説明

相互作用エネルギー算出システム、相互作用エネルギー算出方法、及び相互作用エネルギー算出プログラム

【課題】FMO法を用いて算出されるフラグメント間の相互作用エネルギーの計算の精度を高めることのできる相互作用エネルギー算出システム、相互作用エネルギー算出方法、及び相互作用エネルギー算出プログラムを提供する。
【解決手段】IFIE計算手段12Dは、三体相互作用エネルギーのうちで特定のダイマーの寄与する分を二体相互作用エネルギーに加えることによって該二体相互作用エネルギーを補正し、当該補正された二体相互作用エネルギーを特定のダイマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーとして出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラグメント分子軌道法を用いてフラグメント間の相互作用エネルギーを算出する相互作用エネルギー算出システム、相互作用エネルギー算出方法、及び相互作用エネルギー算出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高分子の電子状態を計算する方法としてフラグメント分子軌道法(Fragment Molecular Orbital method :FMO法)が広く用いられている。例えば、非特許文献1及び2に記載のFMO法では、まず、高分子が複数のフラグメントに分割され、次いで、フラグメントのモノマーにおける電子状態とフラグメントのダイマーにおける電子状態とが計算され、これらに基づき分子全体の電子状態が計算される。こうしたFMO法によれば、非経験的分子軌道法のように、分子全体の構造から該分子全体の電子状態が計算される方法と比べ、計算コストが大幅に削減される。そのうえ、上記FMO法によれば、フラグメント間の相互作用エネルギー(Inter-Fragment Interaction Energy : IFIE)を計算することが可能であるため、フラグメント間の相互作用の種別やその度合いをIFIEに基づいて解析することも可能である。なお、FMO法で用いられるPIE(Pair Interaction Energy )とは、上述したIFIEと同義である。
【0003】
近年、上述したFMO法は、疾病との関わりを有する生体高分子であるレセプターと、該レセプターに結合するリガンドの候補化合物との相互作用の解析にも応用されている。この際、まず、レセプターがアミノ酸残基単位からなるフラグメントに分割され、次いで、レセプターを構成する各フラグメントと他のフラグメントであるリガンドとのIFIEが計算される。こうしたIFIEの比較によれば、レセプターとリガンドとの結合メカニズムを推定することが可能になるため、該IFIEに基づく相互作用の解析は、新薬としてのリガンドの候補化合物を分子設計する上で、非常に有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】中野他 J. Comput. Chem. Jpn., Vol. 6, No. 3, pp. 173-184 (2007)
【非特許文献2】福澤他 J. Comput. Chem. Jpn., Vol. 6, No. 3, pp. 185-198 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、レセプターとリガンドとの間には、複数の相互作用が生じていることも少なくない。この点、複数の相互作用の各々に対してリガンドの各部位がどの程度寄与しているかを知るべく、レセプターとリガンドとの双方が複数のフラグメントに分割され、リガンドのフラグメントとレセプターとの相互作用エネルギーを計算することが検討されている。これによれば、リガンドの各フラグメントにおける寄与を解析することが可能になるため、レセプターとリガンドとの結合メカニズムに基づいて新薬の候補化合物を選別することがより容易になる。
【0006】
ところが、ダイマーの集合体として分子複合体を取り扱うFMO法では、上述のようにしてフラグメントが増えると、フラグメント間の相互作用の及ぶ範囲が広がるにつれて、IFIEの精度が得られ難くなる場合がある。その結果、リガンドがフラグメントに分割される態様でIFIEが計算されるとしても、相互作用の解析の結果に対して信頼性が十分に得られず、ひいては候補化合物の選別に関する正否の信頼性が十分に得られないという問題が生じてしまう。
【0007】
なお、リガンドがフラグメントに分割される場合はもとより、リガンドがフラグメントに分割されない場合であっても、上述のようにして相互作用の詳細を解析するうえでは、IFIEの計算精度を高めることが求められてもいる。また、上述の問題は、レセプターとリガンドとの相互作用エネルギーが計算される場合に限らず、例えば、炭素結晶とタンパク質との相互作用エネルギー等、計算対象物質におけるフラグメント間の相互作用エネルギーがFMO法によって計算される場合に、概ね共通する。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、FMO法を用いて算出されるフラグメント間の相互作用エネルギーの計算の精度を高めることのできる相互作用エネルギー算出システム、相互作用エネルギー算出方法、及び相互作用エネルギー算出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、計算対象物質における複数のフラグメント間の相互作用エネルギーをフラグメント分子軌道法によって算出する制御部を備えた相互作用エネルギー算出システムであって、前記制御部は、前記フラグメントの各々のエネルギーを計算する第1計算手段と、任意の2つのフラグメントをダイマーとし、特定のダイマーにおける二体相互作用エネルギーを計算する第2計算手段と、任意の3つのフラグメントをトリマーとし、前記特定のダイマーを含むトリマーにおける三体相互作用エネルギーを計算する第3計算手段と、前記二体相互作用エネルギーを補正する補正手段とを備え、前記補正手段は、前記三体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分を前記二体相互作用エネルギーに加えることによって該二体相互作用エネルギーを補正し、当該補正された二体相互作用エネルギーを前記特定のダイマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーとすることを要旨とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の相互作用エネルギー算出システムにおいて、前記補正手段が、前記三体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分を前記三体相互作用エネルギーの1/3とすることを要旨とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の相互作用エネルギー算出システムにおいて、前記制御部が、任意の4つのフラグメントをテトラマーとし、前記特定のダイマーを含むテトラマーにおける四体相互作用エネルギーを計算する第4計算手段を更に備え、前記補正手段が、前記四体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分を前記補正された二体相互作用エネルギーに加えることによって該二体相互作用エネルギーを更に補正し、当該補正された二体相互作用エネルギーを前記特定のダイマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーとすることを要旨とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の相互作用エネルギー算出システムにおいて、前記補正手段が、前記四体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分を前記四体相互作用エネルギーの1/6とすることを要旨とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の相互作用エネルギー算出システムにおいて、前記計算対象物質が、タンパク質からなるレセプターと、該レセプターのリガンド若しくはリガンドの候補化合物とを有する分子複合体であり、前記制御部が、前記計算対象物質をフラグメントに分割する分割手段を更に備え、前記分割手段が、前記レセプターをアミノ酸残基の少なくとも部分構造を有する複数のフラグメントに分割し、且つ前記リガンド若しくはリガンドの候補化合物を複数のフラグメントに分割することを要旨とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の相互作用エネルギー算出システムにおいて、前記分割手段が、前記レセプターを、前記アミノ酸残基の主鎖を構成するフラグメントと前記アミノ酸残基の側鎖を構成するフラグメントとに分割することを要旨とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の相互作用エネルギー算出システムにおいて、前記分割手段が、前記アミノ酸残基の側鎖を1以上のフラグメントに分割することを要旨とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項5〜7のいずれか一項に記載の相互作用エネルギー算出システムにおいて、前記分割手段が、前記レセプターを、アミノ酸残基のカルボニル基を構成する炭素原子と、該炭素原子に結合した炭素原子との間でフラグメントに分割することを要旨とする。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項5〜7のいずれか一項に記載の相互作用エネルギー算出システムにおいて、前記分割手段が、前記レセプターを、アミノ酸残基間のペプチド結合を構成する窒素原子と、該ペプチド結合を構成し、且つ前記窒素原子に結合した炭素原子との間で分割することを要旨とする。
【0018】
請求項10に記載の発明は、計算対象物質における複数のフラグメント間の相互作用エネルギーをフラグメント分子軌道法によって算出する制御部を備えた算出システムを用いてフラグメント間の相互作用エネルギーを算出する相互作用エネルギー算出方法であって、前記制御部が、前記フラグメントの各々のエネルギーを計算する第1計算段階と、任意の2つのフラグメントをダイマーとし、特定のダイマーにおけるフラグメント間の二体相互作用エネルギーを計算する第2計算段階と、任意の3つのフラグメントをトリマーとし、前記特定のダイマーを含むトリマーにおけるフラグメント間の三体相互作用エネルギーを計算する第3計算段階と、前記二体相互作用エネルギーを補正する補正段階とを備え、前記補正段階では、前記三体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分が前記二体相互作用エネルギーに加えられることによって該二体相互作用エネルギーが補正され、当該補正された二体相互作用エネルギーが前記特定のダイマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーとされることを要旨とする。
【0019】
請求項11に記載の発明は、計算対象物質における複数のフラグメント間の相互作用エネルギーをフラグメント分子軌道法によって算出する制御部を備えた算出装置を用いてフラグメント間の相互作用エネルギーを算出する相互作用エネルギー算出プログラムであって、前記制御部を、前記フラグメントの各々のエネルギーを計算する第1計算手段と、任意の2つのフラグメントをダイマーとし、特定のダイマーにおけるフラグメント間の二体相互作用エネルギーを計算する第2計算手段と、任意の3つのフラグメントをトリマーとし、前記特定のダイマーを含むトリマーにおけるフラグメント間の三体相互作用エネルギーを計算する第3計算手段と、前記二体相互作用エネルギーを補正する補正手段として機能させ、前記補正手段に、前記三体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分を前記二体相互作用エネルギーに加えることによって該二体相互作用エネルギーを補正させ、当該補正された二体相互作用エネルギーを前記特定のダイマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーとして出力させることを要旨とする。
【0020】
(作用)
請求項1、10又は11に記載の発明によれば、特定のダイマーにおける二体相互作用エネルギーが、特定のダイマーを含むトリマーの三体相互作用エネルギーのうち、特定のダイマーの寄与する分で補正される。特定のダイマーの電子状態が他のモノマーから影響を受けることも少なくない。しかしながら、ダイマーの電子状態が二つのモノマー間のものとして取り扱われると、上述した他のモノマーからの影響が二体間の相互作用エネルギーに反映されにくくなる。この点、上記発明では、二体相互作用エネルギーを三体相互作用エネルギーによって補正していることから、計算対象物におけるフラグメントの数量が多くなる場合であれ、フラグメント間の相互作用の種別や方向が多様化する場合であれ、補正が加えられない場合に比べて、相互作用エネルギーの計算の精度を高めることができる。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、三体相互作用エネルギーのうちで特定のダイマーの寄与する分を1/3としている。1つのトリマー内には、互いに異なる3つのダイマーが存在する。1つのトリマーにおける三体相互作用エネルギーに対して3つのダイマーが互いに等しく寄与する場合、1つのダイマーの寄与する分は三体相互作用エネルギーの1/3になる。この点、上記発明では、特定のダイマーの寄与する分が1/3に定められることから、補正による計算の精度がより高められる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、特定のダイマーにおける二体相互作用エネルギーが、特定のダイマーを含むテトラマーの四体相互作用エネルギーのうち、特定のダイマーの寄与する分で補正される。そのため、計算対象物におけるフラグメントの数量が多くなる場合であれ、フラグメント間の相互作用の種別や方向が多様化する場合であれ、三体相互作用エネルギーのみを用いて補正する場合に比べて、相互作用エネルギーの計算の精度をより高めることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、四体相互作用エネルギーのうちで特定のダイマーの寄与する分を四体相互作用エネルギーの1/6としている。1つのテトラマー内には、互いに異なる6つのダイマーが存在する。1つのテトラマーにおける四体相互作用エネルギーに対して6つのダイマーが互いに等しく寄与する場合、1つのダイマーの寄与する分は四体相互作用エネルギーの1/6になる。この点、上記発明では、1つのダイマーの寄与する分が1/6に定められていることから、補正による計算の精度がより高められる。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、リガンド若しくはリガンド候補化合物が複数のフラグメントとされるため、リガンド若しくはリガンド候補化合物の一部分と、レセプターを構成するフラグメントの各々との相互作用エネルギーを算出することができる。これにより、リガンド若しくはリガンド候補化合物における部分構造の各々について、レセプターとの相互作用の度合いを示す情報を得ることができる。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、レセプターを構成するフラグメントの各々が、アミノ酸残基の主鎖からなるフラグメントと、各アミノ酸残基の側鎖からなるフラグメントとに分割される。そのため、レセプターを構成するフラグメントにおける主鎖と側鎖との各々について、リガンド若しくはリガンド候補化合物との相互作用の度合いを示す情報を得ることができる。
【0026】
請求項7に記載の発明によれば、側鎖が1以上のフラグメントに分割されるため、レセプターを構成するフラグメントとして側鎖以下の大きさを有したフラグメントが形成される。これにより、側鎖での分割を行わない場合と比較して、側鎖の一部分とリガンドとの相互作用が、レセプターを構成するその他の構造による影響をより少なくした状態で算出できる。
【0027】
請求項8に記載の発明によれば、レセプターが、アミノ酸残基のカルボニル基を構成する炭素原子と、該炭素原子に結合した炭素原子との間でフラグメントに分割される。つまり、レセプターは、電子の局在化したsp炭素の位置をBDA(Bond detached atom )として分割されることになる。それゆえに、他の位置にてレセプターをフラグメントに分割した場合よりも、フラグメントの分割が、FMO法によって算出された結果に対して与える影響を小さくできる。
【0028】
請求項9に記載の発明によれば、レセプターが、ペプチド結合を構成する窒素原子と炭素原子(BDA)との間でフラグメントに分割される。そのため、レセプターの分割位置が、タンパク質を生化学的にアミノ酸残基に分割する際の分割位置に一致する。それゆえに、FMO法によって得られた算出結果そのものと、生化学的な実験等によって得られた結果との比較を簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、FMO法を用いて算出されるフラグメント間の相互作用エネルギーの計算の精度を高めることのできる相互作用エネルギー算出システム、相互作用エネルギー算出方法、及び相互作用エネルギー算出プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態における相互作用エネルギー算出装置の構成を示す機能ブロック図。
【図2】同実施形態にて相互作用エネルギーを計算するときの処理手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態における電子状態計算処理の手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態におけるIFIE計算処理の手順を示すフローチャート。
【図5】本発明を具体化した第2実施形態における相互作用エネルギー算出装置の構成を示す機能ブロック図。
【図6】同実施形態におけるIFIE計算処理の手順を示すフローチャート。
【図7】本発明を具体化した第3実施形態における相互作用エネルギー算出装置の構成を示す機能ブロック図。
【図8】同実施形態におけるフラグメント分割処理の手順を示すフローチャート。
【図9】エストロゲンレセプターと17β−エストラジオールとの結合様式を示す模式図。
【図10】変形例におけるフラグメント分割処理の手順を示すフローチャート。
【図11】変形例におけるフラグメント分割処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
本発明の相互作用エネルギー算出システム、相互作用エネルギー算出方法、及び相互作用エネルギー算出プログラムを具体化した第1実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。なお、本実施形態では、二体項が考慮されたFMO法をFMO2法とし、二体項及び三体項が考慮されたFMO法をFMO3法とする。
【0032】
また、以下では、タンパク質からなるレセプターと、このレセプターに結合するリガンドの候補化合物(候補化合物)とからなる分子複合体を計算対象物とし、レセプターのフラグメントと候補化合物のフラグメントとの相互作用エネルギーを計算する場合について説明する。
【0033】
図1に示されるように、本実施形態の相互作用エネルギー算出システムは、入力部11、制御部12、記憶部13、及び出力部14から構成されている。
【0034】
入力部11は、例えばキーボードやマウス等から構成され、相互作用エネルギーの計算条件を示す計算条件データを制御部12に入力する。そして、制御部12に入力された計算条件データは、制御部12により記憶部13に記憶される。
【0035】
制御部12は、CPU、RAM及びROM等から構成され、上記計算条件データに基づき、レセプターを構成するフラグメントと候補化合物を構成するフラグメントとの相互作用エネルギーであるIFIEを計算する。この際、制御部12は、IFIEを計算するための相互作用エネルギー計算プログラムを実行することにより、第1計算手段としてのモノマー計算手段12A、第2計算手段としての二体項計算手段12B、第3計算手段としての三体項計算手段12C、及び補正手段としてのIFIE計算手段12Dとして機能する。なお、制御部12のCPUは、複数の演算コアを有し、各演算コアが、相互作用エネルギー計算プログラムの実行によってモノマー計算手段12A、二体項計算手段12B、三体項計算手段12C、及びIFIE計算手段12Dとして機能する構成であってもよい。こうした構成によれば、複数のフラグメントに対する計算を並列に処理することができ、IFIEの計算にかかる時間を短くすることができる。
【0036】
このうち、モノマー計算手段12Aは、レセプターを構成するフラグメントと候補化合物を構成するフラグメントとに関し、これらフラグメントモノマー(以下、モノマー)の各々のエネルギーと電子密度とを計算する。この際、モノマー計算手段12Aは、各モノマーの周囲のモノマーによる環境静電ポテンシャルを計算し、更に環境静電ポテンシャル下のモノマーについて、モノマーのエネルギーと電子密度とを計算する。そして、モノマー計算手段12Aは、計算したモノマーのエネルギーとモノマーの電子密度とを記憶部13に記憶させる。
【0037】
二体項計算手段12Bは、任意の2つのフラグメントからなるダイマーとして取り扱う。また、二体項計算手段12Bは、モノマー計算手段12Aの計算結果を用い、ダイマーの周囲のモノマーによる環境静電ポテンシャルを計算し、更に環境静電ポテンシャル下のダイマーについて、該ダイマーのエネルギーと電子密度とを計算する。そして、二体項計算手段12Bは、計算したダイマーのエネルギーとダイマーの電子密度とを記憶部13に記憶させる。
【0038】
三体項計算手段12Cは、任意の3つのフラグメントからなるトリマーとして取り扱う。また、三体項計算手段12Cは、モノマー計算手段12Aの計算結果を用い、トリマーの周囲のモノマーによる環境静電ポテンシャルを計算し、更に環境静電ポテンシャル下のトリマーについて、該トリマーのエネルギーと電子密度とを計算する。そして、三体項計算手段12Cは、計算したトリマーのエネルギーとトリマーの電子密度とを記憶部13に記憶させる。
【0039】
この場合、二体項計算手段12Bは、ダイマーのエネルギーの計算とダイマーの電子密度の計算とにFMO2法を用いる。また、三体項計算手段12Cは、トリマーのエネルギーの計算とトリマーの電子密度の計算とにFMO3法を用いる。そして、これら二体項計算手段12Bの計算結果と三体項計算手段12Cの計算結果とが、記憶部13に記憶される。
【0040】
IFIE計算手段12Dは、二体項計算手段12Bにて計算されたダイマーのエネルギーと、三体項計算手段12Cにて計算されたトリマーのエネルギーとを用いて、特定のダイマーにおけるIFIEを計算する。そして、IFIE計算手段12Dは、計算したIFIEを出力部14に出力する。
【0041】
記憶部13は、RAMやハードディスク等のストレージから構成され、IFIEの計算に用いられる計算条件データ13Aと、該計算条件データ13Aを用いて計算された電子状態データ13Bとを記憶する。
【0042】
計算条件データ13Aには、電子状態の計算方法、基底関数、レセプター及び候補化合物を含む複合体の分子構造、及び分子複合体におけるフラグメントの個数に関するデータが含まれている。また、計算条件データ13Aには、各フラグメントを構成する原子数、複数のフラグメント間の各々における結合の本数、各フラグメントを構成する原子の番号、各フラグメントにおける他のフラグメントと結合する原子の番号、及び各フラグメントの形式電荷に関するデータが含まれている。さらに、計算条件データ13Aには、相互作用エネルギーの計算対象となる特定のダイマーを示すデータが含まれている。
【0043】
電子状態の計算方法には、例えば、HF法(Hartree-Fock )、MP2(Moeller-Plesset 二次摂動)法や、より高次の電子相関手法等が用いられる。また、基底関数には、例えば、6−31G、及び6−31G等が用いられる。
【0044】
分子構造データには、レセプターと候補化合物とを含む複合体の構造を示す三次元の座標データが含まれる。こうした座標データは、例えば、タンパク質データベース(Protein Data Base )等に登録された座標データが、分子力場計算、古典分子動力学計算、及び量子化学的計算等により最適化されたデータである。
【0045】
フラグメントの個数データには、レセプターを構成するフラグメントの個数と、候補化合物を構成するフラグメントの個数とが含まれる。なお、例えば、レセプターがアミノ酸残基毎に分割される場合、レセプターを構成するフラグメントの個数は、アミノ酸残基数に一致する。
【0046】
各フラグメントを構成する原子数データには、レセプターを構成するフラグメントの各々に含まれる原子数と、候補化合物を構成するフラグメントの各々に含まれる原子数とが含まれる。
【0047】
フラグメント間における結合の本数データには、各フラグメントと他のフラグメントとの間に形成される共有結合の数、つまり、レセプター及び候補化合物をフラグメントに分割する際に切断される共有結合の数が含まれる。
【0048】
フラグメントを構成する原子の番号データは、複数のフラグメントの各々に定められる原子の番号であって、各フラグメントを構成する原子の各々に関連付けられた通し番号である。
【0049】
各フラグメントにおける他のフラグメントと結合する原子の番号データには、複数のフラグメントの各々に定められる原子の番号であって、該フラグメントを構成する原子のうちで他のフラグメントと結合する原子の番号と、他のフラグメントを構成する原子のうちで該フラグメントと結合する原子の番号とが含まれる。
【0050】
フラグメントの形式電荷に関するデータとは、各フラグメントに割り当てられる形式電荷のデータである。
【0051】
なお、上記フラグメントの個数、各フラグメントを構成する原子数、フラグメント間における結合の本数、各フラグメントを構成する原子の番号、各フラグメントにおける他のフラグメントと結合する原子の番号、及び各フラグメントの形式電荷が、フラグメント分割情報を構成している。そして、制御部12を構成する各手段によってこのフラグメント分割情報が参照され、該フラグメント分割情報に基づいて定められる複数のフラグメントの各々に対して各種の計算が行われる。
【0052】
他方、電子状態データ13Bには、各モノマーの分子軌道、各モノマーのエネルギー、各モノマーの電子密度、各ダイマーのエネルギー、各ダイマーの電子密度、各トリマーのエネルギー、及び各トリマーの電子密度に関するデータが含まれている。
【0053】
モノマーの分子軌道、モノマーのエネルギー、及びモノマーの電子密度データには、モノマー計算手段12Aにて計算された各モノマーのエネルギーと各モノマーの電子密度とが含まれる。ダイマーのエネルギーとダイマーの電子密度データには、上記二体項計算手段12Bにて計算された各ダイマーのエネルギーと各ダイマーの電子密度とが含まれる。トリマーのエネルギー及びトリマーの電子密度データには、上記三体項計算手段12Cにて計算された各トリマーのエネルギーと電子密度とが含まれる。
【0054】
出力部14は、例えばディスプレイ等から構成され、IFIE計算手段12Dにて計算されたIFIEを出力する。
【0055】
次いで、上述のように構成された相互作用エネルギー算出システムにおいて、フラグメント間の相互作用エネルギーを算出するときの処理手順について、図2〜図4を参照して説明する。
【0056】
図2に示されるように、制御部12は、電子状態計算処理(ステップS10)と、IFIE計算処理(ステップS20)とをこの順に実行する。
【0057】
このうち、電子状態計算処理(ステップS10)では、図3に示すように、まず、制御部12は、分子構造ファイルとフラグメント分割情報とを読み込む(ステップS1−1)。ここでは、モノマー計算手段12Aが、計算条件データ13Aに含まれる分子構造データとフラグメント分割情報とを読み込む。
【0058】
次に、制御部12は、複合体構造をフラグメントに分割する処理を行う(ステップS1−2)。ここでは、モノマー計算手段12Aが、先のステップS1−1にて読み込んだ分子構造データと上記フラグメント分割情報とに基づいて、レセプター及び候補化合物の各々を複数のフラグメントに分割する。このとき、モノマー計算手段12Aは、各フラグメントがラジカルにならないように、フラグメント分割の際に切断された共有結合の電子を各フラグメントに割り当てる。なお、フラグメント分割情報に候補化合物を1つの分子として扱うことを定義する情報が含まれているときには、候補化合物はフラグメントに分割されない。
【0059】
分子構造データとフラグメント分割情報とにより、上記レセプターは、例えば以下の化1に示すように、複数のフラグメントに分割される。なお、化1には、11個のアミノ酸からなるペプチドが、フラグメント分割のモデルとして例示され、また、同化1には、フラグメントの境界が破線で示されている。このペプチドは、N末端のアミノ酸から数えて3番目にグリシン(Gly)、4番目にシステイン(Cys)、6番目にプロリン(Pro)、10番目にシステイン(Cys10)を有している。
【0060】
【化1】

【0061】
化1に示すように、レセプターは、例えば、カルボニル基を構成する炭素に結合している炭素であるα炭素をBDA(Bond detached atom )としてアミノ酸残基単位に分割される。なお、BDAはN末端側のフラグメントに属し、BDAの有する6つの核電荷のうち5つの核電荷がBDAの属するフラグメントに割り当てられ、1つの核電荷がBDAに結合しているフラグメントに割り当てられる。そして、レセプターにおいては、こうして分割された各アミノ酸残基が、1つのフラグメントとして扱われる。なお、化1に示されるように、システイン同士によるジスルフィド結合がレセプター内に存在する場合には、ジスルフィド結合によって結合された2つのシステインが1つのフラグメントとして取り扱われる。
【0062】
フラグメント分割処理が終了すると、制御部12は、各フラグメントのモノマーの初期電子密度を計算する(ステップS1−3)。ここでは、モノマー計算手段12Aが、計算条件データ13Aに含まれる基底関数、電子状態の計算方法、及びフラグメント分割情報を読み込む。そして、モノマー計算手段12Aは、各モノマーを孤立分子と見なしたときのモノマーの電子密度を、読み込んだデータに基づいて計算する。モノマー計算手段12Aは、計算した各モノマーの初期電子密度を、電子状態データ13Bの一部として記憶部13に記憶させる。
【0063】
次に、制御部12は、各モノマーの初期電子密度、すなわち与えられた電子密度を用いて、環境静電ポテンシャル下でのモノマーのエネルギーと電子密度とを計算する(ステップS1−4)。ここでは、モノマー計算手段12Aが、各モノマーの初期電子密度を記憶部13から読み込み、複数のモノマーの各々に対し、各モノマーの周囲に存在する他のモノマーの電子密度から、各モノマーに対する環境静電ポテンシャルを計算する。そして、モノマー計算手段12Aは、複数のモノマーの各々に対し、各モノマーに対する環境静電ポテンシャル下にて、各モノマーのエネルギーと電子密度とを計算する。
【0064】
次に、制御部12は、与えられた電子密度と得られた電子密度との差が閾値よりも小さいか否かを判断する(ステップS1−5)。ここでは、モノマー計算手段12Aが、各モノマーについて、ステップS1−4にて計算された各モノマーの初期電子密度と、ステップS1−5にて計算された環境静電ポテンシャル下での各モノマーの電子密度とを比較する。そして、各モノマーにおける電子密度の差が閾値よりも小さい場合、つまり、各モノマーの電子密度が自己無撞着であると見なせる場合(ステップS1−5において「YES」の場合)には、制御部12は、ステップS1−4にて得られた各モノマーのエネルギー、及び各モノマーの電子密度を記憶部13に記憶させて、電子状態計算処理(ステップS10)を終了する(第1計算段階)。
【0065】
一方、電子密度の差が閾値よりも大きい場合(ステップS1−5において「NO」の場合)、制御部12は、ステップS1−4に戻り、この処理を再実行する。ここでは、モノマー計算手段12Aが、前回のステップS1−4にて得られた各モノマーの電子密度を用いて各モノマーの周囲のモノマーによる環境静電ポテンシャルを再計算し、環境静電ポテンシャル下での各モノマーのエネルギーと電子密度とを再計算する。そして、制御部12は、ステップS1−5に戻り、この処理を再実行する。ここでは、モノマー計算手段12Aが、前回のステップS1−4にて計算された各モノマーの電子密度と、今回のステップS1−4にて計算された各モノマーの電子密度との差と上記閾値とを比較する。この比較の結果、電子密度の差が閾値よりも小さい場合(ステップS1−5において「YES」の場合、制御部12は、今回のステップS1−4にて得られた各モノマーのエネルギー、及び各モノマーの電子密度を記憶部13に記憶させて、電子状態計算処理を終了する。一方、電子密度の差が閾値よりも大きい場合(ステップS1−5において「NO」の場合)、制御部12は、前回のステップS1−4にて計算された各モノマーの電子密度と、今回のステップS1−4にて計算された各モノマーの電子密度との差が閾値よりも小さくなる(ステップS1−5において「YES」)まで、ステップS1−4の処理とステップS1−5の処理とを繰り返す。
【0066】
次いで、IFIE計算処理(ステップS20)では、図4に示すように、まず、制御部12が、環境静電ポテンシャル下でのダイマーに関し、ダイマーのエネルギーと電子密度とを計算する(ステップS2−1)。ここでは、二体項計算手段12Bが、全てのモノマーのエネルギーと電子密度とを電子状態データ13Bから読み込む。そして、二体項計算手段12Bが、任意の2つのフラグメントをダイマーとして取り扱い、ダイマーの周囲のモノマーによる環境静電ポテンシャルを計算する。続いて、二体項計算手段12Bが、ダイマーの環境静電ポテンシャル下にて、ダイマーのエネルギーと電子密度とを計算する。そして、二体項計算手段12Bは、互いに異なる全てのダイマーにおけるエネルギーと電子密度とを電子状態データ13Bの一部として記憶部13に記憶させる。
【0067】
このうち、ダイマーのエネルギーを計算するときには、二体項計算手段12Bは、以下の数1に示される各項を計算することで、FMO2法による全電子エネルギーEFMO2を計算する。
【0068】
【数1】

【0069】
なお、数1における左側の等式にて、右辺の第1項は、環境静電ポテンシャル下の各ダイマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーの総和であり、互いに異なる複数のダイマーについての総和を示す。また、右辺の第2項は、環境静電ポテンシャル下の各モノマーのエネルギーの総和を示す。また、数1における右側の等式にて、右辺の第1項は、環境静電ポテンシャルの寄与が除かれた各ダイマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーの総和、すなわち各ダイマーにおける二体相互作用エネルギーの総和であり、互いに異なる複数のダイマーについての総和を示す。また、同右辺の第2項は、環境静電ポテンシャルの寄与を除いた各モノマーのエネルギーの総和を示す。
【0070】
また、数1に基づいてEFMO2を計算する場合には、二体項計算手段12Bは、上述した特定のダイマーにおける二体相互作用エネルギーについても計算する(第2計算段階)。
【0071】
次に、制御部12は、全てのモノマーのエネルギーと電子密度とを電子状態データ13Bから読み込む。そして、三体項計算手段12Cが、任意の3つのフラグメントをトリマーとして取り扱い、トリマーの周囲のモノマーによる環境静電ポテンシャルを計算する。次に、三体項計算手段12Cが、トリマーの環境静電ポテンシャル下にて、トリマーのエネルギーと電子密度とを計算する(ステップS2−2)。三体項計算手段12Cは、互いに異なる全てのトリマーのエネルギーと電子密度とを電子状態データ13Bの一部として記憶部13に記憶させる。
【0072】
ここで、トリマーのエネルギーを計算するときには、三体項計算手段12Cは、以下の数2に示される各項を計算することで、FMO3法による全電子エネルギーEFMO3を計算する。
【0073】
【数2】

【0074】
なお、数2における右辺の第1項は、環境静電ポテンシャルの寄与が除かれた各トリマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーの総和、すなわち各トリマーにおける三体相互作用エネルギーの総和であり、互いに異なる複数のトリマーについての総和を示す。また、同右辺の第2項は、数1における右側の等式にて示された右辺の第1項と同様であり、第3項は、数1における右側の等辺にて示された右辺の第2項と同様である。
【0075】
また、数2に基づいてEFMO3を計算するときには、三体項計算手段12Cは、上述した特定のダイマーを含むトリマーの三体相互作用エネルギーについても計算する。
【0076】
次に、制御部12は、特定のダイマーにおけるIFIEを計算する(ステップS2−3)。ここでは、IFIE計算手段12Dが、相互作用エネルギーの計算対象となる特定のダイマーを計算条件データ13Aから読み込む。さらに、計算対象の特定のダイマーにおける二体相互作用エネルギーを読み込み、この二体相互作用エネルギーを特定のダイマーにおけるIFIEとする。また、IFIE計算手段12Dが、特定のダイマーを含む全てのトリマーの三体相互作用エネルギーを読み込み、これら三体相互作用エネルギーの総和を、特定のダイマーを含むトリマーのIFIEとする(第3計算段階)。
【0077】
次に、制御部12は、トリマーのIFIEである三体項の1/3を用いてダイマーのIFIEを補正する(ステップS2−4)。ここでは、IFIE計算手段12Dが、以下の数3に基づいて特定のダイマーにおけるIFIEを補正する。すなわち、下記数3に示されるように、IFIE計算手段12Dは、特定のダイマーにおけるIFIEに、特定のダイマーを含むトリマーのIFIEの1/3を加算することで、特定のダイマーにおけるIFIEを補正する(補正段階)。そして、IFIE計算手段12Dが、特定のダイマーにおける補正されたIFIEを出力部14に出力してIFIE計算処理(ステップS20)を終了する。
【0078】
【数3】

【0079】
以上、第1実施形態によれば以下に列挙する効果が得られる。
(1)IFIE計算手段12Dが、特定のダイマーにおける二体相互作用エネルギーを、特定のダイマーを含むトリマーの三体相互作用エネルギーのうち、特定のダイマーの寄与する分で補正する。そのため、レセプター及び候補化合物におけるフラグメントの数量が多くなる場合であれ、フラグメント間の相互作用の種別や方向が多様化する場合であれ、補正が加えられない場合に比べて、相互作用エネルギーの計算の精度を高めることができる。
【0080】
(2)IFIE計算手段12Dは、三体相互作用エネルギーのうちで特定のダイマーの寄与する分を1/3としているため、補正による計算の精度がより高められる。
【0081】
(3)候補化合物が複数のフラグメントとされる。そのため、候補化合物の一部分と、レセプターを構成するフラグメントの各々との相互作用エネルギーを算出することができる。これにより、候補化合物における部分構造の各々について、レセプターとの相互作用の度合いを示す情報を得ることができる。
【0082】
(4)レセプターが、カルボニル基に結合した炭素原子であるα炭素をBDAとしてフラグメントに分割される。つまり、レセプターは、電子の局在化したsp炭素の位置にて分割されることになる。それゆえに、他の位置にてレセプターをフラグメントに分割した場合よりも、フラグメントの分割が、FMO法によって算出された結果に対して与える影響を小さくできる。
【0083】
(第2実施形態)
本発明の相互作用エネルギー算出装置、相互作用エネルギー算出方法、及び相互作用エネルギー算出プログラムを具体化した第2実施形態について、図5及び図6を参照して説明する。なお、本実施形態は、上記第1実施形態と比べて、IFIE計算処理の手順が異なっている。つまり、本実施形態では、FMO2法を用いて計算したフラグメントのエネルギー及びFMO3法を用いて計算したフラグメントのエネルギーに加えて、四体項が考慮されたFMO4法を用いて計算したフラグメントのエネルギーから2つのフラグメント間のIFIEを算出する。そのため、以下では、IFIE計算処理にかかわる制御部12の構成、並びに制御部12が行うIFIE計算処理について詳しく説明する。
【0084】
図5に示されるように、制御部12は、相互作用エネルギーを算出するための相互作用エネルギー算出プログラムを実行することにより、モノマー計算手段12A、二体項計算手段12B、三体項計算手段12C、及びIFIE計算手段12Dとして機能する。さらに、制御部12は、相互作用エネルギー算出プログラムを実行することにより、第4計算手段としての四体項計算手段12Eとして機能する。
【0085】
このうち、モノマー計算手段12Aは、第1実施形態と同様、環境静電ポテンシャル下での各モノマーのエネルギーと電子密度とを計算する。また、二体項計算手段12Bも、第1実施形態と同様、環境静電ポテンシャル下での各ダイマーのエネルギーと電子密度とを計算し、三体項計算手段12Cも、第1実施形態と同様、環境静電ポテンシャル下での各トリマーのエネルギーと電子密度とを計算する。
【0086】
四体項計算手段12Eは、任意の4つのフラグメントからなるテトラマーとして取り扱う。また、四体項計算手段12Eは、モノマー計算手段12Aの計算結果を用い、テトラマーの周囲のモノマーによる環境静電ポテンシャルを計算し、更に環境静電ポテンシャル下のテトラマーについて、該テトラマーのエネルギーとテトラマーの電子密度とを計算する。そして、四体項計算手段12Eは、計算したテトラマーのエネルギーとテトラマーの電子密度とを記憶部13に記憶させる。この場合、四体項計算手段12Eは、テトラマーのエネルギーの計算とテトラマーの電子密度の計算とにFMO4法を用いる。そして、これら四体項計算手段12Eの計算結果が、記憶部13に記憶される。
【0087】
IFIE計算手段12Dは、二体項計算手段12Bによって計算されたダイマーのエネルギー、三体項計算手段12Cによって計算されたトリマーのエネルギー、及び四体項計算手段12Eによって計算されたテトラマーのエネルギーを用いて、特定のダイマーにおけるIFIEを計算する。
【0088】
こうした相互作用エネルギー算出装置において、フラグメント間の相互作用エネルギーを算出するときの処理手順について、図6を参照して説明する。なお、制御部12は、第1実施形態と同様、電子状態計算処理(ステップS10)とIFIE計算処理(ステップS20)とをこの順に実行し、このうち電子状態計算処理は、第1実施形態と同様の手順で行われる。そのため、以下では、電子状態計算処理についての説明を割愛し、IFIE計算処理についてのみ説明する。
【0089】
IFIE計算処理(ステップS20)では、図6に示すように、まず、制御部12が、環境静電ポテンシャル下でのダイマーのエネルギーと電子密度とを計算し(ステップS2−1)、次に、環境静電ポテンシャル下でのトリマーのエネルギーと電子密度とを計算する(ステップS2−2)。ここでは、第1実施形態と同様、二体項計算手段12Bが、環境静電ポテンシャル下での各ダイマーのエネルギーと電子密度とを計算し、三体項計算手段12Cが、環境静電ポテンシャル下での各トリマーのエネルギーと電子密度とを計算する。
【0090】
次に、制御部12は、環境静電ポテンシャル下でのテトラマーのエネルギーと電子密度とを計算する(ステップS2−2A)。ここでは、四体項計算手段12Eが、全てのモノマーのエネルギーと電子密度とを電子状態データ13Bから読み込む。そして、四体項計算手段12Eが、任意の4つのフラグメントをテトラマーとして取り扱い、テトラマーの周囲のモノマーによる環境静電ポテンシャルを計算する。続いて、四体項計算手段12Eが、テトラマーの環境静電ポテンシャル下にて、テトラマーのエネルギーと電子密度とを計算する。そして、四体項計算手段12Eは、互いに異なる全てのテトラマーのエネルギーと電子密度とを電子状態データ13Bの一部として記憶部13に記憶させる。
【0091】
このうち、テトラマーのエネルギーを計算するときには、四体項計算手段12Eは、以下の数4に示される各項を計算することで、FMO4法による全電子エネルギーEFMO4を計算する。
【0092】
【数4】

【0093】
なお、数4における右辺の第1項は、環境静電ポテンシャルの寄与が除かれた各テトラマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーの総和、すなわち各テトラマーにおける四体相互作用エネルギーの総和であり、互いに異なる複数のテトラマーについての総和を示す。また、第2項から第4項までは、数2における第1項から第3項までと同様である。また、数4に基づいてEFMO4を計算する場合には、四体項計算手段12Eは、上述した特定のダイマーを含むテトラマーの四体相互作用エネルギーについても計算する。
【0094】
次に、制御部12は、特定のダイマーにおけるIFIEを計算する(ステップS2−3)。ここでは、IFIE計算手段12Dが、相互作用エネルギーの計算対象となる特定のダイマーを計算条件データ13Aから読み込み、さらに、計算対象の特定のダイマーにおける二体相互作用エネルギーを読み込み、この二体相互作用エネルギーを特定のダイマーにおけるIFIEとする。また、IFIE計算手段12Dが、特定のダイマーを含む全てのトリマーの三体相互作用エネルギーを読み込み、これら三体相互作用エネルギーの総和を、特定のダイマーを含むトリマーのIFIEとする。さらに、IFIE計算手段12Dが、特定のダイマーを含む全てのテトラマーの四体相互作用エネルギーを読み込み、これら四体相互作用エネルギーの総和を、特定のダイマーを含むテトラマーのIFIEとする。
【0095】
次に、制御部12は、トリマーのIFIEである三体項の1/3とテトラマーのIFIEである四体項の1/6とを用いてダイマーのIFIEを補正する(ステップS2−4A)。ここでは、IFIE計算手段12Dが、以下の数5に基づいて特定のダイマーにおけるIFIEを補正する。すなわち、上記数5に示されるように、IFIE計算手段12Dは、特定のダイマーにおけるIFIEに、特定のダイマーを含むトリマーのIFIEの1/3と、特定のダイマーを含むテトラマーのIFIEの1/6とを加算することで、特定のダイマーにおけるIFIEを補正する。そして、IFIE計算手段12Dが、特定のダイマーにおける補正されたIFIEを出力部14に出力してIFIE計算処理(ステップS20)を終了する。
【0096】
【数5】

【0097】
以上、第2実施形態によれば以下の効果が得られる。
(5)IFIE計算手段12Dは、特定のダイマーにおける二体相互作用エネルギーを、特定のダイマーを含むテトラマーの四体相互作用エネルギーのうち、特定のダイマーの寄与する分で補正する。そのため、計算対象物におけるフラグメントの数量が多くなる場合であれ、フラグメント間の相互作用の種別や方向が多様化する場合であれ、三体相互作用エネルギーのみを用いて補正する場合に比べて、相互作用エネルギーの計算の精度をより高めることができる。
【0098】
(6)IFIE計算手段12Dは、四体相互作用エネルギーのうちで特定のダイマーの寄与する分を四体相互作用エネルギーの1/6としているため、補正による計算の精度がより高められる。
【0099】
(第3実施形態)
本発明の相互作用エネルギー算出装置、相互作用エネルギー算出方法、及び相互作用エネルギー算出プログラムを具体化した第3実施形態について、図7及び図8を参照して説明する。なお、本実施形態は、第1実施形態と比較して、レセプターをフラグメントに分割する方法が異なっている。そのため、以下では、フラグメント分割処理にかかわる制御部12の構成、並びに制御部12が行うフラグメント分割処理について詳しく説明する。
【0100】
図7に示されるように、制御部12は、相互作用エネルギーを算出するための相互作用エネルギー算出プログラムを実行することにより、モノマー計算手段12A、二体項計算手段12B、三体項計算手段12C、及びIFIE計算手段12Dとして機能する。さらに、制御部12は、上記相互作用エネルギー算出プログラムを実行することにより、分割手段としてのフラグメント分割手段12Fとしても機能する。
【0101】
このうち、フラグメント分割手段12Fは、レセプターを複数のフラグメントに分割し、また、候補化合物を複数のフラグメントに分割する。ここで、フラグメント分割手段12Fは、レセプターのフラグメント分割に際して、アミノ酸残基の主鎖からなるフラグメントと側鎖からなるフラグメントとにレセプターを分割する。
【0102】
モノマー計算手段12Aは、フラグメント分割手段12Fにて生成されたフラグメントのモノマーに関し、各モノマーの周囲に存在するモノマーによる環境静電ポテンシャルを計算し、更に環境静電ポテンシャル下のモノマーについて、モノマーのエネルギーと電子密度とを計算する。そして、モノマー計算手段12Aは、計算したモノマーのエネルギーとモノマーの電子密度とを記憶部13に記憶させる。
【0103】
二体項計算手段12Bは、第1実施形態と同様、環境静電ポテンシャル下での各ダイマーのエネルギーと電子密度とを計算し、三体項計算手段12Cも、第1実施形態と同様、環境静電ポテンシャル下での各トリマーのエネルギーと電子密度とを計算する。また、IFIE計算手段12Dも、第1実施形態と同様、二体項計算手段12Bによって計算されたダイマーのエネルギーと、三体項計算手段12Cによって計算されたトリマーのエネルギーとを用いて、計算対象の特定のダイマーにおけるIFIEを計算する。
【0104】
記憶部13に記憶された計算条件データ13Aには、第1実施形態と同様のデータに加えて、レセプターを構成するアミノ酸残基を主鎖と側鎖とに分割することを示す主鎖側鎖分割コマンドが含まれている。計算条件データ13Aに主鎖側鎖分割コマンドが含まれる場合、フラグメント分割手段12Fは、主鎖側鎖分割コマンドを解釈してアミノ酸残基を主鎖と側鎖とに分割する。一方、計算条件データ13Aに主鎖側鎖分割コマンドが含まれない場合、フラグメント分割手段12Fは、アミノ酸残基を主鎖と側鎖とに分割しない。
【0105】
次いで、上述のように構成された相互作用エネルギー算出装置において、フラグメント間の相互作用エネルギーを算出するときの処理手順について、図8を参照して説明する。なお、制御部12は、第1実施形態と同様、電子状態計算処理(ステップS10)とIFIE計算処理(ステップS20)とをこの順に実行する。しかも、電子状態計算処理は、フラグメント分割処理(ステップS1−2)での処理手順、及びステップS1−1にて読み込まれる情報に主鎖側鎖分割コマンドが含まれること以外は、第1実施形態と同様の手順にて行われる。また、IFIE計算処理は、第1実施形態と同様の手順にて行われる。そのため、以下では、電子状態計算処理におけるフラグメント分割処理についてのみ説明し、その他の処理についての説明は割愛する。
【0106】
フラグメント分割処理では、図8に示すように、制御部12は、まず、レセプターをアミノ酸残基単位に分割する(ステップS3−1)。ここでは、第1実施形態と同様、フラグメント分割手段12Fが、レセプターの分子構造データとフラグメント分割情報とを参照し、レセプターをアミノ酸残基単位からなる複数のフラグメントに分割する。
【0107】
次に、制御部12は、各フラグメントを構成するアミノ酸残基を、主鎖からなるフラグメントと側鎖からなるフラグメントとに分割するか否かを判断する(ステップS3−2)。ここでは、フラグメント分割手段12Fが、フラグメント分割情報に主鎖側鎖分割コマンドが含まれるか否かを判断する。そして、主鎖側鎖分割コマンドがフラグメント分割情報に含まれる場合(ステップS3−2において「YES」の場合)、制御部12は、レセプターにおけるアミノ酸残基を主鎖と側鎖とに分割する(ステップS3−3)。ここでは、フラグメント分割手段12Fが、以下の化2に示されるように、アミノ酸残基を主鎖からなるフラグメントと側鎖からなるフラグメントとに分割する。なお、化2には、化1と同様のペプチドが例示されている。
【0108】
【化2】

【0109】
化2に示されるように、アミノ酸残基は、α炭素に結合しているβ炭素をBDAとして主鎖と側鎖とに分割される。なお、BDAは側鎖からなるフラグメントに属し、BDAの有する6つの核電荷のうち5つの核電荷がBDAの属するフラグメントに割り当てられ、1つの核電荷がBDAに結合しているフラグメントに割り当てられる。また、化2に示されるように、α炭素に結合する炭素を有しないグリシンとプロリンとにおいては、主鎖側鎖分割コマンドが実行される場合であっても、アミノ酸残基の分割が行われない。また、システイン同士によるジスルフィド結合がアミノ酸残基内に存在する場合には、α炭素に結合したβ炭素の各々をBDAとして、2つのシステインが、主鎖からなる2つのフラグメントと側鎖からなる1つのフラグメントとに分割される。
【0110】
次に、制御部12は、候補化合物をフラグメントに分割する(ステップS3−4)。ここでは、フラグメント分割手段12Fが、候補化合物の分子構造とフラグメント分割情報とを参照し、候補化合物を複数のフラグメントに分割してフラグメント分割処理を終了する。なお、フラグメント分割情報に候補化合物を1つの分子として扱うことを定義する情報が含まれているときには、フラグメント分割手段12Fは、候補化合物の分割を行わない。
【0111】
一方、主鎖側鎖分割コマンドが計算条件データに含まれない場合(ステップS3−2において「NO」の場合)には、制御部12は、ステップS3−3を行うことなく、ステップS3−4にて候補化合物をフラグメントに分割してフラグメント分割処理を終了する。
【0112】
以上、第3実施形態によれば以下の効果が得られる。
【0113】
(7)フラグメント分割手段12Fは、レセプターを構成するフラグメントの各々を、アミノ酸残基の主鎖からなるフラグメントと、各アミノ酸残基の側鎖からなるフラグメントとに分割する。そのため、レセプターを構成するフラグメントにおける主鎖と側鎖との各々について、候補化合物との相互作用の度合いを示す情報を得ることができる。
【0114】
(実施例)
核内レセプターの1つであるエストロゲンレセプター(Estrogen Receptor : ER)と、エストロゲンレセプターのリガンドである17β−エストラジオール(EST)との分子複合体に対して、FMO法を用いたエネルギーの計算と、計算したエネルギーに基づくIFIEの算出とを行った。
【0115】
なお、エストロゲンレセプターと17β−エストラジオールとの結合は、分子複合体のX線結晶解析や各種生化学的な実験により、図9に示すような態様であることが知られている。つまり、図9に示すように、エストロゲンレセプターにおける353番目のグルタミン酸及び394番目のアルギニンが、17β−エストラジオールにおける3位の炭素に結合したヒドロキシル基と水素結合し、524番目のヒスチジンが、17β−エストラジオールにおける17位の炭素に結合したヒドロキシル基と水素結合している。また、エストロゲンレセプターにおける387番目のロイシンが、353番目のグルタミン及び394番目のアルギニンと水素結合している水分子と水素結合している。加えて、エストロゲンレセプターにおける388番目のメチオニン及び404番目のフェニルアラニンが、17β−エストラジオールと疎水的な相互作用をしている。
【0116】
エストロゲンレセプターの分子構造データとして、リガンド結合ドメインに含まれる50アミノ酸残基からなるペプチドを用いた。また、FMO法による計算及びIFIEの算出時には、化2に示されるように、α炭素をBDAとしてペプチドをアミノ酸残基単位に分割し、且つ、各アミノ酸残基を主鎖と側鎖とに分割することで、アミノ酸残基ごとの主鎖及び側鎖の各々を1つのフラグメントとして取り扱った。
【0117】
17β−エストラジオールの分子構造データとして、以下の化3に示す構造を用いた。また、計算対象となる分子複合体には、17β−エストラジオールと水素結合した1つの水分子も含まれており、FMO法による計算及びIFIEの算出時には、水分子を1つのフラグメントとして取り扱った。
【0118】
そして、17β−エストラジオールを1つのフラグメントとし、レセプターにおける各アミノ酸残基と17β−エストラジオールとのIFIEを算出することによって、「分割無し」のIFIEを得た。なお、IFIEの算出には、電子状態の計算方法としてMP2法を用い、基底関数として6−31Gを用いた。
【0119】
【化3】

【0120】
また、以下の化4に示すように、8位の炭素原子と14位の炭素原子とにおける共有結合、及び、9位の炭素原子と11位の炭素原子とにおける共有結合を切断することによって、17β−エストラジオールを2つのフラグメントとした。そして、レセプターの各残基と17β−エストラジオールとのIFIEを算出することによって、「分割モデル1」のIFIEを得た。
【0121】
【化4】

【0122】
また、以下の化5に示すように、7位の炭素原子と8位の炭素原子とにおける共有結合、及び、9位の炭素原子と10位の炭素原子とにおける共有結合を切断することによって、17β−エストラジオールを2つのフラグメントとした。そして、レセプターの各残基と17β−エストラジオールとのIFIEを算出することによって、「分割モデル2」のIFIEを得た。
【0123】
そして、分割無し、分割モデル1、分割モデル2の各々のIFIEを算出するに際し、二体項のみによるIFIE、第1実施形態のように三体項による補正が加えられたIFIE、及び第2実施形態のように、三体項による補正に加え、さらに四体項による補正が加えられたIFIE、これら3種類のIFIEを算出した。補正されていないIFIEを表1、三体項による補正が加えられたIFIEを表2、三体項及び四体項による補正が加えられたIFIEを表3に示す。
【0124】
なお、表1〜表3には、レセプター全体と、化3〜化5に示される17β−エストラジオールの各々とのIFIEがIFIE総和として示されている。また、表1〜表3には、レセプターにおけるリガンドとの結合に重要とされるアミノ酸残基と、化3〜化5に示される17β−エストラジオールの各々とのIFIEも示されている。さらに、表1〜表3には、分割モデル1及び分割モデル2を用いて算出したIFIEと、分割されていない17β−エストラジオールを用いて算出したIFIEとの差がΔIFIEとして示されている。
【0125】
【化5】

【0126】
【表1】

【0127】
【表2】

【0128】
【表3】

【0129】
表1に示すように、補正されていないIFIEでは、IFIEの総和におけるΔIFIEが、分割モデル1では2.988kcal/molであり、分割モデル2では4.531kcal/molであった。また、分割モデル1と分割モデル2とのΔIFIEの差は1.54kcal/molであった。
【0130】
これに対し、表2に示すように、三体項で補正されたIFIEでは、IFIE総和におけるΔIFIEが、分割モデル1では2.340kcal/molであり、分割モデル2では2.998kcal/molであった。このように、リガンドを複数のフラグメントに分割した場合であっても、IFIEが三体項で補正されることによって、補正されていないIFIEよりもIFIEの計算の精度を高めることが可能となる。さらに、分割モデル1と分割モデル2とのΔIFIEの差は0.66kcal/molであり、二体項のみの場合と比べてモデル間での差が小さくなっている。つまり、三体項を用いた補正によれば、分割方法に依存しない計算結果が得られている。
【0131】
なお、補正されていないIFIEのうち分割モデル1では、404番目のフェニルアラニンの側鎖において、ΔIFIEが−0.072kcal/molである。一方、三体項で補正されたIFIEのうち分割モデル1では、同じく404番目のフェニルアラニンの側鎖において、ΔIFIEが−0.113kcal/molである。このように、三体項で補正されたIFIEであっても、アミノ酸残基によっては、補正されていないIFIEと比べて、ΔIFIEが若干大きくなることも認められた。ただし、IFIEが三体項で補正されることによって、多くのアミノ酸残基においてΔIFIEが少なからず改善されている。それゆえに、IFIE総和にも認められたように、IFIEの計算の精度を高めることが可能となっている。
【0132】
また、表3に示すように、三体項及び四体項によって補正されたIFIEでは、IFIE総和におけるΔIFIEが、分割モデル1では2.298kcal/molであり、分割モデル2では2.894kcal/molであった。さらに、分割モデル1と分割モデル2とのΔIFIEの差は0.60kcal/molであった。このように、リガンドを複数のフラグメントに分割した場合であっても、IFIEが四体項で補正されることによって、補正されていないIFIEよりもIFIEの計算の精度を高めることが可能となる。さらには、三体項のみで補正されたIFIEよりも、IFIEの計算の精度を高めることが可能となる。
【0133】
(他の実施形態)
本発明の相互作用エネルギー算出装置、相互作用エネルギー算出方法、及び相互作用エネルギー算出プログラムを具体化した他の実施形態について、図10を参照して説明する。なお、本実施形態は、第3実施形態と比較して、レセプターをフラグメントに分割する方法が異なっている。そのため、以下では、フラグメント分割処理にかかわる制御部12の構成、並びに制御部12が行うフラグメント分割処理について詳しく説明する。
【0134】
相互作用エネルギー算出システムの備える制御部12は、相互作用エネルギー算出プログラムを実行することにより、第3実施形態と同様、モノマー計算手段12A、二体項計算手段12B、三体項計算手段12C、IFIE計算手段12D、及びフラグメント分割手段12Fとして機能する。このうち、フラグメント分割手段12Fは、第3実施形態とは異なり、アミノ酸残基間のペプチド結合を構成する窒素原子と炭素原子との間で、レセプターをフラグメントに分割する。
【0135】
記憶部13に記憶された計算条件データには、第1実施形態と同様のデータに加えて、ペプチド結合を構成する窒素原子と炭素原子との間でレセプターを分割することを示すペプチド結合分割コマンドが含まれている。フラグメント分割手段12Fは、計算条件データにペプチド結合分割コマンドが含まれている場合には、ペプチド結合分割コマンドを解釈してアミノ酸残基をペプチド結合内にて分割する。また、フラグメント分割手段は、計算条件データにペプチド結合分割コマンドが含まれていない場合には、α炭素の位置にてレセプターをアミノ酸残基単位に分割する。
【0136】
次いで、上述のように構成された相互作用エネルギー計算システムにて、フラグメント間の相互作用エネルギーを算出するときの処理手順について、図10を参照して説明する。なお、この処理手順は、電子状態計算処理(ステップS10)におけるフラグメント分割処理(ステップS1−2)での処理手順、及びステップS1−1にて読み込まれる情報にペプチド結合分割コマンドが含まれること以外は、第3実施形態での処理手順と同様である。そのため、以下では、フラグメント分割処理についてのみ説明し、その他の処理についての説明は割愛する。
【0137】
フラグメント分割処理では、図10に示すように、制御部12は、まず、レセプターをアミノ酸残基単位に分割する際に、ペプチド結合において分割するか否かを判断する(ステップS3−1A)。ここでは、フラグメント分割手段12Fが、計算条件データ13Aにペプチド結合分割コマンドが含まれているか否かを判断する。そして、ペプチド結合分割コマンドが含まれている場合(ステップS3−1Aにおいて「YES」の場合)には、制御部12が、レセプターにおけるアミノ酸残基をペプチド結合で分割する(ステップS3−1B)。ここでは、フラグメント分割手段12Fが、以下の化6に示されるように、ペプチド結合を構成する窒素原子に結合している炭素原子をBDAとしてレセプターをアミノ酸残基単位に分割する。BDAはN末端側のフラグメントに属し、BDAの有する6つの核電荷のうち5つの核電荷がBDAの属するフラグメントに割り当てられ、1つの核電荷がBDAに結合しているフラグメントに割り当てられる。なお、化6には、14個のアミノ酸からなるペプチドが、フラグメント分割のモデルとして例示され、また、同化6には、フラグメントの境界が破線で示されている。このペプチドは、N末端のアミノ酸から数えて3番目にグリシン(Gly)、4番目にシステイン(Cys)、6番目にプロリン(Pro)、12番目にシステイン(Cys12)を有している。
【0138】
【化6】

【0139】
なお、化6に示されるように、システイン同士によるジスルフィド結合がレセプター内に存在する場合には、第1実施形態と同様、ジスルフィド結合によって結合された2つのシステインを1つのフラグメントとして取り扱う。
【0140】
次に、制御部12は、候補化合物をフラグメントに分割する(ステップS3−4)。ここでは、第3実施形態と同様、フラグメント分割手段12Fが、候補化合物の分子構造データとフラグメント分割情報とを参照して候補化合物を複数のフラグメントとして取り扱う。
【0141】
他方、ペプチド結合分割コマンドが計算条件データ13Aに含まれていない場合(ステップS3−1Aにおいて「NO」の場合)には、制御部12が、第3実施形態と同様、α炭素をBDAとしてレセプターにおけるアミノ酸残基を分割し(ステップS3−1C)、候補化合物をフラグメントに分割してフラグメント分割処理を終了する(ステップS3−4)。
【0142】
以上、上述した他の実施形態によれば以下の効果が得られる。
【0143】
(8)フラグメント分割手段12Fは、ペプチド結合を構成する窒素原子と炭素原子との間でレセプターをフラグメントに分割する。そのため、レセプターの分割位置が、タンパク質からなるレセプターを生化学的にアミノ酸残基に分割する際の分割位置に一致する。それゆえに、FMO法によって得られた算出結果そのものと、生化学的な実験等によって得られた結果との比較を簡単に行うことができる。
【0144】
(他の実施形態)
本発明の相互作用エネルギー算出装置、相互作用エネルギー算出方法、及び相互作用エネルギー算出プログラムを具体化した他の実施形態について、図11を参照して説明する。なお、本実施形態は、第3実施形態と比較して、レセプターをフラグメントに分割する方法が異なっている。そのため、以下では、フラグメント分割処理にかかわる制御部12の構成、並びに制御部12が行うフラグメント分割処理について詳しく説明する。
【0145】
相互作用エネルギー算出システムの備える制御部12は、相互作用エネルギー算出プログラムを実行することにより、第3実施形態と同様、モノマー計算手段12A、二体項計算手段12B、三体項計算手段12C、IFIE計算手段12D、及びフラグメント分割手段12Fとして機能する。このうち、フラグメント分割手段12Fは、第3実施形態とは異なり、アミノ酸残基を構成する側鎖内にてレセプターをフラグメントに分割する。
【0146】
記憶部13に記憶された計算条件データには、第3実施形態と同様のデータに加えて、側鎖内にてレセプターをフラグメントに分割する側鎖内分割コマンドが含まれている。フラグメント分割手段12Fは、計算条件データ13Aに側鎖内分割コマンドが含まれている場合には、側鎖内分割コマンドを解釈して側鎖内にてフラグメント分割する。また、フラグメント分割手段12Fは、計算条件データ13Aに側鎖内分割コマンドが含まれていない場合には、側鎖内でのフラグメント分割を行わない。
【0147】
次いで、上述のように構成された相互作用エネルギー計算システムにて、フラグメント間の相互作用エネルギーを算出するときの処理手順について、図11を参照して説明する。なお、この処理手順は、電子状態計算処理(ステップS10)におけるフラグメント分割処理(ステップS1−2)での処理手順、及びステップS1−1にて読み込まれる情報に側鎖内分割コマンドが含まれること以外は、第3実施形態での処理手順と同様である。そのため、以下では、フラグメント分割処理についてのみ説明し、その他の処理についての説明は割愛する。
【0148】
フラグメント分割処理では、図11に示すように、制御部12は、まず、レセプターをアミノ酸残基単位に分割する(ステップS3−1)。ここでは、第3実施形態と同様、フラグメント分割手段12Fが、レセプターの分子構造データとフラグメント分割情報とを参照し、レセプターをアミノ酸残基単位からなる複数のフラグメントとして取り扱う。
【0149】
次に、制御部12は、各フラグメントを構成するアミノ酸残基を、主鎖からなるフラグメントと側鎖からなるフラグメントとに分割するか否かを判断する(ステップS3−2)。ここでは、フラグメント分割手段12Fが、計算条件データ13Aに主鎖側鎖分割コマンドが含まれるか否かを判断する。
【0150】
そして、主鎖側鎖分割コマンドが計算条件データ13Aに含まれる場合(ステップS3−2において「YES」の場合)には、制御部12は、レセプターにおけるアミノ酸残基を主鎖と側鎖とに分割する(ステップS3−3)。ここでは、フラグメント分割手段12Fが、アミノ酸残基を主鎖からなるフラグメントと側鎖からなるフラグメントとに分割する。これにより、各フラグメントには、アミノ酸残基の部分構造である主鎖あるいは側鎖が含まれていることになる。一方、主鎖側鎖コマンドが計算条件データ13Aに含まれない場合(ステップS3−2において「NO」の場合)には、制御部12は、ステップS3−3を行わない。
【0151】
次に、制御部12は、アミノ酸残基の有する側鎖内での分割を行うか否かを判断する(ステップS3−2A)。ここでは、フラグメント分割手段12Fが、計算条件データ13Aに側鎖内分割コマンドが含まれているか否かを判断する。
【0152】
そして、側鎖内分割コマンドが計算条件データ13Aに含まれる場合(ステップS3−2Aにおいて「YES」の場合)には、制御部12は、レセプターにおけるアミノ酸残基の側鎖を分割する(ステップS3−3A)。ここでは、フラグメント分割手段12Fが、以下の化7あるいは化8に示されるように、アミノ酸残基の有する側鎖内においてレセプターをフラグメントに分割する。なお、化7及び化8には、アミノ酸残基としてアルギニンが例示されている。
【0153】
【化7】

【0154】
例えば、各アミノ酸残基が主鎖からなるフラグメントと側鎖からなるフラグメントとに分割され、且つ、側鎖内での分割が行われると、化7に示されるように、アルギニンは、α炭素、β炭素、及び、側鎖内にて窒素原子に結合した炭素原子をBDAとして分割される。なお、側鎖内の窒素原子に結合したBDAはβ炭素を含むフラグメントに属し、BDAの有する6つの核電荷のうち5つの核電荷がBDAの属するフラグメントに割り当てられ、1つの核電荷がBDAに結合しているフラグメントに割り当てられる。これにより、アルギニンの側鎖が、アミノ酸残基の部分構造としてのπ軌道を有したグアニジル基からなるフラグメントと、その他の部分構造からなるフラグメントとに分割される。
【0155】
【化8】

【0156】
また、各アミノ酸残基において側鎖内での分割のみが行われると、化8に示されるように、アルギニンは、α炭素、及び側鎖内にて窒素原子に結合した炭素原子をBDAとして分割される。これにより、アルギニンの有するグアニジル基が、1つのフラグメントとして分割される。
【0157】
次に、制御部12は、候補化合物をフラグメントに分割する(ステップS3−4)。ここでは、フラグメント分割手段12Fが、候補化合物の分子構造データとフラグメント分割情報とを参照し、候補化合物を複数のフラグメントに分割してフラグメント分割処理を終了する。なお、フラグメント分割情報に候補化合物を1つの分子として扱うことを定義する情報が含まれているときには、フラグメント分割手段12Fは、候補化合物の分割を行わない。
【0158】
一方、側鎖内分割コマンドが計算条件データ13Aに含まれない場合(ステップS3−2Aにおいて「NO」の場合)には、制御部12は、ステップS3−3Aを行うことなく、ステップS3−4にて候補化合物をフラグメントに分割してフラグメント分割処理を終了する。
【0159】
以上、上述した他の実施形態によれば以下の効果が得られる。
【0160】
(9)フラグメント分割手段12Fが、側鎖を1以上のフラグメントに分割するため、レセプターを構成するフラグメントとして側鎖以下の大きさを有したフラグメントが形成される。これにより、側鎖での分割を行わない場合と比較して、側鎖の一部分と候補化合物との相互作用が、レセプターを構成するその他の構造による影響をより少なくした状態で算出できる。
【0161】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・計算対象物質は、レセプターとリガンドの候補化合物とを有する分子複合体に限られず、周期的な構造を有する結晶と、結晶と相互作用を有する化合物とから構成される物質であってもよく、さらには単一の結晶であってもよい。要は、計算対象物質は、複数の原子からなるフラグメントに分割することの可能な物質であればよい。
【0162】
・三体相互作用エネルギーのうちで特定のダイマーの寄与する分は、特定のダイマーを含むトリマーの三体相互作用エネルギーの1/3未満、あるいは1/3以上であってもよい。例えば、三体相互作用エネルギーのうちで特定のダイマーの寄与する分は、特定のダイマーを含むトリマーにおける各モノマーの原子数に応じて変わる態様であってもよい。
【0163】
・四体相互作用エネルギーのうちで特定のダイマーの寄与する分は、特定のダイマーを含むテトラマーの四体相互作用エネルギーの1/6未満、あるいは1/6以上であってもよい。例えば、四体相互作用エネルギーのうちで特定のダイマーの寄与する分は、特定のダイマーを含むテトラマーにおける各モノマーの原子数に応じて変わる態様であってもよい。
【0164】
・レセプターの分割は、以下の化9に示されるように、ペプチド結合を構成する窒素原子に結合している炭素原子と、β炭素とをBDAとして行う態様でもよい。
【0165】
【化9】

これにより、レセプターは、各アミノ酸残基の主鎖からなるフラグメントと側鎖からなるフラグメントとに分割される。
【0166】
・他の実施形態では、α炭素をBDAとした分割と、側鎖内での分割とによってレセプターを分割する態様についてアルギニンを例に説明したが、α炭素をBDAとした分割に代えて、ペプチド結合を構成する窒素原子に結合している炭素原子をBDAとした分割を行う態様としてもよい。そして、これらの分割に加えて、β炭素をBDAとした分割を行う場合には、化10に示されるように、アルギニンは、主鎖からなるフラグメント、側鎖の有するグアニジル基からなるフラグメント、及び側鎖の有するグアニジル基以外の部分構造からなるフラグメントに分割される。
【0167】
【化10】

【0168】
また、ペプチド結合を構成する窒素原子に結合している炭素原子をBDAとした分割と、側鎖内での分割とのみによれば、化11に示されるように、アルギニンは、側鎖の有するグアニジル基からなるフラグメント、及び側鎖の有するグアニジル基以外の部分構造と主鎖とからなるフラグメントに分割される。
【0169】
【化11】

【0170】
・他の実施形態に例示されたアルギニンに限らず、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、及びヒスチジン等のアミノ酸においても、π軌道を有する部分構造の分割が考えられる。また、アミノ酸残基の側鎖内での分割は、各種アミノ酸の側鎖を対象とし、各側鎖が有する部分構造の特性に応じて行うことができる。
【0171】
・計算対象物質に含まれるタンパク質は、エストロゲンレセプターのような核内レセプターに限らず、膜貫通レセプターであってもよい。また、計算対象物質となるタンパク質は、酵素や輸送タンパク質であってもよい。要は、計算対象物質に含まれるタンパク質は、創薬の標的となり得るタンパク質であればよい。また、これら以外のタンパク質であってもよい。
【0172】
・計算対象物質に含まれるタンパク質がレセプターである場合には、計算対象物質には、リガンドの候補化合物に代えて、既知のリガンドが含まれていてもよい。
【0173】
・計算対象物質に含まれるタンパク質が酵素である場合には、計算対象物質には、酵素反応を受ける基質や酵素反応の阻害剤、若しくはこれらの候補化合物が、リガンドあるいはリガンドの候補化合物の代わりに含まれる。要は、計算対象物質は、タンパク質とこのタンパク質と相互作用する化学物質とからなる複合体が含まれる構成であればよい。
【0174】
・計算対象物質は、核酸、つまりDNAあるいはRNAと化学物質とからなるものであってもよい。核酸の分割は、各ヌクレオチドを構成する五炭糖の5´位の炭素をBDAとして行われ、これにより、核酸は、ヌクレオチドからなる複数のフラグメントに分割される。
【0175】
また、核酸の分割は、五炭糖の1´位の炭素と5´位の炭素とをBDAとして行われ、これにより、核酸は、五炭糖及びリン酸からなるフラグメントと、塩基からなるフラグメントとに分割される。更に、五炭糖とリン酸とからなるフラグメントは、五炭糖の3´位の炭素をBDAとして、五炭糖からなるフラグメントとリン酸からなるフラグメントとに分割されてもよい。
【0176】
上述のように、三体相互作用エネルギー、あるいは三体相互作用エネルギー及び四体相互作用エネルギーを用いてIFIEの補正を行う構成であれば、五炭糖及びリン酸からなるフラグメントと塩基からなるフラグメントとに分割した場合や、五炭糖及びリン酸からなるフラグメントをさらに五炭糖とリン酸とに分割した場合であっても、IFIEの算出精度を高めることができる。なお、いずれの分割態様であっても、フラグメントに含まれるヌクレオチドあるいはヌクレオシドは、1つであっても2以上の複数であってもよい。
【0177】
また、核酸と化合物とのIFIEは、核酸のリン酸を中和するためのカウンターイオン、核酸と水素結合している水分子、あるいは水和シェルを構成し、核酸とは水素結合していない水分子を含んだ状態で算出されることも多い。上述のように、核酸と化学物質とのIFIEを算出する際に、三体相互作用エネルギー、あるいは四体相互作用エネルギーを用いてIFIEの補正を行う構成であれば、カウンターイオン及び水分子の各々を1つのフラグメントとして取り扱ったとしても、精度が高められた状態でIFIを算出することが可能になる。なお、カウンターイオン及び水分子は、1以上のカウンターイオン及び1以上の水分子の全体が、1フラグメントとして取り扱われるようにしてもよい。なお、計算対象物質がタンパク質の場合にも、核酸の場合と同様、電荷を中和するためのカウンターイオンと水分子とを含んだ状態で算出されることも多い。
【0178】
・BDAの属するフラグメントに5つの核電荷を割り当て、BDAに結合するフラグメントに1つの核電荷を割り当てるようにしているが、これ以外の態様にて核電荷の割り当てを行うようにしてもよい。
【0179】
・炭素原子以外の原子をBDAとしてもよい。
・各実施形態では、α炭素、β炭素等をBDAとして原子間の単結合を切断することにより計算対象物質をフラグメントに分割している。これに限らず、隣接する原子と二重結合している原子をBDAとし、二重結合を切断することによって計算対象物質をフラグメントに分割してもよい。
【0180】
・FMO2法、FMO3法、及びFMO4法を用いて全電子エネルギーを計算するようにしたが、注目するダイマーを含むフラグメントの組み合わせについてのみエネルギーを計算するようにしてもよい。こうした構成であっても、注目するダイマーにおけるIFIEについては、三体相互作用エネルギーや四体相互作用エネルギーにて補正した態様にて算出することが可能である。
【0181】
・各実施形態では、IFIEを算出する際に、EFMO3から得られる三体相互作用エネルギーを用いることによって、あるいは、三体相互作用エネルギーと、EFMO4から得られる四体相互作用エネルギーとを用いることによって、二体相互作用エネルギーを補正している。これに限らず、五体以上の多体項を用いた補正を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0182】
11…入力部、12…制御部、12A…モノマー計算手段、12B…二体項計算手段、12C…三体項計算手段、12D…IFIE計算手段、12E…四体項計算手段、12F…フラグメント分割手段、13…記憶部、13A…計算条件データ、13B…電子状態データ、14…出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算対象物質における複数のフラグメント間の相互作用エネルギーをフラグメント分子軌道法によって算出する制御部を備えた相互作用エネルギー算出システムであって、
前記制御部は、
前記フラグメントの各々のエネルギーを計算する第1計算手段と、
任意の2つのフラグメントをダイマーとし、特定のダイマーにおける二体相互作用エネルギーを計算する第2計算手段と、
任意の3つのフラグメントをトリマーとし、前記特定のダイマーを含むトリマーにおける三体相互作用エネルギーを計算する第3計算手段と、
前記二体相互作用エネルギーを補正する補正手段とを備え、
前記補正手段は、
前記三体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分を前記二体相互作用エネルギーに加えることによって該二体相互作用エネルギーを補正し、当該補正された二体相互作用エネルギーを前記特定のダイマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーとする
ことを特徴とする相互作用エネルギー算出システム。
【請求項2】
前記補正手段は、
前記三体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分を前記三体相互作用エネルギーの1/3とする
ことを特徴とする請求項1に記載の相互作用エネルギー算出システム。
【請求項3】
前記制御部は、
任意の4つのフラグメントをテトラマーとし、前記特定のダイマーを含むテトラマーにおける四体相互作用エネルギーを計算する第4計算手段を更に備え、
前記補正手段は、
前記四体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分を前記補正された二体相互作用エネルギーに加えることによって該二体相互作用エネルギーを更に補正し、当該補正された二体相互作用エネルギーを前記特定のダイマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーとする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の相互作用エネルギー算出システム。
【請求項4】
前記補正手段は、
前記四体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分を前記四体相互作用エネルギーの1/6とする
ことを特徴とする請求項3に記載の相互作用エネルギー算出システム。
【請求項5】
前記計算対象物質は、
タンパク質からなるレセプターと、該レセプターのリガンド若しくはリガンドの候補化合物とを有する分子複合体であり、
前記制御部は、
前記計算対象物質をフラグメントに分割する分割手段を更に備え、
前記分割手段は、
前記レセプターをアミノ酸残基の少なくとも部分構造を有する複数のフラグメントに分割し、且つ前記リガンド若しくはリガンドの候補化合物を複数のフラグメントに分割する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の相互作用エネルギー算出システム。
【請求項6】
前記分割手段は、
前記レセプターを、前記アミノ酸残基の主鎖を構成するフラグメントと前記アミノ酸残基の側鎖を構成するフラグメントとに分割する
ことを特徴とする請求項5に記載の相互作用エネルギー算出システム。
【請求項7】
前記分割手段は、
前記アミノ酸残基の側鎖を1以上のフラグメントに分割する
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の相互作用エネルギー算出システム。
【請求項8】
前記分割手段は、
前記レセプターを、アミノ酸残基のカルボニル基を構成する炭素原子と、該炭素原子に結合した炭素原子との間でフラグメントに分割する
ことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の相互作用エネルギー算出システム。
【請求項9】
前記分割手段は、
前記レセプターを、アミノ酸残基間のペプチド結合を構成する窒素原子と、該ペプチド結合を構成し、且つ前記窒素原子に結合した炭素原子との間で分割する
ことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の相互作用エネルギー算出システム。
【請求項10】
計算対象物質における複数のフラグメント間の相互作用エネルギーをフラグメント分子軌道法によって算出する制御部を備えた算出システムを用いてフラグメント間の相互作用エネルギーを算出する相互作用エネルギー算出方法であって、
前記制御部が、
前記フラグメントの各々のエネルギーを計算する第1計算段階と、
任意の2つのフラグメントをダイマーとし、特定のダイマーにおけるフラグメント間の二体相互作用エネルギーを計算する第2計算段階と、
任意の3つのフラグメントをトリマーとし、前記特定のダイマーを含むトリマーにおけるフラグメント間の三体相互作用エネルギーを計算する第3計算段階と、
前記二体相互作用エネルギーを補正する補正段階とを備え、
前記補正段階では、
前記三体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分が前記二体相互作用エネルギーに加えられることによって該二体相互作用エネルギーが補正され、当該補正された二体相互作用エネルギーが前記特定のダイマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーとされる
ことを特徴とする相互作用エネルギー算出方法。
【請求項11】
計算対象物質における複数のフラグメント間の相互作用エネルギーをフラグメント分子軌道法によって算出する制御部を備えた算出装置を用いてフラグメント間の相互作用エネルギーを算出する相互作用エネルギー算出プログラムであって、
前記制御部を、
前記フラグメントの各々のエネルギーを計算する第1計算手段と、
任意の2つのフラグメントをダイマーとし、特定のダイマーにおけるフラグメント間の二体相互作用エネルギーを計算する第2計算手段と、
任意の3つのフラグメントをトリマーとし、前記特定のダイマーを含むトリマーにおけるフラグメント間の三体相互作用エネルギーを計算する第3計算手段と、
前記二体相互作用エネルギーを補正する補正手段として機能させ、
前記補正手段に、
前記三体相互作用エネルギーのうちで前記特定のダイマーの寄与する分を前記二体相互作用エネルギーに加えることによって該二体相互作用エネルギーを補正させ、当該補正された二体相互作用エネルギーを前記特定のダイマーにおけるフラグメント間の相互作用エネルギーとして出力させる
ことを特徴とする相互作用エネルギー算出プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−101533(P2013−101533A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245411(P2011−245411)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【特許番号】特許第5067682号(P5067682)
【特許公報発行日】平成24年11月7日(2012.11.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り FIBER国際シンポジウムFIBERフォーラム2011、CBI/JSBi2011合同大会、第5回分子化学討論会2011札幌で発表
【出願人】(597128004)国立医薬品食品衛生研究所長 (22)
【出願人】(300071579)学校法人立教学院 (42)
【出願人】(592131906)みずほ情報総研株式会社 (187)