説明

皮革様シート及び皮革様シートの製造方法

【課題】優れた通気性を維持しながら、天然皮革のような表面のタック感を有する皮革様シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】極細繊維を含む不織布と、不織布の内部に含浸された高分子弾性体を含み、その表層に、ロジン系樹脂とカルナバワックスとを含む皮革様シート。好ましくは、ロジン系樹脂とカルナバワックスとが表層に偏在している。表層は、表面から50μmまでの厚み領域であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革様シート及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、天然皮革の表面に似たタック感を有し、通気性にも優れた皮革様シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然皮革の用途として、非接触物に対するグリップ性が要求される、各種グローブやボール等の表皮材としての用途が知られている。このような用途に用いられる天然皮革に似せた皮革様シートも提案されている。しかしながら、従来知られた皮革様シートの表面はタック感に乏しく、天然皮革に似た、非接触物に対する充分なグリップ性を有するような皮革様シートは得られていなかった。
【0003】
表面のグリップ性が向上された皮革様シートとしては、例えば、下記特許文献1は、表面に凹凸を有するシート状物の凸部頂上部に、液状ゴムやロジン樹脂のようなグリッピー向上剤を含む高分子弾性体からなる表皮層が形成された皮革様シートを開示する。特許文献1の皮革様シートにおいては、水分を適度に吸収させるために、凸部の側面に基体層に通じる貫通孔を形成させ、貫通孔を覆わないように表皮層を形成している。
【0004】
ところで、従来の一般的な皮革様シートとしては、例えば、高分子弾性体が含浸付与された極細繊維からなる不織布の表面に、いわゆる天然皮革の銀面層に似た、数100μmの厚みの銀面調の表皮層を形成したような皮革様シートが知られている。このような銀面調の表皮層は、例えば、高分子弾性体を含浸付与させた不織布の表面に、高分子弾性体を塗布及び湿式凝固させることにより皮膜を形成させたり、高分子弾性体を含浸付与させた不織布の表面に、離型紙上に予め形成された高分子弾性体フィルムを接着剤層を介して貼り合わせたりして形成されている(例えば、特許文献2〜5)。
【0005】
特許文献2〜5に開示されたような銀面調の表皮層を有する皮革様シートは、表面に皮膜状の表皮層が形成されるために、充分な通気性、吸水性、透湿性が得られないという欠点があった。これは表面に形成された皮膜状の表皮層が、高分子弾性体が含浸付与された極細繊維からなる不織布の表面を覆い、空隙を塞ぐためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−89863号
【特許文献2】特公昭63−5518号公報
【特許文献3】特許3043049号
【特許文献4】特許3187357号
【特許文献5】特開2000−102629号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたような、表面に、貫通孔を側面に有する凸部を形成し、貫通孔を塞がないようにその凸部の頂上部のみに液状ゴムやロジン樹脂のようなグリッピー向上剤を含む高分子弾性体からなる表皮層を選択的に形成することは、比較的困難であった。また、皮膜状の表皮層が形成されていない、高分子弾性体が含浸付与された不織布の表面に、特許文献1に記載されたようなグリッピー向上剤を含む高分子弾性体を形成するための塗液を塗布した場合、不織布の表面から空隙に塗液がしみ込んで内部に吸収されてしまい、充分な量のグリッピー向上剤を表面に残すことが困難であった。また、高分子弾性体が含浸付与された不織布の表面に硬度の低い銀面調の皮膜を形成することにより、タック感を高めることもできるが、この場合、皮革様シートの表面に銀面調の皮膜が形成されるために、通気性が低下するとともに、タック感の調整が難しく、べたつきが残りすぎて、表面に汚れがつきやすくなったりするという問題もあった。このように、従来の技術によれば、不織布の空隙を塞がないで、表面のタック感を適度に向上させることが困難であった。
【0008】
本発明は、充分な通気性と天然皮革のような表面のタック感とのバランスに優れた皮革様シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の皮革様シートは、極細繊維を含む不織布と、不織布の内部に含浸された高分子弾性体を含み、その表層に、ロジン系樹脂とカルナバワックスとを含む。表層がロジン系樹脂とカルナバワックスを含むことにより、優れた通気性を維持しながら、皮革様シートの表面に天然皮革のタック感に似たタック感を付与できる。
【0010】
また、上記皮革様シートは、表面に、直径10〜100μmの範囲の微細孔からなる多孔を有することが好ましい。表面に連続膜である表皮層が形成されておらず、不織布の空隙に由来する直径10〜100μmの範囲の微細孔が多数存在する場合には、優れた通気性を維持することができる。
【0011】
上記皮革様シートにおいては、表層に、ロジン系樹脂とカルナバワックスとが偏在している場合、具体的には、例えば、その表面から50μmまでの領域に、ロジン系樹脂とカルナバワックスとが偏在している場合には、タック感に特に優れる点から好ましい。
【0012】
また、ロジン系樹脂とカルナバワックスとは、互いに非相溶の分散状態で混在していることが好ましい。このような場合には、ロジン系樹脂とカルナバワックスとが連続膜を形成しにくくなるために、充分な通気性を維持することができる。
【0013】
また、カルナバワックス100質量部に対し、ロジン系樹脂を10〜100質量部含有する場合には、表面に特に充分なタック感を維持することができる。
