説明

皿ばねおよびその製造方法

【課題】内径部の高精度化を図ることができるのはもちろんのこと、引張り面の内径部側端部に残留応力を付与することができる皿ばねおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】ブランク100Aにおける引張り面114Aの内径部112A側端部に面取り部121Aを形成した後、少なくとも引張り面114Aにショットピーニングを行う。引張り面114Aの内径部112A側端部の面取り部121Aに残留応力を付与することができる。ショットピーニング後に機械加工を内径部112Aに行う。この場合、少なくとも面取り部121Aの外径部側を残すことができるから、残りの面取り部121Aは、機械加工後の引張り面114Aの内径部112A側端部を構成することができる。したがって、皿ばねにおいて最大応力が発生し得る引張り面の内径部側端部は、残留応力を有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットピーニングにより残留応力が付与された皿ばねおよびその製造方法に係り、特に、皿ばねの高精度化技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
皿ばねは、産業用機械や車両等の分野において付勢手段や衝撃緩衝手段等の各種用途に使用されている。図3は、皿ばねの構成を表す軸線方向断面図である。皿ばね1は、皿形状をなす本体10を備え、本体10の中央部に孔部11が形成されている。孔部11の内周面部である内径部12は、軸線方向断面が湾曲状をなす湾曲面である。外径部13は、軸線方向に平行な面である。皿ばね1は、軸線方向高さが低くなるようにして弾性変形することができる。皿ばね1の凹面側(図の下面側)は、弾性変形時、引張り応力が発生する引張り面14であり、皿ばね1の凸面側(図の上面側)は、弾性変形時、圧縮応力が発生する圧縮面15である。
【0003】
たとえば皿ばねをマシニングセンタに適用する場合、工具ホルダに対する把持動作を行うための付勢手段として皿ばねを利用している(たとえば特許文献1)。具体的には、マシニングセンタの主軸装置は、軸線方向に延在するドローバを備え、ドローバの前端には工具ホルダを把持するコレットが設けられ、ドローバの後端にはドローバを軸線方向に沿って移動させる油圧シリンダが設けられている。
【0004】
ドローバ両端部側のストッパ同士の間には複数の皿ばねが配置され、皿ばねの孔部がドローバにより貫通されている。この場合、ドローバが皿ばねのガイド軸としての機能を有する。たとえば主軸装置では、皿ばねによってドローバが後方に付勢されて後退することにより、コレットは工具ホルダの後端のプルスタッドを把持する。他方、油圧シリンダによってドローバが皿ばねの付勢力に抗して前進することにより、コレットは工具ホルダのプルスタッドの把持を解除する。特許文献1の皿ばねでは、皿ばねとドローバとの摺動時に発生する摩耗粉等による動作不良を抑制するために、皿ばねの内径部の端部に凹部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4250645号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、皿ばねの製造では、皿形状のブランクの内径部および外径部に機械加工を行い、次いで、ブランクにショットピーニングを行う。皿ばねをマシニングセンタに適用する場合、皿ばねには高精度が要求されていることから、たとえばガイド軸との摺動に伴う皿ばねの内径の変化を防止するために、ブランクの内径部への上記機械加工では、内径部を湾曲面(R面)にしている。また、皿ばねの弾性変形時に引張り応力が発生する引張り面の内径部側端部は、最大応力が発生し得る部位であるから、上記ショットピーニングでは、特に最大応力が発生し得る引張り面の内径部側端部に残留応力を付与することが重要である。
【0007】
しかしながら、皿ばねの製造では、上記のように内径部への機械加工後にショットピーニングを行っているため、内径部にはショットによる凹凸が形成されたり、内径部が全体的に変形する虞がある。そのため、最大レンジ10μm程度の内径公差の管理が困難となり、高精度化を図ることができない。そこで、内径部への機械加工とショットピーニングの工程順を入れ替えて、ショットピーニング後に内径部への機械加工を行うことが考えられる。ところが、この場合、内径部を湾曲面にするために機械加工を行うと、ショットピーニングにより残留応力が付与された引張り面の内径部側端部は除去されやすく、機械加工後の引張り面の内径部側端部には残留応力が残らない虞がある。
【0008】
したがって、本発明は、内径部の高精度化を図ることができるのはもちろんのこと、引張り面の内径部側端部に残留応力を付与することができる皿ばねおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の皿ばねは、皿形状をなすとともに孔部を有する本体を備え、本体の引張り面における内径部側端部には面取り部が形成され、少なくとも引張り面には、ショットピーニングによる残留応力が付与され、内径部は、機械加工面であることを特徴とする。
【0010】
本発明の皿ばねでは、少なくとも引張り面には、ショットピーニングによる残留応力が付与されているから、本体の引張り面における内径部側端部に形成された面取り部は、残留応力を有することができる。このように最大応力が発生し得る引張り面の内径部側端部は残留応力を有することができるから、高耐久化を図ることができる。また、内径部は機械加工面であるから、ショットピーニングによる凹凸等の形状の影響がなく、面粗さを低く設定することができる。このように内径部の高精度化を図ることができるから、ガイド軸を有する装置に皿ばねを適用し、皿ばねの孔部にガイド軸を設ける場合、内径部とガイド軸との間のクリアランスを高精度に設定することができるとともに、ガイド軸との摺動性の向上を図ることができる。
【0011】
本発明の皿ばねは、種々の構成を用いることができる。たとえば内径部は、軸線方向断面が円弧状をなす湾曲面である態様を用いることができる。この態様では、湾曲面が所定の曲率半径を有することができるから、孔部にガイド軸を設けた場合、本体が弾性変形してガイド軸と摺動したときの皿ばねの内径の変化を抑制することができる。また、たとえば面取り部の圧縮面側端部は、湾曲面の頂点よりも引張り面側に位置するように形成されている態様を用いることができる。湾曲面の頂点は、皿ばねの内径値を示す点であって、この場合、本体が弾性変形してガイド軸と摺動したときに、その内径値の変化を効果的に抑制することができる。また、たとえば面取り部は、軸線方向断面が円弧状をなす湾曲面、あるいは、引張り面の平面部に対して所定角度をなす斜面である態様を用いることができる。特に面取り部を引張り面の平面部に対して所定角度をなす斜面とすることで加工端部が分かりやすく、加工管理が容易になる。
【0012】
本発明の皿ばねの製造方法は、皿形状をなすとともに孔部を有するブランクを準備し、ブランクにおける引張り面の内径部側端部に、面取りを行うことにより面取り部を形成し、面取り後、ブランクにおける少なくとも引張り面に、ショットピーニングを行い、ショットピーニング後、内径部に機械加工を行うことを特徴とする。
【0013】
本発明の皿ばねの製造方法では、ブランクにおける引張り面の内径部側端部に面取り部を形成した後、少なくとも引張り面にショットピーニングを行うから、引張り面の内径部側端部の面取り部に残留応力を付与することができる。ショットピーニング後に機械加工を内径部に行うとき、少なくとも面取り部の外径部側を残すことができるから、残りの面取り部は、機械加工後の引張り面の内径部側端部を構成することができる。したがって、最大応力が発生し得る引張り面の内径部側端部は残留応力を有することができるから、高耐久化を図ることができる。また、ショットピーニング後に機械加工を内径部に行うから、内径の管理が容易となる。この場合、ショットピーニングによる凹凸等の形状の影響を除去することができるから、内径部の高精度化を図ることができる。これにより、内径部とガイド軸との間のクリアランスを高精度に設定することができる。また、機械加工後に、内径を変化させる工程を行う必要がないから、内径部の高精度化をさらに図ることができ、たとえば最大レンジ5μm程度の内径公差の管理を行うことができる。これにより、上記クリアランスをさらに高精度に設定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の皿ばねあるいはその製造方法によれば、内径部の高精度化を図ることができるのはもちろんのこと、引張り面の内径部側端部に残留応力を付与することができる等の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る皿ばねの構成を表す軸線方向断面図である。
【図2】(A)〜(D)は、本発明の一実施形態に係る皿ばねの製造方法の各工程を説明するための図であって、ブランクの右側部分の構成を表す軸線方向断面図である。
【図3】従来の皿ばねの構成を表す軸線方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)実施形態の構成
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る皿ばねの構成を表す軸線方向断面図である。皿ばね100は、皿形状(略円錐形状)をなすとともに孔部111を有する本体110を備えている。軸線方向は、図の垂直方向である。
【0017】
内径部112は、孔部111の内周面部であり、ショットピーニングによる凹凸等の形状の影響が除去された仕上げ加工面(機械加工面)である。内径部112は、軸線方向断面が円弧状をなす湾曲面であることが好適である。内径部112は、軸線方向断面が直線状をなす円筒面であってもよい。引張り面114の外径部113側の端部および圧縮面115の内径部112側の端部には、水平方向に平行な平坦面が形成されていてもよい。外径部113は、たとえば軸線方向に平行な仕上げ加工面(機械加工面)である。
