説明

畜舎の家禽ウイルス病防止方法

【課題】少なくとも壁と壁により支持された屋根から成る本体を有する畜舎の家禽ウイルス病防止方法を提供する。
【解決手段】壁2の内面及び屋根3の内面に接して金網4を配設し、この金網4に密着させて各所に空気出口を形成された隔離膜部材5を配置する。外気取り込み口8から取り込んだ外気を浄化装置7で殺菌し、換気扇9にて畜舎1内に送入し、畜舎内の気圧を外気圧よりも水柱5〜20mmに高圧に維持する。与圧された室内空気は、隔離膜部材5の空気出口、金網4と壁2、屋根3との隙間を通って空気排出口12から排出され、温度、湿度、気流が均一な内部環境が維持されると共に外部からの細菌の侵入を阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜舎の家禽ウイルス病防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高病原性ウイルスの発生による家禽への伝染と発病が各地で数箇所に見られ、家禽飼育者に莫大な損失が生じて問題となっている。この高病原性ウイルスの発生の伝染経路は、渡り鳥などの野鳥によるものと推測されている。
【0003】
現在の家禽飼育用施設つまり鶏舎は、開放的であり、ミクロン(μm、以下同様)単位の大きさのウイルスの侵入には無防備に近く、ウイルス防除は困難である。 微細な侵入物を防除する施設としては、微細な固体の集結物である電子部品加工品を生産する施設にクリンルームが採用されている。しかし、これは微細なごみの除去が目的であってウイルスの除去が目的でないので、鶏舎に採用することはできない。
【0004】
また、ウイルスは、3ミクロン以上の大きさの塵埃であれば、この塵埃に容易に取り付いて容易に拡散できる特性を持っている。したがって、3ミクロン以上の大きさの塵埃を除去できさえすれば無菌室を作り出すことはできる。
【0005】
この考え方は植物の組織培養による栽培法において無菌室の形成に使われている。これは、病菌の侵入を防止するために3ミクロン以上の物質が入らないように、フィルタにより浮遊塵を精選する方法である。
【0006】
しかし、それはあくまでも建設当初からそのように設計されるものであって、既設の畜舎に適用しようにも、畜舎の建て替え以外には適用できない。また、適用したとしても建設費用が高すぎて採算に合わない。
【0007】
したがって、従来、病菌を持った野鳥、野生動物、鼠等が施設内に進入しないように細かい網を壁部に設けて、病菌伝染の被害を防止するという方法が主力であった。
【0008】
また、家禽の高病原性ウイルスが人間に感染した場合の悪影響も懸念されている。人間が高病原性ウイルスに感染した場合、往年のスペイン風邪よりも悪質な病状になることが予測されている。
【0009】
そして、国又は地方自治体は、その防除に懸命であり、また、畜舎における細菌防除と消毒は、緊急を要するものとなっている。そのうち消毒については種々な消毒体系が形成されて消毒が実施されている。例えば、オゾン水散布用具を用いて家禽及び畜舎内にオゾン水を散布して、感染性病原菌やウイルスの殺菌・不活性化を図って、養鶏施設の衛生管理を行うことが提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開2005−253378号公報(要約、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に示されている技術は、家禽飼育者がオゾン水撒布用具を用いて家禽及び畜舎内に撒布し、ウイルスを殺菌するものであり、家禽及び畜舎内に満遍なく撒布することは困難であると考えられる。
【0011】
他方、ウイルスに代表される微細な病原菌は、無菌室以外の施設では、上述したように3ミクロン以上の塵埃に付着して容易に侵入してくるので、これを防除するには、細かい網の配設程度では無理であって、無菌状態の外気を導入する以外には伝染の被害を防止する方法がない。
【0012】
つまり、現状では、細菌防除、とくに高病原性ウイルスの家禽への感染を防止する方法は確立されていない。また、この細菌防除には、施工が簡単で従来の鶏舎が使用できるものであることが要求される。
