説明

発熱体の製造方法。

【課題】発熱組成物の層に負荷をかけずに該層の表面を容易に凹凸にできる方法を提供すること。
【解決手段】被酸化性金属の粒子、炭素成分、水及び電解質を含む発熱組成物の層が、吸水性を有する基材シートの一面に設けられてなる発熱体の製造方法である。基材シートを一方向に走行させつつ、該基材シートの一面に、該被酸化性金属の粒子を少なくとも含む塗料を塗布して塗工層を形成した後、該塗工層が流動状態を有している間に、該塗工層に棒状体の下端を当接させて該塗工層を一部掻き取り、該基材シートの走行方向と同方向に延びる筋状の凹部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被酸化性金属の酸化反応を利用した発熱体を有する発熱具は、該被酸化性金属の酸化の進行に連れて、発熱体が硬くなる傾向にある。このことに起因して、使用の初期段階では発熱具の身体へのフィット性が良好であるとしても、酸化の進行に連れてフィット性が低下する傾向にある。柔軟な発熱体を得ることを目的として、例えば基材上に形成された発熱組成物の層の表層部に凹凸を形成することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかし、この文献においては、凹凸の形成にエンボスパターンロールを用いていることから、凹部が圧密化されやすくなり、十分な柔軟性を付与することが容易でない。また、圧密化に起因して発熱不良が起こりやすい。更に、発熱組成物の層はクリーム状であることから、エンボスパターンロールに発熱組成物が付着しやすく、該ロールが汚染されやすい。
【0004】
特許文献1に記載の技術とは別に、本出願人は先に、一方向へ延びる切れ込みが多条に形成されているか、又は多数のエンボスが散点状に形成されているシート状発熱体を提案した(特許文献2参照)。この切れ込みやエンボスによってシート状発熱体はその変形が容易になっている。したがって、このシート状発熱体を備えた発熱具は、顔を始めとする身体の湾曲形状に合うように変形してフィット性が向上し、使用感が良好なものとなる。しかし、シート状発熱体を製造することは、基材シート上に発熱組成物の層を形成して発熱体を製造することに比較して工程が複雑になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−263002号公報
【特許文献2】特開2009−82570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る発熱体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被酸化性金属の粒子、炭素成分、水及び電解質を含む発熱組成物の層が、吸水性を有する基材シートの一面に設けられてなる発熱体の製造方法であって、
前記基材シートを一方向に走行させつつ、該基材シートの一面に、該被酸化性金属の粒子を少なくとも含む塗料を塗布して塗工層を形成した後、該塗工層が流動状態を有している間に、該塗工層に棒状体の下端を当接させて該塗工層を一部掻き取り、該基材シートの走行方向と同方向に延びる筋状の凹部を形成する、発熱体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発熱組成物の層に負荷をかけずに該層の表面を容易に凹凸にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1(a)ないし(c)は、棒状体を用いた凹部の形成状態を経時的に示す模式図である。
【図2】図2(a)は、棒状体を用いた凹部の形成状態を正面視した模式図であり、図2(b)は、棒状体を用いた凹部の形成状態を平面視した模式図である。
【図3】図3は、棒状体を用いた凹部の形成状態の別の例を示す模式図である。
【図4】図4(a)ないし(c)は、棒状体の例を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明の製造方法に好適に用いられる装置を示す模式図である。
【図6】図6(a)は、図5に示す装置を用いて製造された発熱体を一部破断して示す模式図であり、図6(b)は、図6(a)におけるb−b線断面図である。
【図7】図7は、図5に示す装置を用いて製造された発熱具の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。まず、本発明の製造方法に従い得られる発熱体の好ましい実施形態について説明する。発熱体は、基材シートと、該基材シートの一面に設けられた発熱組成物の層(以下、「発熱層」とも言う。)を備える。あるいは発熱体は、同一の又は異なる基材シートと、両基材シート間に設けられた発熱層とを有する。
【0011】
発熱体が、1枚の基材シートと、該基材シート上に設けられた発熱層とを有する構成である場合には、該発熱層の表層部に凹凸が形成されている。一方、発熱体が、一対の基材シートと、それらの間に設けられた発熱層とを有する構成である場合には、発熱層の表面のうち、どちらか一方の基材シートに接している面の表層部に凹凸が形成されている。いずれの場合であっても、凹凸は一方向に延びるように筋状にかつ交互に形成されている。発熱層の一の面における表層部に設けられた凹部は、発熱層の他面側に向けて凹んだ部分であり、凸部は、隣り合う凹部間の部分である。
【0012】
筋状に延びる凹部及び凸部は、例えば直線状であり得る。あるいは山型の波形や曲線状の波形であり得る。また、凹部及び凸部はその延びる方向にわたって連続していてもよく、あるいは断続していてもよい。凹部の深さは、該凹部の延びる方向にわたって同じであってもよく、又は規則的に若しくは不規則に変化していてもよい。凹部及び凸部の幅は、それらの伸びる方向にわたって同じであってもよく、あるいは規則的に若しくは不規則に変化していてもよい。
【0013】
更に、発熱層には、その表層部に、第1の方向に延びる第1凹部と、第1の方向と交差する第2の方向に延びる第2凹部とが形成されていてもよい。こうすることで、一方向にのみ凹部を形成したときに比べて、発熱体の柔軟性を一層高くすることができる。この柔軟性を一層顕著なものにする観点からは、第1の方向と第2の方向との交差角を45度以上に設定することが好ましい。特に、発熱体の面内のいずれの方向においても略同等な柔軟性を発現させる観点からは、第1の方向と第2の方向とは直交していることが好ましい。ここでいう直交とは、2つの方向が90度で交差している場合だけでなく、後述する発熱体の製造方法において、製造条件や製造装置の振れに起因して、不可避的に2つの方向の交差角が90度から僅かに変動する場合も包含する。以下の説明において「直交」という場合もこの意味で用いる。
【0014】
