説明

眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケット及び成形型並びにその型を用いた眼鏡用プラスチックレンズ及びガスケットの製造方法

【課題】プラスチック製眼鏡用レンズ製造に用いられる成形型を構成するモールドへの樹脂カスの付着を大幅に抑え、レンズの製造工程において、モールド洗浄工程を容易にする。
【解決手段】眼鏡用プラスチックレンズの前面を形成するためのレンズ成形面を有する第1のモールドと前記眼鏡用プラスチックレンズの他方の面を形成するためのレンズ成形面を有する第2のモールドとを互いに対向させて組み込まれる筒状部と、前記筒状部の内周面全周にわたって一体に突設された両方のレンズ成形面と密着する突起帯と前記第1及び第2のモールドとによって形成される空間内に、レンズ原料液を外部より注入するために外部とつながる注入孔とを備えた眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットと、それを用いた成形型及びその成形型を用いた眼鏡用プラスチックレンズの製造方法並びに眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチック製眼鏡用レンズ成形用ガスケット及び成形型並びにその型を用いて製造された眼鏡用プラスチックレンズ及び前記ガスケットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック製レンズは、無機ガラス製レンズに比べて軽量性、安全性という特性を有するため広く利用されるようになってきている。特に、眼鏡用レンズにおいてはジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(以下、「CR−39樹脂」という)が主流であった。
しかしながら、この樹脂は屈折率が1.50程度と低く、ガラスレンズと比較するとレンズが厚くなるという問題があり、プラスチックレンズの高屈折率化の提案が種々なされている。(例えば、特許文献1及び2)
特許文献1に記載されている、ポリイソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させて得られるポリチオウレタン樹脂や、特許文献2に記載されているエピチオ基を有する化合物と、ポリチオール化合物とポリイソシアナート化合物とを重合させてなるプラスチックレンズは屈折率が高くアッベ数も大きいことから広く利用されるようになってきている。
通常、これらのプラスチックレンズを製造する工程は、レンズ原料となる主モノマー、及び必要な添加剤を秤量し、混合撹拌し、組成が均一な溶液とする調合工程、この溶液を、ガラス製又は金属製のモールドと、プラスチック製ガスケットとからなるレンズ成型用成形型に注入する注入工程、適当な温度プログラムで重合を行う重合工程、重合により得られたレンズを成形型から取り出す離型工程等からなっている。
注型重合に用いるモールドは通常離型工程後に洗浄を行い、表面を清浄な状態にして繰り返し使用される。洗浄前のモールドには通常ハンドリングにともなうチリ、汚れのほか、成形型のシール部となっているモールドとガスケットの接触部に基材レンズの樹脂カスが付着するため、これらを取り除く必要がある。通常これらモールドの洗浄にはアルカリ洗浄剤と超音波を組み合わせた多槽式洗浄装置を用いるのが最も一般的である。アルカリ洗浄剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ水溶液にアミン類、アルコール類、炭化水素類、界面活性剤等を配合したものが市販され、前出のCR−39樹脂、ポリチオウレタン樹脂からなるレンズ製造時のモールド洗浄剤として好適に用いられている。
【0003】
しかし、近年利用が進んでいる高屈折率プラスチックレンズ、例えば、プラスチックレンズ基材が1分子中に2個以上のエピチオ基を有する化合物を主成分とするモノマーを注型重合して得られた高屈折率プラスチックレンズは基材の耐薬品性が高く、従来のアルカリ洗浄剤と超音波を組み合わせた洗浄方法ではこれらの強固に付着した樹脂カスを取り除くことが非常に困難であった。
そのため、このようなモールドを洗浄するためには付着した樹脂カスをカミソリ等で削り取ったり、高圧水を樹脂カスに吹き付けて剥がし取ったりする等、何らかの物理的前処理を従来方法によるアルカリ洗浄と組み合わせて行わなければならなかった。
特許文献3には、樹脂カスを低減すべく、ガスケットに先端部が先細に形成された弾性変形可能なリング状の突起帯を設けることが提案されている。しかし、この方法は肉厚が薄く柔軟性の高いリング状突起体をその先端部まで全周にわたって精密に成型されていることが重要であり、ガスケットの生産性の良好な方法が要望されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−316250号公報
【特許文献2】特開2001−330701号公報
【特許文献3】特開2005−132043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の製造方法は、このような状況下で、プラスチック製眼鏡用レンズ製造に用いられる成形型を構成するモールドへの樹脂カスの付着を大幅に抑え、レンズの製造工程において、モールド洗浄工程を容易にすることを目的とする。
特に、眼鏡用レンズの前面を成形するためのモールドとガスケットとをモールドのレンズ成形面上でシールする場合において、モールド成形面への樹脂カスの付着を大幅に抑えることを目的とする。
また、これまで従来のアルカリ系洗浄剤と超音波の組み合わせだけではモールドに付着した樹脂カスの除去が困難であった1分子中に2個以上のエピチオ基を有する化合物を主成分とするモノマー組成物を含むレンズ原料液を重合して成る眼鏡用レンズを容易に製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は離型工程後のモールドに樹脂カスが付着することを抑える方法について種々検討を行なった。その結果、成形型のシール部となっているモールドとガスケットの接触部の断面形状によって樹脂カスの付着状況に大きな差があり、該形状に特定条件を加えることで付着する樹脂カスを極小に抑えることができることを見出した。そして、この方法を用いてモールドに付着する樹脂カスを極小に抑えると、プラスチックレンズ基材が1分子中に2個以上のエピチオ基を有する化合物を主成分とするモノマーを注型重合して得られた高屈折率樹脂であっても、従来より容易に樹脂カスを取り除くことができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)眼鏡用プラスチックレンズの前面を形成するためのレンズ成形面を有する第1のモールドと前記眼鏡用プラスチックレンズの他方の面を形成するためのレンズ成形面を有する第2のモールドとが間隔を保ってかつ前記レンズ成形面を互いに対向させて組み込まれる筒状部と、
前記筒状部の内周面全周にわたって一体に突設され、前記第1及び第2のモールドが組み込まれた状態で、前記第1及び第2のモールドの両方のレンズ成形面と密着する突起帯と、
前記突起帯と組み込まれた前記第1及び第2のモールドとによって形成される空間内に、レンズ原料液を外部より注入するために外部とつながる注入孔と
を備えた眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットであって、
前記突起帯は、前記第1のモールドが組み込まれた状態でその第1のモールドのレンズ成形面と実質線状に密着する先細の先端部を備え、
前記ガスケットの筒状部の中心軸を通る断面において、前記先端部は、その頂部が前記組み込まれた第1モールドのレンズ成形面と接触する点における当該レンズ成形面の法線方向に対して、頂部から内側に傾斜した内側傾斜面と、頂部から外側に傾斜した外側傾斜面とを有し、
前記先端部の頂部が前記組み込まれた第1モールドのレンズ成形面と接触する点における当該レンズ成形面の接平面と前記内側傾斜面との角度は、前記法線方向に対する前記内側傾斜面の角度の2倍以上であり、
前記先端部の頂部が前記組み込まれた第1モールドのレンズ成形面と接触する点における当該レンズ成形面の接平面と前記外側傾斜面との角度は、前記法線方向に対する前記外側傾斜面の角度の3分の1以上であり、
前記内側傾斜面と前記外側傾斜面との角度は、前記先端部の頂部が前記組み込まれた第1モールドのレンズ成形面と接触する点における当該レンズ成形面の接平面と前記外側傾斜面との角度以上であることを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケット、
(2)前記内側傾斜面と前記外側傾斜面の角度は60度以上であることを特徴とする前記(1)の眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケット、
(3)前記(1)又は(2)の眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットに、前記第1のモールドと前記第2のモールドを組み込んで形成される眼鏡用プラスチックレンズ成形用成形型、
(4)前記(1)又は(2)の眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットを用いて眼鏡用プラスチックレンズを製造する方法であって、
前記ガスケットの内部に、前記第1のモールドと前記第2のモールドとを間隔を保ってかつ前記レンズ成形面を互いに対向させて組み込み、前記第1のモールドのレンズ成形面と前記ガスケットの突起帯の先端部とを実質線状に密着させてシールすることにより眼鏡用プラスチックレンズ成形用成形型を形成する成形型形成工程と、
前記成形型形成工程により形成された成形型に、1分子中に2個以上のエピチオ基を含有するモノマー組成物を含むレンズ原料液を前記注入孔より前記成形型内に注入する注入工程と、
前記注入工程により注入された成形型の注入孔を密閉した後、前記モノマー成分を重合する重合工程と、
前記重合工程により重合後、ガスケットとモールドとを取り除く離型工程とを有する眼鏡用プラスチックレンズの製造方法、及び
(5)眼鏡用プラスチックレンズの前面を形成するためのレンズ成形面を有する第1のモールドと前記眼鏡用プラスチックレンズの他方の面を形成するためのレンズ成形面を有する第2のモールドとが間隔を保ってかつ前記レンズ成形面を互いに対向させて組み込まれる筒状部と、
この筒状部の内周面全周にわたって一体に突設され、前記第1及び第2のモールドが組み込まれた状態で、その第1及び第2のモールドの両方のレンズ成形面と密着する突起帯と、
前記突起帯と組み込まれた前記第1及び第2のモールドとによって形成される空間内に、レンズ原料液を外部より注入するために、外部とつながる注入孔と
を備えた眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットの製造方法であって、
前記突起帯は、前記第1のモールドが組み込まれた状態でその第1のモールドのレンズ成形面と実質線状に密着する先細の先端部を備え、
前記先端部は、前記筒状部の軸線方向に対して、その頂部から内側に傾斜した内側傾斜面と、頂部から外側に傾斜した外側傾斜面とを有し、
前記第1のモールドは、組み込まれた状態における前記軸線を含む断面において、そのレンズ成形面の前記先端部の頂部と接触する点における接線方向が異なる複数のものから選択され、
前記内側傾斜面と外側傾斜面は、下記条件式を満たす角度に設定されていることを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットの製造方法である。
C2≦P1≦(C1+30)
(60−P1)≦P2≦(67.5−C2)
(ただし、P1は、内側傾斜面とガスケット軸線方向との成す角度であり、P2は、外側傾斜面とガスケット軸線方向との成す角度であり、C1は、ガスケット軸に対して垂直な面と前記接線方向との成す角度が最小のモールドのその角度であり、C2は、ガスケット軸に対して垂直な面と前記接線方向との成す角度が最大のモールドのその角度である)
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法は、このような状況下で、眼鏡用プラスチックレンズ製造に用いられる成形型を構成するモールドへの樹脂カスの付着を大幅に抑えることができるため、レンズの製造工程において、モールド洗浄工程が極めて容易になった。
特に、これまでモールドに付着した樹脂カスの除去が困難であった1分子中に2個以上のエピチオ基を有する化合物を主成分とするモノマー組成物を含むレンズ原料液を重合して成る眼鏡用レンズのモールド洗浄工程が極めて効率よく実施できるようになり、生産性が大幅に改善された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第一の発明である眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットを以下、図面に基づいて説明する。
図1は本発明の眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットの一例を示す斜視図であり、図1に示すように、本発明の眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケット10(以下、「ガスケット10」という)は、ガスケット本体である筒状部11、突起帯12並びに注入口14及び注入孔15(図示しない)を有する注入部13とからなる。筒状部11の形状はリング状又は円筒状であり、筒状部11の内壁には、一対のモールドが所定の間隔を保って嵌め込まれる。
注入部13は、この一対のモールドの間に位置する筒状部11の壁を開口して設けられたものであり、注入口14は1個でも2個以上でも良い。この注入口14及び注入孔15の形状は任意であるが、モノマー組成物を含むレンズ原料液の注入が容易で、封止が円滑に行われるための構造を有することが必要である。
【0010】
図2は本発明の眼鏡用プラスチックレンズ成形用成形型1(以下、「成形型1」という)の一例を示す断面概略図である。図2に示すように、本発明の成形型1は、ガスケット10と、対向する一対のモールド、即ちレンズの前面を成形するためのレンズ成形面を有する第1のモールド20及びレンズの後面を成形するためのレンズ成形面を有する第2のモールド30とからなる。眼鏡用プラスチックレンズ成形時には、第1のモールド20及び第2のモールド30は空間(キャビティー)40を形成し、ガスケット10の注入口14から注入孔15を経て空間40内にモノマー組成物を含むレンズ原料液が注入され、所望の眼鏡用プラスチックレンズが製造される。このように、対向する一対のモールド20及び30によって、所望するプラスチックレンズの光学面(前面(凸面)と後面(凹面)が形成される。
ここで、本発明のガスケット10は、眼鏡用プラスチックレンズの前面(通常は凸面を形成するためのレンズ成形面21を有する第1のモールド20と前記眼鏡用プラスチックレンズの他方の面(後面、通常は凹面)を形成するためのレンズ成形面31を有する第2のモールド30とが間隔を保ってかつ前記レンズ成形面を互いに対向させて組み込まれる筒状部11と、前記筒状部の内周面全周にわたって一体に突設され、第1及び第2のモールド20及び30が組み込まれた状態で、第1及び第2のモールド20及び30の両方のレンズ成形面21及び31と密着する突起帯12と、突起帯12と組み込まれた第1及び第2のモールド20及び30とによって形成される空間40内に、モノマー組成物を含むレンズ原料液を外部より注入するために外部とつながる注入部13とを備える。注入部13は筒状部11の外側に設けられた開口部である注入口14と、注入口14と空間40とをつなげる注入孔15とを備える。
【0011】
図3(図3−a及びb)は、本発明の成形型1及びガスケット10の突起帯12の2つの実施態様を示す断面概略図である。図3−a及びbに示すように、突起帯12は、第1のモールド20が組み込まれた状態でその第1のモールド20のレンズ成形面21と実質線状に密着する先細の先端部12aを備え、筒状部11の中心軸(ガスケット軸ともいう)を通る断面において、先端部12aは、その頂部121aが組み込まれた第1モールド20のレンズ成形面21と接触する点における当該レンズ成形面の法線方向に対して、頂部121aから内側に傾斜した内側傾斜面122aと、頂部121aから外側に傾斜した外側傾斜面123aとを有し、先端部12aの頂部121aが組み込まれた第1モールド20のレンズ成形面21と接触する点における当該レンズ成形面21の接平面と内側傾斜面122aとの角度b1は、前記法線方向に対する内側傾斜面122aの角度B1の2倍以上であり、先端部12aの頂部121aが組み込まれた第1モールド20のレンズ成形面21と接触する点におけるレンズ成形面21の接平面と外側傾斜面123aとの角度a1は、前記法線方向に対する外側傾斜面123aの角度A1の3分の1以上であり、内側傾斜面122aと外側傾斜面123aとの角度(A1+B1)は、先端部12aの頂部121aが組み込まれた第1モールド20のレンズ成形面21と接触する点におけるレンズ成形面21の接平面と外側傾斜面123aとの角度a1以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明のガスケットの突起帯12の先端部12aが、頂部121aから当該レンズ成形面の法線方向に対して内側に傾斜した内側傾斜面122aと外側に傾斜した外側傾斜面123aを有しないと、後述するように角度a1、及び、角度(A1+B1)に十分な角度を与えることができなくなるので、本発明の課題を達成できない。
また、角度b1が角度B1の2倍未満であると、硬化したレンズの先端が破損し易くなり、モールドからの離型時にそこが破損すると、破損した先端部は樹脂カスとしてモールドに強固に付着して残ることになるので本発明の課題を達成できない。
さらに、角度a1が角度A1の3分の1未満であると、鋳型内部にモノマー組成物を注入したときモノマー組成物はモールドと該ガスケット突起体頂部の接触部に入り込むだけでなく、狭くなった該接触部の外側の空間に毛細管現象によって滲み出す。これを重合すると離型工程後のモールドには滲み出したモノマー組成物が樹脂カスとなって強固に付着して残ることになるので本発明の課題を達成できない。
そして、角度(A1+B1)が角度a1より小さいと突起帯12の先端部12aの剛性が不足するため、モールドが圧着したとき頂部121aが変形して接触面積が大きくなり、接触部に滲入したモノマー組成物が樹脂カスとなって強固に付着して残ることになるのでこの場合においても本発明の課題を達成できない。
【0013】
上述のように、本発明の成形型1はガスケット10に、第1のモールド20と第2のモールド30を組み込んで形成されるが、第1及び第2のモールド20及び30がガスケット10に組み込まれている状態において、ガスケット10は、拡径方向への弾性変形に対する復元力によりその内周面が第1及び第2のモールド20及び30の外周面を押圧してモールドを保持することが好ましい。この場合、第1のモールド20及び第2のモールド30はガスケット10の軸線方向の高さが十分で、モールド20及び30を嵌め込んだときに十分な押し込み量が確保できればモールドは適度な圧力で突起帯12の先端部12aに押圧されて固定される。なお、これ以外のモールドの保持方法としては、第1及び第2のモールドの両外側から押圧できるような弾性固定手段を用いても良い。
この作用効果を奏するためには、ガスケット10はプラスチック製であることが好ましく、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂のガスケット成型品がさらに好ましく用いられる。ポリオレフィン系熱可塑性樹脂のうち、成形性、柔軟性、耐熱性、耐モノマー安定性及び価格等の観点から、ポリオレフィン系エラストマーを用いるのが特に好ましい。ポリオレフィン系エラストマーの具体例としては、低密度ポリエチレンからなるポリエチレン系エラストマー、ポリプロピレンホモポリマーにゴム成分を微分散させたポリプロピレン系エラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びエチレン−アルキルアクリレート共重合体などが挙げられる。
図3−bは、本発明の他の実施態様を示す断面概略図である。この態様は突起帯12の第1モールド側の先端部12aについては図3−aで説明したものと同様の形状であるが、突起帯12の第2モールド側の先端部12bに、ガスケット軸に対して頂部から内側に傾斜する傾斜面を設けた例である。この例では突起帯11の第1モールド側の先端部と第2モールド側の先端部のそれぞれの頂部から内側にガスケット軸に対して内側に傾斜した面を持っている。このようにすることにより突起帯の第2モールド側の先端部がモールドと密着する際に変形しにくくなり、第2のモールドのレンズ成形面との接触面積も小さくできる。
【0014】
本発明の眼鏡用プラスチックレンズの第1の製造方法を、図2を参照してさらに詳細に説明する。本発明の製造方法は、以下の工程(1)〜(4)を含むが、必要に応じこれらの工程間に他の工程を付加しても良い。
(1)成形型形成工程
まず、本発明のガスケット10の内部に、第1のモールド20と第2のモールド30とを間隔を保ってかつ第1のモールド20のレンズ成形面21と第2のモールド30のレンズ成形面31とを互いに対向させて組み込み、第1のモールド20のレンズ成形面21とガスケット10の突起帯12の先端部12aとを実質線状に密着させてシールするとともに、第2のモールド30のレンズ成形面31とガスケット10の突起帯12の反対側の先端部12cとを密着させてシールすることにより成形型1を形成する。
(2)注入工程
次に、前記成形型形成工程により形成された成形型1に、1分子中に2個以上のエピチオ基を含有するモノマー組成物を含むレンズ原料液を前記注入孔15より前記成形型内に注入する。
まず、注入口14に挿入されたノズル(図示しない)からモノマー組成物を含むレンズ原料液が成形型1内の空間40に注入される。ノズルは、注入装置(図示しない)に接続され、この注入装置は、モノマー組成物を含むレンズ原料液が満たされたタンク(図示しない)に接続されている。モノマー組成物を含むレンズ原料液の注入は、空気や窒素による加圧又はポンプを用いて行うのが一般的であり、これらを組み合わせた方法を採用しても良い。
モノマー組成物を含むレンズ原料液は空間40内を満たし、注入口14の上部に達するまで行い、注入部13を封止する。封止方法としては特に限定しないが、例えばヒートシールフィルム(図示しない)で注入口14を封止しても良いし、注入孔15を圧接するなどして封止しても良い。
(3)重合工程
前記注入工程によりレンズ原料液が注入され、注入孔15が密閉された成形型1を適当な温度プログラムで加熱して前記モノマー成分を重合する。
(4)離型工程
前記重合工程により重合後、ガスケットとモールドとを取り除き、眼鏡用プラスチックレンズを得る。
【0015】
図4は、本発明の成形型1を用いた製造方法の離型工程前の成形型断面概略図(図4−a)及び離型工程後のモールドを示す断面概略図(図4−b)である。
上記の本発明の製造方法において、本発明のガスケット10を用いると、ガスケット10の突起帯12の先端部12aは図4−aに示す状態でレンズ成形面と接触しており、先端部12aの変形は小さく、モールド20のレンズ成形面21との接触面積も小さくなって、この部分へのモノマー組成物を含むレンズ原料液の滲入も少なくなる。その結果、図4−bに示すように離型工程後のモールドへの樹脂カス70の付着が著しく少なくなる。これにより、モールド洗浄工程を容易にすることができる。
【0016】
これに対し、図5に示すように、
突起帯の先端部の頂部から内側の面が、この頂部と接触する点における第1のモールドのレンズ成形面の法線方向に対して外側に傾斜し、かつ、頂部から内側の面と外側の面との間でなす角(A1−B1)が小さい比較例となるガスケットにおいては、図6−aに示すように、先端部12aの頂部121aが変形して頂部から外側の面とモールド20のレンズ成形面21との接触面積が拡大し、モノマー組成物を含むレンズ原料液が滲入するので、図6−bに示すように、多量の樹脂カスがモールド20表面に付着して残ることとなる。
従って、図3に示すように本発明のガスケット10はモールド20が押圧されたとき突起帯12の先端部12aが変形しにくいことが重要で、
頂部と接触する点における第1のモールドのレンズ成形面の法線方向に対して内側に傾斜した内側傾斜面122aと外側に傾斜した外側傾斜面とを有し、かつ、筒状部11の中心軸を通る断面において、内側傾斜面122aと外側傾斜面123aとの間でなす角度(A1+B1)が、先端部12aの頂部121aが組み込まれた第1モールド20のレンズ成形面21と接触する点における当該レンズ成形面21の接平面と外側傾斜面123aとの角度a1よりも大きい事を要し、60度以上であることが好ましい。角度(A1+B1)が60度以上であると、先端部12aの頂部121aの変形が小さく、モールド20のレンズ成形面21との接触面積も小さくなる。これにより、モノマー組成物を含むレンズ原料液の滲入も少なく、モノマー組成物を含むレンズ原料液の重合後、レンズ成形面21に残る樹脂カス付着が大幅に低減し、モールド洗浄工程を容易にする。
【0017】
また、図7に示した従来のガスケットのように、突起帯12の先端部の頂部におけるレンズ成形面21の接平面と外側傾斜面123aとの角度a1が小さい場合は、図8−aに示すように、モノマー組成物を含むレンズ原料液が毛細管現象により内側の空間から頂部121aを越えて外側に滲み出る量が多くなり、これをそのまま重合すると滲み出したモノマー組成物がモールド20のレンズ成形面21上で固化する。これを離型すると図8−bに示すように、多量の樹脂カスが付着して残ることとなる。
従って、本発明のガスケット10の突起帯12の先端部12aにおいては、当該レンズ成形面の接平面と外側傾斜面123aとの角度a1が前記角度A1の3分の1以上であることが必要であり、この場合、モノマー組成物を含むレンズ原料液が毛細管現象により内側の空間40から頂部121aを越えて外側に滲み出る量が少ないので、モノマー組成物を含むレンズ原料液の重合後、モールド20表面に残る樹脂カス付着が大幅に低減しモールド洗浄工程を容易にする。
【0018】
また、図9に示すように、筒状部11の中心軸を通る断面において、レンズ成形面21の接平面と内側傾斜面122aとの角度b1が小さく、角度b1が前記法線方向に対する内側傾斜面の角度B1の2倍より小さい比較例となるガスケットにおいては、成型時のレンズエッジ部に相当する角度b1が小さいため、図10−aに示すように、硬化したレンズ60の周縁の角の先端が破損し易くなる。モールドからの離型時にそこが破損すると、多くの場合、図10−bに示すように、破損した先端部は樹脂カスとしてモールドに強固に付着して残ることになる。
上述より、角度b1が角度B1の2倍以上であればエッジ部先端が破損しなくなるため、モールドへの樹脂カス付着を防ぐことができてモールド洗浄工程を容易にする。
一方、図7に示すように内側傾斜面122aを持たず、頂部121aからガスケット軸線方向と一致する内面を有するガスケットにおいては本発明の要件、すなわち、角度a1、角度b1、角度(A1+B1)の各条件を同時に満たすことができないのでモールド表面に残る樹脂カス付着を低減することができない。
【0019】
本発明において、1分子中に2個以上のエピチオ基を有する化合物の具体例としては、1,3及び1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3及び1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕メタン、2,2−ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕プロパン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕スルフィド等の脂環族骨格を有するエピスルフィド化合物;1,3及び1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,3及び1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕プロパン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕スルフィン、4,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ビフェニル等の芳香族骨格を有するエピスルフィド化合物;2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオエチルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオエチル)−1,4−ジチアン、2,3、5−トリ(β−エピチオプロピルチオエチル)−1,4−ジチアン等のジチアン環骨格を有するエピスルフィド化合物;2−(2−β−エピチオプロピルチオエチルチオ)−1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオ〕−3−(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、テトラキス(β−エピチオプロピルチオメチル)メタン、1,1,1−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、ビス−( β−エピチオプロピル) スルフィド等の脂肪族骨格を有するエピスルフィド化合物などが挙げられる。
エピスルフィド化合物は従来より知られており、エピスルフィド系モノマーとして開示している公報の具体例としては、特開平09−071580号公報、特開平09−110979号公報、特開平09−255781号公報、特開平03−081320号公報、特開平11−140070号公報、特開平11−183702号公報、特開平11−189592号公報、特開平11−180977号公報、特再平01−810575号公報等が挙げられる。これらの公報に開示されているエピスルフィド系モノマーは、本発明における1分子中に2個以上のエピチオ基を有する化合物に該当する。
製造するレンズがこれらを含むモノマー組成物からなる樹脂からなる場合はCR−39樹脂、ポリチオウレタン樹脂等と比較して極めて耐薬品性が高く、洗浄剤によるモールド洗浄の効果が得られにくいため、本発明の様に樹脂カス自体を極小に抑える方法が特に有効である。
【0020】
本発明で用いるモノマー組成物を含むレンズ原料液には、通常プラスチックレンズの製造に用いる公知の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
上記添加剤としては、例えば、吸光特性を改良するための、紫外線吸収剤、色素及び顔料等、耐候性を改良するための、酸化防止剤及び着色防止剤等、成形加工性を改良するための離型剤等を挙げることができる。
ここで、紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系及びサリチル酸系等が、色素や顔料としては、例えばアントラキノン系及びアゾ系等が挙げられる。酸化防止剤や着色防止剤としては、例えばモノフェノール系、ビスフェノール系、高分子型フェノール系、硫黄系及びリン系等が、離型剤としては、例えばフッ素界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、酸性リン酸エステル及び高級脂肪酸等が挙げられる。
【0021】
次に、本発明の眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットの製造方法を、図11を参照しつつ説明する。図11は、本発明のガスケットの製造方法を示す断面概略図である。
本発明のガスケットの製造方法は、眼鏡用プラスチックレンズの前面(凸面もしくは平面)を形成するためのレンズ成形面21を有する第1のモールド20と前記眼鏡用プラスチックレンズの他方の面(後面)を形成するためのレンズ成形面31を有する第2のモールド30とが間隔を保ってかつレンズ成形面21及び31を互いに対向させて組み込まれる筒状部11と、この筒状部11の内周面全周にわたって一体に突設され、第1及び第2のモールド20及び30が組み込まれた状態で、その第1及び第2のモールド20及び30の両方のレンズ成形面21及び31と密着する突起帯12と、突起帯12と組み込まれた第1及び第2のモールド20及び30とによって形成される空間40内に、レンズ原料液を外部より注入するために、外部とつながる注入孔15とを備えた眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットの製造方法である。
そして、突起帯12は、第1のモールド20が組み込まれた状態でその第1のモールド20のレンズ成形面21と実質線状に密着する先細の先端部12aを備え、先端部12aは、頂部121aを通るガスケット軸線方向(筒状部11の軸線方向と方向が一致する)124aに対して、その頂部121aから内側に傾斜した内側傾斜面122aと、頂部から外側に傾斜した外側傾斜面123aとを有し、組み込まれる第1のモールド20は、組み込まれたレンズ成形面21の頂部121aが接触する点における接線方向211が異なる複数のものから選択される場合に、内側傾斜面122aと外側傾斜面123aは、下記条件式(1)及び(2)を満たす角度に設定されていることを特徴とする。
C2≦P1≦(C1+30) ・・・・・条件式(1)
(60−P1)≦P2≦(67.5−C2) ・・・・・条件式(2)
ここで、P1は、内側傾斜面122aとガスケット軸線方向124aとの成す角度であり、P2は、外側傾斜面123aとガスケット軸線方向124aとの成す角度であり、C1は、ガスケット軸に対して垂直な面125と前記接線方向211との成す角度が最小のモールド20xのその角度であり、C2は、ガスケット軸に対して垂直な面125と前記接線方向211との成す角度が最大のモールド20yのその角度である。
【0022】
上記の条件式(1)において、C2≦P1と限定するのは、内側傾斜面122aは頂部121aがレンズ成形面21と接触する点における当該レンズ成形面の法線方向よりも内側に傾斜していなければならないとする本発明の要件を満たすために、P1がC2以上でなくてはならないからであり、P1≦(C1+30)と限定するのは、頂部121aがレンズ成形面21と接触する点における当該レンズ成形面21の接平面と内側傾斜面122aとの角度b1は、前記法線方向に対する内側傾斜面122aの角度B1の2倍以上とする本発明の要件を満たすために、P1はC1に30度加えた角度以下でなくてはならないからである。
また、条件式(2)において、(60−P1)≦P2と限定するのは、角度(P1+P2)、すなわち、角度(A1+B1)が60度以上であると本発明の要件を満たすのに特に好ましいからであり、P2≦(67.5−C2)と限定するのは、頂部121aがレンズ成形面21と接触する点における当該レンズ成形面21の接平面と外側傾斜面123aとの角度a1は、前記法線方向に対する外側傾斜面123aの角度A1の3分の1以上とする本発明の要件を満たすために、P2は67.5度からC2を差し引いた角度以下でなくてはならないからである。
このように条件式(1)、(2)を用いて、突起帯の先端部の内側傾斜面と外側傾斜面の角度とを設定することにより、ガスケットに組み込まれる第1モールドがレンズ成形面の形状の異なる複数種から選択される場合に、どの第1モールドが組み込まれても樹脂カスのレンズ成形面への付着を極力抑えることができるガスケットを容易に得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1
オレフィン系熱可塑性樹脂に分類されるポリエチレンエラストマー(住友化学製、商品名「エクセレンFX」)を用いて図1、図2及び図3−aに示すに示す形状の注入口及び注入孔付き筒型ガスケットを射出成型により得た。純水洗浄によりガスケット表面の異物を除いてから十分に乾燥し、図2に示すように、上記筒型ガスケットの筒状部11の上側と下側にガラス製の第1のモールド(上型モールド)20と第2のモールド(下型モールド)30を嵌め込んで、プラスチックレンズ成型用成形型を形成した。ガスケットは各モールドと接触する先端部12aの断面が図3−aに示す形状になるように設計されており、第1のモールド20と第2のモールド30と接触するガスケットの突起帯12断面の頂部121aの内側傾斜面122aと外側傾斜面123aとの角度(A1+B1)は75度であった。ここで、角度A1は60度であり、角度B1は15度であった。なお、ガスケットの筒状部11の内径はモールドの外形より僅かに小さく形成されており、組み込まれたモールドは、ガスケット筒状部11の弾性変形に対する復元力により筒状部内壁面がモールド外周面を押圧して保持されている。
また、先端部12aの頂部121aが第1モールド20のレンズ成形面21と接触する点におけるレンズ成形面21の接平面と外側傾斜面123aとの角度a1は30度であり、先端部12aの頂部121aが第1モールド20のレンズ成形面21と接触する点におけるレンズ成形面21の接平面と内側傾斜面122aとの角度b1は75度であった。
【0024】
次に1,2:6,7−ジエピチオ−4−チアヘプタン約500gを−15℃に冷却した後、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製0.5μmメンブランカプセルカートリッジフィルター(アドバンテック社製、型番:CCF−050−C1B)を取り付けた加圧タンクに入れ、窒素圧約2.5kgf/cm2程度の圧力で加圧ろ過を行った。このろ過したモノマーを用い、室温で下記のように原料混合物を調製した。
1,2:6,7−ジエピチオ−4−チアヘプタン(DETH)450.0g、ジメルカプトエチルスルフィド(DMES)25.0g、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート(HPPA)25.0g、ジエチルアミノエタノール1.50g(DETH+DMES+HPPAに対して0.3重量%)、2(2′−ヒドロキシ−5′−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール0.25g。
この原料混合物を室温で約20分間撹拌し、溶解を確認したのち、10mmHg下で1分間程度軽く泡抜きを行った。これを加圧タンクに入れ、PTFE製1.0μmメンブランカプセルカートリッジフィルター(アドバンテック東洋社製、型番:CCF−100−C1B)で異物をろ過しながら、成形型1に泡を含まないように注入し、ヒートシールにて注入孔15を封止した。重合は空気炉を使用して20℃で10時間保持したのち、3時間かけて30℃まで昇温後、4時間かけて45℃まで昇温し、さらに4時間かけて100℃まで昇温してから100℃で1時間保持することで行った。放冷後、型から樹脂を取り外し、屈折率(nd)=1.70、アッベ数36の眼鏡用プラスチックレンズを得た。
レンズの製造に用いた成形型1は本発明の要件を満たしているため、離型後のモールドには肉眼で見える樹脂カスはほとんど付着していなかった。
【0025】
比較例1
実施例1と同様にしてプラスチックレンズ成形型を準備した。ただし、ここで用いたガスケットは各モールドとの接触部の断面が図5のようになるように設計されており、角度A1は60度、角度B1は30度であって、角度(A1−B1)は30度であった。また、角度a1は30度、角度b1は120度であって、本発明の要件を満たしていないものであった。
次に、実施例1と全く同様に原料混合物の調製から該鋳型への注入、ヒートシール、重合までの操作を行い、屈折率(nd)=1.70、アッベ数36の眼鏡用プラスチックレンズを得た。
しかし、レンズの製造に用いた成形型は本発明の要件を満たしていないため、離型後のモールド成型面にはガスケットとの接触部に相当する周辺部に幅約0.7mmのリング状樹脂カスの付着が全周に認められた。
【0026】
比較例2
実施例1と同様にしてプラスチックレンズ成形型を準備した。ただし、ここで用いたガスケットは各モールドとの接触部の断面が図7のようになるように設計されており、角度A1は75度、角度B1は8度であって、角度(A1−B1)は67度であった。また、角度a1は15度、角度b1は98度であって、本発明の要件を満たしていないものであった。
次に実施例1と全く同様に原料混合物の調製から成形型への注入、ヒートシール、重合までの操作を行い、屈折率(nd)=1.70、アッベ数36の眼鏡用プラスチックレンズを得た。
しかし、レンズの製造に用いた成形型は本発明の要件を満たしていないため、離型後のモールド成型面にはガスケットとの接触部に相当する周辺部に幅約0.8mmのリング状樹脂カスの付着が全周に認められた。
【0027】
比較例3
実施例1と同様にしてプラスチックレンズ成形型を準備した。ただし、ここで用いたガスケットは各モールドとの接触部の断面が図9のようになるように設計されており、角度A1は60度、角度B1は40度であって、角度(A1+B1)は100度であった。また、角度a1は30度、角度b1は50度であって、本発明の要件を満たしていないものであった。
次に実施例1と全く同様に原料混合物の調製から該鋳型への注入、ヒートシール、重合までの操作を行い、屈折率(nd)=1.70、アッベ数36の眼鏡用プラスチックレンズを得た。
しかし、レンズの製造に用いた成形型は本発明の要件を満たしておらず、レンズ周辺端部が鋭角となっているため、離型後のモールド成型面には離型時に破損した該端部の樹脂片が部分的に強固に付着しているのが認められた。
【0028】
モールドの洗浄
実施例1、及び、比較例1、2、3で用いられたモールドを12槽式超音波洗浄装置に投入して洗浄を行なった。このときの洗浄条件、特に超音波洗浄装置条件及び洗浄剤仕様、並びに洗浄結果は以下表1〜3の通りである。実施例1では洗浄装置投入前の樹脂カスが極めてわずかであったために本洗浄方法で樹脂カスを除くことができたのに対し、比較例1、2、3では洗浄装置投入前の樹脂カスが多かったために洗浄後も樹脂カスがほとんど除かれていなかった。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
実施例2
次にガスケットに組み込まれる凸面を形成するためのモールド(第1のモールド)のレンズ成形面の形状を基に、ガスケットの突起帯12の先端部12aの内側傾斜面122aと外側123aのそれぞれの角度を設定する方法の例について説明する。ガスケットは図1、図2、図3−a及び図11に示す形状の筒状ガスケットであり、突起帯12の先端部12aの頂部121aでの半径が38mmである。このガスケットに組み込む第1のモールド20は、レンズ成形面21の極率半径が無限大のモールド(頂部121aでのレンズ成形面21の接平面とガスケット軸直行面との角度は0度。)、レンズ成形面21の極率半径が258mmのモールド(頂部121aでのレンズ成形面21の接平面とガスケット軸直行面との角度が8度)、レンズ成形面21の極率半径が123mmのモールド(頂部121aでのレンズ成形面21の接平面とガスケット軸直行面との角度が18度)の3種類から選択される。
このようなガスケットとモールドを用いる場合において、ガスケット軸方向に対する内側傾斜面122aの角度P1と、ガスケット軸方向に対する外側傾斜面123aの角度P2とを、前述したとおりの下記条件式(1)、(2)を満たすように設定する。
C2≦P1≦(C1+30) ・・・・・条件式(1)
(60−P1)≦P2≦(67.5−C2)・・・・・条件式(2)
この場合、ガスケット軸に対して垂直な面と頂部におけるレンズ成形面の接線方向との成す角度が最小のモールドのその角度C1は0度であり、最大のモールドのその角度C2は18度である。従って、P1は上記条件式(1)により、18〜30度の範囲内で設定する。ここではP1を27度に設定した。次にP2は上記条件式(2)により、33〜49.5度の範囲内で設定する。ここではP2を48度に設定した。このように条件式によって設定された内側傾斜面と外側傾斜面の角度は、前記した樹脂カスの付着を極力抑えるための内側傾斜面と外側傾斜面の角度条件を満たしている。
このようにして設定された内側傾斜面と外側傾斜面とを有するガスケットを実施例1と同様に射出成型により製造する。このように製造したガスケットに前記3種類の第1モールドと、同一形状の第2のモールドをそれぞれ組み込み、3つの成形型を得た。
得られた成形型に実施例1と全く同様に原料混合物の調製からこれらの成形型への注入、ヒートシール、重合までの操作を行い、それぞれ屈折率(nd)=1.70、アッベ数36の眼鏡用プラスチックレンズを得た。いずれの離型後の第1モールドにも肉眼で見える樹脂カスはほとんど付着していなかった。
また、実施例2で用いられたモールドを実施例1で用いた12槽式超音波洗浄装置に投入して洗浄を行なった。洗浄装置投入前のモールドのレンズ成形面には樹脂カス付着が極めてわずかであったため、いずれの第1モールドも本洗浄方法で十分これらを除くことができた。
このように条件式(1)、(2)を用いて、突起帯の先端部の内側傾斜面と外側傾斜面の角度とが設定されたガスケットは、想定される第1モールドの中からどのモールドが組み込まれた場合も樹脂カスのレンズ成形面への付着を極力抑えることができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、プラスチックレンズの製造工程作業を、高速、かつ効率的に行うことができ、また、本発明の製造方法により製造されたプラスチックレンズには脈理がなく、眼鏡用レンズなどとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のガスケットの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の成形型の一例を示す断面概略図である。
【図3】本発明の成形型及びガスケットの突起帯の実施態様を示す断面概略図である。
【図4】本発明の成形型を用いた製造方法の離型工程及び離型工程後のモールドを示す断面概略図である。
【図5】比較例の成形型の一例を示す断面概略図である。
【図6】図5の比較例の成形型を用いた製造方法の離型工程及び離型工程後のモールドを示す断面概略図である。
【図7】比較例の成形型の他の一例を示す断面概略図である。
【図8】図7の比較例の成形型を用いた製造方法の離型工程及び離型工程後のモールドを示す断面概略図である。
【図9】比較例の成形型の他の一例を示す断面概略図である。
【図10】図9の比較例の成形型を用いた製造方法の離型工程及び離型工程後のモールドを示す断面概略図である。
【図11】本発明の眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットの製造方法を示す断面概略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 成形型
10 ガスケット
11 筒状部
12 突起帯
12a、12b 先端部
121a、121b 頂部
122a、122b 内側傾斜面
123a、123b 外側傾斜面
124 ガスケット軸線方向
124a 突起帯の先端部の頂部121aを通るガスケット軸線方向
125 ガスケット軸に対して垂直な面
126 ガスケット中心線
13 注入部
14 注入口
15 注入孔
20 第1のモールド
21 第1のモールドのレンズ成形面
211 第1のモールドのレンズ成形面の、突起帯の先端部の頂部が接触する点における接線方向
20x ガスケット軸に対して垂直な面125と接線方向211との成す角度が最小のモールド
20y ガスケット軸に対して垂直な面125と接線方向211との成す角度が最大のモールド
30 第2のモールド
31 第2のモールドのレンズ成形面
40 空間
50 弾性固定手段
60 硬化したレンズ
70 樹脂カス
M 連結幅
N 突出幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡用プラスチックレンズの前面を形成するためのレンズ成形面を有する第1のモールドと前記眼鏡用プラスチックレンズの他方の面を形成するためのレンズ成形面を有する第2のモールドとが間隔を保ってかつ前記レンズ成形面を互いに対向させて組み込まれる筒状部と、
前記筒状部の内周面全周にわたって一体に突設され、前記第1及び第2のモールドが組み込まれた状態で、前記第1及び第2のモールドの両方のレンズ成形面と密着する突起帯と、
前記突起帯と組み込まれた前記第1及び第2のモールドとによって形成される空間内に、レンズ原料液を外部より注入するために外部とつながる注入孔と
を備えた眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットであって、
前記突起帯は、前記第1のモールドが組み込まれた状態でその第1のモールドのレンズ成形面と実質線状に密着する先細の先端部を備え、
前記ガスケットの筒状部の中心軸を通る断面において、前記先端部は、その頂部が前記組み込まれた第1モールドのレンズ成形面と接触する点における当該レンズ成形面の法線方向に対して、頂部から内側に傾斜した内側傾斜面と、頂部から外側に傾斜した外側傾斜面とを有し、
前記先端部の頂部が前記組み込まれた第1モールドのレンズ成形面と接触する点における当該レンズ成形面の接平面と前記内側傾斜面との角度は、前記法線方向に対する前記内側傾斜面の角度の2倍以上であり、
前記先端部の頂部が前記組み込まれた第1モールドのレンズ成形面と接触する点における当該レンズ成形面の接平面と前記外側傾斜面との角度は、前記法線方向に対する前記外側傾斜面の角度の3分の1以上であり、
前記内側傾斜面と前記外側傾斜面との角度は、前記先端部の頂部が前記組み込まれた第1モールドのレンズ成形面と接触する点における当該レンズ成形面の接平面と前記外側傾斜面との角度以上であることを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケット。
【請求項2】
前記内側傾斜面と前記外側傾斜面の角度は60度以上であることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケット。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットに、前記第1のモールドと前記第2のモールドを組み込んで形成される眼鏡用プラスチックレンズ成形用成形型。
【請求項4】
前記請求項1又は2に記載の眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットを用いて眼鏡用プラスチックレンズを製造する方法であって、
前記ガスケットの内部に、前記第1のモールドと前記第2のモールドとを間隔を保ってかつ前記レンズ成形面を互いに対向させて組み込み、前記第1のモールドのレンズ成形面と前記ガスケットの突起帯の先端部とを実質線状に密着させてシールすることにより眼鏡用プラスチックレンズ成形用成形型を形成する成形型形成工程と、
前記成形型形成工程により形成された成形型に、1分子中に2個以上のエピチオ基を含有するモノマー組成物を含むレンズ原料液を前記注入孔より前記成形型内に注入する注入工程と、
前記注入工程により注入された成形型の注入孔を密閉した後、前記モノマー成分を重合する重合工程と、
前記重合工程により重合後、前記ガスケットと前記モールドとを取り除く離型工程とを有する眼鏡用プラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
眼鏡用プラスチックレンズの前面を形成するためのレンズ成形面を有する第1のモールドと前記眼鏡用プラスチックレンズの他方の面を形成するためのレンズ成形面を有する第2のモールドとが間隔を保ってかつ前記レンズ成形面を互いに対向させて組み込まれる筒状部と、
この筒状部の内周面全周にわたって一体に突設され、前記第1及び第2のモールドが組み込まれた状態で、その第1及び第2のモールドの両方のレンズ成形面と密着する突起帯と、
前記突起帯と組み込まれた前記第1及び第2のモールドとによって形成される空間内に、レンズ原料液を外部より注入するために、外部とつながる注入孔と
を備えた眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットの製造方法であって、
前記突起帯は、前記第1のモールドが組み込まれた状態でその第1のモールドのレンズ成形面と実質線状に密着する先細の先端部を備え、
前記先端部は、前記筒状部の軸線方向に対して、その頂部から内側に傾斜した内側傾斜面と、頂部から外側に傾斜した外側傾斜面とを有し、
前記第1のモールドは、組み込まれた状態における前記軸線を含む断面において、そのレンズ成形面の前記先端部の頂部と接触する点における接線方向が異なる複数のものから選択され、
前記内側傾斜面と外側傾斜面は、下記条件式を満たす角度に設定されていることを特徴とする眼鏡用プラスチックレンズ成形用ガスケットの製造方法。
C2≦P1≦(C1+30)
(60−P1)≦P2≦(67.5−C2)
(ただし、P1は、内側傾斜面とガスケット軸線方向との成す角度であり、P2は、外側傾斜面とガスケット軸線方向との成す角度であり、C1は、ガスケット軸に対して垂直な面と前記接線方向との成す角度が最小のモールドのその角度であり、C2は、ガスケット軸に対して垂直な面と前記接線方向との成す角度が最大のモールドのその角度である)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−191186(P2008−191186A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22451(P2007−22451)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】