説明

生分解性ポリエステル樹脂及びその製造方法、静電荷像現像トナー、静電荷像現像剤、画像形成方法、並びに、画像形成装置

【課題】生分解性樹脂として注目されている脂肪族ポリエステルにおいて、その強度を保ち、かつ、生分解性を向上させる製造方法、静電荷像現像トナー、静電荷像現像剤、画像形成方法、並びに、画像形成装置を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステル樹脂において、式(II)及び/又は式(III)で表される化合物を含有し、重量平均分子量が30,000以上5,000,000以下であることを特徴とする生分解性ポリエステル樹脂。


式(II)中、R1は、スルホ基に対するハメット値が0.2以上であることが好ましく、l個のR1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。lは0〜4の整数を表す。Lは炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を表す。


式(III)中、Mは炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリエステル樹脂及びその製造方法、静電荷像現像トナー、静電荷像現像剤、画像形成方法、並びに、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、軽さ、加工性、強度、コストなどの点で、他の材料に比べ有利な点が多く、あらゆる分野の製品に使用されているのが現状である。しかしながら、廃棄時に自然環境下でほとんど分解されないため、近年重要になっている環境負荷低減の取り組みにおいても、プラスチックの有害性、低環境負荷プラスチックの必要性が注目されている。
そこで、環境中に多数存在する微生物により分解、無害化される生分解性プラスチックの導入が望まれている。例えば、酸素、水素、炭素からなり、分解すると水と二酸化炭素のみを生成する脂肪族ポリエステルは、代表的な生分解性樹脂である。既にいくつかの分野において生分解性プラスチックが採用され、商品化されているが、汎用材料への拡大をより促進する必要がある。
コスト、生産性、機械的・物理的性能、化学的性能のようなこれまでの汎用材料の全ての特性を維持し、十分な生分解性を有する脂肪族ポリエステルの開発はいまだ検討が継続されている。
【0003】
脂肪族ポリエステルは生分解性と合成の簡便さから、多くの研究がなされ、実用化されているが、高い生分解性と、機械的・物理的強度の両立が困難であるため、多くの検討、発明がなされてきた。例えば、特許文献1には、芳香環を含むポリエステルと、直鎖ポリエステルをオリゴマーの状態で共重合させる方法が開示されており、さらに特許文献2には、ポリ乳酸と3官能以上の多価イソシアナートとを架橋した樹脂などが開示されている。
【0004】
一方、例外を除いて、通常のポリエステル重縮合法は、200℃を超す高温下で大動力による撹拌下、かつ高減圧下で長時間の反応が必要であり、大量のエネルギー消費を招く。これは、生分解性樹脂を合成する場合も同様である。またその結果、反応設備の耐久性を得るために膨大な設備投資を必要とする場合が多い。
しかし、近年ポリエステルを始め各種反応の、低温化、脱溶媒化が報告されている。例えば、特許文献3では加水分解酵素を触媒とした実質無溶媒下でのポリエステルの製造方法が開示され、特許文献4では、スカンジウムトリフラート触媒による80〜180℃でのポリエステル合成が報告されている。
【0005】
生分解性樹脂製造時の環境負荷の低減や重合速度の向上を目的に、重合触媒についての検討も多く行われている。特許文献5には、スズ系触媒と酸解離定数の逆数の対数値が3.66以下である酸系触媒存在下で重縮合を行う生分解脂肪族系ポリエステルの製造方法が開示されており、特許文献6には、開環重合触媒として特定のAl化合物を使用したポリエステル複合材料の製造方法が開示されている。また、特許文献7には、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオールによるポリエステル作製時、エステル交換触媒に助触媒として有機ホスホン酸、スルホン酸又は硫酸エステル基を有する脂肪族系及び/又は芳香族化合物、並びに、硫酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種のプロトン酸を用いる方法が開示されている。
【0006】
さらに、生分解性に関しては、樹脂そのものの構造だけでなく、触媒の環境影響も考える必要がある。例えば、欧米の中では、重合触媒としても使用可能である重金属を一部規制している地域もある。また、土壌中での生分解がより加速されるような構造のポリエステル樹脂が望ましい。
【0007】
一方、土壌改良剤、土壌処理剤などに、界面活性剤を使用する発明がいくつか認められる。例えば、特許文献8には特定の炭素数脂肪酸とアルコール等から選ばれる少なくとも1種の炭素源と陰イオン性及び/又は非イオン性界面活性剤を含む土壌浄化組成物が開示され、特許文献9には、特定の脂肪酸ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む土壌改良資材用界面活性剤が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−342244号公報
【特許文献2】特開平9−281746号公報
【特許文献3】特開平11−313692号公報
【特許文献4】特開2003−306535号公報
【特許文献5】特開2001−89558号公報
【特許文献6】特開2005−97361号公報
【特許文献7】特開2001−19752号公報
【特許文献8】特開2005−66425号公報
【特許文献9】特開平8−157819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、生分解性と実使用性に耐えうる樹脂性能と、さらに製造時の環境負荷を低減できる脂肪族生分解性ポリエステル樹脂が必要とされていた。
【0010】
本発明は上記課題を解決するものであり、生分解性樹脂として注目されている脂肪族ポリエステルにおいて、その強度を保ち、かつ、生分解性を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記課題は、以下の<1>、<4>〜<9>に記載の手段により解決された。好ましい実施態様である<2>、<3>と共に以下に記載する。
<1> 式(I)で表されるモノマー単位をポリエステル樹脂全体の50重量%以上含有し、式(II)及び/又は式(III)で表される化合物を含有し、重量平均分子量が30,000以上5,000,000以下であることを特徴とする生分解性ポリエステル樹脂、
【0012】
【化1】

式(I)中、Aは単結合、直鎖又は分岐型アルキレン基、又は、シクロアルキレン基を表し、Bは炭素数2以上の直鎖又は分岐型アルキレン基、又は、シクロアルキレン基を表し、A及びBの炭素数の合計は、2以上14以下である。
【0013】
【化2】

式(II)中、R1は、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基、カルバモイル基、一置換若しくは二置換カルバモイル基、シアノ基、パーハロゲノアルキル基、チオシアナト基、スルファモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ニトロ基又はアルキニル基を表し、l個のR1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。lは0〜4の整数を表す。Lは炭素数8以上の直鎖又は分岐型のアルキル基又はアルケニル基を表す。
【0014】
【化3】

式(III)中、Mは炭素数8以上の直鎖又は分岐型のアルキル基又はアルケニル基を表す。
【0015】
<2> 触媒由来の金属成分を0ppm以上10ppm以下含有する、上記<1>に記載の生分解性ポリエステル樹脂、
<3> 融点が50℃以上である、上記<1>又は上記<2>に記載の生分解性ポリエステル樹脂、
<4> 式(IV)で表されるジカルボン酸成分及び式(V)で表されるジオール成分を重縮合触媒の存在下に重縮合する工程を含み、前記重縮合触媒が上記式(II)及び/又は上記式(III)で表される化合物であることを特徴とする、上記<1>〜上記<3>いずれか1つに記載の生分解性ポリエステル樹脂の製造方法、
【0016】
【化4】

式(IV)中、R5は、水素原子、低級アルキル基、又は、アリール基を表し、Aは単結合、直鎖又は分岐型アルキレン基、又は、シクロアルキレン基を表す。式(V)中、Bは炭素数2以上の直鎖又は分岐型アルキレン基、又は、シクロアルキレン基を表す。A及びBの炭素数の合計は、2以上14以下である。
【0017】
<5> 上記<1>〜上記<3>いずれか1つに記載の生分解性ポリエステル樹脂を5重量%以上80重量%以下含有することを特徴とする、静電荷像現像トナー用結着樹脂、
<6> 上記<5>に記載の静電荷像現像トナー用結着樹脂を含有することを特徴とする、静電荷像現像トナー、
<7> 上記<6>に記載の静電荷像現像トナー及びキャリアを含むことを特徴とする、静電荷像現像剤、
<8> 潜像保持体表面に静電潜像を形成する潜像形成工程と、前記潜像保持体表面に形成された静電潜像をトナーを含む現像剤により現像してトナー像を形成する現像工程と、前記潜像保持体表面に形成されたトナー像を被転写体表面に転写する転写工程と、前記被転写体表面に転写されたトナー像を熱定着する定着工程とを含み、前記トナーとして上記<6>に記載の静電荷像現像トナー、又は、前記現像剤として上記<7>に記載の静電荷像現像剤を用いることを特徴とする画像形成方法、
<9> 潜像保持体と、前記潜像保持体を帯電させる帯電手段と、帯電した前記潜像保持体を露光して該潜像保持体上に静電潜像を形成させる露光手段と、トナーを含む現像剤により前記静電潜像を現像してトナー像を形成させる現像手段と、前記トナー像を前記潜像保持体から被転写体に転写する転写手段とを有し、前記トナーとして上記<6>に記載の静電荷像現像トナー、又は、前記現像剤として上記<7>に記載の静電荷像現像剤を用いる画像形成装置。
【発明の効果】
【0018】
上記<1>に記載の発明によれば、脂肪族ポリエステルを主成分としながら、その強度を保ち、良好な生分解性を得ることができた。
上記<2>に記載の発明によれば、生分解性ポリエステル樹脂に存在する触媒由来の金属成分が少なく、金属触媒に由来する環境影響を低減することができた。
上記<3>に記載の発明によれば、より強度に優れた生分解性ポリエステル樹脂を得ることができた。
上記<4>に記載の発明によれば、より強度等の物性の制御をしやすくなり、さらにハロゲン化された材料等を使用する場合などに比して、重合時の環境影響を低減できた。
上記<5>に記載の発明によれば、静電荷現像用トナー用結着樹脂に求められる強度を有し、さらに生分解性を有する静電荷像現像トナー用結着樹脂を提供することができた。
上記<6>に記載の発明によれば、静電荷像現像トナーとしての十分な性能を持ちながら、生分解性を有する静電荷像現像トナーを提供することができた。
上記<7>に記載の発明によれば、静電荷像現像剤としての十分な性能を有しながら、生分解性を有する静電荷像現像トナーを提供することができた。
上記<8>に記載の発明によれば、画像形成能に優れると共に、静電荷像現像トナーが結着樹脂として生分解性ポリエステル樹脂を使用していることから、より環境への負荷の少ない、画像形成方法を提供することができた。
上記<9>に記載の発明によれば、画像形成能に優れると共に、静電荷像現像トナーが結着樹脂として生分解性ポリエステル樹脂を使用していることから、より環境への負荷の少ない、画像形成装置を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(生分解性ポリエステル樹脂)
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、上記式(I)で表されるモノマー単位をポリエステル樹脂全体の50重量%以上含有し、上記式(II)及び/又は上記式(III)で表される化合物を含有し、重量平均分子量が30,000以上5,000,000以下であることを特徴とする。
本発明において、上記の構成を採用することによって、ポリエステルの生分解性が向上する。これは、式(II)及び式(III)で表される化合物の界面活性能力に基づくと予測される。即ち、生分解性ポリエステル樹脂中に存在する式(II)及び/又は式(III)で表される化合物は、その親水性基によって、土壌中の水分をポリエステル樹脂近傍に保持し、その結果樹脂の分解を促進する働きをするものと推測される。
以下、詳述する。
【0020】
<ポリエステル樹脂、重縮合性単量体>
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、下記式(I)で表されるモノマー単位(繰り返し単位)を、ポリエステル樹脂全体の50重量%以上含有する。
【0021】
【化5】

