説明

発泡ポリエステルシートの製造方法

【目的】 均一微細な気泡を有し、かつ高温安定性に優れた結晶性ポリエステル樹脂を用いた発泡ポリエステルシートの製造方法を提供する。
【構成】 (1)(a)極限粘度が少なくとも0.6の結晶性ポリエステル樹脂100重量部、(b)トリカルボン酸、トリカルボン酸のエステル、並びにトリカルボン酸の金属塩およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の発泡剤0.01〜5重量部を溶融押出機に供給して溶融混合し、(2)発泡剤から遊離するCO2 を含む熱可塑性樹脂組成物をシート形成ダイから押し出して発泡ポリエステルシートを生成する、ことを特徴とする発泡ポリエステルシートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、発泡ポリエステルシートの製造方法に関する。さらに詳しくは、均一微細な気泡を有し、かつ高温安定性に優れた発泡ポリエステルシートの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より熱可塑性樹脂発泡体、例えばポリオレフィン、ポリウレタンおよびポリアミドの発泡体は、断熱材、緩衝材、包装材料として広く用いられている。かかる熱可塑性樹脂発泡体は通常、気泡を混入せしめる方法、発泡剤の分解ガスを利用する方法、溶剤気散法、化学反応によりガスを発生せしめる方法等により製造されている。
【0003】一方、芳香族ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートは、機械的特性、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性等が優れているために、繊維、フィルム、射出成形品等に用いられている。近年これらの熱可塑性ポリエステルに炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどの炭酸塩からなる発泡剤を加え、発泡成形せしめる方法(特公昭58−50624号公報参照)や、ポリエチレンテレフタレートとポリカーボネートとの均一な混合物を250〜350℃の温度に加熱、反応させ、CO2 が遊離するまでその加熱温度に保ち、その後に反応混合物を膨張させる方法(特公昭47−38875号公報参照)が提案されている。しかし、前者の方法は発泡剤に起因する着色、発泡斑、機械的特性の低下等の欠点があり、後者の方法は高温での長い反応時間を必要とし、反応混合物着色、機械的特性の低下が避けられない欠点がある。
【0004】また、ポリオレフィンを配合したポリエチレンテレフタレートを加熱溶融し、溶融状態の樹脂組成物に不活性ガスを混入して発泡成形体を製造する方法(特開平2−286725号公報参照)も提案されているが、この方法では均一微細な気泡は得られず、製造工程が複雑となり経済的にも好ましくない。
【0005】また、シートの表面と裏面とで結晶化度が1%以上相違することを特徴とする熱可塑性ポリエステル樹脂の発泡シート(特開平3−200843号公報参照)も提案されているが、架橋剤を併用するため高圧押出しが必要で発泡倍率の制御が難しく、製造工程が複雑となり経済的にも好ましくない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、結晶性ポリエステル樹脂を用いた発泡ポリエステルシートを提供することにある。本発明の他の目的は、均一微細な気泡を有し、且つ高温耐熱性にも優れた発泡ポリエステルシートを提供することにある。本発明のさらに他の目的は、発泡ポリエステルシートを工業的に有利に、且つ容易に製造し得る方法を提供することにある。本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかとなろう。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用】本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、(a)極限粘度が少なくとも0.6の結晶性ポリエステル樹脂100重量部、(b)トリカルボン酸、トリカルボン酸のエステル、並びにトリカルボン酸の金属塩およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の発泡剤0.01〜5重量部を溶融押出機に供給して溶融混合し、(2)発泡剤から遊離するCO2 を含む熱可塑性樹脂組成物をシート形成ダイから押し出して発泡ポリエステルシートを生成する、ことを特徴とする発泡ポリエステルシートの製造方法によって達成される。
【0008】本発明において用いられる結晶性ポリエステル樹脂(a)は、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを公知の方法によって重縮合せしめて得られるものであり、酸成分として用いられるジカルボン酸は、その90モル%以上が1種類の芳香族ジカルボン酸で占められることが好ましく、且つ主成分のジカルボン酸はテレフタル酸であることがより好ましい。テレフタル酸以外のジカルボン酸も用いることができるが、これらはなるべく酸成分の10モル%未満にとどめるのが好ましい。このようなジカルボン酸としてイソフタル酸、フタル酸、2・6−ナフタレンジカルボン酸、2・7−ナフタレンジカルボン酸、1・5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−4・4’−ジカルボン酸、3・3’−ジメチルジフェニル−4・4’−ジカルボン酸等が例示され、これらのジカルボン酸は1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。