このように、本製造方法によれば、ストライプ塗工やパターン塗工といった高度な塗工技術を採用することなく、棒状体で塗工層を部分的に掻き取るという簡単な方法で、塗工層を所定の形状に形成できるという利点がある。
【0015】
また、互いに異なる2方向に凹部を形成する場合には、凹部の深さを発熱層の厚みと同じにして、つまり凹部の深さを、発熱層の厚みに対して100%として、凹部の底部において基材シートが露出するようにしてもよい。こうすることで、各凸部はその周囲が、露出した基材シートの表面によって取り囲まれて、個々に独立して区画された状態となる。このような凸部を形成することで、目的とする発熱体の柔軟性を更に一層高めることができる。なお、基材シートが十分な強度を有していれば、基材シートが露出するように発熱層を掻き取ったとしても、基材シートが重大なダメージを受けることはない。
【0016】
発熱体が上述のいずれの形態であっても、発熱層の厚みは一般に0.1〜5mm、特に0.2〜3mmであることが、十分な発熱特性を得る観点及び十分な柔軟性を確保する観点から好ましい。柔軟性の観点から凹部の深さは、発熱層の厚みに対して50%以上、特に60%以上であることが好ましい。一方、凹部はその底部において基材シートの表面が露出していないことが、発熱反応の連続性の点からは好ましい。この観点から、凹部の深さは、発熱層の厚みに対して90%以下、特に80%以下であることが好ましい。発熱層の厚みは、基材シートの表面を基準として測定される。したがって、基材シートが例えば不織布等の多孔性の材料からなり、発熱層の一部が該基材シート内に入り込んでいた場合であっても、発熱層の厚みは、基材シートの表面を基準として測定する。測定方法は、レーザー変位計による厚み測定が好ましい。この測定方法によって、幅方向の発熱層の厚みが測定でき、凹部、凸部の厚みが同時に測定できるだけでなく、塗工スジやエア噛みなど塗工欠陥の検出も行うことができる。
【0017】
凹部と凸部との幅(図2(b)の方向Dと直交する方向の幅)は同じでもよいが、凸部の幅が凹部の幅よりも大きいことが、十分な発熱特性を得る観点、及び凹部形成時における発熱組成物の層に掛かる負荷を低減させる観点から好ましい。凹部の幅(図2(b)の方向Dと直交する方向の幅)は、0.5〜5mmであることが好ましく、特に1〜3mmであることが好ましい。また、凸部の幅(図2(b)の方向Dと直交する方向の幅)は、0.5〜50mmであることが好ましく、特に5〜30mmであることが好ましい。凸部の幅に対する、凹部の幅の比(凹部の幅/凸部の幅)は、0.01〜1であることが好ましく、特に0.1〜0.5であることが好ましい。
【0018】
発熱層は、基材シート上に存在していてもよく、あるいは基材シートの種類によっては、発熱層の下部が基材シート中に埋没していてもよい。これらのうち、発熱層の下部が基材シート中に埋没していることが好ましい。例えば、基材シートが後述する繊維シートからなり、かつ発熱層を構成する固形分の一部が、該繊維シートに形成されている三次元状のネットワーク中に担持されていることが好ましい。発熱層の一部が基材シート中に埋没していることによって、発熱層と基材シートの一体性が増し、基材シートからの発熱層の脱落(使用前、使用中、使用後)が効果的に防止される。
【0019】
発熱層は、被酸化性金属の粒子、炭素成分、水及び電解質を含むことが好ましい。発熱層に含まれる被酸化性金属としては、鉄、アルミニウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。被酸化性金属の粒子の粒径は、例えば0.1〜300μm程度とすることができる。炭素材料としては、水分保持剤として作用するほかに、被酸化性金属への酸素保持/供給剤としての機能も有しているものを用いることが好ましい。炭素材料としては例えば活性炭(椰子殻炭、木炭粉、暦青炭、泥炭、亜炭)、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛等が挙げられる。電解質としては、被酸化性金属の粒子の表面に形成された酸化物の溶解が可能なものが用いられる。その例としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の硫酸塩、炭酸塩、塩化物又は水酸化物等が挙げられる。これらの中でも、導電性、化学的安定性、生産コストに優れる点からアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の塩化物が好ましく用いられ、特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄が好ましく用いられる。
【0020】
基材シートの坪量が、後述する範囲であることを条件として、発熱体における被酸化性金属の量は、坪量で表して100〜3,000g/m2、特に200〜1,500g/m2であることが、十分な発熱量を確保する観点から好ましい。発熱体における炭素材料の量は、4〜300g/m2、特に4〜80g/m2、とりわけ8〜50g/m2であることが、長時間にわたり安定な発熱を維持する観点から好ましい。同様の理由によって、発熱体における電解質の量は、4〜80g/m2、特に4〜40g/m2、とりわけ5〜30g/m2であることが好ましい。
【0021】
発熱層は含水状態になっていることが好ましい。発熱層の含水率は、5〜40質量%、特に6〜35質量%であることが好ましい。発熱層の含水率は、基材シートの表面よりも上側に位置する部位を対象として測定される。したがって、発熱層のうち、基材シートに埋没している部位は、含水率の測定対象から除外される。発熱層の含水率の具体的な測定方法は次のとおりである。すなわち、基材シートの表面よりも上側に位置する部位の発熱層を窒素環境下で取り出し、その質量を測定する。その後、真空状態の105℃の温度で、乾燥炉において2時間水分を取り除き、再度、質量を測定し、含水量を測定する。なお、上述の発熱層の含水率は、1つの発熱層あたりの値である。
【0022】
発熱層が形成される基材シートとしては、例えば繊維シートや、合成樹脂製のフィルム、それらの積層体などが挙げられる。発熱層を形成しやすく、また形成された発熱層を安定的に保持し得る点から、基材シートとして繊維シートを用いることが好ましい。また、繊維シートは吸水性を有するので、発熱層の含水率のコントロールの点から、繊維シートを用いることが好ましい。
【0023】
前記の繊維シートとしては、繊維材料を含む各種のシート、例えば湿式抄造紙や乾式抄造紙などの紙、織布、不織布若しくは編み物地又はそれらの複合シートなどが挙げられる。特に紙や不織布を用いることが好ましい。
【0024】
