説明

画像出力装置、画像出力方法及び記録媒体

【課題】 分光カラーマッチングが可能な画像データで入力された場合のみ分光カラーマッチングに適した出力を行ない、インクセットの性能を充分に活用した高精度な分光カラーマッチングを行なうことが出来る画像出力装置を提供する。
【解決手段】 カラー画像データを入力する入力手段と、入力された画像データの属性を判定する判定手段と、分光カラーマッチング用のインクセットを使用する第1の画像出力手段と、第1の画像出力手段と異なるインクセットを使用する第2の画像出力手段とを含む複数のインクセットと、画像データの属性に基づき、インクセットを選択する選択手段とを具備するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーファクシミリ、カラープリンタ、カラー複写機などのカラー画像出力装置などに関し、特に入力されたカラー画像信号を最適なインクセットで出力する画像出力装置、画像出力方法及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のカラープリンタでは、入力データに対し条件等色に基づいた色再現を行なうのが一般的であった。この条件等色に基づく色再現は、CIEの等色関数を用いて分光波形は異なっても知覚する色は同じになるように色再現を行なうものであるが、分光波形が異なるため照明光源が変わると色の見えが変化してしまうという問題があった。例えば、商品のカタログは特定の照明環境で撮影された画像データを印刷しているが、実際の商品の分光反射率特性を反映していないため、カタログの閲覧者は実際の照明環境でどのような色に見えるのかについては知ることができなかった。
かかる状況を打破するために、近年、入力装置及び出力装置の進歩により分光的に一致する色再現を行なうという動きが活発化している。例えば、撮像技術の面では多チャンネル撮影機(マルチバンドカメラ)、とくに、撮影対象の分光波形を実用上充分な精度で復元できる程度のチャンネル数を有する撮影機が実用化されつつある。これは、複数種類(多くは、4種類以上)の光を透過する波長領域(マルチバンド)で、被写体を撮影して複数の画像データ(マルチバンド画像データ)を得るカメラである。
これらについては、非特許文献1等に記載されている。このマルチバンドカメラにより撮影されたマルチバンド画像データは、画素毎に分光波形を推定できるので、様々な照明環境での色の見えを精度良くシミュレーションすることが可能になる。
また、画像形成方法の面でも、特許文献1では、シアン、マゼンタ、イエローの顔料を混ぜ合わせ、分光反射率がフラットに近いグレーインクを組成し、このグレーインクを加えて用いることにより、ある光源を用いて見た印刷物の色彩と、他の光源を用いて見た同一印刷物の色彩とが、同一にならないという現象(メタメリズム)を解消する提案がなされている。
【0003】
更に、特許文献2では、マルチバンド画像が入力された場合に、用途に応じて分光波形の色度再現と波形再現の使い分ける方法が記述されている。分光波形の波形を一致させた場合には、種々の観察照明下でのオリジナルの色の見えを複写物で再現することができるようになる。
また、近年のプリンタは分光カラーマッチングのみならず様々な効果を狙い種々のインクセットが開発されている。特にインクジェットプリンタでは、淡シアン或いは淡マゼンタを用いて6色プリント可能な機種が多数存在し、粒状感を知覚限界以下にした高画質な出力が可能となっている。特許文献3においては、インクの打ち込み量が多くなってにじみが生じるのを防ぐために、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックにレッド、ブルー、グリーンを加えた7色で印刷することを提案している。
また、特許文献4では、色相が対応した「樹脂を介して水に分散可能とされた顔料と水とを含有する樹脂含有型顔料インク」と「分散剤なしに水に分散可能な顔料と水とを含有する自己分散型顔料インク」を備え、インクジェット専用紙に対しては樹脂含有型顔料インクを用い、普通紙に対しては自己分散型顔料インクを用いてインクジェット記録を行なう方法も提案されている。
特許文献5では、インクAの着色剤が主として染料であり、インクBの着色剤が主として顔料であり、普通紙に印写するときはインクBのみで印写し、光沢紙に印写するときはインクA及び/又はインクBを用いて印写するという技術が示されている。
【特許文献1】特開2003−192967公報
【特許文献2】特開2000−333186公報
【特許文献3】特開平10−44473号公報
【特許文献4】特開2003−213180公報
【特許文献5】特開2004−010640公報
【非特許文献1】「光学 11巻6号、pp.573〜578(1982)、宮川他」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、近年は分光カラーマッチングや画質向上を目的として、多くのインクセットの開発が活発になっている。しかしながら、多くのインクセットを利用するとその使用方法が複雑になり、使用者が誤ったインクセットを使ってしまい、十分にメリットを生かせないという問題が生じてくる。特に、インクセットのインク数に制限がある場合には、分光カラーマッチングの精度を重視するか、粒状性などの画質面を考慮するかなどに応じて適切なインクセットをセットする必要もある。
例えば、特許文献1の技術のごときシアン、マゼンタ、イエローの着色剤を混合して組成したグレーインクと、一般に使用される着色剤にカーボンブラックを用いて組成したグレーインクでは、その分光反射率特性が異なっている。従って、両方のグレーインクを選択して使用可能な画像出力手段を有していたとしても、そのどちらのインクを使用すべきは判断が難しかった。更に、特許文献3にみられるように、多数の有彩インクを使用可能になってくると、分光カラーマッチングを行なうとしても様々な組み合わせが可能になり、より問題は複雑になってくる。 そこで、本発明は、上述した実情を考慮してなされたもので、分光カラーマッチングが可能な画像データで入力された場合のみ分光カラーマッチングに適した出力を行ない、インクセットの性能を充分に活用した高精度な分光カラーマッチングを行なうことが出来る画像出力装置、画像出力方法及び記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、カラー画像データを入力する入力手段と、入力された画像データの属性を判定する判定手段と、分光カラーマッチング用のインクセットを使用する第1の画像出力手段と、前記第1の画像出力手段と異なるインクセットを使用する第2の画像出力手段とを含む複数のインクセットと、前記画像データの属性に基づき、前記インクセットを選択する選択手段とを具備する画像出力装置を最も主要な特徴とする。
また、請求項2に記載の発明では、前記選択手段は、前記画像データにマルチバンドデータが含まれるか否かで使用する前記インクセットを判定する画像出力装置を主要な特徴とする。
また、請求項3に記載の発明では、前記分光カラーマッチング用のインクセットに含まれる有彩インクは、相互に30度以上の色相差を有する画像出力装置を主要な特徴とする。
