異種材料が接合した重合体、及びその製造方法
【課題】金属材料等の異種材料が接合した重合体ゲルの製造方法等を提供すること。
【解決手段】本発明の製造方法は、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が付着した基体を重合体ゲルに対して、当該構造体と重合体ゲルとが接触するように配置する配置工程と、次いで、上記基体と重合体ゲルとを離す離間工程と、を含む。
【解決手段】本発明の製造方法は、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が付着した基体を重合体ゲルに対して、当該構造体と重合体ゲルとが接触するように配置する配置工程と、次いで、上記基体と重合体ゲルとを離す離間工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材料が接合した重合体ゲル、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重合体ゲルは、多量に溶液成分を内包した材料であり、膨潤・収縮によるしなやかな変形、及び溶液環境中のイオン又は分子等の物質との相互作用等をするため、機能性材料としての利用が期待されている。機能性材料をデバイス素子として機能させるためには、その応答特性を電気又は光等の物理的な信号で検知して当該材料の状態を把握する、或いは応答特性を能動的に変化させ得ることが不可欠である。そのためには、様々な材料、特に金属材料等の薄膜構造を機能性材料に形成すること等が考えられる。
【0003】
しかし、重合体ゲルは含溶液材料であり柔軟であるため、固体材料と接合することは困難であった。例えば、薄膜構造の形成方法として汎用される真空蒸着法等のドライプロセスによる薄膜堆積法は、含溶液材料たる重合体ゲルに用いることは困難である。
【0004】
現在までに、重合体ゲルに固体材料を接合するための様々な方法が開発されてきた。例えば、接着剤による接合法も検討されてきたが、実際にはゲル専用に接着剤を開発した例はなく、一般接着剤又は医用接着剤等を転用せざるを得ない状況である。
【0005】
また、非特許文献1には、重合体ゲルの表面で化学的に還元し金属膜を形成する無電解めっき法の試みが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】バイオミメティクス ハンドブック (代表編集者;長田義仁 (株)NTS 2000年) P932
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、接着剤による接合法では、接着剤層の形成等により、固体材料と重合体ゲルとの直接的なコンタクトが得られない上、重合体ゲル自体の特性が劣化する虞があるという問題があった。
【0008】
また、非特許文献1の方法では、金属の粒成長又は重合体ゲルの内部への伸展成長により、微細なスケールで平滑性及び光沢性を有する金属薄膜の形成が困難であった。さらに、複雑な化学処理プロセスが必要である上、化学物質が残存するという問題もあった。
【0009】
さらに、重合体ゲルに直接金属薄膜を形成する方法では、微細スケールの回路及び規則構造等の薄膜構造パターンを形成するためには、リソグラフィ等の微細加工法を適用する必要がある。しかし、重合体ゲルはその柔軟性ゆえ、形状が不安定であり、微細加工法によって薄膜構造パターンを形成することが困難であった。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が直接接合した重合体ゲルの新規な製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、重合体ゲルではない異種材料からなる構造体を予め形成しておき、当該構造体を重合体ゲルに移し取ることで、構造体の形状等が保持されたまま重合体ゲルに接合できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る製造方法は、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が接合した重合体ゲルの製造方法であって、上記構造体が付着した基体を重合体ゲルに対して、当該構造体と重合体ゲルとが接触するように配置する配置工程と、次いで、上記基体と重合体ゲルとを離す離間工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る製造方法は、上記配置工程は、上記重合体ゲルの原料であるモノマーを含む溶液と上記基体に付着している構造体とが接触した状態で、当該モノマーを重合することで行うことが好ましい場合がある。
【0014】
本発明に係る製造方法は、上記配置工程と離間工程との間に、上記重合体ゲルと上記基体とを押し付けあう工程を含むことが好ましい場合がある。
【0015】
本発明に係る製造方法において、上記重合体ゲルが、ハイドロゲルであってもよい。
【0016】
本発明に係る製造方法において、上記重合体ゲルが、カルボキシル基を有するものであることが好ましい。一例として、当該重合体ゲルが、重合性不飽和カルボン酸モノマーの単独又は共重合体であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る製造方法において、上記重合性不飽和カルボン酸が、アクリル酸又はメタクリル酸であることがより好ましい。
【0018】
本発明に係る製造方法において、上記構造体が、蒸着によって上記基体に付着されるものであってもよい。
【0019】
本発明に係る製造方法において、上記構造体が薄膜であってもよい。
【0020】
本発明に係る製造方法において、上記構造体が、当該構造体をなす材料の膜を、上記基体上でパターニングすることにより形成されているものであってもよい。
【0021】
本発明に係る製造方法において、上記基体における上記構造体が付着している面が、ガラス製又はシリコン製であることが好ましい。
【0022】
本発明はさらに、上記の製造方法によって製造されることを特徴とする、構造体が接合した重合体ゲルを提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が、その形状等が保持されたまま、直接接合した重合体ゲルを製造することができる。
【0024】
また、本発明によれば、上記構造体が微細なスケールである場合においても、その形状等が保持されたまま、直接接合した重合体ゲルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る重合体ゲルの応用例の一例を示す図である。
【図2】実施例1の方法の概略を示す図である。
【図3】実施例2の方法の概略を示す図である。
【図4】実施例7において作製された、Au薄膜が接合した重合体ゲルを示す図である。
【図5】実施例8の方法の概略を示す図である。
【図6】実施例9において、Auドットパターンが接合したポリアクリル酸ゲルの様子を示す図である。
【図7】実施例10の方法の概略を示す図である。
【図8】実施例11において、Au薄膜が接合したポリアクリル酸ゲルの、風乾後の様子を示す図である。
【図9】実施例12において、Auラインパターンが接合したポリアクリル酸ゲルの様子を示す図である。
【図10】実施例14において、重合体ゲルの膨潤・収縮変化によるスリット間隔の変化を測定した結果を示す図である。
【図11】実施例14において、重合体ゲルの収縮変化によるスリット間隔の変化を測定した結果を示す図である。
【図12】実施例15において、重合体ゲルの収縮のCaCl2濃度依存性を測定した結果を示す図である。
【図13】実施例15において、重合体ゲルの飽和収縮比の塩濃度依存性を測定した結果を示す図である。
【図14】実施例15において、重合体ゲルの収縮速度(体積収縮速度)の塩濃度依存性を測定した結果を示す図である。
【図15】実施例16において、重合体ゲルの膨潤・収縮変化による形状の変化の結果を示す図である。
【図16】実施例17において、重合体ゲルの膨潤・収縮変化による形状の変化の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔1.重合体ゲルの製造方法〕
(製造方法の概要)
本発明に係る重合体ゲルの製造方法は、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が接合した重合体ゲルの製造方法であって、上記構造体が付着した基体を重合体ゲルに対して、当該構造体と重合体ゲルとが接触するように配置する配置工程と、次いで、上記基体と重合体ゲルとを離す離間工程と、を含む方法である。
【0027】
(重合体ゲル)
本発明における重合体ゲルは、ハイドロゲル及びオルガノゲルの何れでもよい。また、重合体には、数百個程度のモノマーからなるオリゴマー、及び、それより多数のモノマーからなるポリマー(高分子)が含まれ、ゲルの分散質となり得るものである。
【0028】
また、本発明において、重合体ゲルは、その製造方法により、(i)専ら化学重合により製造される重合体をゲルの分散質として利用するタイプ、及び(ii)重合体を液体に溶解させた後固化する過程でゲル化するタイプの両方を包含する。
【0029】
(i)専ら化学重合により製造される重合体をゲルの分散質として利用するタイプ
重合体を構成するモノマーとしては、ハイドロゲル又はオルガノゲルに用いる各種のモノマーが好適に用いられる。重合体を構成するモノマーの電荷の有無、側鎖の種類等は、特に限定されない。モノマーとして、例えば、重合性の不飽和モノマー等が挙げられる。不飽和モノマーは、電気的に中性な基、酸性基、塩基性基等を有していてもよい。
【0030】
電気的に中性な基を有する不飽和モノマーとしては、例えば、アクリルアミド(AAm)、N−イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N−ジメチル−アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、メチルメタクリレート(MMA)、ビニルピリジン、ヒドロキシエチルアクリレート、酢酸ビニル、アクリロイルモルホリン、フッ素含有不飽和モノマー等が挙げられる。
【0031】
フッ素含有不飽和モノマーとしては、例えば、トリフルオロエチルアクリレート(TFE)、2,2,2−トリフルオロエチルメチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、3−(ペルフルオロブチル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ[2−(フルオロサルフォニルエトキシ)プロピルビニル エーテル]等が挙げられる。
【0032】
不飽和モノマーが有し得る酸性基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。また、不飽和モノマーが有し得る塩基性基としては、例えば、アミノ基等が挙げられる。酸性基、塩基性基等を有する不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸(MAc)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート4級化物、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド4級化物又はそれらの塩を挙げることができる。
【0033】
重合体ゲルは、1種類のモノマーの単独重合体でもよく、2種類以上のモノマーの共重合体でもよい。重合体ゲルが共重合体からなる場合は、単独重合体ではゲルを与えない各種モノマーもコモノマー成分として重合体ゲルの製造に利用され得る。
【0034】
なお、本発明では、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸(MAc)、ビニル酢酸のような重合性不飽和基を有するモノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸のような重合性不飽和基を有するポリカルボン酸(ジカルボン酸等);これらポリカルボン酸の酸無水物;を重合性不飽和カルボン酸と総称する場合がある。
【0035】
重合体ゲルを構成するモノマーの種類は、必要に応じて、後述する構造体をなす材料の種類に応じて選択してもよい。例えば、構造体をなす材料が、金属材料、又は金属酸化物材料の場合は、構造体と重合体ゲルとの接合がより良好になるとの観点で、重合体ゲルはカルボキシル基を有するものであることが好ましい。カルボキシル基を有する重合体ゲルを製造する一例では、上記モノマーとして重合性不飽和カルボン酸を用いることが好ましく、中でもアクリル酸、及びメタクリル酸がより好ましい。
【0036】
また、構造体をなす材料が金属材料又は金属酸化物材料であって、且つ重合体ゲルが重合性不飽和カルボン酸と、重合性不飽和カルボン酸以外のモノマーとの共重合体からなる場合は、全繰り返し単位中に占める、重合性不飽和カルボン酸由来の繰り返し単位の含有割合が、モノカルボン酸換算で、25%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。また、金属材料又は金属酸化物材料と重合体ゲルとの接合の程度は、重合体ゲルに導入されたカルボキシル基の量に主に依存すると推定されるため、上記重合性不飽和カルボン酸がジカルボン酸の場合は、上記含有割合は12.5%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、37.5%以上であることがさらに好ましい。なお、上記含有割合は、重合体ゲルを製造するためのモノマー成分中に占める、重合性不飽和カルボン酸の含有割合(モル換算)と略一致する。
【0037】
なお、重合体を製造後に当該重合体にカルボキシル基を導入して、カルボキシル基を有する重合体ゲルを得ることもできる。例えば、重合体として、その側鎖にアミド基、エステル基、又はニトリル基を持つ重合体を製造し、これら側鎖の官能基に対して加水分解によりカルボキシル基を導入可能である。
【0038】