【0022】
式(I)中、Aは単結合又は脂肪族炭化水素基を表し、Bは炭素数2以上の脂肪族炭化水素基を表し、A及びBの炭素数の合計は、2以上14以下である。
本発明において、A及びBが上記の炭素数を満たすことにより、高い重縮合性と、高い生分解性を両立することができる。また、重縮合性に優れることから、高分子量、高融点の生分解性ポリエステル樹脂を得ることができ、このような生分解性ポリエステル樹脂は、静電荷像現像トナー用結着樹脂としても好適に使用することができる。
【0023】
式(I)中、Aは単結合又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。脂肪族炭化水素基は飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよく、例えば、直鎖又は分岐型アルキレン基、シクロアルキレン基、直鎖又は分岐型アルケニレン基、シクロアルケニレン基等が例示できる。脂肪族炭化水素基としては、直鎖又は分岐型アルキレン基、シクロアルキレン基であることが好ましい。
これらの中でも、Aは、単結合、直鎖又は分岐型アルキレン基、又は、シクロアルキレン基であることが好ましい。
Aは炭素数が0〜12であり、炭素数が1〜10であることが好ましく、炭素数が2〜10であることがより好ましい。なお、Aの炭素数が0とは、Aが単結合を表すことを意味する。
【0024】
Bは、炭素数2以上の2価の脂肪族炭化水素基を表し、脂肪族炭化水素基は飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでもよく、例えば、直鎖又は分岐型アルキレン基、シクロアルキレン基、直鎖又は分岐型アルケニレン基、シクロアルケニレン基等が例示できる。脂肪族炭化水素基としては、直鎖又は分岐型アルキレン基であることが好ましい。
Bの炭素数は2以上14以下であり、炭素数が2〜11であることが好ましく、炭素数が2〜10であることがより好ましい。
【0025】
また、本発明において、A及びBの炭素数の合計は2以上14以下である。炭素数が14を超えると、生分解性を発揮することができない。また、炭素数が2未満であると、そのようなポリエステル樹脂を安定的に得ることが困難である。
A及びBの炭素数の合計は、4以上14以下であることが好ましく、より好ましくは4以上10以下であり、さらに好ましくは4以上8以下である。
【0026】
式(I)のA及びBにおいて、脂肪族炭化水素基は任意の置換基を有していてもよい。
A及びBが直鎖又は分岐型アルキレン基を表す場合、該アルキレン基は置換基としてシクロアルキル基を有していてもよく、この場合、置換基を含めた全炭素数が、A及びBの炭素数として好ましい範囲とする。
また、A及びBにおいて、分岐型アルキレン基は、分岐鎖が主鎖と環を形成していてもよい。
ここで、A及びBは、生分解により二酸化炭素及び水に分解される点から、炭素及び水素のみからなることが好ましい。
【0027】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、上記式(I)で表されるモノマー単位を、ポリエステル樹脂全体の50重量%以上含有する。なお、「ポリエステル樹脂全体の50重量%以上含有する」とは、式(I)で表されるモノマー単位が、ポリエステル樹脂全体の50重量%以上であることを意味し、他のモノマー単位が、式(I)で表されるモノマー単位の間に、全体の50重量%未満の割合で挿入されていてもよい。
上記式(I)で表されるモノマー単位を、ポリエステル樹脂全体の55重量%以上含有することが好ましく、より好ましくは60〜100重量%である。
【0028】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、下記式(IV)で表されるジカルボン酸成分及び下記式(V)で表されるジオール成分を重縮合性単量体として用いて、前記重縮合性単量体の重縮合反応又はエステル交換反応により得られる。
なお、前記ジカルボン酸成分とは、ジカルボン酸に限定されず、その無水物や、酸エステル化物等のカルボン酸誘導体をも含む意である。
【0029】
【化6】

【0030】
式(IV)中、R5は、水素原子、低級アルキル基、又はアリール基を表し、Aは単結合又は2価の脂肪族炭化水素基を表す。式(V)中、Bは炭素数2以上の2価の脂肪族炭化水素基を表す。A及びBの炭素数の合計は、2以上14以下である。
式(IV)及び(V)において、A及びBの好ましい範囲は前記式(I)におけるものと同様である。
式(IV)中、低級アルキル基は、炭素数1〜4のアルキル基であり、直鎖又は分岐のいずれでもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が例示できる。
また、アリール基は、炭素数6〜12であることが好ましく、より好ましくは、炭素数6〜10である。なお、アリール基は置換基を有していてもよく、該置換基としてはハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基が例示できる。
【0031】
前記式(IV)に該当するジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、β−メチルアジピン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸(cis-HOOC-CH=CMe-COOH)を挙げることができる。
また、式(IV)中、Aは脂環アルキレン基であってもよく、具体的には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロドデカンから水素原子を2つ除いた基を挙げることができる。特に好ましい脂環アルキレン基を有する化合物としては、シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
また、1,1−シクロペンテンジカルボン酸、1,2−シクロヘキセンジカルボン酸等も例示できる。
なお、上述の通り、これらの酸無水物や酸エステル化物等を使用することもできる。
【0032】
前記式(V)に該当するジオールとしては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ウンデカンジオール、ドデカンジオール、トリデカンジオールが挙げられる。また、環状構造を有するジオールとしては、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールが例示できる。
【0033】
式(IV)及び式(V)で表されるジカルボン酸成分及びジオール成分として特に好ましくは、蓚酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオールが挙げられ、上述の炭素数の範囲を満たす組み合わせが挙げられる。
【0034】
この炭素数の範囲を満たす組み合わせならば、重縮合性単量体を3種以上使用することもでき、その場合、ジカルボン酸成分、及び/又はジオール成分においてそれぞれ添加量(重量%)に応じた炭素数の平均値を算出し、それらを元に炭素数が規定した範囲内であるかどうかで判断できる。
【0035】
本発明において、生分解性ポリエステル樹脂の50重量%未満を上限として、上記式(I)で表されるモノマー単位以外の、他のモノマー単位を含んでいてもよい。
すなわち、上記式(IV)で表されるジカルボン酸成分及び上記式(V)で表されるジオール成分と併用して、他の重縮合性単量体を併用することもできる。
併用可能な重縮合性単量体としては、ポリカルボン酸成分、ポリオール成分及びヒドロキシカルボン酸成分が例示できる。これらの中でも、ジカルボン酸成分、ジオール成分又はモノヒドロキシモノカルボン酸成分を併用することが好ましい。
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、架橋構造を有していないことが、高い生分解性を達成する観点から好ましい。したがって、重縮合性単量体として、3価以上のポリカルボン酸成分、3価以上のポリオール成分、及び、3価以上のヒドロキシカルボン酸成分は使用しないことが好ましい。
ここで、カルボン酸成分とは、上述の通り、カルボン酸のみではなく、その酸無水物及び酸エステル化物等のカルボン酸誘導体をも含む意である。
【0036】
本発明において、式(IV)で表されるジカルボン酸成分と併用しうる他のポリカルボン酸成分はジカルボン酸成分であることが好ましく、具体的には以下のジカルボン酸が例示できる。
重縮合性単量体として併用することができるジカルボン酸は1分子中にカルボキシル基を2個含有する化合物であり、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロルフタル酸、クロルフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレン二酢酸、p−フェニレンジプロピオン酸、m−フェニレンジプロピオニン酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸等を挙げることができる。
また、ジカルボン酸以外の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸等を挙げることができるが、本発明においては、3価以上のポリカルボン酸は使用しないことが好ましい。
上記のカルボン酸は、カルボキシル基以外の官能基を有していてもよく、酸無水物、酸エステル等のカルボン酸誘導体を用いることもできる。
【0037】
多価アルコールとは、1分子中に水酸基を2個以上含有する化合物である。多価アルコールとしては、特に限定はされないが、次の単量体を挙げることができる。
ジオールは1分子中に水酸基を2個含有する化合物であり、例えばオクタデカンジオール等を挙げることができる。
また、ジオール以外の多価オールとしては、例えば、グリコール、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミン等を挙げることができるが、本発明では、3価以上のポリオール(多価アルコール)を使用しないことが好ましい。
また、環状構造を有する多価アルコールとしては次の単量体を挙げることができる。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールP、ビスフェノールS、ビスフェノールZ、水素添加ビスフェノール、ビフェノール、ナフタレンジオール、ヒドロキシフェニルシクロヘキサン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。本発明では、上記ビスフェノール類が少なくとも一つのアルキレンオキサイド基を有することが好ましい。アルキレンオキサイド基としては、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基、ブチレンオキサイド等を挙げることができるが、これらに限定されない。好適には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドであり、その付加モル数は1〜3が好ましい。この範囲である場合、作製するポリエステルの粘弾性やガラス転移温度がトナーとして使用するために適切に制御することができる。
【0038】
また、一分子中にカルボン酸と水酸基とを含有するヒドロキシカルボン酸化合物を重縮合性単量体として併用して、重縮合を実施することもできる。例えば、モノヒドロキシモノカルボン酸としては、ヒドロキシオクタン酸、ヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシドデカン酸、ヒドロキシテトラデカン酸、ヒドロキシトリデカン酸、ヒドロキシヘキサデカン酸、ヒドロキシペンタデカン酸、ヒドロキシステアリン酸等を挙げることができるが、これに限定されない。
また、3価以上のヒドロキシカルボン酸としては、リンゴ酸、酒石酸、粘液酸、ジブチロールブタン酸、ジブチロールプロピオン酸などが例示できる。
【0039】
<式(II)及び/又は式(III)で表される化合物>
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、下記式(II)及び/又は下記式(III)で表される化合物を含有する。式(II)及び式(III)で表される化合物は、親水性基であるスルホ基(−SO3H)と、疎水性基である長鎖(炭素数8以上)の直鎖又は分岐型のアルキル基又はアルケニル基を有するため、界面活性能を有する。
その作用機構は十分に明らかでないが、本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、下記式(II)で表される化合物及び/又は下記式(III)で表される化合物を含有することにより、その界面活性能に基づき、生分解性や土壌での分散生が向上するものと考えられる。
【0040】
本発明において、式(II)及び/又は式(III)で表される化合物は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。すなわち、式(II)で表される化合物と式(III)で表される化合物とを併用することもできるし、式(II)又は式(III)で表される化合物を、それぞれ2種以上使用することもできる。
【0041】
【化7】

