説明

生体信号測定装置、生体信号測定用ベッド、及び、生体信号測定方法

【課題】3つの電極を用いて、心電信号及び呼吸情報を、いずれも十分な精度で、同時に測定する手段を提供すること。
【解決手段】第1乃至第3の電極11乃至13と、第1乃至第3の電極11乃至13各々とコンデンサ20乃至22(又は抵抗)を介して繋がったグランド16と、第1の電極11からの信号及び第3の電極13からの信号各々が、バッファ17及び19を介して入力されるとともに、グランド16が回路のグランドとして接続される第1の分離回路14と、第2の電極12からの信号及び第3の電極13からの信号各々が、バッファ18及び19を介して入力されるとともに、グランド16が回路のグランドとして接続される第2の分離回路15とを有し、第1及び第2の分離回路14及び15は、入力された信号を、呼吸成分と心電図成分に分離する分離フィルタを有する生体信号測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号測定装置、生体信号測定用ベッド、及び、生体信号測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心電信号や呼吸情報などの生体情報を測定することで、疾病の早期発見や予防、健康の維持・管理、治療効果の評価や確認などが行われている。
【0003】
家庭内で生体情報をモニタリングするための市販の装置としては、粘着性の電極を皮膚に接着し、心拍と呼吸性変動をモニタリングするものがある。しかしながら粘着性の電極を用いた場合、長期モニタリングにおける皮膚への負担が大きく、かぶれや炎症などを引き起こすほか、電極交換時に皮膚が剥離する恐れがある。
【0004】
そこで、本発明者らは、容量性結合の原理を応用し、市販の布を介して四肢から心電図を計測する手段を発明し、2004年に発表した(非特許文献1)。
【0005】
また、本発明者らは、ベッドシーツの下の適切な位置(肩胛骨裏側付近)に導電性布の電極を設置し、仰臥位の成人被験者から第II誘導と類似した心電図波形を計測する手段を発明し、2007年4月に発表した(非特許文献2)。
【0006】
また、本発明者らは、(1)パジャマとシーツを介して心電図波形を計測する手段、(2)帯状布電極を使用することで、仰臥位だけでなく側臥位でも計測可能とする手段、及び、(3)フィルタの通過帯域を5−40Hzに狭めることで、体動の少ない睡眠状態では100%に近いR波検出率を期待できる手段を発明し、2007年10月に発表した(非特許文献3)。
【0007】
さらに、本発明者らは、布製電極を設置したマットレスに市販の肌着を着た乳児を寝かせた状態で、狭帯域心電図と呼吸情報を同時に計測する手段を発明し、2009年2月に発表した(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】植野彰規、外3名、「布を介した電極からの容量性結合に基づく心電図導出」、電気学会論文誌C、2004年9月、第124巻、第9号、p.1664−1671
【非特許文献2】植野彰規、外5名、「Capacitive sensing of electrocardiographic potential through cloth from the dorsal surface of the body in a supine position-A preliminary study」、IEEE Transaction on Biomedical Engineering、2007年4月、第54巻、第4号、p.759−766
【非特許文献3】植野彰規、外2名、「ホームヘルスケアのための寝具組込型非接触心電図モニタの基礎的検討」、電気学会論文誌C、2007年10月、第127巻、第10号、p.1792−1799
【非特許文献4】山芳寛、植野彰規、「容量型シートセンサを用いた乳児の狭帯域心電図および呼吸情報の簡易的無拘束計測」、生体医工学、2009年2月、第47巻、第1号、p.42−50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献4に記載の技術では、3つの電極を用意し、布を介して1つの電極を被験者の臀部に接触させ、当該電極をグランドとし、同様に布を介して残り2つの電極を被験者の胸背部及び腹背部各々に接触させて差動用電極として用い、分離フィルタにより心電信号と呼吸情報を各1種類ずつ同時に計測する。
【0010】
しかし、非特許文献4に記載の技術の場合、心電信号と呼吸情報を同時に測定することはできるが、測定精度の面で改良の余地があった。すなわち、同時に測定した生体信号(心電信号と呼吸情報)の内、一方の測定精度が不十分になる場合があった。
【0011】