【0014】
また、皮革様シートを厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層において不織布の極細繊維同士が熱融着されていたり、表面層及び基体層1に高分子弾性体が偏在していたりする場合には、表面に連続膜である表皮層を形成しなくとも、表面に高い硬度や磨耗特性等の機械的強度を付与することができる。
【0015】
また、表面に凹凸形状を付与するエンボス処理が施されており、凹凸形状を形成する凹部及び凸部の表面にロジン系樹脂とカルナバワックスとが存在する場合には、エンボス処理による表面の凸部が磨耗しても、凹部表面のタック感が保持されているために、磨耗によるタック感の経時的な低下が抑制される。
【0016】
また、本発明の皮革様シートの製造方法は、極細繊維を含む不織布と、不織布の内部に含浸された高分子弾性体と、を含む皮革様シート基材を準備する工程と、皮革様シート基材の表面にロジン系樹脂とカルナバワックスとを含む水性樹脂液を塗布した後、乾燥する工程と、を備える。このような製造方法によれば、表層にロジン系樹脂とカルナバワックスとを偏在させることができるために、充分な通気性を維持しながら、表面に天然皮革のタック感に似たタック感を有する皮革様シートが得られる。
【0017】
皮革様シートの製造方法においては、皮革様シート基材を厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層において不織布の極細繊維同士が熱融着されていることが好ましい。このような皮革様シート基材を用いることにより、得られる皮革様シートの表面に連続膜である表皮層を形成しなくとも、表面に高い硬度や磨耗特性等の機械的強度を付与することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、充分な通気性を維持しながら、表面に天然皮革のタック感に似たタック感を有する皮革様シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本実施形態の皮革様シート10を説明するための斜視断面模式図である。
【図2】図2は好ましい実施形態の皮革様シートを厚さ方向に5等分した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態の皮革様シートについて、図1に示した皮革様シート10の斜視断面模式図を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態の皮革様シート10は、極細繊維を含む不織布1と、不織布1の内部に含浸された高分子弾性体2とを含み、その表層Sに、ロジン系樹脂3とカルナバワックス4とが被着されている。また、Vは空隙または微多孔である。図1においては、ロジン系樹脂3とカルナバワックス4とが混在している。
【0021】
皮革様シート10は、極細繊維を含む不織布1と、不織布1の内部に含浸付与された高分子弾性体2とを含む。後述するように、極細繊維を含む不織布1は極細繊維発生型繊維からなる繊維絡合体を製造し、極細繊維発生型繊維を極補繊維化処理することにより得られる。また、不織布1の内部に含浸される高分子弾性体2は、極細繊維化処理の前に極細繊維発生型繊維を含む繊維絡合体に、または、極細繊維化処理の後に極細繊維を含む不織布1に含浸付与される。
【0022】
極細繊維の平均繊度は、0.001〜2デシテックス、さらには0.002〜0.2デシテックスであることが好ましい。極細繊維の平均繊度が低すぎる場合には、極細繊維発生型繊維の極細繊維化処理の際に、極細繊維同士が解けないで集束してしまい、その結果、得られる不織布の剛性が高くなって柔軟性が低下する傾向がある。また、平均繊度が高すぎる場合には、天然皮革のような表面の緻密感やボリューム感が得られにくくなる傾向がある。
【0023】
また、極細繊維は極細繊維発生型繊維に由来する繊維束を形成していることが好ましい。極細繊維束の平均繊度は、0.5〜10デシテックス、さらには0.7〜5デシテックスであることが好ましい。なお、繊維束中の極細繊維の本数は特に限定されないが、工業的な生産性の観点からは5〜1000本、さらには、10〜300本程度であることが好ましい。
【0024】
極細繊維を形成する樹脂は特に限定されないが、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびポリウレタン系樹脂、またはこれらの変性樹脂等が好ましく用いられる。これらの中では、表面物性、風合い、および極細繊維の融着性に優れる点から、変性ポリエステル系樹脂が、とくに、イソフタル酸変性ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0025】
不織布を形成する極細繊維は、メルトブロー法等によって得られた短繊維の繊維ウェブを絡合処理して得られた繊維絡合体に由来するものであっても、スパンボンド法等によって得られた長繊維の繊維ウェブを絡合処理して得られた繊維絡合体に由来するものであってもよいが、長繊維の繊維ウェブを絡合処理して得られた繊維絡合体に由来するものは、形態安定性が良好であり、繊維の素抜けも少ない点から特に好ましい。なお、長繊維とは、繊維長が通常10〜50mm程度であるような短繊維よりも長い繊維長を有する繊維であり、短繊維のように意図的に切断されていない繊維をいう。例えば、極細化する前の極細繊維発生型繊維の長繊維の繊維長は100mm以上が好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、物理的に切れない限り、数m、数百m、数kmの繊維長も含まれる。
【0026】
高分子弾性体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル系高分子弾性体、ポリウレタン弾性体、アクリロニトリル系高分子弾性体、オレフィン系高分子弾性体、ポリエステル弾性体、などが挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル系高分子弾性体、及び、ポリウレタン弾性体がとくに好ましい。
