説明

短繊維含有ポリマー組成物およびポリマー組成物の電気抵抗制御方法

【目的】 本発明は、帯電性が抑制されかつ実用的な絶縁性能を有するポリマー組成物、およびそれを可能にするための電気抵抗の制御方法を提供する。
【構成】 体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmである1種以上の短繊維10〜40重量部およびポリマー90〜60重量部からなる、体積固有抵抗値が105 〜1013Ωcmの短繊維含有ポリマー組成物、および体積固有抵抗値が10-1Ωcm以下である1種以上の短繊維および体積固有抵抗値が10-1Ωcm以上である1種以上の短繊維の混合物10〜40重量部ならびにポリマー90〜60重量部からなる、体積固有抵抗値が105 〜1013Ωcmの短繊維含有ポリマー組成物、およびポリマー組成物の体積固有抵抗値を105 〜1013Ωcmに制御する方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電気抵抗の指標である体積固有抵抗値が一定の範囲に制御された短繊維含有ポリマー組成物、および特定の体積固有抵抗値を有する短繊維または短繊維混合物を用いることを特徴とする、ポリマー組成物の体積固有抵抗値を制御する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】高分子複合材料は、その製造、成形の容易さのため、あらゆる産業において広く用いられている。特に高分子化合物は、一般に優れた電気絶縁性を示すことから、電子部品の用途に用いられることも多い。
【0003】一般的に、高分子化合物、および繊維強化高分子複合材料系の電子部品にたいしては、より高い電気絶縁性が求められているのではあるが、実際に機器の一部として使われる際には、そのままでは帯電が起こり、塵埃の吸着のような不都合が生じる。そのため、高分子化合物の有する絶縁性が通常は体積固有抵抗値にして1015〜1016Ωcmであるのに対し、実際に用いる際には何等かの手段を用いて若干の導電性を付与し、109 〜1011Ωcm程度にする必要がある。
【0004】高分子化合物に対する導電性付与の一つの代表的な方法論として、カーボンブラックの添加という手段があり、これについては、例えば日本接着協会誌Vol.23,No.3,103〜111ページ(1987)の住田の総説にこれまでの基礎研究の成果がまとめられている。
【0005】確かにカーボンブラックの添加によっても容易に導電性を付与することはできるが、実際にはそれが強力な導電性を有することと粉体であることから、分散性を高くすると電気の導通状態を段階的に高くすることが難しく、添加量がある程度を超えると急激に導電性が上昇する。そのため、カーボンブラックを用いることによっては、109 〜1011Ωcm程度の微弱な導電性を有するポリマー組成物またはポリマー成形体を高い生産性で製造することは極めて難しい。
【0006】又、特開平2−300263号公報には、超極細炭素繊維をポリマーに配合してなる表面抵抗の低い高分子材料が記載されている。
【0007】しかし、この公報に記載されている炭素繊維では、単に帯電防止、あるいは静電気障害の除去を目的とするのであれば有効であるが、導電性が非常に高いためこれのみを用いては、カーボンブラックの場合と同様109 〜1011Ωcm程度の微弱な導電性を有するポリマー組成物を得ることは難しく、更にその範囲における特定の抵抗値を有する組成物を工業的に製造する事は極めて難しく、通常は考え得ない事である。
【0008】上記のようなカーボンブラックあるいは超極細炭素繊維の使用のみでは克服できない問題を解決する試みの一つが、特開昭63−22861号公報に記載されている。この公報には、選ばれた表面抵抗率を有する充填剤としてチャーカーボンを用いたポリマー組成物が記載されている。
【0009】ところが、上記チャーカーボンの原料が天然の植物のわらであるため、品質安定性が悪く、得られるチャーカーボンにも性質にバラツキが生じやすい。更に、原料植物が豊作か不作かによって原料わらの入手し易さ及び原料価格に変動が起こるため工業材料として不適である。また、この公報の発明の実施例に従えば、チャーカーボンを添加したところでその他の充填物がカーボンブラックなので、組成物の体積固有抵抗値は安定したものとはならない。さらにチャーカーボンもまた、その形状はむしろ不定形から粒状であり、厳密に繊維形状を取るものではなく、これによりやはり、107 〜1011Ωcmの範囲での微妙な抵抗値制御は難しい。