説明

発熱素子を用いたインクジェット記録装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、情報処理装置の出力として利用されるインクジェット記録装置及び情報処理装置と一体化されたプリンターであるインクジェット記録装置に関し、具体的にはパソコン、ワードプロセッサ、複写機、ファクシミリ等の記録機器に関する。本発明は、中でもインクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生体として電気熱変換体を用い、画像情報信号に応じてインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、電気熱変換体の熱エネルギーによって急速な状態変化を生じせしめて気泡を形成して液滴を吐出する基本的な発明は、米国特許第4,723,129号明細書に代表されるものである。この発明には、複数の電気熱変換体の駆動条件として各変換体を同時に駆動する同時駆動方式と、各変換体に与える駆動パルスを斜め格子状記録のために順番に位相差をもって駆動する非同時駆動方式と、が付記されている。これと同様の記載は特開昭55−109672号公報にも開示されている。
【0003】又、米国特許第4,723,129号明細書には、いわゆる時分割駆動方式を多数の電気熱変換体に対して実行する発明が開示されている。
【0004】しかしながら、従来から実用化されている熱エネルギーを用いた記録装置では、高速記録を利点とするため上述の同時駆動方式が実用上好ましいものとされてきた。
【0005】このため、電気熱変換体を複数個備えたインクジェット記録装置の発明は、もっぱら、記録信号に応じた駆動電気信号を同時に各変換体へ供給することを前提とする特許がほとんどである。
【0006】この種の発明として米国特許第4,334,234号明細書には吐出口から電気熱変換体の発熱素子までの最短距離L1に対して、この距離L1を決定する発熱素子部分から共通液室の内壁(バック波を反転させる部位)までの距離L2がL1/L2≦1を満足する発明が記載されている。この発明は、バック波の影響により応答周波数が低下するために、このバック波の影響をなくす発明である。従って、この発明は記録ヘット構造のみに関し、共通液室を対象とする発明である。
【0007】一方、特開昭55−132276(特公昭59−31945)号公報には、単一の液路しかもたない記録ヘッドにおいて、液室から電気・熱変換体が位置する液路へのインク供給口を基準とした発明が開示されている。しかし、この発明は、このインク供給口と長さlの発熱素子の中心までの距離xと、この液路の吐出口とインク供給口との距離Lとに着目するものでしかなく、距離Lを1mm以上5mm以下とする実施例を対象としている。この公報の発明は主として、液体中の溶存気体による残留気泡を排除する条件を明記したものである。
【0008】又、米国特許第4,338,611号明細書には、流路のインク供給口と該インク供給口から発熱素子までの最短距離bに対して、液路の吐出口と該吐出口から発熱素子までの最短距離aが1/100≦a/b≦1/2を満たすインクジェット記録ヘッドを開示している。この明細書中の発明は、吐出方向の安定化、単位時間当たりの液滴数である応答周波数の向上、サテライトの防止を達成できるものとして挙げられている。この発明のa/bはa≧bを否定しているが、ここでの駆動条件は明記していず、当時の同時駆動方式と判断し得るものである。
【0009】さらに米国特許第4,723,136号公報には、発熱素子とその流路のインク供給口との間に、流体抵抗素子を設けたヘッドに、さらに他のインク供給路を備えたものが開示されている。
【0010】一方、米国特許第4,897,674号明細書には、吐出口を基準としたインク供給口までの距離L1とインク供給口側の発熱素子の端部までの距離L2とがL2≦L1≦5L2を満足する発明が開示されている。この発明は、吐出速度の安定化のために共通液室内に部分壁を設けたり、吐出口側に向かって断面積が減少することも開示している。この断面積の変化は、米国特許第4,752,787号明細書にも記載されている。
【0011】いずれの記録ヘッド構造は、夫々特定の目的をより確実に達成するための発明であり、特徴あるものである。
【0012】[本発明の技術課題]ところで、従来の記録ヘッドは、比較的、流路長を長くしている実施例が多く、記録ヘッドの小型化をより一層向上する場合についての検討は十分ではない。
【0013】米国特許第4,338,611号明細書は、相対的に共通液室に対して連通する複数の液路形状で、ある範囲を否定しているが、より効率よい記録装置を達成する上での検討は十分されていない。
