説明

疑似体感装置

【課題】臨場感のある疑似体感をユーザに与えることができる疑似体感装置を提供することにある。
【解決手段】疑似体感装置は、ユーザに体感させる情報を提供する情報提供部10と、ユーザの味覚器を刺激する味覚刺激成分を蓄え、この味覚刺激成分を放出可能な第1分配セクション23と、ユーザの嗅覚器を刺激する嗅覚刺激成分を蓄え、この嗅覚刺激成分を放出可能な第2分配セクション24と、前記情報提供部10で提供している前記情報に基づいて、前記第1分配セクションおよび前記第2分配セクションからの前記味覚刺激成分と前記嗅覚刺激成分との放出を個別に制御する制御部31とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劇場やアミューズメントハウスなどの娯楽施設、更には家庭内などの空間でも採用が可能な疑似体感装置に関する。より詳細には、映像や音響と共に、ユーザの味覚器および嗅覚器を合わせて刺激することで、演出効果を与えて臨場感ある疑似体感ができる疑似体感装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば一部の映画館などで映像や音響に合わせて香気を発生させることで観客(ユーザ)の嗅覚を刺激して臨場感を与えるように工夫した技術などが知られている。このような技術に関連するものとして、特許文献1はマルチメディア娯楽システムのオーディオおよび映像の各要素と香気とを結合できるように構成し、携帯可能とした香り供給システムについて開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−508888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来技術にあっては、ユーザの嗅覚を刺激することで疑似体感できるようにしたものが多い。ここで、嗅覚に関連して、味覚刺激を利用することも考えられるが、これについては十分な研究、検討がなされていないというのが現状である。すなわち、味覚と嗅覚とは、その感覚間になんらかの相互作用があることが知られてはいるが、味覚も疑似体感させるようなシステムや装置はほとんど知られていない。
その一方で、例えば嗜好品を楽しむ場合などにおいて、嗅覚および味覚はどちらも重要な要素である。嗜好品としてメンソールシガレットを例に引くと、メンソールシガレットの苦み、メンソールの刺激、そして葉たばこの香りのいずれか1つが欠けても物足りなさを感じることになる。よって、上記のような映画館での設備や特許文献1による香り供給システムは、香気成分による嗅覚刺激だけのため満足な疑似体感を得ることは難しい。
【0005】
なお、味覚刺激は、嗅覚刺激に単に追加するだけで、ユーザに十分に臨場感ある疑似体感が与えられるという単純なものではない。例えば、味覚刺激成分がユーザの体感空間に提示されて鼻から吸入されたような場合には、一般に口より鼻の方が痛みに敏感であるので鼻に痛みを感じることがあるので注意を要する。
【0006】
本発明の目的は、上述したような従来の状況を鑑み、より臨場感のある疑似体感をユーザに与えることができる疑似体感装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的は本発明の疑似体感装置によって達成され、この疑似体感装置はユーザに体感させる情報を提供する情報提供部と、
ユーザの味覚器を刺激する味覚刺激成分を蓄え、この味覚刺激成分を放出可能な第1分配セクションと、
ユーザの嗅覚器を刺激する嗅覚刺激成分を蓄え、この嗅覚刺激成分を放出可能な第2分配セクションと、
前記情報提供部で提供している前記情報に基づいて、前記第1分配セクションおよび前記第2分配セクションからの前記味覚刺激成分と前記嗅覚刺激成分との放出を個別に制御する制御部とを具備している(請求項1)。
【0008】
前記情報提供部は、ユーザに提供する映像を映し出す映像装置及びその映像に応じた音を出す音響装置を含むことができる(請求項2)。
【0009】
前記両分配セクションに熱を供給する発熱体が設けられており、前記制御部は前記発熱体の加熱制御を介して前記刺激成分の放出状態を制御するようにでき(請求項3)、前記発熱体は、前記各分配セクションで独立して温度制御が可能な加熱領域に区分してもよい(請求項4)。