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、帯電性が抑制されかつ実用的な絶縁性能を有するポリマー組成物を提供すること、およびそれを可能にするための電気抵抗の制御方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、比較的高い電気抵抗を有する物質の短繊維、または導電性の短繊維と高い電気抵抗を有する短繊維との混合物をポリマーに添加することにより、組成物の導電性制御が容易になることを見出だし、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0012】すなわち本発明は、体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmである1種以上の短繊維10〜40重量部およびポリマー90〜60重量部からなる、体積固有抵抗値が105 〜1013Ωcmの短繊維含有ポリマー組成物を第1の要旨とし、体積固有抵抗値が10-1Ωcm以下である1種以上の短繊維および体積固有抵抗値が10-1Ωcm以上である1種以上の短繊維の混合物10〜40重量部ならびにポリマー90〜60重量部からなる、体積固有抵抗値が105 〜1013Ωcmの短繊維含有ポリマー組成物を第2の要旨とし、体積固有抵抗値が10-1〜103Ωcmである1種以上の短繊維をポリマーに混合させることを特徴とする、ポリマー組成物の体積固有抵抗値を105 〜1013Ωcmに制御する方法を第3の要旨とし、体積固有抵抗値が10-1Ωcm以下である1種以上の短繊維および体積固有抵抗値が10-1Ωcm以上である1種以上の短繊維の混合物をポリマーに混合させることを特徴とする、ポリマー組成物の体積固有抵抗値105 〜1013Ωcmに制御する方法を第4の要旨とするものである。
【0013】また、ポリマー組成物の体積固有抵抗値を制御する方法については特に、体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmである1種以上の短繊維をポリマーに混合させることを特徴とする、ポリマー組成物の体積固有抵抗値を105 〜1013Ωcmの範囲中の特定値に制御する方法を第5の要旨とするものであり、体積固有抵抗値が10-1Ωcm以下である1種以上の短繊維および体積固有抵抗値が10-1Ωcm以上である1種以上の短繊維の混合物をポリマーに混合させることを特徴とする、ポリマー組成物の体積固有抵抗値105 〜1013Ωcmの範囲中の特定値に制御する方法を第6の要旨とするものである。
【0014】次に本発明の短繊維含有ポリマー組成物およびポリマー組成物の体積固有抵抗値を制御する方法を詳細に説明する。
【0015】本発明に用いる短繊維の素材としては、体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmであるものは、酸化処理を施された炭素繊維、焼成温度を800℃未満にして炭化の進行を不完全にして得た炭素繊維、ゲルマニウムの繊維化物などがあげられ、体積固有抵抗値が10-1Ωcm以下であるものは、酸化処理を施されていない通常の焼成温度で完全に炭化されて得た一般の炭素繊維、アルミニウム、スチール、銅など高い導電性を有する金属の繊維化物などがあげられ、体積固有抵抗値が10-1Ωcm以上であるものは、上記の体積固有抵抗値を高くした炭素繊維、ゲルマニウムの繊維化物、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維などがあげられる。
【0016】これら短繊維は、体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmであれば、1種類だけで用いることも2種類以上を併用することも可能である。体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmの短繊維とそれ以外の体積固有抵抗値をとる短繊維を共に用いることもまた可能であり、更にそれら短繊維を2種類以上ずつ用いることも可能である。
【0017】体積固有抵抗値が10-1Ωcm以下であるものを用いる場合は、体積固有抵抗値が10-1Ωcm以上であるものを併用して用いる。この場合も、それぞれの体積固有抵抗値を有する短繊維を2種類以上ずつ用いることが可能である。併用のときは、10-1Ωcm以上のものが樹脂に配合する全短繊維の20%以上となるようにする。それぞれの体積固有抵抗値を有する短繊維の組み合わせとしては、体積固有抵抗値が10-1Ωcm以下の一般の炭素繊維と体積固有抵抗値が10-1Ωcm以上の体積固有抵抗値を高くした炭素繊維またはガラス繊維の組み合わせが好ましい。これらは、ポリマー、特に樹脂補強用繊維として研究成果の蓄積が大きいため、工業化する際に具体的な添加量及び配合方法を検討する上で他の繊維材に比べて検討が容易だからである。
