説明

研削盤の加工方法

【課題】 従来よりも加工スピードを向上させ、加工精度及び研削面の品質を向上させた製品を生産性良く製造することが可能な研削盤の加工方法を提供する。
【解決手段】 加工物取付部10上に載置された加工物11と砥石12とを相対的に複数回往復移動させ、砥石12により加工物11を研削して切上加工を行う研削盤の加工方法において、砥石12による加工物11の研削距離Xn は、前回の砥石12による加工物11の研削範囲内で、しかもこの研削距離Xn-1 よりも短い。
なお、nは往復移動の回数であり2以上の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工物の切上加工を行う研削盤の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、研削盤の加工物取付部上に加工物を載置し、この加工物取付部を回転する砥石に対して左右方向に複数回往復移動させ、砥石により加工物を研削し切込みながら切上加工(切上研削)を行っている。この加工物の研削距離は、加工物取付部の往復移動により複数回行われる各研削において全て同じであるため、加工物取付部の進行方向の逆転時においては、例えば、加工物及び砥石に衝撃が加わり破損が生じ易かった。従って、良好な品質を備えた製品を製造するためには、衝撃力を小さくする必要性があり、加工物の加工速度を上げられず、生産効率が悪かった。
また、加工物の加工精度は、砥石周辺部のR形状によって決まるため、砥石を高精度且つ均一なR形状としなければならないが、砥石は砥粒をボンドで焼結あるいは接着したものであるため、大きな力や高い熱によって形状の破損が発生していた。
【0003】
更に、例えば、パンチの切上加工を行う場合、加工ストロークエンド(研削最終端部)で、砥石とパンチの接触弧が長くなり、加工物に衝撃力がかかるため、加工物及び砥石に大きな力と高熱が発生する。このとき、通常の研削時よりも砥石周辺部の破損が大きくなるため、パンチの加工精度が落ちる傾向にあった。
そこで、例えば、特許文献1には、パンチの切上加工方法として、少なくともパンチの厚さが最も薄くなる最終加工面で、砥石の移動距離を短くし、加工面を複数回に分けて仕上げることにより、加工物の加工精度を落とさない加工方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−347893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この方法を使用して実際にパンチの加工を行った場合、加工物に砥石焼けが発生するという問題があった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、従来よりも加工スピードを向上させ、加工精度及び研削面の品質を向上させた製品を生産性良く製造することが可能な研削盤の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明に係る研削盤の加工方法は、加工物取付部上に載置された加工物と砥石とを相対的に複数回往復移動させ、前記砥石により前記加工物を研削して切上加工を行う研削盤の加工方法において、
前記砥石による前記加工物の研削距離Xn は、前回の前記砥石による前記加工物の研削範囲内で、しかもこの研削距離Xn-1 よりも短い。
なお、nは往復移動の回数であり2以上の整数である。
ここで、切上加工は、加工物を載置した加工物取付部を、砥石に対して往復移動させることで実施できるが、砥石を加工物に対して往復移動させることでも実施できる。
また、加工物を切上加工して製造する製品としては、例えば、パンチ、機械部品、又は工具がある。
また、研削盤としては、例えば、平面研削盤又は(光学式)倣研削盤がある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の研削盤の加工方法は、砥石による加工物の研削距離Xn が、前回の研削距離Xn-1 よりも短いので、加工物取付部の進行方向の逆転時において、加工物及び砥石に衝撃が加わることを抑制できる。これにより、加工物の加工速度を現状よりも上昇させることができ、良好な品質を備えた製品の生産効率を高めることができる。
また、加工ストロークエンドでの砥石と加工物との接触弧長さを従来よりも小さく抑えることができるので、衝撃及び発熱の発生を防止でき、加工物の加工精度の向上及び研削面の品質向上(研削焼け防止)を図ることができる。これにより、砥石の破損も従来よりも少なくできるので、例えば、砥石工具代の削減及び加工スピードの向上を図ることができ、加工精度及び生産性を従来よりも向上できる。
【0009】
ここで、研削距離Xn を、前回砥石により加工物に成形された切上部の円弧面全体を残すことが可能な範囲内とした場合には、加工物に対する砥石の接触部分を、切上加工に必要な最小限の量に抑えることができる。
また、切上加工を、加工物取付部又は砥石を制御部でプログラム制御しながら移動させて行う場合には、高精度で作業性良く切上加工を実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1(A)は本発明の第1の実施の形態に係る研削盤の加工方法の説明図、(B)は研削端部の説明図、図2は同研削盤の加工方法の加工初期の説明図、図3(A)は本発明の第2の実施の形態に係る研削盤の加工方法の説明図、(B)は同研削盤と加工物の斜視図である。
