説明

短波長領域を使用する心線対照方法および装置

【課題】本発明は、従来の心線対照装置において、曲げ損失を改善した光ファイバには対応できないという課題と、また光学特性が異なる様々な光ファイバの導入により心線対照により得られる漏洩光のばらつきが大きくなるという課題と、また通信光に近い波長で試験を行うと通信用の受光器が試験光も検出し通信信号に影響を及ぼすため、インサービス試験を行うには試験光を除去する必要があるという課題とを解決する心線対照方法及び心線対照装置を提供することを目的とする。
【解決手段】試験用光源と、被測定ファイバに対して試験光を漏洩させる漏洩光発生部と、漏洩した光を検出する受光部とを備え、試験用光源から1.26μm以下の波長の光波を入射し、これを漏洩させることにより当該光ファイバの心線対照を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光伝送システムにおける光の導通試験に係り、特に短波長領域を使用する心線対照方法および心線対照装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光線路の工事、及び運用に際して、所望の光ファイバ心線を確認するために、作業現場において所望の光ファイバ心線を発見することが必要となる。そのため、心線対照装置は、光ファイバ中を伝搬する光の一部を取り出して、その光ファイバが所望の光ファイバであるかどうかを確認するために広く使用されている。光ファイバ中の伝搬光の一部を取り出すには、一般的に光ファイバに曲げを与える方法が使用されている。例えば特許文献1では、心線対照装置は光ファイバ中に曲げ部を形成し、曲げ部から漏れ出る光を受光することによりその光ファイバに光が伝搬しているかどうかを判別している。
【0003】
【特許文献1】特許第3407812号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、昨今注目を集めている曲げ損失特性を改善した光ファイバに対しては、曲げ部を形成しても漏れ出る光がほとんどないため、従来の心線対照器では曲げ損失を改善した光ファイバには対応できないといった課題があった。また光学特性が異なる様々な光ファイバの導入により、心線対照により得られる漏洩光のばらつきが大きくなるといった課題があった。また通信光に近い波長で試験を行うと通信用の受光器が試験光も検出し通信信号に影響を及ぼすため、インサービス試験を行うには試験光を除去する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の心線対照方法および心線対照装置は、心線対照を行う被測定光ファイバに対して1.26μm以下の波長の光波を漏洩させることにより当該光ファイバの心線対照を行うことを特徴とする。
【0006】
また、本発明の心線対照方法および心線対照装置は、上記光波が、第1高次モードまたはより高次の伝搬モードを有し、上記高次モードを漏洩させることにより上記被測定光ファイバの心線対照を行うものとしてもよい。
【0007】
また、本発明の心線対照方法および心線対照装置は、上記被測定光ファイバに対して長手方向に沿い周期的に応力を付加することにより長周期グレーティングを形成し、伝搬モードを高次モードへ変換させ、発生した高次モードの漏洩を検出することにより心線対照を行うものとしてもよい。
【0008】
また、本発明の心線対照方法および心線対照装置は、上記応力を付加する周期が0.53mm以下であるものとしてもよい。
【0009】
また、本発明の心線対照方法および心線対照装置は、上記光波の漏洩を、上記被測定ファイバを曲げることにより行い、当該曲げ半径が8.5mm以上であるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の心線対照方法および心線対照装置では、曲げ損失特性を改善した光ファイバにおいても心線対照を実現することができるという効果を奏する。また、光学特性は波長が短いほど構造変化に対するばらつきが小さいため、対照により獲得される漏洩光のばらつきを小さくできるという効果を奏する。また一般的な通信機器の受光器では1.26μm以下の波長における受光効率が低いため、通信光への影響を小さくできるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
まず、第1の実施形態について説明する。
図1(a)は、本発明の第1の実施形態による心線対照方法および心線対照装置の一例を含む測定系100を示す図である。