【0042】
式(II)中、R1は、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基、カルバモイル基、一置換若しくは二置換カルバモイル基、シアノ基、パーハロゲノアルキル基、チオシアナト基、スルファモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ニトロ基、アルキニル基を表し、l個のR1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。lは0〜4の整数を表す。Lは炭素数8以上の直鎖又は分岐型アルキル基を表す。
【0043】
式(II)中、R1は、スルホ基(−SO3H)を基準とするハメット値が0.2以上である置換基であることが好ましく、このような置換基を有すると触媒能が向上するので好ましい。
ハメット値が0.2以上の置換基として具体的には、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、アセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、トリフルオロアセチル基、カルバモイル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、チオシアナト基、ニトロ基等が挙げられる。その中でも、特に置換基効果、重縮合触媒への適性、トナー用結着樹脂への適性を考慮すると、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
これらの置換基の数に限定はなく、複数の置換基を有することもできる。その際、全てのR1のスルホ基を基準とするハメット値の和が正の値、すなわちR1全体としてスルホ基に対し電子求引性であることが好ましい。
なおR1の置換基の数は0〜4であり、好ましくは0〜3であり、より好ましくは0〜2である。
【0044】
式(II)中、Lは炭素数8以上の直鎖又は分岐型のアルキル基又はアルケニル基であり、炭素数が8〜20であることが好ましく、8〜18であることがよりに好ましい。
また、Lは直鎖又は分岐型のいずれのアルキル基又はアルケニルであってもよいが、直鎖又は分岐型のアルキル基であることが好ましく、直鎖アルキル基であることがより好ましい。
【0045】
また、式(II)で表される化合物において、スルホ基(−SO3H)は、直鎖又は分岐型のアルキル基又はアルケニル基(L)のパラ位に置換していることが好ましい。
【0046】
式(II)で表される化合物のうち、Lが直鎖のアルキル基を有する化合物としては、例えば、4−n−オクチルベンゼンスルホン酸、4−n−ノニルベンゼンスルホン酸、4−n−デシルベンゼンスルホン酸、4−n−ウンデシルベンゼンスルホン酸、4−n−ドデシルベンゼンスルホン酸、4−n−トリデシルベンゼンスルホン酸、4−n−テトラデシルベンゼンスルホン酸、4−n−ペンタデシルベンゼンスルホン酸、4−n−ヘキサデシルベンゼンスルホン酸、4−n−ヘプタデシルベンゼンスルホン酸、4−n−オクタデシルベンゼンスルホン酸、4−n−ノナデシルベンゼンスルホン酸、4−n−エイコサベンゼンスルホン酸等を好ましく挙げることができ、4−n−ドデシルベンゼンスルホン酸、4−n−ペンタデシルベンゼンスルホン酸、4−n−オクタデシルベンゼンスルホン酸をより好ましく挙げることができる。
式(II)で表される化合物のうち、Lが分岐型アルキル基を有する化合物としては、例えば、テイカ(株)製テイカパワーB120、B121、B124、B150、ライオン(株)製ライポンLH−9000等を挙げることができる。
また、式(II)の構造を有する触媒のうち、Lが分岐型アルキル基を有する化合物としては、下記式(II−2)の構造を有する触媒が好ましく挙げられ、式(II−2)で表される化合物のうち、pが3〜5であることがより好ましい。
【0047】
【化8】

(式(II−2)中、pは2〜5の整数を表す。)
【0048】
これらの中でも、式(II)で表される化合物としては、直鎖型アルキル構造を有する3−フルオロ−4−ドデシルベンゼンスルホン酸、3−フルオロ-4−ペンタデシルベンゼンスルホン酸、3−フルオロ−4−オクタデシルベンゼンスルホン酸、3−ニトロ-4-ドデシルベンゼンスルホン酸、3−ニトロ-4-ペンタデシルベンゼンスルホン酸、3−ニトロ-4-オクタデシルベンゼンスルホン酸、4−n−ドデシルベンゼンスルホン酸、4−n−ペンタデシルベンゼンスルホン酸、4−n−オクタデシルベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0049】
【化9】

式(III)中、Mは炭素数8以上の直鎖又は分岐型のアルキル基又はアルケニル基を表す。
【0050】
式(III)中、Mは炭素数8以上の直鎖又は分岐型のアルキル基又はアルケニル基であり、炭素数が8〜20であることが好ましく、8〜18であることがよりに好ましい。
また、Mは直鎖又は分岐型のいずれのアルキル基又はアルケニル基であってもよいが、直鎖又は分岐型のアルキル基であることが好ましく、直鎖アルキル基であることがさらに好ましい。
【0051】
式(III)で表される化合物としては、例えば、1−オクタンスルホン酸、1−ノナンスルホン酸、1−デカンスルホン酸、1−ウンデカンスルホン酸、1−ドデカンスルホン酸、1−トリデカンスルホン酸、1−テトラデカンスルホン酸、1−ペンタデカンスルホン酸、1−ヘキサデカンスルホン酸、1−ヘプタデカンスルホン酸、1−オクタデカンスルホン酸、1−ノナデカンスルホン酸、1−エイコサンスルホン酸等を好ましく挙げることができ、1−ドデカンスルホン酸、1−ペンタデカンスルホン酸、1−オクタデカンスルホン酸をより好ましく挙げることができる。
また、Mが分岐型アルキル基である場合、以下の式(III−2)で表される化合物を例示することができる。式(III−2)で表される化合物のうちqが3〜5であることがより好ましい。
【0052】
【化10】

(式(III−2)中、qは2〜5の整数を表す。)
【0053】
これらの中でも、本発明において、式(II)及び/又は式(III)で表される化合物のうち、式(II)で表される化合物を含有することが好ましい。
【0054】
式(II)又は式(III)において、L又はMが炭素数8未満の直鎖又は分岐型のアルキル基又はアルケニル基であると、アルキル基又はアルケニル基に基づく疎水性が十分に得られず、式(II)及び式(III)で表される化合物の界面活性能が低下する結果、十分な生分解性や土壌での分散性を得ることができない。また、式(II)及び/又は式(III)で表される化合物を重縮合触媒として使用した場合には、高い触媒能を発揮することができず、所望の分子量の生分解性ポリエステル樹脂を、低環境負荷で製造することが困難となる。
特に、重縮合触媒として使用する場合には、疎水性部分が重縮合性単量体との相溶性を高め、ブレンステッド型触媒として低温で活性を有すると考えられる。また、上述した式(IV)及び式(V)で表される重縮合性単量体の重縮合触媒として使用した場合には、特に優れた触媒能を発揮することができる。
【0055】
式(II)及び式(III)で表される化合物は、スルホ基を有する。スルホ基は親水性基であり、また、特に重縮合触媒として式(II)及び/又は式(III)で表される化合物を使用する場合には、スルホ基は触媒能が高く、重合速度の向上や、ポリエステル分子量の上昇、重縮合温度の低温化に有効であり、高分子量のポリエステル樹脂を低環境負荷で製造することができる。
一方、土壌中における生分解性ポリエステル樹脂の分解においては、式(II)及び/又は式(III)で表される化合物が、ポリエステル表面で土壌中に親水性基であるスルホ基を向けて配向し、その結果土壌中の水分をポリエステル表面側に保持することができるため、分解性が向上すると予測される。
【0056】
式(II)で表される化合物及び式(III)で表される化合物の含有量は、その合計が、生分解性ポリエステル樹脂の全量に対して、0.03重量%以上10重量%以下であることが好ましく、0.05重量%以上7重量%以下であることがより好ましい。
なお、式(II)及び/又は式(III)で表される化合物の存在は、蛍光X線、質量分析、及び液体クロマトグラフィ分析により同定することができ、その含有量は蛍光X線、及び、液体クロマトグラフィにより測定でき、例えば、『界面活性剤分析法』(界面活性剤分析研究会編)に詳しい。
【0057】
本発明においては、後述するように、式(II)で表される化合物及び/又は式(III)で表される化合物を、重縮合触媒として用いることが好ましく、この場合には、全重縮合性単量体の合計に対して、0.01mol%〜5mol%を添加して、重縮合反応を行うことが好ましく、より好ましくは0.05〜2mol%であり、さらに好ましくは0.05〜1mol%である。この範囲の場合、ポリエステル樹脂の分解などを生じることなく重縮合が適切に進展し、さらに、十分な生分解性も付与することができるので好ましい。
【0058】
〔式(II)で表される化合物及び式(III)で表される化合物の製造方法〕
式(II)及び式(III)で表される化合物は、特に制限はなく公知の方法を用いて製造しても、市販品をもちいてもよく、前記製造方法としては、例えば、アルカンやアルキルベンゼンを硫酸化する、又はアルキルベンゼンスルホン酸金属塩の金属部を水素で置換することで作製できる。硫酸化の方法としては、発煙硫酸や無水硫酸ガス等を用いて水素を置換する方法などを挙げることができ、金属塩の置換としては、溶媒中にアルキルベンゼンスルホン酸金属塩を溶解させた溶液に、硫酸を添加して反応させる方法などを挙げられる。
【0059】
<重量平均分子量>
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、重量平均分子量が30,000以上5,000,000以下である。重量平均分子量が30,000未満であると、十分な強度を得ることができない。また、5,000,000を超えると、生分解性が低下する。
上記範囲内の重量平均分子量を有すると、脂肪族ポリエステルの物理的、機械的性能が、フィルム、成型品、静電荷現像トナー用結着樹脂などとして使用する場合に好適である。
重量平均分子量は30,000〜3,000,000であることが好ましく、より好ましくは30,000〜2,000,000であり、さらに好ましくは30,000〜1,000,000である。
【0060】
<融点>
本発明のポリエステル樹脂の融点は50℃以上であることが好ましい。50℃〜120℃であることがより好ましく、60℃〜110℃であることがさらに好ましく、70℃〜100℃であることが特に好ましい。
融点が50℃以上であると、ポリエステル樹脂の機械強度が高まり、フィルム、成型品、静電荷像現像トナー用結着樹脂として好適に使用することができるので好ましい。
なお、本発明において、ポリエステル樹脂の融点は、示差走査熱量計により測定した値である。
【0061】
<触媒由来の金属含有量>
本発明において、生分解性ポリエステル樹脂は、触媒由来の金属成分の含有量が少ないことが好ましく、0ppm以上10ppm以下であることがより好ましく、0ppm以上7.5ppm以下であることがさらに好ましく、0ppm以上5ppm以下であることが特に好ましく、0ppmであることが最も好ましい。
触媒由来の金属成分の含有量を上記範囲内とすることにより、触媒金属による環境負荷を低減することができ、また、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を静電荷像現像トナー用結着樹脂として使用した場合に、金属成分に由来する帯電不良を生じることなく、帯電特性の良好なトナーを得ることができるので好ましい。
【0062】
(生分解性ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明の生分解性ポリエステル樹脂の製造方法は特に限定されないが、以下の方法により製造することが好ましい。
すなわち、上記式(IV)で表されるジカルボン酸成分及び式(V)で表されるジオール成分を重縮合触媒の存在下に重縮合する工程を含み、前記重縮合触媒が上記式(II)及び/又は上記式(III)で表される化合物であることを特徴とする生分解性ポリエステル樹脂の製造方法である。
【0063】
上記式(II)及び/又は上記式(III)で表される化合物を重縮合触媒として使用することにより、特に低温での反応性を向上させることができる。低温での反応は、副生成物の抑制や、着色の抑制、温和な反応条件に起因する分子量分布の均一性などの利点がある。
一般的な重縮合触媒やエステル化触媒は高温のみで使用可能な触媒であるものが多いため、併用する場合には高温での反応が必要となり、上記の利点が損なわれる。よって、式(II)及び/又は式(III)で表される化合物を単独もしくは、ブレンステッド酸化合物及び/又は汎用重縮合触媒と併用することも可能である。このとき、汎用重縮合触媒に含まれる金属の含有量が樹脂中に0〜10ppmとなる極少量の汎用重縮合触媒と併用することが好ましい。
【0064】
<併用する重縮合触媒>
本発明において、上記式(II)及び/又は式(III)で表される重縮合触媒と併用して使用できる他の重縮合触媒について述べる。
式(II)及び/又は式(III)で表される化合物以外に、例えば、金属触媒や加水分解酵素等の一般的に使用される重縮合触媒を併用することもできる。
金属触媒としては以下のものを挙げることができるが、これに限定されるものではない。例えば、有機スズ化合物、無機スズ化合物、有機チタン化合物、有機ハロゲン化スズ化合物、希土類金属触媒を挙げられる。
有機スズ化合物、無機スズ化合物、有機チタン化合物、及び、有機ハロゲン化スズ化合物としては、重縮合触媒として公知のものを用いることができる。
希土類含有触媒としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド元素としてランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)などを含むものが有効であり、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、又はトリフラート構造を有するものなどが有効である。
希土類含有触媒としては、スカンジウムトリフラート、イットリウムトリフラート、及び、ランタノイドトリフラートなどのトリフラート構造を有するものが好ましい。ランタノイドトリフラートについては、有機合成化学協会誌、第53巻第5号、p44−54)に詳述されている。前記トリフラートとしては、構造式では、X(OSO2CF33が例示できる。ここでXは、希土類元素であり、これらの中でも、前記Xがスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)などであることがさらに好ましい。
【0065】
触媒として金属触媒を使用する場合には、上述の通り、得られる樹脂中の触媒由来の金属含有量を10ppm以下とすることが好ましく、7.5ppm以下とすることがより好ましく、5ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0066】
併用することができる加水分解酵素としては、エステル合成反応を触媒するものであれば特に制限はない。加水分解酵素としては、例えば、カルボキシエステラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、アセチルエステラーゼ、ペクチンエステラーゼ、コレステロールエステラーゼ、タンナーゼ、モノアシルグリセロールリパーゼ、ラクトナーゼ、リポプロテインリパーゼ等のEC(酵素番号)3.1群(丸尾・田宮監修「酵素ハンドブック」朝倉書店(1982)等参照)に分類されるエステラーゼ、グルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、グルクロニダーゼ、キシロシダーゼ等のグリコシル化合物に作用するEC3.2群に分類される加水分解酵素、エポキシドヒドラーゼ等のEC3.3群に分類される加水分解酵素、アミノペプチダーゼ、キモトリプシン、トリプシン、プラスミン、ズブチリシン等のペプチド結合に作用するEC3.4群に分類される加水分解酵素、フロレチンヒドラーゼ等のEC3.7群に分類される加水分解酵素等を挙げることができる。
【0067】
これらエステラーゼのうち、グリセロールエステルを加水分解し脂肪酸を遊離する酵素を特にリパーゼと呼ぶが、リパーゼは有機溶媒中での安定性が高く、収率良くエステル合成反応を触媒し、さらに安価に入手できることなどの利点がある。したがって、本発明のポリエステルの製造方法においても、収率やコストの面からリパーゼを用いることが好ましい。
【0068】
リパーゼには種々の起源のものを使用できるが、好ましいものとして、シュードモナス(Pseudomonas)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、アクロモバクター(Achromobacter)属、カンジダ(Candida)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、リゾプス(Rhizopus)属、ムコール(Mucor)属等の微生物から得られるリパーゼ、植物種子から得られるリパーゼ、動物組織から得られるリパーゼ、さらに、パンクレアチン、ステアプシン等を挙げることができる。このうち、シュードモナス属、カンジダ属、アスペルギルス属の微生物由来のリパーゼを用いることが好ましい。
【0069】
塩基性触媒としては、一般の有機塩基化合物、含窒素塩基性化合物、テトラブチルホスホニウムヒドロキシドなどのテトラアルキル又はアリールホスホニウムヒドロキシドを挙げることができるがこれに限定されない。
有機塩基化合物としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等のアンモニウムヒドロキシド類、含窒素塩基性化合物としては、トリエチルアミン、ジベンジルメチルアミン等のアミン類、ピリジン、メチルピリジン、メトキシピリジン、キノリン、イミダゾールなど、さらにナトリウム、カリウム、リチウム、セシウム等のアルカリ金属類及びカルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属類の水酸化物、ハイドライド、アミドや、アルカリ、アルカリ土類金属と酸との塩、例えば炭酸塩、燐酸塩、ほう酸塩、カルボン酸塩、フェノール性水酸基との塩を挙げることができる。
また、アルコール性水酸基との化合物やアセチルアセトンとのキレート化合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
本発明の重縮合工程における重縮合反応は、バルク重合、乳化重合、懸濁重合等の水中重合、溶液重合、界面重合等一般の重縮合法で実施することが可能である。また大気圧下で反応が可能であるが、ポリエステル分子量の高分子量化等を目的とした場合、減圧、窒素気流下等の一般的な条件を広く用いることができる。
【0071】
<バルク重合>
前記重縮合性単量体及び重縮合触媒を、減圧下で加熱しながら撹拌を行うことで重縮合反応を進行させることができる。
加熱温度は70℃〜180℃であることが好ましく、70℃〜170℃であることがより好ましく、90℃〜160℃であることがさらに好ましい。本発明において、前記式(II)及び/又は式(III)で表される化合物は、重縮合触媒としての反応性が高く、従来使用されてきた金属触媒と比較して、より低温で重縮合反応を進行させることができる。加熱温度が70℃以上であると、重縮合性単量体の溶解性、触媒活性の低下に基づく反応性の低下、分子量の伸長抑制が生じないので好ましい。また、180℃以下であると、低エネルギーで製造することができるので好ましい。
また、加熱温度が上記範囲内であると、十分に重縮合反応が進行すると共に、低環境負荷にて重合反応を行うことができるので好ましい。
重合時間は所望の重量平均分子量が得られる範囲で、反応温度等に応じて適宜選択することができるが、0.5〜72時間であることが好ましく、より好ましくは1〜48時間であり、さらに好ましくは2〜36時間である。
反応時間が上記範囲内であると、所望の重量平均分子量と分子量分布を得るための制御がしやすいので好ましい。
【0072】
<水系媒体>
本発明の重縮合工程における重縮合反応は、水系媒体中で行ってもよい。
本発明に用いることのできる水系媒体としては、例えば、蒸留水、イオン交換水等の水や、エタノール、メタノール等のアルコール類などが挙げられる。これらの中でも、エタノールや水であることが好ましく、蒸留水及びイオン交換水等の水が特に好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、水系媒体には、水混和性の有機溶媒を含んでいてもよい。水混和性の有機溶媒としては、例えば、アセトンや酢酸等が挙げられる。
【0073】
<有機溶剤>
本発明の重縮合工程における重縮合反応では、有機溶剤を用いて行ってもよい。
本発明に用いることができる有機溶剤の具体例としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン等の炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、ジクロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、p−クロロトルエン等のハロゲン系溶媒、3−ヘキサノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等のケトン系溶媒、ジブチルエーテル、アニソール、フェネトール、o−ジメトキシベンゼン、p−ジメトキシベンゼン、3−メトキシトルエン、ジベンジルエーテル、ベンジルフェニルエーテル、メトキシナフタレン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、フェニルスルフィド、チオアニソール等のチオエーテル溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、安息香酸メチル、フタル酸メチル、フタル酸エチル、酢酸セロソルブ等のエステル系溶媒、ジフェニルエーテル、又は、4−メチルフェニルエーテル、3−メチルフェニルエーテル、3−フェノキシトルエン等のアルキル置換ジフェニルエーテル、又は、4−ブロモフェニルエーテル、4−クロロフェニルエーテル、4−ブロモジフェニルエーテル、4−メチル−4’−ブロモジフェニルエーテル等のハロゲン置換ジフェニルエーテル、又は、4−メトキシジフェニルエーテル、4−メトキシフェニルエーテル、3−メトキシフェニルエーテル、4−メチル−4’−メトキシジフェニルエーテル等のアルコキシ置換ジフェニルエーテル、又は、ジベンゾフラン、キサンテン等の環状ジフェニルエーテル等のジフェニルエーテル系溶媒が挙げられ、これらは、混合して用いてもよい。そして、溶媒として容易に水と分液分離できるものが好ましく、特に平均分子量の高いポリエステルを得るためにはエステル系溶媒、エーテル系溶媒及びジフェニルエーテル系溶媒がより好ましく、アルキル−アリールエーテル系溶媒及びエステル系溶媒が特に好ましい。
【0074】
さらにまた、本発明において、平均分子量の高い結着樹脂を得るため、有機溶剤に脱水、脱モノマー剤を加えてもよい。脱水、脱モノマー剤の具体例としては、例えば、モレキュラーシーブ3A、モレキュラーシーブ4A、モレキュラーシーブ5A、モレキュラーシーブ13X等のモレキュラーシーブ類、アルミナ、シリカゲル、塩化カルシム、硫酸カルシウム、五酸化二リン、濃硫酸、過塩素酸マグネシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、あるいは水素化カルシウム、水素化ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム等の金属水素化物、又は、ナトリウム等のアルカリ金属等が挙げられる。中でも、取扱い及び再生の容易さからモレキュラーシーブ類が好ましい。
【0075】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、その特性を損なわない限り、上述した以外の重縮合性単量体(モノマー)とともに重縮合することも可能である。例えば、一価カルボン酸、一価アルコールや、不飽和結合を有するラジカル重合性モノマーなどである。こうした単官能モノマーはポリエステル末端をキャッピングするため、効果的な末端変性を可能としポリエステルの性状を制御する事が可能である。単官能モノマーは重合初期から用いてもよく、また重合途中に添加してもよい。
【0076】
本発明においては、重縮合工程として、既述単量体と予め作製しておいたプレポリマーとの重合反応とを含むこともできる。プレポリマーは、上記単量体に溶融又は均一混合できるポリマーであれば限定されない。
さらに本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、上述したジカルボン酸成分及びジオール成分それぞれ1種を使用した単独重合体、上述した単量体を含む単量体を2種以上組み合せた共重合体、又はそれらの混合物、グラフト重合体、一部枝分かれや架橋構造などを有していてもよい。
【0077】
本発明において、「生分解性ポリエステル樹脂」とは、微生物等によって分解されるポリエステル樹脂であることを意味する。生分解性を有しているかは、JIS K 6950、JIS K 6951、JIS K 6953、JIS K 6955、ISO14855−2、OECD 301C等に記載の方法により評価することができる。
【0078】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、各種の目的に使用することができ、特に限定されない。具体的には、フィルム、成型品、トナー用結着樹脂等が例示でき、これらの中でも、本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、静電荷像現像トナー用結着樹脂として特に好適に使用することができる。
以下、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を、静電荷像現像トナー用結着樹脂として使用する場合について詳述する。
【0079】
(静電荷像現像トナー用結着樹脂)
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、静電荷像現像トナー用結着樹脂として好適に使用することができる。