【0018】短繊維の形状は、径が3μm〜25μm、繊維長が50μm〜5cmの範囲、特に50μm〜15mmの範囲にあることが好ましい。
【0019】繊維長が50μm未満である場合、導電通路の形成がカーボンブラックの場合同様ある添加量を臨界点として起こるようになるため、急激に導電性が高くなり、109 〜1011Ωcmの範囲での抵抗値制御が難しくなる。
【0020】繊維長が5cmを超える場合、添加量の調節に困難が生じ始め、且つポリマー中での繊維の分散性が悪くなり、やはり109 〜1011Ωcmの範囲での抵抗値制御が難しくなる。
【0021】繊維長が50μm〜15mmのときに特に好ましい理由は、この繊維長の範囲のものは、射出成形用に熱可塑性樹脂に配合する上で扱いやすいためである。
【0022】本発明において、短繊維の体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmである事が都合が良い理由は、体積固有抵抗値が10-1Ωcm未満の場合、少量の配合により樹脂組成物に急激な導電性を与えるために制御が難しく、また、103 Ωcmを超える場合、多量の配合によっても樹脂組成物に導電性が付与しにくい不都合を生じるためである。
【0023】この範囲の体積固有抵抗値を有する短繊維を得るためには、体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmである物質を繊維化したもの、または繊維素材を体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmとなるように加工したものを用いるのが便利である。
【0024】体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmである短繊維を用いない場合は、体積固有抵抗値が10-1Ωcm以下の導電型の短繊維と体積固有抵抗値が10-1Ωcm以上の絶縁型の短繊維とを混合して用いることも不利ではない。導電性の短繊維と絶縁性の短繊維の組み合わせとしては、ガラス繊維と炭素繊維、金属の繊維化物と炭化ケイ素繊維のように極端な導電性を有するものと極端な絶縁性を有するものとの組み合わせも可能である。この組み合わせで最も理想的なものがガラス繊維と炭素繊維である事は前述の通りである。
【0025】これらの繊維のうち、使用上最も有利なものは、体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmとなるように導電性を抑制された炭素繊維のチョップドストランド、または一般の高い導電性を有する炭素繊維チョップドストランドと導電性を抑制された炭素繊維チョップドストランドとを混合して用いたものである。
【0026】導電性を抑制された炭素繊維は、例えば硝酸による薬液酸化、または空気、酸素、オゾンなどによる気相酸化のような酸化処理を施す、炭素繊維の焼成温度を800℃未満にして炭化の進行を不完全にすると言った方法で得られる。
【0027】本発明において用いられるポリマーは、熱可塑性樹脂が最も好ましいが、熱硬化性樹脂、ゴムなども使用が可能である。熱可塑性樹脂については、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリルスチレンなどに代表される汎用ポラスチックス、ABS(アクリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリフェニルエーテル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン6、6等に代表されるエンジニアリングプラスチックス、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイドなどのいわゆるスーパーエンプラと呼ばれるものも用いることができ、熱硬化性樹脂についてもフェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などこれまでに知られているものについてはほぼ例外なく用いることができ、ゴム類であれば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、ウレタンゴムなど種々のゴム材料を用いることができる。
【0028】ポリマーと短繊維との組成物を得るに当たっては、短繊維10重量部に対しポリマー90重量部から短繊維40重量部に対しポリマー60重量部の範囲に調整する。
【0029】本発明の目的上、短繊維は補強を主目的として用いられているわけではないので、組成物を成形体としたときの機械的強度についてはそれほど高いものを求められる事はないが、短繊維の比率が10重量部未満であれば、導電性付与が不十分であり、一方短繊維の比率が40重量部を超えると本発明に限らずコンパウンド化が難しいと言った不都合が生じる。
【0030】組成物の体積固有抵抗値は105 〜1013Ωcm、好ましくは106 〜1012Ωcm、さらに好ましくは107 〜1011Ωcmの範囲にあることが必要である。105 Ωcm未満にするのであれば、通常の導電性フィラーを用いることが効果的であり、1013Ωcmを超えると帯電防止、除塵の効果が得られないと言った不都合が生じるためである。
【0031】ポリマーと短繊維との組成物を得る方法は、熱可塑性樹脂であればエクストルーダーでコンパウンドとし、射出成形をする、熱可塑性樹脂であればBMC(バルクモールディングコンパウンド)、SMC(シートモールディングコンパウンド)とする、ゴム材料であれば、熱可塑性樹脂と同様ポリマーに加熱しながら混練するなど、従来公知の方法を用いることができる。むろん、射出成形法あるいはSMC法のみに限定されるものではない。
【0032】短繊維をカップリング剤などで表面処理することは、組成物の体積固有抵抗値が105 〜1013Ωcmの範囲にある限りこれを妨げられない。
【0033】
【実施例】以下、本発明を実施例をもって詳細に説明する。むろん、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0034】以下の実施例において、短繊維の体積固有抵抗値は次の方法で測定した。
【0035】測定対象の繊維のストランドを開繊し、4〜5cmのモノフィラメントを取り、スパン25mmの銅プレート上に導電塗料で固定する。
【0036】抵抗の測定は、デジタルマルチメーター SC−7402(岩崎通信機(株)製)で行った。
【0037】体積固有抵抗値を求める式は次ぎの通りである。
【0038】
【数1】Sf =II・d2 ・Rf /4・l
【0039】Sf :体積固有抵抗値(Ωcm)
d :モノフィラメントの直径(cm)
f :試験繊維の抵抗値(cm)
l :モノフィラメントの長さ(cm)、ただしこれは銅プレートのスパンとして計算する
【0040】以上、松井醇一著、炭素材料学会編「炭素繊維の展開と評価方法」225〜226ページ参照。
【0041】参考例1 高電気抵抗炭素繊維チョップドストランドの製造光学的に等方性の炭素繊維用プリカーサーピッチをブッシングが1000ホールの紡糸装置より溶融紡糸し、ピッチ繊維のストランドを得た。このピッチ繊維を空気中0.5℃/min の速度で300℃まで昇温し、その温度で10分間保持して不融化した。上記不融化繊維を窒素気流中10℃/min の速度で900℃まで昇温し、その温度で10分間保持して炭素繊維とした。得られた炭素繊維の体積固有抵抗値は、8.0×10-3Ωcmであった。次に、この炭素繊維を空気中400℃で120分間熱処理し、繊維の表面を酸化した。この繊維の体積固有抵抗値は、2.5Ωcmであった。
【0042】上記の方法にて得た炭素繊維ストランドを固形分2%のエポキシ樹脂エマルジョン中に浸漬し、その後乾燥機中で水分を除去し、それからこのストランドを3mm長のチョップドストランドとした。
【0043】参考例2 通常の炭素繊維の製造参考例1で記載した不融化繊維を、窒素気流中10℃/min の速度で1000℃まで昇温し、その温度で10分間保持して炭素繊維とした。得られた炭素繊維の体積固有抵抗値は、5.3×10-3Ωcmであった。
【0044】得られた炭素繊維ストランドを参考例1と同様、固形分2%のエポキシ樹脂エマルジョン中に浸漬し、その後乾燥機中で水分を除去し、それからこのストランドを3mm長のチョップドストランドとした。
【0045】参考例3 高電気抵抗炭素繊維チョップドストランドの製造参考例1で記載した不融化繊維を、窒素気流中10℃/min の速度で800℃まで昇温し、その温度で10分間保持して炭素繊維とした。得られた炭素繊維の体積固有抵抗値は、3.1×10-2Ωcmであった。次に、この炭素繊維を空気中400℃で60分間熱処理し、繊維の表面を酸化した。この繊維の体積固有抵抗値は、3.5×101 Ωcmであった。
【0046】得られた炭素繊維ストランドを参考例1と同様、固形分2%のエポキシ樹脂エマルジョン中に浸漬し、その後乾燥機中で水分を除去し、それからこのストランドを3mm長のチョップドストランドとした。
【0047】実施例1 参考例1のチョップドストランドを利用した熱可塑性樹脂組成物及び電気抵抗制御方法参考例1で得たチョップドストランドをABS樹脂GR−2000〔電気化学工業(株)製〕に総重量の10、20、30重量%となるように配合し、ドライブレンドしたものを単軸スクリューの押し出し機に投入し、コンパウンドとした。次いで、そのコンバウンドのペレットを射出成形機により、シリンダー温度230℃、金型温度70℃の条件下で厚さ2mm、幅24.5mm、長さ49.5mmの樹脂組成物成形体の試験片とした。