【0009】また、グリコール成分は、同様にその90モル%以上が1種類のジオールで占められることが好ましく、且つ主成分のジオールはエチレングリコールであることがより好ましい。他のジオール成分も用いることができるが、これらはなるべくジオール成分の10モル%未満にとどめるのが好ましい。このようなジオールとしては、例えば1,4ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどが例示される。これらのジオールは1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。
【0010】本発明で用いられる結晶性ポリエステル樹脂の極限粘度は0.6以上であり、0.7以上であることが好ましい。極限粘度が0.6未満では、気泡の大きさや分布が均一になりにくく、時にはガスが溶融樹脂から分離し、抜けてしまうことがあり、好ましくない。
【0011】本発明で用いられる発泡剤(b)は、トリカルボン酸、トリカルボン酸のエステル、並びにトリカルボン酸の金属塩およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる。
【0012】このような発泡剤として好適なものは、クエン酸、クエン酸トリエチル、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、トリカルバリル酸、トリカルバリル酸ナトリウム、トリカルバリル酸カルシウム、エタントリカルボン酸トリエチル、エタントリカルボン酸ナトリウム、メタントリカルボン酸トリエチル、メタントリカルボン酸ナトリウム、ブタントリカルボン酸トリエチル、ブタントリカルボン酸ナトリウム、ブタンテトラカルボン酸などであり、これらの発泡剤単独もしくは、これらの発泡剤を複数混合して用いてもよい。
【0013】本発明で用いられる発泡剤の添加量は、結晶性ポリエステル樹脂100重量部あたり0.01〜5重量部である。添加量が0.01重量部より少ないと、ポリエステルを実質上発泡せしめることができず、一方5重量部よりも多いと発泡剤としての作用効果は飽和する。
【0014】本発明で用いられる熱可塑性樹脂組成物に、特定の発泡助剤を添加すると発泡効果をさらに上げることができる。このような発泡助剤として炭素数が10以上の脂肪族モノカルボン酸、炭素数が10以上の脂肪族モノカルボン酸のCa塩、Zn塩、Mg塩、Na塩、Al塩、Pb塩およびMn塩、並びに炭素数が10以上の脂肪族モノカルボン酸のエステルよりなる群から選ばれる化合物が好ましく、これらの発泡助剤を2種以上併用してもよい。
【0015】本発明で用いられる発泡助剤の添加量は、結晶性ポリエステル樹脂100重量部あたり0.01〜5重量部である。添加量が0.01重量部より少ないと、ポリエステルを実質上発泡せしめる効果が少なく、一方5重量部よりも多いと得られた発泡成形品の物性が著しく低下するので好ましくない。
【0016】発泡剤および発泡助剤の添加方法は任意の方法を採用し得るが、ポリエステル組成物中に発泡核剤および発泡助剤を均一に分散させてペレット化した後、発泡成形に供する方法が実用上最も好ましい。
【0017】発泡ポリエステルシートは、本発明によれば、(1)(a)極限粘度が少なくとも0.6の結晶性ポリエステル樹脂100重量部、(b)トリカルボン酸、トリカルボン酸のエステル、並びにトリカルボン酸の金属塩およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の発泡剤0.01〜5重量部を溶融押出機に供給して溶融混合し、(2)発泡剤から遊離するCO2 を含む熱可塑性樹脂組成物をシート形成ダイから押し出して発泡ポリエステルシートを生成する、ことを特徴とする方法によって製造することができる。
【0018】形成ダイは、例えばシート成形ダイあるいは円形ダイなどである。円形ダイの使用により、スリットオープンおよび熱成形を行うことができる。製造された発泡シートは空冷または水冷でチルドロールを通過させることにより延伸することなしに冷却される。こうして製造された発泡シートは一般的に非晶であり、またその厚みは通常0.1〜30mmである。
【0019】上記溶融押出機としては、例えば一軸スクリュー押出機、二軸押出機、多層押出機を用いることができる。
【0020】本発明において、発泡ポリエステルシートは、押出しラミネート法、共押出し法等、通常の方法により、基材となる発泡ポリエステルシートの少なくとも片面に熱可塑性ポリエステル樹脂層をラミネートまたは共押出しすることにより、シート表面の外観および熱成形性を改善することが好ましい。用いられる熱可塑性ポリエステル樹脂として好適なものは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサメチレンテレフタレートなどであり、これらの樹脂単独もしくは、これらの樹脂を複数混合して用いてもよい。
【0021】発泡シートは常用の熱成形装置を用いてヒートセットされた薄肉物品に熱成形することができる。このような熱成形法には、1.発泡シートをそれが軟化するまで予熱し、モールドに位置決めする工程;
2.予熱されたシートを加熱されたモールド表面に圧伸する工程;
3.シートを加熱されたモールドに対して部分的に結晶化させるのに十分な時間接触させておくことで成形されたシートをヒートセットする工程;
4.成形品をモールドのキャビティーから取り出す工程を含んでいる。
