説明

皮膚バリア機能の測定方法

【課題】本発明は、皮膚の角質層の外側から内側への皮膚バリア機能を、簡便且つ正確に測定しうる測定方法を提供することを課題とする。
【解決手段】測定するモデル動物の皮膚表面に標識物質を含む溶液を塗布し、一定時間経過後に当該標識物質を含む溶液を塗布した部位の角質層を除去し、角質層が除去された表皮(顆粒層、有棘層、基底層からなる部分)を含む検体中に存在する標識物質の量、即ち角質層を透過した標識物質の標識量を測定することによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vivoで、皮膚の角質層の外側から内側へ(outside to inside)の皮膚バリア機能を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚バリア機能として、外部からの刺激の侵入防御機能、及び生体内の水分保持機能が挙げられる。皮膚の構造は、外側から内側へ、上皮組織の表皮、結合組織の真皮、脂肪組織である皮下組織といった三つの組織から構成される。さらに表皮は、最外層に位置する角質層の他、顆粒層、有棘層、基底層から構成される。皮膚バリア機能は、表皮の最外層に位置する数層から数十層に規則正しく重なる角質層により発揮される。例えば、角質層を粘着テープ等により繰り返しはがすと水分喪失量が増加し、痛み等の知覚が敏感になり接触性皮膚炎などの免疫反応を生じやすくなる。その他、アトピー性皮膚炎や敏感肌の要因の一つとして、皮膚のバリア機能の低下が考えられている。したがって、皮膚バリア機能の簡便かつ精密な評価方法はアトピー性皮膚炎等の治療薬等の医療分野において、又は敏感肌の化粧品等の有効性やスクリーニングにおいて有用である。
【0003】
皮膚バリア機能の評価方法としては、一般的には、経皮水分蒸散量(transepidermal water loss;TEWL)による評価が行われている。しかし、TEWLによる評価法は、生体内から生体外への水分の蒸散量を測定するものであり、皮膚バリア機能として生体が本来有する外側から内側への外来抗原の透過性を評価するものではない。そのため、TEWLによる評価法は、皮膚バリア機能を正当に評価しているとはいえない。その他、蛍光物質を皮膚に塗布し、皮膚に含まれる蛍光物質を蛍光ビデオマイクロスコープを用いた画像により観察し、皮膚バリア機能を非侵襲的に測定する方法が開示されている(特許文献1)。この方法は、皮膚の採取を行なうことなく、非侵襲的な測定方法により、皮膚バリア機能を測定するものである。開示された方法では、当該特許文献1の実施例によると、2回のテープストリッピングを行って最外層の角質を除去してはいるものの、実質的に皮膚の角質層の上から、蛍光ビデオマイクロスコープ等により測定している。そのため、バリア機能の本体である角質層に残っている蛍光物質も測定してしまうため、皮膚のバリア機能を正確に測定しているとはいえない。また蛍光ビデオマイクロスコープという汎用されていない高価な機器を用いることが必要であり、さらに、画像を解析しなければならないため手技的に煩雑である。
【0004】
皮膚疾患治療薬や化粧品等の開発において、候補物質を動物モデルで評価する際、角質層の皮膚バリア機能を正確に測定し、治療効果の判定に使用可能な精密な皮膚バリア機能の評価方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-120513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、皮膚の角質層の外側から内側への皮膚バリア機能を、簡便且つ正確に測定しうる測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、測定するモデル動物の皮膚表面に標識物質を含む溶媒を塗布し、一定時間経過後に当該標識物質を含む溶液を塗布した箇所の角質層を除去し、角質層が除去された表皮(顆粒層、有棘層、基底層からなる部分)を含む検体中に存在する標識物質の量、即ち角質層を透過した標識物質の標識量を測定することにより、皮膚バリア機能を測定可能なことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明は、以下よりなる。
1.標識物質を含む溶液を、皮膚疾患非ヒトモデル動物の皮膚に塗布し、一定時間経過後に前記標識物質を含む溶液を塗布した皮膚部分の角質層を除去し、次いで前記角質層が除去された表皮を含む検体を採取し、当該検体中に存在する標識物質量を測定する皮膚バリア機能の測定方法。
2.以下の工程を含む、前項1に記載の皮膚バリア機能の測定方法:
1)皮膚疾患非ヒトモデル動物の皮膚に、標識物質を含む溶液を塗布する工程;
2)一定時間後、当該非ヒトモデル動物の標識物質を含む溶液を塗布した皮膚部分の角質層を除去する工程;
3)角質層が除去された表皮を含む検体を採取する工程;
