説明

目印玉用ロープ

【課題】幹綱が波浪による目印玉の振動の影響を受けないようにした目印玉用ロープを提供する。
【解決手段】目印玉用ロープ20は、漁業用養殖施設10の目印玉14を幹綱12に取り付けるものであり、ロープ本体22と、ロープ本体22の一部を形成する幹綱振動軽減手段24とからなる。また、ロープ本体22と幹綱振動軽減手段24の連結部分に幹綱振動軽減手段24の切断を防止するための切断防止用ロープ26を取り付ける。切断防止用ロープ26は、幹綱振動軽減手段24より長く形成されている。これにより、目印玉が上下動しても幹綱には目印玉の振動が伝わらず、波浪による養殖篭内の貝同士のぶつかり合いを避けることができる。したがって、目印玉用ロープ20により、ホタテガイ等のへい死を無くすことができるとともに、成長の良いホタテガイ等を収穫することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漁業用養殖施設の位置および水深を示すために海面に配置する浮玉(目印玉)を幹綱に取り付ける目印玉用ロープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホタテガイの養殖は、所定の水深に設けられる幹綱に垂下した養殖篭(パールネット等)にホタテガイを入れて行われている(図4)。図4のホタテガイ養殖施設10(中層式の延縄式養殖施設)の幹綱12は、浮玉(底玉)13の取り付け数により浮力調整を行い、所定の水深(中層、約8m〜10m)に配置されている。ホタテガイの餌となるプランクトンは表層に多く存在するため、表層に幹綱12を配置するのが好ましい。しかし、表層に幹綱12を配置すると、幹綱12が波浪の影響を受けて上下に振動し、幹綱12に垂下する養殖篭18の中のホタテガイがぶつかり合い、養殖篭18の中のホタテガイはへい死(斃死)し、また成長不良のものが多く発生することが知られている。そこで、現在のホタテガイ養殖施設10では、幹綱12は波浪の影響を受けない中層に配置さている。
また、現在のホタテガイ養殖施設10では、図4に示すように、養殖施設10の位置および幹綱12の水深を目視できるように海面に浮玉14(本願では「目印玉」という。)を浮遊させている。目印玉14は、目印玉用ロープ16を介して幹綱12に取り付けられている。
ところが、目印玉14は海面にあるため波浪の影響を受け上下動して、その振動が目印玉用ロープ16を介して幹綱12に伝わり、幹綱12も上下動することから、ホタテガイのへい死(斃死)および成長不良の問題が起こっていた。
現在、台風の影響を受けないよう台風時に養殖施設を沈下させる養殖システムが提供されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−305197号公報(図1〜3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の籠養殖は、台風時に養殖施設(又は幹綱)を水深30m〜70mの海域に沈下させてその台風による波浪の影響を受けないようにしたものであった。
しかし、特許文献1の籠養殖は台風を避けるための養殖システムであり、台風時以外の波浪によるホタテガイのへい死率と成長不良の課題を解決できるものではなかった。
また、台風とか低気圧通過のたびに作業を行わなければならず、養殖施設の上下に係る労力も多大である。養殖施設を上下させる際には、必ず幹綱を海面まで引き上げて調整を行うので、ホタテガイにも振動等のストレスがかかる。
なお、特許文献1の籠養殖は、水深30m〜70mの海域に養殖施設(又は幹綱)を沈下されるが、その海域ではプランクトンが乏しくホタテガイを生長させることはできない。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するもので、幹綱が波浪による目印玉の振動の影響を受けないようにした目印玉用ロープを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目印玉用ロープは、漁業用養殖施設の幹綱に当該施設の位置および水深を示す目印玉を取り付けるものであって、ロープ本体と、ロープ本体の一部を形成する幹綱振動軽減手段とからなるようにしたものである。
また、前記ロープ本体と前記幹綱振動軽減手段の連結部分に幹綱振動軽減手段の切断を防止するための当該幹綱振動軽減手段より長い切断防止用ロープを取り付けるようにしたものである。
また、前記幹綱振動軽減手段が弾性体であるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の目印玉用ロープによると、目印玉が上下動しても幹綱には目印玉の振動が伝わらないことから、波浪による養殖篭内の貝同士のぶつかり合いを避けることができる。したがって、本発明により、ホタテガイ等のへい死を無くすことができるとともに、成長の良いホタテガイ等を収穫することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の目印玉用ロープの構造を表わす図である。
【図2】本発明の目印玉用ロープを用いたホタテガイ養殖施設における幹綱の上下動を表わす図である。
【図3】従来の目印玉用ロープを用いたホタテガイ養殖施設における幹綱の上下動を表わす図である。
【図4】従来のホタテガイ養殖施設(中層式の延縄式養殖施設)を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、波浪による目印玉の上下動が幹綱に伝わらないようにすることを実現するものである。
【実施例】
【0010】
本発明の目印玉用ロープを図1に基づいて説明する。図1は、本発明の目印玉用ロープの構造を表わす図である。なお、図1において、図4と同一の参照番号が付されている構成部は、図4のものと同一である。
図1の目印玉14は、本発明の目印玉用ロープ20を介して幹綱12に取り付けられ、幹綱12は所定の水深に配置されている。
目印玉用ロープ20は、ロープ本体22と、ロープ本体22の一部を形成する幹綱振動軽減手段24とからなるものである。幹綱振動軽減手段24としては伸縮可能なものである、ゴム製のものが好ましいが、これに限るものではなく、バネ等の弾性体など伸縮可能な構造を有するものであればよい。
【0011】
本願発明者は、目印玉用ロープ20により幹綱の振動が軽減されることについて実験を行った。実験では、幹綱12に加速度計28を垂下し、幹綱12の上下動を測定した。
本実験例では、幹綱振動軽減手段24として2mのゴム製ロープを用い、8mの目印玉用ロープ20を形成した。また、図1のロープ本体22a又は22bとゴム製ロープ24との連結部分に切断防止用ロープ26を取り付ける。切断防止用ロープ26は、ゴム製ロープ24より長く形成されるものであり、ゴム製ロープ24の切断を防止するためのものである。これにより、ゴム製ロープ24が伸びきることはなく、波浪の影響(又は目印玉14の上下動)によって切断されることはない。実験例では、目印玉用ロープ20に4mの切断防止用ロープ26を取り付けた。なお、切断防止用ロープ26の長さは、幹綱振動軽減手段24を形成するゴムの伸縮性と陸奥湾の波高に基づいて設定する。本実験例では、ゴム製ロープ24のゴムの伸縮性と陸奥湾の波高に基づいて4mに設定した。
比較例は、従来の目印玉用ロープ16(図4)であり、化学繊維製ロープのみで形成した。
なお、実験施設は、青森県陸奥湾に設置された、図4に示すホタテガイの養殖施設を使用した。また、本実験例は9月から翌年4月にかけて7か月)行ったものである。
【0012】
(実験の結果)
1.幹綱の振動について
図2は本発明の目印玉用ロープを用いたホタテガイ養殖施設における幹綱の上下動を表わす図であり、図3は従来の目印玉用ロープを用いた場合の幹綱の上下動を表わす図である。なお、図2および図3は、本実験期間の2月から3月にかけての1か月分の幹綱の上下動を表わすものである。
幹綱12の上下動は、本発明の目印玉用ロープ20を用いた場合極めて小さいのに対し(図2)、従来の目印玉用ロープ16を用いた場合は上下動が非常に大きかった(図3)。したがって、本発明の目印玉用ロープ20により、波浪の影響又は目印玉14の振動による幹綱の上下動が軽減されることが分かった。すなわち、波浪による目印玉の上下動が幹綱に伝わらないようにすることができた。
【0013】
2.ホタテガイのへい死率、殻長等について
表1は、本発明の目印玉用ロープ20を用いた場合(実験例)と従来の目印玉用ロープ16を用いた場合(比較例)のホタテガイのへい死率(%)、異常貝発生率(%)、殻長(mm)、1個体当たりの全重量(g)、1個体当たりの軟体部重量(g)を表すものである。
【0014】
【表1】

【0015】
ホタテガイのへい死率は、本発明の目印玉用ロープ20を用いた場合2.7%であり、従来の目印玉用ロープ16を用いた場合の18.5%に比べて、極めて低かった。したがって、本発明の目印玉用ロープ20を用いることにより、ホタテガイのへい死をほとんど無くすことができることが分かった。
異常貝発生率は、本発明の目印玉用ロープ20を用いた場合3.3%であり、従来の目印玉用ロープ16を用いた場合の46.2%に比べて、非常に低かった。したがって、本発明の目印玉用ロープ20を用いることにより、正常なホタテガイを収穫することができることが分かった。
以上のように、本発明の目印玉用ロープ20により、波浪の影響を回避することができ、ホタテガイの生産量(養殖による生産効率)を高めることができる。
【0016】
殻長は、本発明の目印玉用ロープ20を用いた場合74.1mmであり、従来の目印玉用ロープ16を用いた場合の44.6mmに比べて、大きかった。
1個体当たりの全重量、軟体部重量は、本発明の目印玉用ロープ20を用いた場合それぞれ45.3g、18.5gであり、従来の目印玉用ロープ16を用いた場合の15.2g、5.6gに比べて、重かった。
したがって、本発明の目印玉用ロープ20を用いることにより、成長の良いホタテガイを収穫することができることが分かった。
以上のように、本発明の目印玉用ロープによれば、へい死が無く、さらには十分に成長した良質のホタテガイを量産することが可能となる。
また、特許文献1の籠養殖とは異なり、台風・低気圧が通過するたびに養殖施設を上下する作業を行う必要がなく、ホタテガイにストレスをかけることもない。また、作業コストや労力も削減できる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の目印玉用ロープは、ホタテガイ養殖のみならず中層式の延縄式養殖施設を利用している他の貝類養殖にも応用できるものである。
【符号の説明】
【0018】
10 ホタテガイ養殖施設
12 幹綱
14 目印玉
20 目印玉用ロープ
22 ロープ本体
24 幹綱振動軽減手段
26 切断防止用ロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漁業用養殖施設の幹綱に当該施設の位置および水深を示す目印玉を取り付けるものであって、ロープ本体と、ロープ本体の一部を形成する幹綱振動軽減手段とからなることを特徴とする目印玉用ロープ。
【請求項2】
前記ロープ本体と前記幹綱振動軽減手段の連結部分に幹綱振動軽減手段の切断を防止するための当該幹綱振動軽減手段より長い切断防止用ロープを取り付けることを特徴とする請求項1記載の目印玉用ロープ。
【請求項3】
前記幹綱振動軽減手段は弾性体であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の目印玉用ロープ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−178991(P2012−178991A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42994(P2011−42994)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【Fターム(参考)】