説明

相互侵入型高分子ゲルとその製造方法

【課題】pHと温度の両方の刺激に応答し、しかも耐塩性に優れる刺激応答性相互侵入型高分子ゲル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリ酸性アミノ酸の架橋網目及びポリ−N−イソプロピルアクリルアミドの架橋網目が化学的な結合を持つことなく、独立に存在する状態で絡み合った構造を有する相互侵入高分子網目ゲル、及び(A)ポリ酸性アミノ酸、及びジ−又はポリ官能基エポキシド架橋剤を含む水溶液を攪拌、加熱処理する工程。(B)(A)工程後、洗浄する工程。(C)(B)工程後、凍結する工程。(D)(C)工程後、真空乾燥する工程。(E)(D)工程後、N−イソプロピルアクリルアミド、及び重合性二重結合を2個以上有する架橋剤を含む水溶液に上記工程で得られたポリ酸性アミノ酸ゲルを浸漬、UV照射する工程。(F)(E)工程後、洗浄する工程を含むことを特徴とする相互侵入高分子網目ゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互侵入高分子網目ゲル及びその製造方法、特に相互侵入高分子網目ゲルの刺激応答性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは、例えば、温度、pH変化等に応答する機能を有し、常に自発的な安定状態へと変化させることから、薬物送達システム(ドラッグデリバリーシステム:DDS)の分野へ応用されてきた。三次元構造を有し水分子を含有する能力が高いゲルは、薬物送達システムを実現させるための薬物担体として有効である。
【0003】
高分子ゲルの一種として、ポリ酸性アミノ酸とN−イソプロピルアクリルアミドとアクリル酸又はメタクリル酸共重合体を架橋することによって得られるゲルが、温度応答性を有することが報告されている(特許文献1)。しかしながら、この架橋ゲルの温度応答性はそれほど高くなく、pH応答性を有するといった効果については触れられていない。
【0004】
一方、2種類の高分子の複合化方法として、相互侵入高分子網目(IPN:Interpenetrating
Polymer Network)構造がある。相互侵入高分子網目ゲルを用いた機能化に関して代表的なものに、ポリアクリルアミドとポリアクリル酸の相互侵入高分子網目ゲルが挙げられている(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、これらは分子間での水素結合によるコンプレックスを形成し、低温収縮/高温膨潤型の温度応答性を示すことが報告されている。このため、相互侵入高分子網目ゲルがそれぞれの架橋網目が化学的な結合を持つことなく、刺激応答性が低下しないよう、更なる改善が望まれていた。
【特許文献1】特開2004−307523号公報
【非特許文献1】高分子先端材料 OnePoint2 高分子ゲル(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、pHと温度の両方の刺激に応答し、しかも耐塩性に優れる刺激応答性相互侵入高分子網目ゲル(IPNゲル)及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明者等鋭意検討を行った結果、ポリ酸性アミノ酸をジ−又はポリ官能基エポキシド架橋剤で架橋したゲルをN−イソプロピルアクリルアミド及び重合性二重結合を2個以上有する架橋剤を含む水溶液で膨潤させた後、光重合でN−イソプロピルアクリルアミドをポリ酸性アミノ酸ゲル内で重合させて相互侵入型高分子ゲルを得ることにより、pH応答性及び温度応答性及び耐塩性を兼ね備えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の第一の主題は即ち、ポリ酸性アミノ酸の架橋網目及びポリ−N−イソプロピルアクリルアミドの架橋網目が化学的な結合を持つことなく、独立に存在する状態で互いに絡み合った構造を有する相互侵入高分子網目ゲルである。
【0009】
前記相互侵入高分子網目ゲルにおいて、前記ポリ酸性アミノ酸が、ポリ−γ−グルタミン酸であることが好適である。
【0010】
前記相互侵入高分子網目ゲルにおいて、相互侵入高分子網目ゲルが、膨潤収縮挙動による温度応答性及びpH応答性を有することが好適である。
【0011】
前記相互侵入高分子網目ゲルにおいて、相互侵入高分子網目ゲルが、膨潤収縮挙動による耐塩性を有することが好適である。
【0012】
本発明の第二の主題は即ち、下記(A)〜(F)工程を含むことを特徴とする相互侵入高分子網目ゲルの製造方法である。
(A) ポリ酸性アミノ酸、及びジ−又はポリ官能基エポキシド架橋剤を含む水溶液を攪拌、加熱処理することにより、ポリ酸性アミノ酸架橋ゲルを形成させる工程。
(B) (A)工程後、ポリ酸性アミノ酸架橋ゲルを洗浄することにより、未反応のポリ酸性アミノ酸及び溶媒を除去する工程。
(C) (B)工程後、ポリ酸性アミノ酸架橋ゲル水溶液を凍結することにより、ポリ酸性アミノ酸ゲルの結晶を形成する工程。
(D) (C)工程後、真空乾燥することにより、高空隙率の多孔質体構造を形成する工程。
(E) (D)工程後、N−イソプロピルアクリルアミド、及び重合性二重結合を2個以上有する架橋剤を含む水溶液に上記工程で得られたポリ酸性アミノ酸ゲルを浸漬、UV照射することにより、ポリ酸性アミノ酸架橋ゲル内でN−イソプロピルアクリルアミドを架橋させ、相互侵入型高分子網目ゲルを形成する工程。
(F) (E)工程後、洗浄する工程。
【0013】
前記製造方法において、ポリ酸性アミノ酸が、ポリ−γ−グルタミン酸であることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のN−イソプロピルアクリルアミドをポリ酸性アミノ酸架橋ゲル内で重合させる製造方法によれば、pHと温度の両方の刺激に応答し、しかも耐塩性に優れる刺激応答性を兼ね備えた効果を発揮する相互侵入型高分子網目ゲルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の相互侵入高分子網目ゲルは、ポリ酸性アミノ酸の架橋網目及びポリ−N−イソプロピルアクリルアミドの架橋網目が互いに絡み合い、独立に存在する構造を有するため、各々の持つ温度応答性、pH応答性及び耐塩性を兼ね備える。本発明の相互侵入高分子網目ゲルは、図1に示すように、多孔質体構造のポリ酸性アミノ酸ゲル内にN−イソプロピルアクリルアミドを添加して浸漬により膨潤させ、UV照射により架橋重合反応させることによって相互侵入高分子網目ゲルを生成することを特徴とする。
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。初めに本発明の相互侵入型高分子網目ゲルの好適な製造方法について説明する。
(A)攪拌、加熱工程
本発明の相互侵入型高分子ゲルの製造方法においては、まず、架橋剤及びポリ酸性アミノ酸水溶液をインキュベータ及び混合攪拌装置で加熱攪拌処理を行って架橋化する。本工程でのポリ酸性アミノ酸水溶液におけるポリ酸性アミノ酸の濃度は、用いるポリ酸性アミノ酸の種類や分子量にもよるが、概ね1〜30質量%、好ましくは10〜20質量%程度とすることができる。架橋剤として、本発明において好ましくは、ジ−又はポリ官能基エポキシドが用いられる。
【0017】
ジ−又はポリ官能基エポキシドとして、具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グルセロールトリグリシジルエーテルなどが挙げられ、特に好ましくはエチレングリコールグリシジルエーテルが用いられる。上記溶媒中のジ−又はポリ官能基エポキシドの濃度は、ポリ酸性アミノ酸に対して5〜150質量%であることが望ましく、特に好ましくは10〜120質量%である。5質量%未満であると、架橋が充分に行われず、35質量%を超えると架橋はそれ以上進行しない。
【0018】
本工程に用いられるポリ酸性アミノ酸は、ポリ−α−グルタミン酸、ポリ−γ−グルタミン酸、ポリ−α−アスパラギン酸、ポリ−β−アスパラギン酸が挙げられ、生分解性に加えて生体適合性を有し、pH変化に対しても迅速な応答性を示す。特にポリ−γ−グルタミン酸が好適である。
【0019】
原料として用いるポリ酸性アミノ酸の分子量は特に限定されるものではないが、具体的には、平均分子量が5万〜1000万程度のものが、より好ましくは10〜100万程度のものが挙げられる。
【0020】
架橋剤を含む水溶液に浸漬したポリ酸性アミノ酸は、分子間架橋反応を促進するために、混合液を加熱処理することが好ましい。加熱温度は特に制限されないが、35℃〜80℃が好ましく、特に好ましい温度は40℃〜50℃である。80℃を超えるような温度で加熱すると、ポリ酸性アミノ酸の主鎖が切断され、架橋剤が多量に必要であり、得られるゲルの吸水性能が低くなる。35℃より低い温度では、ポリマーと架橋剤の反応が遅くなる。加熱処理する時間は1〜80時間が好ましく、特に好ましくは、40時間程度である。1時間未満であると架橋が充分に行われず、80時間より長く行ってもそれ以上架橋は進まず、製造工程に要する時間が延長されるに過ぎない。
【0021】
本工程においてpHは特に制限されないが、水溶液pHは副反応が起こり難い4.5〜5.5が好適である。pHが5.5より高いと、ポリマーのカルボキシル基と架橋剤のエポキシ基の反応性が低くなり、架橋反応が実質的に進行しなくなる。pHが4.5より低いと、ポリ酸性アミノ酸の主鎖の加水分解反応と、架橋剤のエポキシ基の加水分解反応も速くなる。
【0022】
(B)洗浄工程1
上記(A)工程後、未反応の架橋剤などが洗浄除去される。洗浄方法は上記未反応の架橋剤が除去できる方法であれば特に制限されないが、本発明において好適な洗浄方法の例を挙げる。洗浄に使用される溶媒は、アルコール、特にメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が好適に用いられる。洗浄方法としては、上記未反応の架橋剤が除去できる方法であれば制限されないが、具体的な洗浄方法として、上記分子間架橋物に対して十分量、具体的には容量で10〜50倍量の溶液に浸漬し、必要に応じて攪拌や振盪を加えながら適当な時間、例えば、12〜96時間放置する方法等が挙げられる。また、このような洗浄を、必要に応じて、2回以上行ってもよい。
【0023】
溶媒で洗浄することにより、未反応の架橋剤等を完全に除去することが可能となり、さらにポリ酸性アミノ酸架橋ゲルの最終形態が良好となり得る。
【0024】
さらに上記溶媒での洗浄後、次いで必要に応じて分子間架橋物中の溶媒を適当な方法で除去した後、水で洗浄することが望ましい。用いる水としては中性のイオン交換水が好ましい。洗浄方法としては、上記溶媒での洗浄と同様にして行うことができる。具体的には、上記分子間架橋物に対して十分量、具体的には容量で10〜30倍量の水に浸漬し、必要に応じて攪拌や振盪を加えながら適当な時間、例えば、12〜96時間放置する方法等が挙げられる。また、このような水による洗浄を、必要に応じて、2回以上行ってもよい。水で洗浄することにより、水溶性の未反応物の抽出除去と、溶媒の完全除去が可能となり、この後の(C)工程が円滑に行われるようになる。なお、前記水洗浄後の生成物は、水分を含んで膨潤した状態のものである。
【0025】
(C)凍結工程
上記(B)工程で洗浄したポリ酸性アミノ酸架橋ゲルを凍結する。本工程において凍結温度は、好ましくは液体窒素温度〜−30℃、さらに操作性を加味すると、より好ましくは−85〜−30℃の温度が用いられ、急速冷凍される。凍結時間は、凍結装置の大きさやポリ酸性アミノ酸架橋ゲルの量や形状に依存するので、それらに合わせて適宜選択すればよい。
【0026】
また、ポリ酸性アミノ酸架橋ゲルはシート状に成形される場合において、厚さを概ね2〜20mm、好ましくは、3〜5mm程度にすることにより、十分量の生理活性物質を含有することが可能となる。本工程におけるポリ酸性アミノ酸架橋ゲルの形状及び組成が、ほぼそのまま(D)真空乾燥工程後のポリ酸性アミノ酸架橋ゲルの多孔質体の形状及び組成となるため、本工程において凍結されるポリ酸性アミノ酸架橋ゲルの厚さは2〜20mmであることが好適である。
【0027】
(D)真空乾燥工程
上記(C)工程で凍結したポリ酸性アミノ酸架橋ゲルの水溶液は、真空乾燥することにより、多孔質状となる。真空乾燥とは、熱に敏感な湿り材料を凍結した状態で乾燥するために、空気の分圧を低くして乾燥する方法を指し、本発明においては、材料温度が0℃以下で乾燥が行われている。本工程では、凍結したポリ酸性アミノ酸架橋ゲルは減圧下で乾燥することによる気化熱(昇華熱)により、温度が低温に保たれ、解凍することはない。そのため、本工程における工程時の温度は特に限定されず、通常の室温とすることもできる。なお、ここで「室温」とは10〜25℃程度を意味する。減圧条件は、3〜50mmHg程度が好ましく、より好ましくは3〜10mmHg程度である。
乾燥処理の時間は、凍結乾燥装置の大きさやポリ酸性アミノ酸架橋ゲル体の量や形状に依存するので、それらに合わせて適宜選択すればよい。
【0028】
(A)〜(D)工程を含む製造方法により得られるポリ酸性アミノ酸架橋ゲルの多孔質体は、それ自体は非水溶性であるが高空隙率の多孔質構造を有することから高い吸水性、保水性を有し、生理活性物質の水溶液を多量に保持することが可能となる。また、ポリ酸性アミノ酸架橋ゲルをゲル形態のままで凍結するので、成型が簡単であり、水溶液を入れる容器の形を変えるだけで、所望の大きさのポリ酸性アミノ酸架橋ゲルの多孔質体が得られる。
【0029】
(E)浸漬、UV照射工程
上記(D)工程後、ポリ酸性アミノ酸ゲルをN−イソプロピルアクリルアミド、重合性二重結合を2個以上有する架橋剤、及び光重合開始剤を含む水溶液に浸漬し、UV照射処理を行ってN−イソプロピルアクリルアミドを架橋化する。本工程でのN−イソプロピルアクリルアミドにおけるポリ酸性アミノ酸の濃度は、用いるポリ酸性アミノ酸の種類や分子量にもよるが、概ね1〜30質量%、好ましくは2〜10質量%程度とすることができる。
【0030】
本工程において重合性二重結合を2個以上有する架橋剤は、例えば、メチレンビスアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、エチレンジメタクリレート、エチレンジアクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられ、特に好ましくはメチレンビスアクリルアミドが用いられる。上記溶媒中の重合性二重結合を2個以上有する架橋剤の濃度は、N−イソプロピルアクリルアミドに対して0.01〜30質量%であることが望ましく、特に好ましくは0.05〜10質量%である。
【0031】
本工程におけるポリ酸性アミノ酸及びポリ−N−イソプロピルアクリルアミドからなる相互侵入高分子網目ゲルの製造においては、通常、高圧水銀ランプに供することによって、UV照射させるものである。高圧水銀ランプは、当業者において公知である。UV照射する時間は0.5〜2時間が好ましく、特に好ましくは、1時間程度である。0.5時間未満であるとゲル化が充分に行われず、2時間より長く行ってもそれ以上ゲル化は進まず、製造工程に要する時間が延長されるに過ぎない。
【0032】
本工程において光重合開始剤は、水溶液中に均一に溶解されることが必要である。また、紫外光照射により、分解して反応性ラジカルを発生し、効率よく重合反応を誘起し得るものが選ばれる。このものとしては、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア1173、イルガキュア500、イルガキュア1000、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア1700、イルガキュア149、イルガキュア1800、イルガキュア1800、イルガキュア1850、イルガキュア819、イルガキュア784が挙げられ、特に好ましくはイルガキュア2959が用いられる。
【0033】
(F)洗浄工程2
本製造方法においては、上記(E)工程後、再び洗浄される。洗浄の条件は、上記(B)洗浄工程1における条件と同様とすることができる。
【0034】
(A)〜(F)工程を含む製造方法により得られる相互侵入高分子網目ゲルは、一方の高分子ネットワークの挙動がもう一方の高分子によって阻害されることなく、温度応答性及びpH応答性を保持することが可能となる。また、耐塩性も有しているので、生理的条件下での適応において優れるものである。
【0035】
従来の相互侵入高分子網目ゲルは各々の高分子の本来の刺激応答性が弱められてしまうことが多く、その水への分散性に耐塩性がないものであった。しかしながら、本発明の製造方法による相互侵入高分子網目ゲルは、生体適合性を向上させることができるため、ドラッグデリバリーシステムの基材、あるいは化粧料基材としてその応用が期待される。
【0036】
また、架橋された高分子と未架橋高分子との複合体からなるゲルの製造方法は知られているが、一方の架橋高分子ゲル内でもう一方の高分子を架橋重合して得られるゲルの製造方法は知られていない。本発明の製造方法は、N−イソプロピルアクリルアミドと架橋剤がポリ酸性アミノ酸ゲル内にて図1に示すように架橋重合が起こり、ポリ酸性アミノ酸及びポリ−N−イソプロピルアクリルアミドの架橋網目が化学的な結合を持つことなく、独立に存在する状態で互いに絡み合った構造を有する相互侵入高分子網目ゲルが生成されることが考えられる。
【0037】
相互侵入高分子網目ゲル配合化粧料としては、特に限定されず、例えば、乳液、クリーム、ローション、マッサージ料、スクラブ料などの基礎化粧料、ボディソープ、クレンジング等の洗浄料、ファンデーション、頬紅、口紅、アイシャドウ、アイブロウ、マスカラ、フェイスパウダー等のメークアップ化粧料、ヘアークリーム、ヘアートニック、トリートメント、育毛料、シャンプー、リンス等の毛髪化粧料等が挙げられる。また、その性状としては乳化状、可溶化状、液状、固形状、ジェル上、ムース状、スプレー状等が挙げられる。これらは、本発明の効果が損なわれない限り特に制限されない。
【0038】
実施例に先だって膨潤度の計算方法を下記に示す。膨潤度は下記の式に従って計算した。
【0039】
膨潤度=W/Wp
〔式中、Wpは乾燥時のゲルの重量、Wは平衡状態に達したときのゲルの質量を表す。〕
【0040】
以下、本発明の好適な実施例について詳しく説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
実施例1

(1)乾燥ポリ−γ−グルタミン酸ゲル 6.0mg
(2)イソプロピルアクリルアミド水溶液 818.0mg
(イソプロピルアクリルアミド 5.0質量%,
N,N’−メチレンビスアクリルアミド 2.0質量%含有)

【0041】
(1)ポリ−γ−グルタミン酸をポリ−γ−グルタミン酸水溶液全体の15質量%濃度となるように蒸留水に加え、攪拌して溶解させた。完全に溶解した後、ポリ−γ−グルタミン酸と架橋剤エチレングリコールジグリシジルエーテルの重量比が5対1になるように、エチレングリコールジグリシジルエーテルを加え、5分間攪拌した。エチレングリコールジグリシジルエーテルが均一に拡散したところで攪拌を止め、40℃に設定したインキュベータを用いて40時間架橋反応させた。
(2)生成したポリ−γ−グルタミン酸架橋ゲルを、蒸留水の入ったビーカーに入れ、3日間洗浄を行った。
(3)これを−30℃の冷凍庫で急速凍結し、真空乾燥してポリ−γ−グルタミン酸架橋ゲルの多孔質体を作成した。
(4)N−イソプロピルアクリルアミドを5質量%濃度、架橋剤N,N’−メチレンビスアクリルアミドを0.1質量%濃度となるように蒸留水に加え、さらに適量の重合開始剤イルガキュア2959を加えて、攪拌し溶解させた。該水溶液を818.0mgを量り取り、上記で得られた6.0mgのポリ−γ−グルタミン酸架橋ゲルを該水溶液に入れ、平衡膨潤状態に達するまで放置した。その後、高圧水銀ランプを用いて1時間UV照射し、イソプロピルアクリルアミドをゲル化させた。
(5)生成した相互侵入高分子網目ゲルを、蒸留水の入ったビーカーに入れ、3日間洗浄を行った。
【0042】
比較例1

(1)N−イソプロピルアクリルアミド 5.0 (質量%)
(2)N,N’−メチレンビスアクリルアミド 0.1 (質量%)

【0043】
(1)N−イソプロピルアクリルアミドを5質量%濃度、架橋剤N,N’−メチレンビスアクリルアミドを0.1質量%濃度となるように蒸留水に加え、さらに適量の重合開始剤イルガキュア2959を加えて、攪拌し溶解させた。溶解後、高圧水銀ランプを用いて1時間UV照射し、N−イソプロピルアクリルアミドをゲル化させた。
(2)生成したポリ−N−イソプロピルアクリルアミド架橋ゲルを、蒸留水の入ったビーカーに入れ、3日間洗浄を行った。
【0044】
比較例2

(1)ポリ−γ−グルタミン酸 15.0 (質量%)
(2)エチレングリコールジグリシジルエーテル 3.0 (質量%)

【0045】
(1)ポリ−γ−グルタミン酸をポリ−γ−グルタミン酸水溶液全体の15質量%濃度となるように蒸留水に加え、攪拌して溶解させた。完全に溶解した後、ポリ−γ−グルタミン酸と架橋剤エチレングリコールジグリシジルエーテルの重量比が5対1になるように、エチレングリコールジグリシジルエーテルを加え、5分間攪拌した。エチレングリコールジグリシジルエーテルが均一に拡散したところで攪拌を止め、40℃に設定したインキュベータを用いて40時間架橋反応させた。
(2)生成したポリ−γ−グルタミン酸架橋ゲルを、蒸留水の入ったビーカーに入れ、3日間洗浄を行った。
【0046】
試験方法
実施例1のポリ−γ−グルタミン酸とポリ−N−イソプロピルアクリルアミドから成る相互侵入高分子網目ゲル、比較例1のポリ−N−イソプロピルアクリルアミドゲル、及び比較例2のポリ−γ−グルタミン酸ゲルの温度変化、pH変化、塩化ナトリウム濃度変化に対する各膨潤度を測定した。
【0047】
温度応答性試験結果
温度応答性比較の結果を図2に示す。図2から分かるように、温度を23℃付近から36℃付近へ上昇させると、比較例1のポリ−γ−グルタミン酸ゲルの膨潤度は35%程度に低下したのに対し、実施例1の相互侵入高分子網目ゲルにおいては、6%程度に低下している。従って、相互侵入高分子網目ゲルはポリ酸性アミノ酸ゲルと比べて温度応答性が大きいことが明らかとなった。このことは、本発明の製造方法を用いることは、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドゲルがポリ酸性アミノ酸ゲルへ導入された新規な相互侵入高分子網目ゲルが生成したことを裏付けるものである。
【0048】
pH応答性試験結果
pH応答性比較の結果を図3に示す。図3から分かるように、pHを3付近から7付近へ上昇させると、比較例2のポリ−N−イソプロピルアクリルアミドゲルの膨潤度は1%程度に低下したのに対し、実施例1の相互侵入高分子網目ゲルにおいては、40%程度に低下している。従って、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドゲルに比べてpHに対する応答性は低下したものの、相互侵入高分子網目ゲルにpH応答性を有することが明らかとなった。
【0049】
耐塩性試験結果
耐塩性比較の結果を図4に示す。図4から分かるように、比較例2のポリ−N−イソプロピルアクリルアミドゲルは、塩濃度の増加に従って膨潤度が著しく低下している。一方、実施例1の相互侵入高分子網目ゲルは、比較例1のポリ−γ−グルタミン酸ゲルと同様に、塩濃度が増加しても膨潤度は変化せず、耐塩性が優れていることが明らかとなった。
【0050】
表面形態観察
ポリ−γ−グルタミン酸ゲル、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドゲル、及びポリ−γ−グルタミン酸とポリ−N−イソプロピルアクリルアミドから成る相互侵入高分子網目ゲルの表面形態を電解放出走査電子顕微鏡(FE−SEM)によって観察した。
図5から分かるように、ポリ−γ−グルタミン酸のゲルは、表面がフラットな状態で網目が観察されない。また、図6に示すように、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドは網目を形成することが観察される。一方、図7に示すように、ポリ−γ−グルタミン酸とポリ−N−イソプロピルアクリルアミドから成る相互侵入高分子網目ゲルは両者が分離せず、均一な構造を形成していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明にかかる相互侵入高分子網目ゲル作製を示す模式図である。
【図2】本発明にかかる相互侵入高分子網目ゲルの膨潤収縮挙動による温度依存性を示す図である。
【図3】本発明にかかる相互侵入高分子網目ゲルの膨潤収縮挙動によるpH依存性を示す図である。
【図4】本発明にかかる相互侵入高分子網目ゲルの膨潤収縮挙動による耐塩依存性を示す図である。
【図5】ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドゲルの表面形態図である。
【図6】ポリ−γ−グルタミン酸ゲルの表面形態図である。
【図7】ポリ−γ−グルタミン酸とポリ−N−イソプロピルアクリルアミドから成る相互侵入高分子網目ゲルの表面形態図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ酸性アミノ酸架橋ゲル及びポリ−N−イソプロピルアクリルアミド架橋ゲルが化学的な結合を持つことなく、独立に存在する状態で互いに絡み合った構造を有する相互侵入高分子網目ゲル。
【請求項2】
請求項1記載の相互侵入高分子網目ゲルにおいて、ポリ酸性アミノ酸がポリ−γ−グルタミン酸である相互侵入高分子網目ゲル。
【請求項3】
請求項1〜3記載の相互侵入高分子網目ゲルにおいて、膨潤収縮挙動に対する温度応答性及びpH応答性を有する相互侵入高分子網目ゲル。
【請求項4】
請求項1〜4記載の相互侵入高分子網目ゲルにおいて、膨潤収縮挙動に対する耐塩性を有する相互侵入高分子網目ゲル。
【請求項5】
下記(A)〜(F)工程を含むことを特徴とする相互侵入高分子網目ゲルの製造方法。
(A) ポリ酸性アミノ酸、及びジ−又はポリ官能基エポキシド架橋剤を含む水溶液を攪拌、加熱処理することにより、ポリ酸性アミノ酸架橋ゲルを形成させる工程。
(B) (A)工程後、ポリ酸性アミノ酸架橋ゲルを洗浄することにより、未反応のポリ酸性アミノ酸及び溶媒を除去する工程。
(C) (B)工程後、ポリ酸性アミノ酸架橋ゲル水溶液を凍結することにより、ポリ酸性アミノ酸架橋ゲルの形状及び組成を維持させる工程。
(D) (C)工程後、真空乾燥することにより、高空隙率の多孔質体構造を形成する工程。
(E) (D)工程後、N−イソプロピルアクリルアミド、及び重合性二重結合を2個以上有する架橋剤を含む水溶液に上記工程で得られたポリ酸性アミノ酸架橋ゲルを浸漬、UV照射することにより、ポリ酸性アミノ酸架橋ゲル内でN−イソプロピルアクリルアミドを架橋させ、相互侵入型高分子網目ゲルを形成する工程。
(F) (E)工程後、洗浄する工程。
【請求項6】
請求項5に記載の相互侵入高分子網目ゲルの製造方法において、ポリ酸性アミノ酸がポリ−γ−グルタミン酸である相互侵入高分子網目ゲルの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−280406(P2008−280406A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124601(P2007−124601)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】