多い。さらには、洗濯回数が増えるほど生乾き臭の臭い強度が高まる傾向がある。
【0004】
ところで、これまでに、生乾き臭の指標物質として4−メチル−3−ヘキセン酸を含む数種類の脂肪酸が提案されている(特許文献1参照)。4−メチル−3−ヘキセン酸は、天然では、柚子の成分として知られているとともに(非特許文献1参照)、テルペンより微生物によって生成することも知られている(特許文献2参照)。しかし、これらの文献では、生乾き臭発生のメカニズムについて、何ら記載も示唆もされていない。また、4−メチル−3−ヘキセン酸を含む数種類の脂肪酸と再発性の生乾き臭との関連についても開示するものではない。
【0005】
一方、繊維製品から発生する異臭等の除去方法としては、香料成分を用いたマスキングや、殺菌又は抗菌剤を用いた異臭の原因となる微生物の抗菌や殺菌による消臭が知られている。
香料成分を用いたマスキング方法としては、香料成分又は香料成分の安定化剤として脂環式ケトン化合物を含有する布帛処理剤を用いたマスキング方法が知られている(例えば、特許文献3及び4参照)。異臭の原因となる微生物の抗菌や殺菌による消臭方法としては、ジケトン化合物や、陽イオン性有機抗菌剤、トリクロサン及びジクロロサンなどの殺菌剤を含有する処理剤を用いた方法などが知られている。例えば、特許文献5には、殺菌剤を用いて生乾き臭を抑制する技術が開示されている。また特許文献6はジケトン化合物を用いて、発汗に伴った悪臭を抑制する技術に関し、非微生物悪臭を抑制する技術が開示されている。その他には、特許文献7には過酸化水素を含有する液体漂白剤自体のマスキングと香調の安定のために、界面活性剤並びにテルペン系炭化水素、脂肪族アルコール及び環状ケトンから選ばれる香料を含有する液体漂白剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−244094号公報
【特許文献2】特開昭56−124387号公報
【特許文献3】特開2010−31285号公報
【特許文献4】特開2007−314693号公報
【特許文献5】特開2009−263812号公報
【特許文献6】特開平4−202122号公報
【特許文献7】特開2005−239770号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第53回 香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会 学会要旨集(2009)p.4-6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、繊維製品から発生する生乾き臭、特に、繊維製品を乾燥後、湿潤(湿気を帯びること)によって生じる再発性の生乾き臭に対して優れた抑制能を有する、生乾き臭抑制剤を提供することを課題とする。また、本発明は、効率的に生乾き臭を抑制する、生乾き臭抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み、本発明者等は、生乾き臭の原因物質、原因菌、及び発生のメカニズムの観点から鋭意検討を行った。その結果、新たな知見が得られた。すなわち生乾き臭の原因物質としては、4−メチル−3−ヘキサン酸、4−メチル−3−ヘキセン酸、5−メチル−2−ヘキサン酸、5−メチル−2−ヘキセン酸などの中級分岐脂肪酸が知られていたが、これらの中でも特に4−メチル−3−ヘキセン酸の閾値が他の物質と比較して特段に低く、主な原因物質であることを見出した。さらに、生乾き臭のうち、繊維製品を十分に乾燥させた後湿気を帯びることによりぶり返す再発性の生乾き臭は、乾燥後、十分に生乾き臭が除去された後であっても、特定の微生物が繊維製品中に生存又はそこで増殖して産生される臭いであること、或いは乾燥によって繊維に囚われていた臭いが、繊維製品の湿潤により再び解放され、低閾値であるため感じられ易いことを見出した。そして再発性の生乾き臭が、前記4−メチル−3−へキセン酸を主とする中級分岐脂肪酸臭であることを見出した。
さらに、このような知見に基づきさらなる検討を行った。その結果、特定の構造を有するカルボニル化合物が生乾き臭の抑制に有用であることを見出した。さらには、このようなカルボニル化合物が、生乾き臭の主な原因物質である4−メチル−3−ヘキセン酸の微生物による生成を抑制することを見出した。
本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物からなる、生乾き臭抑制剤に関する。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、又は−O−R3(R3は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数2〜5のアルケニル基である)で表される基を示す。破線は二重結合であってもよいことを示す。R2は、環を構成している炭素原子に結合する、炭素数1〜5のアルキル基又はオキソ基を示す。但し、R2がオキソ基の場合、R2は、R1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対してγ位に二重結合する。nは1〜3の整数を示す。なお、一般式(1)における脂環式炭化水素基から芳香族炭化水素基は除かれる。また、一般式(1)で表される化合物の総炭素数は10〜16である。)
また、本発明は、前記生乾き臭抑制剤を含有する、生乾き臭抑制組成物に関する。
【0013】
さらに、本発明は、前記一般式(1)で表される化合物からなる、4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制剤に関する。
また、本発明は、前記4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制剤を含有する、4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制組成物に関する。
【0014】
さらに、本発明は、前記生乾き臭抑制剤若しくは生乾き臭抑制組成物又は前記4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制剤若しくは4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制組成物を繊維製品と接触させ、該繊維製品からの生乾き臭の発生を抑制する、生乾き臭抑制方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の生乾き臭抑制剤は、繊維製品から発生する生乾き臭、特に、乾燥後、湿潤によって生じる再発性の生乾き臭に対して優れた抑制能を有する。また、本発明の生乾き臭抑制方法によれば、効率的に生乾き臭を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の生乾き臭抑制剤及び4−メチル−3−ヘキセン酸(本明細書において、4M3Hともいう)生成抑制剤は、前記一般式(1)で表されるカルボニル化合物からなる。
一般に、生乾き臭等の臭い抑制剤の作用機序としては、繊維製品等に付着した微生物の殺菌、繊維製品に残存する汗、皮脂等の生乾き原因物質への変換を予防、生乾き臭原因物質の無臭物質への分解又は変換、生乾き臭のマスキング等が挙げられる。なお、本発明における「生乾き臭抑制剤」の作用機序は、皮脂汚れ成分が生乾き臭原因物質の1種である4M3Hに変換されるのを予防し4M3Hの生成を抑制するものである。
なお、4M3Hには、下記に示すようにシス・トランス異性体が存在し、本発明においては、シス型、トランス型のいずれの構造の化合物も包含するものである。
【0017】
【化2】

【0018】
本明細書において、「皮脂汚れ」とは、衣類等の繊維製品に付着する最も代表的な汚れであり、遊離脂肪酸、グリセリド等の油分を多量に含有しており、それらがほこり中のカーボンや泥、剥離した角質等を閉じ込めたものが、繊維製品等で観察されるものである。また「皮脂汚れ成分」とは、衣類等に通常見られる皮脂汚れの成分であれば特に制限はないが、繊維製品から生じる生乾き臭原因物質の前駆体となり得る物質が好ましい。繊維製品から生じる生乾き臭原因物質の前駆体となり得る物質としては、例えば炭素数9〜21(好ましくは炭素数11〜19、より好ましくは炭素数17〜19)の飽和又は不飽和のアンテイソ脂肪酸(例えば、6−メチルオクタン酸、8−メチルデカン酸、12−メチルテトラデカン酸、14−メチルヘキサデカン酸、16−メチルオクタデカン酸、14−メチルヘキサデセン酸及び16−メチルオクタデセン酸)、並びにその塩及びエステルが挙げられる。これらの中には、皮脂汚れ中には実際には存在しない化合物も含まれる。
【0019】
一般に、「生乾き臭」とは、使用済繊維製品を洗濯し乾燥が不十分な場合又は繊維製品が湿気を帯びた場合に生じる臭いを言う。しかし、繊維製品を十分に乾燥させることにより生乾き臭を一時的に除去できても、乾燥後すぐ若しくは保管後に再び使用し始めてすぐ若しくは繊維製品を使用し始めてしばらくしてから、又は雨、汗等の湿気などにより、繊維製品から雑巾臭様の生乾き臭が再発することがある。このように、十分に乾燥させることにより生乾き臭を一時的に除去した繊維製品が湿気を帯びることにより再発する雑巾臭様の生乾き臭を本明細書において「再発性の生乾き臭」又は「再発性臭」という場合もある。
繊維製品を洗濯後乾燥が不十分なため生じる生乾き臭としては、S(硫黄)臭、N(窒素)臭、アルデヒド臭、低級脂肪酸臭、4M3H臭を含む中級分岐脂肪酸臭などの複合臭である。一方、繊維製品を十分に乾燥させて生乾き臭を除去した後、再び雨、汗等の湿気などにより、繊維製品から再発する雑巾様臭の再発性の不快臭は、4M3H臭を主とする中級分岐脂肪酸臭が大部分であり、その他のS臭、N臭、アルデヒド臭などの揮発性の高い臭いはほとんど発生しない。
また、「生乾き臭抑制」とは、生乾き臭を抑制すること、生乾き臭生成を予防することを包含するものである。そして本発明では、生乾き臭として前記再発性の生乾き臭、特には4M3H臭の抑制を特徴的に指すものとする。
【0020】
本発明に用いる下記一般式(1)で表されるカルボニル化合物について詳細に説明する。
【0021】
【化3】

【0022】
一般式(1)において、R1は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、又は−O−R3(R3は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数2〜5のアルケニル基である)で表される基を示す。破線は二重結合であってもよいことを示す。R2は、環を構成している炭素原子に結合する、炭素数1〜5のアルキル基又はオキソ基を示す。但し、R2がオキソ基の場合、R2は、R1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対してγ位に二重結合する。nは1〜3の整数を示す。なお、一般式(1)における脂環式炭化水素基から芳香族炭化水素基は除かれる。また、一般式(1)で表される化合物の総炭素数は10〜16である。
【0023】
一般式(1)において、脂環式炭化水素基の具体例としては、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基及びシクロヘキサジエニル基が挙げられる。但し、一般式(1)における脂環式炭化水素基から芳香族炭化水素基は除かれる。以下本明細書において、当該芳香族炭化水素基を除く条件は省略する場合がある。
一般式(1)において、脂環式炭化水素基がシクロヘキサジエニル基の場合、該環の二重結合は共役していることが好ましい。なお、当然ながら、破線による2つの二重結合が環(或いはシクロとも言う)内で1つの炭素原子を挟んで隣り合うことはない。
【0024】
一般式(1)において、R1は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、又は−O−R3(R3は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数2〜5のアルケニル基である)で表される基を示す。
1又はR3で示される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル基、tert−ペンチル基等が挙げられる。
1又はR3で示される炭素数2〜5のアルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、3−ブテニル基、1−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基が挙げられる。
一般式(1)において、R1は炭素数2〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、又は−O−R3で表される基であることが好ましく、エチル基、1−プロペニル基、3−ブテニル基、エトキシ基が好ましい。また、R3は炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数2〜4のアルケニル基であることが好ましい。
【0025】
一般式(1)において、R2は、環を構成している炭素原子に結合する、炭素数1〜5のアルキル基又はオキソ基を示す。R2で示される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル基、tert−ペンチル基等が挙げられる。本発明において、R2はメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基又はオキソ基が好ましく、メチル基がより好ましい。R2が複数ある場合、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0026】
2が炭素数1〜5のアルキル基の場合、R1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対して、α位及び/又はβ位に、R2が1つ以上結合することが好ましい。例えば、R1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対して、α位にアルキル基が2つ結合してもよい。また、環上の1つの炭素原子に対してアルキル基が2つ結合する場合、該アルキル基はメチル基が好ましい。
【0027】
2がオキソ基の場合、R2は、R1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対してγ位に二重結合する。また、一般式(1)において、R1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対してγ位にオキソ基が二重結合する場合、R1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対して、α位にメチル基等炭素数1〜6のアルキル基(好ましくはメチル基)が結合することが好ましい。
【0028】
一般式(1)において、nは1〜3の整数を示し、2又は3が好ましい。nが2又は3の場合、複数のR2は一般式(1)で表される化合物における脂環式炭化水素基の環を構成する1つの炭素原子に結合してもよいし、脂環式炭化水素基の環を構成する異なる炭素原子に結合してもよい。あるいは、脂環式炭化水素基の環構造が、置換基を複数有する炭素原子と置換基を1つ有する炭素原子を含んでいてもよい。
【0029】
本発明において、一般式(1)で表される化合物の総炭素数は10〜16であり、12〜15が好ましく、13がより好ましい。
【0030】
以下に、一般式(1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
一般式(1)で表される化合物として、前記例示化合物の中でも、
例示化合物(1)(1-(2,6,6-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン、α−ダマスコン)、
例示化合物(2)(1-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン、β−ダマスコン)、
例示化合物(3)(1-(2,6,6-トリメチル-3-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン、δ−ダマスコン)、
例示化合物(4)(1-(2,6,6-トリメチル-1,3-シクロヘキサジエン-1-イル)-2-ブテン-1-オン、β−ダマセノン)、
例示化合物(5)(1-(3,3-ジメチル-6-シクロヘキセン-1-イル)-ペンタ-4-エン-1-オン、α-ダイナスコン(α-DYNASCONE))、
例示化合物(6)(1-(3,3-ジメチル-1-シクロヘキセン-1-イル)-ペンタ-4-エン-1-オン、β−ダイナスコン(β−DYNASCONE))、
例示化合物(7)(2,2,6-トリメチル-シクロヘキサン-1-カルボン酸エチル、テサロン(THESARONE))、
例示化合物(8)(2,6,6-トリメチル-シクロヘキサ-1,3-ジエン-1-カルボン酸エチル、エチルサフラネート(ETHYL SAFRANATE))、
例示化合物(11)(1-(p-メンテン-6-イル)-1-プロパノン、ネロン(NERONE))
例示化合物(12)(1-(2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン、イソダマスコン)、
例示化合物(13)(2-メチル-4-オキソ-6-ペンチルシクロヘキセ-2-エン-1-カルボン酸エチル、Calyxol)、
例示化合物(14)(2-エチル-6,6-ジメチルシクロヘキセ-2-エン-1-カルボン酸エチル、ジベスコン(GIVESCONE))、
例示化合物(15)(2,2-ジメチル-6-メチレン-1-シクロヘキサン-1-カルボン酸メチル、ロマスコン(ROMASCONE))、及び
例示化合物(16)(2,6,6-トリメチル-1,3-シクロヘキセン-1-カルボン酸-2-プロペン-1-イル)
がより好ましい。
【0034】
本発明において、一般式(1)で表される化合物として市販のものを用いてもよい。例えば、一般式(1)で表される化合物は、ジボダン社(Givaudan S.A.)、IFF(International Flavors and Fragrances)社、フィルメニッヒ社(Firmenich S.A.)、シムライズ社(Symrise A.G.)、高砂香料工業社、花王社、Sigma-Aldrich社、クエスト社などから香料素材又は試薬として購入することができる。
また、一般式(1)で表される化合物は、通常の製造方法で合成することもできる。例えば、前記例示化合物(16)は、例示化合物(8)をアリルアルコールと反応させてエステル交換反応を行い、生成したエタノールを除去することで合成することができる。
【0035】
本発明において、前記生乾き臭抑制又は4M3H生成抑制剤を含有する組成物として用いてもよい。これら組成物において、一般式(1)で表される化合物を1種のみを含有させてもよいし、一般式(1)で表される化合物を2種以上含有させてもよい。
【0036】
本発明の組成物において、一般式(1)で表される化合物を溶媒又は分散媒(本明細書において、溶媒又は分散媒を「溶媒」と呼ぶ)に可溶化又は乳化して用いることが好ましい。
一般式(1)で表される化合物の可溶化又は乳化に用いる溶媒としては、乾燥により繊維製品から除去される低沸点の溶媒が好ましく、1013hPaにおいて110℃以下の沸点を有する溶媒がより好ましく、1013hPaにおいて105℃以下の沸点を有する溶媒が特に好ましい。好適な溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶剤;アセトニトリル等が挙げられる。
【0037】
本発明の組成物における一般式(1)で表される化合物の濃度は、使用する溶媒、併用する基材及び/又は用途によって適宜決定することができる。
【0038】
本発明の組成物において、可溶化剤を用いて一般式(1)で表される化合物を溶媒に可溶化又は乳化させてもよい。可溶化剤としては特に制限はなく、水と油の両方に親和性のある溶剤が好ましい。具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコールの炭素数1〜4のモノ又はジアルキルエーテル、プロピレングリコールの炭素数1〜4のモノ又はジアルキルエーテル、ジエチレングリコールの炭素数1〜4のモノ又はジアルキルエーテル(好ましくはジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ジプロピレングリコールの炭素数1〜4のモノ又はジアルキルエーテル等のグリコール系溶剤が挙げられる。このような可溶化剤は、一般式(1)で表される化合物が水等の溶媒に均一に可溶化又は乳化できる程度の量を用いることが好ましく、例えば、溶媒として水を用いる場合、可溶化剤は液体中に0.01〜50質量%、より好ましくは0.01〜10質量%、さらに好ましくは0.01〜5質量%、特に好ましくは0.1〜3質量%含有させるのが好ましい。
【0039】
本発明の組成物において、界面活性剤を用いて一般式(1)で表される化合物を溶媒に可溶化又は乳化させてもよい。界面活性剤としては特に制限はなく、具体的には、炭素数10〜15のアルキルベンゼンスルホン酸又はその塩、炭素数8〜16のアルキル硫酸エステル塩、アルキレンオキシ基の炭素数が2又は3でありアルキレンオキシ基の平均付加モル数が0.2〜6でありアルキル基の炭素数が8〜16であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤、アルキレンオキシ基の平均付加モル数が0.2〜6でありアルキル基の炭素数が8〜16であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキル基の炭素数が8〜16でありグルコースの平均縮合度が1〜2のアルキルグリコシド等の非イオン界面活性剤、アルキル基の炭素数が8〜18のアルキルトリメチルアンモニウム塩や総炭素数16〜36のジアルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤等が挙げられる。
本発明の組成物における界面活性剤の含有量は1ppm以上が好ましく、2ppm以上がより好ましい。また、界面活性剤を500ppm以上含有する場合は、一般式(1)で表される化合物を0.2ppm以上含有させることが好ましい。
【0040】
本発明の生乾き臭抑制剤及び4M3H生成抑制剤は、香料を含有してもよい。本発明に用いることができる香料としては特に制限はないが、炭化水素系香料、アルコール系香料、エーテル系香料、アルデヒド系香料、ケトン系香料、エステル系香料、ラクトン系香料又は環状ケトン系香料等の通常の香料を用いることができる。本発明の生乾き臭抑制剤及び4M3H生成抑制剤における香料成分の含有量は、0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5.0質量%がより好ましく、0.02〜1.0質量%が特に好ましい。
【0041】
本発明の組成物の25℃におけるpHは、生乾き臭抑制効果の点から、7.0〜9.5が好ましく、7.0〜9.0がより好ましく、7.0〜8.5が特に好ましい。pHに調整するには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ剤、塩酸、硫酸、燐酸などの無機酸、クエン酸、エチレンジアミン4酢酸、1−ヒドロキシエチル−1,1−ジホスホン酸などの有機酸を用いることができる。
【0042】
本発明の組成物に、パラトルエンスルホン酸塩、キシレンスルホン酸、クメンスルホン酸塩などのハイドロトロープ剤を配合してもよい。
【0043】
本発明の組成物における各成分の濃度は、目的とする使用用途、処理方法等によって適宜調整することができ、各成分の配合割合は目的とする香調等によって調整することができる。
【0044】
本発明の生乾き臭抑制方法は、本発明の生乾き臭抑制剤若しくは4M3H生成抑制剤、又はこれを含んでなる生乾き臭抑制組成物若しくは4M3H組成物を繊維製品と接触させ、該繊維製品からの生乾き臭の発生を抑制する。
本発明における繊維製品の素材としては特に制限はなく、ウール、シルク、木綿等の天然素材、ポリエステル、ポリアミド等の化学繊維、及びこれらの組合せのいずれであってもよい。本発明において、繊維製品の素材は木綿であることが好ましい。繊維製品は未使用であっても、一度以上使用した使用済のものでもよい。本発明の生乾き臭抑制剤若しくは4M3H生成抑制剤、又はこれを含んでなる生乾き臭抑制組成物若しくは4M3H組成物を接触させる繊維製品は、湿気/水分を含んだものでもよいし、乾燥を十分に行ったものであってもよい。
【0045】
本発明の効果の発現には、処理対象となる繊維製品1kgあたり一般式(1)で表される化合物が0.01mg以上存在するよう、本発明の生乾き臭抑制剤若しくは4M3H生成抑制剤、又はこれを含んでなる生乾き臭抑制組成物若しくは4M3H組成物と繊維製品とを接触させることが好ましい。また、繊維製品の質感などに影響しない程度接触させることが好ましく、1g以下がより好ましく、100mg以下が特に好ましい。
【0046】
本発明の生乾き臭抑制剤若しくは4M3H生成抑制剤、又はこれを含んでなる生乾き臭抑制組成物若しくは4M3H組成物を繊維製品に接触させる方法としては特に制限はないが、例えば、本発明の組成物に繊維製品を含浸する方法、本発明の組成物をスプレー噴霧手段を備えた容器に充填して繊維製品にスプレーする方法、スポンジなどの可撓性材料に含浸させた本発明の組成物を繊維製品にこすり付ける方法などを挙げることができる。簡便性及び本発明の効果を十分引き出す目的から、本発明の組成物をスプレー噴霧手段を備えた容器に充填して繊維製品にスプレーする方法及び本発明の組成物に繊維製品を含浸する方法が好ましい。
スプレー処理を行う場合、噴霧手段としてはスプレーヤーが好ましく、エアロゾールやミスト、又はトリガー式などのポンプタイプのものを挙げることができる。ポンプタイプのスプレーヤーを用いる場合は、ボタ落ちが少ない蓄圧式と呼ばれるものを用いることが好ましい。本発明において、トリガー式スプレーヤーを用いて繊維製品に噴霧する方法がより好ましい。
【0047】
本発明の組成物を実際に使用する際、例えば、トリガー式スプレーヤーを用いて本発明の組成物を繊維製品に噴霧する場合には、繊維製品に均一に付着するのに十分な量の組成物を噴霧する必要がある。また、本発明の組成物に繊維製品を含浸させる場合には、含浸後に脱水や濯ぎなどにより有効成分がロスすることも考慮に入れ、本発明の組成物に用いる基剤が繊維製品に十分な量で残留する必要がある。
【0048】
トリガー式スプレーヤーを用いて繊維製品に噴霧する場合、噴霧後の組成物の液滴の体積平均粒径が、噴射口から噴射方向に10cm離れた地点において10〜200μmであり、200μmを越える液滴が噴霧液滴の総数に対して1体積%以下、10μmに満たない液滴が噴霧液滴の総数に対して1体積%以下になるような噴霧手段を具備するものが好ましい。このような粒子径分布は、例えば、レーザー回折式粒度分布計(日本電子製)により測定することができる。このような噴霧粒径を制御する方法としては、手動式トリガー型スプレーヤーを用いることが好ましく、噴霧口径が好ましくは1mm以下、より好ましくは0.5mm以下の吐出孔を有しているものを用いることで容易に達成することができる。また、吐出孔の形状、材質等は特に限定されるものではない。
トリガー式スプレーヤーを用いて繊維製品に噴霧する場合、組成物の20℃における粘度が15mPa・s以下が好ましく、1〜10mPa・sがより好ましい。なお、組成物の粘度調整は、組成物濃度の調整、市販の増粘剤の使用等によって行うことができる。なお、本発明の組成物の粘度は、以下のようにして測定されたものである。まず、東京計器社製B型粘度計モデル形式BMに、ローター番号No.1のローターを備え付けたものを準備する。試料をトールビーカーに充填し、20℃の恒温槽内にて20℃に調製する。恒温に調製された試料を粘度計にセットする。ローターの回転数を60rpmに設定し、回転を始めてから60秒後の粘度を水性組成物の粘度とする。
【0049】
トリガー式スプレーヤー等を用いて本発明の組成物を繊維製品に噴霧する場合、繊維製品400cm2当りの本発明の組成物の噴霧量は、0.1〜3.0gが好ましく、0.2〜2.0gがより好ましく、0.5〜1.0gが特に好ましい。また、一般式(1)で表される化合物の噴霧量は、繊維製品400cm2当り0.02〜50mgが好ましく、0.1〜20mgがより好ましく、0.2〜10mgが特に好ましい。トリガー式スプレーヤーを用いて繊維製品に噴霧する場合、一般式(1)で表される化合物の含有量はその匂いによる製品への影響を考えない限りは特に配合濃度は制限されないが、例えば製品としての香料設計の自由度が低下することが懸念されるため、組成物中1ppm〜1000ppmが好ましい。
本発明の組成物に繊維製品を含浸させる場合、繊維製品に対する組成物の含浸量は、質量比で繊維製品/組成物=1/1〜1/30が好ましく、1/2〜1/20がより好ましく、1/3〜1/10がさらに好ましい。含浸する場合の組成物の温度は5〜40℃が好ましく、10〜35℃がより好ましい。含浸時間は1〜30分が好ましく、5〜15分程度がより好ましい。本発明の組成物には一般式(1)で表される化合物を1〜10000ppm含有させることが好ましい。また、繊維製品を組成物そのものに含浸させても、濃厚溶液組成物を水道水などで希釈した希釈液に繊維製品を含浸させてもよい。
【0050】
本発明において、4M3Hの検出・定量方法について特に制限はないが、ヒトの生活に実際に使用される繊維製品において、4M3Hは、多数の他の有機物質と混ざった状態で存在する。しかも、4M3Hの閾値は非常に低いものである一方、共存する有機物質の種類によって閾値と検出強度は異なる。そのため、例えば下記方法により、4M3Hを測定することができる。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
衣類などの繊維製品50g程度を裁断し、ジクロロメタン500mLによりニオイ成分を抽出後減圧濃縮する。さらに、1M水酸化ナトリウム水溶液200mLを抽出溶液に添加し、回収した水層に2M塩酸200mL添加し酸性にする。この溶液に、ジクロロメタン200mLを加え有機層を減圧濃縮し、酸性成分の濃縮物を1mLに定容する。
続いてアジレント社製ガスクロマトグラフィーにゲステル社製Preparative Fraction Collector(PFC)装置を接続したものを用い、濃縮物を以下の条件においてGC保持時間で分画し、目的成分周辺のGC30回分を内径6mm、長さ117mmのガラス管に充填したTENAX TA(商品名、ジーエルサイエンス社製)200mgに捕集する。
以下に、ガスクロマトグラフィーの条件を示す。
(GC−PFC条件)
GC:Agilent6890N(商品名、アジレント社製)
カラム:DB−1(商品名、アジレント社製)、長さ30m、内径0.53mm、膜厚1μm
40℃ 1min.hold→6℃/min.to 60℃→4℃/min.to 300℃
Injection volume:2μL
PFC(Gerstel社製):trap time 18min.to 24 min.,30 times
trap:Tenax TA(商品名、ジーエルサイエンス社製)200 mg
【0051】
後述の実施例でも示すように、生乾き臭は、特定の微生物が繊維製品中に生存又はそこで増殖して産生される臭いであること、或いは乾燥によって繊維に囚われていた臭いが、繊維製品の湿潤により再び解放され、低閾値であるため感じられ易いことを見出した。そして再発性の生乾き臭が、4M3Hを主とする中級分岐脂肪酸臭であることを見出した。さらに、本発明の生乾き臭抑制剤及び4M3H生成抑制剤が、生乾き臭の主な原因物質である4M3Hの微生物による生成を抑制すること及び生乾き臭を抑制することを見出した。したがって、本発明によれば、生乾き臭発生の原因菌を殺菌しなくとも本発明の課題を達成することができると共に、香料によるマスキングに頼らずとも十分な効果を得ることができる。但し、本発明の組成物に殺菌剤や香料等の配合を否定するものではなく、これらを含有してもよい。
生乾き臭の原因菌となる4M3H生成能を有する微生物としては、モラクセラ(Moraxella)属細菌、アシネトバクター(Acinetobacter)属細菌、シェードモナス(Pseudomonas)属細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属細菌、ラルストニア(Ralstonia)属細菌、キュープリアビダス(Cupriavidus)属細菌、サイクロバクター(Psychorobacter)属細菌、セラチア(Serratia)属細菌、エシェリキア(Escherichia)属細菌、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、ブルクホルデリア(Burkholderia)属細菌、サッカロマイセス(Saccaromyces)属酵母、及びロドトルラ(Rhodotorula)属酵母等が挙げられる。具体的には、モラクセラ・エスピー(Moraxella sp.)、モラクセラ・オスロエンシス(Moraxella osloensis)、アシネトバクター・レイディオレジステンス(Acinetobacter radioresistens)、アシネトバクター・ジュニイ(Acinetobacter junii)、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)、エシェリキア・コーライ(Escherichia coli)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、シュードモナス・アルカリゲネス(Pseudomonas alcaligenes)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)、サイクロバクター・パシフィセンシス(Psychrobacter pacificensis)、サイクロバクター・グラシンコラ(Psychrobacter glacincola)、スフィンゴモナス・ヤノイクヤエ(Sphingomonas yanoikuyae)、ラルストニア エスピー(Ralstonia sp.)、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccaromyces cerevisiae)、ロドトルラ・ムシラギノーサ(Rhodotorula mucilaginosa)、ロドトルラ・スルーフィエ(Rhodotorula slooffiae)、キュープリアビダス・オキサラティカス(Cupriavidus oxalaticus)及びブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
試験例1 生乾き臭原因物質の特定
洗濯乾燥の後に生乾き臭が強く発生した木綿のタオルを家庭より回収して50gを裁断し、ジクロロメタン500mLよりニオイ成分を抽出後減圧濃縮した。さらに、1M水酸化ナトリウム水溶液200mLを抽出溶液に添加し、水層を回収し、2M塩酸200mL添加し酸性にした。この溶液に、ジクロロメタン200mLを加え有機層を減圧濃縮し、酸性成分の濃縮物を1mLに定容した。
【0054】
続いて、アジレント社製ガスクロマトグラフィーにゲステル社製Preparative Fraction Collector(PFC)装置を接続したものを用い、濃縮物を下記の条件下でGC保持時間により分画し、目的成分周辺のGC30回分を内径6mm、長さ117mmのガラス管に充填した充填剤(商品名:TENAX TA、ジーエルサイエンス社製)200mgに捕集した。
(GC−PFC条件)
GC:Agilent 6890N(商品名、アジレント社製)
カラム:DB-1(商品名、アジレント社製)、長さ30m、内径0.53mm、膜厚1μm
40℃1min.hold→6℃/min.to 60℃→4℃/min.to 300℃
Injection volume:2μL
PFC(Gerstel社製):trap time 18min.to 24min.、30times
trap:TENAX TA(商品名、ジーエルサイエンス社製)200mg
【0055】
最後にTENAXに捕集した目的成分をゲステル社製Thermal Desorption system(TDS)をアジレント社製GC−MSに接続した装置にて、下記条件下で分析した。
(TDS−GC−MS条件)
GC:Agilent 6890N(商品名、アジレント社製)
MS:Agilent 5973(商品名、アジレント社製)
TDS脱着条件:250℃、パージ流量50mL/min、パージ時間 3min.
カラム:DB-FFAP(商品名、アジレント社製)、長さ30m、内径250μm、膜厚0.25μm
40℃1min.hold→6℃/min.to 60℃→2℃/min.to 240℃
【0056】
解析の結果、生乾き臭主原因物質は4M3Hをはじめとする中級分岐脂肪酸臭であることが明らかとなった。
【0057】
試験例2 生乾き臭原因菌の特定
(1)菌株の単離
洗濯乾燥の後に生乾き臭が発生した木綿のタオル又はバスタオルを裁断し、LP希釈液(日本製薬社製)を添加後、攪拌した溶液0.1mlをレシチン・ポリソルベート添加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト(本明細書においてSCD−LPともいう)寒天培地(日本製薬社製)に塗沫し、35℃、24時間培養後、得られたコロニーから微生物を単離した。単離した細菌株の同定は、16S rDNA遺伝子の上流領域約500bpの塩基配列、酵母株の同定は、LSUのD2領域の約200〜500bp領域の塩基配列を決定し、当該塩基配列と基準株との同一性に基づき行なった。塩基配列の同一性は、遺伝子情報処理ソフトウェアCustalWを用いて算出した。なおモラクセラ・エスピーに関してはモラクセラ・オスロエンシスATCC19976の塩基配列を決定し、その塩基配列と比較することで同定した。
各タオル又はバスタオルから単離された菌株を表1に示す。
【0058】
(2)繊維製品での生乾き臭再現試験
上記で単離された各種菌株をそれぞれ生乾き臭が発生した木綿のタオル、あるいは使用後洗濯して保管していた木綿のタオルを滅菌処理したものに接種し、35℃で24時間加湿条件下(湿度100%)で培養後、生乾き臭の発生の有無を下記基準に基づいて、香料評価の訓練を受けた専門評価者(N=3)により、合意により判定した。
1:生乾き臭の発生が非常に強い
2:生乾き臭の発生が強い
3:生乾き臭の発生が弱い
4:生乾き臭が全くしない
その結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果から、すべての生乾き臭発生タオル・バスタオルから、モラクセラ・エスピーが単離された。また、単離されたモラクセラ・エスピーは、その菌数も多かった。さらに、単離したモラクセラ・エスピーを生乾き臭が発生したタオルを滅菌処理したものに接種したところ、非常に強い生乾き臭が発生することが確認された。
したがって、生乾き臭には本菌種などの特定の微生物が関与していることが明らかとなった。
【0061】
試験例3 4M3H生成能を有する微生物の選定
前記試験例2に準じて単離、同定した菌株、環境(土壌、住居内)より定法によりソイビーン・カゼイン・ダイジェスト(本明細書においてSCDともいう)寒天培地又はPDA培地を用いて分離した後、単離同定した菌株、及び微生物供託機関から入手した微生物の4M3H生成能を測定した。
なお、微生物供託機関から入手した菌株は下記の通りである。

モラクセラ・オスロエンシスNCIMB10693株(NCIMB(National collection of industrial and marine bacteria)から購入)
モラクセラ・オスロエンシスATCC19976株(ATCC(American Type Culture Collection)から購入)
サイクロバクター・インモビリス(Psychrobacter immobilis)NBRC15733株、サイクロバクター・パシフィセンシスNBRC103191株、サイクロバクター・グラシンコラNBRC101053株、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)NBRC13275株、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)NBRC14164株、スフィンゴモナス・ヤノイクヤエNBRC15102株、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)NBRC3333株、ブレブンディモナス・ディミヌタ(Brevundimonas diminuta)NBRC12697株、ロゼオモナス・エリラタ(Roseomonas aerilata)NBRC106435株、キュープリアビダス・オキサラティカスNBRC13593株、シュードキサントモナス・エスピー(Pseudoxanthomonas sp.)NBRC101033株、セラチア・マルセセンスNBRC12648株、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)NBRC3320株、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)NBRC100395株、エシェリキア・コーライNBRC3972株、スタフィロコッカス・アウレウスNBRC13276株、サッカロマイセス・セレビジエNBRC1661株、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)NBRC1061株、アルガリゲネス・フェカリス(Alcaligenes faecalis)NBRC13111株、ブルクホルデリア・セパシアNBRC15124株及びロドトルラ・ムシラギノサNBRC0909株(いずれもNBRC(NITE Biological Resource Center)から購入)
