説明

画像処理装置及び擬似立体画像生成装置

【課題】従来、屋外かつ遠距離においてパッシブ(受動的)な方法で被写体の表面の法線を抽出し視点変換などの擬似立体化する技術が存在しなかった。
【解決手段】カラー偏光画像取得部201、全天偏光マップ取得部202、天候判定部203、晴天時法線取得部204、曇天時法線取得部207、擬似立体化部208を有する構成により、屋外で天空の偏光状態を考慮して偏光情報を取得し2次元画像の被写体表面の面法線情報を推定して表面の法線画像を生成する。それを用いて被写体の領域分割を行い、3次元情報を抽出し視点変換画像を生成して擬似的な3次元の立体画像を生成する装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像処理装置および擬似立体画像生成装置に関する。特に、屋外などで撮影された通常の2次元の静止画または動画などの、奥行き情報が与えられていない画像(2次元画像)から、3次元形状を推定し、擬似的な立体画像を作成する擬似立体動画像生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2次元の静止画像に対して、任意視点変換を行うことによって擬似立体視による鑑賞を可能にするためには、通常の立体を表す奥行き情報を各種の方法で取得する必要がある。このためには、例えば特殊なレンジファインダや光源を動かすなどのいわゆるアクティブなセンシング系を用いればよいが、このような構成は一般の民生カメラに搭載しづらい。
【0003】
そこで、撮影されたシーン画像からいろいろな仮定を使って立体構造を推定し、画像の合成や仮想的な視点移動を実現しようというアプローチが検討されている。このアプローチによれば、一般シーンから立体構造推定に必要な情報を確実に復元することは不可能であるが、ある程度の成功率で擬似立体化が実現されている。
【0004】
特許文献1が開示する方法では、無限遠まで続く道路のような典型的な奥行きシーンを対象として、基本となる3種類のシーン構造モデルを合成することにより、2次元の写真画像に奥行きモデルを付与し、擬似立体化合成を行っている。
【0005】
非特許文献1が開示する方法では、より汎用的な撮影シーンを対象とし、同様に1枚のカラー画像を入力として、その画素のカラー情報、画像微小領域でのテクスチャ情報、画像上での配置情報、被写体となる建物等の人工物の表面の平行線エッジからの消失点推定などを実施する。それらの情報から、シーンに移された空、地面、地面に垂直な壁などの面、草木などの凹凸面などの領域を識別する。そして、検出された地面と建物の面の法線情報から簡単な3次元立体化を行い、あたかも「飛び出す絵本」のように写真を立体化して任意視点からの画像を合成する。上記の推定は、典型的なシーン画像の学習により高精
度に実施できるとしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術によれば、立体情報は画像から抽出されるものというよりは、基本パターンから選択されるものであり、その結果、対象となるシーンが限定される。このため、汎用性に欠け、実用性に乏しいといわざるをえない。一方、非特許文献1の技術では、画像からの情報抽出を実施しているが、以下に示す課題がある。
1)地表に対して傾斜した面の法線は、正しく推定できない。
2)長方形以外の側面では法線を正しく推定できない。
3)空や地面に近い色情報を有する面は、誤判定する。
【0007】
これらの課題は、すべて、2次元画像から表面の法線を直接的には推定できないことに起因している。2次元画像からの面法線情報取得には、従来レーザレンジファインダを使うものや、ステレオ撮影を使って距離から求める技術等が知られている。しかし、屋外でかつ遠距離にある巨大な建物などを対象とした場合には、両方とも実用的とはいえない。
【0008】
このような遠距離においてもパッシブ(受動的)な方法で面の法線を抽出する技術として、偏光情報を使うものがある。特許文献2の技術は、被写体の周囲360度を完全拡散照明で照明して、その画像の偏光情報を取得できるカメラにて撮影することにより被写体の形状を取得するものである。被写体の屈折率を既知とすれば、通常は測定が困難な透明物体などの形状を取得できる。
【0009】
特許文献2の技術では、被写体が鏡面反射(Specular Reflection)物体であり、フレ
ネルの法則に従って反射光が偏光することと、被写体を完全に包含する面照明を当てて被写体の全面に鏡面反射を発生させることがポイントである。そして、レンジファインダあるいはステレオ計測のような距離を測定してそこから法線を推定する形状推定ではなく、距離を求めず直接的に表面の法線を求める点に特長がある。
【0010】
日中の屋外環境は、被写体までの距離は極めて遠いが、空からの全周照明が存在し、しかも晴天であれば多くの被写体は鏡面反射を呈することが知られているため、本技術の状況と極めて類似している。
【0011】
なお、2次元画像から擬似的な立体画像を形成する技術が非特許文献1に開示されている。また、空の偏光については非特許文献2や非特許文献3に報告があり、偏光イメージング装置の従来例が特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−186510号公報
【特許文献2】特開平11−211433号公報
【特許文献3】特開2007−86720号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】“Automatic photo pop−up”, Derek Hoiem et.al,ACM SIGGRPAH 2005
【非特許文献2】“Polarization Analysis of the Skylight Caused by Rayleigh Scattering and Sun Orientation Estimation using Fisheye−Lens Camera”、 Daisuke Miyazaki et al、 電子情報通信学会パターン認識・メディア理解研究会、 Vol.108、 No.198、 pp.25−32、 2008
【非特許文献3】The Journal of Experimental Biology 204、 2933−2942(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献2の技術を屋外で適用する場合、以下の課題があった。
【0015】
鏡面反射光の偏光情報から表面法線を推定する場合、照射する照明は全周照明であるだけではなく、非偏光(ランダム偏光)であることが必要である。このため特許文献2では、被写体を完全拡散球にて完全に覆い、その外部から照明を当てるという非常に特殊な装置を用いている。
【0016】
一方、屋外環境の照明は、晴天の場合には太陽の直接光(平行光)と青空の面照明からなる。太陽光は非偏光であるが、青空は偏光している。このため、撮影に際して被写体が太陽の直接光を受けることを避ける通常のケースでは、青空からの偏光した全周照明を受けて鏡面反射していることになり、この場合、従来の技術が使えなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の画像処理装置は、複数の画素の偏光情報を有する偏光画像を取得する偏光画像取得部と、前記偏光画像が有する偏光情報に基づいて、屋外に位置する被写体の表面の法線を推定する被写体法線推定部と、全天における位置と前記位置における偏光情報との関係を示す全天偏光マップを取得する全天偏光マップ取得部とを備え、前記被写体法線推定部は、前記全天偏光マップを用いて前記偏光情報から前記被写体の表面における鏡面反射光の偏光状態を求めることにより、前記被写体の表面の法線を推定する。
【0018】
本発明の他の画像処理装置は、複数の画素の輝度情報を有する輝度画像および前記複数の画素の偏光情報を有する偏光画像を取得する画像取得部と、天候の状態を、曇天状態および晴天状態のいずれか一方であると判定する天候判定部と、前記偏光情報から屋外に位置する被写体の表面における鏡面反射光の偏光状態を求め、前記天候判定部によって決定された天候の状態に応じて異なる方法により、前記被写体の表面の法線を推定する被写体法線推定部とを備える。
【0019】
好ましい実施形態において、前記画像取得部は、前記輝度画像を異なる複数の色について取得する。
【0020】
好ましい実施形態において、前記天候判定部は、空の偏光度、または基準レベル以上の偏光度を有する領域の面積に基づいて天候の状態を決定する。
【0021】
好ましい実施形態において、前記天候判定部は、天候の状態を、空の偏光度が所定の基準レベルよりも低い曇天状態および前記偏光度が前記基準レベル以上の晴天状態のいずれか一方であると判定する。
【0022】
好ましい実施形態において、前記天候判定部は、空の一部に雲が存在する部分的晴天を晴天状態と判定する。
【0023】
好ましい実施形態において、前記天候判定部は、天候の状態を示す情報を外部から取得して天候の状態を決定する。
【0024】
好ましい実施形態において、全天における位置と前記位置における偏光状態との関係を示す全天偏光マップを取得する全天偏光マップ取得部を備え、前記天候判定部が天気の状
態を晴天状態と判定した場合は、前記全天偏光マップに用いて前記被写体の表面の法線を推定する。
【0025】
好ましい実施形態において、鏡面反射偏光に基づく法線推定を実行する曇天時法線推定部と、幾何学に基づく法線推定および鏡面反射偏光に基づく法線推定を実行する晴天時法線推定部とを備え、前記晴天時法線推定部は、幾何学に基づく法線推定を行うとき、前記全天偏光マップが示す全天における位置と前記位置における偏光状態との関係を利用する。
【0026】
好ましい実施形態において、前記全天偏光マップ取得部は、広角のレンズを用いて全天の偏光画像を取得する。
【0027】
好ましい実施形態において、前記全天偏光マップ取得部は、前記全天偏光マップのデータを外部から取得する。
【0028】
好ましい実施形態において、晴天時に前記画像から空領域を分離する晴天時空領域分離部と、曇天時に前記画像から空領域を分離する曇天時空領域分離部とを備え、前記天候判定部の出力に基づいて、晴天時空領域分離部および曇天時空領域分離部の動作または出力を選択的に切り替える。
【0029】
好ましい実施形態において、前記画像取得部は、カラーモザイクフィルタを有する単板カラー撮像素子の同一複数色画素内に異なる角度の透過偏波面を有する複数偏光子を隣接配置したカラー偏光同時取得部と、前記取得した同一色ごとの複数の偏光子からの観測輝度を正弦関数に近似し、得られた近似パラメータをカラー間で平均化することにより統合された偏光情報を得る偏光情報処理部と、前記取得した複数の観測輝度から輝度の平均化によって平均カラー輝度を生成するカラー情報処理部とを有し、(i)カラー画像、(ii)前記偏光情報に基づく偏光度画像および偏光位相画像を出力する。
【0030】
好ましい実施形態において、(i)光源の入射角が所定値よりも小さい場合には幾何学に基づく法線推定を採用し、(ii)光源の偏光度が所定値よりも小さい場合には鏡面反射偏光に基づく法線推定を採用する。
【0031】
好ましい実施形態において、天候の状態が曇天と判定された場合、鏡面反射光の偏光位相と偏光度から法線を推定し、推定される法線のベクトルが視線ベクトルの周りに複数存在する場合、前記視線ベクトルを含む水平面よりも上向きのベクトルを持つ法線を選択し、推定される法線のベクトルが前記視線ベクトルと入射光線とを含む入射面内に複数存在する場合は、ブリュースター角より小さい入射角のベクトルを持つ法線を選択する。
【0032】
本発明の擬似立体画像生成装置は、上記いずれかの画像処理装置によって推定された被写体の表面の法線に基づいて、前記表面法線に垂直な面を抽出する面抽出部と、前記面抽出部によって抽出された面に基づいて、視点変換を施すことにより別の視点でのシーン画像を生成する擬似立体化部とを有する。
【0033】
好ましい実施形態において、前記擬似立体化部は、前記面抽出部によって抽出された面の頂点の世界座標を推定する。
【0034】
本発明の画像処理方法は、屋外シーンの偏光画像を取得するステップと、全天偏光マップを取得するステップと、天候の状態を判定するステップとを含み、前記偏光画像から屋外の被写体の表面における鏡面反射光の偏光状態を検出して、天候の状態に応じて異なる方法により、前記被写体の表面の法線を推定するステップとを含む。
【0035】
好ましい実施形態において、天候の状態が晴天と判定された場合、幾何学に基づく法線と鏡面反射偏光に基づく法線の2種類を用いて法線推定を実施する。
【0036】
好ましい実施形態において、光源の入射角が小さい場合には幾何学に基づく法線推定の信頼度を増加し、光源の偏光度が小さい場合には鏡面反射偏光に基づく法線推定の信頼度を増加し、最終的に信頼度の高い法線を採用する。
【0037】