【0010】
また、前記味覚刺激成分および前記嗅覚刺激成分は、加熱されたときに溶解する素材で形成したカプセル内に封入され、前記カプセルは前記発熱体からの熱が伝達可能な位置に配置してあるものとしてもよい(請求項5)。
【0011】
前記第1分配セクションと前記第2分配セクションとを含んで嗅覚・味覚刺激装置が構成され、この嗅覚・味覚刺激装置の形状がユーザの鼻および口を覆うように装着されるマスク型とするのが望ましい(請求項6)。
【0012】
前記情報提供部は、前記嗅覚・味覚刺激装置と別体に形成される、顔面装着型のイヤホン付視覚装置とすることができる(請求項7)。
【発明の効果】
【0013】
本発明の疑似体感装置は、ユーザが体感している映像や音響の情報に応じて、制御部がユーザの口腔及び鼻孔に放出する味覚刺激成分及び嗅覚刺激成分を個別に制御するので、効果的な演出を実現できる。この結果、本発明の疑似体感装置はユーザに十分に臨場感のある疑似体験を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一形態例となる疑似体感装置の主要構成を示した図である。
【図2】図1で示している嗅覚・味覚刺激装置の内部構成が確認できるように示した図で、(a)は正面図、(b)は(a)におけるx−x線での断面図である。
【図3】カプセルの周辺を拡大して示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。
本発明に係る疑似体感装置は、ユーザが映像や音響で体感する情報に基づき、更にユーザの嗅覚器および味覚器を選択的に刺激して臨場感を与えるものである。ここで、ユーザが映画館や家庭でビデオレコーダの映像を見ている状況などを考えると、提供される体感情報としては映像および音響の両方を含むのが一般的であるので、これを前提に説明する。
【0016】
図1を参照すると、疑似体感装置1は、ユーザに体感させる映像および音響の情報を提供する情報提供部としての顔面装着型イヤホン付視覚装置(以下、イヤホン付視覚装置)10、味覚刺激成分を放出可能な第1分配セクションと嗅覚刺激成分を放出可能な第2分配セクションとを具備しているマスク型の嗅覚・味覚刺激装置20、そしてイヤホン付視覚装置10で提供している前記情報に基づいて、嗅覚・味覚刺激装置20からの味覚刺激成分と嗅覚刺激成分との放出を個別に制御する制御部として機能する制御装置30を含んで構成されている。
【0017】
イヤホン付視覚装置10は、ユーザの顔面にセットされたときに、目前に位置して疑似体感させる映像を映すディスプレイ部(映像装置)11と、ユーザの耳に装着される左右一対のイヤホン部12とを備えている。イヤホン部12は、ディスプレイ部11での映像に応じた音を出す音響装置となる。
なお、このイヤホン付視覚装置10は無線機能(不図示)を具備している構成にしておき、後述する制御装置30側においては、提供予定の体感情報として映像およびその音響のデータをコントローラ31内のメモリなどに蓄積しておき、イヤホン付視覚装置10側に信号送信部34からそのデータを送信するように設計しておくのが望ましい。これにより、制御装置30は、イヤホン付視覚装置10でユーザに提供している情報(映像およびその音響)を確認できる。
【0018】
上記マスク型の嗅覚・味覚刺激装置20は、ユーザの鼻および口を覆うように装着されるマスク本体21の左右両側にユーザの耳に掛ける耳かけ部22が設けてある。図2は嗅覚・味覚刺激装置20の内部構成が確認できるように示した図で、(a)は正面図、(b)は(a)におけるx−x線での断面図である。
図2を参照すると、嗅覚・味覚刺激装置20のマスク本体21は、その下側に味覚刺激成分を放出可能な第1分配セクション23、上側には嗅覚刺激成分を放出可能な第2分配セクション24が設けられている。
【0019】
上記第1分配セクション23で用いる味覚刺激成分としては、任意の物質が使用可能である。例えばショ糖、食塩、クエン酸、カフェイン、グルタミン酸等の5原味成分や、コーヒーやタバコ等の嗜好品の抽出物等を挙げることができる。また、本発明において、味覚刺激成分には、メンソール、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アリシン、イチリン、ジンゲロン、ジンジャオール、サンショオール等の体性感覚刺激を有する成分もまた含まれる。ここで体性感覚刺激としては、温覚、冷覚及び痛覚の少なくとも1つの感覚をユーザに付与するものを指す。
イヤホン付視覚装置10で提供する映像や音響に対応して、ユーザが有するイメージに合わせて、上記の成分を調合してもよい。
【0020】
また、上記第2分配セクション24で用いる嗅覚刺激成分(香気成分)も、任意の物質が使用可能である。嗅覚刺激成分としては、例えばリモネン、カンファー及びリナロール等の単一香気成分、ラベンダー、ペパーメント、レモングラス、ローズマリー、サンダルウッド、イランイラン、ローズ、ジャスミン、ネロリ、カモミール、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ベルガモットなどの精油が挙げられる。コーヒーやタバコ等の嗜好品の抽出香気や、その模擬香料も用いることができる。イヤホン付視覚装置10で提供する映像や音響に対応して、ユーザが有するイメージに合わせて、上記の成分を調合してもよい。
【0021】
嗅覚・味覚刺激装置20は、その形態は任意でよいが、発生させた刺激成分を効率よく用いること、また周囲への漏出を防ぐなどの観点から、ある程度の密閉性を有する形態とするのが好ましい。この観点から、図1、2で示すようなマスク型にすると、簡易な構造でユーザの顔面に密着させることができるので、上記要請を満足できる。
【0022】
マスク本体21の素材としては、織布、不織布などの柔軟な素材のほかにプラスチック等の保形性のよい素材を採用することができる。そして、後述するように、嗅覚・味覚刺激装置20には発熱体となるヒータが配備される場合、このヒータによる加温温度(例えば60℃程度)に対して耐熱性のある素材を採用する必要がある。
【0023】
そして、更に、図2で示すように味覚刺激成分を放出する下側の第1分配セクション23と、嗅覚刺激成分を放出する上側の第2分配セクション24との間には、隔離部材25を設けた構造としておくのが望ましい。この隔離部材25はそれぞれの分配セクション23、24から放出される成分が混合するのを抑制する他、下側の味覚刺激成分が上側に移動してユーザの鼻に進入するのを予防する。前述したように、味覚よりも嗅覚の方が敏感であり、仮に味覚刺激成分が鼻に進入すると痛みを感じて、ユーザが不快感を持つ場合も想定される。隔離部材25を設けることで、このような不都合の発生を予防できる。
隔離部材25はユーザの上唇と鼻孔との間の位置を想定して設定する。隔離部材25は、ユーザの皮膚に接触したときに柔軟に形状変化するゴム部材、樹脂部材などを採用するのが望ましい。
なお、上記のようにマスク本体の素材としては、織布、不織布などの柔軟な素材で形成してあり、シート状の素材を複数に積層してある形態、或いは、袋状であるときは、上記隔離部材25を素材間に配置してもよい。
また、嗅覚・味覚刺激装置20では、図2(b)で示すように、成分が外部に吐出する部分に活性炭シート26を具備していることが好ましい。成分が外部に吐出する部分に活性炭シート26を設けることで、刺激成分提示時の余剰な香気成分やユーザの吐出成分が活性炭に吸着されるので外部に漏出するのを防止できる。
【0024】
以上のようなマスク型の嗅覚・味覚刺激装置20は、ユーザの顔にセットされたときに、刺激成分の提示部となる上下の分配セクション23、24が顔面との間に形成される狭い空間で大よそ閉じている状態にできるので、外部への刺激成分の漏出が防げると共に、刺激成分の1回当りの使用が少量で高濃度の提示空間を作り出すことができるというメリットがある。また、1回当りの使用する刺激成分が少量でよいので、次に新たな刺激成分を供給する際には、残っている刺激成分の影響を抑えることができるというメリットもある。
このマスク型の嗅覚・味覚刺激装置20では、刺激成分の吸入は、装着した状態で呼吸の吸気によって行うようにすればよい。また、味覚刺激成分については、分配セクション23の上を舐めることによって味覚刺激成分を吸収するようにしてもよい。または、吸口を設け、吸口を吸引することによって味覚刺激成分を吸引するようにしてもよい。
【0025】
上記マスク型嗅覚・味覚刺激装置20に設ける分配セクション23、24については、放出する刺激成分を貯留するための種々の構造を採用することができる。例えば、刺激成分を染み込ませた紙や不織布などの担体を、袋状としたマスク本体に収容した構造などとしてもよいが、図2で例示している嗅覚・味覚刺激装置20では、熱で溶解可能な素材で形成してあるカプセル27内に刺激成分の溶液29を封入したものを複数配置した集合体により分配セクション23、24が構成してある。
図2では、それぞれの分配セクション23、24に(2行×5列)のマトリクス状にして合計10個ずつのカプセル27を配置した場合を示している。このように複数の独立したカプセル27の集合体で分配セクション23、24を構成しておけば、カプセル27内に封入する刺激成分29を互いに異なるもの(成分が異なる場合や、成分濃度が異なる場合)とすることができる。これにより、各分配セクション23、24から必要に応じて、異なる刺激成分を放出させることができる。よって、例えば、嗅覚刺激成分を放出する上側の第2分配セクション24から、異なる香気の刺激成分を放出することができる。
図3は、上記カプセルの1つの周辺を拡大して示した斜視図である。カプセル27は後述する個別のヒータ(発熱体)28上に貼着され、このヒータ28からの熱を受けるように配置してある。
【0026】
尚、嗅覚・味覚刺激装置20が、各分配セクション23、24の全体から刺激成分を放出させる場合、各分配セクション23、24はそれぞれ単一の発熱体を具備している構造となる。発熱体による加熱で刺激成分の放出を促進可能となるので、発熱体の発熱量を制御することで刺激成分の放出状態を実質的に制御できる。
ここで、マスク型の嗅覚・味覚刺激装置20内に配備するヒータ28や発熱体は適宜に選択すればよいが、各分配セクション23、24で採用する刺激成分に応じて、加温温度や時間設定が微調整可能であるのが望ましい。更には、マスク型の嗅覚・味覚刺激装置20は、ユーザの顔に装着されるので、用いる発熱体は、小型でかつ軽量である必要がある。特に、図2で示す例はカプセル毎に加熱するタイプである。このような観点から、ヒータ28には電気で発熱する薄型の電熱器(つまり、図3で示すような微小なシートタイプ)を採用するのが望ましい。
【0027】
そして、疑似体感装置1は、映像および音響の変化に応じて、嗅覚・味覚刺激装置20の各分配セクション23、24から放出する味覚刺激成分および嗅覚刺激成分を制御する構成を備えている。この点について説明する。
嗅覚・味覚刺激装置20における各分配セクション23、24が単一の発熱体を備えている場合、これら分配セクションは上下で独立して温度制御が可能なように、区分した加熱領域としてある。すなわち、後述する制御装置によって、分配セクション23、24のそれぞれに係る領域が、個別に加熱できるようになっている。これにより、嗅覚刺激成分と味覚刺激成分とを異なる加温条件に設定することが可能で、両刺激成分の放出状態を個別に調整できる。
そして、さらには、前述した各分配セクション23、24のようにマトリクス状に配置したヒータ28を備えていた場合には、ヒータ28毎に温度制御が可能としてあり、これにより同じ分配セクションから異なる刺激成分を放出できるようになっている。
【0028】
なお、嗅覚刺激成分を放出可能な第2分配セクションでは加熱をやめて自然な放出に任せ、味覚刺激成分を放出可能な第1分配セクションのみ、そのヒータ28や発熱体の温度制御を行っても、もちろんよい。
また嗅覚・味覚刺激装置20では、ユーザの顔面と接触する部分に断熱材を設けてヒータによる加温による影響を抑制できる構造としておくのが望ましい。
【0029】
再度、図1を参照すると、疑似体感装置1は前述したように制御部として機能する制御装置30を備えている。制御装置30は、イヤホン付視覚装置10で提供しているユーザ体感用の情報に基づいて、嗅覚・味覚刺激装置20からの味覚刺激成分と嗅覚刺激成分との放出を個別に制御する。より詳細には、制御装置30は、各分配セクション23、24が前述したカプセル型である場合、疑似体感装置1の全体を制御するコントローラ31を中心に構成してある。そして、制御装置30は前述したマスク型の嗅覚・味覚刺激装置20のヒータ28へ供給する電気的な構成として、温度調節器32を含んでいる。各分配セクション23、24の各ヒータ28は温度調節器32に接続してある。そして、それぞれの刺激成分をどのような温度、時間で加熱して放出をするかを定めた所定プログラムをコントローラ31内のメモリ(不図示)に予め格納しておき、このプログラムに基づいて温度調節器32の制御を実行するようにすればよい。
【0030】
以上の構成の疑似体感装置1では、起動されたときに、制御装置30のコントローラ31がメモリ領域に予め蓄積した映像および音響に係るデータを信号送信部34からイヤホン付視覚装置10側に送信して、その映像とその映像の音をユーザに体感させる。
そのときに、コントローラ31は温度調節器32を同時に駆動して各分配セクション23、24の各ヒータ28を個別に加熱制御する。このときの加熱制御は、イヤホン付視覚装置10へ送信している体感情報に基づいて、ユーザに臨場感を与えることができるように各分配セクション23、24から放出させる刺激成分の種類や量、時間が決定されている。
よって、本発明に係る疑似体感装置1によると、ユーザに提供している情報(映像および音響情報)に基づいて、制御装置30がユーザの口腔及び鼻孔に味覚刺激成分及び嗅覚刺激成分を個別に供給して、その情報に適した刺激成分を味覚と嗅覚とで選択的に刺激するので、従来にはない効果的な演出を実現して、ユーザに臨場感のある疑似体感させることができる。
【0031】
以下に本発明に係る疑似体感装置の実施例を説明する。
図1、2に示した疑似体感装置1を下記のように実際に作製して、ユーザに与える疑似体感の効果を確認した。
【0032】
〔疑似体感装置の組み立て〕
再度、図1を参照すると、疑似体感装置1は顔面装着型イヤホン付視覚装置10とマスク型の嗅覚・味覚刺激装置20とを備え、マスク型の嗅覚・味覚刺激装置20は温度調節器32に接続されている。これらは、制御装置30のコントローラ31により制御されている。
顔面装着型イヤホン付視覚装置10として、例えばVuzix Corporation社や美貴本社製の市販のヘッドマウントディスプレイを採用した。これらの装置に制御装置30のコントローラ31からユーザに映像と合わせて音響を提示して体感情報を提供した。
なお、顔面装着型イヤホン付視覚装置10側に、ユーザに提供する映像と音響のデータを保持するように構成してもよく、この場合には制御装置30でその情報を確認できるように設定しておけばよい。
【0033】
図2に示したマスク型の嗅覚・味覚刺激装置20は以下のように作製した。市販の木綿マスクを用い、マスクの袋部を利用して、下側に口部用の第1分配セクション、上側に鼻部用の第2分配セクション、そして活性炭シートを配置した。
ヒータ28として5mm角のマイクロセラミックヒータ(坂口電熱株式会社製)を防水加工したものを用いた。それらを図2(a)に示すように、各分配セクションに横5個、縦2個で計10個を配置し、合計20個並べた。
各ヒータ28は温度調節器32に接続した。温度調節器32の設定値は、ヒータの温度が50−60℃になるような値とし、コントローラ31において加熱時間を設定した。
【0034】
活性炭シート26には、日本フィルターエ業社製のヤシガラ活性炭シートを用い、嗅覚・味覚刺激装置20の大きさに合わせて切断してマスク前面側に収容した。
【0035】
各刺激成分を放出する分配セクションを構成している刺激成分を封入したカプセルと、成分放出の制御のための加熱用のヒータは下記のように作製した。
熱に溶解するカプセル27として市販の医療用ゼラチンカプセル(松屋社製)を用い、担持成分と水を封入してヒータ28上に貼り付けた。この際、カプセルを人肌程度の温度で膜が破れない程度に溶かし、図3に示すようにヒータ28上に半球上に貼り付けた。このようにすることで、ヒータ28とカプセル27の接触面積が広くなり、より迅速にカプセルを溶解することができる。カプセル27内の刺激成分溶液29の量は、ヒータの温度、加温を開始してからどのくらいの時間で刺激成分を放出させたいか、刺激成分を放出してからどのくらいの時間で減衰させたいかなど、により適宜に設定される。
【0036】
そして、制御装置30のコントローラ31が、顔面装着型イヤホン付視覚装置10から再生される映像および音響に対応して、提示する味覚刺激成分および嗅覚刺激成分の種類により放出時間を決定し、ヒータ毎の温度制御を実行する。
【0037】
〔疑似体感装置の嗅覚刺激強度(香気強度)の評価〕
疑似体感装置1において、顔面装着型イヤホン付視覚装置10は装着せず、マスク型の嗅覚・味覚刺激装置20のみを装着した状態で、マスク型の嗅覚・味覚刺激装置20の性能評価を行った。
鼻側の第2分配セクション24のみに嗅覚刺激成分(香気成分)カプセルを担持させたマスク型の嗅覚・味覚刺激装置20を作製し、評価者に装着させる。嗅覚刺激成分としてはリモネン、フェニルエチルアルコール、オイゲノールの原液を用い、それぞれを医療用ゼラチンカプセルの中に50μL(マイクロリットル)入れた後、水を50μL入れて、ヒータ上に貼り付けた。各ヒータをリモネン、フェニルエチルアルコール、オイゲノール、リモネン、フェニルエチルアルコール、・・・のように3種類の香気成分が順番に供給されるように図2(a)に示すようなマトリクス状に配置した。
【0038】
10名の所内パネルに対して、各カプセルをそれぞれ1分おきに溶解させ、各カプセルが溶解してから30秒後ごとにリモネン、フェニルエチルアルコール、オイゲノールのいずれの香気を最も強く感じるかを回答させた。その結果、10名のパネル全員が、リモネン、フェニルエチルアルコール、オイゲノールの各香気が提示されているときにはその香気が最も強く感じると回答した。この結果から、少なくとも提示される嗅覚刺激成分(香気成分)が変化すると、最も強く感じられる嗅覚刺激成分の種類も変化し、受容する嗅覚刺激成分の印象も変化していることが確認された。
【0039】
〔疑似体感装置の嗜好度および臨場感の評価〕
次に、喫煙者10名に対して、疑似体感装置の嗜好度および臨場感の官能評価を行った。パネルは、顔面装着型イヤホン付視覚装置10とマスク型の嗅覚・味覚刺激装置20を共に装着する。
映像には、シガレットを喫煙している様子の映像を用いた。音響には、この映像を撮影している間に聞かれた音を録音して用いた。味覚刺激成分としてたばこ葉の抽出液を、香気成分として所内で作製した疑似たばこ香料を用いた。
本評価においては、上記の味覚刺激成分および嗅覚刺激成分(香気成分)を各1種類ずつ用い、カプセルに封入する。カプセルは1分ごとに溶解するようにし、常に提示成分の刺激強度が希薄にならないように制御する。
10名のパネルに対して、はじめに上記体感装置で、映像、音響、味覚刺激、嗅覚刺激の全てを提示した。次に、味覚刺激成分を含まないマスク型の嗅覚・味覚刺激装置20を作製し、他は全く同様にして、映像、音響、嗅覚刺激のみの状態でパネルに提示した。
両者についてどちらが好きかと、どちらがたばこを喫煙しているときの実際の感覚に近いかを2者択一で評価させた。その結果、10名中9名が味覚刺激もある方が好ましいと答え、10名中10名が味覚刺激もある方がたばこを喫煙しているときの感覚に近いと答えた。
【0040】
上述した疑似体感装置1によれば、ユーザが体感している映像や音響の情報に応じて、制御部がユーザの口腔及び鼻孔に放出する味覚刺激成分及び嗅覚刺激成分を個別に制御するので、効果的な演出を実現できる。この結果、本発明の疑似体感装置はユーザに十分に臨場感のある疑似体験を提供できる。
【0041】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施例では、ユーザが体感している情報を映像および音響として説明した。すなわち、疑似体感装置の情報提供部が映像および音響を提供している場合を例示した。しかし、本発明の疑似体感装置はこのように、映像および音響の両方に基づくことは必ずしも必要でない。すなわち、音響のない無声映画の映像や、家庭でオーディオの音響だけを楽しんでいるような状況と同様に、情報提供部が映像のみ、或いは、音響のみを提供してユーザを体感させるもので、制御部がこれに応じてユーザに与える嗅覚および味覚刺激成分を制御するように構成してもよい。
【0042】
また、上記実施例ではカプセルを破壊する方法として熱で溶解するカプセル素材を用いる場合を例示したが、カプセル内を空気膨張させて破壊するような構成を採用してもよい。
さらに、上記実施例で示したカプセル27及びヒータ28を一体構造にして担持したカートリッジ型の構造体(図2の符号40参照)に構成しておき、この刺激成分担持カートリッジ40をマスク本体21に対して着脱自在にした構造を採用することができる。このような刺激成分担持カートリッジ40は、映画館などに配備した場合の疑似体感装置として有用である。上映する映画には種々のジャンルがあるので、その映画に適した嗅覚および味覚刺激成分を予め準備して、ユーザを刺激するのが好ましい。この場合、映画X用の刺激成分担持カートリッジ40X、映画Y用の刺激成分担持カートリッジ40Y、映画Z用の刺激成分担持カートリッジ40Zというように準備しておく。
マスク本体内に、各刺激成分担持カートリッジ40X、40Y、40Zを選択して、各映画専用のマスク型の嗅覚・味覚刺激装置20とすることができる。このようにすればマスク本体を共用できるので経済的である。例えば、図2でマスク本体21の側部に、刺激成分担持カートリッジ40の挿入用の開口を設けておき、この開口をジッパーや面ファスナーなどの閉塞部材で閉じるようにすれば、刺激成分担持カートリッジ40を挿入でき、必要な場合には交換も簡単に行える。
その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 疑似体感装置
10 イヤホン付視覚装置(情報提供部)
11 ディスプレイ部(映像装置)
12 イヤホン部(音響装置)
20 マスク型の嗅覚・味覚刺激装置
21 マスク本体
22 耳かけ部
23 第1分配セクション
24 第2分配セクション
26 活性炭シート
27 カプセル
28 ヒータ
29 刺激成分の溶液
30 制御装置
31 コントローラ
32 温度調節器
34 信号送信部
40 刺激成分担持カートリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザに体感させる情報を提供する情報提供部と、
ユーザの味覚器を刺激する味覚刺激成分を蓄え、この味覚刺激成分を放出可能な第1分配セクションと、
ユーザの嗅覚器を刺激する嗅覚刺激成分を蓄え、この嗅覚刺激成分を放出可能な第2分配セクションと、
前記情報提供部で提供している前記情報に基づいて、前記第1分配セクションおよび前記第2分配セクションからの前記味覚刺激成分と前記嗅覚刺激成分との放出を個別に制御する制御部と
を具備したことを特徴とする疑似体感装置。
【請求項2】
前記情報提供部は、ユーザに提供する映像を映し出す映像装置及びその映像に応じた音を出す音響装置を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の疑似体感装置。
【請求項3】
前記両分配セクションに熱を供給する発熱体が設けられており、前記制御部は前記発熱体の加熱制御を介して前記刺激成分の放出状態を制御する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の疑似体感装置。
【請求項4】
前記発熱体は、前記各分配セクションで独立して温度制御が可能な加熱領域に区分してある、ことを特徴とする請求項3に記載の疑似体感装置。
【請求項5】
前記味覚刺激成分および前記嗅覚刺激成分は、加熱されたときに溶解する素材で形成したカプセル内に封入され、前記カプセルは前記発熱体からの熱が伝達可能な位置に配置してある、ことを特徴とする請求項3または4に記載の疑似体感装置。
【請求項6】
前記第1分配セクションと前記第2分配セクションとを含んで嗅覚・味覚刺激装置が構成され、この嗅覚・味覚刺激装置の形状がユーザの鼻および口を覆うように装着されるマスク型である、ことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の疑似体感装置。
【請求項7】
前記情報提供部は、前記嗅覚・味覚刺激装置と別体に形成される、顔面装着型のイヤホン付視覚装置である、ことを特徴とする請求項6に記載の疑似体感装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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