バチルス・セレウスJCM2152株、バチルス・サブティリスJCM1465株及びラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)JCM1149株(JCM(Japan Collection of Microorganisms)から購入)
【0062】
さらに、モラクセラ属細菌については、16S rDNA遺伝子領域の塩基配列について、配列番号1、配列番号2又は配列番号3に示す塩基配列との同一性について決定した。なお、配列番号1、配列番号2又は配列番号3に示す塩基配列は、それぞれ、モラクセラ・エスピー4-1株、モラクセラ・エスピー4-4株及びモラクセラ・オスロエンシスATCC19976株の16S rDNA遺伝子領域の塩基配列を示す。さらに、塩基配列の同一性は、遺伝子情報処理ソフトウェアCustalW(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/top-j.html)を用いて算出した。なお、モラクセラ・エスピー4-1株は、2010年10月14日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1つくばセンター中央第6)に、受託番号FERM P-22030として寄託された。
その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
1.使用済み繊維製品を用いた選抜
入手した菌株をSCD液体培地(日本製薬社製)5mLに一白金耳接種し、35℃で24時間振とう培養(160rpm)を行なった。培養後の菌体を遠心(8000×g、10分)して上清を取り除いた後、生理食塩水5mLに懸濁し、再度遠心(8000×g、10分)した後上清を取り除き、生理食塩水を用いてOD600=1.0となるように菌液を調製した。
家庭生活の中で使用と洗濯を繰り返した木綿の中古タオルを5cm×5cmの正方形に切断し滅菌したものに前記各種菌液0.1mLを植菌し、加湿条件下で37℃で24時間静置した。
専門評価者(N=3)により、24時間静置後の前記木綿の中古タオルの生乾き臭の有無を合意により判定した。評価基準は、生乾き臭が強く感じられる試料を◎、生乾き臭が感じられる試料を○、生乾き臭が若干感じられる試料を△、生乾き臭が全くない試料を×とした。その結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
2.皮脂汚れ成分を塗布した繊維製品を用いた選抜
特開2009−149546号公報に準じて、14−メチルヘキサデカン酸を下記の2工程の反応で合成した。
(a)工程
12−ドデカノリド11.9g(60.0mmol)、32%臭化水素/酢酸溶液24.3g(96.0mmol、1.6当量)を、テフロン(登録商標)で保護された100mLオートクレーブに入れ、窒素置換した後密閉し、60℃のオイルバスを用いて、16時間マグネチックスターラーで攪拌した。冷却後、水14mLを加え、熱ヘキサン200mLを用い、分液ロートに移送した。イオン交換水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過、n−ヘキサンで晶析することで、12−ブロモドデカン酸14.4g(収率86%)を得た。
(b)工程
次に、還流冷却管、50mL滴下ロート、マグネチックスターラー、温度センサーを備えた100mLの4口フラスコに、12−ブロモドデカン酸5.0g(17.9mmol)及びトリフェニルホスフィン(関東化学社製)28.2mg(0.006eq)を入れ、減圧乾燥した。アルゴン雰囲気下、臭化銅(I)(アルドリッチ社製)77.1mg(0.03当量)、無水テトラヒドロフラン10mLを加えた。室温下、2−メチルブチルマグネシウムブロミド39.5mL(3当量、1.36Nテトラヒドロフラン溶液)を、1時間で滴下した。1時間攪拌した後、1N塩酸水溶液50mLを加え、ヘキサン100mLで2回抽出した。イオン交換水50mLで2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、減圧濃縮して、粗生成物3.9gを得た。
ガスクロマトグラフィー(カラム:アジレント社製、商品名:Ultra−2、30m×0.2mm×0.33μm、DET300℃、INJ300℃、カラム温度100℃→300℃、10℃/分)で、内標にオクタデカンを用い、定量した結果、収率79%であった。
このようにして、12−ドデカノリドから14−メチルヘキサデカン酸を全収率68%で得た。また純度は98%であった。
【0067】
16-メチルオクタデカン酸を、上記に示す14−メチルヘキサデカン酸の合成工程の(a)工程において、12−ドデカノリドを15−ペンタドデカノリドに換え、(b)工程にて2−メチルブチルマグネシウムブロミドをsec−ブチルマグネシウムブロミドに換えて同様の操作で合成し、15−ペンタドデカノリドから16−メチルオクタデカン酸を全収率84%で得た。また純度は95%であった。
【0068】
各菌株をSCD液体培地(日本製薬社製)5mLに一白金耳接種し、35℃で24時間振とう培養(160rpm)を行なった。培養後の菌体を遠心(8000×g、10分)して上清を取り除いた後、生理食塩水5mLに懸濁し、再度遠心(8000×g、10分)した後上清を取り除き、生理食塩水を用いてOD600=1.0となるように菌液を調製した。
2cm×2cmの正方形に切断した木綿の平織り布に、皮脂汚れ成分として、前述の方法で合成した14−メチルヘキサデカン酸又は16−メチルオクタデカン酸0.5mgをメタノール0.1mLに溶解した溶液を塗布し、その後メタノールの乾固を行った。
上記木綿の平織り布に、前記各種菌液0.1mLを植菌し、加湿条件下で37℃で24時間静置し、下記の4M3Hの定量及び生乾き臭の官能評価を行った。
【0069】
(1)4M3Hの定量
24時間静置後の前記タオルに、メタノール10mLを添加し、そのうちの1mLとADAM(9−Anthrydiazomethanene、フナコシ社製、0.1w/v%)1mLとを混合し、室温で60分放置し、誘導体化を行なった。
その後、10μL溶液について、LC−FL(液体クロマトグラフィー装置:HITACHI ELITE LaChrom(商品名、日立社製)、カラム:Lichrospher 100 RP−8(e)(商品名、アジレント社製、5μm×125mm×4mmφ)、カラム温度:40℃、溶離剤:アセトニトリル/水=7/3(体積比)の混合溶液、流速:1.0mL/min、検出器:励起波長(365nm)、測定波長(412nm))を用いて解析を行うことで、生成した4M3Hの定量を行った。4M3Hの生成量について、生成した4M3Hの量が1μgより多かった試料を◎、0.1μgより多く1μg以下の試料を○、0μgより多く0.1μg以下の試料を△、全く検出されなかった試料を×として評価した。14−メチルヘキサデカン酸を塗布した場合の結果を表4に、16−メチルオクタデカン酸を塗布した場合の結果を表5にそれぞれ示す。
(2)生乾き臭の官能評価
専門評価者(N=3)により、24時間静置後の前記木綿平織り布の生乾き臭の有無を判定した。評価基準は、生乾き臭が強く感じられる試料を◎、生乾き臭が感じられる試料を○、生乾き臭が若干感じられる試料を△、生乾き臭が全くない試料を×とした。14−メチルヘキサデカン酸を塗布した場合の結果を表4に、16−メチルオクタデカン酸を塗布した場合の結果を表5にそれぞれ示す。
【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
表3、4及び5の結果から、種々の微生物の中でも、モラクセラ属細菌、アシネトバクター属細菌、シュードモナス属細菌、バチルス属細菌、スフィンゴモナス属細菌、キュープリアビダス属細菌、ラルストニア属細菌、サイクロバクター属細菌、セラチア属細菌、エシェリキア属細菌、スタフィロコッカス属細菌、ブルクホルデリア属細菌、サッカロマイセス属酵母、ロドトルラ属酵母等、特定の微生物が4M3H生成能を有することがわかる。さらには、このような4M3H生成能を有する微生物が生乾き臭の発生に関与していることが明らかとなった。
【0073】
実施例1
SCD−LP寒天培地(和光純薬社製)に、モラクセラ・エスピー4−1株を供試細菌として接種し、常温にて1〜2週間培養し、これを前培養プレートとした。前培養プレートからコンラージでコロニー表面を掻き取り、生理食塩水5mLに懸濁し、OD600=1.0(約108CFU/mL)に調整した。
【0074】
滅菌処理し、25℃、40%RHで乾燥して一定状態にした綿メリヤス布(色染社、木綿メリヤス、未シルケット加工)を2cm×2cmの正方形に切断し、皮脂汚れ成分として前述の方法で合成した14−メチルヘキサデカン酸0.5mgをメタノール0.1mLに溶解した溶液を塗布した。その後メタノールの乾固を行い、モデル試験布を作成した。
【0075】
下記表6に示す化合物(東京化成工業社から試薬として、又はフィルメニッヒ社若しくは花王社から香料素材として入手)のメタノール溶液を調製し、モデル試験布1gに対して表6に示す化合物の塗布量が1μgとなるように、前記メタノール溶液を前記モデル試験布に20℃で塗布し、室温で2時間乾燥させ、メタノール乾固した。上記モデル試験布に前記細菌懸濁液0.1mLを塗布し、シャーレ中で37℃、相対湿度70%の培養庫において24時間培養を行い、細菌定着布を調製した。
【0076】
生乾き臭の嗅ぎ分けが可能な専門評価者により、モデル試験布の官能評価を行った。評価基準は、生乾き臭抑制効果のあるものを○、判断が難しいもの又は生乾き臭抑制効果が弱いものを△、生乾き臭抑制効果が全くないものを×として評価した。その結果を表6に示す。
【0077】
【表6】

【0078】
表6の結果から、一般式(1)で表される化合物であるβ−ダマセノンに明確な生乾き臭抑制効果が見られた。
【0079】
実施例2
表6に示す化合物に代えて、表7に示す化合物を用い、モデル試験布1gに対して塗布する化合物の塗布量を10μgとしたこと以外は実施例1と同様に細菌定着布を調製し、試験例3と同様に細菌定着布における4M3H量を定量し、化合物を添加しない場合の4M3H生成量に対する比を算出し、4M3H生成抑制率を測定した。その結果を表7に示す。
【0080】
【表7】

【0081】
【化6】

【0082】
前記例示化合物、並びに比較化合物(C−1)及び(C−2)は、フィルメニッヒ社、高砂香料工業社、クエスト社、ジボダン社又は東京化成工業社から、試薬又は香料素材として入手した。
また、比較化合物(C−3)は次のように合成した。25mLの3つ口フラスコに2,2,6-トリメチルシクロヘキサ-1,3-ジエン-1-カルボン酸エチル7.77g、1-ヘキサノール6.13g及び5%ナトリウムエトキシド(エタノール溶液)0.56gを加え、窒素フロー下140〜145℃で約2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を40kPaとし、更に約11時間攪拌を続けた。11時間冷却し、ヘキサンを加えて200mLの分液ロートに移し、飽和食塩水50mLで2回、イオン交換水50mLで3回水洗した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮し、更に減圧蒸留(70〜90Pa、バス温110〜130℃)することにより、7.65gの比較化合物(C−3)(2,2,6-トリメチルシクロヘキサ-1,3-ジエンカルボン酸ヘキシル)を無色油状物として得た(収率76%)。
【0083】
表7から明らかなように、比較化合物には4M3H生成効果は見られないのに対し、本発明の4M3H生成抑制剤には優れた4M3H生成効果を有することがわかる。
【0084】
実施例3
表6に示す化合物に代えて、表8に示す化合物を用い、モデル試験布1gに対して塗布する化合物の塗布量を0.01μg、0.1μg、1μg又は10μgとしたこと以外は実施例1と同様に細菌定着布を調製し、専門評価者5名により、無臭を0とし、抑制剤被験物で全く処理しない場合(ブランク)の生乾き臭気強度を5とし、各化合物を塗布した場合の生乾き臭気強度を評価した。その結果を表8に示す。
【0085】
【表8】

【0086】
表8から明らかなように、比較化合物には生乾き臭抑制効果は見られないのに対し、本発明の生乾き臭抑制剤には優れた生乾き臭抑制効果を有することがわかる。
【0087】
実施例4
複数回洗濯と使用を繰り返した20代〜40代の成人男子の肌着のうち、乾燥時は臭わないが、湿り気を帯びたときに、同じ臭気の生乾き臭を発する肌着(綿100%)を、5cm×5cmに裁断し、同じ臭いレベルであると専門評価者により確認されたピースを実衣料試験布とした。なお、同じ臭気の生乾き臭について定性的に分析したところ、4M3H臭を主とする中級分岐脂肪酸臭であることが確認された。
前記実衣料試験布を十分に洗濯し、直ちに25℃、相対湿度35%環境下で24時間放置し、十分に乾燥させた。乾燥後の実衣料試験布の臭気強度は、同専門評価者により後述の評価基準1であることを確認した。
次に、表9に示す組成の組成物1〜6を市販のポリエチレン製スプレー容器に入れ、上記実衣料試験布1枚辺り、0.05g噴霧した。
このようにして調製した実衣料試験布について、下記の臭気強度評価試験(臭気強度評価A〜C)を行った。
【0088】
<臭気強度評価A(生乾き状態の繊維製品から発生する再発性の生乾き臭の評価)>
組成物1〜6を噴霧した実衣料試験布を、生乾き臭の発生し易い環境下である37℃、相対湿度70%の培養庫において24時間保管した。保管後の実衣料試験布について、専門評価者5人により生乾き臭(S臭、N臭、アルデヒド臭、低級脂肪酸臭、4M3H臭等の中級分岐脂肪酸臭を含む複合臭)の官能評価を行った。
<臭気強度評価B(乾燥状態の繊維製品から発生する再発性の生乾き臭の評価)>
前記臭気強度評価Aを行った実衣料試験布を25℃、相対湿度35%の環境下に一昼夜放置して乾燥処理を行ない、実衣料試験布を十分に乾燥させた。乾燥後の実衣料試験布について、同専門評価者5人により生乾き臭(S臭、N臭、アルデヒド臭、低級脂肪酸臭、4M3H臭等の中級分岐脂肪酸臭を含む複合臭)の官能評価を行った。
<臭気強度評価C(繊維製品を再度湿潤させることによって発生する再発性の生乾き臭の評価)>
前記臭気強度評価Bで用いた実衣料試験布に、スプレー容器を用いて水道水0.1g噴霧した。水道水を噴霧した直後、再度湿潤させた実衣料試験布について、同専門評価者5人により再発性の生乾き臭(4M3H臭を主とする中級分岐脂肪酸臭)の官能評価を行った。
【0089】
前記臭気強度評価A〜Cの評価結果は、下記評価基準に基づいて、専門評価者の合意により決定した。

(評価基準)
1:まったく臭わない
2:ほぼ臭わない
3:なんとなくわかる臭い
4:よく嗅ぐとわかる臭い
5:はっきりとわかる臭い

前記臭気強度評価A〜Cの結果を表9に示す。
【0090】
【表9】

【0091】
表9の結果から明らかなように、比較例の組成物5及び6には生乾き状態の繊維製品から発生する生乾き臭の抑制効果は全く見られなかった(臭気強度評価A)。ここで、臭気強度評価Aにおいて、組成物5及び6を噴霧した繊維製品から発生した生乾き臭は、4M3H臭を含む複合臭であった。なお、繊維製品を十分に乾燥させると臭気強度が低下するのは一般的で、比較例の組成物5及び6を用いた場合も乾燥状態の繊維製品から発生する生乾き臭の臭気強度は一時的に低下した(臭気強度評価B)。しかし、完全に乾燥させた繊維製品を再度湿潤させた場合、比較例の組成物5及び6を噴霧した繊維製品からは4M3H臭等の中級分岐脂肪酸臭が主たる臭いの生乾き臭としてぶり返した(臭気強度評価C)。
これに対し、本発明の組成物には優れた生乾き臭及び再発性の生乾き臭の抑制効果を有することがわかる。具体的には、生乾き状態であっても、本発明の組成物1〜4を接触させた繊維製品において中級分岐脂肪酸臭を含む複合臭である生乾き臭が抑制された(臭気強度評価A)。さらに、完全に乾燥させた繊維製品を再度湿潤させた場合であっても、本発明の組成物1〜4を接触させた繊維製品において4M3H臭を主とする中級分岐脂肪酸臭が大部分である再発性の生乾き臭が抑制された(臭気強度評価C)。
【0092】
実施例5
同じ臭いレベルである、実施例4と同様の5cm×5cmに裁断した肌着を実衣料試験布とした。表10に示す組成の組成物7〜9を20℃水道水にて1000倍希釈し、前記実衣料試験布を希釈液に1/8の質量比で10分含浸させた。その後、生乾き臭の発生し易い環境下に置くことなく実衣料試験布を十分に乾燥させた後、該実衣料試験布に、スプレー容器を用いて水道水0.1g噴霧し、湿らせた実衣料試験布を蓋付きの角型滅菌シャーレに入れ、25℃で12時間静置した。その後、湿潤させた実衣料試験布について、専門評価者5人により再発性の生乾き臭(4M3H臭を主とする中級分岐脂肪酸臭)の官能評価を行った。その結果、本発明の組成物7〜9は、臭気を発することなく優れた再発性の生乾き臭抑制効果を有するものであった。一方で、本発明の組成物を用いることなく、水で処理した場合は、従来の臭いが確認され、再発性の生乾き臭抑制効果は確認されなかった。
【0093】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物からなる、生乾き臭抑制剤。
【化1】

(式中、R1は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、又は−O−R3(R3は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数2〜5のアルケニル基である)で表される基を示す。破線は二重結合であってもよいことを示す。R2は、環を構成している炭素原子に結合する、炭素数1〜5のアルキル基又はオキソ基を示す。但し、R2がオキソ基の場合、R2は、R1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対してγ位に二重結合する。nは1〜3の整数を示す。なお、一般式(1)における脂環式炭化水素基から芳香族炭化水素基は除かれる。また、一般式(1)で表される化合物の総炭素数は10〜16である。)
【請求項2】
1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対して、α位及び/又はβ位に、R2で示されるアルキル基が1つ以上結合する、請求項1記載の生乾き臭抑制剤。
【請求項3】
前記一般式(1)の化合物が、1-(2,6,6-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン(α−ダマスコン)、1-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン(β−ダマスコン)、1-(2,6,6-トリメチル-3-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン(δ−ダマスコン)、1-(2,6,6-トリメチル-1,3-シクロヘキサジエン-1-イル)-2-ブテン-1-オン(β−ダマセノン)、1-(3,3-ジメチル-6-シクロヘキセン-1-イル)-ペンタ-4-エン-1-オン(α−ダイナスコン)、1-(3,3-ジメチル-1-シクロヘキセン-1-イル)-ペンタ-4-エン-1-オン(β−ダイナスコン)、2,2,6-トリメチル-シクロヘキサン-1-カルボン酸エチル(テサロン)、2,6,6-トリメチル-シクロヘキサ-1,3-ジエン-1-カルボン酸エチル(エチルサフラネート)、1-(p-メンテン-6-イル)-1-プロパノン(ネロン)、1-(2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン(イソダマセノン)、2-メチル-4-オキソ-6-ペンチルシクロヘキセ-2-エン-1-カルボン酸エチル(Calyxol)、2-エチル-6,6-ジメチルシクロヘキセ-2-エン-1-カルボン酸エチル(ジベスコン)、2,2-ジメチル-6-メチレン-1-シクロヘキサン-1-カルボン酸メチル(ロマスコン)又は2,6,6-トリメチル-1,3-シクロヘキセン-1-カルボン酸-2-プロペン-1-イルである、請求項1又は2記載の生乾き臭抑制剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の生乾き臭抑制剤を含有する、生乾き抑制組成物。
【請求項5】
下記一般式(1)で表される化合物からなる、4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制剤。
【化2】

(式中、R1は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、又は−O−R3(R3は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数2〜5のアルケニル基である)で表される基を示す。破線は二重結合であってもよいことを示す。R2は、環を構成している炭素原子に結合する、炭素数1〜5のアルキル基又はオキソ基を示す。但し、R2がオキソ基の場合、R2は、R1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対してγ位に二重結合する。nは1〜3の整数を示す。なお、一般式(1)における脂環式炭化水素基から芳香族炭化水素基は除かれる。また、一般式(1)で表される化合物の総炭素数は10〜16である。)
【請求項6】
1がカルボニル炭素を介して結合する環上の炭素原子に対して、α位及び/又はβ位に、R2で示されるアルキル基が1つ以上結合する、請求項5記載の4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制剤。
【請求項7】
前記一般式(1)の化合物が、1-(2,6,6-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン(α−ダマスコン)、1-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン(β−ダマスコン)、1-(2,6,6-トリメチル-3-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン(δ−ダマスコン)、1-(2,6,6-トリメチル-1,3-シクロヘキサジエン-1-イル)-2-ブテン-1-オン(β−ダマセノン)、1-(3,3-ジメチル-6-シクロヘキセン-1-イル)-ペンタ-4-エン-1-オン(α−ダイナスコン)、1-(3,3-ジメチル-1-シクロヘキセン-1-イル)-ペンタ-4-エン-1-オン(β−ダイナスコン)、2,2,6-トリメチル-シクロヘキサン-1-カルボン酸エチル(テサロン)、2,6,6-トリメチル-シクロヘキサ-1,3-ジエン-1-カルボン酸エチル(エチルサフラネート)、1-(p-メンテン-6-イル)-1-プロパノン(ネロン)、1-(2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-イル)-2-ブテン-1-オン(イソダマセノン)、2-メチル-4-オキソ-6-ペンチルシクロヘキセ-2-エン-1-カルボン酸エチル(Calyxol)、2-エチル-6,6-ジメチルシクロヘキセ-2-エン-1-カルボン酸エチル(ジベスコン)、2,2-ジメチル-6-メチレン-1-シクロヘキサン-1-カルボン酸メチル(ロマスコン)又は2,6,6-トリメチル-1,3-シクロヘキセン-1-カルボン酸-2-プロペン-1-イルである、請求項5又は6記載の4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制剤。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項記載の4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制剤を含有する、4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制組成物。
【請求項9】
繊維製品における4−メチル−3−ヘキセン酸の生成を抑制する、請求項8記載の4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制組成物。
【請求項10】
1〜4のいずれか1項記載の生乾き臭抑制剤若しくは生乾き臭抑制組成物又は請求項5〜9のいずれか1項記載の4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制剤若しくは4−メチル−3−ヘキセン酸生成抑制組成物を繊維製品と接触させ、該繊維製品からの生乾き臭の発生を抑制する、生乾き臭抑制方法。

【公開番号】特開2012−127012(P2012−127012A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277488(P2010−277488)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】