【0018】
たとえば皿ばね100をマシニングセンタに適用する場合、孔部111にドローバが挿通される。皿ばね100は、皿形状から略平坦状に弾性変形することができる。このような弾性変形時、本体110の凹面側(図の下面側)は、引張り応力が発生する引張り面114であり、本体110の凸面側(図の上面側)は、圧縮応力が発生する圧縮面115である。
【0019】
引張り面114における内径部112側端部には、面取り部121が形成されている。面取り部121は、たとえば軸線方向断面が円弧状をなす湾曲面、あるいは、引張り面114の平面部に対して角度αをなす斜面である。面取り部121が湾曲面である場合、その湾曲面の曲率半径は大きく設定され、たとえば内径部112の湾曲面の曲率半径よりも大きく設定される。面取り部121の斜面の角度αは、45度±10度の範囲内(すなわち、35度〜55度の範囲内)に設定されていることが好適である。
【0020】
本体111における面取り部121を含む引張り面114には、ショットピーニングによる残留応力が付与されている。面取り部121における圧縮面115側の端部は、内径部112の頂点Pよりも引張り面114側に位置するように形成されていていることが好適である。
【0021】
内径部112、外径部113、および、面取り部121の形状は、本発明の範囲内で種々の変形が可能である。皿ばね100が適用される装置は、マシニングセンタに限定されるものではなく、たとえば皿ばね100の孔部111に挿通されて皿ばね100を案内するガイド軸を有する装置や、皿ばね100の外径部113に当接して皿ばね100を案内する筒状部材を有する装置に適用することができる。
【0022】
(2)実施形態の製造方法
皿ばね100の製造方法について図2を参照して説明する。図2(A)〜2(D)本発明の一実施形態に係る皿ばねの製造方法の各工程を説明するための図であって、ブランク100Aの右側部分の構成を表す軸線方向断面図である。図2では、ブランク100Aの凹面側(図の下面側)は、皿ばね100の引張り面114に対応する引張り面114A、ブランク100Aの凸面側(図の上面側)は、皿ばね100の圧縮面115に対応する圧縮面115Aである。図2に示すブランク100Aの破線部分は、前の工程での形状を示している。
【0023】
まず、たとえば板材からリング形状のブランクを打ち抜き、必要に応じてブランクの内径部および外径部に粗加工を行い、ブランクに曲げ成形を行うことにより、たとえば図2(A)に示すように、皿形状のブランク100Aを得る。次いで、たとえば皿形状のブランク100Aに熱処理を行う。熱処理では、たとえば焼き入れおよび焼き戻しを行う。
【0024】
続いて、たとえば図2(B)に示すように、ブランク100Aの引張り面114A側の内径部112A側の端部に、たとえば旋盤あるいはNC旋盤を用いて面取りを行うことにより面取り部121Aを形成する。面取り部121Aは、たとえば引張り面114Aの平面部に対して角度αをなす斜面である。
【0025】
次いで、たとえば図2(C)に示すように、たとえばNC旋盤を用いてブランク100Aの外径部113Aに仕上げ加工(機械加工)を行うことにより、外径部113Aを軸線方向に平行な面に加工する。このような外径部113Aへの加工を行うことにより、下記の内径部112Aへの仕上げ加工時に外径部113Aをチャックしやすく、かつ皿ばね100の荷重計算を容易に行うことができる。続いて、たとえばブランク100Aの全体に、ショットピーニングを行うことにより、ブランク100Aの全体に残留応力を付与する。この場合、ブランク100Aにおける面取り部121Aを含む引張り面114Aのみにショットピーニングを行ってもよい。
【0026】
次いで、図2(D)に示すように、たとえば旋盤あるいはNC旋盤を用いて内径部112Aに仕上げ加工(機械加工)を行うことにより、内径部112Aを、たとえば軸線方向断面が円弧状をなす湾曲面にする。この場合、内径部112Aへの仕上げ加工時、少なくとも面取り部121Aの外周端部側を残すことができるから、残りの面取り部121Aは、仕上げ加工後の引張り面114Aの内径部112A側の端部を構成することができる。これにより、最大応力が発生し得る引張り面114Aの内径部112A側端部は残留応力を有することができる。続いて、必要に応じて低温焼鈍や、グリース塗布、組み合わせセッチング等を行うことにより、図1に示す皿ばね100が得られる。
【0027】
この場合、内径部112Aへの仕上げ加工後、内径部112Aの内径を変化させる工程を行わないから、皿ばね100の内径値は、ブランク100Aの内径部112Aへの仕上げ加工により得られた内径値と等しい。なお、本実施形態の製造方法では、引張り面114Aの内径部112A側端部への面取り、少なくとも引張り面114Aへのショットピーニング、および、内径部112Aへの機械加工を順次行うことに特徴があり、その特徴を有する限りにおいて種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【0028】
本実施形態では、ブランク100Aにおける引張り面114Aの内径部112A側端部に面取り部121Aを形成した後、少なくとも引張り面114Aにショットピーニングを行うから、引張り面114Aの内径部112A側端部の面取り部121Aに残留応力を付与することができる。ショットピーニング後に仕上げ加工を内径部112Aに行うとき、少なくとも面取り部121Aの外径部側を残すことができるから、残りの面取り部121Aは、仕上げ加工後の引張り面114Aの内径部112A側端部を構成することができる。したがって、皿ばね100において最大応力が発生し得る引張り面114の内径部112側端部は残留応力を有することができるから、皿ばね100の高耐久化を図ることができる。
【0029】
また、ショットピーニング後に仕上げ加工を内径部112Aに行うから、皿ばね100の内径の管理が容易となる。この場合、ショットピーニングによる凹凸等の形状の影響を除去することができるから、皿ばね100の内径部112の面粗さを低く設定することができ、高精度化を図ることができる。また、仕上げ加工後に、内径を変化させる工程を行う必要がないから、内径部112の高精度化をさらに図ることができ、たとえば最大レンジ5μm程度の内径公差の管理を行うことができる。このように皿ばね100の内径部112の高精度化を図ることができるから、ガイド軸を有する装置に皿ばね100を適用し、皿ばね100の孔部111にガイド軸を設ける場合、内径部112とガイド軸との間のクリアランスを高精度に設定することができるとともに、ガイド軸との摺動をスムーズに行うことができる。
【0030】
特に、内径部112は、軸線方向断面が円弧状をなす湾曲面である場合、孔部111にガイド軸を設けると、本体110が弾性変形してガイド軸と摺動したときの皿ばね100の内径の変化を抑制することができる。また、たとえば面取り部121の圧縮面115側端部が、湾曲面の頂点Pよりも引張り面114側に位置するように形成されている態様では、湾曲面の頂点Pは皿ばね100の内径値を示す点であって、この場合、本体110が弾性変形してガイド軸と摺動したときに、その内径値の変化を効果的に抑制することができる。
【符号の説明】
【0031】
100…皿ばね、100A…ブランク、110…本体、111…孔部、112,112A…内径部、113,113A…外径部、114,114A…引張り面、115,115A…圧縮面、121,121A…面取り部、α…角度(所定角度)、P…頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皿形状をなすとともに孔部を有する本体を備え、
前記本体の引張り面における内径部側端部には面取り部が形成され、
少なくとも前記引張り面には、ショットピーニングによる残留応力が付与され、
内径部は、機械加工面であることを特徴とする皿ばね。
【請求項2】
前記内径部は、軸線方向断面が円弧状をなす湾曲面であることを特徴とする請求項1に記載の皿ばね。
【請求項3】
前記面取り部の圧縮面側端部は、軸線方向断面において、前記湾曲面の頂点よりも引張り面側に位置するように形成されていることを特徴とする請求項2に記載の皿ばね。
【請求項4】
前記面取り部は、軸線方向断面が円弧状をなす湾曲面、あるいは、前記引張り面の平面部に対して所定角度をなす斜面であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の皿ばね。
【請求項5】
皿形状をなすとともに孔部を有するブランクを準備し、
前記ブランクにおける引張り面の内径部側端部に、面取りを行うことにより面取り部を形成し、
前記面取り後、前記ブランクにおける少なくとも前記引張り面に、ショットピーニングを行い、
前記ショットピーニング後、内径部に機械加工を行うことを特徴とする皿ばねの製造方法。
【請求項6】
前記機械加工では、前記内径部を、軸線方向断面が円弧状をなす湾曲面とすることを特徴とする請求項5に記載の皿ばねの製造方法。
【請求項7】
前記機械加工では、前記面取り部の圧縮面側端部が、軸線方向断面において、前記内径部の前記湾曲面の頂点よりも引張り面側に位置するように、前記湾曲面を形成することを特徴とする請求項6に記載の皿ばねの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−24284(P2013−24284A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157818(P2011−157818)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】