好ましい実施形態において、天候の状態が曇天と判定された場合、鏡面反射光の偏光位相と偏光度から法線を推定し、推定される法線のベクトルが視線ベクトルの周りに複数存在する場合、前記視線ベクトルを含む水平面よりも上向きのベクトルを持つ法線を選択し、推定される法線のベクトルが前記視線ベクトルと入射光線とを含む入射面内に複数損座視する場合は、ブリュースター角より小さい入射角のベクトルを持つ法線を選択する。
【0038】
本発明の擬似立体画像生成方法は、屋外シーンの偏光画像を取得するステップと、前記偏光画像が有する偏光情報に基づいて屋外に位置する被写体の表面の法線を推定するステップと、推定された被写体の表面の法線に基づいて、前記表面法線に垂直な面を抽出するステップと、視点変換を施すことにより別の視点でのシーン画像を生成するステップとを含む。
【0039】
好ましい実施形態において、抽出された面の頂点の世界座標を推定するステップを含む。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、例えば、屋外でカメラから遠い位置にある巨大な建物の3次元形状を推定する場合など、従来のレンジファインダやステレオ視が無力となる場合でも天空の偏光情報を用いて被写体の表面法線を推定して3次元形状を推定できる。また、空、地面、壁面、屋根などの識別処理を行うことができる画像処理方法および装置を提供できる。さらに、本発明の画像処理を用いることにより、擬似的な立体化を実現できる擬似立体化装置を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1A】屋外に位置する被写体の鏡面反射を説明する図である。
【図1B】屋外に位置する被写体の鏡面反射を説明する他の図である。
【図1C】本発明にかかる画像処理装置の一実施形態の外観を示す図である。
【図2】本発明にかかる画像処理装置のブロック図である。
【図3】(A)は、本発明の実施形態におけるカラー偏光画像取得部の構成を示すブロック図であり、(B)は、全天偏光マップ取得部の構成を示す図である。
【図4】(A)は、カラー偏光同時取得部の構成を示す斜視図であり、(B)は、その撮像面の一部を光軸方向の真上から見た図であり、(C)は、図(B)の一部の拡大図である
【図5】(A)から(C)は、それぞれ、B、G、R偏光画素の波長特性を模式的に示すグラフである。
【図6】方向が異なる偏光主軸を有する4種類の偏光子を透過した光の輝度を示す図である。
【図7】(A)から(C)は、建物のシーンを撮影した場合のカラー偏光画像取得部で取得される3種類の画像の例を示す図である。
【図8】(A)から(C)は、それぞれ、図7(A)から(C)の画像を説明する模式図である。
【図9】(A)および(B)は、全天偏光マップ取得部で取得される2種類の画像を示す図である。
【図10A】天候判定部の動作の一例を説明するフローチャートである。
【図10B】天候判定部の動作の他の例を説明するフローチャートである。
【図11】晴天空領域分離部を説明するブロック図である。
【図12】(A)から(H)は、偏光と輝度を用いた実際のシーンでの空領域分離結果を示す図(成功例)である。
【図13】(A)から(F)は、偏光と輝度を用いた実際のシーンでの空領域分離結果を示す図(失敗例)である。
【図14】(A)から(D)は、色相と輝度を用いた実際のシーンでの空領域分離結果を示す図(成功例)である。
【図15】曇天空領域分離部の構成を示すブロック図である。
【図16】晴天あるいは曇天の場合の空領域が分離された後のシーン画像を示す模式図である。
【図17】(A)および(B)は、晴天時と曇天時の被写体での鏡面反射現象の偏光現象の違いを説明する図である。
【図18】鏡面反射のフレネル反射率を入射角との関係で示すグラフである。
【図19】晴天時法線推定部を実施するためのフローチャートである。
【図20A】幾何学に基づく法線推定を実施する際の偏光位相を示す図である。
【図20B】被写体レンズで撮影された被写体イメージを示す図である。
【図20C】天空を撮影する広角レンズで撮影された天空イメージを示す図である。
【図21】幾何学に基づく法線を計算する処理を説明する図である。
【図22】幾何学に基づく法線および信頼度の図である。
【図23】鏡面反射偏光に基づく法線推定を実施する際の偏光位相を示す図である。
【図24】入射角αと偏光度ρの関係式を説明するグラフである。
【図25】鏡面反射偏光に基づく法線および信頼度の図である。
【図26】信頼度の評価を行った結果の法線推定結果の図である。
【図27】曇天時の法線推定を実施するためのフローチャートである。
【図28】擬似立体化部の処理の流れを示すフローチャートである。
【図29】世界座標系とカメラ座標系の関係を示す図である。
【図30】視点変換による擬似立体化の効果を示す図である。
【図31】本発明による画像処理装置の他の実施形態を示すブロック図である。
【図32】本発明による画像処理装置の更に他の実施形態を示すブロック図である。
【図33】本発明の第2の実施形態にかかる画像処理装置のブロック図である。
【図34】本発明の第2の実施形態におけるモノクロ偏光画像取得部の構成を示すブロック図である。
【図35】本発明の第2の実施形態における晴天空領域分離部を説明するブロック図である。
【図36】本発明の第2の実施形態における曇天空領域分離部を説明するブロック図である。
【図37】曇天空領域分離部3304の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
屋外において、偏光現象は、ほとんどの場合、鏡面反射(Specular Reflection)によ
ってのみ発生することが知られている。本発明では、屋外に位置する被写体が空からの照明を受けているときに被写体の表面で生じる鏡面反射光の偏光状態を利用して被写体の表面法線を推定する。ただし、晴天の場合と曇天の場合で空の偏光状態が異なるので、好ましい実施形態では、両者を分けて処理を実施する。
【0043】
図1Aは、天空の或る位置103aから、屋外の被写体(例えば「家屋」)1600の
表面における或る位置1600aに入射した光が、鏡面反射により、方向を変えてカメラ
100に入射する様子を模式的に示している。被写体1600の表面における位置1600aの法線Nは、その位置1600aから天空の位置103aに向くベクトルLとカメラ100の視線ベクトルVとを2等分するベクトルである。したがって、図1Aに示すように、光の入射角をθとすると、出射角もθに等しい。
【0044】
図1Bは、天空の他の位置103bから、屋外の被写体1600の表面における他の位置1600bに入射した光が、鏡面反射により、方向を変えてカメラ100に入射する様子を模式的に示している。このように、被写体の表面における位置に応じて法線Nは変化し、カメラに入射した光を発した天空の位置(103a、103b)も変化する。
【0045】
なお、図1Aおよび図1Bに示す例において、法線Nは図面(紙面)に平行であるが、被写体表面の形状や位置によって、法線Nは変化するため、当然に法線Nが図面には平行ではない場合もある。法線Nを求めるためには、図1Aに示す角度θだけではなく、カメラの視線ベクトルVの周りの回転角度ψを決定する必要がある。
【0046】
晴天の場合、空は偏光しているため、特許文献2に記載されている方法、すなわち、被写体の表面で生じる鏡面反射の偏光を利用して被写体の表面法線を推定することができない。しかしながら、晴天時には、被写体の表面で鏡面反射が生じることにより、完全鏡面となる条件では、天空の特定位置における偏光状態が被写体の一部ではそのまま映し出されることになる。例えば、図1Bに示す例では、天空の位置103bにおける空の偏光状態が、被写体1600の表面における位置1600bに映し出されることになる。したがって、別途取得される全天偏光マップ上の偏光情報と偏光画像に現れる偏光情報との対応関係を利用すれば、カメラに入射した光が天空のどの位置から発せられたものかを特定することができる。そして、その位置がわかると、図1A、1Bに示すように、被写体表面の法線Nを幾何学的に決定することができる。
【0047】
ここで晴天であるが部分的には雲がかかっている「部分的晴天」について説明する。本発明の好ましい実施形態においては、このような部分的な晴天状態はすべて「晴天」として取り扱う。このような取り扱いを行う場合、曇天を前提とした鏡面反射偏光に基づく法線の信頼度と、晴天を前提とした幾何学に基づく法線のいずれを採用するかを、信頼度により決定する。
【0048】
全天が均一な雲に覆われた完全曇天の場合、天空を非偏光の照明(半球状の照明)とみなすことができる。このため、完全曇天の場合は、特許文献2に記された方法と同様の方法により、被写体表面の法線を推定することが可能である。
【0049】
本発明によれば、屋外に位置する被写体から取得した偏光情報に基づいて、2次元画像における被写体表面の法線を推定することができる。更に、こうして推定された法線の情報を用いることにより、2次元画像から3次元情報(奥行き情報)を抽出して、擬似的な3次元の立体画像を生成することも可能になる。
【0050】
なお、本発明は、画像処理方法や擬似立体画像生成方法として実現されるだけでなく、処理の各ステップを実行する各種手段を備えた画像生成装置や、各ステップをコンピュータに実行させるプログラム、そのプログラムを格納したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体等として実現することもできる。
【0051】
本発明の画像処理装置は、偏光画像を取得する偏光画像取得部と、偏光画像から得られる前記偏光情報に基づいて、屋外に位置する被写体の表面の法線を推定する被写体法線推定部とを有している。
【0052】
なお、本明細書における「偏光画像」とは、被写体を含む2次元画像における複数の画素の偏光情報を有する画像である。すなわち、偏光画像は、その画像を構成する複数の画素の各々が、その画素の偏光情報を表示することによって構成される画像を意味するものとする。偏光情報は、偏光度および偏光位相(偏光角度)を含む。したがって、「偏光画像」とは、特別に限定しない限り、個々の画素の偏光度を2次元的に表示した「偏光度画像」、および、個々の画素の偏光位相を2次元的に表示した「偏光位相画像」を総称したものである。各画素の偏光度および偏光位相の大きさ(数値)は、その画素における明度または色相によって表現され得る。本願の図面では、明度の高低によって偏光度や偏光位相の大きさを表現している。
【0053】
また、本明細書における「画像」は、必ずしも人間の視覚によって認識されるように画素が2次元的に配列されて表示された状態にある場合に限られない。すなわち、画像を構成する個々の画素に関する輝度、偏光度、偏光位相などの情報(数値)の配列(画像データ)を、「画像」の用語を用いて表現する場合もある。
【0054】
本発明の画像処理装置は、このような偏光画像から得られる偏光情報に基づいて、屋外に位置する被写体の表面法線を推定する被写体法線推定部を備えている。
【0055】
好ましい実施形態において、この画像処理装置は、全天における位置と前記位置における偏光情報との関係を示す全天偏光マップを取得する全天偏光マップ取得部を備え、全天偏光マップに基づいて被写体の表面の法線を推定する。
【0056】
本発明による画像処理装置は、天候の状態を、偏光度が基準レベルよりも低い曇天状態および偏光度が前記基準レベル以上の晴天状態のいずれか一方であると判定する天候判定部を備えていていることが好ましく、屋外に位置する被写体の表面における鏡面反射光の偏光状態を測定し、天候判定部によって決定された天候の状態に応じて異なる方法により、被写体の表面の法線を推定する。
【0057】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0058】
(実施の形態1)
まず、本発明による画像処理装置の第1の実施形態を説明する。
【0059】
本実施形態は、カメラの形態を有する画像処理装置であり、図1Cに示す外観構成を有している。図1Cの画像処理装置(カメラ100)は、被写体の偏光画像およびカラー画像の情報を撮影によって取得する被写体レンズ部101と、カメラ天頂に設置され、天空の偏光画像情報を撮影によって取得する広角レンズ部102と、水準器などの水平指示装置103とを備えている。被写体の撮像は、カメラ100を水平に維持しつつ、水平指示装置103が水平方向を向き、広角レンズ部102が垂直上を向いて行われるものとする。
【0060】
次に、図2を参照して本実施形態の構成を更に詳細に説明する。図2は、本実施形態の画像処理装置における機能ブロック図である。
【0061】
図2の画像処理装置は、カラー偏光画像取得部201および全天偏光マップ取得部202を含む偏光情報取得部200を備えている。
【0062】
カラー偏光画像取得部201は、図1Cのレンズ部101を通して、被写体の偏光度画像ρ、偏光位相画像φ、カラー画像Cの情報を取得する。全天偏光マップ取得部202は、カメラ天頂に設置され、図1Cの広角レンズ部102を通して天空の偏光画像情報を取
得する。ここで、「全天偏光マップ」は、全天における複数の位置(点)における空の偏光情報を示すマップである。