静電荷像現像トナー用結着樹脂(以下、単に結着樹脂ともいう。)として使用する場合、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を、結着樹脂全体の5重量%含有することが好ましい。5重量%以上80重量%以下含有することがより好ましく、15重量%以上70重量%以下含有することがさらに好ましく、25重量%以上70重量%以下含有することが特に好ましい。
生分解性ポリエステル樹脂の含有量が上記範囲内であると、トナーとしての生分解性を付与することができ、トナーとしての特性も保持できるので好ましい。
【0080】
また、本発明の生分解性ポリエステル樹脂と併用する他の結着樹脂としては、従来公知の結着樹脂の中から適宜選択して使用することができる。
併用する樹脂は特に限定されないが、ポリエステル樹脂であることが好ましく、より好ましくは線状のポリエステル樹脂である。併用する結着樹脂がポリエステル樹脂であると、結着樹脂全体としての生分解性が得られるので好ましい。
【0081】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂は、混練粉砕法等の機械的製法、又は該生分解性ポリエステル樹脂を使用して樹脂粒子分散液を製造し、樹脂粒子分散液からトナーを製造する、いわゆる化学製法によりトナーを製造することができる。
【0082】
(静電荷像現像トナー)
本発明において、静電荷像現像トナーは、公知の方法により製造することができ、具体的には、混練粉砕法等により製造することができ、また、化学的製法(いわゆる、凝集合一法、ポリエステル伸長法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法、溶解懸濁法等)により製造することもできる。
これらのいずれの方法により静電荷像現像トナーを製造してもよく、本発明において、静電荷像現像トナー用結着樹脂として、上記本発明の生分解性ポリエステル樹脂を含有するものである。
以下、混練粉砕法により製造される静電荷像現像トナー(静電荷像現像粉砕トナー)及び凝集合一法により製造される静電荷像現像トナーについて、それぞれ説明する。
【0083】
<混練粉砕法>
本発明において、静電荷像現像トナーは、少なくとも結着樹脂を含む粉砕トナーであって、前記結着樹脂が、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を含むものとすることができる。
【0084】
上記の粉砕トナーは、公知の方法により製造することができ、例えば、混練粉砕法等により製造することができる。
混練粉砕法により粉砕トナーを製造する場合は、上記の生分解性ポリエステル樹脂を、予め他のトナー原材料と、溶融混練前に、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等で撹拌混合することが好ましい。このとき、撹拌機容量、撹拌機の回転速度、撹拌時間等を組み合わせて選択しなければならない。
次いで、結着樹脂と他のトナー原材料との撹拌物は、公知の方法により溶融状態での混練を行う。一軸又は多軸押出し機による混練が、分散性が向上するため好ましい。このとき混練装置のニーディングスクリュウゾーン数、シリンダー温度、混練速度等を全て適切な値に設定し、制御する必要がある。混練時の各制御因子のうち、混練状態に特に大きな影響を与えるのは、混練機の回転数と、ニーディングスクリュウゾーン数、シリンダー温度である。一般に、回転数は300〜1,000rpmが望ましく、ニーディングスクリュウゾーン数は1段よりも2段スクリュウ等多段ゾーンを用いたほうがよりよく混練される。シリンダー設定温度は、例えば、結着樹脂の主成分が、結晶性ポリエステル樹脂である場合、結晶性ポリエステル樹脂の融点より決定し、通常融点温度よりも―50〜+100℃程度が好ましい。上記範囲であると、充分な混練分散が得られ、凝集が起こりにくく、混練シェアが掛かり、充分な分散及び混練後の冷却が容易にできるため好ましい。
溶融混練された混練物は十分に冷却した後、ボールミル、サンドミル、ハンマーミル等の機械的粉砕方法、気流式粉砕方法等の公知の方法で粉砕する。常法での冷却が充分できない場合は、冷却又は凍結粉砕法も選択できる。
【0085】
トナーの粒度分布を制御する目的で、粉砕後のトナーを分級することもある。分級により、不適切な径の粒子を排除することにより、トナーの定着性や画像品質を向上する効果がある。
【0086】
<凝集合一法>
一方、近年の高画質要求に伴い、トナーの小径化、低エネルギー製法対応技術として、トナーの化学的製法も多く採用されている。本発明の生分解性ポリエステル樹脂を用いるトナーの化学製法としては、汎用の製法を用いることができるが、凝集合一法が好ましい。凝集合一法とは、水系媒体中に結着樹脂を分散させたラテックスを作製し、他のトナー原材料とともに凝集(会合)させる既知の凝集法である。
本発明において、静電荷像現像トナー(単に「トナー」ともいう。)を化学的製造にて製造する場合には、該製造方法は、少なくとも樹脂粒子分散液を含む分散液中で該樹脂粒子を凝集して凝集粒子を得る工程(以下、「凝集工程」ともいう。)、及び、該凝集粒子を加熱して融合させる工程(以下、「融合工程」ともいう。)を含む静電荷像現像トナーの製造方法であって、前記樹脂粒子分散液が本発明の生分解性ポリエステル樹脂を含むものであることが好ましい。
なお、「静電荷像現像トナー」及び「トナー」は、化学的製法により製造されたトナーだけである場合のみではなく、前述した粉砕トナーを含む場合もあるものとする。
上記の混練粉砕法により得られたトナー(以下、「粉砕トナー」ともいう。)及び化学的製法により製造されたトナーは、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を結着樹脂として含むことにより、生分解性、定着時のホットオフセット性及びコールドオフセット性に優れる。また、化学的製法により製造されたトナーは、粒子分布も優れるため好ましい。
【0087】
〔静電荷像現像トナー用樹脂粒子分散液〕
本発明において、静電荷像現像トナー用樹脂粒子分散液(以下、単に「樹脂粒子分散液」ともいう。)は、少なくとも本発明の生分解性ポリエステル樹脂を含む樹脂粒子が分散媒に分散している樹脂粒子分散液である。
【0088】
−水系媒体−
本発明において、前記樹脂粒子分散液の分散媒は、水系媒体であることが好ましい。
本発明に用いることのできる水系媒体としては、例えば、蒸留水、イオン交換水等の水や、エタノール、メタノール等のアルコール類などが挙げられる。これらの中でも、エタノールや水であることが好ましく、蒸留水及びイオン交換水等の水が特に好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、水系媒体には、水混和性の有機溶媒を含んでいてもよい。水混和性の有機溶媒としては、例えば、アセトンや酢酸等が挙げられる。
【0089】
本発明において、樹脂粒子分散液のメジアン径(中心径)は0.05μm以上2.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上1.5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上1.0μm以下である。このメジアン径が上記範囲となることで、上述のように水系媒体中における樹脂粒子の分散状態が安定するため好ましい。また、トナー作製に用いた場合、粒径の制御が容易であり、また、定着時の剥離性やオフセット性に優れるため好ましい。
なお、樹脂粒子のメジアン径は、例えば、レーザー回析式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、LA−920)で測定することができる。
【0090】
樹脂粒子分散液は、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を用い、公知の方法により製造することができる。
例えば、水系媒体中に前記生分解性ポリエステル樹脂含有物を分散し、樹脂粒子分散液を得る分散工程を含む方法等が挙げられる。
前記分散工程では、分散効率の上昇や樹脂粒子分散液の安定性向上のため、界面活性剤等を添加し、分散を行うことが好ましい。
本発明の生分解性ポリエステル樹脂を水系媒体中に分散、粒子化する方法としては、例えば、生分解性ポリエステル樹脂の製造を行う際に、水系媒体中で懸濁重合法、溶解懸濁法、ミニエマルジョン法、マイクロエマルジョン法、多段膨潤法やシード重合を含む乳化重合法などの方法が挙げられる。
また、水系媒体中で乳化重縮合を行う場合、好ましい乳化温度は、省エネルギー性、ポリマーの生成速度及び生成したポリマーの熱分解速度を考慮して、低いほうが望ましいが、好ましくは40〜150℃であり、より好ましくは60〜130℃である。乳化温度が150℃以下であると、必要とするエネルギーが過大とならず、高熱により樹脂の分解に起因する分子量の低下が起こらないため好ましい。また、40℃以上であると樹脂粘度が適度であり微粒子化が容易であるため好ましい。
【0091】
また、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を水系媒体中に分散、粒子化する方法としては、例えば、強制乳化法、自己乳化法、転相乳化法など、既知の方法からも選択することができる。これらのうち、乳化に要するエネルギー、得られる乳化物の粒径制御性、安定性等を考慮すると、自己乳化法、転相乳化法が好ましく適用される。
自己乳化法、転相乳化法に関しては、「超微粒子ポリマーの応用技術(シーエムシー出版)」に記載されている。自己乳化に用いる極性基としては、カルボキシル基、スルホン基等を用いることができるが、本発明の生分解性ポリエステル樹脂に適用する場合、カルボキシル基が好ましく用いられる。
【0092】
前記分散工程において有機溶剤を用いた場合、樹脂粒子分散液の製造方法として、少なくとも有機溶剤の一部を除去する工程、及び、樹脂粒子を形成する工程を含んでいてもよい。
例えば、本発明の生分解性ポリエステル樹脂含有物を乳化後、有機溶剤の一部を除去することにより粒子として固形化するのが好ましい。固形化の具体的方法としては、本発明の生分解性ポリエステル樹脂含有物を水系媒体中に乳化分散した後、溶液を撹拌しながら空気、あるいは窒素等の不活性ガスを送り込みながら、気液界面での有機溶剤の乾燥を行う方法(廃風乾燥法)、又は、減圧下に保持し必要に応じて不活性ガスをバブリングしながら乾燥を行う方法(減圧トッピング法)、さらには、本発明の生分解性ポリエステル樹脂含有物を水系媒体中に乳化分散した乳化分散液若しくは本発明の生分解性ポリエステル樹脂含有物の乳化液を細孔からシャワー状に放出し例えば皿状の受けに落としこれを繰り返しながら乾燥させる方法(シャワー式脱溶剤法)などがある。使用する有機溶剤の蒸発速度、水への溶解度などからこれら方式を適時選択、あるいは組み合わせて脱溶剤を行うのが好ましい。
【0093】
上記のように作製した樹脂粒子分散液、所謂ラテックスを使用し、凝集(会合)法を用いてトナー粒子径及び分布を制御したトナーを製造する事が可能である。詳細には、上記のように作製したラテックスを、着色剤粒子分散液及び離型剤粒子分散液と混合し、さらに凝集剤を添加しヘテロ凝集を生じさせることによりトナー径の凝集粒子を形成し、その後、樹脂粒子のガラス転移点以上又は融点以上の温度に加熱して前記凝集粒子を融合・合一し、洗浄、乾燥することにより得られる。この製法は加熱温度条件を選択することでトナー形状を不定形から球状まで制御できる。
【0094】
本発明において、前記凝集工程においては、本発明の生分解性ポリエステル樹脂の分散液以外の樹脂粒子分散液と混合し、凝集以降の工程を実施することも可能である。その際、本発明の生分解性ポリエステル樹脂粒子分散液を予め凝集し第一の凝集粒子形成後、さらに本発明の生分解性ポリエステル樹脂粒子分散液又は別の樹脂粒子分散液を添加し第一の粒子表面に第二のシェル層を形成する等、粒子を多層化することも可能である。また、当然前記の一例と逆の順序で多層粒子を作製することも可能である。
また、例えば、凝集工程において、本発明の生分解性ポリエステル樹脂を含む樹脂粒子分散液、着色剤粒子分散液を予め凝集し、第一の凝集粒子形成後、さらに本発明の生分解性ポリエステル樹脂を含む樹脂粒子分散液又は別の樹脂粒子分散液を添加して第一の粒子表面に第二のシェル層を形成する事も可能である。この例示においては着色剤分散液を別に調製しているが、当然、樹脂粒子に予め着色剤が配合されてもよい。
【0095】
凝集粒子の融合・合一工程を終了した後、任意の洗浄工程、固液分離工程、乾燥工程を経て所望のトナー粒子を得るが、洗浄工程は帯電性を考慮すると、イオン交換水で十分に置換洗浄することが望ましい。また、固液分離工程には特に制限はないが、生産性の点から吸引濾過、加圧濾過等が好適である。さらに、乾燥工程も特に制限はないが、生産性の点から凍結乾燥、フラッシュジェット乾燥、流動乾燥、振動型流動乾燥等が好ましく用いられる。
【0096】
凝集剤としては、界面活性剤のほか、無機塩、2価以上の金属塩を好適に用いることができる。特に、金属塩を用いる場合、凝集性制御及びトナー帯電性などの特性において好ましい。凝集に用いる金属塩化合物としては、一般の無機金属化合物又はその重合体を樹脂微粒子分散液中に溶解して得られるが、無機金属塩を構成する金属元素は周期律表(長周期律表)における2A、3A、4A、5A、6A、7A、8、1B、2B、3B族に属する2価以上の電荷を有するものであり、樹脂微粒子の凝集系においてイオンの形で溶解するものであればよい。好ましい無機金属塩を具体的に挙げると、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウムなどの金属塩、及び、ポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム、多硫化カルシム等の無機金属塩重合体などである。その中でも特に、アルミニウム塩及びその重合体が好適である。一般的に、よりシャープな粒度分布を得るためには、無機金属塩の価数が1価より2価、2価より3価以上で、同じ価数であっても重合タイプの無機金属塩重合体の方がより適している。
【0097】
本発明においては、必要に応じて、本発明の結果に影響を与えない範囲で公知の添加剤を、1種又は複数を組み合わせて配合することができる。例えば、難燃剤、難燃助剤、光沢剤、防水剤、撥水剤、無機充填剤(表面改質剤)、離型剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤、分散剤、滑剤、充填剤、体質顔料、結着剤、帯電制御剤等である。これらの添加物は、静電荷像現像トナーを製造するいずれの工程においても配合することができる。
【0098】
内添剤の例としては、帯電制御剤として4級アンモニウム塩化合物、ニグロシン系化合物など通常使用される種々の帯電制御剤を使用することができるが、製造時の安定性と廃水汚染減少の点から水に溶解しにくい材料が好適である。
【0099】
離型剤の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等の低分子量ポリオレフィン類、加熱により軟化点を有するシリコーン類、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等のような脂肪酸アミド類やエステルワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等のような植物系ワックス、ミツロウのような動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等のような鉱物、石油系ワックス、及びそれらの変性物が使用できる。
これらのワックス類は、水中にイオン性界面活性剤や高分子酸や高分子塩基などの高分子電解質とともに分散し、融点以上に加熱するとともに強い剪断をかけられるホモジナイザーや圧力吐出型分散機により微粒子化し、1ミクロン以下の粒子の分散液を作成することができる。
【0100】
難燃剤、難燃助剤としては、すでに汎用されている臭素系難燃剤や、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ポリリン酸アンモニウムを例示できるがこれに限定されるものではない。
【0101】
着色成分としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、ベンガラ、紺青、酸化チタン等の無機顔料、ファストイエロー、ジスアゾイエロー、ピラゾロンレッド、キレートレッド、ブリリアントカーミン、パラブラウン等のアゾ顔料、銅フタロシアニン、無金属フタロシアニン等のフタロシアニン顔料、フラバントロンイエロー、ジブロモアントロンオレンジ、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、ジオキサジンバイオレット等の縮合多環系顔料があげられる。クロムイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、スレンイエロー、キノリンイエロー、パーマネントオレンジGTR、ピラロゾンオレンジ、バルカンオレンジ、ウオッチヤングレッド、パーマネントレッド、デュポンオイルレッド、リソールレッド、ローダミンBレーキ、レーキレッドC、ローズベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、カルコオイルブルー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、マラカイトグリーンオクサレート、C.I.ピグメント・レッド48:1、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド57:1、C.I.ピグメント・イエロー12、C.I.ピグメント・イエロー97、C.I.ピグメント・イエロー17、C.I.ピグメント・ブルー15:1、C.I.ピグメント・ブルー15:3などの種々の顔料などが挙げられ、これらは1種又は2種以上を併せて使用することができる。
【0102】
また、通常のトナーと同様に乾燥後、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウムなどの無機粒子やビニル系樹脂、ポリエステル、シリコーンなどの樹脂粒子を乾燥状態で剪断をかけて表面へ添加して流動性助剤やクリーニング助剤として用いることもできる。
【0103】
本発明に用いることができる界面活性剤の例としては、硫酸エステル塩系、スルホン酸塩系、リン酸エステル系、せっけん系等のアニオン界面活性剤、アミン塩型、4級アンモニウム塩型等のカチオン系界面活性剤、またポリエチレングリコール系、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物系、多価アルコール系等の非イオン性界面活性剤を併用することも効果的であり、分散のため手段としては、回転せん断型ホモジナイザーやメデイアを有するボールミル、サンドミル、ダイノミルなどの一般的なものが使用可能である。
【0104】
本発明において、静電荷像現像トナーは平均体積粒子径(D50)が3.0〜20.0μmであることが好ましい。さらに好ましくは、平均体積粒子径が3.0〜9.0μmである。D50が3.0μm以上であると、付着力が適度であり、現像性に優れるため好ましい。また、20.0μm以下であると、画像の解像性に優れるため好ましい。平均体積粒子径(D50)はレーザー回折式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0105】
また、本発明において、静電荷像現像トナーは、平均体積粒子分布GSDvが1.4以下であることが好ましい。特に化学製法トナーの場合、GSDvが1.3以下であることがさらに好ましい。粒子分布は、累積分布のD16、D84を用いて以下のような平均体積粒子分布GSD又は数GSDを簡易的に用いることができる。
体積GSDv=(体積D84/体積D160.5
GSDvが1.4以下であると、粒子径が均一であり、定着性に優れ、定着不良に起因する装置故障が起こりにくく、また、トナーの飛散による機内汚染や現像剤の劣化なども起こりにくいため好ましい。平均体積粒子分布GSDはレーザー回折式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0106】
同様に、本発明のトナーが化学製法で製造される場合、形状係数SF1は、画像形成性の点から、好ましくは100〜140、さらに好適には110〜135である。このときSF1は以下のように計算される。
【0107】
【数1】

