説明

異物検知装置

【課題】異物の誤検知を緩和した異物検知装置を提供する。
【解決手段】背景データ取得部10は、撮像装置2の出力するライン状の強度画像のうちの閾値判定部22で異物が検知されなかった画像を、背景保存ウィンドウサイズ40aのデータ量だけ背景データとして保存し、背景ウィンドウサイズ40b分の強度値から閾値13aを算出する。異物検知部20は、検知対象の強度画像のうちの背景ウィンドウサイズ40b分の強度値から平均強度値21aを算出し閾値13aと比較して異物の有無を検知する。誤検知除去部30は、誤検知判定ウィンドウ上下限値40cに応じたサイズの誤検知判定ウィンドウに入らない異物検知画素を誤検知と判断して除去した上で最終的な異物の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、対象領域を撮像した画像を用いて異物を検知する異物検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の異物検知装置は、道路進行方向の線状視野に沿った輝度分布を出力するラインセンサカメラと、この線状視野上を走査するレーザ光を照射するレーザ光照射手段と、ラインセンサカメラからの出力を処理して線状視野内に存在する異物を検出する画像処理部とから構成される。画像処理部は、車両が存在しない時のレーザ光のレーザスポット位置を基準位置データとして事前取得しておき、異物検知動作中に取得したレーザスポット位置が事前取得した基準位置データと差がある場合に車両ありと検知する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−200988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の異物検知装置は、異物検知対象の線状視野を固定していることから、輝度値の変動が降雨などの環境変化によるものか、異物の微細構造によるものか区別が困難であった。また、線状視野内の輝度値を平均化して変化率に基づいて異物検知を行う方法も記述されているが、平均化した場合は異物の持つ微細構造を見落とす場合が考えられる。さらに、異物の一部を見落とした場合、それを基準位置データとして誤って取得する可能性があり、そうすると以降の検知において誤検知が多く発生する問題がある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、異物の誤検知を緩和した異物検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る異物検知装置は、対象物が通過する領域をライン状にスキャンして、反射の強度値を画素値とした強度画像、および当該対象物までの距離値を画素値とした距離画像の両方、またはいずれか一方を生成する撮像装置と、対象物の検知されなかったライン状の強度画像を撮像装置からスキャン時間順に取得し、時間方向に任意データ量分の当該強度画像を背景画像として保持する背景データ保存部と、背景画像に任意の大きさの背景ウィンドウを設定し、当該背景ウィンドウに含まれる画素の強度値を用いて画素単位の閾値を算出する閾値生成部と、撮像装置からライン状の強度画像を取得してスキャン時間順に並べた三次元画像にし、当該三次元画像に背景ウィンドウと同じ大きさの検知ウィンドウを設定し、当該検知ウィンドウに含まれる画素の強度値を用いて画素単位の代表強度値を算出するウィンドウ処理部と、閾値と代表強度値を比較して、画素単位に対象物の有無を検知する閾値判定部と、背景ウィンドウと検知ウィンドウの大きさを対象物の検知状況に応じて変更するウィンドウ設定部とを備え、背景データ保存部は、閾値判定部の検知結果に基づいて強度画像を取得するようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、背景画像と検知対象の強度画像に対して時間方向に任意の大きさのウィンドウを設定して、各ウィンドウ内の強度値を比較して対象物の有無を検知するようにし、さらに各ウィンドウの大きさを対象物の検知状況に応じて変更するようにしたので、対象物が含まれる画像を誤って背景画像に設定することを抑制でき、異物の誤検知を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係る異物検知装置と撮像装置の構成を示すシステム図である。
【図2】撮像装置の設置状態を示す図である。
【図3】撮像装置が取得する三次元強度画像の一例である。
【図4】実施の形態1に係る異物検知装置の背景データ保存部による保存処理を模式的に示す図である。
【図5】実施の形態1に係る異物検知装置の閾値生成部による閾値生成方法を模式的に示す図である。
【図6】背景ウィンドウサイズの違いを説明する図であり、図6(a)は背景ウィンドウが大きい場合、図6(b)は小さい場合を示す。
【図7】実施の形態1に係る異物検知装置の誤検知ウィンドウ処理部による誤検知除去方法を模擬的に示す図である。
【図8】実施の形態1に係る異物検知装置の誤検知ウィンドウ処理部による誤検知除去方法を模擬的に示す図である。
【図9】この発明の実施の形態2に係る異物検知装置と撮像装置の構成を示すシステム図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1に示す異物検知装置1は、撮像装置2から三次元画像を取得して、異物を検知する装置であり、例えばゲートの進入監視システムおよび道路の交通監視システムなどに適用され、人間および車両などを異物として検知する。本実施の形態1では、説明の便宜上、車両を異物として検知する例を説明するが、車両以外の人間等を異物として検知するようにしてもよい。
【0010】
撮像装置2は、受信スキャンレス型の画像計測装置のような、送信したレーザの反射強度(強度値)を取得可能なセンサであり、ライン状にスキャンするものを例として挙げる。ただし、本センサに限らず、2次元スキャンを行うセンサ、受信スキャン型のセンサであってもよく、強度値または輝度値を画素値とした画像を取得可能なセンサであればよい。
【0011】
図2に、本実施の形態1に係る異物検知装置1が用いる撮像装置2の設置状態を示す。図3は、撮像装置2が取得する三次元強度画像の一例である。
撮像装置2のセンサは、高度方向Zの所定の高さ位置に固定され、高度方向Zから角度θ傾けた方向に向けて設置されている。そして、車両進行方向に対する奥行方向Φの一次元にビームを走査し、高度方向Zにおける多点の強度値から車両のライン状の強度画像を取得する。この車両が進行方向へ通過することにより、撮像装置2は、ライン状の強度画像を時間方向に並べた三次元の強度画像を取得する。ここで、撮像装置2によって取得された三次元の強度画像の横軸をライン方向、縦軸をデータ方向と定義する。ここでのライン方向は時間軸に相当し、ライン方向の画素番号をj、最大画素数をMと定義する。また、データ方向の画素番号をi、最大画素数をNと定義する。また、強度画像をI(i,j)とする。なお、図3の例では強度値が高い画素を灰色、低い画素を白色で示す。
【0012】
異物検知装置1は、背景データ取得部10、異物検知部20、誤検知除去部30およびウィンドウ設定部40で構成され、撮像装置2から強度値2aに相当する電気信号を入力し、異物検知の有無を示す異物判定フラグ33aに相当する電気信号を出力する。以下では逐一説明しないが、この異物検知装置1と撮像装置2の間、および異物検知装置1の各部間で入出力する情報は全て、その情報の値に相当する電気信号である。
【0013】
背景データ取得部10は、異物検知結果判断部11、背景データ保存部12および閾値生成部13を備え、異物の無い状態の強度画像を選択的に取得すると共に、異物検知のための閾値を生成する。異物検知部20は、ウィンドウ処理部21および閾値判定部22を備え、強度画像に対して閾値判定を行い、異物検知を行う。誤検知除去部30は、誤検知ウィンドウ処理部31、異物検知画素保存部32および判定部33を備え、異物検知された画素のうちから誤検知画素を除去し、最終的に異物の有無を判定する。各部の詳細は後述する。
【0014】
また、ウィンドウ設定部40は、背景保存ウィンドウサイズ40aを決定して背景データ保存部12へ出力し、背景ウィンドウサイズ40bを決定して閾値生成部13およびウィンドウ処理部21へ出力し、さらに、誤検知判定ウィンドウ上下限値40cを決定して誤検知ウィンドウ処理部31へ出力する。それぞれの出力情報については、背景データ取得部10、異物検知部20、誤検知除去部30の詳細説明の中で詳述する。
【0015】
以下、異物検知装置1の詳細を説明する。
異物検知結果判断部11は、閾値判定部22の出力する異物検知フラグ22aを取得し、このフラグがONかOFFかを判断して、判断結果11aを背景データ保存部12へ通知する。
