説明

硬化性樹脂組成物

【課題】耐熱性に優れ、かつ、環境、安全面でも問題がないビニルエーテル重合体を提供する。
【解決手段】ビニルエーテル系モノマーを主体とする重合体であって、少なくとも下記〔I〕式で表される構成単位を含む重合体を開環メタセシス重合させることによって得られるビニルエーテル重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開環メタセシス重合によって得られる新規なビニルエーテル重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、開環メタセシス重合性組成物としては、メタセシス重合性環状オレフィンモノマーとしてジシクロペンタジエンが用いられている例が多く、反応射出成型法と呼ばれる技術により、架橋重合体成型物が得られることが知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
一方、メタセシス重合性環状オレフィンポリマーを、開環メタセシス重合に用いる例は少なく、ノルボルネニル基を側鎖又は末端に導入したポリジメチルシロキサンやカルボキシレートウレタンポリエーテルが報告されているにすぎない(例えば特許文献2、3)。
【特許文献1】特公平3−28451号公報
【特許文献2】特開2003−192520号公報
【特許文献3】特開2007−224301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐熱性に優れた硬化性樹脂組成物として有用な開環メタセシス重合によって得られる新規なビニルエーテル重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以前、本発明者らは、新規な脂環式ビニルエーテル重合体であるノルボルネニルビニルエーテル重合体に関する報告を行った(特願2007−72166)。
【0006】
本発明者らは、上記特許出願を基に鋭意研究を行った結果、ビニルエーテル系モノマーを主体とする重合体であって、少なくとも下記〔I〕式で表される構成単位を含む重合体を開環メタセシス重合させることによって得られるビニルエーテル重合体が、耐熱性等に優れることを見出した。
【0007】
【化1】

【0008】
また、下記〔II〕式で表されることを特徴とするビニルエーテル重合体が、耐熱性等に優れることを見出した。
【0009】
【化2】

【0010】
また、ビニルエーテル系モノマーを主体とする重合体であって、少なくとも下記〔I〕式で表される構成単位を含む共重合体を開環メタセシス重合させることによって得られるビニルエーテル重合体が、耐熱性等に優れることを見出した。
【0011】
【化3】

【0012】
さらに、下記〔III〕式で表されることを特徴とするビニルエーテル重合体が、耐熱性等に優れることを見出した。
【0013】
【化4】

【0014】
上記式〔III〕において、lおよびnは互いに独立して2〜3,0000の範囲であり、mは0または1であり、Rは一価の有機基である。
【発明の効果】
【0015】
本発明におけるビニルエーテル重合体は、耐熱性だけでなく透明性に優れているため、インクジェット用インク等のインク用材料、レンズ、液晶用フィルム等の光学用材料、各種コーティング用材料、接着剤用材料として有用である。さらに、本発明におけるビニルエーテル重合体は、有害性が極めて低く安全性に優れたものである。従って、医療用フィルムや医療用粘着剤等の高い安全性が要求される分野において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明におけるビニルエーテル重合体の第1の様態は、ビニルエーテル系モノマーを主体とする重合体であって、少なくとも下記〔I〕式で表される構成単位を含む重合体を開環メタセシス重合させることによって得られるビニルエーテル重合体である。
【0017】
【化5】

【0018】
また、本発明におけるビニルエーテル重合体の第2の様態は、下記〔II〕式で表されることを特徴とするビニルエーテル重合体である。
【0019】
【化6】

【0020】
本発明におけるビニルエーテル重合体の第3の様態は、ビニルエーテル系モノマーを主体とする重合体であって、少なくとも下記〔I〕式で表される構成単位を含む共重合体を開環メタセシス重合させることによって得られるビニルエーテル重合体。
【0021】
【化7】

【0022】
本発明におけるビニルエーテル重合体の第4の様態は、下記〔III〕式で表されることを特徴とするビニルエーテル重合体である。
【0023】
【化8】

【0024】
上記式〔III〕において、lおよびnは互いに独立して2〜3,0000の範囲であり、mは0または1であり、Rはビニルエーテル系モノマー由来の一価の有機基である。
【0025】
前記ビニルエーテル系モノマーの具体例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n―ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、(1―エチルプロピル)ビニルエーテル、ネオペンチルビニルエーテル、n―ヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンメタノールビニルエーテル、2―エチルヘキシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、アリルビニルエーテル、ノルボルニルビニルエーテル、ノルボルニルメチルビニルエーテル、ノルボルネニルメチルビニルエーテル、2―アセトキシエチルビニルエーテル、4―アセトキシブチルビニルエーテル、アセトキシシクロヘキサンメタノールビニルエーテル、アセトキシジエチレングリコールビニルエーテル、アセトキシトリエチレングリコールビニルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記ビニルエーテル系モノマーは、所望により1種または2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
前記式〔II〕で表されるビニルエーテル重合体は、前記式〔I〕で表される構成単位を含むビニルエーテル重合体を開環メタセシス重合させることによって得ることができる。また、上記式〔III〕で表されるビニルエーテル重合体は、前記式〔I〕で表される構成単位を含むビニルエーテル共重合体を開環メタセシス重合させることによって得ることができる。
【0027】
本願における開環メタセシス重合に利用できる触媒としては、下記式〔IV〕で示される第二世代Grubbs触媒が挙げられる(式中、Cyはシクロヘキシルを示す)。
【0028】
【化9】