【0013】
本発明の課題は、上記従来の実情に鑑み、既存の鶏舎を気密に保ち、その鶏舎内に正常な空気を導入して常に鶏舎内の空気を正常な空気と入替えることにより、高病原性ウイルスによる家禽の発病を防止する畜舎の家禽ウイルス病防止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の畜舎の家禽ウイルス病防止方法は、少なくとも壁と該壁により支持された屋根から成る本体を有する畜舎の家禽ウイルス病防止方法において、上記壁の内面及び上記屋根の内面に接して配設された金網と、該金網に近接して配置され、内部を気密に維持するための柔軟隔離膜部材と、外気を上記本体内に取り込む外気取り込み口と、該外気取り込み口に配設された浄化装置と、該浄化装置により殺菌され上記外気取り込み口から取り込まれる外気を上記本体内に送風して該本体内の気圧を外気圧よりも高圧に維持する送風機と、上記本体内の空気を上記本体外部に排出する排気口と、を備えて構成される。
【0015】
この畜舎の家禽ウイルス病防止方法においては、例えば、上記送風機により送風される風路の開口を大小変化させる風量調節部を更に備え、該風量調節部による風量調節により上記本体内の圧力を一定の高圧に維持するように構成される。
【0016】
また、上記浄化装置は、例えば、オゾン発生装置でもよく、また、例えば、紫外線発生装置であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、畜舎内に浄化装置により殺菌した空気を満遍なく送風して畜舎内を一定圧に与圧し、温度、湿度、気流等の室内環境が均等になるように換気扇数、排気口等の配置を設定するので、外部からのウイルスの侵入を防止する畜舎の家禽ウイルス病防止方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1は一実施の形態における家禽用畜舎の本体構成を示す図である。同図は、左上に平面図を一部透視的に示し、そのA−A´断面矢視図を下に示し、B−B´断面矢視図を右に示している。
【0020】
図1に示すように、鶏舎本体1は、少なくとも壁2と、この壁2に支持された屋根3を備えている。尚、側には図示しないが、壁2には補強用の柱が要所要所に設けられて、また、屋根3には補強用の梁が、屋根に添い付けるようにして設けられている。この鶏舎本体1は、従来使用されていた既存の畜舎を、そのまま用い、建物の強度は既設の建物により保持するようにするので、経済的に構成することができる。
【0021】
そして、本発明の畜舎の家禽ウイルス病防止方法では、鶏舎の内部圧力を高くして正常な空気を送入して、鶏舎内にウイルスが侵入しないようにする。そのために、鶏舎内を外
部と遮断するために鶏舎内壁に沿って6面体の隔壁膜を設置する。
【0022】
その前段の工程として、まず、金網4が壁2の内面及び屋根3の内面に、ほぼ密着するように張り巡らして配置される。この金網4を配設することで、畜舎内への鼠などの侵入を防止している。
【0023】
更に、金網4の内側(鶏舎室内側)に隔壁膜5を密着させて配置する。この隔壁膜5は鶏舎内を外気から気密に保つために配設される。
【0024】
鶏舎本体1として従来のものを使用するときに、内部に隔壁膜5を設ける際、隔壁膜5を壁に密着させる膜張り作業に障害となる柱や梁等の凸状部分が存在するが、隔壁膜5が屋根3や壁2の内側に室内の与圧で密着するように裁断し、切断部分は両面接着シートなどで接着して組み立て時に完成させる。
【0025】
このようにして建物の内側に設けた隔壁膜には予め計算により求めた換気量のとき与圧で水柱5〜20mmの空気圧が鶏舎本体1の室内に発生するように隔壁膜5には要所要所に空気出口孔が設けられている。これにより、規定の換気量と与圧による隔壁膜5と屋根3及び壁2との密着を実現できる。
【0026】
また、屋根3の幅方向中央には、長手方向に1本の隔壁膜懸架用梁10が張られており、更に屋根3と左右の壁2との接合部内側にもそれぞれ隔壁膜懸架用梁10が張られている。隔壁膜5は、これらの隔壁膜懸架用梁10の裏側を通して、鶏舎本体1の内面、すなわち金網4に添い付けて懸架されて配置される。
【0027】
この隔壁膜5としては、特に限定されるものではないが、ビニール、ポリプロピレン又はナイロンなどの樹脂シートを用いるのが好ましい。尚、ビニールは、価格が安いだけでなく、金網5に密着させやすい性質であるので本実施の形態に用いるのに適している。
【0028】
このようにして密閉された鶏舎本体1の壁面6には、適宜な間隔で複数の浄化装置7が備えられる。浄化装置7の下方には空気取り入れ口8が配置され、浄化装置7と壁面6との間には換気扇9が配置される。そして、換気扇9と浄化装置7との間に風量調節板11が配設される。
【0029】
上記の浄化装置7は、オゾン発生装置又は紫外線照射装置等が用いられる。もちろんオゾン発生装置や紫外線照射装置に限ることなく、例えば、ウイルスが死滅する程度に加熱された高温空気発生装置でもよい。
【0030】
尚、地上は比較的風が強く塵埃が舞い上がるが、このような塵埃が舞い上がる地上近傍よりも少なくとも屋根以上高い上空には、塵埃の少ない比較的清浄で新鮮な空気が存在する。この少なくとも屋根以上高い上空の空気を取り込む煙突状の空気取り込み口を設けて、この空気取り込み口からの新鮮な空気を浄化装置7に取り込むようにしてもよい。
【0031】
また、浄化装置7の配設位置は、壁面と限ることなく、屋根3に取り付けても良い。屋根以上高い上空の新鮮な空気を取り込むときは、浄化装置7を屋根3に取り付けたほうが、長い煙突状の空気取り込み口を設ける必要がないので簡単な構成で済む。
【0032】
また、鶏舎本体1の壁面6の下方には、適宜の間隔で多数の空気排出口12が設けられている。本例においては、上記の隔壁膜5で囲まれた鶏舎本体1内に、浄化装置7により殺菌された空気、又は上空の清潔な空気を、換気扇9により圧力を加えて、家禽の健康に必要とする最小空気量を鶏舎内に送入する。
【0033】
畜産業では、例えば牛の場合であれば¥100単位で節減すべき経費を計算するが、鶏の場合は¥0.01単位で経費節減を図らないと利益が出ない。したがって、送風には、家禽の健康が維持できる最小の空気量を送風できる最小馬力の送風機を用いなければならない。
【0034】
隔壁膜5で密封された鶏舎本体1の室内に送入された殺菌空気又は新鮮空気の排気は、隔壁膜5の要所要所に設けられた空気出口孔から金網4側に抜け、金網4と鶏舎本体1の内壁との間に形成されている僅かな隙間を通り、屋根部(屋根3に空気抜きが予め配置されている畜舎の場合)あるいは通常では大抵の畜舎に設けられている壁部の空気排気口から外部に送出される。
【0035】
上述したように隔壁膜5の要所要所には複数の空気出口孔が形成されている。この空気出口孔は、屋根部または壁部の空気排気口までの離散距離を勘案し、内部の環境が温度、湿度、気流等において均一になるように予め計算された位置に形成される。
【0036】
一般に、鶏の炭酸ガス発生量は、体重1kgあたり、1時間で714mlであり、酸素消費量は739mlである。気温の上下により呼吸量も異なるので、それに見合った空気量を送るものとする。
【0037】
また、例をブロイラー飼育にとれば、孵化後30時間から35時間で約40gの雛を、55日で2.8kgの出荷体重に仕上げる場合、飼育規模は開放式の場合は1000羽から6000羽/棟、閉鎖式の場合は1万羽〜3万羽/棟である。
【0038】
飼育密度は、木造の開放式で35羽〜45羽/3.3m^2、鉄骨の閉鎖式では45羽〜55羽/m^2であるが、中抜きをする場合は70羽〜100羽/m^2を入雛する。
【0039】
図2は、鶏の体重別全発生熱量を示す図である。同図は横軸に温度(℃)を示し、縦軸に生体重1kg当りの発生熱量(kcal/kg・h)を示している。
【0040】
閉鎖式畜舎の設計に当たっては、夏季、高温時における鶏舎内の気温上昇を抑制するために、図2の鶏の体重別全発生熱量を勘案しながら、最大必要換気量を求める必要がある。この算定に当たっては、設計上次の熱収支式が成立するものとする。
【0041】
Qs=qv−qtb ・・・・・・・・・・・・(1)