特に好ましく用いられる繊維シートは、高吸収性ポリマーの粒子及び親水性繊維を含むものである。この繊維シートは例えば湿式抄造法又は乾式抄造法によって製造されるものである。この繊維シートは、(イ)高吸収性ポリマーの粒子と親水性繊維とが均一に混合した状態の1枚のシートであり得る。また、この繊維シートは、(ロ)高吸収性ポリマーの粒子が、該繊維シートの厚み方向略中央域に主として存在しており、かつ該繊維シートの表面に該粒子が実質的に存在していない構造を有するワンプライのものでもあり得る。更に、この繊維シートは、(ハ)親水性繊維を含む同一の又は異なる繊維シート間に、高吸収性ポリマーの粒子が配置された2枚の繊維シートの重ね合わせ体でもあり得る。これら種々の形態をとり得る繊維シートのうち、発熱層の含水率のコントロールを容易に行い得る観点から、繊維シートとして(ロ)の形態のものを用いることが好ましい。
【0025】
前記の繊維シートに含まれる親水性繊維としては、天然繊維及び合成繊維のいずれをも用いることができる。繊維シートの構成繊維として親水性繊維を用いることで、発熱層に含まれる被酸化性金属との間で水素結合が形成されやすくなり、発熱層の保形性が良好になるという利点がある。また、親水性繊維を用いることで、繊維シートの吸水性ないし保水性が良好になり、発熱層の含水率をコントロールしやすくなるという利点もある。これらの観点から、親水性繊維としてはセルロース繊維を用いることが好ましい。セルロース繊維としては化学繊維(合成繊維)及び天然繊維を用いることができる。
【0026】
上述の各種の親水性繊維は、その繊維長が0.5〜6mm、特に0.8〜4mmであることが、湿式抄造法又は乾式抄造法での繊維シートの製造が容易である点から好ましい。
【0027】
前記の繊維シートには、上述の親水性繊維に加え、必要に応じて熱融着性繊維を配合してもよい。この繊維の配合によって、湿潤状態での繊維シートの強度を高めることができる。熱融着性繊維の配合量は、繊維シートにおける繊維の全量に対して0.1〜10質量%、特に0.5〜5質量%であることが好ましい。
【0028】
前記の繊維シートからなる基材シートには、上述のとおり高吸収性ポリマーの粒子が含まれていることが好ましい。基材シートにおける高吸収性ポリマーの粒子の存在位置については先に述べたとおりである。高吸収性ポリマーとしては、自重の20倍以上の液体を吸収・保持できかつゲル化し得るヒドロゲル材料を用いることが好ましい。粒子の形状は、球状、塊状、ブドウ房状、繊維状等であり得る。粒子の粒径は、1〜1000μm、特に10〜500μmであることが好ましい。高吸収性ポリマーの具体例としては、デンプン、架橋カルボキシルメチル化セルロース、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又は共重合体等、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリアクリル酸塩グラフト重合体などが挙げられる。
【0029】
基材シートに占める高吸収性ポリマーの割合は、10〜70質量%、特に20〜55質量%であることが、基材シートの吸水性ないし保水性を好適なものとする観点及び発熱層の含水率のコントロールの観点から好ましい。なお、この割合は、基材シート上に発熱層が形成される前の乾燥状態にある該基材シートについて測定された値である。
【0030】
基材シートは、その坪量が10〜200g/m2、特に35〜150g/m2であることが好ましい。基材シートの坪量をこの範囲内に設定することで、湿潤状態における基材シートの強度を十分に確保することができ、また基材シートの吸水性ないし保水性を好適なものとすることができる。一方、基材シートに含まれる高吸収性ポリマーの坪量は、5〜150g/m2、特に10〜100g/m2であることが好ましい。高吸収性ポリマーの坪量をこの範囲内に設定することで、基材シートの吸水性ないし保水性を一層好適なものとすることができる。また、発熱層の含水率を一層コントロールしやすくなる。これらの坪量は、基材シート上に発熱層が形成される前の乾燥状態にある該基材シートについて測定された値である。
【0031】
基材シートは、それが前記の(イ)の形態のものである場合、例えばエアレイド法で製造することができる。(ロ)の形態のものである場合には、例えば本出願人の先の出願に係る特開平8−246395号公報に記載の湿式抄造法で製造することができる。(ハ)の形態のものである場合には、エアレイド法又は湿式抄造法で製造することができる。
【0032】
また、掻き取り時において、棒状体に対する十分な強度を有する観点からは、基材シートとして、合成樹脂製のフィルム、該フィルムと繊維シートとの積層体、強度が高められた繊維シート等を用いることができる。繊維シートの強度を高める場合には、坪量を増加させたり、熱融着性繊維を配合したり、カレンダー処理を施したりすることが好ましい。
【0033】
以上、説明してきた発熱体を製造するための好適な方法は、(1)塗工工程、(2)凹部形成工程及び(3)電解質添加工程を備える。以下、各工程について説明する。
【0034】
発熱体の製造工程の一工程である塗工工程においては、基材シートに、電解質を含まずかつ被酸化性金属の粒子を含む塗料を塗工する。ここでいう電解質は、被酸化性金属の粒子に形成された酸化物を溶解させる目的で添加される電解質を意味し、すべての電解質を一切含まないという意味ではない。後述する電解質添加工程で添加する電解質を実質的に含まないということであり、水道水を用いた場合に水分中に含まれる塩素成分などは、ここでいう電解質ではない。つまり、発熱体に、一定の継続した発熱状態を付与できない場合には、ここでいう電解質ではない。塗料中には実質的に電解質が含まれていないので、電解質添加工程前には被酸化性金属粉末の酸化は進行しない。したがって、塗工工程において、被酸化性金属粉末を空気と遮断するための特別の手当は必要ない。また、塗料の保管中の酸化反応の進行を抑えることができ、発熱ロスを低減できる。また、塗料に電解質が含まれていないことによって、塗工前や塗工中の塗料の成分は良好な分散性を維持する。例えば、塗工前に塗料を静置しても、該塗料に被酸化性金属の粒子が凝集して凝集物が沈降したり離水したりすることが生じにくい。本製造方法によれば、上述のように、塗料中に電解質が積極的に含まれていないので、タンク等の製造機器内で塗料を作成している間や、作成された塗料を塗工している間に、混練機のパドルやタンク等の壁面において酸化反応を起こし難く、そのため、製造機器に耐食性の高い高価な材料を極力使用せずに済む。
【0035】