【0063】
本実施形態の画像処理装置は、更に、法線推定部210と擬似立体化部208とを備えており、法線推定部210は、天候判定部203、晴天空領域分離部204、曇天空領域分離部205、晴天時法線部推定部206、および曇天時法線推定部207を含んでいる。
【0064】
本実施形態では、屋外に位置する被写体の表面における鏡面反射光の偏光状態を測定し、天候の状態に応じて異なる方法により、被写体の表面の法線を推定する。天候判定部203は、空の偏光度に基づいて天候の状態を決定する手段であり、シーン撮影時の天候が晴天か曇天かを判定する。具体的には、空の偏光度が基準レベルよりも低い場合に「曇天状態」と判定し、偏光度が基準レベル以上の場合に「晴天状態」と判定する。
【0065】
本実施形態では、屋外に位置する被写体の表面における鏡面反射光の偏光状態を測定し、天候の状態に応じて異なる方法により、被写体の表面の法線を推定する。天候判定部203は、空の偏光度に基づいて天候の状態を決定する手段であり、シーン撮影時の天候が晴天か曇天かを判定する。具体的には、ある例では、空の偏光度が基準レベルよりも低い場合に「曇天状態」と判定し、偏光度が基準レベル以上の場合に「晴天状態」と判定する。他の例では、空の偏光度が基準レベルよりも低い領域が全天の一定面積以上を占める場合に、「曇天状態」と判定し、それ以外の場合に「晴天状態」と判定する。本発明における「曇天状態」は、全天が雲に覆われた完全な曇天状態とみなせる状態である。したがって、「晴天状態」は、空の一部に雲が存在していている状態を含む。
【0066】
晴天空領域分離部204は、ρ、φ、Cを入力として、晴天の場合に空領域と被写体領域を画像内から分離し、空領域を分離した晴天時被写体偏光度画像ρfo、晴天時被写体偏光位相画像φfoを出力する。一方、曇天空領域分離部205は、曇天の場合に空領域と被写体領域を画像内から分離し、同様に空領域を分離した曇天時被写体偏光度画像ρco、曇天時被写体偏光位相画像φcoを生成する。
【0067】
晴天時法線推定部206は、晴天時に全天偏光マップを用いて偏光度画像と偏光位相画像の情報から法線画像Nを推定する。また、曇天時法線推定部207は、曇天の場合に偏光度画像と偏光位相画像の情報から法線画像Nを取得推定する。
【0068】
擬似立体化部208は、得られた晴天、曇天いずれかの法線画像Nを用いてカラー画像Cの擬似立体化を行う。
【0069】
図3(A)は、偏光情報取得部200の内部構成、すなわちカラー偏光画像取得部201及び全天偏光マップ取得部202の構成を示すブロック図である。図に示すように、本実施形態における偏光情報取得部200は、被写体を撮像する被写体レンズ部101、カメラの直上部に上向きに設置した広角レンズ部102、可動式反射板303、稼動機構304、カラー偏光撮像素子(カラー偏光取得部)305、偏光情報処理部306、およびカラー情報処理部307を有する。
【0070】
図3(A)に示す状態では、広角レンズ部102を通過した天空からの光310が可動式反射板303で反射されてカラー偏光撮像素子305に到達する。このため、撮像時には、カラー偏光撮像素子305は全天を撮像することができる。広範な空領域は、例えば魚眼カメラを用いて撮像可能であり、空(全天)の偏光状態を観測することができる。
【0071】
偏光情報処理部306は、カラー偏光撮像素子305の出力に基づいて、空の偏光状態
を示す全天偏光マップを取得する。なお、全天偏光マップを取得する方法の詳細は、非特許文献2に記載されている。非特許文献2では、天頂を向けたデジタルスチルカメラにF3.5焦点距離8mmの魚眼レンズを設置し、その先端に偏光板を設置している。偏光板の偏光透過軸を0度、45度、90度に手動で回転して全天の130度にわたる空の偏光パターンを取得している。本実施の形態も、基本的には同一の処理をしているが、回転する偏光板を使わず偏光撮像素子を使うため、リアルタイムでの偏光マップが取得できる。このため、偏光板が回転している間の雲の移動などに起因するアーティファクトが無い点で優れている。
【0072】
次に、稼動機構304が反射板303を上方(矢印312)に回転移動させると、図3(B)に示すように、被写体レンズ部101からの光311がカラー偏光撮像素子305に入る。こうして、被写体が撮像されると、偏光情報処理部306とカラー情報処理部307とが動作する。被写体の撮像および全空の撮像の順序は、逆でも可能である。
【0073】
以下、カラー偏光画像取得部201の動作として被写体撮像を例にとって処理を説明する。全天偏光マップ取得部202の動作も同様であり、偏光処理に関する部分のみが存在する。
【0074】
屋外において、シーン画像およびシーン偏光画像は、同時に、または短い時間間隔で取得することが好ましい。風による雲の動きなども存在するため、リアルタイム取得が望ましい。偏光画像取得に際して、偏光板を回転させて複数画像を撮影する技術は、屋外利用では非実用的である。そこでリアルタイム偏光カメラが必須となる。
【0075】
モノクロ画像と偏光画像を同時にリアルタイム取得する技術は、特許文献3に開示されている。この技術によれば、輝度画像と被写体の部分偏光の画像とを同時に取得するために、複数の異なる偏光主軸(偏光透過軸)を有するパターン化偏光子を撮像素子に空間的に配置する。パターン化偏光子としては、フォトニック結晶や構造複屈折波長板アレイが利用されている。しかしながら、これらの技術ではカラー画像と偏光画像とがやはり同時に取得できなかった。
【0076】
これに対して、図3(A)の構成では、被写体に対してからリアルタイムにカラー画像を取得すると同時に偏光画像を取得し、2種類の偏光画像(偏光度画像ρ及び偏光位相画像φ)として出力する。
【0077】
入射光は、カラー偏光撮像素子305に入射する。この入射光から、カラー偏光撮像素子305はカラー動画像情報および偏光画像情報の両方をリアルタイムに取得することができる。カラー偏光撮像素子305からは、カラー動画像情報および偏光画像情報を示す信号が出力され、それぞれ、偏光情報処理部306およびカラー情報処理部307に与えられる。偏光情報処理部306およびカラー情報処理部307は、上記信号に対して各種の処理を施し、カラー画像C、偏光度画像ρ、偏光位相画像φを出力する。
【0078】
図4(A)は、カラー偏光撮像素子305の基本的な構成を示す模式図である。図示されている例では、カラーフィルタおよびパターン化偏光子が、撮像素子画素の前面に重ねて設置されている。入射光は、カラーフィルタおよびパターン化偏光子を透過して撮像素子に到達し、撮像素子画素によって輝度が観測される。このように本実施形態によれば、カラーモザイク型の単板カラー撮像素子を用いてカラー画像情報および偏光画像情報の両方を同時に取得することができる。
【0079】
図4(B)は、カラー偏光撮像素子305における撮像面の一部を光軸方向の真上から見た図である。図には、簡単のため、撮像面のうち、16個の画素(4×4)のみが図示
されている。図示されている4つの矩形領域401〜404は、それぞれ、4個の画素セル上に設置されたベイヤ型カラーモザイクフィルタの対応部分を示している。矩形領域404は、B(ブルー)フィルタ領域であり、画素セルB1〜B4をカバーしている。画素セルB1〜B4には、それぞれ異なる偏光主軸を有するB(ブルー)用パターン化偏光子を密着している。ここで、「偏光主軸」とは、偏光子を透過する光の偏波面(透過偏波面)に平行な軸である。本実施形態では、同一色の画素内において異なる角度の透過偏波面を有する偏光子単位(微小偏光板)が隣接して配置されている。より詳細には、透過偏波面の方向が相互に異なる4種類の偏光子単位がR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の各同一色の画素群に配置されている。1つの偏光子単位は、1つの微細な偏光画素に対応している。図では、個々の偏光画素に対して、G1などの符合が与えられている。
【0080】
図4(C)は、B(ブルー)用パターン化偏光子が密着する4つの微細偏光画素に割り当てられる偏光主軸を示している。図4(B)において、各微細偏光画素に記載された直線は、微小偏光板の偏光主軸方向を模式的に示している。図の例では、4つの微細偏光画素が、それぞれ、角度Ψi=0°、45°、90°、135°の偏光主軸を有している。
【0081】
矩形領域402、403の画素には、それぞれ、4個のG(グリーン)用パターン化偏光子が密着し、矩形領域401の画素には、4個のR(レッド)用パターン化偏光子が密着している。図中、参照符号「405」で示される位置は、本撮像系における4画素を一括した仮想的な画素位置を示している。各矩形領域401〜403のパターン化偏光子も図に示すように異なる4つの偏光主軸を有する部分に分割されている。
【0082】
このように本実施形態では、各カラー画素に対して、異なる偏光主軸を有する複数の微細偏光画素が包含される点に特徴を有しており、カラーモザイク配列自体は任意である。以下の説明では、個々の微細偏光画素を「偏光画素」と称することとする。
【0083】
図5(A)から(C)は、それぞれ、B(ブルー)、G(グリーン)、R(レッド)偏光画素の波長特性を模式的に示すグラフである。各グラフの縦軸は透過光の強度、横軸は波長である。B、G、R用の偏光画素は、B、G、Rの各波長帯域においてTM波(Transverse Magnetic Wave)を透過し、TE波(Transverse Electric Wave)を反射(透過せず)する偏光特性を有している。TM波は、磁場成分が入射面に対して横向きの波であり、TE波は、電場成分が入射面に対して横向きの波である。
【0084】
図5(A)には、B(ブルー)偏光画像の偏光特性502、503と、B(ブルー)用カラーフィルタの透過特性501とが示されている。偏光特性502、503は、それぞれ、TM波およびTE波の透過率を示している。
【0085】
図5(B)には、G偏光画像の偏光特性505、506と、G用のカラーフィルタの透過特性504とが示されている。偏光特性505、506は、それぞれ、TM波およびTE波の透過率を示している。
【0086】
図5(C)には、R偏光画像の偏光特性508、509と、R用カラーフィルタの透過特性507とが示されている。偏光特性508、509は、それぞれ、TM波およびTE波の透過率を示している。
【0087】
図5(A)から(C)に示すような特性は、例えば特許文献3に記載されたフォトニック結晶を用いて実現することができる。フォトニック結晶の場合、その表面に形成された溝に平行な電場ベクトル振動面を持つ光がTE波、垂直な磁場ベクトル振動面を持つ光がTM波となる。
【0088】
本実施形態で重要な点は、図5(A)から(C)に示すように、B、G、Rの透過波長帯域の各々において偏光分離特性を示すパターン化偏光子を用いることにある。
【0089】
モノクロ輝度と偏光フィルタとを使用する場合には、偏光分離特性を示す波長域の最適化は不要であったが、カラーの画素ごとに偏光情報を取得する場合は、カラーの分離特性と偏光の分離特性と整合させる必要がある。
【0090】
本明細書では、偏光画素における偏光主軸の方位を表示する4つの数字「1、2、3、4」と、カラーを区別するため3つの符号「R、G、B」の組合せ(例えば「R1」や「G1」など)を用いて、偏光画素の特性を示すこととする。偏光画素R1および偏光画素G1は、数字が同じであるため、偏光主軸の方向は一致しているが、RGB符合が異なるため、透過する光の波長帯域が異なる偏光画素に相当している。本実施形態では、このような偏光画素の配列を、図4(A)に示すカラーフィルタおよびパターン化偏光子の組合せによって実現している。
【0091】
次に図6を用いて図3の偏光情報処理部306の処理を説明する。図6は、方向が異なる偏光主軸(Ψi=0°、45°、90°、135°)を有する4種類の偏光子を透過した光の輝度601〜604を示している。ここで、偏光主軸の回転角ψがψiの時における観測輝度をIiとする。ただし、「i」は、1以上N以下の整数、「N」はサンプル数とする、図6に示す例では、N=4であるため、i=1、2、3、4となる。図6には、4画素のサンプル(ψi,Ii)に対応する輝度601〜604が示されている。
【0092】
偏光主軸の角度Ψiと輝度601〜604との関係は、正弦関数カーブによって表現される。図6では、輝度601〜604の4点が1本の正弦関数カーブ上に位置するように記載されているが、より多くの観測輝度に基づいて正弦関数カーブを決定した場合、観測輝度の一部が正弦関数カーブ上から僅かに外れる場合もあり得る。
【0093】
なお、本明細書における「偏光情報」とは、輝度の偏光主軸角度に対する依存性を示す正弦関数カーブにおける振幅変調度および位相情報を意味するものとする。
【0094】
実際の処理では、図4(A)に示す同一カラー領域401〜404ごとに内部の4個の画素輝度値をサンプルとして、パターン化偏光子の主軸角ψに対する反射光輝度Iを以下のように近似する。
【数1】


ここで図6に示すようにA、B、Cは定数であり、それぞれ、偏光輝度の変動カーブの振幅、位相、平均値を表現している。(式1)は、以下のように展開できる。
【数2】


ただし、AおよびBは、それぞれ、以下の(式3)および(式4)で示される。
【数3】


【数4】

【0095】
以下の(式5)を最小にするA、B、Cを求めれば、輝度Iと偏光主軸角Ψとの関係を(式1)の正弦関数によって近似できる。
【数5】

【0096】
以上の処理で1つのカラーについて正弦関数近似のA、B、Cの3パラメータが確定する。こうして、偏光度ρを示す偏光度画像と偏光位相φを示す偏光位相画像が求められる。偏光度ρは、該当画素の光が偏光している程度を表し、偏光位相φは、該当画素の光の部分偏光の主軸角度の直交方向、すなわち偏光の正弦関数輝度が最小値をとる位相を表している。フレネル反射理論によれば、これは鏡面反射に被写体表面の法線が包含される面(入射面)となる。なお、偏光の主軸角度は0と180°(π)は同一である。値ρおよびφ(0≦φ≦π)は、それぞれ、以下の(式6)および(式7)によって算出される。
【数6】


【数7】

【0097】
なお、本実施形態のパターン化偏光子は、フォトニック結晶、フィルム型の偏光素子、ワイヤーグリッド型、その他の原理による偏光素子であってもよい。
【0098】
次に図3における示すカラー情報処理部307の処理を説明する。カラー情報処理部307は、カラー偏光撮像素子305から出力される情報を用いて、カラー輝度を計算する。偏光子を透過した光の輝度は、偏光子に入射する前の光が有する本来の輝度とは異なる。非偏光照明の場合、理論的には、偏光のすべての偏光主軸における観測輝度を平均化した値が偏光子に入射する前の光が有する本来の輝度に相当する。角度偏光画素R1の画素における観測輝度をIR1と表現すると、以下の(式8)に基づいて、カラー輝度を算出することができる。