また、請求項4に記載の発明では、前記分光カラーマッチング用のインクセットは、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、オレンジ、グリーンを含む画像出力装置を主要な特徴とする。
また、請求項5に記載の発明では、前記第1の画像出力手段と異なるインクセットに含まれる有彩インクには、色相差が15度以内のインクが含まれる画像出力装置を主要な特徴とする。
また、請求項6に記載の発明では、前記第1の画像出力手段と異なるインクセットは、淡シアンインク或いは淡マゼンタインクを含む画像出力装置を主要な特徴とする。
【0006】
また、請求項7に記載の発明では、インクセットの交換が可能であって、
前記選択手段によって選択された出力手段が使用不可能な場合には、使用者に選択したインクセットを通知する通知手段を具備する画像出力装置を主要な特徴とする。
また、請求項8に記載の発明では、前記画像データにマルチバンドデータが含まれる場合には、前記複数のインクセットの各々についてメタメリズム特性を評価する評価手段と、前記評価手段による結果に基づいてインクセットを決定する第1の決定手段と、前記第1の決定手段により決定したインクセットを用いて画像出力を行なう画像出力装置を主要な特徴とする。
また、請求項9に記載の発明では、前記評価手段は、前記複数のインクセットで前記画像データを再現した時のメタメリズム特性値を出力値とするルックアップテーブルを具備し、前記ルックアップテーブルを用いて、メモリマップ補間演算を実行してメタメリズム特性値を求める画像出力装置を主要な特徴とする。
また、請求項10に記載の発明では、前記複数のインクセットのそれぞれに対応した色変換パラメータを用いて入力データを色変換し、前記画像データと色変換後の再現色の色差を複数の観察条件について求め、複数の観察条件における色差の統計値をメタメリズム特性値とする画像出力装置を主要な特徴とする。
また、請求項11に記載の発明では、前記属性の情報は、前記画像データの色域情報であって、読み取った色域情報に基づき、使用するインクセットを決定する第2の決定手段を具備する画像出力装置を主要な特徴とする。
また、請求項12に記載の発明では、前記第2の決定手段は、各インクセットに対応する色域情報を記憶するインクセット特性記憶手段を具備する画像出力装置を主要な特徴とする。
【0007】
また、請求項13に記載の発明では、前記第2の決定手段は、前記インクセット特性記憶手段から読み取った各インクセットの色域と入力画像データの色域の抱合関係を評価することによりインクセットを決定する画像出力装置を主要な特徴とする。
また、請求項14に記載の発明では、入力された画像データがマルチバンドデータか否かを判定する工程と、前記画像データがマルチバンドデータの場合には、前記画像データを分光カラーマッチング用のインクセットの制御信号に変換して出力し、前記画像データがマルチバンドデータでない場合には、分光カラーマッチング用のインクセット以外のインクセットの制御信号に変換して前記画像データを出力する画像出力方法を主要な特徴とする。
また、請求項15に記載の発明では、画像データに基づいて、複数のインクセットの各々についてメタメリズム特性を評価する工程と、前記メタリズム特性の評価結果に基づいて、インクセットを決定する工程と、前記インクセットを決定する決定工程により決定したインクセットを用いて画像出力を行なう工程とを有する画像出力方法を主要な特徴とする。
また、請求項16に記載の発明では、入力画像データの色域情報を読み取る色域情報取得工程と、前記色域情報取得工程で取得した色域情報に基づき、インクセットを決定する工程と、前記色域情報に基づき決定したインクセットを用いて画像データを出力する工程とを具備する画像出力方法を主要な特徴とする。
また、請求項17に記載の発明では、入力された画像データに基づいて出力信号に変換するためのプログラムを記録した記録媒体であって、前記画像データの属性情報を読み取る手順と、前記属性情報からマルチバンドデータが含まれるか否かを判定する手順と、マルチバンドデータが含まれるか否かの判定結果に従って、使用するインクセットを決定する手順とをコンピュータに実行させるプログラムを記録した記録媒体を主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、入力された画像データの種別や色特性に基づいて、最適なインクセットを判定するようにしているため、インクセットの性能を充分に活用した高精度な分光カラーマッチングを行なうことが出来る。また、入力画像データにマルチバンドデータが含まれるか否かで異なるインクセットを用いるようにしているため、分光カラーマッチングが可能な場合に最適なインクセットを使用して画像出力することができる。
また、相互に30度以上の色相差を有する有彩インクをもつインクセットを使用しているため、メタメリズム現象を忠実に再現できる。また、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、オレンジ、グリーンを含むインクセットを使用しているため、高精度な分光カラーマッチングを行なうことが出来る。
また、ほぼ同一色相の異なるインクを含むため、分光カラーマッチングの必要がない画像データに対して階調性或いは粒状性に優れた高画質な画像出力を行なうことが出来る。また、淡シアンインク或いは淡マゼンタインクを含むため粒状性に優れた画像出力を行なうことができる。また、画像データの属性に適さないインクセットを装着している場合には、使用者に通知するようにしているため、画像出力装置の能力を最大限活かすことが出来る。
また、複数のインクセットに対しメタメリズム特性を予測しているため、多数のインクセットが使用可能な場合でも入力画像データに適したインクセットを使用することができる。また、メタメリズム特性値をルックアップテーブルに保持しているため、メタメリズム特性値を高速に計算することが出来る。また、複数の観察条件での色差の統計値を使用してインクセットを判定しているため、高精度な分光カラーマッチングを行なうことが出来る。
また、色域に基づいてインクセットを決定しているため、色再現できない色を最小に抑えたインクセットを容易に決定することができる。また、各インクセットに対応する色域情報を記憶するインクセット特性記憶手段を具備しているため、インクセットごとの色域を毎回計算しなくて良い。また、各インクセットの色域と入力画像データの色域の抱合関係を評価しているため、入力画像の色範囲に適したインクセットを容易に決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の画像出力装置、画像出力方法及び記録媒体を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、本発明の画像出力装置を実施するための最良の形態の説明には本発明の画像出力方法を実施するための最良の形態についての説明も含まれている。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の画像出力装置の第1の実施形態であるプリンタ1の概略機能構成を説明するためのブロック図である。なお、プリンタ1は、ここではインクジェット方式のカラープリンタを図示しているが、電子写真方式など他の方式を用いたカラープリンタであっても構わない。このプリンタ1はカラー画像データを入力する入力手段と、入力された画像データの属性を判定する判定手段と、分光カラーマッチング用のインクセットを使用する第1の画像出力手段と、第1の画像出力手段と異なるインクセットを使用する第2の画像出力手段とを含む複数のインクセットと、画像データの属性に基づき、インクセットを選択する選択手段とを具備している。
同図に示すように、プリンタ1は、大きく分けて、制御装置11と印刷機構部12とから構成されている。制御装置11は、インターフェース13、信号処理部14、駆動回路部15などからなり、外部のホストコンピュータから送信されるプリントジョブデータに基づいて、印刷機構部12を制御しながら印刷用紙に対する印刷処理を実行する。インターフェース13は、ケーブルを介して接続されたホストコンピュータとの間で通信を行なうための機能を提供している。
ホストコンピュータとの接続は、ネットワーク接続であってもよいし、シリアルまたはパラレル接続であってもよく、適宜選択的に使用することができる。プリンタ1は、典型的には、インターフェース13を介してホストコンピュータからプリントジョブデータを受信して、印刷処理を実行するが、プリンタ1本体に装着されたメモリカードから印刷対象データを読み出して、印刷処理を実行してもよい。このようにして、カラー画像データを入力する入力手段の機能が実現されている。
【0010】
信号処理部14は、相互に内部バスで接続されたCPU141、ROM142、RAM143等から構成されている。CPU141は、主記憶装置として機能するRAM143を用いながらROM142に記憶された各種の制御プログラムを実行し、プリンタ1を統括的に制御する。例えば、出力イメージ生成機能、印刷制御機能、ユーザインターフェース機能などが制御プログラムによって実現される。
出力イメージ生成機能は、インターフェース13を介して受信したプリントジョブデータを解釈しながら、後述の画像処理を行ない印刷機構部に送出可能なイメージデータを生成する機能である。生成されたイメージデータは、RAM143の一部として構成されるイメージバッファメモリに書き込まれ、一時的に保持される。
印刷制御機能は、イメージバッファメモリに書き込まれたイメージデータに基づき駆動回路部15を制御する機能である。駆動回路部15は、印刷機構部12の印刷ヘッド121、キャリッジ122、搬送ローラ123をそれぞれ制御するための制御回路を搭載しており、信号処理部からの制御コマンドにより動作する。
また、ユーザインターフェース機能は、ユーザインターフェース部16によりインタラクティブな操作環境をユーザに提供する機能である。ユーザインターフェース部16は、典型的には各種のボタン、LED表示ランプおよび液晶パネル等から構成される。印刷機構部12は、印刷実行時に動作するメカニカルな部材を中心に構成されている。具体的には、印刷機構部12は、印刷用紙に対して記録を行なう印刷ヘッド121、この印刷ヘッド121を搭載するキャリッジ122、印刷用紙を搬送する搬送ローラ123等から構成される。
駆動回路部15は、これら印刷機構部12のメカニカルな部材を、生成されたイメージデータに基づいてそれぞれ駆動制御するためのものであり、印刷機構部12の構成に応じて、印刷ヘッド駆動回路151、キャリッジ駆動回路152、搬送ローラ駆動回路153等から構成される。
【0011】
図2は、印刷機構部12の概略構成を示す図である。印刷ヘッド121は、色ごとに主走査方向に配列された複数の記録素子を備えている。この印刷ヘッド121を搭載したキャリッジ122は、2つのプーリによって張設された無端ベルト21に取り付けられており、キャリッジモータ22が回転駆動されることで、キャリッジ軸23に沿ってその軸方向(主走査方向)に往復移動する。また、印刷用紙Pは、搬送モータ24によって回転駆動される搬送ローラ123により副走査方向に搬送される。
キャリッジ122にはカートリッジスロットが設けられている。各色ごとにインク液を収容したインクカートリッジ25は、対応するカートリッジスロットに着脱自在にセットされ、印刷ヘッド121の記録素子にインク液を供給する。プリンタ1は、インクカートリッジ25として、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、ライトマゼンダ(Lm)、ブラック(K)、オレンジ(O)、グリーン(G)が自由に着脱可能である。また、キャリッジ122のカートリッジスロットは6つ設けられており、同時装着可能なインクカートリッジは6種類のみとする。
このように構成される印刷機構部12において、印刷ヘッド121は、搬送モータ24の回転動作に合わせて副走査方向に搬送される印刷用紙P上を、キャリッジモータ22の回転動作に合わせて主走査方向に往復移動しながら、印刷ヘッド駆動回路151により駆動される記録素子からインク滴を吐出して、これを印刷用紙Pに付着させてドットを形成し、印刷用紙P上に画像を再現することができる。
また、インクカートリッジ25は、図示しない書き換え可能な不揮発性のメモリ(EEPROM)を備えている。このEEPROMは、所定のカートリッジ情報を記憶している。所定のカートリッジ情報とは、例えば収容しているインク(インクカートリッジ)の種別情報等である。このようなインクカートリッジ25がカートリッジスロットにセットされると、インクカートリッジ25のEEPROMは、信号処理部14と接続された状態になり、信号処理部14は、EEPROMにアクセスして、必要な情報を読み出すことができる。
【0012】
次に、本実施形態における印刷システムの処理動作について説明する。図3は、本実施形態に係るプリンタ1の印刷時における処理の流れを説明するためのフローチャートである。プリンタ1が印刷要求を受け付けると、プリントジョブデータが信号処理部14に送られて、図3のフローチャートの手順に従って出力イメージに変換される。
印刷要求は、例えばホストコンピュータからプリントジョブデータの形態で受け付ける。プリントジョブデータは、典型的には図3に示すようにヘッダ部に画像データの色空間属性や大きさ、位置などの各種属性情報が書き込まれており、その後画像データの内容が続くものとして説明する。ここで、プリントジョブデータの色空間属性としてはホストコンピュータ上のアプリケーションで作成されたRGB形式のデータが一般的であったが、本実施例では、種々のデータ形式を扱えるようにしており、RGB形式のドキュメントデータ以外にもマルチバンドカメラで撮影して得られたマルチバンドデータなどを印刷することができるようにしている。
従って、色信号属性としては、一般的なモノクロ二値、RGBカラー、CMYKカラー以外に、本発明では更にMultiカラーという色信号属性を定義し処理できるようにする。Multiカラーでは、チャンネルの数は、多ければ多い程、高精度で撮影対象の分光反射率を復元できるが、装置の簡便さと撮影時間の短縮を考えると、6〜20チャンネル程度の方がよい。コンピュータでのシミュレーションによれば、実用的なチャンネル数は6チャンネル程度と思われる。
【0013】
まず、ステップS100においてプリンタ1の初期化を行なう。
初期化動作の具体例について、図4のフローチャートを用いて説明する。
