説明

直接噴射式ディーゼルエンジン

【課題】 低負荷運転時におけるHCの排出量を低減する。
【解決手段】 本発明に係る直接噴射式ディーゼルエンジン1は、ピストン3の頂面にキャビティ6を設け、このキャビティ6の略中心に臨ませて第1インジェクタ7を配設すると共に、上記キャビティ6の開口端縁11に臨ませて第2インジェクタ8を配設し、上記第1インジェクタ7には、上記キャビティ6の周側壁12に向けて放射状に燃料F1 を噴射する複数の第1噴口を設け、上記第2インジェクタ8には、上記キャビティ6の径方向反対側の周側壁12に向けて燃料F2 を噴射する単一の第2噴口を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、直接噴射式ディーゼルエンジンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】最近、比較的小型のディーゼルエンジンにも直接噴射式のものが採用されており、これは燃費の点では副室式よりも有利であるが、他の排ガス特性、例えば未燃燃料(HC)、排気微粒子(スモーク)、NOx等の点では不利であり、近年の厳しい排ガス規制をクリアし難いという問題がある。
【0003】図5は、特にHCとスモークとの排出量の関係を示したグラフである。ここで横軸には、燃焼室(キャビティ)径Dとシリンダボア径Bとの比D/B がとってある。また、HCについては一定の低負荷運転時の場合を示し、スモークについては一定の高負荷運転時の場合を示している。
【0004】これから分かるように、D/B の変化につれ、HCとスモークとの排出量はトレードオフの関係にある。そして、ボア径Bを一定と仮定して、キャビティ径Dを小とした場合には高負荷スモークは低減し、低負荷HCは増加する。逆に、キャビティ径Dを大とした場合には、高負荷スモークは増加し低負荷HCは低減する。
【0005】これは次のような理由による。先ずD/B が小さいと、キャビティの略中心に臨まされたインジェクタの複数の噴口と、キャビティの周側壁との距離が短くなる。そして低負荷運転の場合はシリンダ内温度が低いため、各噴口から噴射された燃料はキャビティの周側壁に衝突し、大部分が蒸発しきれず周側壁にそのまま付着するようになる。そしてこの付着燃料が未燃燃料となりHCとして排出されてしまう。
【0006】一方、高負荷運転の場合だと、シリンダ内温度が十分に高温であるので、噴射量が多くとも略完全燃焼を行え、HC、スモークともに低減できる。
【0007】次に、D/B が大きいと、噴口とキャビティ周側壁との距離が長くなる。このため、噴射された燃料は、シリンダ内温度の低い低負荷運転時でもキャビティ周側壁に到達する前に蒸発、気化するようになり、これによってHCの排出量が減少する。
【0008】しかし、その反面、キャビティ内のスワール保存性が悪化し、スワールが減衰し易くなるため、噴射量の多い高負荷時では、空気と燃料との混合が悪化してスモークが増加してしまう。また噴射燃料とキャビティ周側壁との衝突も弱まり、衝突による燃料の微粒化、かく乱が弱まってしまう。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】そこで、この対策として、D/B を比較的小さな値として高負荷運転時の性能を維持する一方、低負荷運転時には噴射圧を下げて噴霧の到達距離(貫徹力)を減らし、燃料の蒸発・気化を促進することが考えられる。
【0010】しかしこうすると、噴口間に噴射のバラツキが生じ、例えば5噴口のうち3噴口しか噴射しないなど、実際の噴射圧力は高いままとなり噴霧の到達距離を減らすことができない。
【0011】また、一般にインジェクタはキャビティの略中心に臨まされるので、インジェクタの噴口とキャビティ周側壁との距離は比較的小さく、噴射圧を下げて噴霧の到達距離を減らす方法にも物理的に限界がある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明に係る直接噴射式ディーゼルエンジンは、ピストンの頂面にキャビティを設け、このキャビティの略中心に臨ませて第1インジェクタを配設すると共に、上記キャビティの開口端縁に臨ませて第2インジェクタを配設し、上記第1インジェクタには、上記キャビティの周側壁に向けて放射状に燃料を噴射する複数の第1噴口を設け、上記第2インジェクタには、上記キャビティの径方向反対側の周側壁に向けて燃料を噴射する単一の第2噴口を設けたものである。