【0027】
不織布と高分子弾性体との質量比率(不織布/高分子弾性体)は、90/10〜55/45、さらには90/10〜60/40であることが好ましい。高分子弾性体の含有割合が高すぎる場合には通気性が低下する傾向があり、少なすぎる場合には形態安定性が低下する傾向がある。
【0028】
皮革様シートの表層には、ロジン系樹脂とカルナバワックスとが存在している。そして、ロジン系樹脂及びカルナバワックスは、皮革様シートの表面に連続膜を形成しているのではなく、表層に存在する高分子弾性体や不織布を形成する極細繊維の表面に、好ましくは、薄膜として被着されていることが好ましい。そして、ロジン系樹脂及びカルナバワックスは、例えば、カルナバワックスのマトリクスにロジン系樹脂が島状に点在して互いに非相溶の分散状態で存在していることが、より高い通気性を維持することができる点から好ましい。
【0029】
ロジン系樹脂及びカルナバワックスが偏在する表層Sの厚みは特に限定されないが、表面から30〜80μm、さらには、40〜60μm、とくには、表面から50μmまでの厚みであることが好ましい。また、表層Sの厚みは、皮革様シートの総厚みに対して表面から50%以下の厚み、さらには、30%以下の厚みであることが好ましい。
【0030】
なお、ロジン系樹脂とはマツ科の植物の樹液である松脂を蒸留して得られる、ロジン酸を主成分とするタック性を有する樹脂である。また、カルナバワックスは、ブラジルロウヤシの葉の表面を覆う蝋に由来する、大理石のような光沢を呈する非常に堅い、天然のワックスエステルを主成分とするワックスである。カルナバワックスの具体例としては天然ワックス、半合成ワックス、合成ワックスが挙げられるが、これらの中では天然ワックスが特に好ましい。なお、カルナバワックスに代えてポリウレタンやウレタンエマルジョンとロジン系樹脂を混合して表面に塗布した場合には、表面に連続膜である皮膜が形成され易くなって、風合いが硬くなるとともに、通気性が失われる。
【0031】
ロジン系樹脂とカルナバワックスとの配合割合としては、カルナバワックス100質量部に対し、ロジン系樹脂10〜300質量部、さらには20〜50質量部であることが、天然皮革に似た適度なタック感が得られる点から好ましい。ロジン系樹脂の割合が高すぎる場合には、表面が過度にべたついた感じになって、汚れがつきやすくなる傾向があり、少なすぎる場合には、タック感が不足する傾向がある。
【0032】
また、皮革様シート中の、ロジン系樹脂及びカルナバワックスの合計割合は特に限定されないが、ロジン系樹脂及びカルナバワックスを付与する前の皮革様シート 100質量部に対して、ロジン系樹脂及びカルナバワックスの合計量で2〜10質量部、さらには3〜6質量部であることが、タック感、柔らかな風合い及び高い通気性を兼ね備えることができる点から好ましい。
【0033】
また、皮革様シートの表面は、後述するように、極細繊維が熱融着する条件で加熱プレスされて、極細繊維またはその繊維束同士が熱融着されていることが好ましい。このように、極細繊維またはその繊維束同士が熱融着されていることにより、不織布の空隙を維持しながら、表面の硬度や耐摩耗性を高めることができる。さらに具体的には、図2に示すように、皮革様シートを厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層を形成する極細長繊維同士は少なくとも一部融着しているが、基体層2、基体層3および裏面層を形成する極細長繊維同士は融着していないことが好ましい。
【0034】
なお、加熱プレスされた皮革様シートの表面は平滑な表面であっても、シボ状の模様等の凹凸形状の表面を有するようにエンボス処理が施されていてもよい。この場合、凹凸形状を形成する凹部及び凸部の両方の表面にカルナバワックスとロジン系樹脂とが存在することが、エンボス処理による表面の凸部が磨耗しても、凹部表面のタック感が保持されているために、磨耗によるタック感の経時的な低下が抑制される点から好ましい。
【0035】
また、不織布に含浸された高分子弾性体は、皮革様シートを厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、表面層及び基体層1に高分子弾性体が偏在していることが好ましい。具体的には、表面層の含有割合は、基体層1、基体層2、基体層3それぞれの含有割合よりも大きい。例えば、表面層の含有割合は基体層1の含有割合の少なくとも1.2倍が好ましく、基体層2の含有割合の少なくとも1.5倍が好ましい。このように高分子弾性体を表層側に偏在させることにより、表面を覆うような連続膜の表皮層を形成しなくとも、表面の耐摩耗性や硬度を高く維持することができる。
【0036】
皮革様シートの厚みは特に限定されないが、具体的には、例えば、0.1〜6mm、さらには、0.3〜4mmであることが好ましい。また、皮革様シートの表面は、連続した皮膜で覆われておらず、直径10〜100μmの範囲、さらには、直径30〜50μmの範囲の微細孔Vからなる多孔が形成されていることがとくに優れた通気性を維持できる点から好ましい。なお、多孔の密度としては、10〜100個/μm2、さらには、40〜70個/μm2、程度であることが好ましい。
【0037】
このような皮革様シートが、通気性及びタック感に優れる理由を説明する。
図1に示すように、皮革様シート10は、極細繊維を含む不織布1の表層Sにロジン系樹脂とカルナバワックスとが被着されている。この場合において、ロジン系樹脂及びカルナバワックスを含む薄膜は非常に薄い(例えば、好ましくは5〜20μm程度、さらに好ましくは5〜10μm程度)ために、連続膜を形成しにくく、不織布1の空隙を塞がない。従って、従来の皮革様シートの表面に形成されていた連続膜の表皮層のように不織布の表面の空隙を塞がないために、通気性が維持されている。また、ロジン系樹脂とカルナバワックスとは表層Sに偏在しているために、表面に効果的にタック感を付与している。