4)表皮を含む検体をホモジナイズする工程;及び
5)上記ホモジナイズした検体の上澄みを試料として標識物質量を測定する工程。
3.表皮を含む検体を採取した後、表皮部分と真皮部分を分離し、真皮部分が分離除去された表皮部分の検体をホモジナイズし、上記ホモジナイズした検体の上澄みを試料として標識物質量を測定する前項2に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
4.標識物質が、蛍光物質である前項1〜3のいずれか1に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
5.蛍光物質が、フルオレセイン誘導体である前項4に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
6.フルオレセイン誘導体が、フルオレセイン−4−イソチオシアネートである前項5に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
7.皮膚疾患非ヒトモデル動物が、Flaky tailマウスである、前項1〜6のいずれか1に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
8.標識物質を含む溶液が、アセトンとフタル酸エステルまたは高級不飽和脂肪酸との混合溶媒である、前項1〜7のいずれか1に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
9.所望の薬剤にて処理した皮膚疾患非ヒトモデル動物について、前項1〜8のいずれか1に記載の方法により皮膚バリア機能を測定することによる、薬剤の評価方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の皮膚バリア機能の測定方法によると、皮膚の角質層の外側から内側への皮膚バリア機能を、簡便且つ正確に測定しうる。本発明の方法によると、皮膚バリア機能が低下している場合に、実質的に角質層が除去された表皮(顆粒層、有棘層、基底層からなる部分)を含む検体中に多くの標識物質が確認され、角質層の外側から内側への皮膚バリア機能を測定できる。本測定方法を用いると、皮膚炎治療薬や化粧品等に用いる薬剤について、標識物質の量の違いを測定することで、アトピー性皮膚炎、魚鱗癬、接触性皮膚炎やその他の皮膚障害などに対する薬剤の効果を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】皮膚疾患モデル動物としてFlaky tail(ft/ft)マウスを、対照としてC57BL/6マウスを用い、角質層が除去された表皮(顆粒層、有棘層、基底層からなる部分)に含まれる蛍光物質量の測定結果を示す図である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、皮膚バリア機能の測定方法に関し、非ヒトモデル動物を用いて測定する方法に関する。即ち、標識物質を含む溶液を、皮膚疾患非ヒトモデル動物の皮膚に塗布し、角質層を透過した標識物質量を測定することによる皮膚バリア機能の測定方法に関する。ここで、角質層を透過した標識物質は、皮膚疾患非ヒトモデル動物の皮膚に塗布し、一定時間経過後に該非ヒトモデル動物の標識物質を含む溶液を塗布した皮膚部分の角質層を除去し、実質的に角質層が除去された皮膚検体、すなわち実質的に角質層が除去された表皮(顆粒層、有棘層、基底層からなる部分)を含む一定量の検体に含まれる標識物質をいう。
【0012】
本発明に用いられる非ヒトモデル動物の動物種としては、比較的取り扱いの容易な小動物、例えばマウス、ラット、ハムスター、家兎、イヌ、ブタなどを用いることができ、好適にはマウスを用いることができる。皮膚疾患非ヒトモデル動物としては、具体的には、特に皮膚バリア機能との相関が大きいアトピー性皮膚炎や魚鱗癬のモデルとしてのFlaky tail (ft/ft)マウス(Nature Genetics, Vol.41,No. 5, 512-513, 2009、J Invest Dermatol 2000;115:1072-1081)を好適に使用することができる。その他、NC/Ngaマウス(British Journal of Dermatology 2001;144:12-18)、DNFB(2,4-dinitrofluorobenzene)などの物質処理によるCHS(Contact hypersensitivity)マウス、ハプテン反復塗布による慢性皮膚炎マウス、OVA(卵白アルブミン)塗布によるアレルギー性皮膚炎マウスなどにも使用することができる。Flaky tail(ft/ft)マウスは異常なプロフィラグリンペプチドを発現し、ケラトヒアリンF顆粒を形成することができず、表皮の角質層でフィラグリンの発現が著しく低下しているマウスである。本発明の方法において、Flaky tail(ft/ft)マウスを特に好適に使用することができる。
【0013】
本発明で使用可能な標識物質としては、特に限定されないが角質層に浸透し易い低分子の合成化合物が好ましく、取り扱いの容易さより、特に好適には蛍光物質を使用することができる。このような蛍光物質として、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、ヒドラジド誘導体、シアニン(Cy)系色素等が挙げられる。フルオレセイン誘導体としては、例えばフルオレセイン-4-イソチオシアネート(Fluorescein-4-isothiocyanate:FITC)が挙げられ、ローダミン誘導体としては、例えばローダミン110 (Rhodamine 110)、テトラメチルローダミン (Tetramethyl Rhodamine)、Texas Red(R)(Invitrogen社)が挙げられ、ヒドラジド誘導体としては、例えばルシファーイエローCH(Lucifer yellow CH)(Invitrogen社)、シアニン(Cy)系色素としては、例えばCy5 インドジカルボシアニン(indodicarbocyanine)、Cy3 インドカルボシアニン (indocarbocyanine)が挙げられる。その他の蛍光物質として、例えば、Alexa Fluor(R) 488 (Molecular Probes社)、MegaStokes TM Dye (DIOMICS社)、Oyster TM (Denovo biolabels社)、DyLight TM (PIERCE社)、HiLyte TM Fluor(Anaspec社)が挙げられる。特に好ましくは、FITCを使用することができる。
また本発明においては、花粉やダニ抗原等のアレルゲンに対する皮膚バリア機能を検討するような、一般に皮膚バリアの破壊程度が大きい疾患の場合には、タンパク質等の高分子が結合した標識物質を用いることもできる。このような標識物質としては、例えばFITC-BSA、FITC-OVA、FITC-デキストラン、Texas Red(R)-BSAが挙げられる。
【0014】
上記の標識物質を溶解するための溶媒としては、アセトンとフタル酸エステルまたは高級不飽和脂肪酸の混合溶媒が挙げられる。フタル酸エステルとしては、フタル酸のジアルキルエステル、例えばフタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジ−n−ヘキシル、フタル酸−n−オクチルを使用することができ、好ましくは、フタル酸ジブチルを使用することができる。また、高級不飽和脂肪酸としては、炭素数16〜18の不飽和脂肪酸、例えば、パルミトイル酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸を使用することができ、好ましくは、オレイン酸を使用することができる。オレイン酸を70〜80%含むオリーブ油も好適に使用することができる。溶媒の組成のうち、アセトンが多すぎると溶媒が揮発し易く、蛍光物質の皮膚への浸透が不十分になる。通常、アセトン:フタル酸エステル若しくはオリーブ油=1:2〜10の割合で混合して使用することができ、好ましくは、1:3〜5(vol/vol)の割合で混合して使用することができる。これらの混合割合で調製した溶媒を用いて標識物質を含む溶液を調製すると、皮膚に当該溶液を一定時間止まらせておくことができるので好ましい。
【0015】
本発明で使用する標識物質を含む溶液について、標識物質の濃度は標識物質と溶媒との関係で適宜検定することができ、特に限定されないが、例えば0.1〜5%の濃度で使用することができ、好ましくは0.5〜1.5%の濃度で使用することができる。
【0016】
本発明の、皮膚バリア機能の測定方法は、以下の工程を含む方法による。
1)皮膚疾患非ヒトモデル動物の皮膚に、標識物質を含む溶液を塗布する工程;
2)一定時間後、当該非ヒトモデル動物の標識物質を含む溶液を塗布した皮膚部分の角質層を除去する工程;
3)角質層が除去された表皮を含む検体を採取する工程;
4)表皮を含む検体をホモジナイズする工程;及び
5)上記ホモジナイズした検体の上澄みを試料として標識物質量を測定する工程。
【0017】
皮膚疾患非ヒトモデル動物の皮膚に、標識物質を含む溶液を塗布する工程において、塗布する標識物質を含む溶液の量は、塗布する皮膚の面積により異なり、特に限定されないが、塗布面積1cmあたりに50〜100μl、好ましくは70〜100μlの量で塗布することができる。塗布する部位は、測定の目的により異なり、特に限定されないが、例えば背部、腹部、耳に塗布することができる。
【0018】
皮膚に塗布してから角質層を除去するまでの時間は、測定の目的により異なり、特に限定されないが、例えば、1時間〜2日間、好ましくは1時間〜5時間とすることができる。
【0019】
