説明

皮膚柔軟化粧料

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は皮膚のpHである弱酸性で角質層の保湿性、柔軟性に優れ、持続的かつ安全に皮膚を乾燥やざらつきから保護する皮膚柔軟化粧料に関する。
【0002】
【従来の技術】皮膚は低温条件、低湿条件等の気象条件の他、洗剤や溶剤の過度の使用等により乾燥したり、ざらついたりする。かかる皮膚の変化は、その最外層である角質層中のNMF(天然保湿因子;Natural Moisturizing Factor)とよばれる吸湿性の水溶性成分が失われ、角質層中の水分が減少し、角質層の柔軟性がなくなるために起こると考えられている。従って、従来の皮膚柔軟化粧料には、角質層に水分を多量に付与し、それを長時間維持する目的で種々の保湿剤が配合されてきた。
【0003】従来、皮膚柔軟化粧料に配合されている保湿剤としては、天然保湿成分中の一つである有機酸やアミノ酸が挙げられる。有機酸のうち、α−オキシ酸は優れた角質層柔軟化作用を有することから化粧料に配合することが提案されている(特公昭55−19291号公報)。しかし、α−オキシ酸は、正常な皮膚生理を阻害するような低いpH領域(pH2〜4)でしかその効果が発現しないなど欠点が多い。この欠点を補うため、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの強アルカリやトリエタノールアミンなどのアミン類を添加して中性pH領域にした化粧料もみられる。ところがこの強アルカリは、多量に配合すると安定性が悪化したり、皮膚のpH領域に適合させるのが困難であったりすることから得られる化粧料の品質が一定しないという欠点があった。一方、アミン類は、アレルギー反応を生起させることもあるため、安全性の面から好ましくない。かかる観点から、α−オキシ酸と塩基性アミノ酸との組み合せについても検討されている(特公平3−30566号公報)が、その皮膚柔軟化効果は充分満足できるものではなかった。
【0004】一方、アミノ酸系の保湿剤としては、ヨクイニン等の蛋白質の分解物(特公昭58−8007号公報)、各種ペプチド類(特公昭48−23944号公報、同62−99315号公報、特公平2−178207号公報)等が使用されている。しかし、これらアミノ酸系やペプチド類の皮膚柔軟化効果もまた充分満足できるものではなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明の目的は、正常な皮膚生理を損なうことなく、持続的かつ優れた角質層柔軟化効果を有する化粧料を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】かかる実情において、本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、塩基性アミノ酸、水酸基を有さないジカルボン酸及びリン酸塩を特定量配合することにより、正常な皮膚のpHである弱酸性で、従来の化粧料に比べ、角質層の保湿性、柔軟性に優れ、その作用が持続的でありかつ安全性の高い化粧料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】すなわち、本発明は、水酸基を有さないジカルボン酸又はその塩と塩基性アミノ酸又はその塩とを合計で0.01〜30重量%、及びリン酸又はその塩を0.1〜15重量%含有するpH4〜6の皮膚柔軟化粧料を提供するものである。
【0008】本発明に用いられる水酸基を有さないジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸等が挙げられる。これらのジカルボン酸の塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0009】また、塩基性アミノ酸としては、例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン、カナバニン等が挙げられる。これらの塩基性アミノ酸の塩としては、塩酸塩等の鉱酸塩が挙げられる。
【0010】これらの水酸基を有さないジカルボン酸又はその塩及び塩基性アミノ酸又はその塩はそれぞれ一種ずつ又は二種以上を組み合せて使用することができ、本発明化粧料中に合計で0.01〜30重量%(以下、単に%で示す)配合されるが、より好ましくは0.01〜20%配合される。この合計量が0.01%未満では皮膚柔軟化効果が充分でなく、30%を超えると系内での塩の析出がおこるため好ましくない。また、上記ジカルボン酸と塩基性アミノ酸との配合割合は、重量比で1:0.1〜0.1:1、特に1:0.3〜0.3:1が好ましい。
【0011】本発明に用いられるリン酸又はその塩としては、リン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合せて用いることができ、本発明化粧料中に0.01〜15%配合される。
【0012】本発明の皮膚柔軟化粧料は上記成分を配合し、そのpHを4〜6に調整することにより製造される。このpH範囲外では、皮膚の正常な生理機能を損なう可能性があり、好ましくない。
【0013】尚、本発明の化粧料には必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲において通常化粧品、医薬部外品、医薬品等に用いられる各種任意成分を配合することができる。かかる任意成分としては、例えば精製水、エタノール、油性成分、他の保湿剤、増粘剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤、キレート剤、紫外線吸収剤、粉体、色素、薬効成分、香料等が挙げられ、具体的には、油性成分としては流動パラフィン、ワセリン、パラフィンワックス、スクワラン、ミツロウ、カルナウバロウ、オリーブ油、ラノリン、高級アルコール、脂肪酸、高級アルコールと脂肪酸の合成エステル油、シリコーン油等が挙げられ、他の保湿剤としてはソルビトール、キシリトール、グリセリン、マルチトール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール等が挙げられ、増粘剤としてはカルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナン、ゼラチン等の水溶性高分子、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の電解質などが挙げられ、防腐剤としてはメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、安息香酸ナトリウム等が挙げられ、界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤が挙げられ、粉体としてはタルク、セリサイト、マイカ、カオリン、シリカ、ベントナイト、バーミキュライト、亜鉛華、雲母、雲母チタン、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、ベンガラ、酸化鉄、群青等が挙げられる。
【0014】本発明の皮膚柔軟化粧料の剤型は、特に制限されず、例えば化粧水、乳液、クリーム、パック剤、ファンデーション等の種々の可溶化系又は乳化系の剤型とすることができる。
【0015】
【発明の効果】本発明の皮膚柔軟化粧料は、持続的、かつ優れた角質層柔軟化効果を有し、正常な皮膚の生理機能を損なわず安全であるため、この使用により低温、低湿条件や洗浄剤、溶剤の過使用による皮膚の乾燥やざらつきを予防又は改善することができる。
【0016】
【実施例】次に実施例を挙げて、本発明を更に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0017】実施例1表1に示す組成の化粧水を調製し、角質層に対する柔軟化効果を検討した。
(1)化粧水の製造法アルギニンとカルボン酸類を水に溶かし、これにリン酸塩類を加え、更に水を加える。
(2)柔軟化効果の検討法30mm×5mmの角質層片を化粧水に3時間浸漬し、乾燥後一定湿度中に放置した後、動的粘弾性装置(レオロジ社製)を用い、tanδを測定する。柔軟化効果は、ブランクとして判定したアセトン:エーテル=1:1混合液で30分、水で30分処理した角質層のtanδ(A)に対する、試験化粧水処理角質層のtanδ(B)の比、tanδ rate(B/A)で表わした。
(3)結果得られた結果を表1に示す。表中、tanδ rateの値が大きい程角質層の柔軟性が高いことを示す。その結果、本発明の化粧水は、塩基性アミノ酸とオキシカルボン酸との組み合せや、塩基性アミノ酸とモノカルボン酸との組み合せよりも皮膚柔軟化効果が優れていることがわかる。
【0018】
【表1】