【0038】
次に、本実施形態の皮革様シートの製造方法の一例について詳しく説明する。
本実施形態の皮革様シートの製造方法においては、はじめに極細繊維発生型繊維からなる繊維ウェブを製造する。なお、極細繊維発生型繊維としては、溶剤溶解性または分解性の異なる海成分と島成分の熱可塑性樹脂を用い、海成分を選択的に除去することにより島成分の樹脂からなる極細繊維とする海島型断面繊維や、複数種の熱可塑性樹脂を繊維断面放射状あるいは層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維や多層型複合繊維などを用いることができる。本実施形態においては、海島型断面繊維を用いた例を代表的に説明する。
【0039】
海島型断面繊維は少なくとも2種類の樹脂からなる多成分系複合繊維であり、海成分の樹脂からなるマトリクス中に島成分の樹脂が分散した断面を有する。海島型断面繊維は、海成分の樹脂を溶剤または分解剤により抽出除去または分解除去することにより、島成分の樹脂からなる極細繊維が複数本集まった繊維束に変換される。島成分の樹脂は海成分の樹脂とは非相溶であり、また、抽出除去性または分解除去性が異なる。
【0040】
島成分の樹脂の具体例としては、前述した極細繊維を形成する、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびポリウレタン系樹脂、またはこれらの変性樹脂等が好ましく用いられる。なお、これらの中では、表面物性、風合い、および融着性に優れる点から、変性ポリエステル系樹脂、とくに、イソフタル酸変性ポリエステル系樹脂が特に好ましく用いられる。
【0041】
島成分の樹脂は、160℃以上、さらには、180〜330℃の範囲に融点ピークを有する結晶性ポリマーであることが好ましい。なお、融点ピークは、示差走査熱量計(DSC)ではじめにポリマーを融解及び固化させた後、さらに定速で昇温させて融解させたときに測定される吸熱ピークのトップ温度である。
【0042】
島成分の樹脂は、DSCではじめに定速で昇温させて融解させたときに現れる、融点ピークよりも低い吸熱ピーク(以下、副吸熱ピークとも称する)を有することがさらに好ましい。副吸熱ピークを有する場合には、島成分の樹脂の融点ピーク温度よりも低い副吸熱ピーク温度以上に昇温することにより、極細繊維が軟化する。従って、後述する表層を加熱プレスする工程において、表面を構成する極細繊維またはその繊維束同士を部分的に熱融着させることにより、繊維銀面を容易に形成させることができる。このような島成分の樹脂から形成される極細繊維としては、変性ポリエステル系樹脂からなる部分配向糸(Partially oriented yarn, POY)であることが副吸熱ピークを維持し易い点からとくに好ましい。
【0043】
島成分の樹脂の副吸熱ピーク温度は、融点ピーク温度よりも30℃以上、さらには50℃以上低いことが、風合いを損なうことなく融着性に優れる点から好ましい。
【0044】
海成分の樹脂としては、溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分の樹脂よりも大きい樹脂が選ばれる。また、島成分の樹脂との親和性が小さく、かつ、溶融紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分の樹脂より小さい樹脂が海島型断面繊維の紡糸安定性に優れている点から好ましい。このような条件を満たす海成分の樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン系共重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−エチレン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。これらの中では、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂(水溶性PVA(変性PVA))が有機溶剤を用いることなく水系媒体により溶解除去が可能であるために環境負荷が低い点から好ましい。本実施形態においては、代表的に、水溶性PVAを用いた場合について詳しく説明する。
【0045】
海島型断面繊維は海成分の樹脂と島成分の樹脂とを複合紡糸用口金から溶融押出する溶融紡糸により製造することができる。複合紡糸用口金の口金温度は海島型断面繊維を構成する樹脂のそれぞれの融点よりも高い溶融紡糸可能な温度であれば特に限定されないが、通常、180〜350℃の範囲が選ばれる。
【0046】
口金から吐出された溶融状態の海島型断面繊維は、冷却装置により冷却され、さらに、エアジェットノズルなどの吸引装置により目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取速度に相当する速度の高速気流により牽引細化される。そして牽引細化された長繊維を移動式ネットなどの捕集面上に堆積させることにより実質的に無延伸の繊維ウェブが得られる。なお、必要に応じて、形態を安定化させるために繊維ウェブをさらにプレスすること等により部分的に圧着してもよい。このようにして得られる繊維ウェブの目付はとくに限定されないが、例えば、10〜1000g/m2の範囲であることが好ましい。
【0047】
次に、得られた繊維ウェブに絡合処理を施すことにより繊維絡合体を製造する。絡合処理の具体例としては、例えば、繊維ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。
【0048】
パンチング密度は、300〜5000パンチ/cm2、さらには500〜3500パンチ/cm2の範囲であることが好ましい。このようなパンチング密度の場合には、充分な絡合が得られ、また、ニードルによる海島型断面繊維の損傷を抑制することができる。
【0049】
また、繊維ウェブには海島型断面繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、油剤や帯電防止剤を付与してもよい。さらに、必要に応じて、繊維ウェブを70〜150℃程度の温水に浸漬する収縮処理を行うことにより、繊維ウェブの絡合状態を予め緻密にしておいてもよい。また、ニードルパンチの後、熱プレス処理することによりさらに繊維密度を緻密にして形態安定性を付与してもよい。ただし、後述するように、本実施形態においては、熱プレスすることにより繊維銀面を形成させることが好ましいために、副吸熱ピークが消失しないような低温で熱プレスすることが好ましい。
【0050】
このようにして、繊維ウェブを三次元的に絡合させることにより、繊維絡合体が形成される。繊維絡合体の目付としては、例えば、100〜2000g/m2程度の範囲であることが好ましい。
【0051】
繊維絡合体中の海島型断面繊維から海成分の樹脂を除去して極細繊維に変換することにより、極細繊維からなる不織布が得られる。繊維絡合体中の海成分の樹脂を除去する方法としては、海成分の樹脂のみを選択的に除去しうる溶剤または分解剤で繊維絡合体を処理するような従来から知られた極細繊維の形成方法が特に限定なく用いられる。具体的には、例えば、海成分の樹脂として水溶性PVAを用いる場合には溶剤として熱水が用いられ、海成分の樹脂として易アルカリ分解性の変性ポリエステルを用いる場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が用いられる。
【0052】
なお、繊維絡合体中の海島型断面繊維を極細繊維に変換する前または後、または極細繊維に変換する際には、繊維密度を高めるために湿熱収縮処理を行ってもよい。このような湿熱収縮処理により形態保持性が向上し、また、機械的特性も向上する。
【0053】
このような極細繊維からなる不織布の目付としては、140〜3000g/m2、さらには200〜2000g/m2であることが好ましい。また、不織布の湿潤時の剥離強力としては、4kg/25mm以上、さらには、4〜15kg/25mmであることが好ましい。剥離強力がこのような範囲である場合には耐摩耗性、形態保持性及び充実感に優れた皮革様シートが得られる。
【0054】
本実施形態の皮革様シートの製造方法においては、高分子弾性体を形成するための水分散体またはエマルジョン等の樹脂液を不織布に含浸させた後、不織布の表面から加熱することにより高分子弾性体が表層に偏在するように樹脂液を乾燥させることにより、不織布に高分子弾性体を含浸付与することが好ましい。このような方法によれば、高分子弾性体の樹脂液を不織布に含浸させた後、表面から加熱することにより高分子弾性体が表層にマイグレーション(移行)しながら凝固される。高分子弾性体を形成するための樹脂液を不織布に含浸させる方法は特に限定されず、例えば、不織布を樹脂液に浸漬して含浸させる方法や、不織布の表面から樹脂液を塗布する方法が挙げられる。
【0055】
不織布に含浸された樹脂液から高分子弾性体を凝固させる方法としては、高分子弾性体の樹脂液が含浸された不織布の表面から、例えば、好ましくは100〜150℃、さらに好ましくは110〜150℃で、0.5〜30分間加熱する方法が挙げられる。このような方法により樹脂液中の溶媒が不織布の表面から徐々に蒸発するのに伴い、含浸された樹脂液が表層に徐々に移行して表層で凝固する。このような加熱は、表面に熱風を吹き付ける等の方法により行うことができる。このようにして含浸された高分子弾性体の樹脂液を表層に移行させながら凝固させることにより、表層に高分子弾性体を偏在させることができる。
【0056】
高分子弾性体が付与された不織布は、表層の極細繊維が熱融着する条件で加熱プレスされることが好ましい。このように表層の極細繊維が熱融着する条件で加熱プレスすることにより、表層の極細繊維またはその繊維束同士が熱融着するとともに、極細繊維と高分子弾性体とが密着した、所謂、繊維銀面が形成される。なお、熱融着は、極細繊維またはその繊維束の表面同士が融着するだけであるために、繊維間の空隙は、塞がれずに維持される。加熱プレス条件は、例えば、極細繊維が副吸熱ピークを有するポリエステル系繊維である場合には、副吸熱ピーク温度以上の温度で、融点未満の温度で熱プレスを行うことが好ましい。なお、表層以外の部分の極細繊維またはその繊維束は、風合いを維持するために、熱融着されていないことが好ましい。なお、加熱プレスに用いられる金型の表面は平滑な表面であっても、シボ状の模様等の凹凸の表面を有するようなエンボス型であってもよい。エンボス型で加熱プレスした場合には、表面に凹凸形状が付与される。
【0057】
そして、高分子弾性体を含浸付与させた不織布の表面に、ロジン系樹脂とカルナバワックスとを付与することにより、タック性を有する皮革様シートが得られる。
【0058】
ロジン系樹脂とカルナバワックスとを付与する方法は、特に限定されないが、ロジン系樹脂のエマルジョンとカルナバワックスのエマルジョンとを混合して混合液を調製し、混合液を、高分子弾性体を含浸付与させた不織布の表面に塗布した後、乾燥する方法が挙げられる。また、混合液には、必要に応じて、増粘剤や、その他の樹脂成分等を、本発明を損なわない範囲で配合してもよい。
【0059】
調製された混合液を塗布する方法は、グラビアロール等のロールコーター、ナイフコーター、スプレー、刷毛を用いた塗工など特に限定されないが、膜厚を調整することが容易な点からグラビアロール等のロールコーターを用いた塗工が特に好ましい。乾燥方法も、通常の、熱風乾燥機を用いた方法等、特に限定されない。
【0060】
以上のようにして、本実施形態の皮革様シートが得られる。なお、本実施形態の皮革様シートには、さらに必要に応じて、各種後加工を施してもよい。
【0061】
本実施形態の皮革様シートは、表面のタック性が適度であるために、非接触物に対して優れたグリップ性を有し、また、通気性及び透湿性にも優れる。従って、グリップ性と通気性が求められる各種用途、具体的には、野球グローブ、ゴルフグローブ、ドライバーグローブ等の各種グローブや、ラグビーボール、バレーボール等の皮革ボールの表皮材として好ましく用いられる。
【実施例】
【0062】
次に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例の内容により、何ら限定されるものではない。
[実施例1]
海成分である水溶性PVAと、島成分である、フタル酸成分の6モル%がイソフタル酸で変性されたPETとを、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃の溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)から吐出した。そして、紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力(引き取り風圧)を調整し、平均繊度2.1デシテックスの海島型断面繊維をネット上に堆積したスパンボンドシートを得た。
次に、表面温度42℃の金属ロールでネット上のスパンボンドシートを軽く押さえることにより表面の毛羽立ちを抑えた。そしてスパンボンドシートをネットから剥離した。次に、表面温度55℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間で200N/mmの線圧でスパンボンドシートを熱プレスすることにより、表層の海島型断面繊維が格子状に仮融着された目付31g/m2の長繊維からなる繊維ウェブを得た。そして、得られた繊維ウェブに油剤および帯電防止剤を付与した。
【0063】
次に、得られた繊維ウェブをクロスラッピングにより12枚重ねて総目付が372g/m2の重ね合わせウェブを作製し、さらに針折れ防止油剤をスプレーした。そして、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、重ね合わせウェブを針深度8.3mmで両面から交互に3300パンチ/cm2でニードルパンチすることにより繊維絡合体を得た。なお、ニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であった。また、得られた繊維絡合体の目付は530g/m2であった。
【0064】
次に、繊維絡合体を70℃の熱水中に28秒間浸漬することによる収縮処理を行った。そして、95℃の熱水中でディップニップ処理を繰り返すことにより海成分ポリマーである変性PVAを溶解除去した。変性PVAを溶解除去することにより、平均繊度0.2デシテックスの25本の極細繊維からなる繊維束が3次元的に交絡した不織布を得た。
なお、収縮処理による面積収縮率は52%であった。また、不織布の目付は760g/m2、見掛け密度は0.602g/cm3、剥離強力は13.3kg/25mmであった。
【0065】
次に、バフィングにより不織布の厚みを1.30mmに調整した。そして、得られた不織布に対して、固形分濃度60質量%の水系アクリルエマルジョン300質量部、及び顔料(御国色素製のSAホワイトA1131C及びSAブルーA1137)90質量部を含む分散液を、パッターを用いて、ライン速度 6m/分で2回のディップニップにより含浸させた。なお、分散液中の、アクリル樹脂弾性体の固形分濃度は180g/Lであり、顔料の固形分濃度は90g/Lであった。そして、表面側から120℃の熱風を吹き付けて乾燥させることによりアイスグレー色を表層にマイグレーションさせて凝固させた。不織布とアクリル樹脂弾性体との比率は87/13(固形分)であった。
【0066】
そして、乾燥された、アクリル樹脂弾性体を含浸させた不織布の表面をライン速度 2m/分、172℃、9Kg/cm2の条件で表面に凹凸を有するエンボスロールを用いて熱プレス処理した。
【0067】
そして、熱プレス処理された、アクリル樹脂弾性体を含浸させた不織布の表面に、ロジン樹脂エマルジョンとカルナバワックスエマルジョンとの混合液を2段のグラビアロール(110メッシュ)でライン速度 5m/分の条件で塗布し、表面側から120℃の熱風を吹き付けて乾燥させた。なお、ロジン樹脂エマルジョンとカルナバワックスエマルジョンとの混合液としては、ロジン系樹脂エマルジョン(豊島化学製)とカルナバワックスエマルジョン(豊島化学製)とを、ロジン系樹脂/カルナバワックス=10/30(固形分、質量比)になるように混合して調製した。このようにして、厚み1.25mmの皮革様シートAが得られた。なお、ロジン樹脂及びカルナバワックスは、ロジン樹脂及びカルナバワックスを付与する前の皮革様シート 100質量部に対して、4質量部付与された。
【0068】
皮革様シートAの縦断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、表面から厚み約60μmまでの領域、特に、約50μmまでの領域にアクリル樹脂弾性体の約80%が偏在していた。そして、カルナバワックスのマトリクスにロジン樹脂のドメインが点在した状態の不連続な薄膜が、表面から厚み約50μmまでの領域、特に約40μmまでの領域に偏在していた。また、ロジン樹脂とカルナバワックスは表面にも露出していた。また、エンボス型で転写された凹凸形状の凹部表面にもロジン樹脂とカルナバワックスが被着されていた。また、熱プレスにより、表面から70μmの厚み領域の極細繊維束同士が熱融着されていた。そして、皮革様シートAの表面をSEMで観察したところ、直径10〜100μmの範囲の微細孔からなる約50個/μm2の密度の多孔が観察された。
【0069】
そして、得られた皮革様シートAについて、通気度、表面タック性を次のようにして評価した。
[摩擦係数(表面タック性)]