重合体は、ゲルを構成する他の重合体との間で架橋されている架橋点を少なくとも1つ有していることが好ましい。ここで「架橋する」とは、共有結合等によって重合体同士が化学的に結合することをいう。重合体は、例えばモノマー由来の繰り返し単位同士が結合することによって架橋される。重合体が有する架橋点の数は、当該重合体が有する繰り返し単位の数の0.001%以上20%以下であることが好ましい。このように重合体が架橋点を有することによって、ゲルを構成する重合体間が架橋されるため、ゲルの機械強度をより高くすることができる。
【0039】
架橋剤は、重合体を形成するモノマーの種類等に応じて適宜選択すればよく、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)、N,N’−プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N,N’−ジアリルタータルジアミド、N,N’−ビスアクリロイルシスタミン等が挙げられる。
【0040】
モノマーの重合に際しては、必要に応じて重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤は、重合体を形成するモノマーの種類等に応じて適宜選択すればよく、例えば、オキソグルタル酸、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)、過硫酸アンモニウム(N,N,N’,N’−デトラエチレンジアミン(TEMED)と共に添加する)、過硫酸カリウム、過酸化水素と塩化鉄(II)との組合せ等が挙げられる。
【0041】
モノマー、必要に応じて添加される架橋剤、及び必要に応じて添加される重合開始剤、並びにその他の添加物を溶媒中で混ぜ合わせて重合用モノマー溶液を作製する。溶媒はモノマーの種類に応じて、水又は有機溶剤(例えば、エタノール、メタノール等)を用いればよい。なお、重合開始剤は重合反応を開始させる直前に加えることが望ましい。配合量は、例えば、モノマーを0.1M〜10M、架橋剤を0.1mM〜1000mM、重合開始剤を0.1mM〜100mMとすればよい。
【0042】
重合体ゲルの作製は、上記重合用モノマー溶液を、モノマーの種類に応じた方法で重合反応させればよい。例えば、上記重合用モノマー溶液に対して、紫外光(UV光)を照射することにより、又は加熱(例えば、60℃、2〜6時間)することにより、重合を行い、ゲル化させる。得られた重合体ゲルは、さらに必要に応じて、水又は有機溶剤を吸液させてもよい。
【0043】
(ii)重合体を液体に溶解させた後固化する過程でゲル化するタイプ
重合体として、単糖又はアミノ酸(モノマー)の重合体が挙げられる。単糖の重合体としては、アガロース、寒天、カラギーナン等が挙げられる。また、アミノ酸の重合体としては、コラーゲン、ゼラチン等が挙げられる。
【0044】
上記重合体は、主に生体内に含まれる物質であり、例えば生体から精製されたものを水に溶解した後、ゲル化すればよい。例えばアガロースの場合、粉末状のアガロースを熱水に溶解させた後に、冷却することでゲル化する。
【0045】
重合体ゲルの大きさは特に限定されず、所望の面積及び厚さが可能である。また、重合体ゲルの形状も特に限定されない。
【0046】
(構造体)
本発明における構造体は、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる。金属としては、例えば、金、白金、アルミニウム、クロム、亜鉛、銀、銅、ニッケル等が挙げられる。また、金属は合金でもよく、例えば、ステンレス、ジェラルミン等が挙げられる。金属酸化物としては、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン、酸化マグネシウム等が挙げられる。プラスチックとしては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。
【0047】
構造体の大きさ及び形状は、特に限定されないが、マイクロデバイスにおいては、厚さは、50nm〜20μmが好ましく、50nm〜200nmがより好ましい。
【0048】
構造体を基体に付着させる方法は特に限定されず、形成した構造体を基体に付着させてもよいし(間接付着法)、基体に構造体を直接形成してもよい(直接付着法)。なお、何れの方法を採用する場合でも、接着剤層等を介さずに、構造体が基体に直接付着していることが好ましい。
【0049】
上記間接付着法とは、例えば、構造体と基体とを圧力をかけながら付着させる等の、物理的吸着又は化学的吸着等を利用する付着法である。一方、上記直接付着法とは、例えば、蒸着法、ナノインプリント等のインプリント法(印刷技法)、インクジェット直描法等の、直接形成法である。なお、構造体が付着した基体の取扱い性に優れ、構造体の不所望な脱落がないという観点では、直接付着法がより好ましい。
【0050】
また、直接付着法の中では、構造体表面の均一性の実現という観点では、蒸着法が好ましい。蒸着法の種類は特に限定されず、例えば、真空蒸着法が挙げられる。また、ナノスケールのような極めて微細な構造体を精緻に形成可能という観点では、蒸着法及びインプリント法が好ましく、インプリント法がより好ましい。
【0051】
基体に付着された構造物の大きさ及び形状は特に限定されず、数cm×数cm大の薄膜でもよいし、μm又はnmオーダーのライン又はドット等でもよい。また、構造物は粒子でもよく、例えば、薄膜形成には至らない量の金属粒子が基体に付着されてもよい。
【0052】
また、構造体は、基体上で、所定のパターンを構成していてもよい(パターニング工程)。パターンは、例えば、公知のリソグラフィ及び薄膜形成法を用いて基体の上で作製することができる。より具体的には、基体上に形成したレジスト膜に対して、電子線リソグラフィ装置、又はDUV(Deep Ultra violet)露光装置等を使用してパターンを描画し、描画後のレジスト膜を現像することで、その微小限界サイズであるナノメートルオーダーのマスクパターンを形成する。次いで、マスクパターンが形成された基体上に構造体の材料からなる薄膜を形成し、マスクパターン及びその上に形成された薄膜を取り除く(リフトオフ除去)。この方法で、ナノメートルスケールの設計寸法で規則構造微細パターン(構造体)を基体上に形成することが可能である。したがって、ナノメートルオーダーのパターンを有する構造体を重合体ゲルに接合することが可能である。なお、ナノメートルオーダーのパターンを有する構造体は、ナノインプリンティング法等によって形成してもよい。
【0053】
また、構造体の表面は化学修飾されてもよい。例えば、チオール基をもつ有機分子は、金表面に二重結合して自己組織化単分子膜を形成するため、重合体ゲルとの接着力を増強させることができる。
【0054】
(基体)
本発明における基体は、重合体ゲルに接合させるまでの間、上記構造体を支持する支持部材である。基体の構造は、上記構造体が付着できる面(付着面)を有していればよい。なお、付着面は曲面であってもよいが、構造体の形成及び剥離(重合体ゲルへの移し取り)を容易とするため平面であることが好ましい。
【0055】
基体の材質は、上記付着面においては、例えば、ガラス、シリコン、金属材料、プラスチック材料等が挙げられる。
【0056】
後述する剥離工程において、基体から構造物を剥離し易くするため、上記付着面の材質は、構造体の材料とは異種の材質から選択することが好ましい場合がある。例えば、構造体が金属材料、又は金属酸化物材料からなる場合、付着面はガラス、シリコン、又はプラスチック等の非金属性の材料が好ましい場合がある。同様に、構造体がプラスチック材料からなる場合、付着面はガラス、シリコン、金属材料等の非プラスチック性の材料が好ましい場合がある。
【0057】
基体の大きさ及び形状は、上記構造体を付着することができる限り、特に限定されない。基体は、スライドガラスのような板状でもよい。或いは、基体を重合体ゲルの重合型に使用する場合は、製造する重合体ゲルの形状に合わせた内面(上記付着面に相当)を持つ容器状であってもよい。
【0058】
(製造方法の詳細)
〔配置工程〕
配置工程は、上記構造体が付着した基体を重合体ゲルに対して、当該構造体と重合体ゲルとが接触するように配置する工程である。配置工程は、重合体ゲルの形成と同時に行ってもよく、或いは、重合体ゲルを予め形成してから行ってもよい。
【0059】
配置工程と重合体ゲルの形成とを同時に行う一例として、重合体ゲルの原料であるモノマーを含む溶液(重合用モノマー溶液)と上記基体に付着している構造体とが接触した状態で、モノマーを重合することが挙げられる。具体的には、構造体が付着した基体(基板)と、対向基板(例えばスライドガラス)との間に、テフロン(登録商標)シート又はシリコーンゴムシート等で作製したスペーサーを挟んで、モールド型を形成する。このとき、構造体と重合体ゲルとが接触するように、基体は構造体の付着面を内側に配置する。次いで、モールド型に上記重合用モノマー溶液を注入し、紫外光を照射する等して重合反応を開始させる。このとき、同時に重合体ゲルと構造体との接合が開始される。対向基板の代わりに、構造体が付着した基体2枚でモールド型を形成することで、両面に構造体が接合した重合体ゲルを作製することもできる。
【0060】
なお、上記モールド型に、重合体を溶解させた液体を流し込んだ後に固化することで、上記したアガロース、寒天、カラギーナン、コラーゲン、ゼラチン等を用いた場合でも、構造体が接合した重合体ゲルを作製することができる。
【0061】
重合体ゲルを予め形成してから配置工程を行う一例として、予め形成した重合体ゲルを、構造体が付着した基体の付着面上に伸展させることが挙げられる。この場合、重合体ゲルと構造体との接合をより強固にするため、配置工程と後述する離間工程との間に、重合体ゲルと基体とを押し付けあう押付工程を設けることが好ましい。具体的には、例えば、予め形成した重合体ゲルを、構造体が付着した基体(基板)の付着面上に広げて、その上から対向基板(スライドガラス等)をのせ、基体と対向基板とを適当な圧力で押し付けて、数時間〜数十時間静置する。押付工程では、上記重合体ゲルと上記基体とを、両者の接触面と垂直方向に加圧することが好ましい。なお、対向基板の代わりに、構造体が付着した基体をもう1枚用いることで、両面に構造体が接合した重合体ゲルを作製することもできる。
【0062】
〔離間工程〕
離間工程は、配置工程を行うことで互いに接触している上記基体と重合体ゲルとを離して、両者を離間させる工程である。
【0063】
配置工程と重合体ゲルの形成とを同時に行う場合は、重合反応によって重合体ゲルが形成された後に離間工程を行う。重合体ゲルを予め形成してから配置工程を行う場合は、必要に応じて上記押付工程を行った後、離間工程を行う。すると、構造体は基体から剥離し、その形状及びパターン等を維持したままで重合体ゲル上に接合される。
【0064】
〔2.本発明が施されたゲルの応用例〕
本発明の方法により製造された構造体が接合した重合体ゲルは、i)構造体が当該重合体ゲルに強く接合しており、ii)ゲルの変形(膨潤・収縮及び乾燥)に追従し、iii)環境変化による接着力が変わらない、という特性を持つ。
【0065】
したがって、本発明に係る重合体ゲルは、機能素子として様々な分野において利用することが可能である。当該重合体ゲルはフレキシブルであるため、特にユビキタスコンピューティング(例えば、ウエアラブルデバイス、ICタグ等)に好適に利用され得る。また、当該重合体ゲルはウエットであるため、特にバイオ分野(例えば、生体計測、病気診断、人工筋肉等)に好適に利用され得る。
【0066】
具体的には、以下のような応用例が可能である。
【0067】
<応用例1>電気化学素子
構造体が金属薄膜である場合、当該重合体ゲルに接合された金属は、良好な金属光沢性を有し、金属表面のナノスケールでの均一性、及び電導性を示す。また、金属薄膜は、重合体ゲルの膨張及び収縮によく追従し、重合体ゲルの表面から剥離し難い(実施例参照)。さらに、金属製の構造体は、薄膜のみならず、板状電極、マイクロ電極、ナノ電極、櫛歯状電極等、所望の大きさ及び形状をもつ金属パターンとして重合体ゲル上に配置し得る。したがって、構造体が接合した上記重合体ゲルを用いれば、ウエット且つフレキシブルな電気化学素子が実現できる。
【0068】
含溶液材料である重合体ゲルに接合した金属製の構造体は、ゲル中の液相を介した電気化学反応で用いる電極として利用可能である。例えば、イオン又は分子の状態を電気化学的に計測したり、電気化学反応を行ったりすることが可能である。計測ではイオン若しくは分子の濃度、又は化学種のセンサー素子として、電気化学反応では電池等のエネルギー素子としての応用が考えられる。さらに、これら計測、電気化学反応、並びにその他の機能から選択される複数の機能を集積した電気化学集積素子を作製することができる。
【0069】
<応用例2>アクチュエーション素子又は形状記憶素子
ライン状の樹脂構造体等を、好ましくは複数本平行に重合体ゲルに接合することで、ゲルの膨潤・収縮による立体変化に方向性を持たせることが可能である。樹脂構造体は、重合体ゲルの体積変化に抗する骨格として機能し、重合体ゲルの膨潤及び収縮の程度に応じて所定の形状を取る素子が提供される。すなわち、本発明に係る重合体ゲルは方向制御アクチュエーション素子又は形状記憶素子として機能する(図15参照)。重合体ゲル及び樹脂構造体として透光性を有するものを採用すれば、例えば、焦点可変レンズ又は高フィット感コンタクトレンズ等を実現することができる。
【0070】
また、金属製の構造体を重合体ゲルに接合することで、電気信号伝達用の接合電極を形成することが可能である。当該接合電極に電気を流して重合体ゲル中のイオン分布を変化させて、ゲルの部分的な膨潤・収縮によるゲル全体の形状の変化を起こさせることができる。したがって、本発明に係る重合体ゲルは電場応答性を有し、ソフトアクチュエーション素子として機能する。
【0071】
ゲルによるソフトアクチュエーションは、生物的な柔らかい動作を行う機能素子への応用が期待されている。このような素子は、ヒューマンインターフェースとして、我々の身体が物理的に接触する部品又は製品等に埋め込み活用されることが望まれている。例えば、シート又はベッドに埋め込むことにより、利用者の姿勢等をアクティブにサポートするような機構のための動作基本素子として利用することができる。