【0011】
図1(A)、(B)、図2に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る研削盤の加工方法は、加工物取付部10上に載置された加工物11を、砥石12に対して左右方向に複数回往復移動させ、砥石12により加工物11を研削して切上加工を行う方法である。なお、本実施の形態において、加工物11を切上加工して製造する製品は金型用のパンチである。また、砥石12に対して加工物取付部10を左右方向に移動させているが、説明の便宜上、各図では、加工物11に対する砥石12の相対位置関係を変えて示している。以下、詳しく説明する。
【0012】
図2に示すように、加工物取付部10上に1個の加工物11を載置し固定した後、時計回りに回転可能に軸支された円形の砥石12を上下動させるヘッド(図示しない)の高さ位置を、研削深さΔYだけ加工物11を研削できる位置に調整する。そして、砥石12を回転駆動させた後、加工物取付部10を左右方向に往復移動させ、加工物11の研削を行う。これにより、加工物11は、砥石12によって研削されながら切込まれ、加工物取付部10の一方側(右側)ストロークエンドにおける加工物11の(左側)研削端部が、砥石12の形状に対応して円弧状になり、加工物11に切上部13が形成される。
なお、加工物取付部10の送り駆動手段としては、プログラム制御が容易で加工精度が高い、例えば、リニアモータ又はサーボモータを使用する。これにより、制御部である例えばコンピュータ(図示しない)に入力されたプログラムに基づいて、加工物取付部10の移動距離を調整し、砥石12による加工物11の研削距離が調整される。
【0013】
図1(A)、(B)に示すように、n回目の加工物取付部10の往復移動における砥石12による加工物11の研削距離Xn は、加工物11の一方側端面(右側端面)14を基準として、前回(n−1回目)の加工物取付部10の往復移動における砥石12による加工物11の研削範囲内で、しかも、n−1回目の研削距離Xn-1 よりも短くなっている。ここで、nは2以上の整数である。
【0014】
なお、砥石12による研削距離は加工物11を研削することで形成される平面部15の長さを意味する。この研削距離は、加工物取付部10の他方側(左側)ストロークエンドを基準とした加工物取付部10の移動距離によって調整される。
ここで、加工物11の研削距離について説明する。
加工物11の研削は、研削距離Xn が、前回砥石12により加工物11に成形された切上部13の円弧面16全体を残すようにした場合の加工物11に対する砥石12位置、即ち研削距離Xn-1 での加工物取付部10の一方側ストロークエンドでの砥石12の下端位置17に、今回の研削を行う砥石12が接触する位置までの範囲内にあるように行う。
【0015】
図1(B)に示すように、最初の加工物取付部10の一方側ストロークエンドでの加工物11に対する砥石12の回転中心位置をP(x,y)とし、次回の加工物取付部10の一方側ストロークエンドでの加工物11に対する砥石12の回転中心位置をQ(X,Y)とした場合、砥石12の半径をRとすれば、2点P、Qの関係は以下の式で示される。
2 =(X−x)2 +{Y−(y−R)}2
ここで、Y=y−ΔYである。なお、ΔYは加工物取付部10による1回の往復移動時における研削(切込み)深さである。
【0016】
上式から加工物取付部10の水平方向の移動距離の変位ΔXを求める。
ΔX=X−x=√(2・R・ΔY−ΔY2
ここで、ΔYは、例えば、1μm以上20μm以下程度であるので、砥石の半径Rと比較して十分小さい。
2・R・ΔY≫ΔY2
従って、以下の式が成立する。
ΔX≒√(2・R・ΔY)
【0017】
以上のことから、研削距離Xn を、前回の研削距離Xn-1 よりも√(2・R・ΔY)以上短くした範囲内にすることで、前回砥石12により加工物11に成形された切上部13の円弧面16全体を残存させることができる。
ここで、加工物11の研削距離は、加工物取付部10の他方側ストロークエンドを基準とした加工物取付部10の移動距離によって調整されるので、砥石12に対する加工物取付部10の移動距離Ln を、前回の移動距離Ln-1 よりもΔL、即ちΔXだけ短くすることにより、研削代を必要以上に多くすることを抑制できる。
なお、本実施の形態においては、移動距離の変位ΔXを以下の式の範囲内としているため、従来よりも研削スピードを向上させることもできる。
0<ΔX<√(2・R・ΔY)
【0018】
前記した操作手順を、予め制御部に入力されたプログラムに基づいて行い、加工物取付部10が他方側ストロークエンドに移動、即ち砥石12と加工物11とが離れる毎に、加工物11の研削深さΔYだけヘッドを下げ、しかも加工物取付部10の左右方向のストローク(移動距離)をΔLだけ短くし、回転している砥石12で加工物11を研削して切込む。ここで、加工物取付部10による加工物11の研削毎の研削深さΔYは、全て同じ値に設定することも、また異なる値に設定することも可能である。
これにより、切上部13を形成した後、砥石12の外周が切上部13に接触しないように、パンチの刃先になる部分を加工する。
【0019】
ここで、ストロークを切込み毎に小さくする方法は、リニアモータの場合、プログラム上でストローク長さの設定を切込み毎に変えることにより実施できる。