そこで、本発明では、3つの電極を用いて、心電信号及び呼吸情報を、いずれも十分な精度で、同時に測定する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、第1乃至第3の電極と、前記第1乃至第3の電極各々とコンデンサ又は抵抗を介して繋がったグランドと、前記第1の電極からの信号及び前記第3の電極からの信号各々が、バッファを介して入力されるとともに、前記グランドが回路のグランドとして接続される第1の分離回路と、前記第2の電極からの信号及び前記第3の電極からの信号各々が、バッファを介して入力されるとともに、前記グランドが回路のグランドとして接続される第2の分離回路と、を有し、前記第1及び第2の分離回路は、入力された信号を、呼吸成分と心電図成分に分離する分離フィルタを有する生体信号測定装置が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、第1乃至第3の電極と、前記第1乃至第3の電極各々とコンデンサ又は抵抗を介して繋がったグランドと、前記第1の電極からの信号及び前記第3の電極からの信号各々が、バッファを介して入力されるとともに、前記グランドが回路のグランドとして接続される第1の分離回路と、前記第2の電極からの信号及び前記第3の電極からの信号各々が、バッファを介して入力されるとともに、前記グランドが回路のグランドとして接続される第2の分離回路と、を有し、前記第1及び第2の分離回路は、入力された信号を、第1の周波数帯と第2の周波数帯に分離する分離フィルタを有する生体信号測定装置が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、上記生体信号測定装置いずれかを備える生体信号測定用ベッドが提供される。
【0015】
また、本発明によれば、上記生体信号測定用ベッドを利用した生体信号測定方法であって、前記マットレスにシーツを被せ、前記第1乃至第3の電極を前記シーツで覆った状態で、その上に被験者が横になり、生体信号を測定する生体信号測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、3つの電極を用いて、心電信号及び呼吸情報を、いずれも十分な精度で、同時に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の生体信号測定用ベッドのブロック図の一例である。
【図2】本実施形態の第1乃至第3の電極及びマットレスの平面概略図の一例である。
【図3】本実施形態の第1及び第2の分離回路の構成の一例を示す図である。
【図4】本実施形態の差分分離フィルタのブロック図の一例である。
【図5】本実施形態の生体信号測定装置が利用する容量性結合のモデル図と等価回路である。
【図6】本実施形態の生体信号測定装置が呼吸成分を計測する原理を説明するための図である。
【図7】本実施形態の作用効果を説明するための図である。
【図8】本実施形態の作用効果を説明するための図である。
【図9】本実施形態の作用効果を説明するための図である。
【図10】本実施形態の作用効果を説明するための図である。
【図11】本実施形態の作用効果を説明するための図である。
【図12】本実施形態の作用効果を説明するための図である。
【図13】本実施形態の作用効果を説明するための図である。
【図14】本実施形態の作用効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0019】
図1に、本実施形態の生体信号測定装置を有する生体信号測定用ベッドのブロック図の一例を示す。
【0020】
本実施形態の生体信号測定装置は、第1の電極11、第2の電極12、第3の電極13、バッファ17乃至19、コンデンサ20乃至22、グランド16、第1の分離回路14及び第2の分離回路15を有する。そして、第1の電極11、第2の電極12及び第3の電極13が、マットレス24の上に位置する。
【0021】
第1乃至第3の電極11乃至13は、心電図の測定等に用いられるあらゆる電極を適用することができ、例えば布製の電極とすることができる。
【0022】
第1の電極11は、絶縁物、例えば布を介して、被験者(人体)の胸背部と接触する。第2の電極12は、絶縁物、例えば布を介して、被験者(人体)の腹背部と接触する。第3の電極13は、絶縁物、例えば布を介して、被験者(人体)の臀部と接触する。
【0023】