【0072】
<応用例3>電気化学集積素子
上記応用例1及び2を組み合わせた素子の一例として、電気化学的な計測、及びアクチュエーションの機能を集積した電気化学集積素子を示す。図1に示すように、電気化学集積素子は、平板状の重合体ゲル(高分子電解質ゲル)、当該重合体ゲルの上下両面に設けられた駆動電極(構造体)、重合体ゲルの上面に設けられたセンシング用電極(センサーパターン:構造体)、アクチュエータ駆動電源、歪センシング回路、及び電気化学測定回路、を含んで構成されている。
【0073】
上記アクチュエータ駆動電源は、一対の駆動電極に電気的に接続されており、当該駆動電極間に駆動電圧を印加する。駆動電圧の印加により重合体ゲル中の電解質(イオン等)が移動をし、その分布が変化する。その結果、重合体ゲルは、駆動電圧の大きさに応じて、所定量の形状変化を起こす(上記<応用例2>の記載も参照)。一方、駆動電圧の印加を止めると、重合体ゲルは元の形状に戻る。すなわち、駆動電極が接合された重合体ゲルは、アクチュエーション素子として機能する。なお、上記駆動電圧は特に限定されないが、低消費電力で且つゲルの損傷を回避するという観点では、1ボルト以下の低電圧駆動が好ましく、数百ミリボルト程度の低電圧駆動がより好ましい。
【0074】
上記歪センシング回路は、その両端が、上記センシング用電極の両端に接続されており、当該センシング用電極を介して、重合体ゲルの形状変化を量的にセンシングする。形状変化のセンシングは、センシング用電極が、重合体ゲルの形状変化に追従して変位することを利用しその変位量から検出する。そして、歪センシング回路が検出した、重合体ゲルの形状変化量(歪量)は、アクチュエータ駆動電源の動作を制御する制御信号として、当該アクチュエータ駆動電源に入力される。すなわち、歪センシング回路が検出した歪量(実際の形状変化量)と、重合体ゲルの想定した形状変化量とにずれがある場合は、アクチュエータ駆動電源の動作を、想定した形状変化量に近づけるように制御する。
【0075】
電気化学測定回路は、上記センシング用電極の一端、及び、一対の駆動電極に電気的に接続されており、重合体ゲル中の電解質の分布の変化を検出する。この電解質の分布の変化は、重合体ゲルの形状変化量と連関するため、アクチュエータ駆動電源の動作を制御する制御信号として、当該アクチュエータ駆動電源に入力される。なお、電解質の分布の変化は、例えば、μM〜M濃度の単位で検出することができる。
【0076】
なお、重合体ゲルの実際の形状変化量は、センシング用電極のラインパターンを回析格子として用いて、例えば、サブマイクロメートル〜マイクロメートル単位で計測することもできる(後述の実施例13〜14等も参照)。そして、この計測値を、アクチュエータ駆動電源の動作を制御する制御信号として用いてもよい。
【0077】
<応用例4>触媒金属の固定
白金及びレアメタル等の機能性の希少金属からなる構造体を重合体ゲルに固定することにより、触媒付フィルターエレメント等に利用することができる。
【0078】
<応用例5>金属等の表面保護層
鏡面仕上げ等により形成した良好な金属等(構造体)の表面に対する外部からの物理的な刺激による破損(スクラッチ傷等)から保護するために、重合体ゲルを表面保護層として利用することができる。このゲル表面層は溶液で湿潤されているため、ウエットな感触表現、及び低摩擦表面も実現できる。さらに、重合体ゲルに化学的に着色することにより色彩表現等も実現できる。
【0079】
<応用例6>不要物質等の剥離除去プロセス
ガラス等の基材表面に付着した不要な金属等(構造体)を、重合体ゲルに吸着(接合)させることにより簡便に除去し、基材表面を清浄化することができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、所定の幅のある条件の記載は、当該幅の範囲内で複数の実験を行ったことを示す。
【0081】
<実施例1>
(方法)実験条件の数値範囲は複数回の実施によるものである。
【0082】
概略を図2に示す。アクリル酸(AAc)モノマー(0.9ml)、架橋剤(N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)、0.02g)、及び純水(9.1ml)からなるゲル原料溶液を作製した。ゲル原料溶液1mlに重合開始剤(2M オキソグルタル酸水溶液(2〜5μl))を加えた重合用モノマー溶液を、シリコーンゴムシートをスペーサー(500μm厚)とし両面をスライドガラス(20mm×20mm)で挟んだ重合用モールド型に注入した。ブラックライト(出力15W、主波長352nm)によるUV光を照射することにより、重合反応を開始させ、ポリアクリル酸ゲルを作製した。このポリアクリル酸ゲルを十分に純水中で膨潤させた。
【0083】
一方、接合させる金(Au)薄膜(10mm×10mm)は、高真空蒸着装置(到達真空圧力約10−5Pa、W431型、(株)片桐エンジニアリング製)を用いて、電子ビーム蒸着法により、スライドガラス(基体)上に100〜200nm程度の膜厚に堆積させ、Au薄膜付スライドガラスを作製した。
【0084】
上記ポリアクリル酸ゲルを、2枚の上記Au薄膜付スライドガラスのAu蒸着面で挟み、ダブルクリップでとめて圧力を加え、数時間〜数10時間静置した後、離型した。
【0085】
(結果)
Au薄膜はスライドガラスから剥離し、ポリアクリル酸ゲルに接合した。
【0086】
<実施例2>
(方法)
概略を図3に示す。実施例1と同様の方法で、スライドガラス(20mm×26mm)上に膜厚150nmのAu薄膜(10mm×10mm)を堆積させ、Au薄膜付スライドガラスを作製した。1枚のスライドガラス及び1枚のAu薄膜付スライドガラスで、シリコーンゴムシートで作製したスペーサー(500μm厚)を挟みこむことにより、重合用モールド型を形成した。Au薄膜付スライドガラスは、Au蒸着面を内側にした。
【0087】
アクリル酸(AAc)モノマー又メタクリル酸(MAc)モノマー水溶液(何れも2.5〜5.0M、10ml)、架橋剤(MBAAm、0.02〜0.04g)からなるゲル原料溶液を作製した。ゲル原料溶液1mlに重合開始剤(2M オキソグルタル酸水溶液(2〜5μl))を加えた重合用モノマー溶液を、上記重合用モールド型に注入した。ブラックライト(出力15W、主波長352nm)によるUV光を照射することにより、重合反応(光重合)を開始させ、同時にAu薄膜との接合を開始させた。UV光の照射時間は1〜10時間程度であった。重合反応によりポリアクリル酸ゲル又はポリメタクリル酸ゲルが形成した後、離型した。
【0088】
(結果)
Au薄膜はスライドガラスから剥離し、ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルの何れにも接合した。
【0089】
<実施例3>
(方法)
実施例2と同様の方法でAu薄膜付スライドガラスを作製し、さらに実施例2と同様の方法で重合用モールド型を作製した。実施例2と同様の組成のゲル原料溶液1mlに重合開始剤(VA−057(水溶性アゾ重合開始剤)、和光純薬、0.01〜0.02g)を加えた重合用モノマー溶液を、重合用モールド型に注入した。60℃のオーブンで2〜6時間加熱することにより、モノマーを重合させた(熱重合)。ポリアクリル酸ゲル又はポリメタクリル酸ゲルが形成した後、離型した。
【0090】
(結果)
Au薄膜はスライドガラスから剥離し、ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルの何れにも付着した。重合方法(光重合、熱重合)に関わらず、Au薄膜をゲルに接合できることがわかった。
【0091】
<実施例4>
(方法)
実施例2と同様の実験を、Auにかえて、白金(Pt)について実施した。
【0092】
(結果)
Pt薄膜はスライドガラスから剥離し、ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルの何れにも接合した。
【0093】
<実施例5>
(方法)
スライドガラス(20mm×26mm)に膜厚20μmのアルミ(Al)フォイル(20mm×26mm)を液滴接着又は静電接着等の方法で付着させ、Alフォイル付スライドガラスを作製した。1枚のスライドガラス及び1枚のAlフォイル付スライドガラスで、シリコーンゴムシートで作製したスペーサー(500μm厚)を挟みこむことにより、重合用モールド型を形成した。
【0094】
実施例2と同様の組成の溶液重合用モノマー溶液を、上記重合用モールド型に注入した。実施例2と同様の重合条件により重合を行った後、離型した。
【0095】
(結果)
ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルの何れもスライドガラスからは剥離し、Alフォイルと接合した。
【0096】
<実施例6>
(方法)
実施例5と同様の方法で重合用モールド型を形成した。
【0097】
実施例3と同様の組成の重合用モノマー溶液を、上記重合用モールド型に注入した。実施例3と同様の重合条件により重合を行った後、離型した。
【0098】
(結果)
ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルの何れもスライドガラスからは剥離し、Alフォイルと接合した。
【0099】
<実施例7>
アクリル酸(AAc)モノマーとアクリルアミド(AAm)モノマーとの共重合体ゲルにAu薄膜を接合することができるか調べた。
【0100】
(方法)
実施例2と同様の方法でAu薄膜付スライドガラスを作製し、さらに実施例2と同様の方法で重合用モールド型に作製した。
【0101】
AAcモノマーとAAmモノマーの水溶液([AAc]:[AAm](モル濃度比)=1:3又は1:1、[AAc]+[AAm]=2.5M、10ml)、架橋剤(MBAAm、0.02〜0.04g)からなるゲル原料溶液を作製した。ゲル原料溶液1mlに重合開始剤(2M オキソグルタル酸水溶液(2〜5μl))を加えた重合用モノマー溶液を、上記重合用モールド型に注入した。実施例2と同様の条件でUV光を照射し、重合反応を開始させた。重合反応によりポリアクリル酸−アクリルアミド共重合体ゲルが形成した後、離型した。
【0102】
(結果)
Au薄膜はスライドガラスから剥離し、何れの組成のポリアクリル酸−アクリルアミド共重合体ゲルにも接合した。[AAc]:[AAm]=1:1の共重合体ゲルの方が、1:3の共重合体ゲルよりもAu薄膜の接合が良好であった。[AAc]:[AAm]=1:1であるポリアクリル酸−アクリルアミド共重合体ゲルにAu薄膜が接合している写真を、図4に示す。
【0103】
<実施例8>
(方法)
概略を図5に示す。シリコンウエハ(20mm×20mm)(基体)上に、スピンコート法により、ヘキサメチルジシラザラン(HMDS)液による界面処理及びレジスト液(AZ1500、AZ Electronic Materials社)による膜厚2μm程度のレジスト膜の形成を行った。次いでマスクレスフォトリソグラフィ装置((株)ナノシステムソリューションズ社製)を用いてパターン露光処理を行い、AZ1500専用現像液に45秒間浸漬した後、純水で洗浄を行うことにより、sub−μm〜mmスケールのサイズのパターン蒸着マスクを作製した。このシリコンウエハ基板上に真空蒸着装置を用いてAuの電子ビーム蒸着を行い、膜厚150nmのAu薄膜を堆積させた。このシリコンウエハを、アセトンに約5分間浸漬し攪拌することにより、レジスト膜溶解除去と同時に、不要箇所(レジスト膜上)のAu薄膜のリフトオフ除去を行い、目的とする薄膜微細構造パターン(線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターン)を形成した。
【0104】
スライドガラス及び当該薄膜微細構造パターンのあるシリコンウエハ(パターン付きシリコンウエハ)で、テフロンシート又はシリコーンゴムシートで作製したスペーサー(50〜500μm厚)を挟みこむことにより、重合用モールド型を形成した。シリコンウエハ基板は、パターン形成面を内側にした。
【0105】
アクリル酸(AAc)モノマー又メタクリル酸(MAc)モノマー水溶液(何れも2.5〜5.0M、1ml)、架橋剤(MBAAm、0.01〜0.02g)からなるゲル原料溶液を作製した。ゲル原料溶液1mlに重合開始剤(2M オキソグルタル酸水溶液(2〜5μl))を加えた重合用モノマー溶液を、上記重合用モールド型に注入した。実施例2と同様の条件でUV光を照射し、重合反応を開始させた。重合反応によりポリアクリル酸ゲル又はポリメタクリル酸ゲルが形成した後、離型した。
【0106】
また、実施例2と同様の組成の液についても、同様の実験を行った。
【0107】
(結果)
何れのゲルについても、Auの薄膜微細構造パターン(線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターン)はシリコンウエハから剥離し、ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルに接合した。ゲル上の薄膜微細構造パターンを光学顕微鏡で観察したところ、線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターンを形成していることが確認された。
【0108】
<実施例9>
(方法)
実施例8と同様の実験を、線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターンにかえて、1μmのAuドットパターンについて実施した。
【0109】
(結果)
何れのゲルについても、Auの薄膜微細構造パターン(1μmのAuドットパターン)はシリコンウエハから剥離し、ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルに接合した。ポリアクリル酸ゲル上の薄膜微細構造パターンを走査型電子顕微鏡(日立製作所製、型番S4800)で観察した画像を図6に示す。(a)、(b)はそれぞれ倍率を×2500、×15000にしたものである。(a)及び(b)において、ゲル上に1μmのAuドットパターンが形成されていることが確認された。