【数8】

【0099】
各偏光画素における輝度を得ることにより、通常のカラーモザイク画像を生成できる。モザイク画像に基づいて各画素でRGB画素値を有するカラー画像へ変換することにより、カラー画像Cが生成される。このような変換は、例えばベイヤーモザイクの補間方法などの公知の補間技術を用いて実現される。
【0100】
カラー画像C、偏光度画像ρ、偏光位相画像φの各々における各画素の輝度および偏光情報は、図4(B)に示す4つの偏光画素を用いて得られる。そのため、個々の輝度および偏光情報は、図4(B)に示す4つの偏光画素の中心に位置する仮想画素点405における値の代表を示していると考えることができる。従って、カラー画像および偏光画像の解像度は本来のカラー単板撮像素子の有する解像度の縦1/2×横1/2に低下する。このため撮像素子画素数はできるだけ大きいことが望ましい。
【0101】
図7(A)〜(C)は、遠方の建物のシーンを撮影した場合にカラー偏光画像取得部201で取得される3種類の画像(偏光度画像ρ、偏光位相画像φ、カラー画像C)である。図7(A)の偏光度画像ρは、偏光の強度を表現しており、白い(明度が高い)ほど、偏光度が高い。図7(B)φの偏光位相画像は、偏光位相の向きを(角度)を値にて表現している。偏光位相は0から180度までの値を輝度に割り当てて表現されている。偏光位相には、180度を一周期とする周期性があるため、偏光画像上の白と黒は、位相の角度としては0度および180度で連続していることに注意する。図7(C)のカラー画像Cは、通常のRGBカラーの輝度画像である。現実には、RGBの各々について輝度画像が得られ、それらを合成することにより1つのカラー画像が構成される。図7(C)では、便宜上、カラー画像の輝度のみ(モノクロ画像)が示されている。
【0102】
図7(A)〜(C)は、いずれも、丸い外周を有しているが、これは画角を規定する開口部が円形を有していたためである。なお、これらの図から判るように、以降の処理の前提として、シーンの撮影は水平線を画面内でも水平に撮影しているものとする。
【0103】
図8(A)〜(C)は、同じようなシーン画像の模式図である。図8(A)の偏光度画像ρでは、屋根部分801の白い部分が最も偏光度が高いことが示されている。図8(B)の偏光位相画像φでは、偏光の位相角が偏光位相ベクトル表現803で表現されている。図8(C)のカラー画像Cは、カラー輝度値を示す。
【0104】
図9(A)および(B)は、撮影時に全天偏光マップ取得部202で取得される2種類の画像(偏光度マップおよび偏光位相マップ)を模式的に表現している。図9(A)の全天偏光度マップは、全天の偏光度を表現する全天画像である。中心点901が天頂を、周辺の円周902が地平線を、周辺に連続する被写体903が撮影被写体を、点線905が太陽904の周辺に広がる偏光度の低い空領域をそれぞれ表している。点線領域906は、被写体を撮影する場合の撮影範囲を示す。
【0105】
一方、図9(B)の偏光位相画像における曲線群905〜912は、偏光位相ベクトル表現803を各画素において有している。この全天の偏光位相画像の位置関係は、図9(A)と同じである。偏光位相ベクトルの角度は、撮影範囲906に含まれるローカルな水平線902に対する角度で一意的に定義される。このため、前述の図8(B)の偏光位相ベクトル表現と、図9(B)における偏光位相ベクトル表現との間で、偏光位相の角度を比較することができる。これは、後で偏光位相の探索で重要になる性質である。
【0106】
図9(A)の偏光度画像では、点線905で示される領域、すなわち、太陽904およびその周囲の領域で偏光度が低く、地平線付近で偏光度が高くなっている。すなわち、全天で偏光度は均一でない。これは、晴天の昼間の典型的な状況である。空の変更度は太陽高度により変化するが、不均一なパターンを呈する事実は変わらない。つまり、晴天時における天空の照明は、非偏光の領域と様々な偏光の領域とが全天に分布した光源として機能する。したがって、図9(A)および(B)に示されるような「全天偏光マップ」があれば、全天における位置を特定することにより、その位置(光源位置)から被写体を照射
する光(照明光)の偏光度および偏光位相がわかる。そして、地上の被写体が鏡面反射を起こしているとき、その鏡面反射によってカメラの観測視点に入射する光は、カメラの観測視点と被写体位置とによって幾何学的に決定される天空上の光源位置から来た光である。すなわち、カメラの観測視点と被写体位置とによって幾何学的に決定される天空上の光源位置での偏光状態の光のみが、被写体位置に入射して鏡面反射を起こしている。
【0107】
全天偏光マップの偏光度は、曇天の場合、全体的に著しく低下する。これは、晴天の偏光を発生させる晴天の青空の酸素分子等によるレイリー散乱が、曇天時には水蒸気などによるミー散乱などに変化するためである。その結果、曇天では、雲の下に青空領域が相当存在する場合を除き、全天でほぼ同一の非常に低い偏光状態となる。
【0108】
図10Aは、図2の天候判定部203の動作の一例を示すフローチャートである。
【0109】
このフローでは、全天偏光マップの偏光度情報の平均値ρaveが閾値ρwよりも高い場合、天候が晴天である判定し、低い場合には曇天と判定している。シーンのある画角での撮影画像ではなく、全天を観測するため、天候の判定はより確実になる。ρ、φ、Cの各画像について行う晴天か曇天かの判定結果を晴天空領域分離部204と曇天空領域分離部205に送る。
【0110】
図10Bは、図2の天候判定部203の動作の他の例を示すフローチャートである。
【0111】
このフローでは、まず、全天偏光マップの偏光度情報の平均値ave、および標準偏差値σを求める。また、上記の全天偏光マップにおいて、偏光度ρがave±3σとなる面積Sを計算する。そして、偏光度情報の平均値aveおよび標準偏差値σが閾値AV、STよりも低いか否かを判定する。
【0112】
偏光度情報の平均値aveおよび標準偏差値σがともに閾値AV、STよりも低く、かつ、偏光度ρがave±3σとなる面積Sが一定値ATよりも小さい場合に(完全)曇天状態と判定する。それ以外の場合、晴天であると判定している。
【0113】
この判定方法では、曇天の判定がより厳しくなっている。曇天と判断された場合は、全天がほぼ完全に雲に覆われ均一な明るさになり、従来の技術における完全拡散球に覆われているのとほぼ同一な状態となる。シーンのある画角での撮影画像ではなく、全天を観測するため、天候の判定は、より確実になる。ρ、φ、Cの各画像について行う晴天か曇天かの判定結果を、晴天空領域分離部204と曇天空領域分離部205に送る。
【0114】
次に、図2の晴天空領域分離部204と曇天空領域分離部205とを説明する。
【0115】
2種類の空領域分離部204、205は、シーン画像に空が含まれる場合、擬似立体化する被写体だけを処理対象とするため、図7および図8のシーン画像から、空領域を分離する。
【0116】
図11は、晴天空領域分離部204を説明するブロック図である。
【0117】
晴天空領域分離部204は、偏光度画像ρ、およびカラー画像Cを入力として、シーンの中から空領域を分離した被写体偏光度画像ρfo、被写体偏光位相画像φfoを出力する。
【0118】
偏光度2値化部1101は、偏光度画像ρをしきい値Tρで2値化する。輝度変換部1102は、カラー画像Cを輝度画像Yに変換する。輝度2値化部1103,1104は、輝度変換部1102によって変換された輝度画像をしきい値TC1、およびTC2で2値化処理する。色相誤差変換部1105は、カラー画像CをHSV変換して空色の色相からの色相ズレを表現する色誤差画像を生成する。色相2値化部1106は、色相誤差画像をしきい値処理して空色相領域のみを抽出する。演算部1107は、偏光度2値化部1101にて2値化された偏光画像と輝度2値化部換1103によって2値化された輝度画像とのAND(論理積)演算をする。演算部1108は、輝度2値化部換1104によって2値化された輝度と色相2値化部1106でしきい値THによって2値化処理された特定色相とのAND演算をする。
【0119】
被写体マスク選択部1110は、偏光度判定部1109の結果に基づいて、(i)偏光度と輝度とに基づいて生成された第一の青空領域マスク1111、(ii)色相類似度と輝度とに基づいて生成された第二の青空領域マスク1112とのいずれを採用するかを決定する。
【0120】
演算部1113および演算部1114は、出力される被写体マスク画像1115と、偏光度画像ρ、偏光位相画像φとの論理積演算を実施して、晴天時被写体偏光度画像ρfoと晴天時被写体偏光位相画像φfoとを生成する。
【0121】
従来、青空領域検出には、カラー画像からカラー色相として青に類似し、かつ画像上で平坦領域を探すという手法が存在した。しかし、カラー情報を使うと、(i)夕焼け空のようにカラーの色相情報がブルーからマゼンタ、レッドまで大きく変動する場合、あるいは(ii)地上の建物が青色や白色の場合に、実際の空または雲と識別が不可能という課題がある。
【0122】
このように天空の物理的要因で様々に変化するカラー情報は使わず、輝度情報のみで空を検出できれば望ましい。このような空領域の検出を行うため、例えばシーン画像において最も輝度が高い領域が空であると仮定することが可能である。この仮定に基づく手法では、実験によると、曇天や夕焼け空の場合には、ある程度良好な結果が得られるものの、晴天の時は、空の輝度よりも地上の建物が鏡面反射した輝度のほうが高い場合が多く、良好な結果は得られなかった。これは、太陽光の正反射ではなく青空の全周照明による人工物の滑らかな表面における鏡面反射が予想以上に強いためである。
【0123】
そこで、本実施形態では、シーン輝度に加えて、シーンの偏光度を用いて青空領域を検出している。これは、晴天昼における空の偏光度が水平線近傍で非常に高いことを利用するものである。
【0124】
全天の空の偏光状態を朝(日の出)から夕方(日の入り)まで12時間にわたり1時間ごとに記録した結果が、非特許文献3に報告されている。この文献によると、朝と夕方の東西方向を除いて、ほとんどの時間で、地平線近傍では空の偏光度が強い。この空の偏光度は、実験によると、多くの場合に地上の山などの遠景、建物などの人工物の偏光度よりもさらに強い。このため、偏光度に基づいて空の領域を検出することは、有効な空検出手段になりえる。地上の建物の屋根やガラス等も非常に強く偏光するが、この建物などに起因する偏光を除くためには、上記の偏光度と輝度とのしきい値を併用したマスクを生成して検出を行えばよい。ただし、朝における西方向の空、および夕方における東方向の空は偏光度が低い上、輝度も低いので本手法が適用できない。この場合はカラー色相と輝度を用いて検出する。
【0125】
以下、実際のシーン画像を示す図12(A)〜(H)を用いて、図11に示す晴天空領域分離部204の動作を説明する。なお、以下の説明において、シーン画像の撮像範囲が円領域となっているが、これは実験時のカメラ装置におけるレンズのケラレによるもので
あり本質的には矩形画像で考えてよい。
【0126】
図12(A)は、シーン画像の偏光度画像ρである。偏光度画像ρが偏光度2値化部901で処理された結果(Tρ=0.14)が図12(B)の画像である。2値化閾値は、偏光度ヒストグラムから決定する。このシーンでは、空領域と地上の建物などの風景とが、偏光度の高い領域と低い領域にわかれて、双峰性分布を作っている。偏光度ヒストグラムにおける2つのピークの中間値を閾値とする。図において、建物の右側の雲領域も、偏光度が低い場合には、除去される。下部の黒色のカメラ架台だけは、強く偏光しているため、除去できず、残存してしまう。
【0127】
図12(C)は、シーン画像のカラー画像を輝度変換部1102によって処理した輝度画像である。輝度変換によって得られた輝度画像を、輝度2値化部1103によって2値化処理(TC1=0.4)した結果が図12(D)の画像となる。このシーンでは、青空の輝度と建物の輝度とがほぼ等しく、輝度での分離が困難である。しかし、このような場合でも、閾値を適当に設定することにより、カメラ架台など暗部は除去できている。
【0128】
以上の2種のマスク画像を演算部1107において処理すると、図12(E)のように一部偏光度の低い雲領域を除去した青空領域のみを分離することができる。図12(F)は、このマスク画像を、通常の矩形画像で示した模式図であり、図11の第一の青空領域マスク1111に相当する。
【0129】
最後に演算部1113、1114において、上記マスクと偏光度画像、偏光位相画像との論理積がとられて、図12(G)の被写体偏光度画像、および図12(H)の被写体偏光位相画像が生成される。
【0130】
次に、夕方の東空を撮影したシーンである図13を用いて上記手法が適用できない場合について説明する。図13(A)から(D)は、それぞれ、シーン偏光度画像ρ、シーン偏光度画像の2値化結果、シーン輝度画像C、シーン輝度画像の2値化結果である。最終的に、図13(E)に示すマスク画像を得て、青空領域検出に失敗している。
【0131】
失敗の理由は、図13(A)のシーン偏光画像の空の偏光度が低く、輝度も低いためである。そこで、このような場合は、偏光度判定部1109がシーン画像の偏光度ヒストグラムから平均偏光度判定を実施し、平均偏光度が所定閾値(Tρ1=0.1)より低い場合には、これを採用せず、カラー色相と輝度を用いた方法に切り替える。以下、この処理を、図11と図14を用いて説明する。
【0132】
まず、図11の色相誤差変換部1105において、空の色相である青の色相角とカラー画像Cの色相角との差異を示す色相角度の誤差を求めることにより、カラー画像Cが色相誤差画像に変換される。
【0133】
ここで、空の色相を青色としたのは、このカラー画像を使う処理が使われるのは空の偏光度が低く輝度も低い場合に限られ、それは朝方の西空、および夕方の東空のいずれかであるから、空の色は青色とみなしてよいという仮定に基づく。
【0134】
典型的な空の青色の色相角(0°〜360°)をHsky(=254°)とし、入力されるシーンの色相角をHtestとする。よく知られたRGB色空間からHSV(色相、彩
度、明度)空間の色相Hへの変換式(RGB_toH)を用い、さらに色相角が360度周期であることを考慮すると、色相誤差ΔHは、以下の式で表現される。
【数9】


この色相誤差ΔHを、図11の色相2値化部1106で閾値処理することにより、カラー画像Cの中から青空の候補が求められる。
【0135】
図14(A)は、図13と同じシーン画像に対して、図11の色相誤差変換部1105で変換された色相誤差画像を表している。図14(B)は、この色相誤差画像を色相2値化部1106において色相2値化処理(TH=220°)されたマスク画像を示している。
図14(C)の画像は、図11の輝度2値化部1104において、輝度をしきい値(TC2=0.29)で2値化した結果であり、図14(D)の画像は、図11の演算部1108で演算した結果得られるマスク画像である。晴天時は出力選択部1110により、このマスク画像部分が採用され、晴天空領域画像が生成される。
【0136】
図15は、曇天空領域分離部205の構成を示すブロック図である。
【0137】
実験によれば、曇天の場合、シーン内で最高輝度になる領域が空である確率が高い。このため、カラー画像Cを輝度変換部1102で輝度画像に変換し、輝度画像を、輝度2値化部1103で2値化したマスクを形成する。それを偏光度画像および偏光位相画像との論理積をとる演算部1113および演算部1114を用いて、それぞれ、曇天時被写体偏光度画像ρcoおよび曇天時被写体偏光位相画像φcoを生成することができる。
【0138】
図16は、晴天あるいは曇天の場合の空領域が分離された後のシーン画像を示しており、被写体の面の集合が切り出されている。ここから建物の各表面の法線を推定する。このシーンでは、建物は参照符号「1601」で示される屋根R1、参照符号「1602」で示される屋根R2、参照符号「1603」で示される正対した壁面B1、参照符号「1604」で示される側面の壁面B2、参照符号「1605」で示される壁面B1上のガラス部Wで構成され、それらが参照符号「1606」で示される地表面G上にあるとする。
【0139】
次に、図17(A)、(B)を参照して、晴天時の天空の偏光と、曇天時の天空の偏光と、被写体での鏡面反射の現象との関係を説明する。
【0140】
実験によれば、晴天時、屋外の被写体表面での鏡面反射の結果は、入射光の偏光状態に強く依存する。図17(A)の矢印1701は、入射光の偏光の向き(偏光主軸方向:振動面に平行)および大きさを表現しており、長方形1702は、当該被写体表面におけるP波とS波のエネルギー反射率の変化を表現している。このP波とS波のエネルギー反射率は屈折率n=1.4とした場合に図18のようになり、常にS波がP波よりも反射率が高い。なお、図18は、鏡面反射のフレネル反射率を入射角との関係で示す図である。
【0141】
ここで、入射光が1つの振動面のみ有する直線偏光(linearly polarized light)であるため、当該表面からの反射光は、入射する偏光(polarized light)の偏光位相角をや
や回転させ、矢印1703で示される向きに偏光した反射光が形成される。しかし、反射光の主軸方向はS方向を指すほどには回転しない。つまり、偏光を照明として入射させた場合は、鏡面反射後、その偏光位相と表面法線との間には直接の関係がなくなり、偏光から法線の情報が取得できなくなってしまう。これが後述する非偏光の照明の場合と大きく異なる点であり、屋外での天空照明で最も問題となる。ただし、この場合でも、確実に偏
光情報を使えるケースが存在する。
【0142】
図18に示されるように、入射角が0度近傍(直上入射)の領域1801や、90度近傍の領域1802などにおいては、P波とS波の反射率が互いに等しくなる。このため、これらの領域1801、1802の角度で鏡面反射した偏光については、上記のような偏光位相の変化が生じず、完全なミラー状態となるから、反射光は天空の偏光状態をそのまま映し出すことになる。つまり、カメラに対して完全背面や正対からの入射がある表面には、天空の偏光状態がそのまま映っているので、これは法線の情報として利用可能である。
【0143】
一方、曇天時には入射光が非偏光であり、非偏光状態は、図17(B)の円1704で示すように、ほぼ等しい振幅の多数の異なる向きの振動面が合成された波によって表現される。このような光(非偏光照明)が被写体表面で反射すると、P波とS波のエネルギー反射率が異なることから。長方形1702のように変調されて楕円状の部分偏光(partially polarized light)1705になる。この時、部分偏光の主軸方向はS方向であり、被写体表面の法線は、この平面に含まれる。結局、曇天時屋外での非偏光の照明下では、被写体表面での鏡面反射の結果、被写体表面の法線情報を、反射光の偏光位相から求めることができる。
【0144】
以上の考察から、晴天時と曇天時で法線推定処理を以下のように構築できる。
【0145】
図19は、晴天時法線推定部206の動作を示すフローチャートであり、図20Aはシーン画像の模式図を用いた説明図である。
【0146】
まず、ステップS1901において、被写体のある画素の偏光度および偏光位相を取得する。ステップS1902では、偏光度が一定値ρ1より低いか否かを判断する。偏光度が一定値ρ1より低い場合には、当該画素は太陽からの入射光を直接受光しておらず、多重反射された環境光を受光している場合の可能性が高い。実験によれば、環境光を受光する場合は、地上付近でカメラに正対する面の可能性が非常に高かった。そこで、この場合には、その画素が地上付近のカメラに正対する面の画素であるとして法線を設定する。このような面は、例えば図20Aにおいてカメラに正対する壁面B1に相当する。なお、図20A内の「×」は、偏光度が極めて低いことを意味する。
【0147】
ステップS1903では、図9の天空偏光マップから、当該画素の偏光位相に類似した偏光位相を有する部分を探索して、当該画素が鏡面反射している光の光源位置を天空から探し出す。ここで、偏光位相の角度表現の基準位置は、前述したように、図9(A)、(B)に示される撮影範囲906のローカルな水平線902である。したがって、図9(B)の空の天頂901を中心とする天空位置座標(θL、φL)における偏光位相角φsky(0°≦φsky≦180°)を、この基準によって決定し、カメラで撮像された被写体の水平線基準からの偏光位相角φobj(0°≦φobj≦180°)を得たとすると、後述する(式10)のDiffφを最小とする天空位置座標(θL、φL)を求めることになる。
【0148】
図20AのG,W領域は、この手法で探索される。まずG領域1606の偏光位相の角度(水平線に対する角度)は天空の領域2002での偏光の偏光位相角度に極めて近いことが判明したとする。この場合、その天空の領域2002のカメラ座標系での角度(θL、φL)を記録する。
【0149】
ここで注意するのは、被写体の正対面付近では、カメラの背後の天空から光が入射しているため、図20AのW領域1605は、カメラ背後の天空の領域2003を光源とする
光を入射角度0度付近で反射していることになる。図18の領域1801の入射角では、カメラの正対状態でミラー的な反射が生じるため、天空の偏光位相は水平線を基準にして左右逆になる。図20Aの例では、W領域1605に入射した光の光源位置として、W領域1605の偏光位相が左右逆の向きの偏光位相を示す天空の領域2004を探索することになる。
【0150】
本実施形態におけるカメラは、図1Cに示す被写体レンズ部101と、広角レンズ部102とを有しており、両者の座標系が異なっている。このため、偏光位相の探索には若干工夫が必要となる。
【0151】
図20Bは、被写体レンズで撮影された被写体イメージを示す図である。偏光軸の角度を確定するためには、カメラ水平基準線2010が水平、すなわち地表の水平線に平行である必要がある。これは水平指示装置103を用いることで達成され、カメラで水平線を撮影することは必要ない。被写体からの反射光の偏光位相φobjは、図20Bに示すカメラ基準線2010に対する角度である。この基準が狂うと、偏光位相の角度基準があいまいとなるため、探索が不可能になる。
【0152】
図20Cは、天空を撮影する広角レンズで撮影された天空イメージを示す図である。以下、図20Cを参照しながら、全天からの偏光位相を探索する場合の座標変換を説明する。
【0153】
方向2021は、カメラの被写体レンズ図の向く方向である。全天の偏光位相角は、すべて、基準線2022からの角度となる。基準線2022を境界に、方向2021の向いている領域を、「カメラ前の天空領域」2023と「カメラ背後の天空領域」2024に2分割することができる。
【0154】
被写体レンズで撮影された画像からは、撮影範囲906に対して、上記のようにローカルな水平線902を基準に偏光位相2011が抽出される。ここでローカルな水平線902と全天偏光位相角基準線の2022とは平行であるから、「カメラ前の天空領域」2023を探索する場合には、その領域に存在する天空の偏光位相角度φsky(領域2025)は、そのまま利用すればよい。
【0155】
そして、「カメラ背後の天空領域」2024を探索する場合には、ちょうど基準線2022に対して対称となる角度に変換して探索すればよい。偏光位相角度がもともとは0°から180°の範囲であることを考慮すると、Diffφは、次の(式10)で表される。
【数10】


したがって、式10のDiffφが最小値となる天空の場所を探索すればよい。
【0156】
ステップS1905では、こうして見つけられた天空の光源位置、被写体の画素位置、およびカメラの観測視点に基づいて、幾何学的に被写体の画素位置における法線を計算する。図21は、この処理を説明する図である。カメラ定座標系において、天空の光源位置座標(θL、φL)2101に相当するベクトルL(2102)と、カメラの視線ベクト
ルV(2103)を確定した場合、法線N(2104)を、その2等分ベクトルとして求めることができる。
【0157】
なお、本明細書では、このようにして法線を推定する方法を「幾何学に基づく法線推定」と呼ぶ。一方、偏光していない光が被写体に入射し、被写体の表面における鏡面反射によって生じた偏光に基づいて法線を推定する方法を「鏡面反射偏光に基づく法線推定」と呼ぶ場合がある。
【0158】
再び図19を参照する。
【0159】
ステップS1906では、入射角θを幾何学的に求めた法線の信頼度とする。これは前述のように被写体の偏光が天空の偏光と類似しても、入射角θが0付近あるいは90度付近の場合にのみミラー的な反射が発生するためであり、θが45度近傍では正しく天空の偏光を映しているとはいえなくなるためである。すなわち信頼度Confは、例えば以下の式で示される。
【数11】


このようにして信頼度Confを決定した場合、信頼度信頼度Confの値が0に近いほど信頼度が向上し、45に近くなるほど信頼度が低下することになる。
【0160】
図22は、幾何学的に求められた法線に対して、入射角θと信頼度Confが付与された状態を模式的に示している。地表面であるG領域2201、カメラに正対する壁面であるB1領域2202、同じくカメラに正対する窓ガラスであるW領域の信頼度が高く(数値的にはここでは0)なっている。
【0161】
図19のステップS1907では、偏光していない(非偏光)光の鏡面反射偏光に基づいて法線を計算する。一般に、晴天時においても、天空には、部分的な雲領域に起因する非偏光領域がある。その場合には、鏡面反射光の偏光状態に基づいて表面法線を推定することができる。この鏡面反射光の偏光に基づく法線取得は、曇天時の法線取得と同一の方法で実施可能である。
【0162】
図23を参照する。図23は、シーン画像に対して観測された偏光位相を示す図である。
【0163】
図23の両矢印で示す被写体表面上の点における偏光位相(画像面内角度)は、反射の結果、(式7)のとおり、部分偏光の主軸の直交方向を表している。フレネル反射の理論から、鏡面反射の場合、この位相角の示す方向に平行な面内に被写体の法線が包含される。このことに基づいて、2自由度(ψN、θN)を有する法線の方向のうちの1自由度を求めることができる。すなわち、図23に示す被写体各部での偏光位相の示す方向そのものが、法線の1自由度(ψN)となる。ただし、位相の方向は180度の不定性がある。これについては、図21で示すように、屋外にある被写体の屋根などの傾斜がカメラに向かって必ず上向きであることを仮定すれば、確定することができる。
【0164】
もう1つの自由度θNは、特許文献1の方法によれば、入射角θが偏光度ρと以下の関係を有することから決定できる。これは、被写体屈折率をnとした場合、入射角θと偏光度ρの間に以下の関係式が成立するためである。
【数12】

【0165】
図24は、この式の関係をグラフ化したものであり、横軸が入射角θ、縦軸が偏光度ρである。ここで偏光観測によって偏光度ρが得られると、nを1.4など典型的な物質定数と仮定して、角度θが得られる。ここで問題となるのは、参照符号2402で示すブリュースター角θBをはさんで2個の解候補θ1、θ2が得られることである。そこで、本実施形態においては、解候補をブリュースター角よりも小さい範囲(矢印2401で示される範囲)に制限し、その範囲内から1個の候補θ1を選択することとする。これは、屋外における建物を撮影する場合、その壁面への照明の入射角が60〜70度以上になるときは、ほぼ背景の空からの光によって図18における完全ミラー状態となっている可能性が高いため、幾何学に基づく法線が採用される可能性が高いためである。θが推定された後は、カメラの視線ベクトルVを用いて法線ベクトルが確定する。
【0166】
ステップS1908では、今求めた鏡面反射偏光に基づく法線の信頼度を計算する。この信頼度は、鏡面反射偏光を使う場合の前提である入射光の非偏光性を検査することによって得られる。具体的には、法線ベクトルと視線ベクトルから光源ベクトルを求め、全天偏光マップから該当する光源位置での偏光度ρを調査する。
【数13】

【0167】
図25は、鏡面反射偏光に基づく法線の2自由度が確定した状態と、それに付随した信頼度とを示す図である。
【0168】
ステップS1909では、図22に示す法線候補と図25に示す法線候補の2種の法線候補のうち、各々の評価基準に基づいて信頼度Confが高い(値としては0に近い)法線を採用する。そして、こうして採用することにした幾何学に基づく法線あるいは鏡面反射偏光に基づく法線を当該画素位置に格納する。
【0169】
この処理は、例えば、図22に示すConfが10以上の法線2204、2205を削除し、図25に示すConfが0.5以上の法線2501、2502を削除することによ
って行われる。
【0170】
図26は、信頼度の評価を行った結果の法線の例を示す。この例では、B1領域は別として、G、W領域は幾何学に基づく法線が採用され、その他の領域R1、R2、B2では、鏡面反射された偏光に基づく法線が採用されたことがわかる。
【0171】
図27は、曇天時の法線推定を実施するためのフローチャートである。フローの内容は、晴天時法線推定部206における鏡面反射偏光に基づく法線推定と同じである。ただし、曇天時には、全天で照明は非偏光であることが前提であるから、信頼度などの計算(図19におけるステップS1909)は必要ない。
【0172】
以下、図27のフローを説明する。
【0173】
まず、ステップS2701において、被写体の当該位置で偏光度および偏光位相を取得する。次に、ステップS2702において、偏光度が一定値ρ1より低いか否かを判断する。偏光度が一定値ρ1より低い場合には、ステップS2703に進み、その画素が地上
付近のカメラに正対する面の画素であるとして法線を設定する。偏光度が一定値ρ1以上の場合には、ステップS2704において、前述した方法により、鏡面反射偏光に基づいて法線を計算する。ステップS2705では、求めた表面法線をメモリに格納する。
【0174】
次に、上述に処理によって得た法線情報を用いて擬似立体化を行う擬似立体化部205における処理を説明する。
【0175】
図28は、擬似立体化部208の処理の流れを示すフローチャートである。ステップS2801は、被写体の法線画像が取得され、ステップS2802では、類似した法線をまとめて面を構成する。これは図16のG,W,B1,B2,R1,R2の各領域を識別することに相当する。ステップS2803では各面の頂点を検出し、その画像上の2次元座標(u,v)を抽出する。ステップS2804ではカメラパラメータを取得する。カメラパラメータは内部パラメータと外部パラメータからなり、内部パラメータはカメラのレンズ歪みを無視すれば、焦点距離fと光軸中心(u0、v0)であり、外部パラメータはカメラ座標系と世界座標系との並進と回転行列からなる。カメラの内部、および外部パラメータの求め方はコンピュータビジョンの典型的な手法を使えるので詳細は省略する。
【0176】
内部パラメータは予めカメラ内に記憶しておく。外部パラメータは撮影の仕方に依存するが、ここでは簡単のために光軸は地表に平行で地表に対して正対すなわち光軸のピッチ角、ロール角も0とする。
【0177】
図29は、このような撮影状態における世界座標系とカメラ座標系の関係を図で示したもので、地表平面2901、画像面2902、光軸中心2903、被写体上の面2904を示す。カメラ座標系は視点Cを原点とする(xc、yc、zc)座標系であり、世界座標系は地表上の任意点を原点として(Xw、Yw、Zw)とする。被写体の面2904には法線Nが付随しており、底面P1W,P2Wがカメラに投影されてP1,P2となる。
【0178】
ステップS2805では地表平面を、以下の式で表現する。
【数14】


ここで、hはカメラ座標系と地表平面上の世界座標系とのY軸上のズレすなわちカメラの地表からの高さに相当する。
【0179】
ステップS2806では、地表平面と被写体底面との交点であるP1,P2の世界座標P1W,P2Wを計算する。P1を例にとって計算すると、P1(u,v)とカメラ座標系での(Xc,Yc,Zc)は以下の関係がある。
【数15】


カメラ座標系と世界座標系の関係は、今回は、以下の(式16)であらわされる。
【数16】


以上から、P1Wの世界座標値は、直線2905と地表平面2901との交点として得られ、以下の式で示される。
【数17】

【0180】
ステップS2807では、P2など、図30(A)で示す各頂点の世界座標位置を計算する。この計算は上記のように地表平面との交点P1,P2,P3を確定した後に面の法線Nを利用して平面を確立し、上記と同様にカメラ平面上での座標とカメラ視点原点からの引いた直線との交点を計算すれば得られる。
【0181】
ステップS2808では、新規なカメラ視点位置Cnewを設定して視点変換を実施して擬似立体化を実現する。この処理はカメラ外部パラメータ、すなわち(式15)に替わる世界座標系とカメラ座標系の新規な関係式を作り、世界座標系でのP1〜P7の各頂点を(式14)のカメラ投影式でカメラ平面に投影することにより実現でき、図30(A)の画像を図30(B)のように視点変換した画像が得られる。
【0182】
なお、全天偏光マップ取得部は、現実に空の偏光状態を測定する機構を有している必要は無く、撮影日時および撮影地点の緯度などから全天偏光マップのデータベースにアクセスし、データベースから必要な全天偏光マップを取得し、これにGPS装置から得られるカメラ向き情報を併用して利用しても良い。その場合、全天偏光マップ取得部202は、偏光情報取得部200内に配置される必要は無い。
【0183】
図31に示す実施形態では、全天偏光マップ取得部202は、撮影日時および撮影地点の緯度をデータベース3100に通知し、該当する全天偏光マップをデータベース3100から取得する。また全天偏光マップに対するカメラによる撮影向きをGPSから取得する。
【0184】
画像処理装置は、それ自身がデータベース310を記憶装置内に備えていても良いが、図32に示すように、通信装置3110を介して外部のデータベース(不図示)にアクセスするようにしてもよい。また、天候判定部203も、カラー偏光画像取得部201の出力に基づいて天候を判定する代わりに、図32の通信装置3110を介して、現在の天候が晴天か曇天かを示す情報を外部から取得し、それによって法線推定方法を切り替えても良い。
【0185】
(実施の形態2)
次に、本発明による画像処理装置の第2の実施の形態について説明する。
【0186】
上記の実施の形態1における画像処理装置は、異なる色の輝度情報を取得できるカラー偏光画像撮像部を備えているが、本発明による画像処理を実行するためには、必ずしもカラー画像を取得する必要はない。例えば単色モノクロの輝度画像によっても本発明の画像処理を実現できる。
【0187】
図33は、本実施の形態における画像処理装置の構成を示す図である。図33の構成において、第1の実施形態と異なる部分は、画像処理装置が偏光画像取得部3301および全天偏光マップ取得部3302を含む偏光情報取得部3300を備えている点と、法線推定部210に含まれる晴天空領域分離部3303および曇天空領域分離部3304の動作が実施形態1から異なっている点である。
【0188】
図34に偏光情報取得部3300の構成を示す。偏光情報取得部3300は、カラー偏光撮像素子の代わりに、偏光輝度撮像素子3401を有している。偏光輝度撮像素子3401は、シーンの輝度画像と偏光画像をリアルタイムに取得する。このためには、例えば特許文献3に開示されている技術(パターン化偏光子)を利用することができる。
【0189】
図35は、このような偏光輝度撮像素子3401の構成例を示す。図示される構成例では、狭帯域カラーフィルタとパターン化偏光子が、撮像素子画素の前面に重ねて設置されている。入射光は狭帯域カラーフィルタ、パターン化偏光子を透過して撮像素子に到達し、撮像素子画素によってモノクロ輝度が観測される。なお、狭帯域カラーフィルタは、パターン化偏光子の動作する波長帯を選択するように例えば500〜550nmの透過域を有するものとする。
【0190】
本実施形態では、0度、45度、90度、135度の偏光透過角を有するパターン偏光子を4画素一括で1画素とみなして処理を実施する。これらを輝度で平均化すると、(式8)でRGBのカラーについて実施したのと同じ処理で、モノクロ輝度を算出することができる。
【0191】
図34に示す画像情報処理部3402では、この処理により、輝度画像Yを生成する。偏光情報処理部306は、(式1)から(式6)を参照して説明した処理と同一の処理を実施する。本実施形態のパターン化偏光子も、フォトニック結晶、フィルム型の偏光素子、ワイヤーグリッド型、その他の原理による偏光素子であってもよい。
【0192】
図36は、晴天空領域分離部3303の構成例を示すブロック図である。晴天空領域分離部3303は、偏光度画像ρ、および輝度画像Yを入力として、シーンの中から空領域を分離した被写体偏光度画像ρfo、被写体偏光位相画像φfoを出力する。偏光度2値化部1101は、偏光度画像ρをしきい値Tρで2値化する。輝度2値化部1103,1104は、輝度画像をしきい値TC1、およびTC2で2値化処理する。演算部1107は、偏光度2値化部1101にて2値化された偏光画像と輝度2値化部換1103によって2値化された輝度画像とのAND(論理積)演算をする。
【0193】
被写体マスク選択部1110は、偏光度判定部1109の結果に基づいて、(i)偏光度と輝度とに基づいて生成された第一の青空領域マスク1111、(ii)輝度に基づいて生成された第二の青空領域マスク3601とのいずれを採用するかを決定する。
【0194】
演算部1113および演算部1114は、出力される被写体マスク画像1115と、偏光度画像ρ、偏光位相画像φとの論理積演算を実施して、晴天時被写体偏光度画像ρfoと晴天時被写体偏光位相画像φfoとを生成する。
【0195】
この晴天空領域分離部3303はモノクロ輝度画像のみを使うため、カラー画像を用い
る第1の実施形態の場合に比べて色相情報が欠如している。その結果、偏光度、輝度とも低い夕方の時刻の東空、朝方の時刻の西空については情報が少なく検出が困難になる可能性がある。しかし多くのアプリケーションにおいて屋外撮影は昼の時間帯の撮影が最も多いと考えられるため大きな問題にはならない。
【0196】
図37は、曇天空領域分離部3304の構成を示すブロック図である。曇天の場合はシーン内で最高輝度になる領域が空である確率が高いため、輝度画像を、輝度2値化部1103で2値化したマスクを形成する。それを偏光度画像および偏光位相画像との論理積をとる演算部1113および演算部1114を用いて、それぞれ、曇天時被写体偏光度画像ρcoおよび曇天時被写体偏光位相画像φcoを生成することができる。
【0197】
本実施形態における晴天時法線推定部206、曇天時法線推定部207、擬似立体化部208については、第一の実施形態における晴天時法線推定部206、曇天時法線推定部207、擬似立体化部208と構成および動作が同一のため、説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明は、屋外などで撮影された通常の2次元の静止画、動画、すなわち奥行き情報が与えられていない画像から3次元形状を推定し、視点変換を実施することにより、擬似的な立体画像を生成できる。特に屋外の天空照明を利用した偏光情報を用いて、パッシブ(
受動的)に形状を取得できることから、巨大な建物や遠距離の被写体の形状取得とその立
体的な観察に好適である。民生品カメラ、ムービー、ITS、監視カメラ、建築分野、屋外建物地図情報アプリなどに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0199】
200 偏光情報取得部
201 カラー偏光画像取得部
202 全天偏光マップ取得部
203 天候判定部
204 晴天空領域分離部
205 曇天空領域分離部
206 晴天時法線推定部
207 曇天時法線推定部
208 擬似立体化部
210 法線推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素の偏光情報を有する偏光画像を取得する偏光画像取得部と、
前記偏光画像が有する偏光情報に基づいて、屋外に位置する被写体の表面の法線を推定する被写体法線推定部と、
全天における位置と前記位置における偏光情報との関係を示す全天偏光マップを取得する全天偏光マップ取得部と、
を備え、
前記被写体法線推定部は、前記全天偏光マップを用いて前記偏光情報から前記被写体の表面における鏡面反射光の偏光状態を求めることにより、前記被写体の表面の法線を推定する、画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置によって推定された被写体の表面の法線に基づいて、前記表面法線に垂直な面を抽出する面抽出部と、
前記面抽出部によって抽出された面に基づいて、視点変換を施すことにより別の視点でのシーン画像を生成する擬似立体化部と
を有する擬似立体画像生成装置。
【請求項3】
前記擬似立体化部は、
前記面抽出部によって抽出された面の頂点の世界座標を推定する請求項2に記載の擬似立体画像生成装置。
【請求項4】
屋外シーンの偏光画像を取得するステップと、
全天偏光マップを取得するステップと、
を含み、
前記偏光画像から屋外の被写体の表面における鏡面反射光の偏光状態を検出して、前記全天偏光マップに基づいて前記被写体の表面の法線を推定するステップと
を含む画像処理方法。
【請求項5】
天候の状態が晴天と判定された場合、幾何学に基づく法線と鏡面反射偏光に基づく法線の2種類を用いて法線推定を実施する請求項4に記載の画像処理方法。
【請求項6】
光源の入射角が小さい場合には幾何学に基づく法線推定の信頼度を増加し、
光源の偏光度が小さい場合には鏡面反射偏光に基づく法線推定の信頼度を増加し、
最終的に信頼度の高い法線を採用する請求項5に記載の画像処理方法。
【請求項7】
屋外シーンの偏光画像を取得するステップと、
全天偏光マップを取得するステップと、
前記偏光画像が有する偏光情報に基づいて屋外に位置する被写体の表面の法線を推定するステップと、
推定された被写体の表面の法線に基づいて、前記表面法線に垂直な面を抽出するステップと、
視点変換を施すことにより別の視点でのシーン画像を生成するステップと
を含み、
前記被写体の表面の法線を推定するステップは、
前記偏光画像から屋外の被写体の表面における鏡面反射光の偏光状態を検出して、前記全天偏光マップに基づいて前記被写体の表面の法線を推定するステップを含む、擬似立体画像生成方法。
【請求項8】
抽出された面の頂点の世界座標を推定するステップを含む請求項7に記載の擬似立体画像生成方法。
【請求項9】
屋外シーンの偏光画像を取得するステップと、
全天偏光マップを取得するステップと、
前記偏光画像から屋外の被写体の表面における鏡面反射光の偏光状態を検出して、前記全天偏光マップに基づいて前記被写体の表面の法線を推定するステップと
を画像処理装置に実行させるコンピュータプログラム。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20A】
image rotate

【図20B】
image rotate

【図20C】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate


【公開番号】特開2010−279044(P2010−279044A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147903(P2010−147903)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【分割の表示】特願2010−520365(P2010−520365)の分割
【原出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】