塗料は、通常、被酸化性金属の粒子に加えて、炭素材料及び水を含んでいる。また、塗料中での固形分の分散性を高める観点から、増粘剤や界面活性剤を配合してもよい。これらの成分を含む塗料を、例えば、連続長尺物からなる基材シートの一方の面上に連続的又は断続的に塗工する。また、塗料の塗工方法としては、各種公知の塗工方法を特に制限なく用いることができる。例えばローラ塗布、ダイコーティング、スクリーン印刷、ローラグラビア、ナイフコーティング、カーテンコーター等などが用いられる。これらの塗工方法を用い、所望の塗工パターンで塗料を塗工する。塗布の簡易性、塗布量の制御のしやすさ、塗料の均一塗工を実現できる点からは、ダイコーティングが好ましい。ダイコータを用いた発熱組成物の塗料の塗工の詳細は、例えば本出願人の先の出願に係る特許第4155791号公報に記載されている。
【0036】
発熱層の形成に用いられる塗料においては、被酸化性金属の粒子100質量部に対して、炭素材料が1〜20質量部、特に2〜14質量部含まれていることが好ましい。水は、25〜85質量部、特に35〜75質量部含まれていることが好ましい。増粘剤は、0.05〜10質量部、特に0.1〜5質量部含まれていることが好ましい。界面活性剤は、0.1〜15質量部、特に0.2〜10質量部含まれていることが好ましい。また、水は、塗料の全体の質量に対して18〜48質量%、特に23〜43質量%含まれていることが好ましい。塗料の粘度は23℃・50%RHにおいて500〜30,000mPa・s、特に1,000〜15,000mPa・sであることが好ましい。粘度の測定には、B型粘度計の4号ローターを用いた。測定は、ローターを6rpmで回転させて行った。
【0037】
前記の塗料の塗工によって、基材シートの一方の面上に塗工層が形成される。塗工層は、塗工面に後に電解質を添加することによって前記発熱層となる部分である。いずれの方法で塗工層を形成した場合であっても、該塗工層の表面は平坦に形成されることが、次工程である(2)の凹部形成工程において首尾良く凹部を形成し得る点から好ましい。なお、本明細書において「塗工層」という場合、(A)被酸化性金属の粒子等を含むが、電解質は含まない塗料を塗工して形成された層を意味するだけでなく、(B)被酸化性金属の粒子等を含むが、電解質は含まない塗料を塗工して形成された層に電解質が添加された層や、(C)被酸化性金属の粒子等及び電解質の双方を含む塗料を塗工して形成された層も意味する。(B)及び(C)の層は発熱層のことである。
【0038】
基材シートが高吸収性ポリマーの粒子を含んでいる場合には、塗料中に含有されている水が適度に該高吸収性ポリマーに吸収保持され、塗工層の含水率は、塗料の含水率よりも低下する。その結果、塗工層の流動性が低下する。また、基材シートは、繊維材料を含んでいる場合には、このことによっても、塗料中に含有されている水が適度に基材シートに吸収保持され、塗工層の含水率が低減される。尤も、塗工層の含水率が過度に低下すると、その流動性が低下しすぎるので、次工程である(2)の凹部形成工程において凹部が形成しづらくなる場合がある。この観点から、(2)の凹部形成工程に付される前の状態において、塗工層の含水率が10〜48質量%、特に20〜43質量%となるように、塗料の含水率や、基材シートの吸水性を調整することが好ましい。塗工層の含水率の測定は、上述した発熱層の含水率の測定と同様にして行う。
【0039】
塗料の塗布は、基材シートにおける塗料を塗布する一面側とは反対側の面側から吸引しつつ行うことが、塗料の一部とともに被酸化性金属の粒子を含む塗料中の固形分を基材シートの繊維材料間に取り込ませる観点から好ましい。被酸化性金属の粒子等を基材シート中に取り込ませることで、塗工層と基材シートの一体性が増し、基材シートからの発熱層の脱落(使用前、使用中、使用後)が効果的に防止される。
【0040】
(2)凹部形成工程
このようにして塗工層が形成されたら、該塗工層の表面側から棒状体を接近させて、該棒状体の下端を該塗工層中に進入させる。この操作は塗工層が流動状態を有している間に行うことが有利である。流動状態とは、例えば塗工層の含水率が上述した範囲内にある状態のことであり、外力の作用によって不定形に形を変えることができる程度の粘ちょう性を有することを意味する。こうして塗工層に棒状体の下端を当接させた状態下に、塗工層と棒状体とを相対的に移動させて、塗工層の一部を掻き取り、移動方向と同方向に延びる筋状の凹部を形成する。塗工層と棒状体とを相対的に移動させる場合には、例えば(a)棒状体を固定しておき、塗工層を含む基材シートを一方向に走行させる方式、(b)塗工層を含む基材シートを固定しておき、棒状体を一方向に移動させる方式、(c)塗工層を含む基材シート及び棒状体を互いに180度反対の方向に移動させる方式などを採用することができる。先に述べた(1)の塗工工程において、一方向に走行する基材シートに塗工層を形成する場合には、その引き続きとして(a)の方式を採用することが好ましい。
【0041】
塗工層が流動状態のうちに棒状体によって該塗工層を掻き取ると、該塗工層に負荷をかけずに凹部を容易に形成することができる。その結果、凹部に位置する発熱組成物と、隣り合う凹部間に位置する発熱組成物、すなわち凸部に位置する発熱組成物の組成や密度等が同じになり、発熱特性が損なわれにくくなる。また、棒状体を塗工層に挿入・引き抜きするだけの簡単な装置で凹部を形成することができるので、装置の清掃や整備が容易である。棒状体の交換にも手間がかからず低コストである。
【0042】
図1(a)に示すように、棒状体2が基材シート1上に形成された塗工層3内に挿入されて該塗工層3の掻き取りが行われると、図1(b)に示すように、掻き取られた発熱組成物4が除去されずに棒状体2に付着することがある。その状態で塗工層3の掻き取りが進行すると、図1(c)に示すように、棒状体2に付着した発熱組成物4の成長が進み塊4aになることがある。そして発熱組成物4の塊4aがある大きさまで達すると、塊4aは棒状体2に付着し続けることができず、棒状体2から分離する。分離した発熱組成物4の塊4aそれ自体は、塗工層3を構成している発熱組成物と同組成なので異物ではない。したがって、棒状体2から分離した塊4aが塗工層3上に残存しても、その塊4aが塗工層3に悪影響を及ぼすことはない。そして、塊4aが棒状体2から分離することで、該棒状体2は発熱組成物が付着していないか、付着量が少ない状態に戻る。すなわち棒状体2は自己クリーニングされる。このように、棒状体2を用いることで、発熱組成物4の付着、その塊4aの成長、塊4aの分離除去というサイクルが繰り返し起こるので、棒状体2を頻繁に清掃する必要がないという有利な効果が奏される。なお図1(a)ないし(c)は、基材シート1が、紙面と直交する方向に走行している状態を示している。
【0043】
棒状体を用いた塗工層の掻き取りによって凹部を形成する場合、1本の棒状体を用いると、1条の凹部が形成される。これに対して、図2(a)及び(b)に示すように、棒状体2を複数本用い、これらを、塗工層3を含む基材シート1の走行方向Dと交差する方向にわたって所定の間隔を置いて配置しておき、この状態下に塗工層3を含む基材シート1を走行させると、走行方向Dに延びる多条の凹部5が形成される。
【0044】
図2(a)及び(b)に示すように棒状体2を複数本用いた場合には、各棒状体2の長さを同じにしてもよく、あるいは異ならせてもよい。各棒状体2の長さを同じに設定した場合には、形成される各凹部の深さは同じになる。一方、棒状体2の長さが異なる場合には、その長さに応じた深さの凹部が形成される。
【0045】
塗工層を含む基材シートを一方向に走行させている間に、塗工層に棒状体の下端を当接させた状態を維持しつつ、走行方向と交差する方向に棒状体を往復運動させると、山型又は曲線状の波形の凹部を形成することができる。例えば塗工層を含む基材シートを一方向に一定速度で走行させつつ、該方向と直交する方向に棒状体を一定速度で往復運動させると、正弦波状に蛇行した凹部を形成することができる。
【0046】
また、塗工層を含む基材シートを一方向に走行させている間に、塗工層に棒状体の下端を当接させた状態を維持しつつ、棒状体を塗工層の面と直交する方向に往復運動させると、そのようにして形成された凹部においては、凹部の深さが、凹部の延びる方向にわたって変化したものとなる。
【0047】
更に、塗工層を含む基材シートを一方向に走行させている間に、塗工層に棒状体の下端を当接させた状態を維持しつつ、走行方向と交差する方向に棒状体を往復運動させるとともに、棒状体を塗工層の面と直交する方向に往復運動させてもよい。
【0048】
棒状体は一般に直線状のものであり、棒状体はその延びる方向が塗工層の面と直交するような位置関係で、該棒状体の下端を塗工層に当接させることができる。これに代えて、図3に示すように、塗工層3を含む基材シート1の走行状態を、走行方向Dに沿って横から視たとき、棒状体2は、その下端2aがその上端2bに対して走行方向Dの下流側に位置しており、それによって棒状体2が、塗工層の厚み方向Wに対して傾斜した状態になっているような位置関係で、棒状体2の下端2aを塗工層3に当接させてもよい。このようにすることで、塗工層3を掻き取るときの抵抗を低減させることができ、塗工層に負荷を一層かけずに凹部5を形成することができる。また、上述した自己クリーニング性を向上させることもできる。
【0049】
棒状体2としては、例えば図4(a)に示すように、円柱状のものを用いることができる。この棒状体2の下端面は平坦面になっている。この形状の棒状体に代えて、図4(b)に示す棒状体を用いることもできる。この棒状体の下端は下に凸の丸みを帯びた曲面形状になっている。この形状の棒状体を用いることで、図4(a)に示す棒状体を用いる場合よりも、塗工層の掻き取りの抵抗を低減させることができる。塗工層の掻き取りの抵抗を一層低減させる観点からは、図4(c)に示す棒状体を用いることもできる。この棒状体の下端は、先細りの尖鋭な形状となっている。したがって、この棒状体を用いると、塗工層の掻き取りの抵抗を一層低減させることができる上に、狭幅の凹部を容易に形成することができる。
【0050】
棒状体の横断面形状は、例えば円形や正多角形などの等方性の形状であることが、塗工層の掻き取りの抵抗を低減させる観点から好ましい。尤も、異方性のある横断面形状、例えば横断面が楕円形や菱形である棒状体を用いることもできる。横断面が異方性のある形状である場合、そのアスペクト比(長軸/短軸)が50以下、特に30以下であることが、塗工層の掻き取りの抵抗を過度に固めないようにする観点から好ましい。また、横断面が異方性のある形状である場合、その長軸方向が、基材シートの走行方向と一致するように棒状体を配置することが好ましい。
【0051】
棒状体の太さは、該棒状体の横断面が例えば円形の場合、直径で表して0.5〜5mm、特に1〜3mmであることが、所望の幅の凹部を確実に形成し得る点から好ましい。横断面が等方性の形状である場合、例えば正多角形である場合、該正多角形に外接する円の直径が上述の範囲であることが好ましい。棒状体の横断面が異方性のある形状である場合、例えば楕円形や菱形である場合、基材シートの走行方向と直交する方向での棒状体の幅が上述の範囲であることが好ましい。
【0052】
塗工層に凹部が形成されたら、該凹部の形状を保つために、塗工層の水分率を低減させて、該塗工層の流動性を低下させることが好ましい。この目的のために、基材シートとして吸水性を有するものを用いることが好ましい。基材シートの吸水性をコントロールするためには、例えば基材シートを構成する繊維の種類及び親水性繊維/疎水性繊維の比率等や、基材シートに高吸収性ポリマーを添加する等の手段を採用することができる。これらの手段を適宜組み合わせることで、塗料の塗工の直後では十分な流動状態を保ち、かつ所定時間の経過後に塗工層の流動性を低下させることができる。
【0053】
別法として、棒状体を所定温度に加熱した状態下にその下端を塗工層に当接させて、該塗工層を掻き取ることもできる。加熱された棒状体を用いることで、発熱組成物を掻き取った部位での塗工層の水分率を急速に低下させることができ、形成された凹部の保形性を容易にかつ確実に高めることができる。この観点から、棒状体を80〜300℃、特に120〜200℃に加熱しておくことが好ましい。棒状体の加熱は、例えば該棒状体の上端を熱源と熱的に接続しておき、熱源からの伝熱によって該棒状体の下端を所定温度に加熱すればよい。
【0054】
以上の工程は塗工層の表層部に、一方向に筋状に延びる凹部を形成する方法に関するものであるところ、本製造方法においては、かかる凹部を形成した後に、前記方向と交差する第2の方向に延びる第2の凹部を形成して、目的とする発熱体の柔軟性を一層高めてもよい。この柔軟性を一層顕著なものにする観点からは、2つの方向の交差角を45度以上に設定することが好ましい。特に、発熱体の面内のいずれの方向においても略同等な柔軟性を発現させる観点からは、2つの方向は互いに直交していることが好ましい。2つの異なる方向に凹部を形成した場合には、凸部は連続したものにはならず、断続して延びる態様となる。異なる2方向に延びる凹部を形成するには、例えば、塗工層を含む基材シートの走行中に、塗工層に棒状体の下端を当接させた状態を維持しつつ、走行方向と交差する方向に棒状体を往復運動させて、基材シートの走行方向に延びる波状の凹部を形成し、次いで、該波状の凹部と交差する別の波状の凹部を、棒状体を同様に往復運動させて形成すればよい。
【0055】
2つの異なる方向に凹部及び凸部を形成する場合には、棒状体の下端が基材シートの表面に当接するように該棒状体の塗工層内への進入深さを調節することが好ましい。このようにすることで、塗工層の厚みと同じ深さの凹部が形成でき、かつ各凸部はその周囲が、露出した基材シートの表面によって取り囲まれて、個々に独立して区画された状態となる。このような凸部を形成することで、目的とする発熱体の柔軟性を更に一層高めることができる。
【0056】
(3)電解質添加工程
このようにして塗工層の表層部に凹部及び凸部を形成したら、該塗工面側に、電解質を固体状態で又は水溶液の状態で添加する。塗工層に形成された凹部及び凸部の形状を保つ観点からは、該塗工層の流動性を高めない添加態様である固体状態で電解質を添加することが有利である。電解質を固体状態で添加する場合には、該電解質は、被酸化性金属の粒子及び水とは別に添加される。電解質の添加に際しては、例えば香り成分のカプセルなどの他の固体成分(ただし被酸化性金属の粒子は除く)が共存してもよいが、好ましくは電解質のみを単独で添加する。その場合、他の固体成分は、先に述べた塗料中に配合される。電解質を単独で添加することで、それ以外の固体成分の発熱層における分散性が向上するという有利な効果が奏される。また、電解質を固体状態で添加することで、水溶液で添加する場合に比較して機器の腐食を抑制でき、また機器及び/又はその周囲への電解質の飛散を抑制できるという有利な効果が奏される。
【0057】
電解質が固体状態で添加される場合、その形態に特に制限はない。例えば個々の粒子が目視可能な程度の大きさを有する粒状体でもよく。肉眼では目視不可能な程度の大きさを有する小粒子でもよい。塗料の塗工によって形成された塗工層への円滑な溶解の点からは、電解質を小粒子の集合体としての粉体(粉末)の状態で添加することが好ましい。例えば平均粒子径が50〜1000μm、特に100〜800μmである粉体の状態で、電解質を添加することが好ましい。平均粒子径は、例えばJIS Z8801の標準ふるいを用いたふるい分け方法にて測定できる。
【0058】
電解質を固体状態で添加するための装置としては、例えばスクリューフィーダ、電磁フィーダ、オーガ式フィーダなどを用いることができる。なお、電解質は、発熱体の使用時までに発熱層中に均一に存していればよく、電解質添加工程において電解質を基材シートに対し均一に添加しなくてもよい。
【0059】
一方、電解質を水溶液の状態で添加する方法としては、ノズルによる滴下又は噴霧、ブラシによる塗布、ダイコーティング等が用いられるが、周囲への電解質水溶液の飛散や、電解質水溶液吐出口の詰まり防止、塗料との接触による製造設備の汚染防止の点からノズルによる滴下若しくは噴霧することが好ましい。電解質の濃度は、発熱層の含水率が適切な範囲となり、該発熱層の流動状態が適度になるように調整される。
【0060】
電解質の添加量は、該電解質が固体状態で添加される場合又は水溶液の状態で添加される場合のどちらであっても、被酸化性金属の粒子の単位面積当たりの添加量100質量部に対して、0.5〜15質量部、特に1〜10質量部であることが好ましい。
【0061】
塗工層への電解質の添加によって発熱層が形成され、目的とする発熱体が得られる。この発熱層においては、その表層部に少なくとも一方向に筋状に延びる凹部が形成されている。発熱体が、同一の又は異なる2枚の基材シート間に発熱層が設けられた形態である場合には、表層部に凹部が形成された発熱層における、該凹部が形成された面上に、別の基材シートを重ね合わせる工程を行ってもよい。
【0062】
このようにして目的とする発熱体が得られる。発熱体の製造後には、付加的な工程として発熱体被覆封止工程を行い、該発熱体を有する発熱具を製造することができる。発熱体被覆封止工程においては、発熱体を包材で被覆する。発熱体の製造を連続的に行い、連続長尺物からなる発熱体を製造した場合には、発熱体被覆封止工程に先立ち、連続長尺物からなる発熱体を、その幅方向にわたって裁断して毎葉の発熱体を製造することが好ましい。
【0063】
基材シートを1枚用い、該基材シートの一面に発熱層を形成した場合には、毎葉の発熱体を所定の間隔をおいて一方向に走行させつつ、発熱層が形成された側に、連続長尺物からなる第1の被覆シートを配置するとともに、他方の側に、同じく連続長尺物からなる第2の被覆シートを配置する。一対の基材シートを用いて発熱体を製造した場合には、2枚の基材シートのうちの一方のシートの外側に第1の被覆シートを配置するとともに、他方のシートの外側に、同じく連続長尺物からなる第2の被覆シートを配置する。次いで第1の被覆シート及び第2の被覆シートにおける発熱体からの延出域を所定の接合手段によって接合する。接合は、発熱体における左右の側縁の外方及び前後の端縁の外方において行われる。接合手段としては、熱融着、超音波接合、接着剤による接着等が挙げられる。
【0064】
このようにして、複数の発熱具が一方向に連結された状態の連続長尺物が得られる。この連続長尺物を、隣り合う発熱体間において幅方向にわたって裁断することで、目的とする発熱具が得られる。この発熱具は、次工程において、酸素バリア性を有する包装袋内に密封収容される。
【0065】
なお、本製造方法においては、製造過程、特に電解質添加工程後の工程での被酸化性金属の酸化を抑制するために、製造ラインを非酸化性雰囲気に保つことが好ましい。
【0066】
以上の製造方法においては、発熱体被覆封止工程に先立ち、連続長尺物からなる発熱体を、その幅方向にわたって裁断したが、これに代えて、凹部形成工程と電解質添加工程の間で、塗工層が形成された連続長尺物からなる基材シートを裁断し、毎葉となった該基材シートに、電解質添加工程で電解質の添加を行ってもよい。
【0067】
また、以上の製造方法においては、基材シートに塗料を塗工して塗工層を形成した後に、該塗工層に凹部を形成し、更に電解質を添加して発熱層を形成したが、これに代えて、まず基材シートに電解質を固体状態又は水溶液の状態で添加し、次いで塗料を塗工した後に、凹部を形成して発熱層を形成してもよい。あるいは、塗料と電解質とを別個に添加するのではなく、被酸化性金属の粒子、炭素成分、水及び電解質を含む塗料を調製し、該塗料を基材シートに塗工した後に、凹部を形成して発熱層を得てもよい。
【0068】
図5には、本製造方法に好ましく用いられる装置の一例が示されている。この装置は、塗料の塗工部10、凹部形成部20、電解質添加部30、第1裁断部40、リピッチ部50、被覆部60、封止部70及び第2裁断部80を備えている。
【0069】
塗工部10はダイコータ11を備えている。また、ダイコータ11のダイリップに対向し、かつ矢印方向に周回するワイヤメッシュの無端ベルト12も備えている。更に、無端ベルト12を挟んでダイコータ11のダイリップに対向してサクションボックス13も備えている。基材シートの原反ロール1Aから繰り出された連続長尺物からなる基材シート1は、無端ベルト12によって搬送され、その一方の面に、ダイコータ11によって塗料が塗工され、塗工層が形成される。無端ベルト12による基材シート1の搬送に際してはサクションボックス13を作動させ、搬送を安定化させるとともに、塗料を吸引して基材シート1に安定保持させる。
【0070】
凹部形成部20は棒状体2を有している。棒状体2は、その上端の位置において固定板21に取り付けられている。固定板21は、基材シート1の走行方向と直交する方向(図5において紙面と直交する方向)に往復移動が可能な機構を有していてもよい。これに代えて、又はこれに加えて、固定板21は、塗工層の面と直交する方向(図5における上下方向)に往復移動が可能な機構を有していてもよい。
【0071】
棒状体2は、塗工層の面に対して所定の角度をもって該塗工層内に進入している。塗工層の面と棒状体2とは一般に直交しているが、それ以外に、例えば先に述べた図3に示す角度関係になっていてもよい。棒状体2は、1本又は複数本が用いられ、それらの上端が固定板21に取り付けられている。
【0072】
電解質添加部30は、電解質水溶液を滴下するノズル31を備えている。また、ノズル31の開口部に対向し、かつ矢印方向に周回するワイヤメッシュの無端ベルト12も備えている。更に、無端ベルト12を挟んでノズル31の開口部に対向してサクションボックス33も備えている。塗料が塗工された後の基材シート1は、無端ベルト12によって、凹部形成部20から電解質添加部30に搬送され、その基材シート1の塗工層に向かって、ノズル31のノズル孔から電解質が固体状態又は水溶液の状態で添加され、発熱層が形成される。電解質添加部30における基材シート1の搬送に際しては、サクションボックス33を作動させ、搬送を安定化させることもできる。塗料を塗工した後に電解質を添加することによって、発熱層中に発熱に好適な電解質の濃度を確保することができるとともに、電解質は、塗工層と基材シート1に含まれる水分によって、濃度が希釈されながら、基材シート1に吸収保持され、発熱層の水分率及び電解質濃度が好適になる。また、電解質の添加時のサクションボックス33の吸引によって、基材シート1の内部にまで電解質が浸透しやすくなる。
【0073】
表層部に凹部を有する発熱層が形成された基材シート1に対しては、該発熱層の凹部が形成された面上に、連続長尺物からなる基材シート1’が供給される。基材シート1’は発熱層上に重ね合わされる。これによって、同一の又は異なる2枚の基材シート1,1’の間に、発熱層が設けられた発熱体の連続長尺物が形成される。
【0074】
この時点での発熱体の構造は図6に示すとおりであり、同一又は異なる2枚の基材シート1,1’間に、塗工層3である発熱層が配置されている。発熱層には複数条の凹部5が一方向に延びるように形成されている。隣り合う凹部5の間は凸部になっている。凹部5は、基材シート1’側に向けて開口している。
【0075】
形成された発熱体の連続長尺物を、第1裁断部40において、幅方向にわたって裁断する。第1裁断部40は、ロータリーダイカッタ42とアンビルローラ43とを備えている。連続長尺物が両部材間を通過することで裁断が行われ、それによって毎葉の発熱体100Aが得られる。
【0076】
発熱体の連続長尺物の裁断は、該連続長尺物の幅方向に延びるように行われればよく、例えば該連続長尺物の幅方向にわたって直線的に行うことができる。あるいは、裁断線が曲線を描くように裁断を行うことができる。いずれの場合であっても、裁断によってトリムが発生しないような裁断パターンを採用することが好ましいが、楕円や流線形等の所望の形状に切り抜いてもよい。
【0077】
毎葉となった発熱体100Aはリピッチ部50において搬送方向の前後におけるピッチが変更され、前後隣り合う発熱体100A間が所定の距離を置いて再配置される。このようなリピッチの機構としては従来公知のものを特に制限なく用いることができる。
【0078】
リピッチされた発熱体100Aは、被覆部60に搬送され、連続長尺物からなる第1の被覆シート6と、同じく連続長尺物からなる第2の被覆シート7によってその全体が被覆される。基材シートを1枚用い、該基材シートの一面に発熱層を形成した場合には、第1の被覆シート6は、発熱体100Aにおける発熱層の形成されている側を被覆し、第2の被覆シート7は、発熱体100Aにおける発熱層が形成されていない側を被覆する。基材シートを2枚用い、基材シート1の一面に発熱層を形成した後、もう1枚の基材シート1’を発熱層上に重ね合わせた場合には、第1の被覆シート6は、発熱体100Aにおける基材シート1’上を被覆し、第2の被覆シート7は、発熱体100Aにおける基材シート1上を被覆する。この被覆状態を保ちつつ、発熱体100Aは、封止部70に導入される。封止部70は、シール凸部72を有する第1のローラ71と、同じくシール凸部72を有する第2のローラ73とを備えている。両ローラ71,73は、その軸方向が平行になるように、かつ各ローラ71,73のシール凸部72が互いに当接するか、又は両者間に所定のクリアランスが生じるような位置関係で配置されている。封止部70においては、発熱体100Aの前後左右から延出している第1及び第2の被覆シート6,7の延出部が、ヒートシールによって接合される。この接合は、発熱体100Aを取り囲む連続した気密の接合であるか、又は発熱体100Aを取り囲む不連続の接合である。
【0079】
このようにして、複数の発熱具が一方向に連結された状態の連続長尺物が得られる。この連続長尺物を第2裁断部80において、その幅方向にわたって裁断する。第2裁断部80は、周面にカッター刃81を有するロータリーダイカッタ82とアンビルローラ83とを備えている。連続長尺物が両部材間を通過することで裁断が行われ、それによって目的とする発熱具100が得られる。裁断においては、先に述べた第1裁断部40における連続長尺物の裁断線が例えば直線状である場合には、本裁断部80における裁断線も直線とすることが好ましい。また、第1裁断部40における連続長尺物の裁断線が曲線である場合には、本裁断部80における裁断線もそれに倣った曲線とすることが好ましい。
【0080】
このようにして得られた発熱具100は、図7に示すように、第1の被覆シート6と第2の被覆シート7とからなる包材8で発熱体100Aの全体が包囲されている。基材シートを1枚用い、該基材シートの一面に発熱層を形成した場合には、発熱具100は、発熱体100Aの一方の面である発熱層が形成された面の側に、第1の被覆シート6が配置され、かつ他方の面である発熱層が形成されていない面の側に、第2の被覆シート7が配置されている。基材シートを2枚用い、基材シート1の一面に発熱層を形成した後、もう1枚の基材シート1’を発熱層上に重ね合わせた場合には、発熱具100は、発熱体100Aの一方の面を形成する基材シート1’上に、第1の被覆シート6が配置され、かつ他方の面を形成する基材シート1上に、第2の被覆シート7が配置されている。
【0081】
包材8における第1の被覆シート6は、その一部が通気性を有するものであるか、又はその全体が通気性を有している。第1の被覆シートの通気度(JIS P8117 B型、以下、通気度というときにはこの方法の測定値を言う)は、1〜50,000秒/(100ml・6.42cm2)、特に10〜40,000秒/(100ml・6.42cm2)であることが好ましい。このような通気度を有する第1の被覆シートとしては、例えば透湿性は有するが透水性は有さない合成樹脂製の多孔性シートを用いることが好適である。かかる多孔性シートを用いる場合には、該多孔性シートの外面(第1の被覆シートにおける外方を向く面)にニードルパンチ不織布やエアスルー不織布等の不織布を始めとする各種の繊維シートをラミネートして、第1の被覆シートの風合いを高めてもよい。
【0082】
包材8における第2の被覆シート7としては、発熱体の構造に応じて適切なものが選択される。第2の被覆シート7は、第1の被覆シート6よりも通気性の低いシートであることが、第1の被覆シート6を通じて水蒸気を安定して発生させる観点から好ましい。特に、発熱層が、第2の被覆シート7側に位置していない場合には、第2の被覆シート7は、第1の被覆シート6よりも通気性の低いシートであることが好ましい。ここで言う「通気性の低いシート」とは、一部に通気性を有するが、通気性の程度が第1の被覆シート6よりも低い場合と、通気性を有さない非通気性シートである場合との双方を包含する。第2の被覆シート7が非通気性シートである場合、該非通気性シートとしては、合成樹脂製のフィルムや、該フィルムの外面(第2の被覆シート7における外方を向く面)にニードルパンチ不織布やエアスルー不織布等の不織布を始めとする各種の繊維シートをラミネートした複合シートを用いることができる。第2の被覆シート7が通気性シートである場合、該通気性シートとしては、第1の被覆シート6と同様のものを用いることができる。この場合、第2の被覆シート7の通気性は、第1の被覆シート6の通気性よりも低いことを条件として、200〜150,000秒/(100ml・6.42cm2)、特に300〜100,000秒/(100ml・6.42cm2)であることが好ましい。第2の被覆シート7が通気性シートであると、第1の被覆シート6の外面を、使用者の例えば肌や衣服に密着させた使用状態でも、安定した発熱を行うことができる。
【0083】
発熱具100は、第1の被覆シート6が配置されている側から水蒸気の発生が可能になっていることが好ましい。水蒸気の発生を可能とするためには、(A)発熱層が多量の水を含有していることを前提として、(B)発熱層を構成する各成分の割合を調節する方法、(C)発熱体100Aを包囲する第1及び第2の被覆シート6,7の通気度を調節する方法、(D)(B)と(C)を併用する方法等が挙げられる。基材シート1が親水性繊維を含むことによって、多量の水を保持することができる場合には、発熱具100は、多量の水蒸気を発生させることができる。基材シート1が親水性繊維を含むことに加えて高吸収性ポリマーも含有している場合には、このことによっても該基材シート1が多量の水を保持することができ、その結果、多量の水蒸気を発生させることができる。
【0084】
第1の被覆シート6及び第2の被覆シート7がいずれも通気性を有する場合には、第1の被覆シート6の通気度の値を第2の被覆シート7の通気度の値よりも小さくして(すなわち通気性を高くして)、第1の被覆シート6を通じて放出される水蒸気の量の方が、第2の被覆シート7を通じて放出される水蒸気の量よりも多くなるようにすることが好ましい。第1の被覆シート6を通じて放出される水蒸気の量の方が、第2の被覆シート7を通じて放出される水蒸気の量よりも多くなる限りにおいて、第2の被覆シート7を通じて水蒸気が放出されることは何ら妨げられない。
【0085】
発熱具100は、例えば人体に直接適用されるか、又は衣類に適用されて、人体の加温に好適に用いられる。人体における適用部位としては例えば肩、首、顔、目、腰、肘、膝、太腿、下腿、腹、下腹部、手、足裏などが挙げられる。また、人体のほかに、各種の物品に適用されてその加温や保温等にも好適に用いられる。
【符号の説明】
【0086】
1 基材シート
2 棒状体
3 塗工層
4 発熱組成物
4a 発熱組成物の塊
5 凹部
6 第1の被覆シート
7 第2の被覆シート
8 包材
100 発熱具
100A 発熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被酸化性金属の粒子、炭素成分、水及び電解質を含む発熱組成物の層が、吸水性を有する基材シートの一面に設けられてなる発熱体の製造方法であって、
前記基材シートを一方向に走行させつつ、該基材シートの一面に、該被酸化性金属の粒子を少なくとも含む塗料を塗布して塗工層を形成した後、該塗工層が流動状態を有している間に、該塗工層に棒状体の下端を当接させて該塗工層を一部掻き取り、該基材シートの走行方向と同方向に延びる筋状の凹部を形成する、発熱体の製造方法。
【請求項2】
前記基材シートの走行方向と交差する方向にわたって配置された複数の前記棒状体を用いて複数条の前記凹部を形成する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記棒状体の下端が、尖鋭になっているか、又は丸みを帯びた形状になっている請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記基材シートの走行状態を、走行方向に沿って横から視たとき、前記棒状体は、その下端がその上端に対して該走行方向の下流側に位置しており、それによって該棒状体が、前記塗工層の厚み方向に対して傾斜した状態になっている請求項1ないし3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記棒状体を加熱した状態下にその下端を前記塗工層に当接させる請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記基材シートの一面に、前記電解質を含まずかつ前記被酸化性金属の粒子を含む塗料を塗工して前記塗工層を形成し、該塗工層に前記凹部を形成した後、該塗工層に前記電解質を固体状態で又は水溶液の状態で添加して前記発熱組成物の層を形成する請求項1ないし5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記基材シートの一面に、前記被酸化性金属の粒子を含まずかつ前記電解質を含む水溶液を添加するか、又は前記電解質を固体状態で添加し、次いで前記電解質を含まずかつ前記被酸化性金属の粒子を含む塗料を塗工した後に、前記凹部を形成して前記発熱組成物の層を形成する請求項1ないし5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記塗工層に前記凹部を形成した後、該塗工層の上に、前記基材シートと同一の又は異なる基材シートを重ねる請求項1ないし7のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate