説明

睡眠改善剤

【課題】睡眠改善剤を提供する。
【解決手段】オルニチン、リシン、アルギニンおよびシトルリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性アミノ酸を含む睡眠改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠改善剤に関し、詳しくは睡眠効率を改善する睡眠改善剤に関る。
【背景技術】
【0002】
人生の約3分の1は「眠り」に占められており、眠りの質を改善することは重要である。睡眠は、生活のリズムやストレスとも密接に関係していることがデータで裏付けられている。例えば厚生労働省から発表された「平成12年保険福祉動向調査」によると、ストレスが高くなる程、「朝起きても熟睡感がない」、「なかなか寝付けない」などの問題が起こりやすいことが指摘されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、睡眠改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、睡眠効率を改善するための有効成分を種々検討した結果、塩基性アミノ酸、特にオルニチンが睡眠効率の改善に有効であることを見出した。
【0005】
本発明は、以下の睡眠改善剤および使用に関する。
1.オルニチン、リシン、アルギニンおよびシトルリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性アミノ酸を含む睡眠改善剤。
2.塩基性アミノ酸がオルニチンである項1に記載の睡眠改善剤。
3.オルニチン、リシン、アルギニンおよびシトルリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性アミノ酸の睡眠効率を改善するための使用。
4.オルニチン、リシン、アルギニンおよびシトルリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性アミノ酸の途中覚醒の回数及び時間を短くするための使用。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ヒトの生体内に存在し、高い安全性を有するオルニチン、リシン、アルギニン、シトルリンを経口摂取することで、睡眠を改善することができる。特に本発明の睡眠改善剤は、ノンレム睡眠を有意に延長することができ、途中覚醒の回数及び時間を短くすることができる。
【0007】
本発明の睡眠改善剤を摂取すると、朝までぐっすり眠ることができ、寝付きがよくなり、睡眠の途中で覚醒することが少なくなるか、なくなり、覚醒している時間も短くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で使用する塩基性アミノ酸としては、オルニチン、リシン、アルギニン、シトルリンが挙げられ、これらはL体が好ましく使用されるが、D体あるいはラセミ体を使用することもできる。
【0009】
塩基性アミノ酸の塩としては、酸付加塩、塩基塩のいずれも使用可能であるが、酸付加塩がより好ましい。酸付加塩としては塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩などの有機酸塩が挙げられる。好ましい酸付加塩は塩酸塩である。塩基塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられる。
【0010】
塩基性アミノ酸は、1日に50〜5000mg程度、好ましくは、300〜3000mg程度、より好ましくは500〜2500mg程度、特に1000〜2000mg程度を摂取すればよい。
【0011】
塩基性アミノ酸のうち、オルニチンについては、動物で睡眠改善効果が得られた量が、ヒトでどの程度の摂取量に相当するのかについて詳細に検討を行った。動物試験に用いたのと同じ種・週齢のラットを用い、睡眠改善効果が得られた投与量におけるオルニチンの血漿中の濃度変化を調べ、AUC(曲線下面積)を求めて、ヒトにおけるオルニチン摂取時のAUCとの詳細な比較を行った。
【0012】
その結果、ヒトがオルニチンを摂取した時に得られるAUCと同じAUCをラットで得るためには、3.75倍量程度のオルニチンを投与すればよい事が分かった。すなわち、ラットで効果が得られたオルニチン投与濃度のおよそ1/3.75倍の濃度をヒトが摂取することで、同様の睡眠改善効果が期待できる。
【0013】
塩基性アミノ酸の摂取時期は、就寝直前或いは就寝前の1時間以内、好ましくは30分以内が良い。塩基性アミノ酸を摂取すると、20分〜1時間程度で血中濃度のピークを迎え、これにより睡眠を改善することができる。
【0014】
本発明の睡眠改善剤は、公知の製剤化方法、特に経口摂取に適した製剤化技術を使用して製剤化することができる。製剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤等を挙げることができる。該製剤には、塩基性アミノ酸以外に通常の添加成分を適宜配合することができる。
【0015】
本発明の組成物は、ノンレム睡眠を有意に延長して深い眠りに導き、眠りの質を改善することができる。また、途中覚醒の回数及び時間を短くするのに有用である。また無毒であり、経口摂取後速やかに効果を表す。したがって、日常的に安全に経口摂取することができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
実施例1.