ここでML:粒子の絶対最大長、A:粒子の投影面積
これらは、主に顕微鏡画像又は走査電子顕微鏡画像をルーゼックス画像解析装置によって取り込み、解析することによって数値化される。
【0108】
(静電荷像現像剤)
本発明において、静電荷像現像トナーは、静電荷像現像剤として使用することができる。この現像剤は、この静電荷像現像トナーを含有することのほかは特に制限はなく、目的に応じて適宜の成分組成をとることができる。静電荷像現像トナーを、単独で用いると一成分系の静電荷像現像剤として調製され、また、キャリアと組み合わせて用いると二成分系の静電荷像現像剤として調製される。
一成分系現像剤として、現像スリーブ又は帯電部材と摩擦帯電して、帯電トナーを形成して、静電潜像に応じて現像する方法も適用できる。
キャリアとしては、特に限定されないが、通常、鉄粉、フェライト、酸化鉄粉、ニッケル等の磁性体粒子;磁性体粒子を芯材としてその表面をスチレン系樹脂、ビニル系樹脂、エチレン系樹脂、ロジン系樹脂、ポリエステル系樹脂、メラミン系樹脂などの樹脂やステアリン酸等のワックスで被覆し、樹脂被覆層を形成させてなる樹脂被覆キャリア;結着樹脂中に磁性体粒子を分散させてなる磁性体分散型キャリア等が挙げられる。中でも、樹脂被覆キャリアは、トナーの帯電性やキャリア全体の抵抗を樹脂被覆層の構成により制御可能となるため特に好ましい。
二成分系の静電荷像現像剤における本発明のトナーとキャリアとの混合割合は、通常、キャリア100重量部に対して、トナー2〜10重量部である。また、現像剤の調製方法は、特に限定されないが、例えば、Vブレンダー等で混合する方法等が挙げられる。
【0109】
(画像形成方法及び画像形成装置)
また、本発明の静電荷像現像トナー及び静電荷像現像剤は、通常の静電荷像現像方式(電子写真方式)の画像形成方法に使用することができる。
本発明に好適に使用できる画像形成方法は、潜像保持体表面に静電潜像を形成する潜像形成工程と、前記潜像保持体表面に形成された静電潜像をトナーを含む現像剤により現像してトナー像を形成する現像工程と、前記潜像保持体表面に形成されたトナー像を被転写体表面に転写する転写工程と、前記被転写体表面に転写されたトナー像を熱定着する定着工程とを含み、前記トナーとして本発明の生分解性ポリエステル樹脂を結着樹脂として含有するの静電荷像現像トナー、又は、前記現像剤として前記静電荷像現像トナー及びキャリアを含む静電荷像現像剤を用いることを特徴とする。
また、本発明において好適に使用できる画像形成装置は、潜像保持体と、前記潜像保持体を帯電させる帯電手段と、帯電した前記潜像保持体を露光して該潜像保持体上に静電潜像を形成させる露光手段と、トナーを含む現像剤により前記静電潜像を現像してトナー像を形成させる現像手段と、前記トナー像を前記潜像保持体から被転写体に転写する転写手段とを有し、前記トナーとして本発明の生分解性ポリエステル樹脂を結着樹脂として含む静電荷像現像トナー、又は、前記現像剤として前記静電荷像現像トナー及びキャリアを含む静電荷像現像剤を用いることを特徴とする。
上記の各工程は、いずれも画像形成方法において公知の工程が利用でき、例えば、特開昭56−40868号公報、特開昭49−91231号公報等に記載されている。
また、本発明の画像形成方法は、上記した工程以外の工程を含むものであってもよく、例えば、静電潜像担持体上に残留する静電荷像現像剤を除去するクリーニング工程等が好ましく挙げられる。本発明の画像形成方法においては、さらにリサイクル工程をも含む態様が好ましい。前記リサイクル工程は、前記クリーニング工程において回収した静電荷像現像トナーを現像剤層に移す工程である。このリサイクル工程を含む態様の画像形成方法は、トナーリサイクルシステムタイプのコピー機、ファクシミリ機等の画像形成装置を用いて実施することができる。また、クリーニング工程を省略し、現像と同時にトナーを回収する態様のリサイクルシステムにも適用することができる。
【0110】
前記潜像保持体としては、例えば、電子写真感光体及び誘電記録体等が使用できる。
電子写真感光体の場合、該電子写真感光体の表面を、コロトロン帯電器、接触帯電器等により一様に帯電した後、露光し、静電潜像を形成する(潜像形成工程)。次いで、表面に現像剤層を形成させた現像ロールと接触若しくは近接させて、静電潜像にトナーの粒子を付着させ、電子写真感光体上にトナー像を形成する(現像工程)。形成されたトナー像は、コロトロン帯電器等を利用して紙等の被転写体表面に転写される(転写工程)。さらに、被転写体表面に転写されたトナー像は、定着機により熱定着され(定着工程)、最終的なトナー像が形成される。
なお、前記定着機による熱定着の際には、オフセット等を防止するため、通常、前記定着機における定着部材に離型剤が供給される。
【実施例】
【0111】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
なお、実施例中において「部」及び「%」は、特に断りのない限り「重量部」及び「重量%」を意味する。
【0112】
(触媒)
実施例において、以下の触媒を使用した。
(1)オクタデシルベンゼンスルホン酸
購入品を使用した(テイカ(株)製)。
(2)ドデカンスルホン酸(テイカ(株)製)
購入品を使用した(テイカ(株)製)。
(3)3−フルオロ−4−ドデシルベンゼンスルホン酸(合成)
2−フルオロフェノールとブロモオクタデカンを反応させエーテル化を行い、その後スルホン化を行った。HPLC純度では99.5%の化合物が得られ、NMRでその構造を確認した。
(4)3−フルオロ−4−オクタデシルオキシベンゼンスルホン酸(合成)
オクタデシルベンゼンとフルオロリン酸カリウムとを反応させてベンゼン環上にフッ素原子を導入し、その後発煙硫酸によりスルホン化した。
(5)硫酸(試薬購入)
(6)ドデシルベンゼンスルホン酸Na(試薬購入)
【0113】
(実施例1)
コハク酸 56重量部
1,4−ブタンジオール 45重量部
オクタデシルベンゼンスルホン酸 0.2mol%
以上の成分をマグネオ技研社製マグネオシールミキサーに投入し、減圧下、140℃で重縮合を行った。8時間後の物性を測定すると、分子量Mw65,000、融点89℃であった。
なお、前記オクチルベンゼンスルホン酸の添加量は、重合性単量体(コハク酸及び1,4−ブタンジオール)の総モル数に対する添加量である(以下、同様。)。
【0114】
(実施例2)
アジピン酸 73重量部
1,4−ブタンジオール 45重量部
ドデカンスルホン酸 0.2mol%
以上の成分をマグネオ技研社製マグネオシールミキサーに投入し、減圧下、130℃で重縮合を行った。8時間後の物性を測定すると、分子量Mw58,000、融点58℃であった。
【0115】
(実施例3)
蓚酸 45重量部
1,6−ヘキサンジオール 59重量部
3−フルオロ−4−ドデシルベンゼンスルホン酸 0.2mol%
以上の成分をマグネオ技研社製マグネオシールミキサーに投入し、減圧下、140℃で重縮合を行った。10時間後の物性を測定すると、分子量Mw87,000、融点71℃であった。
【0116】
(実施例4)
コハク酸 56重量部
1,4−ブタンジオール 45重量部
3−フルオロ−4−オクタデシルベンゼンスルホン酸 0.2mol%
以上の成分をマグネオ技研社製マグネオシールミキサーに投入し、減圧下、140℃で重縮合を行った。7時間後の物性を測定すると、分子量Mw85,000、融点89℃であった。
【0117】
(実施例5)
コハク酸 17重量部
テトラデカンジ酸 51重量部
1,4−ブタンジオール 45重量部
オクタデシルベンゼンスルホン酸 0.2mol%
以上の成分をマグネオ技研社製マグネオシールミキサーに投入し、減圧下、120℃で重縮合を行った。15時間後の物性を測定すると、分子量Mw41,000、融点86℃であった。
【0118】
(比較例1)
コハク酸 56重量部
1,4−ブタンジオール 45重量部
オクタデシルベンゼンスルホン酸 0.2mol%
以上の成分をマグネオ技研社製マグネオシールミキサーに投入し、減圧下、140℃で重縮合を行った。2時間後の物性を測定すると、分子量Mw18,000、融点46℃であった。
【0119】
(比較例2)
デカンジカルボン酸 115重量部
1,6−ヘキサンジオール 59重量部
オクチルベンゼンスルホン酸 0.2mol%
以上の成分をマグネオ技研社製マグネオシールミキサーに投入し、減圧下、140℃で重縮合を行った。7時間後の物性を測定すると、分子量Mw39,000、融点59℃であった。
【0120】
(比較例3)
コハク酸 56重量部
1,4−ブタンジオール 45重量部
硫酸 0.2mol%
以上の成分をマグネオ技研社製マグネオシールミキサーに投入し、減圧下、140℃で重縮合を行った。8時間後の物性を測定すると、分子量Mw26,000、融点80℃であった。
【0121】
(比較例4)
コハク酸 56重量部
1,4−ブタンジオール 45重量部
ドデシルベンゼンスルホン酸Na 0.2mol%
以上の成分をマグネオ技研社製マグネオシールミキサーに投入し、減圧下、140℃で重縮合を行った。8時間後の物性を測定すると、分子量Mw11,000、融点59℃であった。
【0122】
(比較例5)
コハク酸 56重量部
1,4−ブタンジオール 45重量部
ジブチルスズオキサイド 0.2mol%
以上の成分をマグネオ技研社製マグネオシールミキサーに投入し、減圧下、140℃で重縮合を行った。8時間後の物性を測定すると、分子量Mw10,000、融点59℃であった。
【0123】
上記の樹脂を用いて各樹脂の融点より15℃高い温度でプレート(厚み3mm)を作製し、生分解性と以下の物性評価を行った。
(生分解性試験)
生分解性は、上記フィルムを10cm四方に切り取り、土壌中の水分率が50%以上を保持できる、比較的湿度の高い(日当たりの悪い)土壌中に埋めた(地表から15cm)。また比較的日当たりがよく、湿度の低い土壌中(地表から7cm)にも同様に試験片を埋めて、6ヶ月、12ヶ月の2回目視評価した。
<評価>
○:プレート形状が大部分消失。
△:プレート形状が半分近く消失。
×:プレート形状がほぼそのまま残っている。
【0124】
(物性評価)
<ひっかき強度試験>
表面試験機(HEIDON Type14DR:新東科学(株)製)を用いて荷重50gで針先径0.2mmの針で5箇所を引っかき、それぞれのフィルムへの影響を目視にて観察した。
〔評価〕
○:表面に傷がつく。
△:フィルムにわずかなひっかき跡ができる。
×:フィルムに明確なひっかき跡ができる。
【0125】
<熱融着(ブロッキング)試験>
50℃の恒温槽に2枚のフィルムを重ねて静置し、上から250gの重りを置いた状態で、30分放置した。その際のフィルムの熱融着性を評価した。
〔評価〕
○:フィルムのブロッキングは認められない。
△:2枚のフィルムにわずかな接着性がある。
×:2枚のフィルムが接着しており分離しない、又は分離にしにくい。
【0126】
結果を以下の表1に示す。
【0127】
【表1】