得られた皮革様シートの表面のタック感をJIS−P−8147に準拠して、標準条件下(20℃、60%RH)で24時間以上放置した測定片上に、十分に乾燥させたポリエチレンスポンジ(L−2500)を摩擦子として置き、該ポリエチレンスポンジの上部に1320gの荷重を掛けた。このポリエチレンスポンジ(プラス荷重)を滑車を介してオートグラフ(島津製作所)で水平方向に引っ張り(速度200mm/分)、応力−移動距離曲線を作成し、平均応力と荷重より動摩擦係数を求めた。
[通気度]
JIS L1096Bに準拠して、ガーレ式デンソメーター(空気通過面積=6.42cm2)を用いて通気度を測定した。なお、アクリル樹脂弾性体を含浸させた不織布の熱プレス処理前の通気度は3.0cc/cm2/sec以上であった。
[風合い]
1:一般的な天然皮革よりも硬い風合いを有する
2:一般的な天然皮革と同等の柔らかさの風合いを有する
結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
[実施例2]
ロジン樹脂エマルジョンとカルナバワックスエマルジョンとの混合液を2段のグラビアロール(110メッシュ)でライン速度 5m/分の条件で塗布する代わりに、1段のグラビアロール(110メッシュ)で塗布した以外は実施例1と同様にして厚み1.25mmの皮革様シートBを得た。なお、ロジン樹脂及びカルナバワックスは、ロジン樹脂及びカルナバワックスを付与する前の皮革様シート 100質量部に対して、2質量部付与された。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
なお、皮革様シートBの縦断面をSEMで観察したところ、カルナバワックスのマトリクスにロジン樹脂のドメインが点在した不連続な薄膜が、表面から厚み約40μmまでの領域、特に約30μmまでの領域に偏在していた。また、ロジン樹脂とカルナバワックスは表面にも露出していた。また、エンボス型で転写された凹凸形状の凹部表面にもロジン樹脂とカルナバワックスが被着されていた。また、皮革様シートBの表面をSEMで観察したところ、直径10〜100μmの範囲の微細孔からなる約60個/μm2の密度の多孔が観察された。
【0072】
[実施例3]
ロジン樹脂エマルジョンとカルナバワックスエマルジョンとの混合液を2段のグラビアロール(110メッシュ)でライン速度 5m/分の条件で塗布する代わりに、3段のグラビアロール(110メッシュ)で塗布した以外は実施例1と同様にして厚み1.25mmの皮革様シートCを得た。なお、ロジン樹脂及びカルナバワックスは、ロジン系樹脂及びカルナバワックスを付与する前の皮革様シート 100質量部に対して、6質量部付与された。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
なお、皮革様シートCの縦断面をSEMで観察したところ、カルナバワックスのマトリクスにロジン樹脂のドメインが点在した状態の不連続な薄膜が、表面から厚み約70μmまでの領域、特に約60μmまでの領域に偏在していた。また、ロジン樹脂とカルナバワックスは表面にも露出していた。また、エンボス型で転写された凹凸形状の凹部表面にもロジン樹脂とカルナバワックスが被着されていた。また、皮革様シートCの表面をSEMで観察したところ、表面の微細孔がやや塞がって、直径10〜70μmの範囲の微細孔からなる約40個/μm2の密度の多孔が観察された。
【0073】
[実施例4]
ロジン樹脂エマルジョンとカルナバワックスエマルジョンとの混合液を2段のグラビアロール(110メッシュ)でライン速度 5m/分の条件で塗布して乾燥する代わりに、熱プレス処理された、アクリル樹脂弾性体を含浸させた不織布を混合液の浸漬浴中に浸漬してdip-nip処理して乾燥することにより、アクリル樹脂弾性体を含浸付与した以外は実施例1と同様にして厚み1.25mmの皮革様シートDを得た。なお、ロジン樹脂及びカルナバワックスは、ロジン系樹脂及びカルナバワックスを付与する前の皮革様シート 100質量部に対して、15質量部付与された。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
なお、皮革様シートDの縦断面をSEMで観察したところ、カルナバワックスのマトリクスにロジン樹脂のドメインが点在した状態の不連続な薄膜が、観察された断面に満遍なく点在していた。そのため通気性がやや低く、また、少し硬い風合いであった。
【0074】
[比較例1]
ロジン樹脂エマルジョンとカルナバワックスエマルジョンとの混合液を2段のグラビアロール(110メッシュ)でライン速度 5m/分の条件で塗布する代わりに、カルナバワックスエマルジョンのみを2段のグラビアロール(110メッシュ)でライン速度 5m/分の条件で塗布した以外は実施例1と同様にして厚み1.25mmの皮革様シートEを得た。なお、カルナバワックスは、カルナバワックスを付与する前の皮革様シート 100質量部に対して、4質量部付与された。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
なお、皮革様シートEの縦断面をSEMで観察したところ、カルナバワックスの不連続な薄膜が、表面から厚み約40μmまでの領域、特に約30μmまでの領域に偏在していた。また、カルナバワックスは表面にも露出していた。また、エンボス型で転写された凹凸形状の凹部表面にもカルナバワックスが被着されていた。しかし、表面のタック性は乏しかった。
【0075】
[比較例2]
ロジン樹脂エマルジョンとカルナバワックスエマルジョンとの混合液を2段のグラビアロール(110メッシュ)でライン速度 5m/分の条件で塗布する代わりに、ロジン樹脂エマルジョンのみを2段のグラビアロール(110メッシュ)でライン速度 5m/分の条件で塗布した以外は実施例1と同様にして厚み1.25mmの皮革様シートFを得た。そして、実施例1と同様にして評価した。なお、ロジン樹脂は、ロジン樹脂を付与する前の皮革様シート 100質量部に対して、4質量部付与された。