【0048】それら試験片の抵抗を、104 Ω以上のものはHiresta IP(三菱油化製)リング状プローブを用い、104 Ω以下のものはLoresta AP(三菱油化製)4端子プローブを用い測定した。結果を表1に示す。
【表1】
表 1 炭素繊維含有量(重量%) 試験片の体積固有抵抗値(Ωcm) 0 1015 10 1.1×1013 20 3.6×109 30 1.7×108
【0049】実施例2 参考例2のチョップドストランドとガラス繊維チョップドストランドを利用した熱可塑性樹脂組成物及び電気抵抗制御方法参考例2の炭素繊維チョップドストランド10重量部とガラス繊維チョップドストランド CS 3PE 331〔日東紡績(株)製〕15重量部とを実施例1と同様の条件でABSとのコンパウンドとし、射出成形して樹脂組成物成形体の試験片とした。なお、このガラス繊維の体積固有抵抗値は、1015Ωcmである。
【0050】実施例1と同様の条件でそれら試験片の抵抗を測定した。この樹脂組成物の試験片の体積固有抵抗値は、1.3×108 Ωcmであった。
【0051】実施例3 参考例2と参考例3のチョップドストランドを利用した熱可塑性樹脂組成物及び電気抵抗制御方法参考例2の炭素繊維チョップドストランド10重量部と参考例3のチョップドストランド10重量部とを実施例1と同様の条件でABSとのコンパウンドとし、射出成形して樹脂組成物成形体の試験片とした。
【0052】実施例1と同様の条件でそれら試験片の抵抗を測定した。この樹脂組成物の試験片の体積固有抵抗値は、6.8×107 Ωcmであった。
【0053】比較例1 参考例2のチョップドストランドによる熱可塑性樹脂組成物及び組成物の電気抵抗値参考例2の炭素繊維チョップドストランドを実施例1と同様にABS樹脂GR−2000(電気化学工業(株)製)に総重量の10、20、30重量%となるように配合し、実施例1と同様の条件でコンパウンドとし、射出成形して樹脂組成物成形体の試験片とした。
【0054】実施例1と同様の条件でそれら試験片の抵抗を測定した。この樹脂組成物の試験片の体積固有抵抗値の測定結果を表2に示す。
【表2】
表 2 炭素繊維含有量(重量%) 試験片の体積固有抵抗値(Ωcm) 0 1015 10 2.6×105 20 1.1×102 30 3.6
【0055】実施例1の表1の値と比較例1の表2の値をそれぞれ図1にプロットして示す。
【0056】図1は、参考例1の本発明の炭素繊維チョップドストランドによれば、配合量の変化によるポリマー組成物の体積固有抵抗値変化が急激でないため、組成物の導電性制御が容易である事を示す(実施例1のプロット参照)。一方、参考例2の通常の炭素繊維チョップドストランドでは、106 〜1013Ωcmの領域における体積固有抵抗値変化が僅か数パーセントの配合量の相違で急激に起こるため、導電性制御には不適であることが判る(実施例2のプロット参照)。
【0057】実施例4 参考例2と参考例3のチョップドストランドを利用した熱可塑性樹脂組成物及び電気抵抗制御方法参考例2の炭素繊維チョップドストランド10重量部と参考例3のチョップドストランド10重量部とを実施例3と同様にポリアセタール樹脂ジュラコン〔ポリプラスチックス(株)製〕80重量部とのコンパウンドとし、シリンダー温度200℃、金型温度90℃の条件下で射出成形して、厚さ2mm、幅24.5mm、長さ49.5mmの樹脂組成物成形体の試験片とした。
【0058】実施例1と同様の条件でそれら試験片の抵抗を測定した。この樹脂組成物の試験片の体積固有抵抗値は、4.5×107 Ωcmであった。
【0059】実施例5 参考例2と参考例3のチョップドストランドを利用した熱可塑性樹脂組成物及び電気抵抗制御方法参考例2の炭素繊維チョップドストランド10重量部と参考例3のチョップドストランド10重量部とを実施例3と同様にポリカーボネート樹脂パンライトL−1250J〔帝人化成(株)製〕80重量部とのコンパウンドとし、シリンダー温度300℃、金型温度120℃の条件下で射出成形して、厚さ2mm、幅24.5mm、長さ49.5mmの樹脂組成物成形体の試験片とした。
【0060】実施例1と同様の条件でそれら試験片の抵抗を測定した。この樹脂組成物の試験片の体積固有抵抗値は、3.8×107 Ωcmであった。
【0061】実施例6 参考例2と参考例3のチョップドストランドを利用した熱可塑性樹脂組成物及び電気抵抗制御方法参考例2の炭素繊維チョップドストランド10重量部と参考例3のチョップドストランド10重量部とを実施例3と同様にポリフェニレンサルファイド樹脂ライトンR−6〔フィリップス(株)製〕80重量部とのコンパウンドとし、シリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件下で射出成形して、厚さ2mm、幅24.5mm、長さ49.5mmの樹脂組成物成形体の試験片とした。