角質層の除去は、過剰の標識物質を除去する目的で行なわれる。角質層の除去方法としては特に限定されないが、物理的方法、例えば、テープストリッピング法により除去することができる。通常、十数回繰り返しテープストリッピングを行うことによって実質的に角質層を除去することができる。角質層を除去する部位は、実質的に標識物質を含む溶液を塗布した皮膚の部位から選択される部分であればよい。
【0020】
角質層を除去した後、表皮を含む一定量の検体を採取する。ここで、表皮を含む一定量の検体とは、実質的に角質層が除去されており、顆粒層、有棘層、基底層が含まれる検体をいう。検体を採取する部分は、実質的に角質層が除去されている部位より選択される部分であればよく、特に限定されない。採取される検体の大きさは、測定する目的に応じて決定され、特に限定されないが、例えば約0.5〜2cm×0.5〜2cm、好ましくは約1〜1.5cm×1〜1.5cm、より好ましくは1.2cm×1.2cmであり、厚さは約200〜300μmとすることができる。表皮を含む一定量の検体は、真皮も含んでいてもよい。特に顆粒層、有棘層、基底層からなる表皮部分に存在する標識物質量を測定する場合は、当該表皮部分と真皮部分を分離処理することができる。表皮部分と真皮部分の分離は、例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液(pH6.8〜8)中で50〜70℃で5〜20秒程度処理することにより、達成することができる。表皮部分と真皮部分への浸透度を特に区別して測定する必要がない場合は、この分離操作は省略することができる。
【0021】
上記検体は、例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液(pH6.8〜8)中でホモジナイズし、沈澱、又は遠心分離等の後、上澄みを試料とすることができる。当該試料中に含まれる標識物質、例えば標識物質が蛍光物質の場合には、蛍光量を測定することで、定量することができる。この場合に、標識物質の量が少ない方が、角質層による皮膚バリア機能が優れていると評価することができる。
【0022】
本発明の皮膚バリア機能の測定方法により、所望の薬剤について皮膚バリア機能に及ぼす効果を評価することができる。例えば、皮膚疾患非ヒトモデル動物について、所望の各種薬剤にて処理を施した後に、角質層を透過した標識物質の量を測定することにより、皮膚バリア機能を各々評価することができ、その結果を比較することで、薬剤の効果を評価することができる。ここで所望の薬剤とは、例えば皮膚炎治療薬や化粧品等に用いる薬剤が挙げられ、例えばアトピー性皮膚炎、魚鱗癬、接触性皮膚炎や、乾燥肌や湿疹等、その他の皮膚障害などに対する薬剤などが挙げられる。
【0023】
上記本発明の皮膚バリア機能測定法を使用して、(1)試験薬剤で処理する前の皮膚疾患非ヒトモデル動物の皮膚バリア機能を測定する工程、(2)試験薬剤で処理した後の当該皮膚疾患非ヒトモデル動物の皮膚バリア機能を測定する工程、(3)上記工程(1)及び工程(2)で測定した皮膚バリア機能を比較する工程、並びに(4)皮膚バリア機能の改善効果を示した薬剤を選択する工程を含む、皮膚炎治療薬、化粧品に用いる薬剤、及び/又は乾燥肌や湿疹等、その他の皮膚障害を改善する薬剤をスクリーニングする方法も本発明に含まれる。
【0024】
また、上記本発明の皮膚バリア機能測定法を使用して、(1)皮膚疾患非ヒトモデル動物を試験薬剤で処理する工程、(2)試験薬剤を処理した前記皮膚疾患非ヒトモデル動物及び当該試験薬剤未処理の対照皮膚疾患非ヒトモデル動物の皮膚バリア機能を測定する工程、(3)上記工程(2)で測定した試験薬剤で処理した前記モデル動物と未処理の前記モデル動物の皮膚バリア機能を比較する工程、並びに(4)皮膚バリア機能の改善効果を示した薬剤を選択する工程を含む、皮膚炎治療薬、化粧品に用いる薬剤、及び/又は乾燥肌や湿疹等、その他の皮膚障害を改善する薬剤をスクリーニングする方法も本発明に含まれる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の理解を深めるために、以下に実施例を示してより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではないことはいうまでもない。
【0026】
(実施例1)FITCによる皮膚バリア機能の測定