【0019】実施例2
【0020】
【表2】
実施例2 比較例3 1)塩酸リジン 0.40(%) − 2)ヒスチジン 0.40 − 3)アルギニン 0.40 − 4)コハク酸 0.68 − 5)リン酸二ナトリウム 0.86 0.86(%)
6)グリセリン 6.00 6.00 7)ジプロピレングリコール 3.00 3.00 8)ポリエチレングリコール(1500)3.00 3.00 9)ポリオキシエチレンイソセチル エーテル(20EO) 0.30 0.3010)エチルアルコール 10.00 10.0011)香料 微量 微量12)防腐剤 微量 微量13)精製水 バランス バランス
【0021】(製造方法)精製水に1)〜5)を加え、室温にて溶解する(水部)。10)に6)、7)加熱溶解した8)、9)、11)、12)を加え、室温にて溶解する(アルコール部)。水部にアルコール部を加え、柔軟化粧水を得る。上記の化粧水について、専門パネラーで官能試験を行った結果、実施例2の柔軟化粧水は、比較例3の化粧水に比較して、角層に対して優れた保湿効果、柔軟効果を示した。
【0022】実施例3
【0023】
【表3】
実施例3 比較例4 1)ワセリン 8.0(%) 8.0(%)
2)ラノリン 2.0 2.0 3)スクワレン 20.0 20.0 4)セタノール 5.0 5.0 5)モノステアリン酸グリセリン 2.0 2.0 6)ポリオキシエチレンモノラウリン酸 ソルビタン(20EO) 2.0 2.0 7)エチルパラベン 0.2 0.2 8)塩酸リジン 0.40 − 9)ヒスチジン 0.40 −10)アルギニン 0.40 −11)コハク酸 0.68 −12)リン酸二ナトリウム 0.86 −13)グリセリン 5.0 5.014)1,3−ブチレングリコール 5.0 5.015)香料 微量 微量16)精製水 バランス バランス
【0024】(製造方法)1)〜7)と15)を加熱溶解し、80℃に保つ(油相)。8)〜14)を精製水に溶解したものに、攪拌しながら油相を加える。ホモミキサー処理後、急冷してクリームを得た。上記のクリームについて、専門パネラーで官能試験を行った結果、実施例のクリームは、比較例4のクリームに比較して、角層に対して優れた保湿効果、柔軟効果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水酸基を有さないジカルボン酸又はその塩と塩基性アミノ酸又はその塩とを合計で0.01〜30重量%、及びリン酸又はその塩を0.1〜15重量%含有するpH4〜6の皮膚柔軟化粧料。

【特許番号】第2696458号
【登録日】平成9年(1997)9月19日
【発行日】平成10年(1998)1月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−174498
【出願日】平成4年(1992)7月1日
【公開番号】特開平6−16529
【公開日】平成6年(1994)1月25日
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【参考文献】
【文献】特開 昭56−125313(JP,A)
【文献】特開 昭52−102437(JP,A)