ここで、qvは換気によって失われる熱量(kcal/h)であり、qtbは日射による貫流取得熱量(kcal/h)である。なお、qv及びqtbは、次の二式によって求められる。
【0042】
qv=0.3V(ti−to) ・・・・・・・(2)
qtb=A・K(tθ−ti) ・・・・・・・(3)
上記の0.3は「空気の比熱0.2kcal/kg℃×空気の比重量」から得られる空気の体積比熱(kcal/m3℃)である。また、Vは換気量(m3/h)であり、tiは舎内気温(℃)、toは舎外温度(℃)、Aは面積(m2)、Kは壁・天井の平均熱貫流率、tθは経験的に知られている外気温よりも5℃高く設定された温度すなわちtθ=to+5(℃)である。
【0043】
ここで、式(1)に式(2)及び式(3)を代入すれば次式が得られる。
Qs=0.3V(ti−to)−(A・K(tθ−ti)・・・・・(4)
ゆえに
V=(1/3){Qs/(ti−to)+A・K(tθ−ti)/(ti−to)}・・・・・(5)
【0044】
一般に、式(5)において、舎内外の気温差(ti−to)を1〜2℃としてVを求める。Vが求まれば、換気扇1台の送風量(静圧3〜4mmAqのときの送風量、Aqは水柱圧)で除して、必要な全換気扇台数が決定される。
【0045】
このようにして、図1に示した本発明の家禽用畜舎の本体構成における殺菌空気または清浄空気による換気によって、畜舎内の無菌状態が維持され、畜舎の家禽ウイルス病防止方法が実現する。
【0046】
本実施の形態によれば、ウイルスに対しては無防備に近い現在の鶏舎をそのまま使用し、金網、隔壁膜、浄化装置を設置するだけで、ウイルスの侵入を防止することができる。
【0047】
これにより、無菌状態を保つ畜舎を新たに建設する必要がなく、畜産業者にとっては、経済性に優れているだけでなく近隣地区の家禽病発生時には短時間に対処できて、家禽病の拡大防止に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】一実施の形態における家禽用畜舎の本体構成を示す図である。
【図2】鶏の体重別全発生熱量を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 鶏舎本体
2 壁
3 屋根
4 金網
5 隔壁膜
6 壁面
7 浄化装置
8 空気取り入れ口
9 換気扇
10 隔壁膜懸架用梁
11 送風量調節板
12 空気排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも壁と該壁により支持された屋根から成る本体を有する畜舎の家禽ウイルス病防止方法において、
前記壁の内面及び前記屋根の内面に接して配設された金網と、
該金網に近接して配置され、内部を気密に維持するための柔軟隔離膜部材と、
外気を前記本体内に取り込む外気取り込み口と、
該外気取り込み口に配設された浄化装置と、
該浄化装置により殺菌され前記外気取り込み口から取り込まれる外気を前記本体内に送風して該本体内の気圧を外気圧よりも高圧に維持する送風機と、
前記本体内の空気を前記本体外部に排出する排気口と、
を備えたことを特徴とする畜舎の家禽ウイルス病防止方法。
【請求項2】
前記送風機により送風される風路の開口を大小変化させる風量調節部を更に備え、該風量調節部による風量調節により前記本体内の圧力を一定の高圧に維持する、
ことを特徴とする請求項1記載の畜舎の家禽ウイルス病防止方法。
【請求項3】
前記浄化装置は、オゾン発生装置である、
ことを特徴とする請求項1記載の畜舎の家禽ウイルス病防止方法。
【請求項4】
前記浄化装置は、紫外線発生装置である、
ことを特徴とする請求項1記載の畜舎の家禽ウイルス病防止方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−263839(P2008−263839A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110379(P2007−110379)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000111292)ネポン株式会社 (24)
【Fターム(参考)】