なお、切込みは、複数回のストローク毎に入れてもよい。
また、切上部13の円弧面16の形状を、通常のストローク(Ln-1 )によって形成された切上部13の平面部15に形成する際に、ストロークをΔLだけ短くしてもよい。
【0020】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る研削盤の加工方法について、図3(A)、(B)を参照しながら説明する。
まず、図3(A)、(B)に示すように、加工物取付部10上の両側に間隔Dを開けて2つの加工物18、19を載置し固定し、各加工物18、19を研削深さΔYだけ研削できる位置に調整する。なお、2つの加工物18、19の対向する端面を接触させて配置することもできる。そして、砥石12を回転駆動させた後、加工物取付部10を左右方向に往復移動させ、各加工物18、19の研削を行う。これにより、加工物18、19は、砥石12によって研削されながら切込まれ、加工物取付部10の一方側(右側)ストロークエンドにおける加工物18の研削端部、及び加工物取付部10の他方側(左側)ストロークエンドにおける加工物19の研削端部が、砥石12の形状に対応して円弧状になり、各加工物18、19に切上部20、21が形成される。
【0021】
なお、砥石12による加工物18の研削距離Xn は、加工物18の一方側端面(右側端面)22を基準として、また加工物19の研削距離Xn は、加工物19の他方側端面(左側端面)23を基準として、前回の砥石12による各加工物18、19の研削範囲内で、しかもこの各研削距離Xn-1 よりも短くなっている。なお、各加工物18、19の研削距離は、同一の値に設定することも、また異なる値に設定することも可能である。
ここで、各加工物18、19の研削は、予めコンピュータに入力された前記した関係式に基づき、プログラム制御により行われる。なお、各加工物18、19の研削距離は、加工物取付部10の移動距離の中心を基準として調整されるので、砥石12に対する加工物取付部10の移動距離Ln を、前回の移動距離Ln-1 よりも2ΔLだけ短くすることにより、研削代を必要以上に多くすることを抑制できる。
これにより、一度に2個のパンチを製造できるので、パンチの製造時間を短縮でき生産効率を向上させることができる。
【0022】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の研削盤の加工方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、上下方向に移動可能な砥石に対して、加工物取付部を左右方向に往復移動させた場合について説明したが、加工物取付部に対して砥石を左右方向に移動させることも可能である。この場合、前記実施の形態とは異なり、砥石を左右方向に動かすので、予め制御部に入力されたプログラムに基づいて、砥石(回転中心)の左右方向のストロークをΔLだけ短くし、この移動する砥石で加工物を研削して切り込む。
そして、前記実施の形態においては、砥石に対して加工物取付部を左右方向に往復移動させた場合について説明したが、加工物取付部を上下方向、前後方向、又は斜め方向に往復移動させることも可能である。なお、加工物取付部に対して砥石を上下方向、前後方向、又は斜め方向に移動させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(A)は本発明の第1の実施の形態に係る研削盤の加工方法の説明図、(B)は研削端部の説明図である。
【図2】同研削盤の加工方法の加工初期の説明図である。
【図3】(A)は本発明の第2の実施の形態に係る研削盤の加工方法の説明図、(B)は同研削盤と加工物の斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
10:加工物取付部、11:加工物、12:砥石、13:切上部、14:端面、15:平面部、16:円弧面、17:下端位置、18、19:加工物、20、21:切上部、22、23:端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工物取付部上に載置された加工物と砥石とを相対的に複数回往復移動させ、前記砥石により前記加工物を研削して切上加工を行う研削盤の加工方法において、
前記砥石による前記加工物の研削距離Xn は、前回の前記砥石による前記加工物の研削範囲内で、しかもこの研削距離Xn-1 よりも短いことを特徴とする研削盤の加工方法。
なお、nは往復移動の回数であり2以上の整数である。
【請求項2】
請求項1記載の研削盤の加工方法において、前記研削距離Xn は、前回前記砥石により前記加工物に成形された切上部の円弧面全体を残すことが可能な範囲内であることを特徴とする研削盤の加工方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の研削盤の加工方法において、前記切上加工は、前記加工物取付部又は前記砥石を制御部でプログラム制御しながら移動させて行うことを特徴とする研削盤の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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