【0128】
<線状ポリエステルの作製(テレフタル酸/ビスフェノールA・エチレンオキシド付加物/シクロヘキサンジメタノールから得られた線状ポリエステルの作製)>
加熱乾燥した三口フラスコに、テレフタル酸ジメチル50mol%、及びビスフェノールA・エチレンオキサイド付加物35mol%、シクロヘキサンジメタノール15mol%と、触媒としてオクタデシルベンゼンスルホン酸を0.3mol%を入れた後、減圧操作により容器内の空気を減圧し、さらに窒素ガスにより不活性雰囲気下とし、機械撹拌にて180℃で6時間加熱を行った。その後、減圧し、GPCにて分子量を確認し、重量平均分子量15,000になったところで、減圧を停止、空冷し、非晶性ポリエステル樹脂1を得た。この樹脂のTgは61℃であった。
【0129】
(トナーの作製−1)
線状ポリエステル樹脂 76部
(テレフタル酸/ビスフェノールA・エチレンオキシド付加物/シクロヘキサンジメタノールから得られた線状ポリエステル)
シアン顔料 4部
(大日精化工業(株)製、銅フタロシアニンC.I.Pigment Blue15:3)
樹脂1(実施例1) 20部
上記混合物をエクストルーダー(TEM48、東芝機械(株)製)で混練した。得られた混練物を冷却し、ハンマーミルで破砕した後、ジェットミルで粉砕した。その後、風力分級機で分級して平均体積粒子径7.5μm、平均体積粒子分布GSDv1.29、のトナー粒子を得た。
【0130】
(トナーの作製−2)
凝集合一法によって電子写真用トナーを製造した。
〔樹脂分散液の調製〕
線状ポリエステル樹脂と実施例1の樹脂をそれぞれについて溶剤乳化法を用いて、樹脂粒子分散液1及び樹脂粒子分散液2を調製した。
即ち、それぞれの樹脂50部を酢酸エチル33部に溶解させた後、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部を含む蒸留水280部中に入れユーロテック社製乳化機キャビトロンCD1010を高温高圧型に改造した分散機を用いて分散乳化した後、減圧にて酢酸エチルを留去して、粒子の固形分濃度が20%の分散液とした。
得られた樹脂粒子分散液1中の樹脂1からなる粒子の体積平均粒径は180nmであった。
また、得られた樹脂粒子分散液2中の実施例1樹脂からなる粒子の体積平均粒径は130nmであった。
【0131】
〔着色剤分散液の調製〕
ここでは、シアン着色剤が分散した着剤分散液を作製した。即ち、シアン顔料(大日精化工業(株)製銅フタロシアニンC.I.Pigment Blue15:3)20部、陰イオン性界面活性剤(ネオゲンRK、第一工業製薬(株)製)3部、イオン交換水77部を混合して溶解し、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックス)により分散させ、体積平均粒径168nmの着色剤粒子が分散した着色剤分散液を得た。
【0132】
〔離型剤分散液の調製〕
パラフィンワックスHNP−9(日本精鑞(株)製)20部、陰イオン性界面活性剤(ネオゲンRK、第一工業製薬(株)製)3部、及びイオン交換水77部を混合し、120℃に加熱して、圧力吐出型ゴーリンホモジナイザーで分散処理し、体積平均粒径170nmの20重量%の離型剤分散液を得た。
【0133】
[実施例6:トナー1の製造]
樹脂粒子分散液1 380部
樹脂粒子分散液2 100部
着色剤粒子分散液 50部
離型剤粒子分散液 90部
イオン交換水 540部
以上を丸型ステンレス製フラスコに投入し、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて常温下で混合して、混合分散液を得た。さらに混合しながらドデシルジメチルベンジルアンモニウム塩化物塩(サニゾールB50:花王(株)製)1.5部を徐々に加え十分に混合した。これを温度制御可能な加熱装置にセットし、内温を45℃まで昇温しそのままその温度を維持して凝集粒子を成長させた。分散液を採取し粒径を測定したところ、体積平均粒径にて5.4μmであった。
続いて、この凝集粒子が形成された混合分散液に、樹脂粒子分散液1を280部、徐々に添加して、樹脂粒子を凝集粒子表面に付着させて、体積平均粒径6.1μmの凝集粒子を得た。ここに20%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(ネオゲンRK:第一工業製薬(株)製)を添加した後、内温を90℃まで昇温してそのまま3時間保持して凝集粒子を融合・合一させた。続いて、室温まで冷却してトナー粒子を含有する分散液を得た。この分散液を吸引ろ過により固液分離した後、イオン交換水で充分洗浄を行い、真空乾燥してトナー1を得た。
【0134】
このトナー粒子にシリカTS720(キャボット製)0.5重量%をヘンシェルミキサーで添加混合し、外添トナーを作製した。
また、50ミクロンのフェライトコアにポリメチルメタクリレート(綜研化学(株)製)を1重量%コートしたキャリアを作製した。
この外添トナーとキャリアを混合し、現像剤を作製した。
【0135】
上記のように製造した現像剤を用いて、被画像形成媒体としてフルカラー用コピー用紙を使用し、画像面積率100%の10cm2の面積のベタ画像を被画像形成媒体上に作成した。その際の画像の欠損、ムラを目視にて判断した。結果を以下の表2に示す。
<評価>
○:画像に欠損、ムラは認められない。
△:わずかな画像欠損、ムラが認められる。
×:明白な画像欠陥が認められる。
【0136】
[実施例7〜10及び比較例6〜10]
また、樹脂を実施例1で作製した樹脂を実施例2〜実施例5及び比較例1〜比較例5で作製した樹脂に変えた以外は、同様にして混練トナー及び凝集合一トナー、並びに、各現像剤を作製し、評価を行った。
【0137】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるモノマー単位をポリエステル樹脂全体の50重量%以上含有し、
式(II)及び/又は式(III)で表される化合物を含有し、
重量平均分子量が30,000以上5,000,000以下であることを特徴とする
生分解性ポリエステル樹脂。
【化1】

式(I)中、Aは単結合又は2価の脂肪族炭化水素基を表し、Bは炭素数2以上の2価の脂肪族炭化水素基を表し、A及びBの炭素数の合計は、2以上14以下である。
【化2】

式(II)中、R1は、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基、カルバモイル基、一置換若しくは二置換カルバモイル基、シアノ基、パーハロゲノアルキル基、チオシアナト基、スルファモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ニトロ基又はアルキニル基を表し、l個のR1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。lは0〜4の整数を表す。Lは炭素数8以上の直鎖又は分岐型のアルキル基又はアルケニル基を表す。
【化3】

式(III)中、Mは炭素数8以上の直鎖又は分岐型のアルキル基又はアルケニル基を表す。
【請求項2】
触媒由来の金属成分を0ppm以上10ppm以下含有する、請求項1に記載の生分解性ポリエステル樹脂。
【請求項3】
融点が50℃以上である、請求項1又は2に記載の生分解性ポリエステル樹脂。
【請求項4】
式(IV)で表されるジカルボン酸成分及び式(V)で表されるジオール成分を重縮合触媒の存在下に重縮合する工程を含み、
前記重縮合触媒が上記式(II)及び/又は上記式(III)で表される化合物であることを特徴とする、
請求項1〜3いずれか1つに記載の生分解性ポリエステル樹脂の製造方法。
【化4】

式(IV)中、R5は、水素原子、低級アルキル基、又は、アリール基を表し、Aは単結合又は脂肪族炭化水素基を表す。式(V)中、Bは炭素数2以上の脂肪族炭化水素基を表す。A及びBの炭素数の合計は、2以上14以下である。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか1つに記載の生分解性ポリエステル樹脂を5重量%以上80重量%以下含有することを特徴とする、静電荷像現像トナー用結着樹脂。
【請求項6】
請求項5に記載の静電荷像現像トナー用結着樹脂を含有することを特徴とする、静電荷像現像トナー。
【請求項7】
請求項6に記載の静電荷像現像トナー及びキャリアを含むことを特徴とする、静電荷像現像剤。
【請求項8】
潜像保持体表面に静電潜像を形成する潜像形成工程と、
前記潜像保持体表面に形成された静電潜像をトナーを含む現像剤により現像してトナー像を形成する現像工程と、
前記潜像保持体表面に形成されたトナー像を被転写体表面に転写する転写工程と、
前記被転写体表面に転写されたトナー像を熱定着する定着工程とを含み、
前記トナーとして請求項6に記載の静電荷像現像トナー、又は、前記現像剤として請求項7に記載の静電荷像現像剤を用いることを特徴とする
画像形成方法。
【請求項9】
潜像保持体と、
前記潜像保持体を帯電させる帯電手段と、
帯電した前記潜像保持体を露光して該潜像保持体上に静電潜像を形成させる露光手段と、
トナーを含む現像剤により前記静電潜像を現像してトナー像を形成させる現像手段と、
前記トナー像を前記潜像保持体から被転写体に転写する転写手段とを有し、
前記トナーとして請求項6に記載の静電荷像現像トナー、又は、前記現像剤として請求項7に記載の静電荷像現像剤を用いる
画像形成装置。

【公開番号】特開2009−203251(P2009−203251A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43779(P2008−43779)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】