【0110】
<実施例10>
(方法)
概略を図7に示す。シリコンウエハ又はスライドガラスに、スピンコート法により、感光性樹脂剤であるSU−8(エポキシ系樹脂、日本化薬(株))の膜形成(膜厚24μm又は50μm)をし、90℃のオーブンで約10分間加熱して硬化させた。次いでマスクレスフォトリソグラフィ装置を用いてパターン露光処理を行い、SU−8専用現像液に5〜8分間浸漬した後、イソプロピルアルコールで洗浄を行うことにより、樹脂マイクロパターン(線幅/スペース=36μm/36μm)付の基板を作製した。
【0111】
スライドガラス及び当該樹脂マイクロパターンのある基板で、テフロンスペーサー(100μm厚)を挟みこむことにより、重合用モールド型を形成した。基板は樹脂マイクロパターン形成面を内側にした。
【0112】
アクリルアミド(AAm)モノマー又はアクリル酸(AAc)モノマー水溶液(何れも2.5〜5.0M、10ml)、架橋剤(MBAAm、0.02〜0.04g)からなるゲル原料溶液を作製した。ゲル原料溶液1mlに重合開始剤(2M オキソグルタル酸水溶液(2〜5μl))を加えた重合用モノマー溶液を、重合用モールド型に注入した。ブラックライト(出力15W、主波長352nm)によるUV光を照射することにより、重合反応を開始させ、同時に樹脂マイクロパターンとの接合を開始させた。UV光の照射時間は1〜10時間程度であった。重合反応によりポリアクリルアミドゲル又ポリアクリル酸ゲルが形成した後、離型した。
【0113】
(結果)
何れのゲルについても、樹脂マイクロパターンは基板から剥離し、ゲルに接合して、当該ゲル上に樹脂マイクロパターンが形成された。
【0114】
<実施例11>
(方法)
実施例2で作製したAu薄膜(膜厚150nm)を接合したポリアクリル酸ゲルを風乾し、走査型電子顕微鏡(日立製作所製、型番S4800)を用いて、Au薄膜の表面を観察した。
【0115】
(結果)
図8はAu薄膜を接合したポリアクリル酸ゲルの、風乾後の電子顕微鏡の画像である。(a)〜(d)はそれぞれ倍率を×150、×200、×5000、×50000にしたものである。(a)及び(b)において、ゲルの変形(収縮)に伴ってAu薄膜がしわになっていることが観察された。さらに拡大した(c)を見ると、しわになっているように見える部分は、収縮したゲルの起伏に沿って、Au薄膜が接合したまま起伏しているだけであることがわかった。さらに拡大した(d)を見ると、山になっている部分に破れはなく、しなやかに折れていることが確認された。
【0116】
これらの観察の結果、ゲルとAu薄膜は良好に接合しており、Au薄膜はsub−μmオーダー曲率半径のゲルの変形にも追従することがわかった。
【0117】
<実施例12>
(方法)
実施例8で作製した薄膜微細構造パターン(線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターン)を接合したポリアクリル酸ゲルを風乾し、光学顕微鏡(オリンパス製、型番BX)を用いて、Auラインパターンの変化を観察した。
【0118】
(結果)
図9はAuラインパターンを接合したポリアクリル酸ゲルの光学顕微鏡の画像である。(a)は純水中で膨潤させた状態の画像であり、(b)は1.5MのKCl水溶液中で収縮させた状態の画像である。観察の結果、ゲルとAu薄膜(ラインパターン)は良好に接合しており、ゲルの膨潤・収縮に追従して、Auラインパターンが伸縮していることがわかった。
【0119】
<実施例13>光学素子
本発明の方法で作製したゲルについて、光学素子としての利用可能性を検討した。
【0120】
(方法)
実施例8と同様の方法で、線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターンを周期配列させたマイクロスリット構造をもつポリアクリル酸ゲル回折格子を作製した。ゲルの膨潤・収縮によりスリット間隔が変化する稼働型の回折格子素子である。この素子にレーザー光を照射した。
【0121】
(結果)
光学干渉によりスリット間隔に応じた回折スポットを得ることができた。つまり、ゲルの膨潤・収縮によりレーザー光を任意の位置に分割照射する光学機能素子が作製できた。
【0122】
<実施例14>変形計測素子
本発明の方法で作製したゲルについて、変形計測素子としての利用可能性を検討した。
【0123】
(原理)
実験は、マイクロスリット構造(離間したAuラインパターン)をもつゲル回折格子にレーザー光を照射して、ゲル回折格子を透過したレーザー光を回折スポットとしてスクリーンに映し出すことで行う。レーザーの波長をλ、ゲル上のAuラインパターンのスリット間隔をd、スクリーン上の回折スポットの間隔をx、ゲルのAu接合面とスクリーンとの距離をLとすると、回折スポットパターンは「d・x/L=λ」の関係が成り立つ。したがって、回折スポットの間隔xを測定することにより、スリット間隔dを計算することができる。そして、スリット間隔dはゲルの膨潤・収縮により増減するため、スリット間隔dを得ることができれば、ゲルの膨潤・収縮状態を知ることができる。なお、スリット間隔dは、隣り合うAuライン間の距離に相当する。
【0124】
(方法)
まず、実施例13で作製したゲルを2.5MのCaCl2水溶液中で十分収縮させた後、純水中で膨潤させた。純水への移動と同時に、回折スポットの間隔xの測定を開始した。また、実施例13で作製したゲルを純水中で十分膨潤させた後、2.5MのCaCl2水溶液中で収縮させた。CaCl2水溶液への移動と同時に、回折スポットの間隔xの測定を開始した。次に測定した回折スポットの間隔xの値から、スリット間隔dの値を計算した。同様の方法で、NaCl水溶液でも測定を行った。
【0125】
(結果)
図10は、ゲルの膨潤・収縮変化によるスリット間隔dの変化の結果を示す図である。図10の(a)に示すように、収縮状態から膨潤状態になる過程で、スリット間隔dの値が経時的に大きくなっていくことを定量計測することができた。また、図10の(b)に示すように、膨潤状態から収縮状態になる過程で、スリット間隔dの値が経時的に小さくなっていくことを定量計測することができた。
【0126】
また、当該計測は、静置した状態で±約5nm程度で安定しており、その結果として、図11に示すように、空間分解能20nm、時間分解能67msecで収縮過程の計測を行うことができた。
【0127】
以上のことから、ゲル回折格子のゲル部分及びゲル回折格子をコンタクトさせた構造体等の変形を高感度の変形検出素子として利用できることがわかった。
【0128】
<実施例15>イオンセンサー素子
本発明の方法で作製したゲルについて、イオンセンサー素子としての利用可能性を検討した。
【0129】
(方法)
ゲルの収縮のNaCl濃度依存性及びCaCl2濃度依存性を調べた。実施例13で作製したゲルを純水中で十分膨潤させた後、NaCl水溶液又はCaCl2水溶液中で収縮させた。NaClの濃度は、50mM、0.5M、1M、2.5M、5Mとし、それぞれについて実験した。また、CaCl2の濃度は、2.5mM、25mM、0.25M、2.5Mとし、それぞれについて実験した。
【0130】
ゲルの飽和収縮比WをNaCl及びCaCl2について求めた。ゲルの飽和収縮比Wは、「W=1−(ds/dw)3」と定義する。なお、dwは純水中におけるスリット間隔d、dsはNaCl水溶液又はCaCl2水溶液中におけるスリット間隔dの飽和値である。
【0131】
また、本実験で計測したゲルの収縮は便宜的に三次元等方的であると仮定し、収縮体積量を一次元収縮量の3乗として計算し、初期の単位時間当たりの変化量を初期体積収縮速度Rとした。
【0132】
このRと塩の濃度Cとの関係式を「R=k・[C]p」と仮定した。ここで、kは速度定数、pは次数である。
【0133】
(結果)
図12はゲルの収縮のCaCl2濃度依存性の結果を示す。(b)は(a)のスケールを拡大したものである。図12に示すように、mM〜Mオーダーまでの塩濃度測定が可能であることがわかった。また、図13は、ゲルの飽和収縮比の塩濃度依存性の結果を示す。(a)はNaCl、(b)はCaCl2についての結果である。これを比較すると、NaClの方がCaCl2に比較して飽和量が大きくなることが分かる。従来は2価のCa2+の方が1価のNa+より収縮効果が高いと考えられていたが、その逆であった。これは、ミリ秒、ナノメートルスケールの時間・空間分解能をもつ本手法によってはじめてわかることである。
【0134】
この結果から、本発明に係るゲルは、ゲルの飽和収縮比を計測することで、イオン種の同定素子として利用可能であることが示された。
【0135】
また、図14はゲルの初期体積収縮速度(R)の塩濃度依存性の結果を示す。(a)はNaCl、(b)はCaCl2についての結果である。NaClとCaCl2とではゲルの収縮速度が異なることがわかった。また、速度定数k及び次数pは、NaClではk=3.0×105、p=0.5となり、CaCl2ではk=1.7×105、p=1.4となった。NaClとCaCl2とでは、速度定数k及び反応次数pが異なることがわかった。
【0136】
この結果から、本発明に係るゲルは、ゲルの収縮速度を計測することでも、イオン種の同定素子として利用可能であることが示された。
【0137】
<実施例16>アクチュエーション素子
本発明の方法で作製したゲルについて、アクチュエーション素子としての利用可能性を検討した。
【0138】
(方法)
概略を図15の(a)に示す。実施例10で作製したポリアクリルアミドゲル(膜厚24μmの樹脂マイクロパターン付)をアセトン槽に入れ、脱水した。また、同じゲルを水槽に入れ、吸水させた。
【0139】
(結果)
図15の(b)に示すように、ゲルをアセトン槽に入れると、ゲルは脱水されて収縮し、マイクロパターンが接合している面が外側になる形でゲルが変形した(状態(A))。一方、ゲルを水槽に入れると、ゲルは吸水して膨潤し、マイクロパターンが接合している面が内側になる形でゲルが変形した(状態(B))。
【0140】
この結果から、本発明に係るゲルは、膨潤・収縮による立体変化に方向性を持たせることが可能であり、方向制御アクチュエーション素子又は形状記憶素子として利用可能であることが示された。
【0141】
<実施例17>アクチュエーション素子
本発明の方法で作製したゲルについて、実施例16と同様、アクチュエーション素子としての利用可能性を検討した。
【0142】
(方法)
概略を図16の(a)に示す。実施例10と同様の方法で作製した十字型のポリアクリルアミドゲル(膜厚24μmの樹脂マイクロパターン付)をアセトンと水との混合槽に入れて弛緩させた後、水槽に移して吸水させた。また、同じゲルを水槽に入れて吸水させた後、アセトン及び水の混合槽に移した。
【0143】
(結果)
図16の(b)に示すように、混合槽において弛緩状態となっているゲルを水槽に移すと、15秒以内に変形し、目的の立体形状を形成した。また、水槽で立体形状を形成しているゲルを混合槽に移すと、15秒以内に変形し、弛緩状態となった。
【0144】
この結果から、本発明に係るゲルは、高速でのフォールディング立体造形制御が可能であり、高速アクチュエーション素子又は形状記憶素子として利用可能であることが示された。
【0145】
本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明によれば、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が、ナノ・マイクロスケールで直接接合した重合体ゲルの製造方法等を提供することができる。当該重合体ゲルは、デバイス素子として機能することが可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材料が接合した重合体ゲル、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重合体ゲルは、多量に溶液成分を内包した材料であり、膨潤・収縮によるしなやかな変形、及び溶液環境中のイオン又は分子等の物質との相互作用等をするため、機能性材料としての利用が期待されている。機能性材料をデバイス素子として機能させるためには、その応答特性を電気又は光等の物理的な信号で検知して当該材料の状態を把握する、或いは応答特性を能動的に変化させ得ることが不可欠である。そのためには、様々な材料、特に金属材料等の薄膜構造を機能性材料に形成すること等が考えられる。
【0003】
しかし、重合体ゲルは含溶液材料であり柔軟であるため、固体材料と接合することは困難であった。例えば、薄膜構造の形成方法として汎用される真空蒸着法等のドライプロセスによる薄膜堆積法は、含溶液材料たる重合体ゲルに用いることは困難である。
【0004】
現在までに、重合体ゲルに固体材料を接合するための様々な方法が開発されてきた。例えば、接着剤による接合法も検討されてきたが、実際にはゲル専用に接着剤を開発した例はなく、一般接着剤又は医用接着剤等を転用せざるを得ない状況である。
【0005】
また、非特許文献1には、重合体ゲルの表面で化学的に還元し金属膜を形成する無電解めっき法の試みが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】バイオミメティクス ハンドブック (代表編集者;長田義仁 (株)NTS 2000年) P932
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、接着剤による接合法では、接着剤層の形成等により、固体材料と重合体ゲルとの直接的なコンタクトが得られない上、重合体ゲル自体の特性が劣化する虞があるという問題があった。
【0008】
また、非特許文献1の方法では、金属の粒成長又は重合体ゲルの内部への伸展成長により、微細なスケールで平滑性及び光沢性を有する金属薄膜の形成が困難であった。さらに、複雑な化学処理プロセスが必要である上、化学物質が残存するという問題もあった。
【0009】