1.方法
(i)使用動物
Sprague-Dawleyラット(オス、生後8週、体重250-280g)をSLCより購入。
(ii)飼育方法
ラットは防音チャンバー内に設置したアクリル製ケージで個別に管理した。12時間ごとの明暗周期(午前8時より明期開始)下で、ラット用固形型飼料(飼料名:ラボMRストック)を与え、飼料と水を自由に摂取させた。
(iii)脳波・筋電位測定用電極の処置手術と測定装置への接続
ラットに脳波・筋電位測定用の電極の処置手術(Huang Z.L. et al., J. Neurosci. 2003 Jul 9;23(14):5975-83., Okada T. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2003 Dec 5;312(1):29-34.)を実施し、回復用チャンバーに10日おいて回復させた。その後、記録用チャンバーに移して電極に測定ケーブルを接続し、4日間順応させた。
(iv)サンプル調製・投与
オルニチン塩酸塩を水に溶解させ、投与重量1g/kgまたは0.5g/kgでゾンデ針を用いて経口投与した。投与は20:00(暗期の開始時刻)に行い、1日目は溶媒単独のコントロールとして、水のみを投与し、2日目にオルニチン塩酸塩水溶液を投与した(n=6〜7)。
(v)脳波・筋電位の記録と解析
脳波および筋電位は増幅(脳波:0.5-30 Hz、筋電位:20-200 Hz)後、サンプリング速度:128 Hzでデジタル化して記録した。解析は脳波記録ソフトウェア'SleepSign'(キッセイコムテック社製)を用いて、10秒間のデータを1エポックとし、脳波と筋電位の周波数成分・波形によって、各エポックを覚醒、NREM睡眠、REM睡眠のいずれかに自動判定した。得られた判定結果は最終的に研究者自身が確認し必要に応じて修正を行った。投与後6時間にわたる脳波データを解析し、1時間毎の覚醒、NREM睡眠、REM睡眠の時間を算出した。また、脳波のパワースペクトルを解析して、シータ波、およびデルタ波の強さを解析した。
2.結果
投与後6時間におけるノンレム睡眠時間
投与量0.5g/kgおよび1.0g/kgの何れにおいてもビークル(水)投与時に比べて統計的に有意にノンレム睡眠時間を延長する効果が見られた(図1)。
【0017】
実施例2
1.方法
(i)ヒト試験
健康な成人男性(44歳)
(ii)サンプル調製・投与
オルニチン塩酸塩またはプラセボ(粉糖)をゼラチンカプセルに(200mg/個)充填して、それぞれに記号をつけた。この成人男性に就寝30分前にどちらか一方を800mg、水100mlと一緒に摂取させた。男性の左手首には、加速度センサーを内蔵する腕時計型の睡眠状態測定装置を就寝時から起床時まで装着させ、月曜日から連続で実施し4日間睡眠状態を測定し、4日間のデータの平均値を算出した。翌週には同様の方法で、残ったサンプルを摂取させて両者の平均値を比較した。
(iii)腕時計型の加速度センサー
米国ミニ ミッター社製の「アクテイウオッチ」を使用した。この装置により、「睡眠潜時」、「途中覚醒回数」、「途中覚醒時間」、「睡眠効率(実際の寝ていた時間/床に入っていた時間) を測定した。
2.結果
【0018】
【表1】

【0019】
上記の結果から、オルニチン塩酸塩800mgの摂取により入眠潜時を短縮し、途中覚醒回数および時間を短縮することで睡眠効率を高め、睡眠の質を高める効果がある事が分かった。
【0020】
実施例3
1.方法
(i)ヒト試験
健康な成人男性1(45歳)、2(41歳)の2名
(ii)サンプル調製・投与
L-シトルリン、L-アルギニン、L−リシン塩酸塩またはプラセボ(コーンスターチ)をゼラチンカプセルに(200mg/個)充填して、それぞれに記号をつけた。被験者の成人男性の就寝30分前に、4種類のサンプルの内のどれか1種類1600mgを水50mlと一緒に摂取させた。その後、男性の左手首には、加速度センサーを内蔵する腕時計型の睡眠状態測定装置を就寝時から起床時まで装着させて睡眠状態を測定した。
翌日以降、同様の方法で異なるサンプルを摂取した後の睡眠状態を測定した。4種類のサンプルを各々1日ずつ測定し、合計4日間測定試験を行った。
(iii)腕時計型の加速度センサー
米国ミニ ミッター社製の「アクテイウオッチ」を使用した。この装置により、「睡眠潜時」、「途中覚醒回数」、「途中覚醒時間」、「睡眠効率(実際の寝ていた時間/床に入っていた時間)を測定した。
2.結果
成人男性1(45歳)の睡眠状態の測定結果を表2に、成人男性2(41歳)の睡眠状態の測定結果を表3に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
上記の結果から、L−アルギニン、L-リシン塩酸塩、L-シトルリンのうちのいずれか1種類を1600mg摂取することにより入眠潜時を短縮し、途中覚醒回数および時間を短縮することで睡眠効率を高め、睡眠の質を高める効果がある事が分かった。
【0024】
実施例4.
1.方法
(i)使用動物
実施例1と同じ
(ii)飼育方法
実施例1と同じ
(iii)脳波・筋電位測定用電極の処置手術と測定装置への接続
実施例1と同じ
(iv)サンプル調製・投与
L−シトルリンを水に溶解させ、投与重量1g/kgでゾンデ針を用いて経口投与した。投与は20:00(暗期の開始時刻)に行い、半数は1日目に溶媒単独のコントロール、半数は1日目にL−シトルリン水溶液を投与した。2日目には、1日目と逆の物質を投与した(n=7)。
(v)脳波・筋電位の記録と解析
実施例1と同じ
2.結果
投与量1.0g/kgにおいて、投与後6時間におけるノンレム睡眠時間をビークル(水)投与時に比べて統計的に有意に延長する効果が見られた(図2)。
【0025】
実施例5.
1.方法
(i)使用動物
実施例1と同じ
(ii)飼育方法
実施例1と同じ
(iii)脳波・筋電位測定用電極の処置手術と測定装置への接続
実施例1と同じ
(iv)断眠負荷およびサンプル調製・投与
明期終了2時間前に防音チャンバーを開放し、先端を丸め、カバーをつけることでラットを傷つけないようにした針金を用いて実験者がラットを刺激する方法により、ラットが睡眠をとるのを暗期開始までの2時間にわたって妨げる「断眠負荷」を課した。
断眠負荷を課したラット13匹を2群に分け、1群にはオルニチン塩酸塩を水に溶解させ、投与重量0.1g/kgでゾンデ針を用いて経口投与し(n=7)、別の1群には水のみをゾンデ針を用いて経口投与した(n=6)。投与は、どちらの群も暗期の開始時刻に行った。
(v)脳波・筋電位の記録と解析
実施例1と同じ
2.結果
断眠負荷を課した後、オルニチン塩酸塩0.1g/kgを投与した群は水を投与した群に比べて投与後50−60分におけるノンレム睡眠時間を統計的に有意に延長する効果が見られた(図3)。
【0026】
実施例6.
1.方法
(i)使用動物
Sprague-Dawleyラット(オス、生後8週、体重250-280g)をSLCより購入した。
(ii)サンプル調整および投与と血漿中
オルニチン塩酸塩を水に溶解させ、投与重量0.3g/kgまたは0.1g/kgでゾンデ針を用いて経口投与した。投与前および投与15、30、45、60、90、120、180、240分後に尾静脈から経時的に100μl採血した。
血漿中におけるオルニチンの経時的濃度変化の測定法は以下の通りである。
採取した血液を4℃において、3000rpmで10分間遠心分離し、50μl程度の血漿画分を得た。除蛋白処理のため、この血漿50μlに30%スルホサリチル水溶液10μl、0.1Nの塩酸50μlを加えて撹拌し、遠心分離(4℃、15分間、10000rpm)し、上清を得た。その上清を市販の蛍光標識用の試薬であるウオータース゛AccQ・FluorTMを用いて誘導体化させた。
まず上清70μlに対し、25mM Borate buffer 400μlを加えてpH9.3程度に調整した。その溶液70μlに内部標準物質として100μMのαアミノ酪酸10μl、蛍光標識用の試薬としてAccQ・FluorTM試薬20μlを加えた。混合後、10秒間撹拌した後、1分間静置することにより1級および2級アミンを蛍光誘導体化させた。その後、55℃に10分間保持することにより、未反応の試薬を分解させた。
この標識サンプルを、オルニチン分析系に供した。検出器は、蛍光検出器Fluorescence Spectrometer F1000(日立製作所製)を用い、固定相には順相クロマトグラフィー用カラム(コスモシール5SL-II,ナカライテクス社製)を用いた。移動相は、毎分1mlの流速で、移動相A(PTC-アミノ酸溶離液A):移動相B(PTC-アミノ酸溶離液B)=100:0から始めて、15分間の直線グラジエントにより、移動相A:移動相B=22.5:77.5の比率まで変化させながら流した。その後、この比率のまま10分間流出させた。
オルニチンのピーク面積と内部標準物質のピーク面積の比及びあらかじめオルニチンの標準品を用いて作成しておいた検量線から、オルニチンの量を推定し、血漿中の濃度を算出した。
ラットにおける血漿中のオルニチンの濃度変化をもとに投与後4時間のAUC
(曲線下面積)を算出して、文献(Cynober,L. et al : Action of ornithine α-ketoglutarate,ornithine hydrochloride, and calcium α-ketoglutarate on plasma amino acid and hormonal patterns in healthy subjects:Journal of the American college of nutrition, 9 (1990) 2-12) で報告のあるヒトにおけるオルニチンのAUCと比較を行った。
2.結果
ラットおよびヒトでのオルニチン塩酸塩投与後の血漿中のオルニチンの濃度変化より求めたAUCは以下の通り。
【0027】
【表4】

【0028】
(換算量の計算)
ラットの2点の投与濃度におけるAUC値から、投与濃度とAUC値の関係を表す。直線式を求めると、AUC値=203198*投与濃度−1961.5となる。ラットで投与濃度が0.088g/kgにおけるAUC値を推算すると、AUC値=15919となる。
ヒトでの同じ投与濃度の時のAUCと比較すると、59730/15919=3.75である。従って、同じ投与濃度の時のヒトのAUCは、ラットのAUCの3.75倍である。
以上の結果から、ラットでは、ヒトへの投与量の3.75倍の量を投与した時にほぼ同等の睡眠改善効果が得られると考えられた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】オルニチンを経口摂取したときとビヒクルのみを摂取したときのノンレム睡眠に対する効果を表す。
【図2】シトルリン1g/kgを経口摂取した時とビヒクルのみを摂取したときのノンレム睡眠に対する効果を表す。
【図3】2時間の断眠負荷の後、オルニチン塩酸塩を0.1g/kgで経口摂取した群とビヒクルのみを摂取した群のノンレム睡眠に対する効果の比較を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルニチン、リシン、アルギニンおよびシトルリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性アミノ酸を含む睡眠改善剤。
【請求項2】
塩基性アミノ酸がオルニチンである請求項1に記載の睡眠改善剤。
【請求項3】
オルニチン、リシン、アルギニンおよびシトルリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性アミノ酸の睡眠効率を改善するための使用。
【請求項4】
オルニチン、リシン、アルギニンおよびシトルリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩基性アミノ酸の途中覚醒の回数及び時間を短くするための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−50352(P2008−50352A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194531(P2007−194531)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(390000745)財団法人大阪バイオサイエンス研究所 (32)
【Fターム(参考)】