【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
本明細書中において、「数平均分子量(以下Mnと略す)」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCと略す)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出するものである。
【0031】
本明細書中において、「5%重量減少温度」とは、示差熱熱重量同時測定装置(以下TG−DTA)にて窒素流量200mL/分、50℃から500℃までの昇温速度10℃/分の条件で、初期重量の5%が減少した時点の温度のことである。
【0032】
(合成例1)
〔ノルボルネニルビニルエーテル単独重合体の合成〕
十分乾燥し窒素置換を行った重合管に、ノルボルネニルビニルエーテル1.5g(11mmol)、トルエン9.9mL、ジエチルエーテル0.66mLを仕込み、0℃に冷却した。20分後、トリフルオロ酢酸125mg(1.1mmol)を添加した。30分後、塩化亜鉛のジエチルエーテル溶液(1mol/L)0.44mL(0.44mmol)を添加して重合を開始した。1分後、アリルトリメチルシラン377mg(3.3mmol)を添加し、25℃で1時間、アリルトリメチルシランとの重合停止反応を行った。反応終了後、反応液をジエチルエーテルで希釈して、脱イオン水で3回洗浄し、溶媒の減圧除去を行って、目的物であるノルボルネニルビニルエーテル単独重合体1.4gを得た。
【0033】
得られた重合体はGPC測定により、Mn:1080であった。さらに、得られた重合体のHNMR測定を行ったところ、ビニルエーテル基に由来するビニル基のピークは消失し、5.9−6.4ppmにノルボルネニル基のビニル基に由来するピークが認められた。
【0034】
(合成例2)
〔シクロヘキシルビニルエーテルとノルボルネニルビニルエーテルの共重合体の合成〕
モノマーを、シクロヘキシルビニルエーテルとノルボルネニルビニルエーテルのモル組成比が90/10である混合モノマーに変更した以外は、合成例1と全く同じ触媒、溶媒を用いて、同一モル比、モル濃度とし、重合反応温度、重合反応時間、重合後の処理方法も同じ条件にて目的物を得た。
【0035】
得られた重合体はGPC測定により、Mn:1130であった。さらに、得られた重合体のHNMR測定を行ったところ、ビニルエーテル基に由来するビニル基のピークは消失し、5.9−6.4ppmにノルボルネニル基のビニル基に由来するピークが認められた。
【0036】
(実施例1)
〔合成例1の単独重合体による架橋重合体の合成〕
合成例1で得られた樹脂220mgをトルエン1.5mLに溶解し、式〔IV〕の第二世代Grubbs触媒2.1mgを添加して、窒素雰囲気下、室温で反応を開始させた。60分後、不溶化物が生じ、110mgのエチルビニルエーテルを添加して反応を停止した。反応後、反応液のろ過を行って不溶化物を採取し、減圧乾燥を行い架橋重合体212mg得た。架橋重合体の5%重量減少温度は、193℃であった。
【0037】
【化10】

【0038】
(実施例2)
〔合成例2の共重合体による架橋共重合体の合成〕
合成例2で得られた共重合物に変更した以外は、実施例1と全く同じ条件にて組成物を調整した。架橋共重合体の5%重量減少温度は232℃であった。
【0039】
(比較例1)
〔ノルボルネン重合体の合成〕
ノルボルネン190mgをトルエン1.5mLに溶解し、式〔IV〕の第二世代Grubbs触媒2.1mgを添加して、窒素雰囲気下、室温で反応を開始させた。3分後、不溶化物が生じ、110mgのエチルビニルエーテルを添加して反応を停止した。反応後、反応液のろ過を行って不溶化物を採取し、減圧乾燥を行い架橋重合体150mg得た。架橋重合体の5%重量減少温度は、87℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明におけるビニルエーテル重合体は、耐熱性に優れるばかりでなく、透明性に優れるものである。従って、インクジェット用インク等のインク用材料、レンズ、液晶用フィルム等の光学用材料、各種コーティング用材料、接着剤用材料として有用である。さらに、本発明におけるビニルエーテル重合体は、有害性が極めて低く安全性に優れるものである。従って、医療用フィルムや医療用粘着剤等の高い安全性が要求される分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエーテル系モノマーを主体とする重合体であって、少なくとも下記〔I〕式で表される構成単位を含む重合体を開環メタセシス重合させることによって得られるビニルエーテル重合体。
【化1】

【請求項2】
下記〔II〕式で表されることを特徴とするビニルエーテル重合体。
【化2】

【請求項3】
ビニルエーテル系モノマーを主体とする重合体であって、少なくとも下記〔I〕式で表される構成単位を含む共重合体を開環メタセシス重合させることによって得られるビニルエーテル重合体。
【化3】

【請求項4】
ビニルエーテル系モノマーが、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n―ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、(1―エチルプロピル)ビニルエーテル、ネオペンチルビニルエーテル、n―ヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンメタノールビニルエーテル、2―エチルヘキシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、アリルビニルエーテル、ノルボルニルビニルエーテル、ノルボルニルメチルビニルエーテル、ノルボルネニルメチルビニルエーテル、2―アセトキシエチルビニルエーテル、4―アセトキシブチルビニルエーテル、アセトキシシクロヘキサンメタノールビニルエーテル、アセトキシジエチレングリコールビニルエーテル、アセトキシトリエチレングリコールビニルエーテルからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1または3に記載のビニルエーテル重合体。
【請求項5】
下記〔III〕式で表されることを特徴とするビニルエーテル重合体。
【化4】

【請求項6】
重量平均分子量が150〜100,000であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載のビニルエーテル重合体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載のビニルエーテル重合体を含有するインク組成物。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか一項に記載のビニルエーテル重合体を含有する医療用粘着剤。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか一項に記載のビニルエーテル重合体を含有する接着剤用組成物。
【請求項10】
請求項1〜6の何れか一項に記載のビニルエーテル重合体を含有するコーティング用組成物。

【公開番号】特開2010−77331(P2010−77331A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249421(P2008−249421)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】