なお、ロジン樹脂エマルジョンのみを塗布した場合、エマルジョンの殆どが、表層に留まらず内層側に吸収され、不織布の空隙を塞いだ。皮革様シートFの縦断面をSEMで観察したところ、ロジン樹脂の不連続な薄膜が、表面から厚み約30μmまでの領域、特に約20μmまでの領域にまで存在していた。結果を表1に示す。
【0076】
[比較例3]
熱プレス前の、乾燥されたアクリル樹脂弾性体を含浸させた不織布の表面にリバースコートにより、低分子量合成ゴム溶液(固形分濃度10重量%)を塗布し、乾燥することにより、表面にタック性に優れた銀面調の皮膜を形成した。このようにして、厚み1.25mmの皮革様シートGを得た。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
なお、皮革様シートGの縦断面をSEMで観察したところ、表面に厚み約20μmの皮膜が形成されていた。また、皮革様シートGの表面をSEMで観察したところ、表面には、空隙が観察されなかった。
【0077】
表1の結果から、次のことがわかる。
実施例1〜4の皮革様シートは、何れも表面摩擦係数が0.35以上であり、また、通気度が2.5以上であり、高い表面タック性及び通気度を兼ね備えていた。また、特に、ロジン樹脂とカルナバワックスとを表層部のみに偏在させた実施例1〜3の皮革様シートは、さらに、柔らかな天然皮革に似た風合いであった。さらに、実施例1及び2の皮革様シートは、ロジン樹脂とカルナバワックスとが存在する領域の厚みが適度であるために、不織布に由来する空隙が塞がれすぎていないために、表面摩擦係数が0.35以上であり、また、通気度が3以上であり、また、風合いも優れ、より天然皮革に似たバランスのよい特性が得られた。
また、カルナバワックスのみを付与した比較例1の場合、タック性が低かった。また、タック性に優れたロジン樹脂のみを付与した比較例2の場合、ロジン樹脂が表層に留まらず、内層に吸収されてしまうことにより、表面にロジン樹脂が余り残らなかった。そのために表面タック性が低かった。さらに、比較例3の皮革様シートGは、表面タック性には優れるが表皮層の厚みが厚すぎるために通気度が極めて低かった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、表面のタック性及び通気性に優れた皮革様シートが提供される。本発明の皮革様シートは、グリップ性と通気性が求められる各種用途、具体的には、野球グローブ、ゴルフグローブ、ドライバーグローブ等の各種グローブや、ラグビーボール、バレーボール等の皮革ボールの表皮材として好ましく用いられる。
【符号の説明】
【0079】
1 不織布
2 高分子弾性体
3 ロジン系樹脂
4 カルナバワックス
10 皮革様シート
S 表層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維を含む不織布と、前記不織布の内部に含浸された高分子弾性体とを含む皮革様シートであって、
その表層に、ロジン系樹脂とカルナバワックスとを含むことを特徴とする皮革様シート。
【請求項2】
表面に、直径10〜100μmの範囲の微細孔からなる多孔が形成されている請求項1に記載の皮革様シート。
【請求項3】
前記ロジン系樹脂と前記カルナバワックスとが前記表層に偏在している請求項1または2に記載の皮革様シート。
【請求項4】
前記表層が、表面から50μmまでの領域である請求項1〜3の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項5】
前記ロジン系樹脂と前記カルナバワックスとが、互いに非相溶の分散状態で混在している請求項1〜4の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項6】
前記カルナバワックス100質量部に対し、前記ロジン系樹脂を10〜100質量部含有する請求項1〜5の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項7】
厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、前記表面層において前記不織布の前記極細繊維同士が熱融着されている請求項1〜6の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項8】
厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、前記表面層及び基体層1に前記高分子弾性体が偏在している請求項1〜7の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項9】
表面に凹凸形状を付与するエンボス処理が施されており、前記凹凸形状を形成する凹部及び凸部の両方の表面に前記ロジン系樹脂と前記カルナバワックスとが存在している請求項1〜8の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項10】
極細繊維を含む不織布と、前記不織布の内部に含浸された高分子弾性体と、を含む皮革様シート基材を準備する工程と、
前記皮革様シート基材の表面にロジン系樹脂とカルナバワックスとを含む水性樹脂液を塗布した後、乾燥する工程と、を備えることを特徴とする皮革様シートの製造方法。
【請求項11】
皮革様シート基材を厚さ方向に、表面層、基体層1、基体層2、基体層3および裏面層の5層にこの順に等分割したときに、前記表面層において前記不織布の前記極細繊維同士が熱融着されている請求項10に記載の皮革様シートの製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−11038(P2013−11038A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145323(P2011−145323)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】