【0014】本発明は上述した従来記録ヘッドとしては否定されている条件の範囲を検討し直し、良好な記録を行うための記録装置の追求にある。
【0015】加えて、上記従来例では、記録液滴を形成可能な記録周波数、すなわち印字可能な記録周波数が、発熱する電気熱変換体の数が多くなるほど低減することがあるという課題があることがわかった。
【0016】即ち、流路数が1つの共通液室に対して、64本、128本、256本のように増大していくと、記録周波数が低下してしまう問題は、本発明が解決する問題として検討されることとなった。
【0017】本発明者は、単に各部構成の比率関係に着目したのではなく、各構成の特に優れた条件を見出しつつも、総合的に記録装置として実用的に優れた装置の提供に着目したものである。
【0018】[発明の目的]本発明の目的は、従来では技術的に有効でないとされていた広範囲の構成の中から、従来より優れた効果を達成できるオンデマンド式インクジェット記録装置を提供することにある。
【0019】本発明の他の目的は、従来では着眼されていなかった構成によって従来よりも、高応答周波数を達成でき、液滴数だけでなくその液量も安定化できるインクジェット記録装置を提供することにある。
【0020】本発明は請求項1を提供することをさらに別の目的とする。
【0021】本発明は請求項3を提供することをさらに別の目的とする。
【0022】
【実施例】以下、本発明の実施例を、図面を用いて詳細に説明する。
【0023】図8は本発明を適用可能なインクジェット記録ヘッドを示す斜視図である。図において11は通電に応じて発熱しインクに発泡を生じさせて、記録液の吐出を行わせる為に利用される熱エネルギーを発生する電気熱変換体の発熱部(以下、発熱素子とも称す)である。12は基板であり、前記発熱素子11は基板12上に半導体製造工程と同様の製造工程を経て形成されている。13は記録液の吐出口(以下、オリフィスとも称す)であり、14は吐出口13に連通するインク路(以下、ノズルとも称す)である。15は吐出口13及びインク路14を形成する為のインク路形成部材である。
【0024】16は天板である。17はインク路14に共通に連通する共通液室としてのインク室であり、不図示のインク供給源から供給されたインクを貯留する。
【0025】図3は図8のような構成を持つインクジェット記録ヘッドに対する駆動制御系の一例を示すブロック図である。21は本発明に係るヘッド駆動回路であり、ヘッド駆動用電源22、タイミング生成回路23、記録データ分割生成回路24、記録データ・駆動タイミング生成回路25を有している。ここにタイミング生成回路23は記録データ、駆動タイミング生成回路25の制御信号C1及びC2に応じてパルス巾設定用信号ENB、入力される記録データのラッチ位置を選択し、駆動される電気熱変換素子を選択するための選択信号SEL1〜SEL4及びラッチ信号LAT2を生成し、また記録データ分割生成回路24は1ライン分の記録データを抽出再偏成し、記録ヘッドの駆動用IC26に供給する。
【0026】図4は本発明の実施例の駆動タイミングを示した図である。電気熱変換素子と同一ビット数で構成された1ライン分の記録データSI1は記録データ分割生成回路にて同時駆動される電気熱変換素子に対応する記録データSI2に再偏入され、記録ヘッドに転送される。その後、ラッチ信号LAT2の入力によりSEL1〜SEL4にて選択された駆動IC内のラッチ回路に読み込まれる。その後ENB信号の入力により選択された電気熱変換素子への通電を行う。前記データ転送、選択信号、パルス巾設定用信号の入力を所定数くり返し1ライン分の印字を行う。
【0027】図2は本実施例における各ノズルの駆動順序を示したものである。図においては41はインクジェット記録ヘッドであり、42は記録液滴を示す。図においてインクジェット記録ヘッド内の各ノズルは4つの群に分割されており、図中の駆動パルスに示されているように、No.1、No.2、No.3、No.4の順にTdの時間差で各群に属する電気熱変換体が順番に駆動される。
【0028】図1は各群に分割された電気熱変換体の駆動パルス時間差Tdの値と、各ノズルの応答周波数平均値(全吐出にて測定)との対応を示す。図より判るように、Tdに対応した応答周波数の変化において、バブルの最大発泡時からバブルが収縮し消滅するまでの範囲で応答周波数が略最大になる。これよりバブルが最大発泡する時点において、次に続く群の電気熱変換体に通電パルスを印加することで各ノズルの応答周波数を向上させることができる。
【0029】本実施例中、図1で理解できるように、駆動パルス幅を3μs、7μsとすると最大気泡時点も消泡時点も異なる。従って、気泡の形成状態に着目すると、順次駆動において、消泡時点より後では、吐出した液路においてはメニスカスの往復振動が生じることになり、隣接する液路への影響はある。従って、最大気泡時点から消泡時点におけるその液路内・周辺に生じるインク流れが一定方向のみの間に、次の順次駆動される隣接液路を駆動することは、不安定要素を大幅に減少できるので応答周波数が上がり、吐出状態をより安定化できるものと考えられる。
【0030】本発明者は、上述の条件の中にある内での条件をさらに検討したところ、上述の好ましい範囲内の優劣(無論従来より共に優れたものではあるが)を判定した。
【0031】上記好ましい範囲内であっても、傾向としてTdを更に長くしていくと相対的に応答周波数を低下してしまい、また被記録媒体上での記録液滴の着弾位置がわずかにズレてくることにより印字品位が相対的に劣化する。本発明者の実験では360DPI 64ノズルのヘッドを用い、パルス幅3μs、4群各16ノズルにて6.5KHzで印字された場合、Tdが20μsを越えると一部であるが着弾基準位置ズレがわずかに見い出された。Tdが25μsを越えるとズレが目立ち始めるものの許容できるものと判断された。
【0032】従って、より好ましい条件としては、Tdは25μs以下、より最適には20μs以下が本発明によって提供される。この場合上限は他の先行する液路中での最大気泡形成時点であることはいうまでもない。
【0033】また、更に細かく液滴の吐出状態を調べたところ、液が発泡により吐出口から柱状に飛び出してくる過程では液が吐出口周囲を濡らしている状態は解消しきれるものではないことが判明した。しかしその濡れは、従来に比べて極めてわずかなものであった。その濡れはおよそ最大発泡から略4μs経過した時点以降では相対的に小さく、特に10μs経過した時点以降は相対的により小さい。一方、略4μs経過以前は相対的に大きいものであった。これは本発明者の実験において最大発泡から略4μs以上経過しない時点に、隣接する次に続く群に通電開始すると、先に通電される群吐出口周囲の濡れが残っていて、後に通電される群の吐出方向にわずかに悪い影響を与える現象となって一部分に観察された。
【0034】以上のことから、多数本吐出時にも吐出くり返し周波数を高く保つためには最大発泡時点から消泡時点の間の期間に次に続く群に通電開始するのが良い。更に好適には最大発泡から4μs(より好適には10μs)通過した時点から消泡時点の間の期間に次に続く群に通電開始するのがよい。
【0035】図2駆動方式に代えて1、3、2、4の順に電気熱変換体に駆動パルスを印加する構成や、図7に示すように1、2、4、3の順に電気熱変換体に駆動パルスが印加される場合においても、バブルが最大発泡する時点からバブルが消滅する時点の間において、次に続く群の電気熱変換体に通電パルスを印加開始することで、各ノズルの応答周波数を向上させることができる。
【0036】以上、説明してきたように、本実施例は複数の電気熱変換体がnケの群に分割され、順次各部の電気熱変換体に通電し、発泡させ液滴を吐出するインクジェット記録方法において、前記発泡で形成されるバブルの大きさが略最大になる時点からバブルが消滅する時点の間において、次に続く群の電気熱変換体に通電パルスが印加開始されるものであり、以上の実施により、以下のような効果を実現することが可能である。
【0037】1)各ノズルが同時吐出する際の記録液滴の吐出可能な周波数を大幅に向上させ、記録速度を向上させることができるようになった。
【0038】2)隣接するノズルの吐出口周囲の従来のような多大な濡れによる着弾点精度への悪影響を除去することが可能で印字品位を向上させることができる。
【0039】上記発明にとってより好ましい条件を挙げる。ここで図5〜図7を用いて説明する。
【0040】ここで、図6(a)、(b)、図7を用いて、本発明実施例の要部について説明する。
【0041】図において41はインクジェット記録ヘッドであり、42は記録液滴の飛翔経路を示す。図においてインクジェット記録ヘッド内の各ノズルは4つの群に分割されており、図6中の駆動パルスに示されているように、No.1、2、4、3の各液路の発熱素子に順次Tdの時間差で各群に属する電気熱変換体が順番に駆動される。
【0042】図7の( )内の数字は、多数の電気熱変換体のうち連続している順番の4つを1つのグループとした上で、そのグループ内の駆動順番を示したものである。本図では、1番目の電気熱変換体の次に2番目の電気熱変換体を駆動し(パルス−パルス間Td)、同一のタイミングで次に第4番目の変換体を駆動し、第3番目の変換体は第4番目に駆動される。従って、各グループ同志の隣接変換体は同時に駆動されない。
【0043】図6(b)は本発明によるインクジェット記録ヘッドのインク路及び平面を発熱素子11の形状を示す断面図(吐出口<液路)である。図において、発熱素子の面積は一例として133×28.5=3790.5μm2であり、発熱素子の吐出方向の端部からオリフィスまでの距離laは120μmである。本ヘッドはいわゆるエッジシェーター型ヘッドであるが、流路が屈曲してる場合を含めて距離laを定儀すると、吐出口13と発熱素子11との最短距離である。発熱素子の反吐出方向の端部からインク路の反吐出方向の端部(供給口13A)までの距離(以下、1bと記す)は、記録液滴の形成可能な周波数に、すなわち結果的に印字速度に大きく影響する。
【0044】また、距離1bは、供給口13Aと発熱素子11との最短距離である。ここで距離1bについて検討した内容を図5を用いて説明する。
【0045】図5は全ノズル同時吐出した場合のメニスカス復帰周波数fr(リフィル周波数)と1bとの対応を示すグラフである。図中の実線における分割駆動時の給紙時間Tdを13μsとし図1の発熱素子をその配列順にそのまま順次既動した場青のfrの挙動変化を示し、図中の点線はTd=0、すなわち、非分割同時駆動でのfrの挙動変化を示す。
【0046】図より、1bを短くすることによりfrが向上し、特に1b≦110μmの領域で急激にfrが上昇することが判る。更に、同時駆動よりもTd=13μsである分割駆動の方がfrを急激に高めることができる。これは、各ノズル間のクロストークに起因するものであり、1bが短いノズル、すなわちクロストークの影響が強いノズルほど分割駆動とすることによるfrの上昇率が高くなっている。
【0047】曲線Aにおいて、A1点は70μm、6.3KHz、A2点は90μm、5KHz、A3は110μm、4.35KHzを示した。この傾向は図6(a)、図7の駆動順番においても同様であった。
【0048】以上より、隣接するノズルを分割駆動するインクジェット記録ヘッドにおいては、分割駆動によりfrが向上することと共に、1b≦110μmとすることにより更に急激にfrを上昇させ、記録速度が顕著に向上することが判かる。
【0049】より好ましくは、同時駆動の周波数を上まわることができるので距離lbは70μm以下で好ましい。このときの距離は1aは120μmが最適である。
【0050】次に、距離1aについて説明する。
【0051】1aの値には以上に述べるような適正値がある。1aの値が130μmより極端に短くなった場合には、1.記録液滴の吐出ごのメニスカス後退時に消泡しつつあるバブルとメニスカスとが接触することで外部の気体をノズルないに取り込み、吐出不能に到る。この現象は吐出パルスの印加から25〜35μsの間に発生する。2.バブルが最大発泡する際に、バブルの吐出方向への先端部がオリフィスを突き抜けることで、外部の気体をノズル内に取り込み、吐出不能に到る。この現象は吐出パルスの印加から5〜15μsの間に発生する。という2種の現象により、記録液滴の不吐出による印字不良が発生する。この現象は1a<90μmの領域で顕著に発生し、好適には1a≧110μmの値が望ましい。
【0052】1aの値が130μmより極端に長くなった場合には、1.ヒーター中央部から吐出方向への流体インピーダンスが高くなることにより、記録液滴の吐出速度が低下することで、被記録媒体上の着弾点精度が低下し、記録画像の画像品質が劣化する。
2.ヒーター中央部から吐出方向への流体インピーダンスが高くなることにより、記録液滴の吐出量が低下することで、被記録媒体上の印字濃度が低下し、記録画像の画像品質が劣化する。という2種の欠点が発生する。この現象はla>130μmの領域で発生し始める為、好適には1a≦130μmの値が望ましい。
【0053】上記内容のうちで、距離1a、1bについて検討する。記録特性の安定化の要因のうち、各液滴吐出量の一様化を見ると、距離1a、1bの関係が1a<lbであると吐出量は安定化した。従って、本発明実施例において、1a<1b、90μm≦1a≦130μm、1b≦110μmは記録にとってすべての条件で好ましい成果を与えることが判明した。
【0054】必ずしも順次駆動する電気熱変換体が隣接していなくとも近接していれば、特に順次駆動する電気熱変換体の発熱部の中心間の距離が100μm以下、一層効果的には80μm以下であれば、本発明に係る効果が充分に存する。
【0055】本発明は、液路・電気熱変換体の組が多くなればなる程有効であり、48組以上において同時駆動方式と格段の差が出ていることも判明している。又、高密度に吐出口を配置した場合も特に有効であり、吐出特性の安定化から発熱素子の発熱面積は4190μm2以下、3390μm2以上が好ましい条件であることも判明した。
【0056】ここで、さらに極めて長期的な連続駆動を必要とする装置について検討した。
【0057】このような特徴のある記録を行う装置においては、lbが極端に小さな値を持つ場合には記録液滴吐出後のメニスカスのオリフィス部への復帰に伴うメニスカス振動が増大することにより、オリフィス部のインク濡れが長期記録後見られることがあった。この場合結果的にインク濡れにより、記録液滴の直進推が低下し被記録媒体上での着弾点精度が本発明の有効なものに比べてわずかに低下した。このような場合の装置においては、画像品質、記録液滴が吐出状態をより安定化するためには、1b≧40μmとすることが好まし条件であることが判明した。この液路としては、供給口から発熱素子までの形状は図1に示すようにlb≦40μm同形状であることが良い。
【0058】一方、ヒーターの反吐出方向後部に、発泡時の反吐出方向へのインク流を防止する為の、インク流路断面積の絞り込み部(以下、流体抵抗素子と記す)を設けたノズル形状のものにおいては、流体抵抗素子の持つ流体インピーダンスの増加分により、図6(b)に示すノズル形状に較べ、低い1bの領域まで印字品質を保証することが可能であり、上記高速・長期連続記録であっても1b≧30μmであればより好ましい記録を達成できた。
【0059】本実施例の駆動信号としての駆動パルスは、米国特許第4463359号明細書、同第4345262号明細書に記載されているようなものが適している。尚、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4313124号明細書に記載されている条件を採用すると、更に優れた記録を行うことができる。
【0060】更に、記録装置が記録できる最大記録媒体の幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドとしては、上述した明細書に開示されているような複数記録ヘッドの組み合わせによって、その長さを満たす構成や一体的に形成された一個の記録ヘッドとしての構成のいずれでも良いが、本発明は、上述した効果を一層有効に発揮することができる。
【0061】加えて、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、あるいは記録ヘッド自体に一体的に設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0062】本発明は、カラーインクに対しても有効であり、かつ記録装置として画像を記録ヘッドに左右されずに安定化できる利点がある。
【0063】この様な本発明は、複数の電気熱変換体への印字データを複数ビット毎の印字データに分割転送することにより、複数の電気熱変換体の中で互いに隣接する電気熱変換体に順次一定の時間間隔で通電を行うインクジェット記録装置において、特に有効である。
【0064】
【発明の効果】本発明によれば、印字可能な記録周波数を上昇させ、記録速度を向上させることができるので、インクジェット記録装置のより多くの産業上の利用を有効にし得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施例の記録ヘッド分割駆動の部分説明図(a)とそのヘッドの共通液室Cに連通する液路の構成説明図(b)である。
【図2】第1図(a)の具体的駆動信号の供給タイミングを示す図である。
【図3】本発明に適用される装置のブロック図である。
【図4】図3に用いられる各回路の駆動タイミングチャートである。
【図5】本実施例の効果を説明するグラフである。
【図6】本発明他の実施例の記録ヘッド分割駆動の部分説明図(a)とそのヘッドの共通液室Cに連通する液路の構成説明図(b)である。
【図7】第1図(a)の具体的駆動信号の供給タイミングを示す図である。
【図8】本発明に適用される記録ヘッドの部分断面を含む概略図である。
【符号の説明】
11 発熱素子
13A インク供給口
13 吐出口
la 吐出口−発熱素子間最短距離
lb インク供給口−発熱素子間最短距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】 インクジェット記録装置は以下を有する;端部に液滴を吐出するための吐出口を有し、他端からのみインクを受ける液路の複数と、該複数の液路が夫々別々の供給口で連通し、インクを備える共通液室と、該複数の液路に夫々位置した平面状の発熱素子を含む電気熱変換体、該変換体は、液路中に熱エネルギーによる気泡生成を含むインクの状態変化を電気信号に基づいて生じせしめる;さらに各液路において該発熱素子と該吐出口との最端距離laが90μm以上130μm以下であって、該発熱素子と該インク供給口との最端距離lbが110μm以下である;さらに、la>lbを満足する該複数の発熱素子を発熱するための電気信号を隣接する発熱素子が順次駆動されるように、順次駆動する駆動回路。
【請求項2】 上記複数液路は、48個以上の直状路で、上記発熱素子の発熱面積が3,390μm2以上4,190μm2以下である請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】 インクジェット記録装置は以下を有する;端部に液滴を吐出するための吐出口を有し、他端からのみインクを受ける液路の複数と、該複数の液路が夫々別々の供給口で連通し、インクを収納する共通液室と、該複数の液路に夫々位置した平面状の発熱素子を含む電気熱変換体、該変換体は、液路中に熱エネルギーによる気泡形成を含むインクの状態変化を電気信号に基づいて生じせしめ液滴を吐出口から吐出させる。ここで各液路において、発熱素子の発熱面積が3,390μm2以上4,190μm2以下で、該発熱素子と該吐出口との最短距離laが90μm以上130μm以下、且つ、該発熱素子と該供給口との最短距離lbが110μm以下で且つla>lbを満足する該複数の発熱素子のうち隣接する発熱素子を順次駆動する順次駆動回路。
【請求項4】 上記駆動回路は、所定数の順に並んだ発熱素子を1つのグループとし、該グループ内を所定の順番で駆動するブロック内順次駆動である請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】 上記最短距離lbは30μm以上で、上記発熱素子と上記供給口との間に流体抵抗素子を有する請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】 上記最短距離lbは40μm以上で、上記発熱素子と上記供給口との間の液路部分は同一形状である請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】 上記最端距離lbは70μm以下である請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】 上記液路の吐出口の面積は、発熱素子のある液路部分の断面積より小さい請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】 上記液路の数は48以上である請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】 インクジェット記録装置は以下を有する;インクを吐出する吐出口に連通する複数のインク路と、該複数のインク路に供給口を介して共通に連通するインク室と、各インク路に設けられインクを吐出するために利用される熱エネルギーを発生する複数の電気熱変換体と、前記熱エネルギーを発生させるための信号を隣接乃至近接する電気熱変換体に順次供給する手段と、を具備し、前記電気熱変換体の発熱部の、前記供給口側の端部と前記供給口との間の距離lbが110μm以下であり、前記電気熱変換体の変換体発熱部の、前記吐出口側の端部と前記吐出口との距離laに対して、la>lbを満足する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【特許番号】第2984415号
【登録日】平成11年(1999)9月24日
【発行日】平成11年(1999)11月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−143275
【出願日】平成3年(1991)6月14日
【公開番号】特開平4−250050
【公開日】平成4年(1992)9月4日
【審査請求日】平成10年(1998)5月12日
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【参考文献】
【文献】特開 昭56−46769(JP,A)
【文献】特開 昭55−132270(JP,A)
【文献】特開 昭55−132275(JP,A)
【文献】特開 平1−195051(JP,A)
【文献】特開 昭55−132260(JP,A)
【文献】特開 平2−59349(JP,A)
【文献】特開 平1−247168(JP,A)
【文献】特開 昭61−249767(JP,A)
【文献】特開 昭61−249764(JP,A)