さらに、重合体ゲルに直接金属薄膜を形成する方法では、微細スケールの回路及び規則構造等の薄膜構造パターンを形成するためには、リソグラフィ等の微細加工法を適用する必要がある。しかし、重合体ゲルはその柔軟性ゆえ、形状が不安定であり、微細加工法によって薄膜構造パターンを形成することが困難であった。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が直接接合した重合体ゲルの新規な製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、重合体ゲルではない異種材料からなる構造体を予め形成しておき、当該構造体を重合体ゲルに移し取ることで、構造体の形状等が保持されたまま重合体ゲルに接合できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る製造方法は、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が接合した重合体ゲルの製造方法であって、上記構造体が付着した基体を重合体ゲルに対して、当該構造体と重合体ゲルとが接触するように配置する配置工程と、次いで、上記基体と重合体ゲルとを離す離間工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る製造方法は、上記配置工程は、上記重合体ゲルの原料であるモノマーを含む溶液と上記基体に付着している構造体とが接触した状態で、当該モノマーを重合することで行うことが好ましい場合がある。
【0014】
本発明に係る製造方法は、上記配置工程と離間工程との間に、上記重合体ゲルと上記基体とを押し付けあう工程を含むことが好ましい場合がある。
【0015】
本発明に係る製造方法において、上記重合体ゲルが、ハイドロゲルであってもよい。
【0016】
本発明に係る製造方法において、上記重合体ゲルが、カルボキシル基を有するものであることが好ましい。一例として、当該重合体ゲルが、重合性不飽和カルボン酸モノマーの単独又は共重合体であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る製造方法において、上記重合性不飽和カルボン酸が、アクリル酸又はメタクリル酸であることがより好ましい。
【0018】
本発明に係る製造方法において、上記構造体が、蒸着によって上記基体に付着されるものであってもよい。
【0019】
本発明に係る製造方法において、上記構造体が薄膜であってもよい。
【0020】
本発明に係る製造方法において、上記構造体が、当該構造体をなす材料の膜を、上記基体上でパターニングすることにより形成されているものであってもよい。
【0021】
本発明に係る製造方法において、上記基体における上記構造体が付着している面が、ガラス製又はシリコン製であることが好ましい。
【0022】
本発明はさらに、上記の製造方法によって製造されることを特徴とする、構造体が接合した重合体ゲルを提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が、その形状等が保持されたまま、直接接合した重合体ゲルを製造することができる。
【0024】
また、本発明によれば、上記構造体が微細なスケールである場合においても、その形状等が保持されたまま、直接接合した重合体ゲルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る重合体ゲルの応用例の一例を示す図である。
【図2】実施例1の方法の概略を示す図である。
【図3】実施例2の方法の概略を示す図である。
【図4】実施例7において作製された、Au薄膜が接合した重合体ゲルを示す図である。
【図5】実施例8の方法の概略を示す図である。
【図6】実施例9において、Auドットパターンが接合したポリアクリル酸ゲルの様子を示す図である。
【図7】実施例10の方法の概略を示す図である。
【図8】実施例11において、Au薄膜が接合したポリアクリル酸ゲルの、風乾後の様子を示す図である。
【図9】実施例12において、Auラインパターンが接合したポリアクリル酸ゲルの様子を示す図である。
【図10】実施例14において、重合体ゲルの膨潤・収縮変化によるスリット間隔の変化を測定した結果を示す図である。
【図11】実施例14において、重合体ゲルの収縮変化によるスリット間隔の変化を測定した結果を示す図である。
【図12】実施例15において、重合体ゲルの収縮のCaCl2濃度依存性を測定した結果を示す図である。
【図13】実施例15において、重合体ゲルの飽和収縮比の塩濃度依存性を測定した結果を示す図である。
【図14】実施例15において、重合体ゲルの収縮速度(体積収縮速度)の塩濃度依存性を測定した結果を示す図である。
【図15】実施例16において、重合体ゲルの膨潤・収縮変化による形状の変化の結果を示す図である。
【図16】実施例17において、重合体ゲルの膨潤・収縮変化による形状の変化の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔1.重合体ゲルの製造方法〕
(製造方法の概要)
本発明に係る重合体ゲルの製造方法は、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が接合した重合体ゲルの製造方法であって、上記構造体が付着した基体を重合体ゲルに対して、当該構造体と重合体ゲルとが接触するように配置する配置工程と、次いで、上記基体と重合体ゲルとを離す離間工程と、を含む方法である。
【0027】
(重合体ゲル)
本発明における重合体ゲルは、ハイドロゲル及びオルガノゲルの何れでもよい。また、重合体には、数百個程度のモノマーからなるオリゴマー、及び、それより多数のモノマーからなるポリマー(高分子)が含まれ、ゲルの分散質となり得るものである。
【0028】
また、本発明において、重合体ゲルは、その製造方法により、(i)専ら化学重合により製造される重合体をゲルの分散質として利用するタイプ、及び(ii)重合体を液体に溶解させた後固化する過程でゲル化するタイプの両方を包含する。
【0029】
(i)専ら化学重合により製造される重合体をゲルの分散質として利用するタイプ
重合体を構成するモノマーとしては、ハイドロゲル又はオルガノゲルに用いる各種のモノマーが好適に用いられる。重合体を構成するモノマーの電荷の有無、側鎖の種類等は、特に限定されない。モノマーとして、例えば、重合性の不飽和モノマー等が挙げられる。不飽和モノマーは、電気的に中性な基、酸性基、塩基性基等を有していてもよい。
【0030】
電気的に中性な基を有する不飽和モノマーとしては、例えば、アクリルアミド(AAm)、N−イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N−ジメチル−アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、メチルメタクリレート(MMA)、ビニルピリジン、ヒドロキシエチルアクリレート、酢酸ビニル、アクリロイルモルホリン、フッ素含有不飽和モノマー等が挙げられる。
【0031】
フッ素含有不飽和モノマーとしては、例えば、トリフルオロエチルアクリレート(TFE)、2,2,2−トリフルオロエチルメチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、3−(ペルフルオロブチル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ[2−(フルオロサルフォニルエトキシ)プロピルビニル エーテル]等が挙げられる。
【0032】
不飽和モノマーが有し得る酸性基としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。また、不飽和モノマーが有し得る塩基性基としては、例えば、アミノ基等が挙げられる。酸性基、塩基性基等を有する不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸(MAc)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート4級化物、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド4級化物又はそれらの塩を挙げることができる。
【0033】
重合体ゲルは、1種類のモノマーの単独重合体でもよく、2種類以上のモノマーの共重合体でもよい。重合体ゲルが共重合体からなる場合は、単独重合体ではゲルを与えない各種モノマーもコモノマー成分として重合体ゲルの製造に利用され得る。
【0034】
なお、本発明では、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸(MAc)、ビニル酢酸のような重合性不飽和基を有するモノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸のような重合性不飽和基を有するポリカルボン酸(ジカルボン酸等);これらポリカルボン酸の酸無水物;を重合性不飽和カルボン酸と総称する場合がある。
【0035】
重合体ゲルを構成するモノマーの種類は、必要に応じて、後述する構造体をなす材料の種類に応じて選択してもよい。例えば、構造体をなす材料が、金属材料、又は金属酸化物材料の場合は、構造体と重合体ゲルとの接合がより良好になるとの観点で、重合体ゲルはカルボキシル基を有するものであることが好ましい。カルボキシル基を有する重合体ゲルを製造する一例では、上記モノマーとして重合性不飽和カルボン酸を用いることが好ましく、中でもアクリル酸、及びメタクリル酸がより好ましい。
【0036】
また、構造体をなす材料が金属材料又は金属酸化物材料であって、且つ重合体ゲルが重合性不飽和カルボン酸と、重合性不飽和カルボン酸以外のモノマーとの共重合体からなる場合は、全繰り返し単位中に占める、重合性不飽和カルボン酸由来の繰り返し単位の含有割合が、モノカルボン酸換算で、25%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。また、金属材料又は金属酸化物材料と重合体ゲルとの接合の程度は、重合体ゲルに導入されたカルボキシル基の量に主に依存すると推定されるため、上記重合性不飽和カルボン酸がジカルボン酸の場合は、上記含有割合は12.5%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、37.5%以上であることがさらに好ましい。なお、上記含有割合は、重合体ゲルを製造するためのモノマー成分中に占める、重合性不飽和カルボン酸の含有割合(モル換算)と略一致する。
【0037】
なお、重合体を製造後に当該重合体にカルボキシル基を導入して、カルボキシル基を有する重合体ゲルを得ることもできる。例えば、重合体として、その側鎖にアミド基、エステル基、又はニトリル基を持つ重合体を製造し、これら側鎖の官能基に対して加水分解によりカルボキシル基を導入可能である。
【0038】
重合体は、ゲルを構成する他の重合体との間で架橋されている架橋点を少なくとも1つ有していることが好ましい。ここで「架橋する」とは、共有結合等によって重合体同士が化学的に結合することをいう。重合体は、例えばモノマー由来の繰り返し単位同士が結合することによって架橋される。重合体が有する架橋点の数は、当該重合体が有する繰り返し単位の数の0.001%以上20%以下であることが好ましい。このように重合体が架橋点を有することによって、ゲルを構成する重合体間が架橋されるため、ゲルの機械強度をより高くすることができる。
【0039】
架橋剤は、重合体を形成するモノマーの種類等に応じて適宜選択すればよく、例えば、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)、N,N’−プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N,N’−ジアリルタータルジアミド、N,N’−ビスアクリロイルシスタミン等が挙げられる。
【0040】
モノマーの重合に際しては、必要に応じて重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤は、重合体を形成するモノマーの種類等に応じて適宜選択すればよく、例えば、オキソグルタル酸、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)、過硫酸アンモニウム(N,N,N’,N’−デトラエチレンジアミン(TEMED)と共に添加する)、過硫酸カリウム、過酸化水素と塩化鉄(II)との組合せ等が挙げられる。
【0041】
モノマー、必要に応じて添加される架橋剤、及び必要に応じて添加される重合開始剤、並びにその他の添加物を溶媒中で混ぜ合わせて重合用モノマー溶液を作製する。溶媒はモノマーの種類に応じて、水又は有機溶剤(例えば、エタノール、メタノール等)を用いればよい。なお、重合開始剤は重合反応を開始させる直前に加えることが望ましい。配合量は、例えば、モノマーを0.1M〜10M、架橋剤を0.1mM〜1000mM、重合開始剤を0.1mM〜100mMとすればよい。
【0042】
重合体ゲルの作製は、上記重合用モノマー溶液を、モノマーの種類に応じた方法で重合反応させればよい。例えば、上記重合用モノマー溶液に対して、紫外光(UV光)を照射することにより、又は加熱(例えば、60℃、2〜6時間)することにより、重合を行い、ゲル化させる。得られた重合体ゲルは、さらに必要に応じて、水又は有機溶剤を吸液させてもよい。
【0043】
(ii)重合体を液体に溶解させた後固化する過程でゲル化するタイプ
重合体として、単糖又はアミノ酸(モノマー)の重合体が挙げられる。単糖の重合体としては、アガロース、寒天、カラギーナン等が挙げられる。また、アミノ酸の重合体としては、コラーゲン、ゼラチン等が挙げられる。
【0044】
上記重合体は、主に生体内に含まれる物質であり、例えば生体から精製されたものを水に溶解した後、ゲル化すればよい。例えばアガロースの場合、粉末状のアガロースを熱水に溶解させた後に、冷却することでゲル化する。
【0045】
重合体ゲルの大きさは特に限定されず、所望の面積及び厚さが可能である。また、重合体ゲルの形状も特に限定されない。
【0046】
(構造体)
本発明における構造体は、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる。金属としては、例えば、金、白金、アルミニウム、クロム、亜鉛、銀、銅、ニッケル等が挙げられる。また、金属は合金でもよく、例えば、ステンレス、ジェラルミン等が挙げられる。金属酸化物としては、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン、酸化マグネシウム等が挙げられる。プラスチックとしては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。
【0047】
構造体の大きさ及び形状は、特に限定されないが、マイクロデバイスにおいては、厚さは、50nm〜20μmが好ましく、50nm〜200nmがより好ましい。
【0048】
構造体を基体に付着させる方法は特に限定されず、形成した構造体を基体に付着させてもよいし(間接付着法)、基体に構造体を直接形成してもよい(直接付着法)。なお、何れの方法を採用する場合でも、接着剤層等を介さずに、構造体が基体に直接付着していることが好ましい。
【0049】
上記間接付着法とは、例えば、構造体と基体とを圧力をかけながら付着させる等の、物理的吸着又は化学的吸着等を利用する付着法である。一方、上記直接付着法とは、例えば、蒸着法、ナノインプリント等のインプリント法(印刷技法)、インクジェット直描法等の、直接形成法である。なお、構造体が付着した基体の取扱い性に優れ、構造体の不所望な脱落がないという観点では、直接付着法がより好ましい。
【0050】
また、直接付着法の中では、構造体表面の均一性の実現という観点では、蒸着法が好ましい。蒸着法の種類は特に限定されず、例えば、真空蒸着法が挙げられる。また、ナノスケールのような極めて微細な構造体を精緻に形成可能という観点では、蒸着法及びインプリント法が好ましく、インプリント法がより好ましい。
【0051】
基体に付着された構造物の大きさ及び形状は特に限定されず、数cm×数cm大の薄膜でもよいし、μm又はnmオーダーのライン又はドット等でもよい。また、構造物は粒子でもよく、例えば、薄膜形成には至らない量の金属粒子が基体に付着されてもよい。
【0052】
また、構造体は、基体上で、所定のパターンを構成していてもよい(パターニング工程)。パターンは、例えば、公知のリソグラフィ及び薄膜形成法を用いて基体の上で作製することができる。より具体的には、基体上に形成したレジスト膜に対して、電子線リソグラフィ装置、又はDUV(Deep Ultra violet)露光装置等を使用してパターンを描画し、描画後のレジスト膜を現像することで、その微小限界サイズであるナノメートルオーダーのマスクパターンを形成する。次いで、マスクパターンが形成された基体上に構造体の材料からなる薄膜を形成し、マスクパターン及びその上に形成された薄膜を取り除く(リフトオフ除去)。この方法で、ナノメートルスケールの設計寸法で規則構造微細パターン(構造体)を基体上に形成することが可能である。したがって、ナノメートルオーダーのパターンを有する構造体を重合体ゲルに接合することが可能である。なお、ナノメートルオーダーのパターンを有する構造体は、ナノインプリンティング法等によって形成してもよい。
【0053】
また、構造体の表面は化学修飾されてもよい。例えば、チオール基をもつ有機分子は、金表面に二重結合して自己組織化単分子膜を形成するため、重合体ゲルとの接着力を増強させることができる。
【0054】
(基体)
本発明における基体は、重合体ゲルに接合させるまでの間、上記構造体を支持する支持部材である。基体の構造は、上記構造体が付着できる面(付着面)を有していればよい。なお、付着面は曲面であってもよいが、構造体の形成及び剥離(重合体ゲルへの移し取り)を容易とするため平面であることが好ましい。
【0055】
基体の材質は、上記付着面においては、例えば、ガラス、シリコン、金属材料、プラスチック材料等が挙げられる。
【0056】
後述する剥離工程において、基体から構造物を剥離し易くするため、上記付着面の材質は、構造体の材料とは異種の材質から選択することが好ましい場合がある。例えば、構造体が金属材料、又は金属酸化物材料からなる場合、付着面はガラス、シリコン、又はプラスチック等の非金属性の材料が好ましい場合がある。同様に、構造体がプラスチック材料からなる場合、付着面はガラス、シリコン、金属材料等の非プラスチック性の材料が好ましい場合がある。
【0057】
基体の大きさ及び形状は、上記構造体を付着することができる限り、特に限定されない。基体は、スライドガラスのような板状でもよい。或いは、基体を重合体ゲルの重合型に使用する場合は、製造する重合体ゲルの形状に合わせた内面(上記付着面に相当)を持つ容器状であってもよい。
【0058】
(製造方法の詳細)
〔配置工程〕
配置工程は、上記構造体が付着した基体を重合体ゲルに対して、当該構造体と重合体ゲルとが接触するように配置する工程である。配置工程は、重合体ゲルの形成と同時に行ってもよく、或いは、重合体ゲルを予め形成してから行ってもよい。
【0059】
配置工程と重合体ゲルの形成とを同時に行う一例として、重合体ゲルの原料であるモノマーを含む溶液(重合用モノマー溶液)と上記基体に付着している構造体とが接触した状態で、モノマーを重合することが挙げられる。具体的には、構造体が付着した基体(基板)と、対向基板(例えばスライドガラス)との間に、テフロン(登録商標)シート又はシリコーンゴムシート等で作製したスペーサーを挟んで、モールド型を形成する。このとき、構造体と重合体ゲルとが接触するように、基体は構造体の付着面を内側に配置する。次いで、モールド型に上記重合用モノマー溶液を注入し、紫外光を照射する等して重合反応を開始させる。このとき、同時に重合体ゲルと構造体との接合が開始される。対向基板の代わりに、構造体が付着した基体2枚でモールド型を形成することで、両面に構造体が接合した重合体ゲルを作製することもできる。
【0060】
なお、上記モールド型に、重合体を溶解させた液体を流し込んだ後に固化することで、上記したアガロース、寒天、カラギーナン、コラーゲン、ゼラチン等を用いた場合でも、構造体が接合した重合体ゲルを作製することができる。
【0061】
重合体ゲルを予め形成してから配置工程を行う一例として、予め形成した重合体ゲルを、構造体が付着した基体の付着面上に伸展させることが挙げられる。この場合、重合体ゲルと構造体との接合をより強固にするため、配置工程と後述する離間工程との間に、重合体ゲルと基体とを押し付けあう押付工程を設けることが好ましい。具体的には、例えば、予め形成した重合体ゲルを、構造体が付着した基体(基板)の付着面上に広げて、その上から対向基板(スライドガラス等)をのせ、基体と対向基板とを適当な圧力で押し付けて、数時間〜数十時間静置する。押付工程では、上記重合体ゲルと上記基体とを、両者の接触面と垂直方向に加圧することが好ましい。なお、対向基板の代わりに、構造体が付着した基体をもう1枚用いることで、両面に構造体が接合した重合体ゲルを作製することもできる。
【0062】
〔離間工程〕
離間工程は、配置工程を行うことで互いに接触している上記基体と重合体ゲルとを離して、両者を離間させる工程である。
【0063】
配置工程と重合体ゲルの形成とを同時に行う場合は、重合反応によって重合体ゲルが形成された後に離間工程を行う。重合体ゲルを予め形成してから配置工程を行う場合は、必要に応じて上記押付工程を行った後、離間工程を行う。すると、構造体は基体から剥離し、その形状及びパターン等を維持したままで重合体ゲル上に接合される。
【0064】
〔2.本発明が施されたゲルの応用例〕
本発明の方法により製造された構造体が接合した重合体ゲルは、i)構造体が当該重合体ゲルに強く接合しており、ii)ゲルの変形(膨潤・収縮及び乾燥)に追従し、iii)環境変化による接着力が変わらない、という特性を持つ。
【0065】
したがって、本発明に係る重合体ゲルは、機能素子として様々な分野において利用することが可能である。当該重合体ゲルはフレキシブルであるため、特にユビキタスコンピューティング(例えば、ウエアラブルデバイス、ICタグ等)に好適に利用され得る。また、当該重合体ゲルはウエットであるため、特にバイオ分野(例えば、生体計測、病気診断、人工筋肉等)に好適に利用され得る。
【0066】
具体的には、以下のような応用例が可能である。
【0067】
<応用例1>電気化学素子
構造体が金属薄膜である場合、当該重合体ゲルに接合された金属は、良好な金属光沢性を有し、金属表面のナノスケールでの均一性、及び電導性を示す。また、金属薄膜は、重合体ゲルの膨張及び収縮によく追従し、重合体ゲルの表面から剥離し難い(実施例参照)。さらに、金属製の構造体は、薄膜のみならず、板状電極、マイクロ電極、ナノ電極、櫛歯状電極等、所望の大きさ及び形状をもつ金属パターンとして重合体ゲル上に配置し得る。したがって、構造体が接合した上記重合体ゲルを用いれば、ウエット且つフレキシブルな電気化学素子が実現できる。
【0068】
含溶液材料である重合体ゲルに接合した金属製の構造体は、ゲル中の液相を介した電気化学反応で用いる電極として利用可能である。例えば、イオン又は分子の状態を電気化学的に計測したり、電気化学反応を行ったりすることが可能である。計測ではイオン若しくは分子の濃度、又は化学種のセンサー素子として、電気化学反応では電池等のエネルギー素子としての応用が考えられる。さらに、これら計測、電気化学反応、並びにその他の機能から選択される複数の機能を集積した電気化学集積素子を作製することができる。
【0069】
<応用例2>アクチュエーション素子又は形状記憶素子
ライン状の樹脂構造体等を、好ましくは複数本平行に重合体ゲルに接合することで、ゲルの膨潤・収縮による立体変化に方向性を持たせることが可能である。樹脂構造体は、重合体ゲルの体積変化に抗する骨格として機能し、重合体ゲルの膨潤及び収縮の程度に応じて所定の形状を取る素子が提供される。すなわち、本発明に係る重合体ゲルは方向制御アクチュエーション素子又は形状記憶素子として機能する(図15参照)。重合体ゲル及び樹脂構造体として透光性を有するものを採用すれば、例えば、焦点可変レンズ又は高フィット感コンタクトレンズ等を実現することができる。
【0070】
また、金属製の構造体を重合体ゲルに接合することで、電気信号伝達用の接合電極を形成することが可能である。当該接合電極に電気を流して重合体ゲル中のイオン分布を変化させて、ゲルの部分的な膨潤・収縮によるゲル全体の形状の変化を起こさせることができる。したがって、本発明に係る重合体ゲルは電場応答性を有し、ソフトアクチュエーション素子として機能する。
【0071】
ゲルによるソフトアクチュエーションは、生物的な柔らかい動作を行う機能素子への応用が期待されている。このような素子は、ヒューマンインターフェースとして、我々の身体が物理的に接触する部品又は製品等に埋め込み活用されることが望まれている。例えば、シート又はベッドに埋め込むことにより、利用者の姿勢等をアクティブにサポートするような機構のための動作基本素子として利用することができる。
【0072】
<応用例3>電気化学集積素子
上記応用例1及び2を組み合わせた素子の一例として、電気化学的な計測、及びアクチュエーションの機能を集積した電気化学集積素子を示す。図1に示すように、電気化学集積素子は、平板状の重合体ゲル(高分子電解質ゲル)、当該重合体ゲルの上下両面に設けられた駆動電極(構造体)、重合体ゲルの上面に設けられたセンシング用電極(センサーパターン:構造体)、アクチュエータ駆動電源、歪センシング回路、及び電気化学測定回路、を含んで構成されている。
【0073】
上記アクチュエータ駆動電源は、一対の駆動電極に電気的に接続されており、当該駆動電極間に駆動電圧を印加する。駆動電圧の印加により重合体ゲル中の電解質(イオン等)が移動をし、その分布が変化する。その結果、重合体ゲルは、駆動電圧の大きさに応じて、所定量の形状変化を起こす(上記<応用例2>の記載も参照)。一方、駆動電圧の印加を止めると、重合体ゲルは元の形状に戻る。すなわち、駆動電極が接合された重合体ゲルは、アクチュエーション素子として機能する。なお、上記駆動電圧は特に限定されないが、低消費電力で且つゲルの損傷を回避するという観点では、1ボルト以下の低電圧駆動が好ましく、数百ミリボルト程度の低電圧駆動がより好ましい。
【0074】
上記歪センシング回路は、その両端が、上記センシング用電極の両端に接続されており、当該センシング用電極を介して、重合体ゲルの形状変化を量的にセンシングする。形状変化のセンシングは、センシング用電極が、重合体ゲルの形状変化に追従して変位することを利用しその変位量から検出する。そして、歪センシング回路が検出した、重合体ゲルの形状変化量(歪量)は、アクチュエータ駆動電源の動作を制御する制御信号として、当該アクチュエータ駆動電源に入力される。すなわち、歪センシング回路が検出した歪量(実際の形状変化量)と、重合体ゲルの想定した形状変化量とにずれがある場合は、アクチュエータ駆動電源の動作を、想定した形状変化量に近づけるように制御する。
【0075】
電気化学測定回路は、上記センシング用電極の一端、及び、一対の駆動電極に電気的に接続されており、重合体ゲル中の電解質の分布の変化を検出する。この電解質の分布の変化は、重合体ゲルの形状変化量と連関するため、アクチュエータ駆動電源の動作を制御する制御信号として、当該アクチュエータ駆動電源に入力される。なお、電解質の分布の変化は、例えば、μM〜M濃度の単位で検出することができる。
【0076】
なお、重合体ゲルの実際の形状変化量は、センシング用電極のラインパターンを回析格子として用いて、例えば、サブマイクロメートル〜マイクロメートル単位で計測することもできる(後述の実施例13〜14等も参照)。そして、この計測値を、アクチュエータ駆動電源の動作を制御する制御信号として用いてもよい。
【0077】
<応用例4>触媒金属の固定
白金及びレアメタル等の機能性の希少金属からなる構造体を重合体ゲルに固定することにより、触媒付フィルターエレメント等に利用することができる。
【0078】
<応用例5>金属等の表面保護層
鏡面仕上げ等により形成した良好な金属等(構造体)の表面に対する外部からの物理的な刺激による破損(スクラッチ傷等)から保護するために、重合体ゲルを表面保護層として利用することができる。このゲル表面層は溶液で湿潤されているため、ウエットな感触表現、及び低摩擦表面も実現できる。さらに、重合体ゲルに化学的に着色することにより色彩表現等も実現できる。
【0079】
<応用例6>不要物質等の剥離除去プロセス
ガラス等の基材表面に付着した不要な金属等(構造体)を、重合体ゲルに吸着(接合)させることにより簡便に除去し、基材表面を清浄化することができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、所定の幅のある条件の記載は、当該幅の範囲内で複数の実験を行ったことを示す。
【0081】
<実施例1>
(方法)実験条件の数値範囲は複数回の実施によるものである。
【0082】
概略を図2に示す。アクリル酸(AAc)モノマー(0.9ml)、架橋剤(N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)、0.02g)、及び純水(9.1ml)からなるゲル原料溶液を作製した。ゲル原料溶液1mlに重合開始剤(2M オキソグルタル酸水溶液(2〜5μl))を加えた重合用モノマー溶液を、シリコーンゴムシートをスペーサー(500μm厚)とし両面をスライドガラス(20mm×20mm)で挟んだ重合用モールド型に注入した。ブラックライト(出力15W、主波長352nm)によるUV光を照射することにより、重合反応を開始させ、ポリアクリル酸ゲルを作製した。このポリアクリル酸ゲルを十分に純水中で膨潤させた。
【0083】
一方、接合させる金(Au)薄膜(10mm×10mm)は、高真空蒸着装置(到達真空圧力約10−5Pa、W431型、(株)片桐エンジニアリング製)を用いて、電子ビーム蒸着法により、スライドガラス(基体)上に100〜200nm程度の膜厚に堆積させ、Au薄膜付スライドガラスを作製した。
【0084】
上記ポリアクリル酸ゲルを、2枚の上記Au薄膜付スライドガラスのAu蒸着面で挟み、ダブルクリップでとめて圧力を加え、数時間〜数10時間静置した後、離型した。
【0085】
(結果)
Au薄膜はスライドガラスから剥離し、ポリアクリル酸ゲルに接合した。
【0086】
<実施例2>
(方法)
概略を図3に示す。実施例1と同様の方法で、スライドガラス(20mm×26mm)上に膜厚150nmのAu薄膜(10mm×10mm)を堆積させ、Au薄膜付スライドガラスを作製した。1枚のスライドガラス及び1枚のAu薄膜付スライドガラスで、シリコーンゴムシートで作製したスペーサー(500μm厚)を挟みこむことにより、重合用モールド型を形成した。Au薄膜付スライドガラスは、Au蒸着面を内側にした。
【0087】
アクリル酸(AAc)モノマー又メタクリル酸(MAc)モノマー水溶液(何れも2.5〜5.0M、10ml)、架橋剤(MBAAm、0.02〜0.04g)からなるゲル原料溶液を作製した。ゲル原料溶液1mlに重合開始剤(2M オキソグルタル酸水溶液(2〜5μl))を加えた重合用モノマー溶液を、上記重合用モールド型に注入した。ブラックライト(出力15W、主波長352nm)によるUV光を照射することにより、重合反応(光重合)を開始させ、同時にAu薄膜との接合を開始させた。UV光の照射時間は1〜10時間程度であった。重合反応によりポリアクリル酸ゲル又はポリメタクリル酸ゲルが形成した後、離型した。
【0088】
(結果)
Au薄膜はスライドガラスから剥離し、ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルの何れにも接合した。
【0089】
<実施例3>
(方法)
実施例2と同様の方法でAu薄膜付スライドガラスを作製し、さらに実施例2と同様の方法で重合用モールド型を作製した。実施例2と同様の組成のゲル原料溶液1mlに重合開始剤(VA−057(水溶性アゾ重合開始剤)、和光純薬、0.01〜0.02g)を加えた重合用モノマー溶液を、重合用モールド型に注入した。60℃のオーブンで2〜6時間加熱することにより、モノマーを重合させた(熱重合)。ポリアクリル酸ゲル又はポリメタクリル酸ゲルが形成した後、離型した。
【0090】
(結果)
Au薄膜はスライドガラスから剥離し、ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルの何れにも付着した。重合方法(光重合、熱重合)に関わらず、Au薄膜をゲルに接合できることがわかった。
【0091】
<実施例4>
(方法)
実施例2と同様の実験を、Auにかえて、白金(Pt)について実施した。
【0092】
(結果)
Pt薄膜はスライドガラスから剥離し、ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルの何れにも接合した。
【0093】
<実施例5>
(方法)
スライドガラス(20mm×26mm)に膜厚20μmのアルミ(Al)フォイル(20mm×26mm)を液滴接着又は静電接着等の方法で付着させ、Alフォイル付スライドガラスを作製した。1枚のスライドガラス及び1枚のAlフォイル付スライドガラスで、シリコーンゴムシートで作製したスペーサー(500μm厚)を挟みこむことにより、重合用モールド型を形成した。
【0094】
実施例2と同様の組成の溶液重合用モノマー溶液を、上記重合用モールド型に注入した。実施例2と同様の重合条件により重合を行った後、離型した。
【0095】
(結果)
ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルの何れもスライドガラスからは剥離し、Alフォイルと接合した。
【0096】
<実施例6>
(方法)
実施例5と同様の方法で重合用モールド型を形成した。
【0097】
実施例3と同様の組成の重合用モノマー溶液を、上記重合用モールド型に注入した。実施例3と同様の重合条件により重合を行った後、離型した。
【0098】
(結果)
ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルの何れもスライドガラスからは剥離し、Alフォイルと接合した。
【0099】
<実施例7>
アクリル酸(AAc)モノマーとアクリルアミド(AAm)モノマーとの共重合体ゲルにAu薄膜を接合することができるか調べた。
【0100】
(方法)
実施例2と同様の方法でAu薄膜付スライドガラスを作製し、さらに実施例2と同様の方法で重合用モールド型に作製した。
【0101】
AAcモノマーとAAmモノマーの水溶液([AAc]:[AAm](モル濃度比)=1:3又は1:1、[AAc]+[AAm]=2.5M、10ml)、架橋剤(MBAAm、0.02〜0.04g)からなるゲル原料溶液を作製した。ゲル原料溶液1mlに重合開始剤(2M オキソグルタル酸水溶液(2〜5μl))を加えた重合用モノマー溶液を、上記重合用モールド型に注入した。実施例2と同様の条件でUV光を照射し、重合反応を開始させた。重合反応によりポリアクリル酸−アクリルアミド共重合体ゲルが形成した後、離型した。
【0102】
(結果)
Au薄膜はスライドガラスから剥離し、何れの組成のポリアクリル酸−アクリルアミド共重合体ゲルにも接合した。[AAc]:[AAm]=1:1の共重合体ゲルの方が、1:3の共重合体ゲルよりもAu薄膜の接合が良好であった。[AAc]:[AAm]=1:1であるポリアクリル酸−アクリルアミド共重合体ゲルにAu薄膜が接合している写真を、図4に示す。
【0103】
<実施例8>
(方法)
概略を図5に示す。シリコンウエハ(20mm×20mm)(基体)上に、スピンコート法により、ヘキサメチルジシラザラン(HMDS)液による界面処理及びレジスト液(AZ1500、AZ Electronic Materials社)による膜厚2μm程度のレジスト膜の形成を行った。次いでマスクレスフォトリソグラフィ装置((株)ナノシステムソリューションズ社製)を用いてパターン露光処理を行い、AZ1500専用現像液に45秒間浸漬した後、純水で洗浄を行うことにより、sub−μm〜mmスケールのサイズのパターン蒸着マスクを作製した。このシリコンウエハ基板上に真空蒸着装置を用いてAuの電子ビーム蒸着を行い、膜厚150nmのAu薄膜を堆積させた。このシリコンウエハを、アセトンに約5分間浸漬し攪拌することにより、レジスト膜溶解除去と同時に、不要箇所(レジスト膜上)のAu薄膜のリフトオフ除去を行い、目的とする薄膜微細構造パターン(線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターン)を形成した。
【0104】
スライドガラス及び当該薄膜微細構造パターンのあるシリコンウエハ(パターン付きシリコンウエハ)で、テフロンシート又はシリコーンゴムシートで作製したスペーサー(50〜500μm厚)を挟みこむことにより、重合用モールド型を形成した。シリコンウエハ基板は、パターン形成面を内側にした。
【0105】
アクリル酸(AAc)モノマー又メタクリル酸(MAc)モノマー水溶液(何れも2.5〜5.0M、1ml)、架橋剤(MBAAm、0.01〜0.02g)からなるゲル原料溶液を作製した。ゲル原料溶液1mlに重合開始剤(2M オキソグルタル酸水溶液(2〜5μl))を加えた重合用モノマー溶液を、上記重合用モールド型に注入した。実施例2と同様の条件でUV光を照射し、重合反応を開始させた。重合反応によりポリアクリル酸ゲル又はポリメタクリル酸ゲルが形成した後、離型した。
【0106】
また、実施例2と同様の組成の液についても、同様の実験を行った。
【0107】
(結果)
何れのゲルについても、Auの薄膜微細構造パターン(線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターン)はシリコンウエハから剥離し、ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルに接合した。ゲル上の薄膜微細構造パターンを光学顕微鏡で観察したところ、線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターンを形成していることが確認された。
【0108】
<実施例9>
(方法)
実施例8と同様の実験を、線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターンにかえて、1μmのAuドットパターンについて実施した。
【0109】
(結果)
何れのゲルについても、Auの薄膜微細構造パターン(1μmのAuドットパターン)はシリコンウエハから剥離し、ポリアクリル酸ゲル及びポリメタクリル酸ゲルに接合した。ポリアクリル酸ゲル上の薄膜微細構造パターンを走査型電子顕微鏡(日立製作所製、型番S4800)で観察した画像を図6に示す。(a)、(b)はそれぞれ倍率を×2500、×15000にしたものである。(a)及び(b)において、ゲル上に1μmのAuドットパターンが形成されていることが確認された。
【0110】
<実施例10>
(方法)
概略を図7に示す。シリコンウエハ又はスライドガラスに、スピンコート法により、感光性樹脂剤であるSU−8(エポキシ系樹脂、日本化薬(株))の膜形成(膜厚24μm又は50μm)をし、90℃のオーブンで約10分間加熱して硬化させた。次いでマスクレスフォトリソグラフィ装置を用いてパターン露光処理を行い、SU−8専用現像液に5〜8分間浸漬した後、イソプロピルアルコールで洗浄を行うことにより、樹脂マイクロパターン(線幅/スペース=36μm/36μm)付の基板を作製した。
【0111】
スライドガラス及び当該樹脂マイクロパターンのある基板で、テフロンスペーサー(100μm厚)を挟みこむことにより、重合用モールド型を形成した。基板は樹脂マイクロパターン形成面を内側にした。
【0112】
アクリルアミド(AAm)モノマー又はアクリル酸(AAc)モノマー水溶液(何れも2.5〜5.0M、10ml)、架橋剤(MBAAm、0.02〜0.04g)からなるゲル原料溶液を作製した。ゲル原料溶液1mlに重合開始剤(2M オキソグルタル酸水溶液(2〜5μl))を加えた重合用モノマー溶液を、重合用モールド型に注入した。ブラックライト(出力15W、主波長352nm)によるUV光を照射することにより、重合反応を開始させ、同時に樹脂マイクロパターンとの接合を開始させた。UV光の照射時間は1〜10時間程度であった。重合反応によりポリアクリルアミドゲル又ポリアクリル酸ゲルが形成した後、離型した。
【0113】
(結果)
何れのゲルについても、樹脂マイクロパターンは基板から剥離し、ゲルに接合して、当該ゲル上に樹脂マイクロパターンが形成された。
【0114】
<実施例11>
(方法)
実施例2で作製したAu薄膜(膜厚150nm)を接合したポリアクリル酸ゲルを風乾し、走査型電子顕微鏡(日立製作所製、型番S4800)を用いて、Au薄膜の表面を観察した。
【0115】
(結果)
図8はAu薄膜を接合したポリアクリル酸ゲルの、風乾後の電子顕微鏡の画像である。(a)〜(d)はそれぞれ倍率を×150、×200、×5000、×50000にしたものである。(a)及び(b)において、ゲルの変形(収縮)に伴ってAu薄膜がしわになっていることが観察された。さらに拡大した(c)を見ると、しわになっているように見える部分は、収縮したゲルの起伏に沿って、Au薄膜が接合したまま起伏しているだけであることがわかった。さらに拡大した(d)を見ると、山になっている部分に破れはなく、しなやかに折れていることが確認された。
【0116】
これらの観察の結果、ゲルとAu薄膜は良好に接合しており、Au薄膜はsub−μmオーダー曲率半径のゲルの変形にも追従することがわかった。
【0117】
<実施例12>
(方法)
実施例8で作製した薄膜微細構造パターン(線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターン)を接合したポリアクリル酸ゲルを風乾し、光学顕微鏡(オリンパス製、型番BX)を用いて、Auラインパターンの変化を観察した。
【0118】
(結果)
図9はAuラインパターンを接合したポリアクリル酸ゲルの光学顕微鏡の画像である。(a)は純水中で膨潤させた状態の画像であり、(b)は1.5MのKCl水溶液中で収縮させた状態の画像である。観察の結果、ゲルとAu薄膜(ラインパターン)は良好に接合しており、ゲルの膨潤・収縮に追従して、Auラインパターンが伸縮していることがわかった。
【0119】
<実施例13>光学素子
本発明の方法で作製したゲルについて、光学素子としての利用可能性を検討した。
【0120】
(方法)
実施例8と同様の方法で、線幅/スペース=4μm/4μmのAuラインパターンを周期配列させたマイクロスリット構造をもつポリアクリル酸ゲル回折格子を作製した。ゲルの膨潤・収縮によりスリット間隔が変化する稼働型の回折格子素子である。この素子にレーザー光を照射した。
【0121】
(結果)
光学干渉によりスリット間隔に応じた回折スポットを得ることができた。つまり、ゲルの膨潤・収縮によりレーザー光を任意の位置に分割照射する光学機能素子が作製できた。
【0122】
<実施例14>変形計測素子
本発明の方法で作製したゲルについて、変形計測素子としての利用可能性を検討した。
【0123】
(原理)
実験は、マイクロスリット構造(離間したAuラインパターン)をもつゲル回折格子にレーザー光を照射して、ゲル回折格子を透過したレーザー光を回折スポットとしてスクリーンに映し出すことで行う。レーザーの波長をλ、ゲル上のAuラインパターンのスリット間隔をd、スクリーン上の回折スポットの間隔をx、ゲルのAu接合面とスクリーンとの距離をLとすると、回折スポットパターンは「d・x/L=λ」の関係が成り立つ。したがって、回折スポットの間隔xを測定することにより、スリット間隔dを計算することができる。そして、スリット間隔dはゲルの膨潤・収縮により増減するため、スリット間隔dを得ることができれば、ゲルの膨潤・収縮状態を知ることができる。なお、スリット間隔dは、隣り合うAuライン間の距離に相当する。
【0124】
(方法)
まず、実施例13で作製したゲルを2.5MのCaCl2水溶液中で十分収縮させた後、純水中で膨潤させた。純水への移動と同時に、回折スポットの間隔xの測定を開始した。また、実施例13で作製したゲルを純水中で十分膨潤させた後、2.5MのCaCl2水溶液中で収縮させた。CaCl2水溶液への移動と同時に、回折スポットの間隔xの測定を開始した。次に測定した回折スポットの間隔xの値から、スリット間隔dの値を計算した。同様の方法で、NaCl水溶液でも測定を行った。
【0125】
(結果)
図10は、ゲルの膨潤・収縮変化によるスリット間隔dの変化の結果を示す図である。図10の(a)に示すように、収縮状態から膨潤状態になる過程で、スリット間隔dの値が経時的に大きくなっていくことを定量計測することができた。また、図10の(b)に示すように、膨潤状態から収縮状態になる過程で、スリット間隔dの値が経時的に小さくなっていくことを定量計測することができた。
【0126】
また、当該計測は、静置した状態で±約5nm程度で安定しており、その結果として、図11に示すように、空間分解能20nm、時間分解能67msecで収縮過程の計測を行うことができた。
【0127】
以上のことから、ゲル回折格子のゲル部分及びゲル回折格子をコンタクトさせた構造体等の変形を高感度の変形検出素子として利用できることがわかった。
【0128】
<実施例15>イオンセンサー素子
本発明の方法で作製したゲルについて、イオンセンサー素子としての利用可能性を検討した。
【0129】
(方法)
ゲルの収縮のNaCl濃度依存性及びCaCl2濃度依存性を調べた。実施例13で作製したゲルを純水中で十分膨潤させた後、NaCl水溶液又はCaCl2水溶液中で収縮させた。NaClの濃度は、50mM、0.5M、1M、2.5M、5Mとし、それぞれについて実験した。また、CaCl2の濃度は、2.5mM、25mM、0.25M、2.5Mとし、それぞれについて実験した。
【0130】
ゲルの飽和収縮比WをNaCl及びCaCl2について求めた。ゲルの飽和収縮比Wは、「W=1−(ds/dw)3」と定義する。なお、dwは純水中におけるスリット間隔d、dsはNaCl水溶液又はCaCl2水溶液中におけるスリット間隔dの飽和値である。
【0131】
また、本実験で計測したゲルの収縮は便宜的に三次元等方的であると仮定し、収縮体積量を一次元収縮量の3乗として計算し、初期の単位時間当たりの変化量を初期体積収縮速度Rとした。
【0132】
このRと塩の濃度Cとの関係式を「R=k・[C]p」と仮定した。ここで、kは速度定数、pは次数である。
【0133】
(結果)
図12はゲルの収縮のCaCl2濃度依存性の結果を示す。(b)は(a)のスケールを拡大したものである。図12に示すように、mM〜Mオーダーまでの塩濃度測定が可能であることがわかった。また、図13は、ゲルの飽和収縮比の塩濃度依存性の結果を示す。(a)はNaCl、(b)はCaCl2についての結果である。これを比較すると、NaClの方がCaCl2に比較して飽和量が大きくなることが分かる。従来は2価のCa2+の方が1価のNa+より収縮効果が高いと考えられていたが、その逆であった。これは、ミリ秒、ナノメートルスケールの時間・空間分解能をもつ本手法によってはじめてわかることである。
【0134】
この結果から、本発明に係るゲルは、ゲルの飽和収縮比を計測することで、イオン種の同定素子として利用可能であることが示された。
【0135】
また、図14はゲルの初期体積収縮速度(R)の塩濃度依存性の結果を示す。(a)はNaCl、(b)はCaCl2についての結果である。NaClとCaCl2とではゲルの収縮速度が異なることがわかった。また、速度定数k及び次数pは、NaClではk=3.0×105、p=0.5となり、CaCl2ではk=1.7×105、p=1.4となった。NaClとCaCl2とでは、速度定数k及び反応次数pが異なることがわかった。
【0136】
この結果から、本発明に係るゲルは、ゲルの収縮速度を計測することでも、イオン種の同定素子として利用可能であることが示された。
【0137】
<実施例16>アクチュエーション素子
本発明の方法で作製したゲルについて、アクチュエーション素子としての利用可能性を検討した。
【0138】
(方法)
概略を図15の(a)に示す。実施例10で作製したポリアクリルアミドゲル(膜厚24μmの樹脂マイクロパターン付)をアセトン槽に入れ、脱水した。また、同じゲルを水槽に入れ、吸水させた。
【0139】
(結果)
図15の(b)に示すように、ゲルをアセトン槽に入れると、ゲルは脱水されて収縮し、マイクロパターンが接合している面が外側になる形でゲルが変形した(状態(A))。一方、ゲルを水槽に入れると、ゲルは吸水して膨潤し、マイクロパターンが接合している面が内側になる形でゲルが変形した(状態(B))。
【0140】
この結果から、本発明に係るゲルは、膨潤・収縮による立体変化に方向性を持たせることが可能であり、方向制御アクチュエーション素子又は形状記憶素子として利用可能であることが示された。
【0141】
<実施例17>アクチュエーション素子
本発明の方法で作製したゲルについて、実施例16と同様、アクチュエーション素子としての利用可能性を検討した。
【0142】
(方法)
概略を図16の(a)に示す。実施例10と同様の方法で作製した十字型のポリアクリルアミドゲル(膜厚24μmの樹脂マイクロパターン付)をアセトンと水との混合槽に入れて弛緩させた後、水槽に移して吸水させた。また、同じゲルを水槽に入れて吸水させた後、アセトン及び水の混合槽に移した。
【0143】
(結果)
図16の(b)に示すように、混合槽において弛緩状態となっているゲルを水槽に移すと、15秒以内に変形し、目的の立体形状を形成した。また、水槽で立体形状を形成しているゲルを混合槽に移すと、15秒以内に変形し、弛緩状態となった。
【0144】
この結果から、本発明に係るゲルは、高速でのフォールディング立体造形制御が可能であり、高速アクチュエーション素子又は形状記憶素子として利用可能であることが示された。
【0145】
本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明によれば、金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が、ナノ・マイクロスケールで直接接合した重合体ゲルの製造方法等を提供することができる。当該重合体ゲルは、デバイス素子として機能することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が接合した重合体ゲルの製造方法であって、
上記構造体が付着した基体を重合体ゲルに対して、当該構造体と重合体ゲルとが接触するように配置する配置工程と、次いで、
上記基体と重合体ゲルとを離す離間工程と、を含むことを特徴とする重合体ゲルの製造方法。
【請求項2】
上記配置工程は、上記重合体ゲルの原料であるモノマーを含む溶液と上記基体に付着している構造体とが接触した状態で、当該モノマーを重合することで行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記配置工程と離間工程との間に、上記重合体ゲルと上記基体とを押し付けあう工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
上記重合体ゲルが、ハイドロゲルであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
上記重合体ゲルが、カルボキシル基を有するものであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記重合体ゲルが、重合性不飽和カルボン酸モノマーの単独又は共重合体であることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
上記重合性不飽和カルボン酸が、アクリル酸又はメタクリル酸であることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
上記構造体が、蒸着によって上記基体に付着されることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
上記構造体が薄膜であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
上記構造体が、当該構造体をなす材料の膜を、上記基体上でパターニングすることにより形成されていることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
上記基体における上記構造体が付着している面が、ガラス製又はシリコン製であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか1項に記載の製造方法によって製造されることを特徴とする、構造体が接合した重合体ゲル。
【請求項1】
金属材料、金属酸化物材料、及びプラスチック材料からなる群より選択される少なくとも一種の材料からなる構造体が接合した重合体ゲルの製造方法であって、
上記構造体が付着した基体を重合体ゲルに対して、当該構造体と重合体ゲルとが接触するように配置する配置工程と、次いで、
上記基体と重合体ゲルとを離す離間工程と、を含むことを特徴とする重合体ゲルの製造方法。
【請求項2】
上記配置工程は、上記重合体ゲルの原料であるモノマーを含む溶液と上記基体に付着している構造体とが接触した状態で、当該モノマーを重合することで行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記配置工程と離間工程との間に、上記重合体ゲルと上記基体とを押し付けあう工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
上記重合体ゲルが、ハイドロゲルであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
上記重合体ゲルが、カルボキシル基を有するものであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記重合体ゲルが、重合性不飽和カルボン酸モノマーの単独又は共重合体であることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
上記重合性不飽和カルボン酸が、アクリル酸又はメタクリル酸であることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
上記構造体が、蒸着によって上記基体に付着されることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
上記構造体が薄膜であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
上記構造体が、当該構造体をなす材料の膜を、上記基体上でパターニングすることにより形成されていることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
上記基体における上記構造体が付着している面が、ガラス製又はシリコン製であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか1項に記載の製造方法によって製造されることを特徴とする、構造体が接合した重合体ゲル。
【図1】
【図2】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図15】
【図16】
【図2】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−60505(P2013−60505A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198897(P2011−198897)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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