図1において、測定系100は、光源101と、非測定ファイバ102と、心線対照装置103とを備え、心線対照装置103は、漏洩手段104と、受光器105とを備える。光源101は、1.26μm以下の波長を有する光波を被測定ファイバ102に入射する。漏洩手段104は、曲げ、グレーティング等により被測定ファイバ102に入射された光波を漏洩させ、この漏洩された光を受光器105で受光することにより、被測定ファイバ102に対する心線対照を行うことができる。
【0012】
公衆回線で使用されるような高速光回線では、低損失な1.3μmや1.55μm帯が使用されるため、受光器105として、InGaAsが使用される。InGaAsを使用した受光器105は、1.3〜1.65μm帯の光波に対して高い受光感度を有する。一方、公衆回線で使用される単一モード光ファイバの遮断波長は1.26μm以下と規定されている。ここで、図1(b)に受光器105として使用される種々の受光器の受光帯域の分布例110を示す。図1(b)に示すように、試験光が遮断波長以下であれば受光器105の受光感度が小さいため、通信信号へ影響を与えずに試験を行うことができる。以下、波長1.26μm以下の光波を使用して、曲げによる漏洩光を検出することにより、心線対照を行う方法を示す。
【0013】
図2は、フォトニック結晶ファイバ(PCF)および従来の単一モードファイバ(SMF)の曲げ損失特性の特性例200を示す特性図である。
図2において、実線はPCFを示し、破線は従来のSMFを示す。PCFは、長手方向に複数の空孔を有する構造を有し、従来の光ファイバでは実現できない様々な特性を有することから、次世代の光通信媒体として注目されている。図2に示すように、PCFは通信波長帯においてSMFと比較して非常に良好な曲げ損失特性を有する。また、SMFでは波長が短くなるほど曲げ損失は小さくなるが、PCFでは短波長帯において急激に曲げ損失が増大する。従って、図1(a)に示す被測定ファイバ102がPCFである場合には、曲げ損失が増大する短波長帯において試験光を選択し、当該波長における曲げによる漏洩光を検出することにより、通信光への影響を小さくしながら効率的な心線対照を行うことができる。
【0014】
図3は、SMFの伝搬モードおよび第1高次モードにおける曲げ損失特性の特性例300を示す特性図である。
図3において、実線および破線は波長0.85μmにおける基本モード(LP01モード)および第1高次モード(LP11モード)における曲げ損失を示し、2点鎖線は波長1.55μmにおける基本モードにおける曲げ損失を示す。図2に示したように、SMFでは短波長側になるほど伝搬モードの曲げ損失は小さくなるため、短波長帯において伝搬モードの曲げによる漏洩光を検出することは困難となる。しかしながら、図3に示すように、高次モードの曲げ損失は伝搬モードと比較して数桁大きい。従って、入射光に高次モードが含まれていれば、曲げにより高次モードが漏洩するため、漏洩光を検出できる。またSMFでは、1.26μm以下で第1高次モードの伝搬が可能となるため、入射光に予め高次モード成分を含ませて伝搬させることが可能である。ここで曲げを与えた際に通信光への影響を軽減させる必要がある。例えば通信で使用される波長1.55μmにおいて180°曲げにおける損失を3dB以下に抑えるためには、曲げ半径を8.5mm以上とすることが好ましい。
【0015】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図4は、本発明の第2の実施形態による心線対照方法および心線対照装置の一例であって、長周期グレーティングによるモード変換を利用した測定系400を示す図である。
図4において、測定系400は、被測定ファイバ402と、応力付加部403と、受光器405とを備える。まず、被測定ファイバ402に波長1.26μm以下の光波が入射される。ここで被測定ファイバ402に周期的な応力403が付加されると、長周期グレーティングが形成され、この周期を適切に選択することにより、入射光が高次モードへ変換される。高次モードは、図3に示したように曲げ損失が大きいため、後段の応力付加部403において漏洩し、受光器405で検出され、心線対照が実現される。このとき入射光は被測定ファイバ402の基本モードのみを含んでいればよく、基本モードは伝送損失が小さいため試験距離を長尺にできるため、好ましい。
【0016】
図5は、基本モード(LP01モード)を第1高次モード(LP11モード)に変換するために必要なグレーティング周期の特性例500示す特性図である。