例えば、第1乃至第3の電極11乃至13は、図1に示すようにマットレス24の上に露出するように配置される。そして、マットレス24に被せられたベッドシーツ(図示せず)により、第1乃至第3の電極11乃至13は、ベッドシーツに覆われた状態となる。当該状態のマットレス24の上に被験者が横になることで、第1乃至第3の電極11乃至13は、ベッドシーツ(絶縁物)を介して被験者(人体)と接触することとなる。なお、第1乃至第3の電極11乃至13は、ベッドシーツに加えて(又は代えて)、被験者が着ている着衣(絶縁物)を介して、被験者(人体)と接触してもよい。ベッドシーツは市販のものを使用することができる。また、着衣も市販のものを使用できるが、薄手の着衣であるのが好ましい。第1乃至第3の電極11乃至13は、マットレス24に埋め込まれていてもよいし、マットレス24から取り外し可能に構成されていてもよい。後者の場合、マットレス24上における第1乃至第3の電極11乃至13の配置位置を調整することができる。
【0024】
ここで、図2に、第1乃至第3の電極11乃至13及びマットレス24の平面概略図の一例を示す。
【0025】
第1乃至第3の電極11乃至13は、被験者がマットレス24の上に横になった状態に合わせて、所定の位置に配置される。具体的には、第1の電極11は、マットレス24の上に横になった被験者の胸背部付近、第2の電極12は腹背部付近、第3の電極13は臀部付近に配置される。図示する「Head」及び「Breech」は、横になった被験者の頭の位置及び臀部の位置を示している。なお、被験者の体格に応じて胸部、腹部及び臀部の位置は変わるので、第1乃至第3の電極11乃至13はマットレス24から取り外し可能に構成されていると有益である。かかる場合、被験者の体格に応じて、第1乃至第3の電極11乃至13の配置位置を適切な位置に変更できる。
【0026】
第1及び第2の電極11及び12は、例えば図示するような帯状であってもよい。そして、このような形状の第1及び第2の電極11及び12は、横になった状態の被験者の頭と足先を結ぶ直線と垂直に伸びるように配置されてもよい。このように構成すれば、被験者が寝返りをうっても、被験者と、第1及び第2の電極11及び12との接触状態を維持させることができる。なお、第1及び第2の電極11及び12は図示するような直線状に限定されず、波線状、ジグザグ線状等その他の形状であってもよい。
【0027】
第3の電極13の形状は、上述した第1及び第2の電極11及び12と同じものにすることも可能であるが、図示するように、2本の直線状の電極が連結してV字形状を形成したものであってもよい。そして、V字形状の上記連結部分を被験者の臀部付近に配置し、連結部分から伸びる電極が被験者の足方向に伸びるように配置してもよい。このようにすれば被験者の手が、第3の電極13に触れる不都合を抑制することができる。なお、連結部分の角度は例えば90度とすることができる。また、連結部分から伸びる電極は、図示するような直線状に限定されず、波線状、ジグザグ線状等その他の形状であってもよい。
【0028】
図1に戻り、バッファ17乃至19は、インピーダンスを変換する機能を有し、例えば、1000GΩ程度の入力抵抗のICを適用することができる。バッファ17乃至19各々には、第1乃至第3の電極11乃至13各々から信号が入力される。
【0029】
グランド16は、第1乃至第3の電極11乃至13各々と、コンデンサ20乃至22各々を介して繋がっている。例えば、図示するように第1乃至第3の電極11乃至13をコンデンサ20乃至22各々経由で結合し、当該結合点を仮想的なグランド16とすることができる。なお、図示する例では、グランド16は、コンデンサ20乃至22に加えてバッファ17乃至19をも経由して第1乃至第3の電極11乃至13と繋がっているが、バッファ17乃至19を経由しない構成とすることもできる。すなわち、図示する23の破線で囲まれた構成要素(コンデンサ20乃至23、及び、グランド16)を、第1乃至第3の電極11乃至13と、バッファ17乃至19との間に位置させることもできる。なお、23の破線で囲まれた構成要素を図示する位置に配置する場合、コンデンサ20乃至22に代えて、抵抗を適用することも可能である。
【0030】
第1の分離回路14には、第1の電極11からの信号及び第3の電極13からの信号各々が、バッファ17及び19各々を介して入力される。第2の分離回路15には、第2の電極12からの信号及び第3の電極13からの信号各々が、バッファ18及び19各々を介して入力される。また、図示しないが、第1の分離回路14及び第2の分離回路15には、グランド16の信号が入力される。
【0031】
第1及び第2の分離回路14及び15は、回路のグランドとして接続されたグランド16から混入する雑音を利用して、第1乃至第3の電極11乃至13各々から入力された信号から商用電源雑音(同相雑音)を除去する。当該処理は、従来技術に準じて実現できる。
【0032】
また、第1及び第2の分離回路14及び15は、第1乃至第3の電極11乃至13から入力された信号を、呼吸成分と心電図成分に分離する分離フィルタを有する。分離フィルタは、例えば、入力された信号を、第1の周波数帯と第2の周波数帯に分離する。心電図成分(R波)の帯域は、10Hz以上100Hz以下程度、呼吸成分の帯域は0.1Hz以上1Hz以下程度である。そこで、当該分離フィルタでは、1Hz以上10Hz以下の間の所定値を境目とし、当該所定位置以上の帯域を第1の周波数帯(心電図成分)、当該所定値未満の帯域を第2の周波数帯(呼吸成分)として分離する。当該所定値は、例えば1Hzとすることができる。
【0033】
ここで、図3を用いて、第1及び第2の分離回路14及び15の構成の一例を説明する。図示するブロック図は、第1及び第3の電極11及び13と、グランド16と、バッファ17及び19と、第1分離回路14とを示している。第1分離回路14は、「Differential Separation Filter(差動分離フィルタ)」、「Inst.Amp.(計装増幅器)」、「H.P.F.(ハイパスフィルタ)」、「Inv.Amp.(反転増幅器)」、「L.P.F.(ロ−パスフィルタ)」、及び、「Notch Filter(ノッチフィルタ)」を有する。なお、図示するブロック図において、第1の電極11を第2の電極12とみなし、バッファ17をバッファ18とみなし、第1分離回路14を第2分離回路15とみなすこともできる。
【0034】
図3に示すように、第1及び第3の電極11及び13各々から、バッファ17及び19各々に信号が入力される。以下、第1の電極11から入力された信号を「第1の電極11の信号」、第3の電極13から入力された信号を「第3の電極13の信号」という。バッファ17及び19は、例えば1000GΩ程度の入力抵抗のオペアンプICである。そして、バッファ17及び19から、「Differential Separation Filter(差動分離フィルタ)」に信号が入力される。また、グランド16から、「Differential Separation Filter(差動分離フィルタ)」に商用電源雑音などの同相雑音が混入する。
【0035】
「Differential Separation Filter(差動分離フィルタ)」には、バッファ17及び19から信号が入力され、グランド16から同相雑音が混入する。そして、「Differential Separation Filter(差動分離フィルタ)」は、第1の電極11の信号及び第3の電極13の信号から商用電源雑音(同相雑音)を除去すると共に、第1の電極11の信号及び第3の電極13の信号の差動成分を、例えば1Hz以上の第1の周波数帯(心電図成分)と、1Hz未満の第2の周波数帯(呼吸成分)に分離する。図4に、「Differential Separation Filter(差動分離フィルタ)」のブロック図の一例を示す。当該図に示すように、「Differential Separation Filter(差動分離フィルタ)」によれば、1つの入力から、「H.P.F.(ハイパスフィルタ)」と「L.P.F.(ローパスフィルタ」)」の2つの伝達関数の出力が得られることが分かる。
【0036】
図3に戻り、1つの「Inst.Amp.(計装増幅器)」には、第1の電極11の信号及び第3の電極13の信号の差動成分から取り出された心電図成分の信号が、「Differential Separation Filter(差動分離フィルタ)」から入力される。他の「Inst.Amp.(計装増幅器)」には、第1の電極11の信号及び第3の電極13の信号の差動成分から取り出された呼吸成分の信号が、「Differential Separation Filter(差動分離フィルタ)」から入力される。「Inst.Amp.(計装増幅器)」は、入力された第1の電極11の信号及び第3の電極13の信号の差分を増幅する。
【0037】
「H.P.F.(ハイパスフィルタ)」には、「Inst.Amp.(計装増幅器)」から差分増幅後の信号が入力される。そして、呼吸成分の信号を入力された「H.P.F.(ハイパスフィルタ)」は、入力された信号から、例えば0.1Hz未満の周波数帯を取り除く。一方、心電図成分の信号を入力された「H.P.F.(ハイパスフィルタ)」は、入力された信号から、例えば10Hz未満の周波数帯を取り除く。
【0038】
「Notch Filter(ノッチフィルタ)」には、「H.P.F.(ハイパスフィルタ)」から10Hz未満の周波数帯を取り除いた心電図成分の信号が入力される。そして、「Notch Filter(ノッチフィルタ)」は、測定を行っている地域に応じて、入力された信号から所定の成分を取り除く。例えば測定を行っている地域が関東エリアの場合、「Notch Filter(ノッチフィルタ)」は、入力された信号から、50Hz近傍の周波数帯を取り除く。
【0039】
「L.P.F.(ローパスフィルタ)」には、「Notch Filter(ノッチフィルタ)」から、50Hz近傍の周波数帯を取り除いた心電図成分の信号が入力される。そして、「L.P.F.(ローパスフィルタ)」は、入力された信号から、例えば40Hz以上の周波数帯を取り除く。
【0040】
1つの「Inv.Amp.(反転増幅器)」には、「H.P.F.(ハイパスフィルタ)」から呼吸成分の信号が入力される。他の「Inv.Amp.(反転増幅器)」には、「L.P.F.(ローパスフィルタ)」から心電図成分の信号が入力される。そして、Inv.Amp.(反転増幅器)は入力された信号を増幅する。増幅度は、例えば1000倍としてもよい。
【0041】
なお、図3に示す第1及び第2の分離回路14及び15の構成はあくまで一例であり、その他の構成とすることもできる。
【0042】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0043】
(1)まず、本実施形態の生体信号測定装置の測定原理について簡単に説明する。
【0044】
図5に、本実施形態の生体信号測定装置が利用する容量性結合のモデル図と等価回路を示す。図示するように、本実施形態の場合、第1乃至第3の電極11乃至13(図中、「Fabric electrode」)は、衣服等の絶縁物(図中、「clothes」)を介して、人体(図中、「Skin」)と接触する。当該構成の場合、人体(導体)−衣服等(絶縁物)−第1乃至第3の電極11乃至13(導体)の結合により、コンデンサが形成される。以下、人体(導体)−衣服(絶縁物)−第1乃至第3の電極11乃至13(導体)がこのように結合した部分を「結合部」とよぶ。本実施形態では、結合部の静電容量を通じて、交流生体信号の導出を行っている。
【0045】
次に、図6を用いて、呼吸成分の計測の原理を説明する。本実施形態の場合、呼吸に伴う被験者の胸部及び腹部等の動きにより、結合部の圧が変化する。そして、結合部の圧の変化に伴い衣服等(絶縁物)の厚みが変わると、結合部の容量値が変化する。すなわち、呼吸性変動が基線変動として出力電圧に重畳する。
【0046】
なお、これらの詳細は、非特許文献1乃至4に記載されている。
【0047】
(2)次に、図7に、本実施形態の生体信号測定用ベッドと市販の装置を同時に用いて、心電図成分の信号と呼吸成分の信号を同時に測定したデータを示す。
【0048】
図中「(b)心電:胸部(試作装置)」として示すデータが、本実施形態の生体信号測定用ベッドを用い、第1の電極(胸部付近に配置)及び第3の電極(臀部付近に配置)を用いて検出した心電図成分の信号であり、「(e)呼吸:胸部(試作装置)」として示すデータが、第1の電極(胸部付近に配置)及び第3の電極(臀部付近に配置)を用いて検出した呼吸成分の信号である。
【0049】
また、図中「(c)心電:腹部(試作装置)」として示すデータが、本実施形態の生体信号測定用ベッドを用い、第2の電極(腹部付近に配置)及び第3の電極(臀部付近に配置)を用いて検出した心電図成分の信号であり、「(f)呼吸:腹部(試作装置)」として示すデータが、本実施形態の生体信号測定用ベッドを用い、第2の電極(腹部付近に配置)及び第3の電極(臀部付近に配置)を用いて検出した呼吸成分の信号である。
【0050】
また、図中「(a)心電:市販装置」として示すデータが、市販の心電計で測定した心電図成分の信号であり、「(d)呼吸:市販装置」として示すデータが、市販の呼吸トランスデューサを用いて測定した呼吸成分の信号である。
【0051】
図示するように、「(b)心電:胸部(試作装置)」として示すデータが、「(a)心電:市販装置」として示すデータとほぼ同期していることが分かる。なお、「(c)心電:腹部(試作装置)」の測定精度は、「(b)心電:胸部(試作装置)」の測定精度に比べて劣ることが分かる。
【0052】
また、「(f)呼吸:腹部(試作装置)」として示すデータの波形が、「(d)呼吸:市販装置」として示すデータの波形とよく類似していることが分かる。なお、「(e)呼吸:胸部(試作装置)」として示すデータの波形は、「(d)呼吸:市販装置」として示すデータの波形と比較的類似しているが、「(f)呼吸:腹部(試作装置)」の測定精度に比べて劣ることが分かる。
【0053】
以上の結果から、本実施形態の測定原理を利用して心電図成分及び呼吸成分の信号を十分な測定精度で測定するためには、心電図成分の測定及び呼吸成分の測定各々、用いる電極の好ましい組み合わせがあることが分かる。すなわち、心電図成分の測定には、第1の電極(胸部付近に配置)及び第3の電極(臀部付近に配置)の組み合わせが好ましい。一方、呼吸成分の測定には、第2の電極(腹部付近に配置)及び第3の電極(臀部付近に配置)の組み合わせが好ましい。
【0054】
しかし、非特許文献4に記載の技術の場合、本実施形態と同様に3つの電極を用いているものの、1つの電極をグランドとし、残り2つの電極のみを差動用電極として用いているため、上述のような心電図成分の測定に好ましい作動用電極の組み合わせ、及び、呼吸成分の測定に好ましい差動用電極の組み合わせを同時に実現することができなかった。
【0055】
これに対し、本実施形態では、3つの電極を結合して結合点をグランドとし、3つの電極すべてを差動用電極として用いることができるので、上述のような心電図成分の測定に好ましい電極の組み合わせ、及び、呼吸成分の測定に好ましい差動用電極の組み合わせを同時に実現することができる。結果、3つの電極を用いて、心電図成分の信号及び呼吸成分の信号、いずれも十分な精度で、同時に測定することが可能となる。
【0056】
(3)また、本実施形態によれば、呼吸成分の信号として、胸部付近に配置した電極を用いて測定した信号(胸部の呼吸運動を反映した信号)と、腹部付近に配置した電極を用いて測定した信号(腹部の呼吸運動を反映した信号)を同時に測定することができる。このため、これらの信号を利用して、様々な分析を行うことが可能となる。以下、分析の一例を示す。
【0057】
近年、睡眠時無呼吸症候群の弊害がよく知られている。睡眠時無呼吸症候群には、いわゆる閉塞型、中枢型、閉塞型と中枢型が混合して現れる混合型が含まれる。本実施形態によれば、睡眠時無呼吸症候群のタイプがこれらのどれに属するのかを推定することが可能となる。以下、説明する。
【0058】
閉塞型は、喉が詰まることで無呼吸状態が生じるタイプであり、当該タイプは、呼吸停止時に、腹が膨らむと胸が凹み、胸が膨らむと腹が凹むという特徴がある。
【0059】
図13は通常腹式呼吸時の呼吸波形であり、図14は、閉塞型無呼吸を模擬した実験における呼吸波形である。図13及び14いずれも、上段が胸部の呼吸運動を反映した信号であり、下段が腹部の呼吸運動を反映した信号である。図13によれば、通常腹式呼吸時は、胸部の呼吸運動を反映した信号、および、腹部の呼吸運動を反映した信号が同位相になっていることが分かる。これに対し、図14によれば、閉塞型無呼吸時は、胸部の呼吸運動を反映した信号、および、腹部の呼吸運動を反映した信号が逆相に近くなっていることが分かる。つまり、閉塞型無呼吸時は、通常腹式呼吸時と比べ、位相が変化している。この位相変化は、閉塞型無呼吸時に特有のものであり、中枢型無呼吸時においても現れない特徴である(以下で説明する)。
【0060】
次に、中枢型は、脳が呼吸を止める命令を出すことで無呼吸状態が生じるタイプである。中枢型無呼吸時と、閉塞型無呼吸時及び通常腹式呼吸時との相違点は、閉塞型無呼吸時及び通常腹式呼吸時は呼吸しようとする動作(呼吸運動)が行われるのに対し、中枢型無呼吸時は呼吸しようとする動作(呼吸運動)が行われない点である。このため、中枢型無呼吸時の胸部及び腹部の呼吸運動を反映した信号には、閉塞型無呼吸時に現れるような上記位相変化(逆相に近くなる変化)は現れない。また、閉塞型無呼吸時及び通常腹式呼吸時は、胸部及び腹部の呼吸運動を反映した信号に、呼吸運動に起因した波形変化が現れるが、中枢型無呼吸時は、胸部及び腹部の呼吸運動を反映した信号に、呼吸運動に起因した波形変化が現れないという相違点も現れる。
【0061】
図8は中枢型無呼吸時を模擬した実験における呼吸波形である。図8に示すデータは、本実施形態の生体信号測定用ベッドと市販の呼吸トランスデューサを同時に用い、呼吸成分の信号を同時に測定したデータである。
【0062】
図中「胸部信号(試作装置)」として示すデータが、本実施形態の生体信号測定用ベッドを用い、第1の電極(胸部付近に配置)及び第3の電極(臀部付近に配置)を用いて検出した呼吸成分の信号であり、「腹部信号(試作装置)」として示すデータが、本実施形態の生体信号測定用ベッドを用い、第2の電極(腹部付近に配置)及び第3の電極(臀部付近に配置)を用いて検出した呼吸成分の信号である。また、図中「市販呼吸流量トランスデューサ」として示すデータが、市販の呼吸トランスデューサを用いて測定した呼吸成分の信号である。
【0063】
図8のデータの場合、市販の呼吸トランスデューサを用いて特定された呼吸停止状態(点線部)においては、胸部信号(試作装置)及び腹部信号(試作装置)いずれにおいても、呼吸動作に起因した波形変化が現れていない。すなわち、当該呼吸停止状態(点線部)は、中枢型であることが分かる。
【0064】
混合型は、閉塞型と中枢型が混合して現れるタイプである。すなわち、胸部の呼吸運動を反映した信号、及び、腹部の呼吸運動を反映した信号には、互いの信号が逆相に近くなる位相変化(閉塞型)、及び、当該位相変化が現れない呼吸停止状態を示す波形、例えば、胸部及び腹部の呼吸運動を反映した信号いずれにおいても呼吸運動に起因した波形変化が現れない状態(中枢型)が混合して現れる。
【0065】
以上より、胸部の呼吸運動を反映した信号と、腹部の呼吸運動を反映した信号を同時に測定することができる本実施形態によれば、これらのデータを解析し、上述した閉塞型、中枢型及び混合型各々に特有の変化を検出することで、睡眠時無呼吸症候群のタイプを推定することが可能となる。
【0066】
(4)ここで、図9に、本実施形態の生体信号測定用ベッドを用い、第1の電極(胸部付近に配置)及び第3の電極(臀部付近に配置)を用いて検出した呼吸成分の信号から算出した分時呼吸数と、市販の呼吸トランスデューサを用いて同時に測定した呼吸成分の信号から算出した分時呼吸数との相関関係を示す。(a)は仰臥位の被験者から測定した結果であり、相関関数は0.821である。(b)は側臥位の被験者から測定した結果であり、相関関数は0.910である。(c)は腹臥位の被験者から測定した結果であり、相関関数は0.994である。いずれも十分な測定精度を示しているが、特に、腹臥位の被験者から測定した場合に、最もよい測定精度が得られることが分かる。
【0067】
次に、図10に、本実施形態の生体信号測定用ベッドを用い、第2の電極(腹部付近に配置)及び第3の電極(臀部付近に配置)を用いて検出した呼吸成分の信号から算出した分時呼吸数と、市販の呼吸トランスデューサを用いて同時に測定した呼吸成分の信号から算出した分時呼吸数との相関関係を示す。(a)は仰臥位の被験者から測定した結果であり、相関関数は0.991である。(b)は側臥位の被験者から測定した結果であり、相関関数は0.318である。(c)は腹臥位の被験者から測定した結果であり相関関数は−0.057である。仰臥位の被験者から測定した場合、十分な測定精度を示しているが、側臥位及び腹臥位の被験者から測定した場合の測定精度は不十分であった。
【0068】
(5)次に、図11に、睡眠状態の被験者から、本実施形態の生体信号測定用ベッドと市販の装置を同時に用い、心電図成分の信号と呼吸成分の信号を同時に測定したデータを示す。
【0069】
データの示し方は図7と同様であるが、さらに、市販の装置を用いて同時に測定した脈波の信号を「(g)脈波:市販装置」として示している。当該データより、睡眠状態の被験者から測定した場合であっても、図7を用いて説明した結果と同様の結果が得られることが分かる。
【0070】
次に、図12に、睡眠状態の被験者から、本実施形態の生体信号測定用ベッドを用いて測定した場合のR波の検出率の経時変化を示す。図に示すように、R波検出率は平均99.4%であり、高い確率で心電を計測できることが分かる。
【0071】
(6)睡眠時無呼吸症候群罹患者は、日本国内に300万人程いると推計されているが、検査施設や機会が限られているため通院して治療を受けている患者数は6万人程度(約2%)といわれている。当該症状をそのまま放置すると、日常生活に支障をきたして交通事故の発症率が高くなるほか、高血圧や心臓血管疾患病の発症率が上昇する。本実施形態の生体信号測定用ベッド及び生体信号測定装置によれば、家庭内等で簡易に睡眠時無呼吸症候群罹患者のスクリーニングを行うことが可能となる。そして、病気の早期発見や、医療費削減などの優れた効果を実現することができる。
【0072】
以上、本実施形態の生体信号測定用ベッド及び生体信号測定装置について説明したが、上記説明によれば、本実施形態の生体信号測定用ベッドを利用した生体信号測定方法であって、本実施形態のマットレス24にシーツを被せ、第1乃至第3の電極11乃至13を当該シーツで覆った状態で、その上に被験者が横になり、生体信号を測定する生体信号測定方法の説明もなされている。
【0073】
また、本実施形態は以下のような変形例とすることもできる。
【0074】
すなわち、上記例では、マットレス24の上に第1乃至第3の電極11乃至13が位置したが、敷布団などその他の物の上に第1乃至第3の電極11乃至13を位置させることも可能である。
【0075】
また、上記例では、(1)マットレス24の上に露出するように第1乃至第3の電極11乃至13を配置し、(2)当該第1乃至第3の電極11乃至13をシーツ(絶縁物)で覆い、(3)当該シーツの上に被験者が横になることで、図5を用いて説明した「結合部」を実現したが、その他の例とすることもできる。例えば、マットレス24の外側表面を構成する絶縁性被覆(例:布地、ビニル素材等)の裏地に第1乃至第3の電極11乃至13を取り付け(例:貼付)てもよい。かかる場合、被験者がマットレス24の当該絶縁性被覆の上に直接横になることで、「結合部」を実現することができ、測定が可能となる。なお、絶縁性被覆は、結合部の絶縁物として機能できる薄さにする必要がある。
【0076】
また、上記例では、マットレス24の上に第1乃至第3の電極11乃至13を配置し、その上に被験者が横になって測定する例を説明したが、第1乃至第3の電極11乃至13をマットレス24の上に配置するのでなく、被験者の胸部(または胸背部)、腹部(または腹背部)及び臀部に直接、衣服を介して装着することも可能である。
【0077】
また、上記例では、容量性結合の原理を応用し、第1乃至第3の電極11乃至13と、被験者の皮膚との間に絶縁物を介して測定する例を説明したが、被験者の皮膚に第1乃至第3の電極11乃至13を直接貼付して測定する例においても、同様の作用効果を実現できる。
【符号の説明】
【0078】
11 第1の電極
12 第2の電極
13 第3の電極
14 第1の分離回路
15 第2の分離回路
16 グランド
17 バッファ
18 バッファ
19 バッファ
20 コンデンサ
21 コンデンサ
22 コンデンサ
23 コンデンサ及びグランド
24 マットレス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1乃至第3の電極と、
前記第1乃至第3の電極各々とコンデンサ又は抵抗を介して繋がったグランドと、
前記第1の電極からの信号及び前記第3の電極からの信号各々が、バッファを介して入力されるとともに、前記グランドが回路のグランドとして接続される第1の分離回路と、
前記第2の電極からの信号及び前記第3の電極からの信号各々が、バッファを介して入力されるとともに、前記グランドが回路のグランドとして接続される第2の分離回路と、
を有し、
前記第1及び第2の分離回路は、入力された信号を、呼吸成分と心電図成分に分離する分離フィルタを有する生体信号測定装置。
【請求項2】
第1乃至第3の電極と、
前記第1乃至第3の電極各々とコンデンサ又は抵抗を介して繋がったグランドと、
前記第1の電極からの信号及び前記第3の電極からの信号各々が、バッファを介して入力されるとともに、前記グランドが回路のグランドとして接続される第1の分離回路と、
前記第2の電極からの信号及び前記第3の電極からの信号各々が、バッファを介して入力されるとともに、前記グランドが回路のグランドとして接続される第2の分離回路と、
を有し、
前記第1及び第2の分離回路は、入力された信号を、第1の周波数帯と第2の周波数帯に分離する分離フィルタを有する生体信号測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の生体信号測定装置において、
前記第1の周波数帯は1Hz以上10Hz以下の間の所定値以上の周波数帯であり、前記第2の周波数帯は前記所定値未満の周波数帯である生体信号測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の生体信号測定装置において、
前記第1の電極は胸部の信号を検知し、前記第2の電極は腹部の信号を検知し、前記第3の電極は臀部の信号を検知する生体信号測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の生体信号測定装置において、
生体信号測定時、前記第1乃至第3の電極は絶縁物を介して人体と接触する生体信号測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の生体信号測定装置を備える生体信号測定用ベッド。
【請求項7】
請求項6に記載の生体信号測定用ベッドにおいて、
前記第1乃至第3の電極が備えられたマットレスを有する生体信号測定用ベッド。
【請求項8】
請求項7に記載の生体信号測定用ベッドにおいて、
前記第1の電極、前記第2の電極、及び、前記第3の電極はこの順に配置されている生体信号測定用ベッド。
【請求項9】
請求項7または8に記載の制定信号測定用ベッドにおいて、
前記第1乃至第3の電極は、マットレスの表面において露出している生体信号測定用ベッド。
【請求項10】
請求項7または8に記載の制定信号測定用ベッドにおいて、
前記第1乃至第3の電極は、マットレスの外側表面を構成する絶縁性被覆の裏地に取り付けられている生体信号測定用ベッド。
【請求項11】
請求項9に記載の生体信号測定用ベッドを利用した生体信号測定方法であって、
前記マットレスにシーツを被せ、前記第1乃至第3の電極を前記シーツで覆った状態で、その上に被験者が横になり、生体信号を測定する生体信号測定方法。
【請求項12】
請求項10に記載の生体信号測定用ベッドを利用した生体信号測定方法であって、
被験者が前記マットレスの前記絶縁性被覆の上に直接横になり、生体信号を測定する生体信号測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−205784(P2012−205784A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73940(P2011−73940)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(800000068)学校法人東京電機大学 (112)
【Fターム(参考)】