初期化処理では、信号処理部14はステップS101においてインクカートリッジ25に設けられたEEPROMのそれぞれにアクセスし、インクカートリッジの種別情報を得る。次に、受け取ったジョブデータに含まれる画像データのヘッダに記述されている情報を元に色空間属性や出力モードの情報を読み取り、読み取った情報に応じてプリンタ1の動作の初期化などを行なう。具体的には、ステップS102において、ジョブデータ内の色空間属性を全て読み取って、Multiカラーの画像データが含まれるか否かを判定する。
ここで、Multiカラーの画像データが含まれるか否かの判定について説明する。受信したジョブデータは、信号処理部14内のRAM143に保持される。また、ジョブデータのヘッダ部分には色空間属性が記述されている。Multiカラー画像データかどうかの判定は、信号処理部14のCPUが、RAM143に保持されているジョブデータのヘッダ情報を読み取り、ヘッダにMulti画像という記述があるかどうかを判定することで行なわれる。ヘッダ部にMultiカラーが記述されていれば、そのジョブデータはMultiカラー画像データを含むということになる。
ジョブデータが複数のオブジェクトで構成されている場合には、オブジェクトごとに色信号属性が定義されているため、ジョブデータに含まれる全てのオブジェクトデータについて、そのオブジェクトデータのヘッダに記述されている色信号属性を読み取る。複数のオブジェクトデータのうち、1つでもMultiカラーの色信号属性が定義されているオブジェクトがあればMultiカラー画像を含むものとする。これにより、入力された画像データの属性を判定する判定手段が実現されている。
【0014】
図4に戻って、次に、ステップS103でインクセットの確認を行なう。インクセットの確認方法としては、判定結果に適するインクセットが装着されているか否かをインクカートリッジの種別情報に基づき調べる。例えば、プリンタ1において分光カラーマッチングを行なう場合、C、M、Y、K、O、Gの6つインクカートリッジで出力を推奨し、RGB形式のデータに対してはC、M、Y、K、Lc、Lmの6つのカートリッジで出力することを推奨しているとする。この場合、入力画像データにMultiカラー画像データが含まれる場合は、C、M、Y、K、O、Gの6つインクカートリッジが装着されているか否かを判定することになる。このようにして、分光カラーマッチング用のインクセットを使用する第1の画像出力手段と第1の画像出力手段と異なるインクセットを使用する第2の画像出力手段の使い分けをする選択手段の機能が実現されている。
判定の結果、適切なインクセットが装着されていない場合には、使用者にインクセットの交換を促すための表示を行ない、使用者がインクカートリッジを交換したら出力動作を再開する。このとき、使用者に対して選択したインクセットは通知手段によって通知される。なお、使用者が分光カラーマッチング用のインクカートリッジを有していないなどの理由で、強制的に装着済みのC、M、Y、K、Lc、Lmインクセットで出力したい場合については、装着済みインクでの出力を許可するようにしても良い。また、プリンタ・ドライバ上で上記のインクセット確認動作を行なわないようなモードを設定することも可能であり、その場合には後述するように装着済みのインクセット用の色変換パラメータを使って出力する。
以上の手順により、出力に使用するインクセットが確定したら、ステップS104で色変換処理を実行するための色変換パラメータを決定する。色変換テーブルは、入力データと印刷用紙上に色再現された場合の望ましいプリンタ出力データとを対応づけた多次元ルックアップテーブルであり、典型的にはプリンタ1のROM142等に記憶されている。
【0015】
色変換パラメータを決定したら、入力画像データの色属性と使用するインクセットに応じて、色変換パラメータが記述されているROM143のアドレスをRAM143の所定のメモリ空間にセットすればよい。以下に、その組み合わせ例を示す。
(1)CMYKOGインクセットを使用する場合
a)Multiカラー画像データ:分光波形一致用色変換パラメータ
b)Multiカラー画像データ以外:画質重視モード用色変換パラメータ
(2)CMYKLmLcインクセットを使用する場合
すべてのデータ:画質重視モード用色変換パラメータ
(3)その他のインクセットを使用する場合
CMYKインクが含まれていれば、CMYK出力用の色変換パラメータ
CMYKいずれかのインクが含まれていない場合は、出力動作を中止する。
上記(1)のパターンでは、MultiカラーとMultiカラー以外の画像データで画質重視の色変換パラメータと分光波形一致用の色変換パラメータの2種類の色変換パラメータを切り替えて使用する。Multiカラーでは、入力信号が6チャンネルなので分光波形一致の色変換パラメータは6入力6出力のルックアップテーブルとなり、入力波形と出力波形の一致性が最もよくなるように格子点のCMYKOG出力値が設計されている。
ここで、CMYKOG出力値の設計について説明する。どのような観察照明環境でも色が一致するようにするには、入力対象と同じ分光反射率を再現する分光的色再現を行なう必要がある。画像データをマルチカラーで受け取った場合には、撮影物体の分光反射率を近似的に再現できるため、オリジナルの分光反射率に似た分光波形を出力物でも再現することで観察光源に依存しない高度なカラーマッチングを実現できる。そこで、入力がマルチカラーの場合には、できるだけ入出力の分光波形が一致するような色再現を目指すことになる。具体的な出力値決定方法の例としては、推定した入力の分光反射率とCMYKOG出力値から計算した出力分光反射率の誤差を求め、誤差を最小とするCMYKOG出力値の値を収束演算により求める方法が考えられる。
【0016】
さて、Multiカラー以外の入力データに対しては、RGB入力CMYKOG出力であれば3入力6出力のルックアップテーブルを用い、その格子点のCMYKOG出力値は入力RGBの色彩値と一致し、かつインク消費と粒状性の観点で優位な出力値を使用するなど画質を重視したパラメータ設計を行なうことになる。Multiカラー以外の入力(例えば、RGB画像)の場合には、撮影物体の分光反射率を推定することができないため、分光波形が一致するような色再現は不可能である。
そのため、従来どおりの色度値を合わせるカラーマッチングを行なうことになる。但し、インクが6種類あるので、色度値の一致を行なうためのインクの組み合わせは複数存在する。そこで、画質を重視した出力値の組み合わせになるようなパラメータ設計を行なうのである。
例えば、グリーンの色再現としては、Gインクで再現する方法とCYで再現する方法があるが、Gインクで再現するよりもCYで再現するほうが粒状性が良いとすれば、CYを用いて再現するようにする。また、両者にあまり差がないのであれば、インク使用量が少なくて済むGインクで再現する。
ところで、パラメータとは、このインクセットではライトシアン(Lc)、ライトマゼンタ(Lm)、があるため、粒状性の目立ちやすいハイライト部分には、C、Mインクを出来るだけ使用しないで、Lc、Lmを使用し、濃度の高い色域でC、Mインクを出力するようなパラメータである。
【0017】
また、上記(2)の例では、分光カラーマッチングを行なう効果が乏しいため、Multiカラー画像及び非Multiカラー画像の両方に対し同じ画質を重視した色変換パラメータを使用する。但し、入力画像データがMultiカラーの場合6入力なので、6入力6出力のルックアップテーブルを使用し、非Multiカラー画像データに対しては、3入力6出力のルックアップテーブルを使用する。この方法によれば、使用者が強制的にCMYKLmLcインクセットを使用しようとした場合にも、出力動作を継続することができる。
上記(3)の例では、例えばCMYKLmGというように元来プリンタ1が想定していない組み合わせのインクセットを装着している場合が当てはまる。このような場合でもCMYKのみを使えば破綻のない画像に変換可能なので、CMYKで印刷することにより出力動作を継続できるようにする。但し、CMLmLcOGというような組み合わせに対しては、YKがないため色再現性が著しく劣化してしまうため、基本的に出力を許可しないようにする。
【0018】
上述したように、本発明では入力画像データにMultiカラーの属性を持つ入力画像データが含まれるか否かでそれに適した色変換パラメータを設定するようにしているが、ステップS105では色空間属性以外にも、出力モードなども読み取って、初期化を行なう。出力モードはプリンタ・ドライバなどで設定した種々の設定情報であるが、例えば、プリンタ・ドライバ上で設定した用紙の種類や、画質モードなどの情報に対応する。これらの情報により、紙種に応じて色変換パラメータを更に緻密に制御することもできるし、ディザ処理のマスクパターンを切り替えたりすることもできる。
初期化が終了すると、ステップS110において、ステップS104で設定した色変換パラメータを使用してジョブデータの色信号をプリンタ1が出力可能な色信号に変換する。色変換方法としては、公知のメモリマップ補間法を用いた色変換処理装置を使用することができる。メモリマップ補間法では色変換プロファイルとして設定した多次元ルックアップテーブルを使用する。即ち、分光カラーマッチング用のCMYKOGインクセットを使用する場合は、マルチバンドデータ及びRGB系の画像データそれぞれに対し、色変換パラメータを切り替えてメモリマップ補間演算を行なう。
また、CMYKLmLcインクセットを使用する場合、Multiデータ以外のデータをCMYKに変換後、C及びM信号をC+Lc及びM+Lmにルックアップテーブルに分解する。前記補間パラメータを使用することができないため、通常の色変換パラメータを用いて色変換を行なう。例えば、分光カラーマッチングには、C、M、Y、K、O、Gの6色のインクからなるインクセットを用いるため、6入力6出力の色変換テーブルを用いて色変換を行なうことになる。RGB系信号の場合には、3入力3出力の色変換パラメータを使用する。
CMYKLmLcインクセットを使用する場合は、入力画像データがMultiデータの場合、そのままでは色変換することができない。そこで、マルチバンドデータを一旦RGB画像やLab画像に変換してから、メモリマップ補間演算によりプリンタ信号に変換する。
次に、ステップS120で、コマンド形式のジョブデータをプリンタ1の解像度にあわせたラスタデータに逐次変換する。この際、同時にプリントジョブデータ中に記述されているオブジェクト情報や色空間情報を識別して、属性情報を持ったラスタデータも生成する。このように、色変換後にラスタライズ処理を行なうようにすることにより、Multiデータのバンド数が多い場合でも、ラスタ展開用のメモリが不足することはない。
ラスタライズが終わると、ステップS130でプリンタ1が再現できる階調数に減ずるためのハーフトーン処理を行なって、RAM143の一部として構成されるイメージバッファメモリに書き込む。この時、属性情報ビットマップの内容を読み取ることにより、ハーフトーン処理のディザマトリックスを切り替えたりして適応処理を行なうことが出来る。
以上の動作により、プリンタ1で出力するための出力データを作成が完了すると、印刷機構部にそのデータを送信して前述の出力動作を開始する。
また、上記実施例では、CMYKOGインクセットとCMYKLmLcインクセットを切り替える例を示したが、本発明はこれに限られるものではないが、分光波形を一致させる場合には、なるべく有彩色インク色相差が大きいほうが好ましく、少なくとも色相差が30度以上になるようなインクセットを使用する。一方画質を重視したインクセットでは、淡インクを使ったりするほうが粒状性がよいことが多く、また同じ色相のインクを2種類持てば階調数も増えることから画質を向上できる。そこで、画質重視の場合には、色相差が15度以内のインクを含むようにするのが望ましい。
【0019】
このように、第1の実施形態によると、入力された画像データの種別や色特性に基づいて、最適なインクセットを判定するようにしているため、インクセットの性能を充分に活用した高精度な分光カラーマッチングを行なうことが出来る。また、入力画像データにマルチバンドデータが含まれるか否かで異なるインクセットを用いるようにしているため、分光カラーマッチングが可能な場合に最適なインクセットを使用して画像出力することができる。
また、相互に30度以上の色相差を有する有彩インクをもつインクセットを使用しているため、メタメリズム現象を忠実に再現できる。また、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、オレンジ、グリーンを含むインクセットを使用しているため、高精度な分光カラーマッチングを行なうことが出来る。また、ほぼ同一色相の異なるインクを含むため、分光カラーマッチングの必要がない画像データに対して階調性或いは粒状性に優れた高画質な画像出力を行なうことが出来る。
また、淡シアンインク或いは淡マゼンタインクを含むため粒状性に優れた画像出力を行なうことができる。また、画像データの属性に適さないインクセットを装着している場合には、使用者に通知するようにしているため、画像出力装置の能力を最大限活かすことが出来る。
【0020】
[第2の実施形態]
前述の第1の実施形態では、2種類のインクセットを入力色信号の属性に応じて切り替えて使用する出力方法について説明した。本実施例では、より多くのインクセットを使用可能な例について説明する。ここでは、インクカートリッジ25には、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、ライトマゼンダ(Lm)、ブラック(K)、オレンジ(O)、グリーン(G)、ブルー(B)、マットグレイ(Mg)、フォトグレイ(Pg)の計11種類のインクが利用可能とする。
但し、同時装着可能なインクカートリッジは6種類とし、使用可能なインクセットはCMYKLcLm、CMYKOG、CMYKOB、CMYKGB、CMYKMgO、CMYKMgG、CMYKMgB、CMYKPgO、CMYKPgG、CMYKPgBの10種類とする。
ここで、マットグレイMgはカーボンブラックを希釈して組成したグレイインクであり、波長によらずフラットな分光反射率特性を有する。一方、フォトグレイPgはCMYを混色して組成したグレイインクであり、分光反射率特性は凹凸を有する。グレイインクを使用することで、C、M、Yを重ね打ちするよりもインクの濃度変動に影響されにくいグレイ色再現が可能となるが、分光反射率特性が異なるために光源メタメリズムとしては異なる。
すなわち、フォトグレイPgは、光源が変わると色味が変わって見えるのに対し、マットブラックは光源によらず常に安定したグレイ再現が可能である。逆に言えば、入力信号が光源変化しやすい信号の場合には、フォトブラックを用いたほうが分光的に一致した色再現を実現できる。同様に、同じグリーンを再現する場合でも、YとCを混ぜてグリーン色を再現するのとGインクを用いてグリーン色を再現するのでは、その分光特性によって使用するインクを変えたほうがよい結果が得られる。
しかしながら、すべてのインクを同時装着すると装置が大型化しコストが高くなってしまい、インク数が限定されてしまう場合、出力画像に応じてもっとも適したインクセットを使用するようにカートリッジを交換しなければならない。このように、入力されたマルチバンドデータによって最適なインクセットが変わるため、本実施例では、入力データごとに分光カラーマッチングに最適なインクセットを判定するようにする。
【0021】
(印刷動作の流れ)
次に、処理動作について説明する。
図5は、信号処理部14の機能ブロック図である。
信号処理部14は、入力データに基づいて各種インクセットのメタメリズム特性を計算するメタメリズム予測モジュール40、メタメリズム予測結果からインクセットを決定するインクセット決定部41、各種インクセットに対応した色変換パラメータを記憶している色変換パラメータ記憶部42、色変換処理を行なう色変換処理部43、色変換処理に使用する色変換パラメータを一時的に記憶する色変換パラメータメモリ44などで構成される。
まず、入力画像データを受け取ると、入力データの属性を判定する。そして、入力データがMultiカラーデータの場合には、複数のインクセットについてメタメリズム特性を評価し、メタメリズムが最も少なくなるようにインクセットを決定する。インクセットが決まると、対応する色変換パラメータを色変換パラメータから読み出して色変換パラメータメモリにロードする。こうして、色変換パラメータがロードされたら入力画像データをロードされた色変換パラメータを使用して色変換する。
【0022】
(メタメリズム特性算出部の説明)
図6はメタメリズム特性を評価する評価方法を説明するフローチャートである。この中でメタメリズム特性を評価する評価手段が実現されている。メタメリズム特性としては、たとえば複数の観察光源環境下での色差の平均値などを用いることができる。以下にメタメリズム特性値の計算手順について詳述する。
(1)Multiバンドデータから分光反射率Ri(λ)を推定する。この推定方法は例えば特許文献2に提示された方法などを利用できる。
(2)次に、推定した分光反射率Ri(λ)に基づきA光源とD65光源それぞれの色彩値を計算する。まず、各光源に対応するXYZ刺激値を求める。計算式を以下に示す。






ここで、P(λ)は光源の分光輝度であり、A光源、D65光源それぞれ異なる。また、x(λ)、y(λ)、z(λ)は、等色関数を意味する。上式でXYZ三刺激値が求まると、色差を求めるためにCIEで標準化されている変換式を用いてLab或いはCIECAMなどの信号へ変換する。例えば、Lab信号への変換式は以下のとおりである。
L*=116(Y/Yw)1/3−16
a*=500{(X/Xw)1/3−(Y/Yw)1/3
b*=200{(Y/Yw)1/3−(Z/Zw)1/3
以上の計算により、A光源環境時のLab値及びD65光源環境時のLab値をそれぞれ計算する。
同様に、出力の色彩値も各光源ごとに計算する。出力の色彩値を計算するには、まず出力の分光反射率から求める必要がある。
【0023】
(3)出力信号の計算
まず、メタメリズムを評価するインクセットに対応する色変換パラメータを用いて、出力色信号を求める。例えば、CMYKOGのインクセットのメタメリズムを評価する場合、マルチバンドデータをCMYKOG出力値に変換する色変換パラメータを用いる。この時の色変換の入力には、前述した(1)と同じマルチバンドデータを使用する。
(4)分光反射率の推定
マルチバンドデータに対する出力信号値を求めたら、その分光反射率を求める。このため、予め代表的な出力値の組み合わせでパッチを出力して測色した測色データに基づいて色予測モデルを構築しておく。そして、構築した色予測モデルを用いて出力信号値を分光反射率データに変換する。色予測モデルとしては、ユールニールセン−ノイゲバウアモデルやクベルカムンクモデルなどを利用できる。
(5)出力色彩値の計算
上記で出力の分光反射率を計算した後、前述の(1)(2)と同様にLab値に変換する。
【0024】
(6)色差の計算
上記手順で求めた色彩値を用いて、光源ごとに色差を計算する。色差式としてはDeltaE2000色差式が望ましいが、CIE94色差式など他の色差式を用いても構わない。例えば、光源Sにおける入力マルチバンドデータのLab値と出力のLab値の色差をδ(S)とすると、A光源とD65光源でそれぞれ求めた色差からメタメリズム評価値を算出する。メタメリズム評価値Dとしては、
評価値D=(δ(A)2+δ(D65)21/2
として計算できる。
以上により、任意のマルチバンドデータに対するメタメリズム評価値が求まるが、入力画像データの各画素に対し上記計算を繰り返し行ない、その平均値などを使用する。また、上記はCMYKOGインクセットの例について説明したが、インクセット決定時には全てのインクセットに対して、上記計算を行なって評価値が最小となるインクセットを決定することになる。このようにして、評価手段による結果に基づいてインクセットを決定する第1の決定手段が実現されている。
メタメリズム特性値としては、この複数光源の色差の統計値を使うことが出来る。統計値としては、色差の最大値でも、平均値でもよい。ここでは、平均値を使うものとする。以上の計算は、メタメリズム特性値の計算負荷が大きいため、リアルタイム処理には不向きである。そこで、実際にプリンタ等に出力する場合には、実行する際は計算したメタメリズム特性値を予めルックアップテーブルに設定して、補間演算により計算するのが望ましい。
例えば、入力データが6バンドデータで、インクセットの数が10種類存在するとする6入力10出力の補間演算によってメタメリズム特性を計算する。以上の計算により、各インクセットのメタメリズム特性が予測できるため、予測した特性値を用いてインクセットを決定する。例えば、10種類のインクセットそれぞれについてメタメリズムを予測したら、最もメタメリズムの小さいインクセットを使用するようにする。また、インクセットの確認については、毎回行なう必要はなく、ユーザが所定の確認を指定した場合のみ行なうようにしても良い。
このように、実施例2によると、複数のインクセットに対しメタメリズム特性を予測しているため、多数のインクセットが使用可能な場合でも入力画像データに適したインクセットを使用することができる。また、メタメリズム特性値をルックアップテーブルに保持しているため、メタメリズム特性値を高速に計算することが出来る。また、複数の観察条件での色差の統計値を使用してインクセットを判定しているため、高精度な分光カラーマッチングを行なうことが出来る。
【0025】
[第3の実施形態]
第3の実施形態では、入力画像データの色分布を解析し、その色分布に適したインクセットを使用して出力を行なう方法について示す。インクセットごとに色域の情報を記憶しておき、入力画像の色域と比較することによりインクセットを決定する。
図7は、本実施例のインクセット決定方法を説明するフローチャートであり、この中で、読み取った色域情報に基づいて使用するインクセットを決定する第2の決定手段が実現されている。本実施例では、入力画像データには予め入力画像データの色範囲が属性情報として記述されているものとするが、属性情報が記述されていない場合には、計算して求めるようにしても良い。
図7のフローチャートの概要を説明すると、まず、ステップS300において、属性情報から入力画像データの色域を読み取る。色域情報としては、例えばLab空間をn×m×l分割した格子点のそれぞれに、色域内か外かのフラグ情報を記述するようにすればよい。次に、ステップS301において予め用意しているインクセットごとの色域情報との比較を行なう。インクセットごとの色域情報も、入力画像と同様に3次元色空間を分割した分割空間ごとに再現可能な場合はフラグ0、再現不可能な場合はフラグ1を記述したテーブルを持つ。そして、色空間領域ごとにフラグと三次元ヒストグラムの度数を掛け合わせることにより、再現域外の画素数を求める。
【0026】
ここで、図7のフローチャートに基づく処理を詳述する。第3の実施形態では、インクセットの決定処理を高速化するためにインクセットごとの色域情報を予め信号処理部14のROM142(インクセット特性記憶手段)に記録する。インクセットごとの色域情報としては、Lab空間などのデバイス非依存な色空間を細分割し、その分割空間ごとに再現可能か否かを判定するためのフラグを記述しているものとする。
上記の分割例を図8に示す。図8の例では、Lab空間を各軸10分割している。この例では、L軸の範囲はL=0〜100、a、b軸の範囲は、−150〜150としているので、1つの分割空間はΔLが10、Δaが30、Δbが30となる。ここで、分割数に関しては特に制約はなく、もっと細かく分割しても構わないし、軸により分割数が異なっても構わない。ここで説明の都合上、所定の色域情報をGT(x,y,z)で表すとする。但し、
x=(int)(L/10)
y=(int)((a+150)/30)
z=(int)((b+150)/30)
である。
言い換えると、GT(x,y,z)の値は、(10x)<=L<(10(x+1))、(30y−150)<=a<(30(y+1)−150)、(30z−150)<=b<(30(z+1)−150)の色域がインクセットで再現可能か否かを示しており、再現可能な場合は0、再現不可能な場合は1が割り当てられている。これらの色域情報テーブルは、プリント出力可能なインクセットの全てに対して用意されているものとする。
【0027】
次に、画像データが入力され、出力が指示されると、ステップS300において、入力画像の色分布を求める。色分布を求めるには、
1)入力画像の各画素ごとにRGB→Lab変換を行なう。例えば、RGB信号の色特性がsRGBに準拠しているならば、CIE61966−2−2で定義されている変換式を用いることによりLab値を計算できる。
2)次に、求めたLab値を基にヒストグラムを更新する。ヒストグラムの分割数は、前述のインクセットの色域情報と同じにする。例えば、入力画素値から算出したLab値が[40,20,−30]とする。このとき、x=4、y=5、z=4なので、GTI(4,5,4)の値をインクリメントする。ここで、GTIは入力画像の3次元ヒストグラムを記述するテーブルを意味しており、テーブル値には分割空間に含まれる画素数が格納されることになる。
次に、ステップS301において前述したインクセットの色域情報テーブルと入力画像データの3次元ヒストグラムを用いてインクセットにて再現できない色の画素数Pを以下の計算式により算出する。

即ち、GT(x,y,z)は、再現域外の場合1の値となっているので、上式は入力画像データのうち再現域外の画素数をカウントしていることになる。このようにして、Lab空間の全色空間について色域外の画素数をカウントすることにより色域外の総画素数を求めることができる。
上記の演算を全てのインクセットに対して行なった後、ステップS302においてインクセットを決定する。本実施例では、色再現域外の画素Pが最も少ないインクセットを使用することにする。
但し、入力画像データの色域が狭い場合には、色域外の画素がほとんどなくなってしまい色域外の画素数という条件のみではインクセットを決められなくなる可能性がある。このように入力画像の色域が狭く複数のインクセットが候補になる場合には、別の条件(速度、画質、インク消費量など)に基づいて決める。
この条件を自動で判定するようにしても良いが、主観的に決定しても構わない。主観的に決定する場合には、予め画質や速度を考慮して使用するインクセットの優先順位を決めておけば、上記複数の候補となるインクセットから最も優先順位の高いインクセットを使用すればよいことになる。
【0028】
このように、第3の実施形態によると、色域に基づいてインクセットを決定しているため、色再現できない色を最小に抑えたインクセットを容易に決定することができる。また、各インクセットに対応する色域情報を記憶するインクセット特性記憶手段を具備しているため、インクセットごとの色域を毎回計算しなくて良い。また、各インクセットの色域と入力画像データの色域の抱合関係を評価しているため、入力画像の色範囲に適したインクセットを容易に決定することができる。
【0029】
[第4の実施形態]
上記実施形態では、最適インクセット決定方法はプリンタ1の内部で行なうものとして説明したが、プリンタ1とは独立した装置で行なっても構わない。また、ホストコンピュータにおいて、プリンタ・ドライバでソフトウェアの形態で行われても良い。図9は上記最適インクセット決定方法を実現する装置を示す図である。図9に示すように、本実施の形態の色信号処理装置は、マイクロコンピュータを含んで構成された装置本体10、データやコマンドを入力するためのマウス11a及びキーボード12a、画像データを表示するためのディスプレイ13a、及びカラープリンタなどの画像形成装置としてのプリンタ14aから構成されている。
装置本体10は、CPU21a、CPU21aの制御プログラム等が記憶されているROM22a、RAM23a、ハードディスク24a、本体と他の装置との間でデータ等をやりとりするためのNIC25a及びこれらをデータやコマンドが入出力可能なように接続されたバスから構成されている。このシステムにおいて、本発明の最適インクセット決定方法としての機能をCPU21aに持たせることができる。
【0030】
なお、CPU21aにおけるこのような最適インクセット決定方法としての機能は、例えばソフトウェアパッケージ、具体的にはCD−ROM等の情報記録媒体−の形で提供することができ、このため、図9の例では、情報記録媒体30がセットさせるとき、これを駆動する媒体駆動装置としてのプログラム読取装置31が設けられている。
換言すれば、本発明の最適インクセット決定方法は、ディスプレイ等を備えた汎用の計算機システムにCD−ROM等の情報記録媒体に記録されたプログラムを読み込ませて、この汎用計算機システムのマイクロプロセッサに最適インクセット決定方法を実行させる装置構成においても実施することが可能である。
この場合、本発明の最適インクセット決定方法を実行するためのプログラム、すなわちハードウェアシステムで用いられるプログラムは媒体に記録された状態で提供される。プログラムなどが記録される情報記録媒体としては、CD−ROMに限られるものではなく、ROM、RAM、フレキシブルディスク、メモリカード等が用いられても良い。
媒体に記録されたプログラムは、ハードウェアシステムに組み込まれている記憶装置、例えばハードディスク24aにインストールされることにより、このプログラムを実行して、色変換機能及び色変換プロファイル生成機能を実現することができる。また、上述した最適インクセット決定方法を実現するためのプログラムは、媒体の形で提供されるのみならず、通信によって例えばサーバによって提供されるものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を実施形態であるプリンタ1の概略機能構成を説明するためのブロック図である。
【図2】印刷機構部12の概略構成を示す図である。
【図3】プリンタ1の印刷時における処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図4】初期化動作のフローチャートである。
【図5】信号処理部14の機能ブロック図である。
【図6】メタメリズム特性を評価する評価方法を説明するフローチャートである。
【図7】インクセット決定方法を説明するフローチャートである。
【図8】実施例3における色域の分割例を示す図である。
【図9】最適インクセット決定方法を実現する装置を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 プリンタ、10 装置本体、11 制御装置、11a マウス、12 印刷機構部、12a キーボード、13 インターフェース、13a ディスプレイ、14 信号処理部、14a 画像形成装置、15 駆動回路部、16 ユーザインターフェース部、21 無端ベルト、21a、141 CPU、22 キャリッジモータ、22a、142 ROM、23 キャリッジ軸、23a、143 RAM、24 搬送モータ、24a ハードディスク、25 インクカートリッジ、25a NIC、30 情報記録媒体、31 プログラム読取装置、121 印刷ヘッド、122 キャリッジ、123 搬送ローラ、151 印刷ヘッド駆動回路、152 キャリッジ駆動回路、153 搬送ローラ駆動回路、P 印刷用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラー画像データを入力する入力手段と、
入力された画像データの属性を判定する判定手段と、
分光カラーマッチング用のインクセットを使用する第1の画像出力手段と、前記第1の画像出力手段と異なるインクセットを使用する第2の画像出力手段とを含む複数のインクセットと、
前記画像データの属性に基づき、前記インクセットを選択する選択手段とを具備することを特徴とする画像出力装置。
【請求項2】
前記選択手段は、前記画像データにマルチバンドデータが含まれるか否かで使用する前記インクセットを判定することを特徴とする請求項1記載の画像出力装置。
【請求項3】
前記分光カラーマッチング用のインクセットに含まれる有彩インクは、相互に30度以上の色相差を有することを特徴とする請求項1記載の画像出力装置。
【請求項4】
前記分光カラーマッチング用のインクセットは、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、オレンジ、グリーンを含むことを特徴とする請求項1記載の画像出力装置。
【請求項5】
前記第1の画像出力手段と異なるインクセットに含まれる有彩インクには、色相差が15度以内のインクが含まれることを特徴とする請求項1記載の画像出力装置。
【請求項6】
前記第1の画像出力手段と異なるインクセットは、淡シアンインク或いは淡マゼンタインクを含むことを特徴とする請求項1記載の画像出力装置。
【請求項7】
インクセットの交換が可能であって、
前記選択手段によって選択された出力手段が使用不可能な場合には、使用者に選択したインクセットを通知する通知手段を具備することを特徴とする請求項1記載の画像出力装置。
【請求項8】
前記画像データにマルチバンドデータが含まれる場合には、前記複数のインクセットの各々についてメタメリズム特性を評価する評価手段と、
前記評価手段による結果に基づいてインクセットを決定する第1の決定手段と、
前記第1の決定手段により決定したインクセットを用いて画像出力を行なうことを特徴とする請求項1記載の画像出力装置。
【請求項9】
前記評価手段は、前記複数のインクセットで前記画像データを再現した時のメタメリズム特性値を出力値とするルックアップテーブルを具備し、前記ルックアップテーブルを用いて、メモリマップ補間演算を実行してメタメリズム特性値を求めることを特徴とする請求項8記載の画像出力装置。
【請求項10】
前記複数のインクセットのそれぞれに対応した色変換パラメータを用いて入力データを色変換し、前記画像データと色変換後の再現色の色差を複数の観察条件について求め、複数の観察条件における色差の統計値をメタメリズム特性値とすることを特徴とする請求項9記載の画像出力装置。
【請求項11】
前記属性の情報は、前記画像データの色域情報であって、読み取った色域情報に基づき、使用するインクセットを決定する第2の決定手段を具備することを特徴とする請求項1記載の画像出力装置。
【請求項12】
前記第2の決定手段は、各インクセットに対応する色域情報を記憶するインクセット特性記憶手段を具備することを特徴とする請求項11記載の画像出力装置。
【請求項13】
前記第2の決定手段は、前記インクセット特性記憶手段から読み取った各インクセットの色域と入力画像データの色域の抱合関係を評価することによりインクセットを決定することを特徴とする請求項12記載の画像出力装置。
【請求項14】
入力された画像データがマルチバンドデータか否かを判定する工程と、
前記画像データがマルチバンドデータの場合には、前記画像データを分光カラーマッチング用のインクセットの制御信号に変換して出力し、
前記画像データがマルチバンドデータでない場合には、分光カラーマッチング用のインクセット以外のインクセットの制御信号に変換して前記画像データを出力することを特徴とする画像出力方法。
【請求項15】
画像データに基づいて、複数のインクセットの各々についてメタメリズム特性を評価する工程と、
前記メタリズム特性の評価結果に基づいて、インクセットを決定する工程と、
前記インクセットを決定する決定工程により決定したインクセットを用いて画像出力を行なう工程とを有することを特徴とする画像出力方法。
【請求項16】
入力画像データの色域情報を読み取る色域情報取得工程と、
前記色域情報取得工程で取得した色域情報に基づき、インクセットを決定する工程と、
前記色域情報に基づき決定したインクセットを用いて画像データを出力する工程とを具備することを特徴とする画像出力方法。
【請求項17】
入力された画像データに基づいて出力信号に変換するためのプログラムを記録した記録媒体であって、
前記画像データの属性情報を読み取る手順と、
前記属性情報からマルチバンドデータが含まれるか否かを判定する手順と、
マルチバンドデータが含まれるか否かの判定結果に従って、使用するインクセットを決定する手順とをコンピュータに実行させるプログラムを記録したことを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−159709(P2006−159709A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356078(P2004−356078)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】