本実施例では、皮膚疾患モデル動物として、Flaky tail マウス(aa ma ft/ma ft/J、Jackson Laboratory)(n=5)を、対照としてC57BL/6マウス(日本エスエルシー株式会社)(n=5)を用いた。各々、8週齢のマウスを用いた。各マウスの背中部分の皮膚を薄く削り、標識物質として1%FITC(fluorescein isothiocyanate isomer I (Sigma製))を含むアセトン-フタル酸ジブチル(1:4)溶液を100μl塗布した。3時間後、FITCを含んでいる角質層を除くため、テープストリッピング(Scotch, St. Paul, MN)を9回行った。その後、1.2cm×1.2cmの皮膚検体を採取した。この皮膚検体は、実質的に角質層が除去されており、顆粒層、有棘層、基底層が含まれ、さらに真皮の部分も含まれる。採取した皮膚検体を60℃のPBSで10秒間処理し、表皮と真皮の分離を行なった。分離した表皮を500μlのPBSに浸してホモジナイズし、2200gで遠心処理を行ない、遠心上澄みを試料とした。蛍光プレートリーダー(Wallack(TM) 1420 (Perkin-Elmer製)を用いて試料中の蛍光量を測定し、蛍光強度から定量曲線によりFITCの濃度を決定した。
【0027】
上記の結果、対照から得た試料に比べてFlaky tail(ft/ft)マウスから得た試料には、多くのFITCが測定された(図1)。すなわち、Flaky tail(ft/ft)マウスの皮膚バリア機能が低下していることから、皮膚バリア機能が低下している場合に、試料中に多くの標識物質が含まれることが認められた。この結果より、実質的に角質層が除去された表皮部分(顆粒層、有棘層、基底層からなる部分)に含まれる標識物質を測定することで、角質層の外側から内側への皮膚バリア機能を測定できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上詳述したように、本発明の皮膚バリア機能の測定方法によると、皮膚バリア機能が低下している場合に、表皮部分(顆粒層、有棘層、基底層からなる部分)から得た試料中に多くの標識物質が認められ、角質層の外側から内側への皮膚バリア機能を測定することができる。本測定方法によると、皮膚炎治療薬や化粧品等に用いる薬剤について、角質層を透過した標識物質の量の違いを測定することで、アトピー性皮膚炎、魚鱗癬、接触性皮膚炎やその他の皮膚障害などに対する薬剤の効果を評価することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標識物質を含む溶液を、皮膚疾患非ヒトモデル動物の皮膚に塗布し、一定時間経過後に前記標識物質を含む溶液を塗布した皮膚部分の角質層を除去し、次いで前記角質層が除去された表皮を含む検体を採取し、当該検体中に存在する標識物質量を測定する皮膚バリア機能の測定方法。
【請求項2】
以下の工程を含む、請求項1に記載の皮膚バリア機能の測定方法:
1)皮膚疾患非ヒトモデル動物の皮膚に、標識物質を含む溶液を塗布する工程;
2)一定時間後、当該非ヒトモデル動物の標識物質を含む溶液を塗布した皮膚部分の角質層を除去する工程;
3)角質層が除去された表皮を含む検体を採取する工程;
4)表皮を含む検体をホモジナイズする工程;及び
5)上記ホモジナイズした検体の上澄みを試料として標識物質量を測定する工程。
【請求項3】
表皮を含む検体を採取した後、表皮部分と真皮部分を分離し、真皮部分が分離除去された表皮部分の検体をホモジナイズし、上記ホモジナイズした検体の上澄みを試料として標識物質量を測定する請求項2に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
【請求項4】
標識物質が、蛍光物質である請求項1〜3のいずれか1に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
【請求項5】
蛍光物質が、フルオレセイン誘導体である請求項4に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
【請求項6】
フルオレセイン誘導体が、フルオレセイン−4−イソチオシアネートである請求項5に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
【請求項7】
皮膚疾患非ヒトモデル動物が、Flaky tailマウスである、請求項1〜6のいずれか1に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
【請求項8】
標識物質を含む溶液が、アセトンとフタル酸エステルまたは高級不飽和脂肪酸との混合溶媒である、請求項1〜7のいずれか1に記載の皮膚バリア機能の測定方法。
【請求項9】
所望の薬剤にて処理した皮膚疾患非ヒトモデル動物について、請求項1〜8のいずれか1に記載の方法により皮膚バリア機能を測定することによる、薬剤の評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−47726(P2011−47726A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195002(P2009−195002)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】