【0062】実施例1と同様の条件でそれら試験片の抵抗を測定した。この樹脂組成物の試験片の体積固有抵抗値は、9.5×106 Ωcmであった。
【0063】実施例7 参考例3のチョップドストランドを利用した熱可塑性樹脂組成物及び電気抵抗制御方法参考例3の炭素繊維チョップドストランド40重量部を実施例1と同様にポリエーテルイミド樹脂ウルテム〔日本ジーイープラスチックス(株)製〕60重量部とのコンパウンドとし、シリンダー温度400℃、金型温度130℃の条件下で射出成形して、厚さ2mm、幅24.5mm、長さ49.5mmの樹脂組成物成形体の試験片とした。
【0064】実施例1と同様の条件でそれら試験片の抵抗を測定した。この樹脂組成物の試験片の体積固有抵抗値は、6.3×107 Ωcmであった。
【0065】実施例8 参考例3のチョップドストランドをミルドファイバーにして利用した熱可塑性樹脂組成物及び電気抵抗制御方法参考例3の炭素繊維チョップドストランドをボールミル中で粉砕し、平均繊維長50μmのミルドファイバーにした。このミルドファイバー30重量部を実施例7と同様にポリエーテルイミド樹脂ウルテム(日本ジーイープラスチックス(株)製)70重量部とのコンパウンドとし、シリンダー温度400℃、金型温度130℃の条件下で射出成形して、厚さ2mm、幅24.5mm、長さ49.5mmの樹脂組成物成形体の試験片とした。
【0066】実施例1と同様の条件でそれら試験片の抵抗を測定した。この樹脂組成物の試験片の体積固有抵抗値は、9.9×1012Ωcmであった。
【0067】
【発明の効果】カーボンブラックなど粉体ではなく、短繊維形状の素材、とくに導電性を抑制した炭素短繊維をポリマーに含有させる事で従来困難とされてきた絶縁性と帯電防止性が共に適切である範囲の電気抵抗を有する繊維含有ポリマー組成物を、容易にかつ高い生産性で得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】炭素繊維含有量と体積固有抵抗値との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmである1種以上の短繊維10〜40重量部およびポリマー90〜60重量部からなる、体積固有抵抗値が105 〜1013Ωcmの短繊維含有ポリマー組成物。
【請求項2】 体積固有抵抗値が10-1Ωcm以下である1種以上の短繊維および体積固有抵抗値が10-1Ωcm以上である1種以上の短繊維の混合物10〜40重量部ならびにポリマー90〜60重量部からなる、体積固有抵抗値が105 〜1013Ωcmの短繊維含有ポリマー組成物。
【請求項3】 体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmである1種以上の短繊維をポリマーに混合させることを特徴とする、ポリマー組成物の体積固有抵抗値を105 〜1013Ωcmに制御する方法。
【請求項4】 体積固有抵抗値が10-1Ωcm以下である1種以上の短繊維および体積固有抵抗値が10-1Ωcm以上である1種以上の短繊維の混合物をポリマーに混合させることを特徴とする、ポリマー組成物の体積固有抵抗値105 〜1013Ωcmに制御する方法。
【請求項5】 体積固有抵抗値が10-1〜103 Ωcmである1種以上の短繊維をポリマーに混合させることを特徴とする、ポリマー組成物の体積固有抵抗値を105 〜1013Ωcmの範囲中の特定値に制御する方法。
【請求項6】 体積固有抵抗値が10-1Ωcm以下である1種以上の短繊維および体積固有抵抗値が10-1Ωcm以上である1種以上の短繊維の混合物をポリマーに混合させることを特徴とする、ポリマー組成物の体積固有抵抗値を105 〜1013Ωcmの範囲中の特定値に制御する方法。

【図1】
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【公開番号】特開平5−117446
【公開日】平成5年(1993)5月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−283070
【出願日】平成3年(1991)10月29日
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【出願人】(000001258)川崎製鉄株式会社 (8,589)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)