説明

生体吸収性骨再生用フィルム及びGBR用メンブレン

【課題】生体吸収性で、顎部の湾曲に容易に追随できる柔軟性を有し、組織為害性がなく、かつ、骨が再生するまで形態を維持できる強度を有する生体吸収性骨再生用フィルム、及び、該生体吸収性骨再生用フィルムからなるGBR用メンブレンを提供する。
【解決手段】複数の貫通孔を有し、かつ、構成セグメントのモル比がL−ラクチド:グリコリド:ε−カプロラクトン=73〜77:0.5〜1.5:22〜26であるL−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体からなる生体吸収性骨再生用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体吸収性で、顎部の湾曲に容易に追随できる柔軟性を有し、組織為害性がなく、かつ、骨が再生するまで形態を維持できる強度を有する生体吸収性骨再生用フィルム、及び、該生体吸収性骨再生用フィルムからなるGBR用メンブレンに関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病等により歯が喪失してから時間が経過すると、歯槽骨(顎提)が吸収されてしまうことがある。歯槽骨(顎提)が失われて骨の厚みが不足すると、インプラントやその他の補綴治療が困難となる。このような場合に有効な方法として行われるのが、骨再生誘導法(Guided Bone Regenaration、GBR)である。GBR法では、歯槽骨が不足している部分をメンブレン(人工膜)で覆って固定する。メンブレンにより歯肉等の軟組織が侵入するのが防止され、骨の再生が促進される。GBR用メンブレンには、顎部の湾曲に容易に追随できる柔軟性を有すること、組織為害性がないこと、及び、骨が再生するまで形態を維持できる強度を有すること等が求められる。
【0003】
現在、GBR用メンブレンとしては、ゴアテックス(登録商標)製のメンブレンが広く用いられている。しかし、ゴアテックス(登録商標)製のメンブレンは非吸収性のために二次的除去手術を必要とし、再度の局所侵襲を加えなければならないという問題がある。
これに対して、組織再生誘導法(Guided Tissue Regenaration、GTR)用に開発された生体吸収性メンブレン(例えば、特許文献1)がGBR法用に流用されることがあった。しかしながら、生体吸収性のGTR用メンブレンをGBR法に用いても、強度が弱く、強度保持期間も短いことから、骨が再生するまで形態を維持できず骨再生に失敗してしまうことが多かった。
そこで、生体吸収性で、顎部の湾曲に容易に追随できる柔軟性を有し、組織為害性がなく、かつ、骨が再生するまで形態を維持できる強度を有する、GBR用メンブレンとして好適な生体吸収性骨再生用フィルムが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−324641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生体吸収性で、顎部の湾曲に容易に追随できる柔軟性を有し、組織為害性がなく、かつ、骨が再生するまで形態を維持できる強度を有する生体吸収性骨再生用フィルム、及び、該生体吸収性骨再生用フィルムからなるGBR用メンブレンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の貫通孔を有し、かつ、構成セグメントのモル比がL−ラクチド:グリコリド:ε−カプロラクトン=73〜77:0.5〜1.5:22〜26であるL−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体からなる生体吸収性骨再生用フィルムである。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者が鋭意検討したところ、従来の生体吸収性樹脂からなるGBR用メンブレン又はGTR用メンブレンを骨再生誘導法による歯槽骨の再生に用いた場合、組織埋稙後に骨が再生する前にメンブレン全体が破折して形態を維持できなくなることが骨再生失敗の大きな原因であることが判った。
本発明者は、更に鋭意検討した結果、複数の貫通孔を有するフィルムとするとともに、特定のL−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体を材料として用いることにより、骨が再生するまで形態を確実に維持することができ、顎部の湾曲に容易に追随できる柔軟性を有する生体吸収性骨再生用フィルムを提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の生体吸収性骨再生用フィルムは、複数の貫通孔を有する。
生体吸収性樹脂からなるGBR用メンブレンを、骨再生誘導法による歯槽骨の再生のために組織に埋稙した場合、時間の経過とともに柔軟性および強度が低下し、破折が生じやすくなるのは不可避である。この破折がメンブレンの全体に及んだときは、もはや形態を維持できず、歯肉等の軟組織が侵入して骨再生は失敗する。
これに対して貫通孔を有する本発明の生体吸収性骨再生用フィルムをGBR用メンブレンとして用いた場合には、破折が生じた場合でも、貫通孔間での破折に留まり、メンブレン全体の形態が崩壊するのを防止することができる。これは、貫通孔により比較的破折が生じやすいところを設けることにより、破折発生時の応力を緩和して、破折がメンブレン全体に及ぶのを防止できるためであると考えられる。更に、貫通孔を有することにより、血管を再生骨側に誘導して骨再生を促進する効果も発揮される。
【0009】
上記貫通孔は、本発明の生体吸収性骨再生用フィルムの全面に均一又は不均一に形成されていることが好ましい。
上記貫通孔の孔径の好ましい下限は0.2mm、好ましい上限は0.5mmである。上記貫通孔の孔径が0.2mm未満であると、充分な破折防止効果を発揮できないことがあり、0.5mmを超えると、フィルム全体の強度が低下してしまうことがある。上記貫通孔の孔径のより好ましい下限は0.25mm、より好ましい上限は0.45mmである。
【0010】
上記貫通孔の形状は特に限定されないが、円形又は多角形状であることが好ましい。上記貫通孔を円形又は多角形状とすることにより、より高い破折防止効果を発揮することができる。
【0011】
上記貫通孔の数や密度は、貫通孔の孔径等により適宜選択することができるが、上記貫通孔が形成されていない部分の面積のフィルム全体の面積に対する比率(残存面積率)の好ましい下限は85%、好ましい上限は95%である。上記残存面積率が85%未満であると、フィルム全体の強度が低下してしまうことがあり、95%を超えると、充分な破折防止効果を発揮できないことがある。上記残存面積率のより好ましい下限は87%、より好ましい上限は93%である。
【0012】
本発明の生体吸収性骨再生用フィルムの厚さの好ましい下限は0.1mm、好ましい上限は0.5mmである。生体吸収性骨再生用フィルムの厚さが0.1mm未満であると、充分な強度や形態保持能を発揮できずに新生骨を再生するスペースを確保できなくなる可能性があり、0.5mmを超えると、柔軟性に欠け顎部の湾曲に容易に追随できないことがある。生体吸収性骨再生用フィルムの厚さのより好ましい下限は0.2mm、より好ましい上限は0.4mmである。
【0013】
本発明の生体吸収性骨再生用フィルムは、L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体からなる。上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体は、生体吸収性の合成高分子であり、各セグメントの配合比を調整することにより、生体吸収性や、柔軟性等の機械的性質を調整することができる。
L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体を構成する構成セグメントのモル比を特定の範囲として、上記貫通孔を有することと組み合わせることにより、GBR用メンブレンに求められる柔軟性、非組織為害性、及び、形態の持続性を全て達成することができる。
【0014】
上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体における各構成セグメントのモル比は、L−ラクチド:グリコリド:ε−カプロラクトン=73〜77:0.5〜1.5:22〜26である。
なお、上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体における各構成セグメントの比率は、核磁気共鳴分光装置等を用いた方法により測定することができる。
【0015】
上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体におけるL−ラクチド成分のモル比が73モル%未満であると、強度及び弾性率が低下するために形態を保持することができず、新生骨が生成するスペースを確保できなくなる可能性があり、77モル%を超えると、強度及び弾性率が高くなり、柔軟性に欠け顎部の湾曲に容易に追随できないことがある。L−ラクチド成分のモル比の好ましい下限は74モル%、好ましい上限は76モル%である。
【0016】
上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体におけるグリコリド成分のモル比が0.5モル%未満であると、分解期間が長くなり、長期にわたりフィルムが残存する可能性があり、1.5モル%を超えると、分解期間が速くなり、新生骨が再生するまでにフィルムの強度が低下し、破折してしまう可能性がある。グリコリド成分のモル比の好ましい下限は0.8モル%、好ましい上限は1.2モル%である。
【0017】
上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体におけるε−カプロラクトン成分のモル比が22モル%未満であると、強度及び弾性率が高くなるため、柔軟性に欠け顎部の湾曲に容易に追随できないことがあり、26モル%を超えると、強度及び弾性率が低下するために形態を保持することができず、新生骨が生成するスペースを確保できなくなる可能性がある。ε−カプロラクトン成分のモル比の好ましい下限は23モル%、好ましい上限は25モル%である。
【0018】
上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体の重量平均分子量の好ましい下限は10万、好ましい上限は50万である。上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体の重量平均分子量が10万未満であると、形態の持続時間が短くなってしまうことがあり、50万を超えると、柔軟性が劣ることがある。上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体の重量平均分子量のより好ましい下限は15万、より好ましい上限は45万である。
なお、上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法等で測定することができる。
【0019】
上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体を合成する方法は特に限定されず、従来公知の合成方法を用いることができる。例えば、所定量のL−ラクチド、グリコリド及びε−カプロラクトンをフラスコに入れ、窒素雰囲気下、2−エチルへキサン酸スズ等の触媒を用いて重合させることにより合成することができる。
【0020】
本発明の生体吸収性骨再生用フィルムは、上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体の他、リン酸カルシウム系化合物からなる粒子を含有することが好ましい。リン酸カルシウム系化合物からなる粒子を含有することにより、骨の再生を促進することができる。
【0021】
上記リン酸カルシウム系化合物は特に限定されず、例えば、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸水素カルシウム、水酸アパタイト、炭素含有アパタイト、フッ素アパタイト等が挙げられる。これらのリン酸カルシウム系化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記リン酸カルシウム系化合物からなる粒子の平均粒子径の好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は1000μmである。上記リン酸カルシウム系化合物からなる微粒子の平均粒子径が0.1μm未満であると、十分な骨伝導能が得られない場合があり、1000μmを超えると、GBR用メンブレンの強度が低下することがある。上記リン酸カルシウム系化合物からなる粒子の平均粒子径のより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は800μmである。
【0023】
本発明の生体吸収性骨再生用フィルムは、必要に応じて、更に塩基性繊維芽細胞増殖因子や血管増殖因子、骨形成促進因子などの生理活性物質等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0024】
本発明の生体吸収性骨再生用フィルムを製造する方法は特に限定されないが、上記L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体を熱プレスや押出成形法等の成形方法によりフィルム状に成形した後、マシニングセンタや、プレス機、ドリル等を用いて貫通孔を設ける方法等が挙げられる。
【0025】
本発明の生体吸収性骨再生用フィルムは、歯科、口腔外科領域において、骨組織再生誘導法に使用されるGBR用メンブレンとして極めて有用である。
本発明の生体吸収性骨再生用フィルムからなるGBR用メンブレンもまた、本発明の1つである。
なお、本発明のGBR用メンブレンの形状はフィルム状体を基本とするが、適用する部位の形状にあわせて、予め湾曲加工等を施して三次元形状に成形して用いてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、生体吸収性で、顎部の湾曲に容易に追随できる柔軟性を有し、組織為害性がなく、かつ、骨が再生するまで形態を維持できる強度を有する生体吸収性骨再生用フィルム、及び、該生体吸収性骨再生用フィルムからなるGBR用メンブレンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1(a)は実施例1のGBR用メンブレンを湾曲保持した場合のメンブレン形状の変化を、図1(b)は比較例5のGBR用メンブレンを湾曲保持した場合のメンブレン形状の変化を示す写真である。
【図2】実施例1及び対照区のGBR用メンブレンを用いて骨再生を行った場合の、埋入6ヶ月後の組織学的観察像、並びに、GBR用メンブレンを用いずに骨再生を行ったコントロール側の埋入6ヶ月後の組織学的観察像である。
【図3】比較例3のGBR用メンブレンを埋入2週間後に発生した炎症を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
(1)共重合体の合成
L−ラクチド791.0g、グリコリド8.5g及びε−カプロラクトン200.5gをフラスコに入れ、触媒として2−エチルヘキサン酸スズを用いて130℃、窒素雰囲気下において7日間塊状重合を行った。重合後、容器から取り出した共重合体を粉砕・精製を行い、L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン共重合体を得た。
【0030】
(2)GBR用メンブレンの製造
得られたL−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン共重合体20gを、190℃で5分間予熱して融解し、次いで190℃、196N/mの荷重を1分間加えて、厚さ300μmのフィルムを調製した。なお、このフィルムを後述する加水分解試験用サンプルとした。
得られたフィルムの全面に、マシニングセンタを用いて直径0.4mmの貫通孔を、中心間距離1.2mmで格子状に開けて、GBR用メンブレンを得た。
【0031】
(比較例1)
L−ラクチド790.8g、グリコリド25.5g及びε−カプロラクトン183.7gをフラスコに入れ、触媒として2−エチルヘキサン酸スズを用いて130℃、窒素雰囲気下において7日間重合を行った。重合後、容器から取り出した共重合体を粉砕・精製を行い、L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン共重合体を得た。
得られたL−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン共重合体を用いた以外は実施例1と同様にして、加水分解試験用サンプル及びGBR用メンブレンを製造した。
【0032】
(比較例2)
L−ラクチド834.6g、グリコリド8.4g及びε−カプロラクトン157.0gをフラスコに入れ、触媒として2−エチルヘキサン酸スズを用いて130℃、窒素雰囲気下において7日間重合を行った。重合後、容器から取り出した共重合体を粉砕・精製を行い、L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン共重合体を得た。
得られたL−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン共重合体を用いた以外は実施例1と同様にして、加水分解試験用サンプル及びGBR用メンブレンを製造した。
【0033】
(比較例3)
L−ラクチド834.4g、グリコリド25.2g及びε−カプロラクトン140.4gをフラスコに入れ、触媒として2−エチルヘキサン酸スズを用いて130℃、窒素雰囲気下において7日間重合を行った。重合後、容器から取り出した共重合体を粉砕・精製を行い、L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン共重合体を得た。
得られたL−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン共重合体を用いた以外は実施例1と同様にして、加水分解試験用サンプル及びGBR用メンブレンを製造した。
【0034】
(比較例4)
L−ラクチド791.2g及びε−カプロラクトン208.8gをフラスコに入れ、触媒として2−エチルヘキサン酸スズを用いて130℃、窒素雰囲気下において7日間重合を行った。重合後、容器から取り出した共重合体を粉砕・精製を行い、L−ラクチド/ε−カプロラクトン共重合体を得た。
得られたL−ラクチド/ε−カプロラクトン共重合体を用いた以外は実施例1と同様にして、加水分解試験用サンプル及びGBR用メンブレンを製造した。
【0035】
(比較例5)
貫通孔を開けないフィルムをGBR用メンブレンとした以外は実施例1と同様にして、加水分解試験用サンプル及びGBR用メンブレンを製造した。
【0036】
(評価)
実施例及び比較例で得られた共重合体、加水分解試験用サンプル及びGBR用メンブレンについて、以下のようにして評価を行った。
【0037】
(1)共重合体の組成及び重量平均分子量の測定
得られた共重合体の組成を、核磁気共鳴分光装置(日本電子社製、ESD−400)を用いて以下の測定条件により測定した。
測定核:
溶媒 :重クロロホルム
濃度 :0.03g/mL
温度 :25℃
積算 :128回
【0038】
得られた共重合体の重合平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所社製、SCL−10AVP)を用いて以下の測定条件により測定した。
カラム :Shim Pack−803C, Shim Pack−804C, Shim Pack−805C,
溶離液 :クロロホルム
流速 :1mL/min
標準試料 :ポリスチレン
検出 :RI
【0039】
(2)GBR用メンブレンの柔軟性の評価
GBR用メンブレンを10mm×50mmの短冊状にカットして試験片とした。オートグラフ(島津製作所社製、EZ−GLAPH)を用いて初期変形時(変形率1−3%)の弾性率を測定した。得られた弾性率の値を、柔軟性の評価の判断基準とした。
【0040】
(3)加水分解試験
加水分解試験用サンプルを10mm×50mmの短冊状にカットして試験片とした。
試験片をリン酸バッファー溶液(PBS)に浸漬し、37℃に保持した。所定時間経過後、フィルムをPBSから取出し、オートグラフ(島津製作所社製、EZ−GLAPH)を用いて引張強度を測定した。そして、引張強度が試験開始時(初期強度)の1/2になるまでの期間を「37℃加水分解強度保持期間」とした。例えば、1−2wと記載している場合、37℃PBS条件下で1週間から2週間の間に引張強度が半減することを意味する。
【0041】
【表1】

【0042】
GBR用メンブレンを患部に移植する場合、顎部の湾曲に容易に追随できる柔軟性が重要である。一方、GBR用メンブレンには、新生骨が形成される初期1か月程度は軟組織の侵入を防止して骨生成のスペースを確保できる充分な強度を有し、その後速やかに分解吸収されることが望まれる。表1より、実施例1のメンブレンは、GBR用メンブレンとして極めて好適であることが判る。
【0043】
(4)GBR用メンブレンの形態保持性の評価
実施例1及び比較例5のGBR用メンブレンを30mm×30mmにカットして試験片とした。試験片を湾曲させて直径8mmのガラス棒に巻きつけた状態でリン酸バッファー溶液(PBS)に浸漬し、37℃に保持した。その後、GBR用メンブレンの状態を観察した。
図1(a)に実施例1のGBR用メンブレンを湾曲保持した場合のメンブレン形状の変化を、図1(b)に比較例5のGBR用メンブレンを湾曲保持した場合のメンブレン形状の変化を示す写真を示した。
図1(b)より、比較例5のGBR用メンブレンは浸漬後10日目には破折がメンブレンの全体に及び、形態を維持できなかった。これに対して図1(a)の実施例1のGBR用メンブレンは、部分的な破折が認められてもメンブレンの全体に及ぶことがなく、28日目でも全体の形態を維持することができた。
このことより、形態保持のためにはL−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体の組成比を制御するだけでは不充分であり、複数の貫通孔を有するという形態も必要不可欠であることがわかる。
【0044】
(5)骨再生能評価試験
ビーグル成犬(体重9〜10kg)の下顎堤のP3部頬側とP4遠心根〜M1近心根部頬側の顎堤形成術を実施した。
該顎堤部に近遠心径×高さが10×7mmの楔状欠損を前後2か所ずつ、計4か所に作製した。左側の楔状欠損2か所に、各欠損部を覆うように実施例1のGBR用メンブレンを設置した。GBR用メンブレンの固定は頬側2か所でポリ乳酸製のピンを用いて行った。粘膜骨膜弁を復位し、VICRYL3−0で縫合した。右側下顎骨には左側と対称的に骨欠損のみを作製し、同様に粘膜骨膜弁を縫合し、コントロールとした。顎堤形成術は計4頭に行った。
術後1〜6か月間肉眼的観察を行い、3か月後および6か月後に頭部CT撮影(横河メディカル社製、hispeed NxiX線CT検査装置)を行った。術後6か月後に屠殺し、下顎骨を摘出してマイクロCT撮影(リガク社製、実験動物マイクロCTX線CT検査装置)及び組織学的観察を行った。
同様の実験を比較例3及び比較例5で作製したGBRフィルムを用いて行った。更に対照区として、同様の実験を貫通孔がなく、非吸収性であるチタン強化型ゴアテックス膜(ジャパンゴアテックス社製、TR6Y)を用いて行った。
ただし、比較例5で作製したGBRフィルムを用いた場合には、埋入後ごく短時間で破折してしまい、その時点で実験を中止した。
【0045】
図2に、実施例1、対照区のGBR用メンブレンを用いて骨再生を行った場合の、埋入6ヶ月後の組織学的観察像を示した。また、コントロールとしてGBRメンブレンを用いなかった場合の埋入6ヶ月後の組織学的観察像も合わせて示した。実施例1のGBR用メンブレンを用いた場合においては、メンブレンの貫通孔部に新生血管が多数認められた。一方、貫通孔を有しない対照区のGBR用メンブレンを用いた場合には、歯肉組織と骨界面への新生血管は認められなかった。また、コントロールではスペースを歯肉組織が埋めてしまい、有効な骨再生は認められなかった。
なお、比較例3のGBR用メンブレンを用いた場合には、埋設2週間後にメンブレンの破折に起因すると思われる炎症が認められたため、実験を中止した。図3に、比較例3のGBR用メンブレンを埋入2週間後に発生した炎症を示す写真を示した。
【0046】
マイクロCT画像をもとに、GBR用メンブレンを埋入した楔状欠損部分(4頭、計8か所)に6ヶ月後に再生した骨体積量の平均値を求めた。
結果を表2に示した。
【0047】
【表2】

【0048】
更に、Lekholm & Zarbの骨分類(J. Periodontal, Vol.62 2−4, 1991)に従い、埋入6ヶ月後に再生している骨の評価分類を行った。ここで、Type1は「ほとんどが皮質骨からなる骨」であり、Type2は「厚い皮質骨と密な海面骨からなる骨」であり、Type3は「薄い皮質骨と密な海面骨からなる骨」であり、Type4は「薄い皮質骨と疎な海面骨からなる骨」である。インプラント術のために顎堤を再生させる場合、再生した骨の体積だけではなく骨質も重要である。特にType4の骨質の骨再生が主である場合には、インプラント術を施すのは難しい。
結果を表3に示した。
【0049】
【表3】

【0050】
表3より、実施例1のGBR用メンブレンを用いて再生した骨の骨質はType2が5か所、Type3が3か所であった。これに対して、対照区のGBR用メンブレンを用いて再生した骨の骨質はType3が3か所、Type4が5か所であった。
表2及び表3より、非吸収性の材料を用いた場合には、材料の存在によって周囲組織の進入がなく骨の体積の増加量は多くなるが、その一方で骨界面に血管が誘導されず、その結果として再生した骨が未成熟なものになってしまうことが明らかにわかる。
以上のことから、成熟した骨を再生させるためには、一定期間後に生体内で分解、吸収される材料であることが必要であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、生体吸収性で、顎部の湾曲に容易に追随できる柔軟性を有し、組織為害性がなく、かつ、骨が再生するまで形態を維持できる強度を有する生体吸収性骨再生用フィルム、及び、該生体吸収性骨再生用フィルムからなるGBR用メンブレンを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔を有し、かつ、構成セグメントのモル比がL−ラクチド:グリコリド:ε−カプロラクトン=73〜77:0.5〜1.5:22〜26であるL−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体からなることを特徴とする生体吸収性骨再生用フィルム。
【請求項2】
貫通孔の形状が円形又は多角形であることを特徴とする請求項1記載の生体吸収性骨再生用フィルム。
【請求項3】
L−ラクチド/グリコリド/ε−カプロラクトン三元共重合体は、重量平均分子量が10万〜50万であることを特徴とする請求項1又は2記載の生体吸収性骨再生用フィルム。
【請求項4】
リン酸カルシウム系化合物からなる粒子を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の生体吸収性骨再生用フィルム。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の生体吸収性骨再生用フィルムからなることを特徴とするGBR用メンブレン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−24384(P2012−24384A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166958(P2010−166958)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本再生医療学会雑誌 再生医療 2010 Vol.9 増刊号、第9回日本再生医療学会総会プログラム・抄録(平成22年2月5日 第9回日本再生医療学会総会発行)、及び、第64回NPO法人日本口腔科学会学術集会 プログラム・抄録集(平成22年5月24日 第64回NPO法人日本口腔科学会学術集会事務局発行)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、平成22年度、科学技術試験研究委託事業(スーパー特区(先端医療開発特区))、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【出願人】(300061835)財団法人先端医療振興財団 (28)
【Fターム(参考)】