背景データ保存部12は、撮像装置2からスキャン時間順に強度値2aを取得し、判断結果11aに基づいて、異物検知フラグ22aがOFFの場合(即ち、閾値判定部22において異物が検知されなかった場合)、取得した強度値2aを背景データとして保存する。一方、異物検知フラグ22aがONの場合(即ち、閾値判定部22において異物が検知された場合)、本処理は行わない。
【0016】
撮像装置2は、強度値2aを、(1,1)〜(1,N)の画素群からなるライン状の強度画像、(2,1)〜(2,N)の画素群からなるライン状の強度画像、・・・、(M,1)〜(M,N)の画素群からなるライン状の強度画像というように、時間の流れに沿って出力する。背景データ保存部12は、強度値2aをライン状の強度画像単位で1つの背景データとして扱う。そして、このライン状の強度画像の全画素について異物検知フラグ22aがOFFの場合に、この強度画像を背景データとして保存する。
なお、進行中の車両をライン状に複数回スキャンした場合に、これらライン状の強度画像を合わせた(1,1)〜(M,N)の画素群が、図3に示す三次元の強度画像I(i,j)となる。
【0017】
ここで、背景データ保存部12の保存処理を、図4に模式的に示す。背景データ保存部12は背景保存ウィンドウを設定する。背景保存ウィンドウのサイズは1以上とし、ここではKとする。Kは、ウィンドウ設定部40において生成され、背景保存ウィンドウサイズ40aとして背景データ保存部12へ通知される値である。
背景データ保存部12は、異物検知フラグ22aがOFFの場合に撮像装置2から取得する強度値2aを取得順に背景データとして保存し、後段の異物検知部20では背景保存ウィンドウ内の番号0からの背景データを用いる。
このように、背景保存ウィンドウを設定することにより、異物検知部20において異物検知漏れが発生した場合に、異物の一部を誤って含んだ強度画像を背景データとして誤設定してしまう問題を緩和する。
【0018】
また、背景データ保存部12は、背景データの保存量が背景保存ウィンドウサイズKに達した場合、背景保存ウィンドウをずらして、新たに取得する強度画像を番号Kの背景データとして保存し、最古のデータである番号0の背景データを破棄する。
【0019】
さらに、背景データ保存部12は、判定部33の出力する異物判定フラグ33aがONからOFFに状態遷移をした場合(即ち、判定部33において最終的に異物検知判定された状態から未検知判定の状態に遷移した場合)に、背景保存ウィンドウ内の番号Sから番号Kまでの背景データを破棄する。Sの値は、1以上の値を用いる。
この機能を持つことにより、異物の最前部または最後部を検知漏れして誤って背景データとして保存した場合に、次回以降の異物検知で当背景データを用いて誤検出を発生する可能性を低減させるメリットがある。
【0020】
なお、ウィンドウ設定部40は、背景保存ウィンドウサイズKを環境に応じて可変としてもよい。例えば、雨天および降雪時においては、環境により信号のSNR(信号対雑音比)が劣化しやすいため、車両の検知漏れが発生しやすくなる。それに起因して誤検知した強度画像を誤って背景データに用いないよう、背景保存ウィンドウサイズKを大きくすることで本リスクを回避できる(詳細は後述する)。Kの変更量は事前にウィンドウ設定部40に設定しておく。最初からKを大きくすると、背景データ保存部12において不必要なメモリを割り当てることとなるため、ここでは環境に応じてKを大きくすることにより計算機コストの低減を図る。
背景保存ウィンドウサイズKの切り替え方法としては、異物検知装置1が外部から気象データを受信してウィンドウ設定部40がその受信信号をトリガに用いてKを切り替えてもよいし、あるいは、取得される背景データの強度値が所定の環境閾値以下の場合にKを切り替えてもよい。
【0021】
閾値生成部13は、後段の異物検知部20において用いる強度の閾値Ith(i,j)を、閾値13aとして出力する。
ここで、閾値生成部13による閾値13aの生成方法を、図5を用いて説明する。この図5は、実際の車両が格子状の画素単位に撮像され、その画素単位に強度値2aが算出された状態である。閾値生成部13は、先ず、ウィンドウ設定部40から通知される背景ウィンドウサイズ(w×h)40bを用いて、背景データ保存部12が保存している背景データ12aから背景比較データI(i,j)を算出する。この背景ウィンドウ内の背景データの強度値の平均値(または中央値)を求めて、背景比較データとする。wは背景データの番号に相当し、hは背景データのデータ方向に相当する。例えば背景ウィンドウサイズがw=2、h=3の場合、背景比較データI(1,1)は、背景データの番号0,1のデータ番号j=1〜3の各画素の強度値の平均値となり、背景比較データI(1,2)は背景ウィンドウをデータ方向にずらして、背景データの番号0,1のデータ番号j=2〜4の各画素の強度値の平均値となる。このように背景ウィンドウをずらすことにより、画素番号(i,j)毎の背景比較データI(i,j)を生成する。
平均化処理を行うことにより、環境による影響、および撮像装置2の持つ雑音成分を低減させるメリットがある。
【0022】
なお、この背景ウィンドウサイズ(w×h)は、閾値判定部22の異物検知フラグ22aのON、OFFに応じて可変とする。
図6は、背景ウィンドウサイズの違いを説明する図であり、図6(a)は背景ウィンドウが大きい場合、図6(b)は小さい場合を示す。ウィンドウ設定部40は、閾値判定部22の出力する異物検知フラグ22aがOFFの場合、環境による影響を低減するために、想定される環境の影響よりも大きい背景ウィンドウサイズを設定して(図6(a))、背景ウィンドウサイズ40bとして閾値生成部13に通知する。
一方、異物検知フラグ22aがONの場合、ウィンドウ設定部40は検知された異物内の微細な構造を検出可能とするために、異物検知フラグ22aのOFF時の背景ウィンドウサイズよりも小さい背景ウィンドウサイズを設定し(図6(b))、背景ウィンドウサイズ40bとして閾値生成部13に通知する。なお、背景ウィンドウサイズの大小は、想定される異物の大きさに応じて、事前にウィンドウ設定部40に設定されているものとする。
このように、異物検知状況に応じて動的に背景ウィンドウサイズを変更することによって、環境変化に起因する誤検知を低減しつつ、微細構造を見落とすことなく異物検知を行うことができるようになる。
【0023】
続いて閾値生成部13は、下式(1)の計算を行い、閾値Ith(i,j)を算出する。

ここで、TH(i,j)は背景データに対するオフセット成分であり、撮像装置2の強度取得精度に応じて決定する値、または環境要因の影響を除去可能な値とする。本値は事前に設定する、または撮像装置2より必要な情報をフィードバックして設定する。
また、TH(i,j)は全画素に共通の固定値にしてもよいし、画素毎に設定してもよい。撮像装置2のセンサ性能により、対象物までの距離が遠い、即ち発生する強度差が小さいと考えられる画素に対しては閾値を下げることにより、異物検知部20において異物検知精度を向上させることが可能となる。
【0024】
ウィンドウ処理部21は、背景データ保存部12において用いられた背景ウィンドウサイズ40bを用いて、強度画像I(i,j)に対し検知を行うライン番号jのデータを平均化処理またはメディアン処理を行う。なお、このウィンドウ処理部21では、ライン状の強度画像をスキャン時間順(ライン方向)に並べた三次元の強度画像I(i,j)に、背景ウィンドウを設定し、この背景ウィンドウを検知ウィンドウとして扱う。
図6に示すように、閾値生成部13は、検知ラインの閾値判定対象となる画素について、この画素より時間的に前に取得したライン側へ背景ウィンドウ(w×h)を設定し、この背景ウィンドウ内の各画素の強度値の平均値(または中央値)を求めて、閾値判定対象画素の平均強度値21aとする。この背景ウィンドウをデータ方向へずらして、検知ラインの各画素の平均強度値を算出する。
【0025】
閾値判定部22は、下式(2)に従い、ウィンドウ処理部21のフィルタリングにより求まった平均強度値I(i,j)21aを閾値生成部13で求めた閾値Ith(i,j)13aを比較し、閾値以上であれば異物と判定してその画素番号(i,j)22bを誤検知除去部30へ出力する。

【0026】
なお、上式(1)においてTHが±のため、求まる閾値Ithは2種類存在する。そのため、閾値判定部22は、本比較の結果、論理和が1の場合(即ち、±の少なくともいずれか一方で上式(2)が成立した場合)に異物であると判定して画素番号22bを出力する。また、閾値判定部22は、検知ラインに、平均強度値が閾値以上になった画素があれば、検知異物検知フラグ22aを出力する。
【0027】
誤検知ウィンドウ処理部31は、ウィンドウ設定部40から通知される誤検知判定ウィンドウ上下限値40cを用いて、閾値判定部22において異物と検知された画素番号22bの画素から、誤検知の画素を除去する。誤検知判定ウィンドウ上下限値40cには、誤検知判定ウィンドウ上限値Cuと誤検知判定ウィンドウ下限値Cdが含まれる。
【0028】
ここで、誤検知ウィンドウ処理部31による誤検知除去方法を、図7および図8を用いて説明する。図7および図8において、黒い四角(■)はそれぞれ、閾値判定部22において異物が検知された画素(異物検知画素)を示し、検知対象のライン上にはこれら異物検知画素がデータ方向に並んでいる。ここに、誤検知ウィンドウが設定されることになる。
誤検知ウィンドウ処理部31は、検知対象のライン番号jの1ライン以上前に異物検知された最小のデータ番号i_minを基準として、この検知対象ラインに対し(i_min−Cu)〜(i_min+Cd)の領域を誤検知判定ウィンドウ(図7に点線で示す)として設定する。そして、誤検知ウィンドウ処理部31は、閾値判定部22から通知された画素番号22bのうち、この誤検知判定ウィンドウ内に存在する画素は正常に異物を検知できているものとして、異物検知画素保存部32に異物検知画素番号31aとして保存すると共に、その異物検知画素番号31aを判定部33に出力する。
【0029】
検知ラインのライン方向への移動に伴って誤検知判定ウィンドウも移動していくことにより(図7に実線の枠で示す)、異物の連続性を判定することができ、環境または撮像装置2に起因する誤検知を低減することが可能となる。例えば図7では、誤検知判定ウィンドウの上方に異物検知された画素が存在するが、ウィンドウ外のため誤検知された画素と判断される。
また、最小のデータ番号i_minを基準として誤検知判定ウィンドウを設定することにより、強度画像上の異物検知画素の位置に関わらず、異物通過による環境変化等に起因する誤検知を低減することが可能となる。例えば図8では、車両通過により路面にできた微細なタイヤ痕が、車両と共に異物として検知されているが、誤検知判定ウィンドウ外のため誤検知された画素と判断される。
【0030】
誤検知判定ウィンドウのサイズを規定するCu,Cdとしては、例えば異物と想定される車両の大きさ等に応じた値を事前に決定して、ウィンドウ設定部40に設定しておく。一例として、高度方向の画素分解能が1cmであって、画像上方向に向かって急峻に形状が変化する構造が一般的に10cmであるという先見情報がある場合、Cu=10を事前に設定する。Cdについても同様に、先見情報を用いて値を設定する。
【0031】
また、このCu,Cdは異物の検知状況に応じて可変にしてもよい。例えば、ウィンドウ設定部40にCu=CG×KuおよびCd=CG×Kdと定義しておき、ウィンドウ設定部40が各パラメータC,G,Ku,Kdに基づいてCu,Cdを算出し、誤検知判定ウィンドウ上下限値40cとして誤検知ウィンドウ処理部31に通知する。ここで、Cは任意の変換係数、Gは異物検知画素保存部32に記憶されている異物検知された画素数、Kuは誤検知判定ウィンドウ上限値の初期値、Kdは誤検知判定ウィンドウ下限値の初期値である。
異物検知された画素数Gに応じてCu,Cdを変更することで、異物検知された画素の連続性を判定できると共に、過剰に誤検知判定範囲を広げることがないため、誤検知を低減できるメリットがある。
【0032】
判定部33は、誤検知ウィンドウ処理部31により選択された異物検知画素の画素数の合計が閾値T以上であった場合、検知対象ラインに異物有りと判定して異物判定フラグ33aを出力する。閾値Tは、想定される異物の大きさと撮像装置2の画素分解能に応じた値とし、1以上の値を事前に設定しておく。例として、撮像装置2の画素分解能が10cm程度、想定される異物の大きさが1mであった場合、閾値T=8等のように設定する。
【0033】
その他の手法として、誤検知ウィンドウ処理部31によって選択された異物検知画素の画素番号を1、除去された誤検知画素の画素番号を0として、検知ラインのデータ群B(j)を定義し、データ群B(j)の標準偏差に対する閾値処理を行ってもよい。ここでのB(j)はデータ番号j列の画素の集合を表わす。なお、本記述ではjを単数としているが、背景ウィンドウサイズ(w)にあわせた範囲指定としてもよい。本範囲は想定される異物の大きさまたは除去したい環境要因の大きさと、撮像装置2のセンサ性能とに基づいて設定する。標準偏差値は、背景と同程度の画素数(即ち、上式(2)を満たさない画素のデータ方向の総数)と背景とは異なる画素数(即ち、上式(2)を満たす画素のデータ方向の総数)との割合とする。データ方向の画素数Nが変動する場合、割合を用いることで、この画素数Nに依存せず、一定の閾値Tで異物検知を行うことができるメリットがある。
なお、誤検知ウィンドウ処理部31により選択された異物検知画素の画素数合計と標準偏差値を、積算または和算したものを、異物の指標としてもよい。それ以外にも、異物を表わす指標となるものであれば、これらの値に限定されるものではない。
【0034】
以上より、実施の形態1によれば、異物検知装置1は、対象物が通過する領域をライン状にスキャンして反射の強度値2aを画素値とした強度画像を生成する撮像装置2と、対象物の検知されなかったライン状の強度画像を撮像装置2からスキャン時間順に取得する異物検知結果判断部11と、時間方向に背景保存ウィンドウサイズ分の強度画像を背景データとして保存する背景データ保存部12と、背景データに任意の大きさの背景ウィンドウを設定してこの背景ウィンドウに含まれる画素の強度値2aを用いて画素単位の閾値13aを算出する閾値生成部13と、撮像装置2からライン状の強度画像を取得してスキャン時間順に並べた三次元の強度画像I(i,j)にし、この強度画像に上記同様の背景ウィンドウ(検知ウィンドウとなる)を設定してこの背景ウィンドウに含まれる画素の強度値2aを用いて平均強度値21aを算出するウィンドウ処理部21と、閾値13aと平均強度値21aを比較して画素単位に対象物の有無を検知する閾値判定部22と、背景ウィンドウの大きさを対象物の検知状況に応じて変更するウィンドウ設定部40とを備え、背景データ保存部12は、閾値判定部22の検知結果に基づいて強度画像を取得するように構成した。このため、背景データと検知対象の強度画像に対して時間方向に任意の大きさの背景ウィンドウを設定して、各ウィンドウ内の強度値の平均同士を比較して対象物の有無を検知することができ、環境変化および機器の持つ雑音成分等に起因する誤検知を低減できる。また、この各ウィンドウの大きさを対象物の検知状況に応じて変更するようにしたので、環境変化に起因する誤検知を低減しつつ、対象物の微細構造を見落とすことなく検知できるようになる。従って、対象物が含まれる画像を誤って背景データに設定することを抑制でき、対象物の誤検知を緩和することができる。
【0035】
また、実施の形態1によれば、異物検知装置1は、閾値判定部22で対象物ありと検知した画素番号22bからなる画素群に、これら画素同士の連続性を判定するための誤検知判定ウィンドウを設定しこの誤検知判定ウィンドウ内の画素を正常検知、外の画素を誤検知と判定する誤検知ウィンドウ処理部31と、ライン状の強度画像単位に誤検知ウィンドウ処理部31で正常検知と判定された異物検知画素数に応じて対象物の有無を判定する判定部33とを備えるように構成した。このため、環境または撮像装置2に起因する誤検知を低減することができると共に、対象物が通過した後の環境変化を除去することができる。
【0036】
また、上記実施の形態1によれば、ウィンドウ設定部40は、誤検知判定ウィンドウの大きさを対象物の検知状況に応じて変更するように構成したので、誤検知の判定範囲を過剰に広げることがなく、適切に誤検知画素を除去できる。
【0037】
なお、背景データ保存部12は、閾値判定部22の検知結果に基づいて、対象物が検知されなかった強度画像を背景データとして保存するだけでなく、さらに判定部33の判定結果に基づいて、対象物ありと判定された場合に既に保存していた背景データの一部を破棄するように構成してもよい。この場合にも、対象物が含まれる画像を誤って背景データに設定することを抑制でき、誤検知を緩和できる。
さらに、背景データ保存部12は、背景保存ウィンドウサイズを環境等に応じて変更するように構成してもよい。環境由来のノイズを含んだ強度画像を誤って対象物ありと検知して背景データとして保存したとしても、背景保存ウィンドウサイズが大きければ、閾値生成部13においてこの誤った背景データを選択して閾値生成する確率が低くなり、結果として誤検知の緩和に繋がる。
【0038】
実施の形態2.
上記実施の形態1に係る異物検知装置1は、撮像装置2で取得した強度値を用いて異物検知を行う構成としたが、本実施の形態2では距離値を用いて異物検知を行う構成にする。そこで、本実施の形態2では、撮像装置2のセンサ設置位置から異物までの距離を計測可能な機能を備えた撮像装置2(例えば、受信スキャンレス型の画像計測装置)を用いる。また、本実施の形態2の異物検知装置1は、図1に示す異物検知装置1と図面上では同様の構成であり、ビームの反射強度に基づいて異物検知を行う代わりに、ビームの位相差から求まる距離値に基づいて強度値と同様の処理を行って異物検知を行う。
【0039】
撮像装置2によって取得される距離値Rと、距離精度σの関係は、下式(3)で表わされる。

ここで、Rrは距離の真値、Eは距離誤差値、fmはビームの変調周波数、SNRは信号対雑音比、cは光速(3×10m/s)である。なお、距離誤差値Eは、一般的に白色雑音(平均0、標準偏差σ)で表わされる。
【0040】
上記実施の形態1においては、背景データと異物の強度画像との強度差が少ない場合、異物検知が困難な場合がある。これに対し、背景または異物のどちらかが雑音レベル以上のSNRが得られることを前提とすると、距離値を用いることによって本問題を解決できるメリットがある。
また、上述したように、距離誤差値Eは白色雑音のため、距離値と閾値の比較を行う際に背景ウィンドウ内の平均値を用いることにより、SNRを向上させることができ、取得される距離Rの精度を向上させる効果がある。
【0041】
以上より、実施の形態2によれば、異物検知装置1は、ライン状の強度画像に代えてライン状の距離画像を用いて、上記実施の形態1と同様の処理を行って対象物の有無を検知するように構成した。このため、上記実施の形態1と同様に、対象物が含まれる画像を誤って背景データに設定することを抑制でき、対象物の誤検知を緩和することができる。さらに、強度画像を用いた異物検知が困難な、背景データと検知対象の強度画像との強度差が少ない場合であっても、距離画像を用いれば異物検知を行うことができる。
【0042】
実施の形態3.
上記実施の形態1では強度値を用いる構成とし、上記実施の形態2では距離値を用いる構成としたが、本実施の形態3では強度値と距離値の両方を用いる構成にして異物の検知精度を向上させる。
図9は、本実施の形態3に係る異物検知装置1と撮像装置2の構成を示すシステム図である。図中の撮像装置2は、強度値と距離値を両方取得可能な画像計測装置であり、強度値2aと距離値2bを出力する。
【0043】
異物検知装置1は、上記実施の形態1の背景データ取得部10および異物検知部20に相当する強度背景データ取得部10−1および強度異物検知部20−1を備えると共に、上記実施の形態2の背景データ取得部10および異物検知部20に相当する距離背景データ取得部10−2および距離異物検知部20−2を備える。これら強度背景データ取得部10−1、強度異物検知部20−1、距離背景データ取得部10−2および距離異物検知部20−2の内部構成は、図面上は図1と同様のため図示を省略する。
さらに、異物検知装置1は、強度異物検知部20−1と距離異物検知部20−2がそれぞれ検知した異物のうち、誤検知を除去する誤検知除去部30と、各種ウィンドウサイズを設定するウィンドウ設定部40とを備える。
【0044】
本実施の形態3の誤検知除去部30は、誤検知ウィンドウ処理部31、異物検知画素保存部32および判定部33に加え、新たに論理演算部34を備える。
論理演算部34は、強度異物検知部20−1において異物と検知された画素番号22b−1と、距離異物検知部20−2において異物と検知された画素番号22b−2の論理積または論理和を算出して、論理演算結果の画素番号34aを出力する。
論理積をとる場合、後段の誤検知ウィンドウ処理部31において誤検知除去精度を向上させることができる。また、論理和をとる場合、背景データの強度値と異物の強度値が同程度の場合に距離値による異物検知が可能となることから、異物の検知漏れを低減することができる。
【0045】
誤検知ウィンドウ処理部31は、論理演算部34から出力される画素番号34aの画素同士の連続性を判断するために、画素番号34aの画素を検知対象ラインにデータ方向へ並べた画像に対して誤検知判定ウィンドウを設定して、誤検知判定ウィンドウ外に位置する画素番号34aの画素を除去し、残った画素を異物検知画素番号31aとして出力する。
判定部33は、誤検知ウィンドウ処理部31により選択された異物検知画素の画素数の合計が閾値T以上であった場合、検知対象ラインに異物有りと判定して異物判定フラグ33aを出力する。
【0046】
以上より、実施の形態3によれば、異物検知装置1は、ライン状の強度画像を用いて画素単位の対象物の有無を検知すると共に、ライン状の距離画像を用いて強度画像の場合と同様の処理を行って対象物の有無を検知する装置であって、強度異物検知部20−1による強度画像を用いた画素単位の検知結果と距離異物検知部20−2による距離画像を用いた画素単位の検知結果とを論理演算して、これら検知結果を画素単位で統合する論理演算部34と、論理演算部34で対象物ありと検知した画素番号34aの画素群に、これらが素同士の連続性を判定するための誤検知判定ウィンドウを設定してこの誤検知判定ウィンドウ内の画素を正常検知、外の画素を誤検知と判定する誤検知ウィンドウ処理部31と、ライン状の画像単位に、誤検知ウィンドウ処理部31で正常検知と判定された異物検知画素数に応じて対象物の有無を判定する判定部33とを備えるように構成した。このため、上記実施の形態1,2に比べ、異物の検知精度を向上させることができる。
【0047】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 異物検知装置、2 撮像装置、2a 強度値、2b 距離値、10 背景データ取得部、10−1 強度背景データ取得部、10−2 距離背景データ取得部、11 異物検知結果判断部、11a 判断結果、12 背景データ保存部、12a 背景データ、13 閾値生成部、13a 閾値、20 異物検知部、20−1 強度異物検知部、20−2 距離異物検知部、21 ウィンドウ処理部、21a 平均強度値、22 閾値判定部、22a 異物検知フラグ、22b 画素番号、30 誤検知除去部、31 誤検知ウィンドウ処理部、31a 異物検知画素番号、32 異物検知画素保存部、33 判定部、33a 異物判定フラグ、34 論理演算部、34a 画素番号、40 ウィンドウ設定部、40a 背景保存ウィンドウサイズ、40b 背景ウィンドウサイズ、40c 誤検知判定ウィンドウ上下限値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物が通過する領域をライン状にスキャンして、反射の強度値を画素値とした強度画像、および当該対象物までの距離値を画素値とした距離画像の両方、またはいずれか一方を生成する撮像装置と、
対象物の検知されなかったライン状の強度画像を前記撮像装置からスキャン時間順に取得し、時間方向に任意データ量分の当該強度画像を背景画像として保持する背景データ保存部と、
前記背景画像に任意の大きさの背景ウィンドウを設定し、当該背景ウィンドウに含まれる画素の強度値を用いて画素単位の閾値を算出する閾値生成部と、
前記撮像装置からライン状の強度画像を取得してスキャン時間順に並べた三次元画像にし、当該三次元画像に前記背景ウィンドウと同じ大きさの検知ウィンドウを設定し、当該検知ウィンドウに含まれる画素の強度値を用いて画素単位の代表強度値を算出するウィンドウ処理部と、
前記閾値と前記代表強度値を比較して、画素単位に対象物の有無を検知する閾値判定部と、
前記背景ウィンドウと前記検知ウィンドウの大きさを対象物の検知状況に応じて変更するウィンドウ設定部とを備え、
前記背景データ保存部は、前記閾値判定部の検知結果に基づいて強度画像を取得することを特徴とする異物検知装置。
【請求項2】
閾値判定部で対象物ありと検知した画素群に、当該画素同士の連続性を判定するための任意の大きさの誤検知判定ウィンドウを設定し、当該誤検知判定ウィンドウ内の画素を正常検知、外の画素を誤検知と判定する誤検知ウィンドウ処理部と、
ライン状の強度画像単位に、前記誤検知ウィンドウ処理部で正常検知と判定された画素数に応じて対象物の有無を判定する判定部とを備えることを特徴とする請求項1記載の異物検知装置。
【請求項3】
ウィンドウ設定部は、誤検知判定ウィンドウの大きさを対象物の検知状況に応じて変更することを特徴とする請求項2記載の異物検知装置。
【請求項4】
ライン状の強度画像に代えてライン状の距離画像を用いて、前記強度画像の場合と同様の処理を行って対象物の有無を検知することを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の異物検知装置。
【請求項5】
ライン状の強度画像を用いて画素単位の対象物の有無を検知すると共に、ライン状の距離画像を用いて前記強度画像の場合と同様の処理を行って当該対象物の有無を検知する異物検知装置であって、
閾値判定部による前記強度画像を用いた画素単位の検知結果と前記距離画像を用いた画素単位の検知結果とを論理演算して、当該検知結果を画素単位で統合する論理演算部と、
前記論理演算部で対象物ありと検知した画素群に、当該画素同士の連続性を判定するための任意の大きさの誤検知判定ウィンドウを設定し、当該誤検知判定ウィンドウ内の画素を正常検知、外の画素を誤検知と判定する誤検知ウィンドウ処理部と、
ライン状の画像単位に、前記誤検知ウィンドウ処理部で正常検知と判定された画素数に応じて対象物の有無を判定する判定部とを備えることを特徴とする請求項1記載の異物検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−104783(P2013−104783A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248795(P2011−248795)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)