【0022】
【実施例】以下、実施例にて本発明を詳述する。尚、樹脂極限粘度とは、フェノール/テトラクロロエタン=1/1の混合溶媒中20℃、1.0g/100ccの条件で測定したものである。熱変形開始温度は、理学社製TMA(Thermal Mebanibal Analyser;TAS−100)の圧縮モードにて測定した。
【0023】実施例1ポリエチレンテレフタレート樹脂(樹脂の極限粘度0.85)100重量部に、クエン酸1.0重量部をブレンドした。調製された熱可塑性樹脂組成物をスクリュー径65mm、スクリューのL/Dが30の押出機を用いて押し出した。この時、押出機回転数を100rpmに、溶融ゾーンの温度を280℃、ダイ部の温度を260℃に保った。
【0024】製造された発泡シートの厚みは0.8mm、気泡の大きさは50〜150μm、密度は0.43g/cm3 、発泡倍率は3.1倍であった。得られたシートをKiefel社製熱成形機を用いて成形温度100℃で、縦120mm、横160mm、高さ37mmの熱成形物に成形した後、120℃で30秒のヒートセットを行った。この成形物の底部から10mm×10mm×0.5mmの試料を切り出し熱変形開始温度を測定したところ、熱変形開始温度は220℃であった。
【0025】実施例2クエン酸の添加量を0.5重量部とし、ステアリン酸Ca0.4重量部を加える以外、実施例1と同様にして、発泡シートを製造した。製造された発泡シートの厚みは0.6mm、気泡の大きさは50〜100μm、密度は0.85g/cm3 、発泡倍率は2.6倍であり、成形品の熱変形開始温度は220℃であった。
【0026】実施例3クエン酸に代えてクエン酸Na塩1.0重量部を使用する以外は、実施例1と同様にして、発泡シートを製造した。製造された発泡シートの厚みは0.8mm、気泡の大きさは50〜150μm、密度は0.53g/cm3 、発泡倍率は2.8倍であり、成形品の熱変形開始温度は220℃であった。
【0027】実施例4実施例1で製造された発泡シートの片面に、ポリエステル層の厚みが0.2mmとなるように押出しラミネート法によりポリエチレンテレフタレートをラミネートして複合発泡ポリエステルシートを得た。
【0028】得られた複合発泡シートの厚みは1.0mm、気泡の大きさは50〜150μm、密度は0.43g/cm3 、発泡倍率は2.7倍であり、成形品の熱変形開始温度は220℃であった。
【0029】比較例1極限粘度が0.5のポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に、クエン酸0.5重量部、ステアリン酸Ca0.4重量部をブレンドした。調製された熱可塑性樹脂組成物をスクリュー径65mm、スクリューのL/Dが30の押出機を用いて押し出した。この時、押出機回転数は100rpm、溶融ゾーンの温度は280℃、ダイ部の温度は250℃であった。遊離したCO2 ガスの透過が速く、発泡シートは得られなかった。
【0030】比較例21,4−シクロヘキサンジメタノールを30モル%共重合させた非晶性のポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部に、クエン酸1.0重量部、ステアリン酸Ca0.4重量部をブレンドした。調製された熱可塑性樹脂組成物をスクリュー径65mm、スクリューのL/Dが30の押出機を用いて押し出した。この時、押出機回転数は100rpm、溶融ゾーンの温度は250℃、ダイ部の温度は150℃であった。
【0031】製造された発泡シートの厚みは0.8mm、気泡の大きさは60〜150μm、密度は0.33g/cm3 、発泡倍率は3.0倍であった。得られたシートから実施例1と同様に熱成形物を成形し、熱変形開始温度を測定したところ、熱変形開始温度は80℃であった。
【0032】
【発明の効果】本発明の方法によれば、均一微細な気泡を有し、かつ高温安定性に優れた発泡ポリエステルシートを製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (1)(a)極限粘度が少なくとも0.6の結晶性ポリエステル樹脂100重量部、(b)トリカルボン酸、トリカルボン酸のエステル、並びにトリカルボン酸の金属塩およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の発泡剤0.01〜5重量部を溶融押出機に供給して溶融混合し、(2)発泡剤から遊離するCO2 を含む熱可塑性樹脂組成物をシート形成ダイから押し出して発泡ポリエステルシートを生成する、ことを特徴とする発泡ポリエステルシートの製造方法。
【請求項2】 (1)(a)極限粘度が少なくとも0.6の結晶性ポリエステル樹脂100重量部、(b)トリカルボン酸、トリカルボン酸のエステル、並びにトリカルボン酸の金属塩およびそれらの混合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の発泡剤0.01〜5重量部、および(c)炭素数が10以上の脂肪族モノカルボン酸、炭素数が10以上の脂肪族モノカルボン酸のCa塩、Zn塩、Mg塩、Na塩、Al塩、Pb塩およびMn塩、並びに炭素数が10以上の脂肪族モノカルボン酸のエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物0.01〜5重量部を溶融押出機に供給して溶融混合し、(2)発泡剤から遊離するCO2 を含む熱可塑性樹脂組成物をシート形成ダイから押し出して発泡ポリエステルシートを生成する、ことを特徴とする発泡ポリエステルシートの製造方法。