【0013】これにおいては、第2噴口とその噴射燃料が指向される周側壁との距離を最大にとることができる。よって、その第2噴口からの噴霧の到達距離も最大にすることができ、低負荷運転時にこの第2噴口から燃料噴射を行うことにより、周側壁到達前には燃料の蒸発・気化を促進し、周側壁到達後は燃料付着を抑制することができる。これによって、前述の低負荷HCの問題を効果的に解決できるようになる。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0015】図1は、本発明に係る直接噴射式ディーゼルエンジンを示す縦断面図である。図示するようにエンジン1においては、シリンダ2内にピストン3が往復摺動可能に設けられ、シリンダ2にはガスケット4を介してシリンダヘッド5が取り付けられる。ピストン3の頂部にはキャビティ6が設けられ、このキャビティ6が実質的な燃焼室を区画形成する。ここでキャビティ6の開口部の直径(キャビティ径)をDとし、シリンダボアの直径をBとすると、その直径比D/B は前述の如く比較的小さく、高負荷運転時でもキャビティ6内のスワール保存性を悪化させないような最適値とされている。またシリンダヘッド5には二つのインジェクタ、即ち第1インジェクタ7と第2インジェクタ8とが取り付けられる。
【0016】キャビティ6は、ピストン3に有底円筒状の窪みを形成し、その底部と側部とを結ぶコーナー部に沿って円環状の窪みを形成したような形状とされる。そしてキャビティ6はピストン3に対し偏心されることなく、その中心がシリンダ中心に一致される。一方、第1インジェクタ7もシリンダ中心に沿って配置され、特にその燃料噴射を行う先端部9はシリンダ中心に位置され、キャビティ6の中心に臨まされる。また、第2インジェクタ8は、第1インジェクタ7の径方向外側に傾斜状態で配置され、特にその燃料噴射を行う先端部10は、ピストン3の頂面でキャビティ6の開口部を区画するキャビティ6の開口端縁11に臨まされる。なお第2インジェクタ8は、ここでは図示しない二つの排気弁の間の位置に配設されている。また、第1インジェクタ7の先端部9の位置はシリンダ中心から若干ずらすことも可能である。
【0017】図2はピストン3を平面的に見た図で、これには各インジェクタ7,8の先端部9,10の位置が示されている。ここで第1インジェクタ7の先端部9には五つの第1噴口(図示せず)が設けられ、これら第1噴口はそれぞれキャビティ6の周側壁12に向けて、燃料F1 を周方向等間隔で放射状に噴射するようになっている。一方、第2インジェクタ8も同様に、その先端部10に第2噴口(図示せず)を有するが、この第2噴口は一つのみが設けられつまり単一とされて、キャビティ6の径方向反対側の周側壁12に向けて燃料F2 を噴射するようになっている。なおここでは燃料F2 は、第1噴口から噴射される一本の燃料F1 と同方向に噴射される。またキャビティ6の周側壁12とは、キャビティ6内の周方向に沿った側壁のことを意味する。
【0018】ここで各インジェクタ7,8には、コモンレール13に貯留された比較的高圧の燃料が配管14,16を介して送られる。そしてこれらインジェクタ7,8には電磁弁、ニードル弁及び増圧ピストン等が内蔵されている。電磁弁は、コントローラとしてのECU 15から制御信号を受けてON/OFF制御される。そして増圧ピストンは、電磁弁がONとされたとき、インジェクタ内部の燃料を加圧してニードル弁をリフトさせ、同時にその燃料を噴口から噴射させる。このように、第1及び第2インジェクタ7,8はコモンレール式燃料噴射装置の一部を構成している。
【0019】ここでECU 15は、エンジン回転数センサ、水温センサ、アクセル開度センサ、クランク角センサ等から送られてくる信号に基づき、各インジェクタ7,8による燃料噴射制御、或いは噴射時期の制御等の各種制御を実行するようになっている。特にアクセル開度センサは、エンジン負荷を検出するための負荷検出手段を形成し、ECU 15はこれによるアクセル開度信号に基づきエンジン負荷を決定する。
【0020】また、ECU 15は、コモンレール13に接続される図示しないフィードポンプにも制御信号を出力し、フィードポンプの流量制御弁を制御している。これによって、コモンレール13内の燃料圧(噴射圧)は最適に制御される。
【0021】さて、上記構成にあっては、特に第2インジェクタ8の先端部10をキャビティ6の開口端縁11に臨ませ、第2噴口をキャビティ6の径方向反対側の周側壁12に向けて指向させたため、第2噴口とその噴射燃料F2 が向けられる周側壁12との距離を最大にとることができる。よって、その第2噴口からの噴霧の到達距離も最大にすることができ、シリンダ内温度が低い低負荷運転時でも第2噴口のみから燃料噴射を行うことにより、周側壁到達前には燃料の蒸発・気化を促進し、周側壁到達後は燃料付着を抑制することができる。これによって、前述の低負荷HCの問題を効果的に解決できるようになる。
【0022】またこのときには単一の第2噴口から燃料噴射を行うので、噴霧のバラツキもなく安定した燃料噴射を行える。そしてこれにより、着火遅れ期間中の噴射量を少なくすることができ、即ち噴射率を低くすることができ、燃焼初期の熱発生率を抑え、NOxを低減することができる。
【0023】さらに、高負荷運転の際は直径比D/B が比較的小さいため、キャビティ内のスワール保存性を良好とし、空気と燃料との混合を促進してスモークを抑制できる。またこれによってEGRを行うことも可能となり、高負荷運転時におけるスモークとHCとの同時低減を図ることができる。
【0024】次に、図3は上記エンジン1の燃料噴射制御マップを示している。横軸にはエンジン回転数が、縦軸にはエンジン負荷がとってある。このマップに従ってECU15は燃料噴射制御を実行し、ECU 15はエンジン回転数に拘らず、エンジン負荷が全負荷(100(%))に対しA=20(%) 以下となる領域(ハッチングで示す)で、第1インジェクタ7による燃料噴射を停止し、第2インジェクタ8の第2噴口のみから燃料噴射を行うようになっている。またそれ以外の領域では、第1インジェクタ7のみによる燃料噴射を実行し、第2インジェクタ8による燃料噴射を停止するようになっている。
【0025】また、図4は別の燃料噴射制御マップを示し、これにおいてはハッチングで示すように、エンジン負荷がA=20(%) 以下で且つエンジン回転数がN= 1000(rpm)以下の領域で、第1インジェクタ7による燃料噴射を停止し、第2インジェクタ8のみから燃料噴射を行うようになっている。またそれ以外の領域では、第1インジェクタ7のみによる燃料噴射を実行している。
【0026】このようなインジェクタの切替制御により、低負荷運転時には第2インジェクタ8のみから燃料噴射を行ってHCの低減が可能となるが、上記で示したエンジン負荷或いは回転数の切替ポイントは、エンジン特性に合わせて他の値に変更が可能である。なお、高負荷運転時において、第1インジェクタ7と第2インジェクタ8との両方で燃料噴射を行うことも可能である。ただしこの場合は、互いの噴射燃料F1 ,F2 同士が干渉して過濃領域が生成されぬよう、第1及び第2噴口の指向方向を設定する必要がある。
【0027】以上、本発明の好適な実施の形態について説明してきたが、本発明は上記形態に限定されず他の様々な形態を採ることが可能である。例えば、第1インジェクタの噴口数を六つ等に変更することもできるし、キャビティの形状を皿形や四角形等の他の形状に変えることもできる。
【0028】
【発明の効果】本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0029】(1) 低負荷運転時において燃料の蒸発、気化を促進し、HCの排出量を低減することができる。
【0030】(2) 低負荷運転時において噴射率を下げられ、NOxの排出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る直接噴射式ディーゼルエンジンを示す縦断面図である。
【図2】ピストンを示す平面図である。
【図3】本発明に係る直接噴射式ディーゼルエンジンの燃料噴射制御マップである。
【図4】本発明に係る直接噴射式ディーゼルエンジンの別の燃料噴射制御マップである。
【図5】HC及びスモークの排出量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 直接噴射式ディーゼルエンジン
3 ピストン
6 キャビティ
7 第1インジェクタ
8 第2インジェクタ
11 開口端縁
12 周側壁
15 ECU (コントローラ)
1 ,F2 燃料

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ピストンの頂面にキャビティを設け、該キャビティの略中心に臨ませて第1インジェクタを配設すると共に、上記キャビティの開口端縁に臨ませて第2インジェクタを配設し、上記第1インジェクタには、上記キャビティの周側壁に向けて放射状に燃料を噴射する複数の第1噴口を設け、上記第2インジェクタには、上記キャビティの径方向反対側の周側壁に向けて燃料を噴射する単一の第2噴口を設けたことを特徴とする直接噴射式ディーゼルエンジン。
【請求項2】 エンジン負荷を検出するための負荷検出手段と、該負荷検出手段による検出値が所定値より小さいときに、上記第1インジェクタによる燃料噴射を停止し且つ上記第2インジェクタによる燃料噴射を実行するコントローラとが設けられた請求項1記載の直接噴射式ディーゼルエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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