図5において、実線はSMFを示し、破線および2点鎖線は曲げ損失特性を改善したトレンチ型および空孔アシスト型光ファイバを示す。図中の波長範囲(0.8〜1.3μm)では、グレーティング周期を460〜530μmにすることにより、第1高次モードへの変換を行うことができる。また、一般的に高次モードになるほど、必要なグレーティング周期は短くなるため、より短い周期を使用してモード変換を行うことができる。また、短波長側になるほど、SMFと曲げ特性を改善した光ファイバとの必要なグレーティング周期の値が近くなるため、1つの素子でより多くの種類の光ファイバに対応することができる。また、ここではSMFにおける事例を示したが、分散シフトファイバやカットオフシフトファイバなど光学特性の異なる光ファイバでは、グレーティング周期を適切に設計することにより同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、光線路の工事、保守、運用の際の光ファイバの特定に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の心線対照方法および心線対照装置を説明する概略図であり、図1(a)は、本発明の第1の実施形態による心線対照方法および心線対照装置の一例を含む測定系100を示す図であり、図1(b)は、受光器105として使用される種々の受光器の受光帯域の分布例110を示す図である。
【図2】本発明の心線対照方法および心線対照装置に使用されるフォトニック結晶ファイバ(PCF)および従来の単一モードファイバ(SMF)の曲げ損失特性の特性例200を示す特性図である。
【図3】本発明の心線対照方法および心線対照装置に使用される単一モードファイバの曲げ損失特性の特性例300を示す特性図である。
【図4】本発明の第2の実施形態による心線対照方法および心線対照装置の一例であって、長周期グレーティングによるモード変換を利用した測定系400を示す図である。
【図5】本発明の心線対照方法および心線対照装置に関わる基本モードを第1高次モードに変換するために必要なグレーティング周期の特性例500を示す特性図である。
【符号の説明】
【0019】
101 光源
102 被測定ファイバ
103 心線対照装置
104 漏洩手段
105 受光器
402 被測定ファイバ
403 応力付加部
404 応力
405 受光器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心線対照を行う被測定光ファイバに対して1.26μm以下の波長の光波を漏洩させることにより当該光ファイバの心線対照を行うことを特徴とする心線対照方法。
【請求項2】
前記光波が、第1高次モードまたはより高次の伝搬モードを有し、前記高次モードを漏洩させることにより前記被測定光ファイバの心線対照を行うことを特徴とする請求項1に記載の心線対照方法。
【請求項3】
前記被測定光ファイバに対して長手方向に沿い周期的に応力を付加することにより長周期グレーティングを形成し、伝搬モードを高次モードへ変換させ、発生した高次モードの漏洩を検出することにより心線対照を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の心線対照方法。
【請求項4】
前記応力を付加する周期が0.53mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の心線対照方法。
【請求項5】
前記光波の漏洩を、前記被測定ファイバを曲げることにより行い、当該曲げ半径が8.5mm以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の心線対照方法。
【請求項6】
試験用光源と、被測定ファイバに対して試験光を漏洩させる漏洩光発生部と、前記漏洩した光を検出する受光部とを備え、前記試験用光源から1.26μm以下の波長の光波を入射し、これを漏洩させることにより当該光ファイバの心線対照を行うことを特徴とする心線対照装置。
【請求項7】
前記光波が、第1高次モードまたはより高次の伝搬モードを有し、前記高次モードを漏洩させることにより前記被測定光ファイバの心線対照を行うことを特徴とする請求項6に記載の心線対照装置。
【請求項8】
前記漏洩光発生部が、被測定ファイバの長手方向に沿い周期的な応力を付加する応力付加部を有し、周期的に応力を付加することにより長周期グレーティングを形成し、伝搬モードを高次モードへ変換させ、発生した高次モードの漏洩を検出することにより心線対照を行うことを特徴とする請求項6または7に記載の心線対照装置。
【請求項9】
前記応力を付加する周期が0.53mm以下であることを特徴とする請求項8に記載の心線対照装置。
【請求項10】
前記漏洩光発生部に被測定ファイバに曲げを与える構造を有し、当該曲げ部の曲げ半径が8.5mm以上であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の心線対照装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate