説明

省力化軌道の補修改善工法及び補修改善装置

【課題】鉄道の省力化軌道に対し、不同沈下が生じたときに、限られた短時間で復元修正を可能にし、且つ路盤の耐圧強度の改善を図って繰り返しの動的荷重に対する耐久性を向上させる。
【解決手段】省力化軌道2に対し、軌道長手方向及びこの軌道長手方向に平面直交する軌間方向に離隔した複数箇所に、省力化軌道2の最下層であるてん充層4を支持した路盤3へ達する深さでそれぞれ薬液注入管15を突き刺し、省力化軌道2における軌道長手方向及び軌間方向の水準測量と並行しつつ各別の前記薬液注入管15から前記路盤3へ早期結合型の薬液材を順次注入して、路盤3の改善と省力化軌道2の扛上補修とを行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状に細長く且つ載荷重が小さいという特徴を有する鉄道の省力化軌道に対し、不同沈下が生じたときに、限られた短時間で復元修正を可能にする補修改善工法及び補修改善装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道の軌道構造として、粘性土などからなる路盤上に、凝固性のあるセメントモルタル系のてん充材で固めたてん充層(填充層)を形成させ、このてん充層で枕木を支持する省力化軌道と呼ばれるものがある。この省力化軌道を採用することにより、列車通過回数などに応じて定期的に行われるバラスト交換、道床つき固めなどの保線作業が軽減され、列車の乗り心地向上につながるとされている。
【0003】
ただ、この省力化軌道といえども、列車の走行荷重によって路盤の表層部の面圧が繰り返し変動する(動的荷重が振動のように負荷する)ことを原因として、路盤が軟弱地層である区間では沈下が起こり、その結果、てん充層の下面と路盤との上下間に空隙が生じることがある。路盤の沈下が進行すれば、それに伴って軌道もその長手方向に沿って上下変形を起こすようになり、列車の乗り心地が悪化し、甚だしい場合には列車の運行にも支障を来すことになる。
【0004】
そこで従来、軌道脇をバックホーなどの重機で掘削して、てん充層の下部に支持桟を差し込み、この支持桟を利用しててん充層自体をジャッキアップし、その後、てん充層の脇部と下部を型枠で囲ってからセメント系填充材を注入して、前記空隙を埋めるという修繕工法が採用されている。
他の具体例としては、路盤の表面に発生した空洞部(空隙)に高可塑材料を注入し、その後更に補修用填充材料を注入して、高可塑材料の一部を補修用填充材料と置換する工法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、てん充層下の地盤沈下部で、地盤の表面を乾燥させるとともに、発生した空隙部に補修用填充材料を充填する工法も提案されている(特許文献2参照)。
一方、地盤の改良技術として、建物など構築物の基礎地盤に対して複数箇所に薬液注入管を配置し、この薬液注入管により、瞬結性の薬液材を所定のインターバルで地盤内下部へ順次圧入し、地盤を改良すると同時に不同沈下した建物を押し上げて復元する工法が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4009257号公報
【特許文献2】特開2007−247356号公報
【特許文献3】特許第3126896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉄道の省力化軌道を修繕する従来工法では、いずれの工法も、基本的には路盤改良を目的としておらず、所定期間をおいて修繕を繰り返し行わなければならない問題があった。また、軌道脇を掘削する作業では、重機が使用困難となる狭隆部において施工不能となる場合があった。
殊に、特許文献1に記載の工法では、路盤の変状箇所にてん充材を注入するのが難しく、高精度の修正ができない問題があった。また、特許文献2に記載の工法では、路盤表面を乾燥する必要があるものの、路盤中の水分が継続的に滲出して乾燥を邪魔する問題があった。また、深夜など、列車が運休する限られた時間内だけでは、乾燥が不十分であり、しかも天候にも左右される(雨天時や高湿時には不可)という問題もあった。
【0008】
一方、特許文献3に記載の工法は、載荷重の大きな構築物には好適に採用可能であるが、鉄道の省力化軌道のように載荷重が小さな対象(帯状に細長い路盤)に生じた不同沈下を復元修正する作業には、そのまま適用するには多くの困難があった。また、限られた短い時間内で終わらせる必要がある場合には、不向きであった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、帯状に細長く且つ載荷重が小さいという特徴を有する鉄道の省力化軌道に対し、不同沈下が生じたときに、限られた短時間で復元修正を可能にし、且つ路盤の耐圧強度の改善を図って繰り返しの動的荷重に対する耐久性を向上させ得るようにした省力化軌道の補修改善工法及び補修改善装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る省力化軌道の補修改善工法は、省力化軌道に対し、軌道長手方向及びこの軌道長手方向に平面直交する軌間方向に離隔した複数箇所に、前記省力化軌道の最下層であるてん充層を支持した路盤へ達する深さでそれぞれ薬液注入管を突き刺し、前記省力化軌道における軌道長手方向及び軌間方向の水準測量と並行しつつ各別の前記薬液注入管から前記路盤へ早期結合型の薬液材を順次注入して、路盤改善と前記省力化軌道の扛上補修とを行うことを特徴とする。
【0010】
複数の前記薬液注入管から前記薬液材を注入する順番を、前記省力化軌道の軌道長手方向に沿った並び順とし、各々の前記薬液注入管を一巡させて前記薬液材を注入した後、注入した前記薬液材が前記路盤中で結合を開始するに必要な待ち時間をおいて、前記待ち時間の経過後に前記水準測量を行って前記省力化軌道の扛上度合いを確認し、前記水準測量の結果に基づいて再び、前記薬液注入管から前記薬液材の注入を始めることを繰り返すとよい。
【0011】
一方、本発明に係る省力化軌道の補修改善装置は、省力化軌道に対し、軌道長手方向及びこの軌道長手方向に平面直交する軌間方向に離隔した複数箇所で前記省力化軌道の最下層であるてん充層を支持した路盤へ達する深さで突き刺し可能とされた複数本の薬液注入管と、前記薬液注入管ごとに設けられて前記薬液材の注入の可否を切り換える給液切換装置と、前記各給液切換装置と給液管を介して接続される薬液供給装置とを有し、前記薬液供給装置には、複数本の前記給液切換装置を個別に切換操作して前記各薬液注入管に順次、前記薬液材を供給可能にする制御部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
前記省力化軌道の軌間内に設置された前記薬液注入管及び前記給液切換装置を、前記省力化軌道の軌間方向及び高さ方向に規定された建築限界に収まる大きさで覆って軌道上方から見えない状態に隠すことのできるカバー部材を有しているものとするのが好適である。
前記給液切換装置は、前記省力化軌道の軌道長手方向に沿って並んだ順番で直列に接続されているものとするのがよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る省力化軌道の補修改善工法及び補修改善装置は、帯状に細長く且つ載荷重が小さいという特徴を有する鉄道の省力化軌道に対し、不同沈下が生じたときに、限られた短時間で復元修正を可能にし、且つ路盤の耐圧強度の改善を図って繰り返しの動的荷重に対する耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る省力化軌道の補修改善工法の実施状況(カバー部材なし)を示した平面図である。
【図2】本発明に係る省力化軌道の補修改善工法の実施状況(カバー部材あり)を示した平面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図2のB−B線断面図である。
【図5】図1のC部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至図5は、本発明に係る補修改善装置1を用いて省力化軌道2の補修改善工法を実施している状況を示している。
なお、省力化軌道2は、図4に示すように、路盤3上に、凝固性のあるセメントモルタル系のてん充材で固めたてん充層4を形成させ、このてん充層4で軌道5を支持する構造となっている。路盤3は、粘性土などからなる下地層6を基礎として、この下地層6上に所定厚さのバラスト層7を形成させたものとしてあるのが一般的である。なお、路盤3にバラスト層7が含まれることは限定事項ではない。また軌道5は、コンクリート枕木8を下敷きにして、その上に軌間(レール間隔)を保持させて2本のレール9を固定することによって構成されている。
【0016】
本明細書では、省力化軌道2の説明に関して、軌道5の長手方向(レール9の長手方向に略同じ)を「軌道長手方向」と言い、この軌道長手方向に平面直交する方向(前記したレール間隔に対応する方向)を「軌間方向」と言うものとする。
本発明に係る補修改善装置1は、複数本の薬液注入管15と、各薬液注入管15ごとに設けられる給液切換装置16と、これら各給液切換装置16に対して高圧ホース等の給液管17を介して接続される薬液供給装置18と、省力化軌道2の軌間内に設置するカバー部材19とを有している。
【0017】
薬液注入管15は、省力化軌道2(てん充層4)の上部から地中へ向け突き刺した場合に、管先端部が路盤3へ達する長さを有した硬質(弾性変形を生じない程度の強度があればよい)の管材である。なお、路盤3にバラスト層7が含まれている場合、バラスト層7は浸透性が高くて、供給した薬液材を過度に散逸させてしまうおそれがあるため、薬液注入管15の管先端部は、下地層6まで届くようにしておくのが好適となる。具体的には、下地層6の層上面から5〜10mm程度、薬液注入管15の管先端部が下地層6中へ突き刺さるようにしておくのが好適である。
【0018】
この薬液注入管15は、内管と、この内管の外周に周隙間を保持して外嵌された外管とによる二重管構造を有している。内管及び外管は、薬液注入管15の管先端部で共に開口している。
そのため、この薬液注入管15では、内管を介して薬液材の供給が可能であると共に、内管と外管との間の周隙間を介して、別種の薬液材を供給することが可能である。そして、内管により供給した薬液材と、内外管の周隙間により供給した薬液材とを、管先端部で初めて合流させ、混合させることができるようになっている。
【0019】
この薬液注入管15は、省力化軌道2に対し、軌道長手方向及び軌間方向に離隔した複数箇所に設置する。本実施形態では、図1に示すように、軌道長手方向で4箇所、軌間方向で2箇所の合計8箇所に薬液注入管15を設置するのを1グループとして、このグループを、現場の状況に応じて複数グループ設けるようにしている。そのため、薬液注入管15は、8の倍数分の本数が必要となる。但し、これはあくまでも本実施形態の場合であり、薬液注入管15の必要本数が限定されるわけではない。
【0020】
給液切換装置16は、薬液注入管15ごとに設けられて、薬液注入管15に対する薬液材の注入の可否を切り換えるものである。この給液切換装置16は、電磁弁や電動弁、或いはエアシリンダ等のアクチュエータにより駆動される遠隔操作可能な切換弁20と、この切換弁20を軌道5上へ設置するための設置フレーム21とを有している。
前記したように、薬液注入管15は二重管構造とされて二種類の薬液材(以下、「A液」「B液」と言う。A液、B液の詳細については後述する。)を供給するようになっているため、切換弁20には、A液の注入可否を切り換えるA液用切換弁20Aと、B液の注入可否を切り換えるB液用切換弁20Bとを有したものが用いられている。個々の薬液注入管15に対して設けられたA液用切換弁20AとB液用切換弁20Bとは、同時に切り換え動作をするようになっている。
【0021】
なお、図1に示すように、各薬液注入管15ごとに設けられている切換弁20(20A,20B)は、省力化軌道2の軌道長手方向に沿って並んだ順番で、順次、薬液材が供給されるように、高圧ホース等の送液管22により直列に接続する。軌間方向に並ぶ薬液注入管15では、薬液材の供給順について先後関係は特に限定されない。
設置フレーム21は、図5に示すように、省力化軌道2の軌間内において、軌間方向の中央位置で、軌道長手方向に沿って枕木8と枕木8との間を渡るように設けられる取付脚25(図1参照)と、この取付脚25の両側に各1本づつ設けられる一対の安定脚26と、これら取付脚25及び安定脚26を連結するようにして軌間方向に設けられる支持台27とを有して形成されている。
【0022】
この設置フレーム21は、取付脚25の両端部に形成されたアンカー孔28から枕木8へ向けてアンカー等(図示略)を打ち込むことで、省力化軌道2に対して固定される。このとき、支持台27は、枕木8と枕木8との間でこれらと平行するように配置されることになり、この支持台27上で切換弁20(20A,20B)を保持するようになっている(図3参照)。
【0023】
薬液供給装置18は、A液の貯留部30及びB液の貯留部31を有していると共に、各給液切換装置16の切換弁20(20A,20B)を個別に切換操作する制御部32(図1参照)を有している。
制御部32は、各給液切換装置16の切換弁20(20A,20B)を、その配置順にしたがって順次、切り換え操作して、A液の貯留部30及びB液の貯留部31からの薬液材(A液及びB液)を、各切換弁20に対応する薬液注入管15へ供給させるものである。この制御部32では、切換弁20を切り換えさせる順番(薬液注入管15による注入順序)と、各薬液注入管15に対して薬液材を供給する供給量とを設定できるようになっている。また制御部32では、切換弁20を順次、切り換えさせる際のインターバルを設定することができる。
【0024】
制御部32が、一グループ内に含まれる全ての切換弁20について切り換えを一巡させた後(全ての薬液注入管15から薬液材を供給させた後)、一旦、全ての切換弁20を閉鎖状態にして薬液注入管15からの薬液材供給を停止させる。この状態で、作業者による次の操作入力を待つように構成されている。この待ち時間を使って、作業者が、省力化軌道2における軌道長手方向及び軌間方向の水準測量を行い、省力化軌道2の扛上度合いを確認するものとする。
【0025】
薬液材は、路盤3への注入後、迅速且つ高強度に硬化することによって、省力化軌道2に対する扛上作用(持ち上げる作用)を発現すると共に、路盤3を高強度に改善する作用を発現するものである。
前記したように、本実施形態において薬液材には、A液とB液との二材を路盤3中で混合させるものを用いている。ここにおいて、A液は主材となるものであり、B液は硬化剤として作用するものであるが、A液とB液との組み合わせや成分などは、現場の状況に応じて適宜使い分ければよい。例えば、瞬結性(ゲルタイムが5秒から30秒程度のもの)を示す組み合わせとしたり、瞬結性よりもゲルタイムがやや長い特性(一般に、中結性、急結性、通常型などと呼ばれているもの)を示す組み合わせとしたり、場合によっては超瞬結性(ゲルタイムが5秒以下のもの)を示す組み合わせとしたりすればよい。
【0026】
本実施形態において、A液には、水ガラス、非アルカリ性シリカゾル又はコロイダルシリカなどシリカ系材料を主成分としたものを用いるものとした。またB液には、セメント、スラグ、消石灰のうちいずれかを主成分とするか、又は複数種を主成分とする硬化剤(セメント・カルシウム系材料)を用いるものとした。
なお、A液には、低アルカリ性の急結セメント材(例えば、電気化学工業社製の商品名:デンカES)や、その他の非シリカ系材料を用いることもできる。またB液には、セメント・カルシウム系材料を用いることができる。この場合、A液又はB液のいずれか一方に、ゲル化調整剤を加えるのが好適である。
【0027】
カバー部材19は、省力化軌道2の軌間内に設置された薬液注入管15及び給液切換装置16を、省力化軌道2の軌間方向及び高さ方向に規定された建築限界M(図4中に二点鎖線で示す)に収まる大きさで覆うようになったものである。このカバー部材19を設置することにより、省力化軌道2の軌間内に設置された薬液注入管15及び給液切換装置16を、軌道上方(殊に、列車の運転士)から見えない状態に隠すことができる。従って、運転士にとって、列車の運転に目障りとなるのを防止できる。
【0028】
なお、カバー部材19は、全ての薬液注入管15及び給液切換装置16を覆う大きさであることが限定されるものではなく、一部の薬液注入管15や給液切換装置16がカバー外に曝されるようになってもよい。また、カバー部材19は、その全体を一体形成させる必要はなく、複数に分割された状態で運搬性を高めておき、省力化軌道2の軌間内に設置する過程で組み立てる構造とすればよい。
【0029】
このカバー部材19は、風雨や日照などに耐えるものであれば特にその材質が限定されるものではなく、例えば、金属製薄板やプラスチック製薄板、場合によっては厚手のシート材などによって形成することができる。
次に、本発明に係る補修改善工法を説明する。
省力化軌道2では、列車が軌道5上を頻繁に走行することにより、軌道5に作用する繰り返しの動的負荷が原因で、路盤3に不同沈下が発生し、てん充層4の下面と路盤3との上下間に空隙が生じることがある。殊に、路盤3が軟弱である区間などでは、空隙の生じる頻度が高く、空隙の程度も大きくなる傾向にある。このような空隙が発生すると、てん充層4の支持状態が不安定になり、それに伴って軌道5もその長手方向に沿って上下変形を起こすようになる。
【0030】
しかも、省力化軌道2は限られた幅で長い区間にわたり異なる地層にまたがって敷設されるので、路盤3の状態は一様でない。そのため、すべてに同条件の補修方法で済ませることはできない。従って、省力化軌道2の補修は、現場ごとの状況に対応した対策が必要になる。
そこでまず、空隙の発生した省力化軌道2の軌間内(レール9とレール9との間)で、軌道長手方向に沿った所定間隔をおいて(例えば、二本の枕木8おき)、てん充層4を貫通させて路盤3に届く注入孔を形成させる。そして、この注入孔にそれぞれ薬液注入管15を突き刺して、その先端が路盤3(下地層6)に達するように設置する。
【0031】
次に、薬液注入管15を設置した各箇所に対応させて、それぞれ給液切換装置16を設置する。給液切換装置16は、設置フレーム21(図5参照)の取付脚25に形成されたアンカー孔28から枕木8へ向けてアンカー等(図示略)を打ち込んで、省力化軌道2に固定する。
また、給液切換装置16の設置が全て完了した後、又は個々の設置作業に並行しつつ、各給液切換装置16の切換弁20(20A,20B)を、省力化軌道2の軌道長手方向に沿って並んだ順番で、薬液材が供給されるように、送液管22で直列に接続する(図1参照)。
【0032】
更に、これら給液切換装置16の切換弁20(20A,20B)を接続した配管経路の一部(直列接続とした一端側に配置された切換弁20)を、給液管17により薬液供給装置18と接続する。
なお、列車が頻繁に走行する区間では、一般的に運行休止時間が短く、しかもこの運行休止時間帯が夜間となる。従って、補修作業を行えるのは、夜間のごく短時間に限られている。そこで、上記のような薬液注入管15及び給液切換装置16の設置作業や、薬液供給装置18との接続作業など、準備工程と呼べる作業の実施日と、実際に、これらを用いる薬液注入工程と呼べる作業の実施日とを、分けて行うとよい。
【0033】
そのため、軌間内に設置した薬液注入管15と給液切換装置16の上側にカバー部材19を被せ置き、列車の運行に支障のないようにする。カバー部材19は、設置フレーム21等へネジ止めするか、又は枕木8へアンカー打ちするなどして、固定するのが好ましい。
準備工程を実施した日の後日、薬液注入工程を実施するには、まず薬液供給装置18において、A液とB液とを調整する。なお、カバー部材19は除去してもよいし、薬液注入管15や給液切換装置16に対する配管作業などが完了していれば除去しなくてもよい。
【0034】
薬液供給装置18の制御部32に対しては、給液切換装置16の切換弁20(20A,20B)を切り換えさせる順番(薬液注入管15による注入順序)と、各薬液注入管15に対して薬液材を供給する供給量とを設定しておく。また、切換弁20を順次、切り換えさせる際のインターバルを設定しておく。
薬液供給装置18を作動させると、制御部32の設定に基づいて、各切換弁20が順次、切り換えられ、A液の貯留部30及びB液の貯留部31において調整されたA液とB液とが、所定配置の薬液注入管15へと供給されることになる。
【0035】
薬液注入管15へ供給されたA液とB液は、管先端部から路盤3、即ち、てん充層4の下へと注入され、この注入の瞬間から互いに混合されて、硬化を始める(図1及び図4に破線で示したXの領域を参照)。なお、このときA液及びB液は、路盤3を形成している土壌とも急速に結合して土壌の耐圧強度を高めるようになる。それらの結果として、てん充層4が押し上げられ、省力化軌道2が全体として扛上する。
【0036】
制御部32は、一グループ内に含まれる全ての切換弁20について切り換えを一巡させ、全ての薬液注入管15から薬液材が供給された状態となると、全ての切換弁20を閉鎖状態にして、薬液注入管15からの薬液材供給を停止させる。この状態で、作業者による次の操作入力を待つ。この待ち時間を使って、作業者が、省力化軌道2における軌道長手方向及び軌間方向の水準測量を行い、省力化軌道2の扛上度合いを確認する。
【0037】
水準測量は、軌道5のレール9上で基準点となる所定位置から、各薬液注入管15の設置位置(即ち、薬液材の供給位置)近傍となるレール9上までの間で、省力化軌道2における軌道長手方向及び軌間方向について、レーザービーム(オートレベル)によるレベル計測を行う、という方法で実施すればよい。
この水準測量により、各薬液注入管15の設置位置で、省力化軌道2がどれだけ扛上されたか(持ち上げられたか)が判明するため、以後、この扛上高さを目安として、作業者による次の操作入力を行って、前記と同じ手順で薬液注入工程を繰り返すようにする。なお、水準測量ではmm単位での計測が可能であり、省力化軌道2の扛上高さもmm単位で調整できることになる。
【0038】
薬液注入工程の繰り返しでは、前回の注入で硬化した薬液材及び土壌が、路盤3中において円盤状の広がりを呈して存在している(図1及び図4に破線で示したXの領域を参照)。そのため、新たに注入される薬液材は、この円盤状の硬化部分に対する上側で拡散流動したり、この硬化部分を割裂してその下側で拡散流動したり、或いは、この硬化部分の中へ侵入した状態で固まりを形成したりする。その結果、この硬化部分のボリュウムが増大し、てん充層4と共に省力化軌道2が、更に扛上されることとなる。
【0039】
なお、路盤3内に注入される薬液材は、薬液注入管15の設置間隔に相当して、少しずつ位置を変えて注入されるので、限られた作業範囲内にとどまり、省力化軌道2の周辺部へ漏出することは殆どない。従って、環境汚染のおそれもない。
省力化軌道2が目標とした扛上レベルに達し、薬液注入工程を終了する場合は、給液切換装置16の切換弁20(20A,20B)を介して薬液注入管15へと洗浄液(例えば水)を注入し、薬液注入管15内の洗浄を行っておくのが好適である。
【0040】
以上、詳説したところから明らかなように、本発明では、短時間のインターバルを介しながら、所定配置の薬液注入管15から路盤3へ薬液材を注入することを、順次、位置を変えて繰り返すようにしている。そのため、帯状に細長く且つ載荷重が小さいという特徴を有する鉄道の省力化軌道2に対し、局部的な扛上を回避させながら、不同沈下の復元修正を行うことができる。
【0041】
このことから、修復区間が長い場合、所定作業時間での修復作業を終えた後、次の作業準備時間を利用して、隣接の修復区間に対して同じ修復作業を行い、全体的に所定の扛上レベルまで復元させる、といったことができる。
また、沈下状態から扛上修復された省力化軌道2にあっては、路盤3を形成する土壌(地盤)が薬液材との結合硬化によって改良され、耐圧強度が高められる。従って、それ以降の省力化軌道2は、動的負荷に対して安定した状態を長期にわたり維持できるものとなるという利点がある。
【0042】
また、準備工程と薬液注入工程とにつき、日を改めて(別の日に)実施することができるので、限られた短い夜間しか作業が行えないとしても、無理なく且つ容易、確実に作業の実施が可能であり、作業効率及び作業精度の向上を図ることができる。また、コスト面でも無駄を省いて、経済性を高めることができる。
また、準備工程では、省力化軌道2に設置の薬液注入管15及び給液切換装置16をカバー部材19で覆い隠すことにより、列車運行時において運転士の視界を妨げることもない。それ故に、準備工程で、多くの機器類を省力化軌道2上に設置することも可能となり、作業性が飛躍的に向上する。
【0043】
なお、作業終了後も、設置した薬液注入管15をそのまま省力化軌道2内に残すことができるから、扛上修復された省力化軌道2が、将来的に再び沈下することがあった場合には、設置済みの薬液注入管15を再使用して補修することが可能になる。
また、重機による掘削を伴わないから、重機による掘削が困難な狭隆部(例えば駅構内など)の省力化軌道2に対しても問題なく実施することができる利点がある。
【0044】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
例えば、薬液注入管15は、二重管構造にすることが限定されるものではなく、A液用管材とB液用管材とを2本一組で寄り添わせた構造としてもよい。
薬液注入管15は、軌間の外側、すなわち、レール9の外側からてん充層4へ突き刺すようにしてもよい。また給液切換装置16についても、軌間の外側に設置するようにしてもよい。
【0045】
薬液供給装置18は、例えば、軌道5上を走行できる軌陸車両又は保線車両に搭載し、高圧ポンプから省力化軌道2上に設置されている給液切換装置16の切換弁20(20A,20B)に薬液材を供給するようにすれば、軌道5上を移動させながら所要の区間で作業することができる。また、軌陸車両又は保線車両の車重が省力化軌道2を下向きに加圧することになるので、路盤3中で薬液材が硬化する際に適度な圧下を付与できることになる。これにより、路盤3の土壌を、より高密で高強度の土壌に改善することができる利点がある。
【0046】
薬液注入管15から薬液材を注入する順番を、省力化軌道2の軌道長手方向に沿った並び順とは異なる順番としてもよい。また、各薬液注入管15を一巡させてから水準測量を行うのではなく、必要数(1を含む)の薬液注入管15から薬液材を注入した後、頻繁に水準測量を行うようにしてもよい。これらは、現場の状況に応じて適宜選択すればよい。
【符号の説明】
【0047】
1 補修改善装置
2 省力化軌道
3 路盤
4 てん充層
5 軌道
6 下地層
7 バラスト層
8 枕木
9 レール
15 薬液注入管
16 給液切換装置
17 給液管
18 薬液供給装置
19 カバー部材
20 切換弁
20A A液用切換弁
20B B液用切換弁
21 設置フレーム
22 送液管
25 取付脚
26 安定脚
27 支持台
28 アンカー孔
30 A液貯留部
31 B液貯留部
32 制御部
M 建築限界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
省力化軌道に対し、軌道長手方向及びこの軌道長手方向に平面直交する軌間方向に離隔した複数箇所に、前記省力化軌道の最下層であるてん充層を支持した路盤へ達する深さでそれぞれ薬液注入管を突き刺し、
前記省力化軌道における軌道長手方向及び軌間方向の水準測量と並行しつつ各別の前記薬液注入管から前記路盤へ早期結合型の薬液材を順次注入して、路盤改善と前記省力化軌道の扛上補修とを行う
ことを特徴とする省力化軌道の補修改善工法。
【請求項2】
複数の前記薬液注入管から前記薬液材を注入する順番を、前記省力化軌道の軌道長手方向に沿った並び順とし、
各々の前記薬液注入管を一巡させて前記薬液材を注入した後、注入した前記薬液材が前記路盤中で結合を開始するに必要な待ち時間をおいて、前記待ち時間の経過後に前記水準測量を行って前記省力化軌道の扛上度合いを確認し、
前記水準測量の結果に基づいて再び、前記薬液注入管から前記薬液材の注入を始めることを繰り返す
ことを特徴とする請求項1記載の省力化軌道の補修改善工法。
【請求項3】
省力化軌道に対し、軌道長手方向及びこの軌道長手方向に平面直交する軌間方向に離隔した複数箇所で前記省力化軌道の最下層であるてん充層を支持した路盤へ達する深さで突き刺し可能とされた複数本の薬液注入管と、
前記薬液注入管ごとに設けられて前記薬液材の注入の可否を切り換える給液切換装置と、
前記各給液切換装置と給液管を介して接続される薬液供給装置とを有し、
前記薬液供給装置には、複数本の前記給液切換装置を個別に切換操作して前記各薬液注入管に順次、前記薬液材を供給可能にする制御部が設けられている
ことを特徴とする省力化軌道の補修改善装置。
【請求項4】
前記省力化軌道の軌間内に設置された前記薬液注入管及び前記給液切換装置を、前記省力化軌道の軌間方向及び高さ方向に規定された建築限界に収まる大きさで覆って軌道上方から見えない状態に隠すことのできるカバー部材を有していることを特徴とする請求項3記載の省力化軌道の補修改善装置。
【請求項5】
前記給液切換装置は、前記省力化軌道の軌道長手方向に沿って並んだ順番で直列に接続されていることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の省力化軌道の補修改善装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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