説明

磁性体シート及びこの磁性体シートを用いた磁性体コア

【課題】 偏平状又は針状の軟磁性体粉末の平らな面を磁性体シートの厚み方向と垂直な方向に配列する様に配向しているため、105℃以上の高温になると、磁性体粉の熱膨張応力が磁性体シートの厚み方向に集中して磁性体シートが厚み方向に膨張し、この熱膨張の応力が磁性体シート間を押し広げる形で加わって、コアの強度が劣化したり、実数部透磁率が低下したりする。そのため、電子機器内の高温になり易い場所や、高温になり易い場所で用いられる電子機器に使用できなかった。
【解決手段】 球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて形成される。
【効果】 高温になり易い場所で使用しても実数部透磁率等の特性が劣化するのを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体粉と有機結合剤を有する磁性体によって形成された磁性体シート及び、この磁性体シートを複数枚積層して形成された磁性体コアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信端末の小型化、多用途化が進み、低中波帯の電波を利用した小型の端末が多く見られる。この様な低中波帯の送信及び受信に使用するコイルアンテナとして、図9に示す様に、偏平状又は針状の軟磁性体粉と有機結合剤を有する磁性体によって形成された磁性体シートを複数枚積層してコア91を形成し、このコア91に巻線92を巻回して形成したものがある(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-317674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この様な従来のコイルアンテナは、偏平状又は針状の軟磁性体粉を用い、この軟磁性体粉の平らな面が磁性体シートの厚み方向と垂直な方向に配列する様に配向した磁性体シートを複数枚積層しているため、コアの実数部透磁率を高くすることができ、これによりコアの形状を小さくでき、コイルの出力も大きくできる。
一方、コイルアンテナは、設置スペースに余裕があり、形状が大きくても問題がなかったり、実数部透磁率が低くても問題がないものも多い。また、従来のコイルアンテナは、偏平状又は針状の軟磁性体粉の平らな面を磁性体シートの厚み方向と垂直な方向に配列する様に配向しているため、105℃以上の高温になると、磁性体粉の熱膨張応力が磁性体シートの厚み方向に集中して磁性体シートが厚み方向に膨張し、この熱膨張の応力が磁性体シート間を押し広げる形で加わって、コアの強度が劣化したり、実数部透磁率が低下したりするという問題があった。そのため、電子機器内の高温になり易い場所や、高温になり易い場所で用いられる電子機器に使用できなかった。
【0005】
本発明の磁性体シート及びこの磁性体シートを用いた磁性体コアは、高温になる場所で使用しても実数部透磁率等の特性が劣化したり、コアの強度が劣化したりするのを防止できる磁性体シート及びこの磁性体シートを用いた磁性体コアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁性体シートは、球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて形成される。
また、本発明の磁性体コアは、球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて形成された厚さが10μm〜1mmの磁性体シートを複数枚積層して形成される。
さらに、本発明の磁性体コアは、球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて形成された厚さが10μm〜1mmの磁性体シートを複数枚積層し、可撓性を持たせる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の磁性体シートは、球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて形成されるので、高温になり易い場所で使用しても実数部透磁率等の特性が劣化するのを防止できる。
また、本発明の磁性体コアは、球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて形成された厚さが10μm〜1mmの磁性体シートを複数枚積層して形成されるので、磁性体シートが厚み方向に膨張することがなく、高温になり易い場所で使用しても実数部透磁率等の特性が劣化するのを防止でき、かつ、コアの強度が劣化するのを防止できる。
さらに、本発明の磁性体コアは、球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて形成された厚さが10μm〜1mmの磁性体シートを複数枚積層し、可撓性を持たせるので、磁性体シートが厚み方向に膨張することがなく、高温になり易い場所で使用しても実数部透磁率等の特性が劣化するのを防止でき、かつ、コアの強度が劣化するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の磁性体シートを用いた磁性体コアの実施例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の磁性体シートを用いた磁性体コアの実施例を示す斜視図である。
【図3】本発明の磁性体シートを用いた磁性体コアの製造工程を示す斜視図である。
【図4】本発明の磁性体コアを用いたコイルアンテナの斜視図である。
【図5】本発明の磁性体シートを高温高湿中に放置した時の厚み方向の膨張特性を示すグラフである。
【図6】本発明の磁性体シートを用いた磁性体コアの強度特性を示すグラフである。
【図7】本発明の磁性体シートを用いた磁性体コアの別の実施例を示す斜視図である。
【図8】本発明の磁性体コアを用いた無接点充電装置を示す斜視図である。
【図9】従来のコイルアンテナを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の磁性体シートは、鉄アルミ珪素合金、鉄ニッケル、鉄コバルト合金、鉄コバルトシリコン合金、鉄シリコンバナジューム合金、鉄コバルトボロン合金、鉄クロムシリコン合金、コバルト系アモルファス合金、鉄系アモルファス合金、酸化物磁性粉、カーボニル鉄、モリブデンパーマロイ、純鉄圧粉の磁性材料のうち少なくとも1種類以上を含有する球状の磁性体粉と、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ニトリル−ブタン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム等の熱可塑性樹脂あるいはそれらの共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいは有機系難燃剤であるハロゲン化物、臭素化ポリマーのうち少なくとも1種類以上を含有する有機結合剤を混合した絶縁性磁性体を用いてシート状に形成される。この磁性体シートは、厚みが10μm〜1mmになる様に形成され、複数枚積み重ねられて磁性体コアが形成される。この時、この磁性体コアは、可撓性を有する様に、球状の磁性体粉と有機結合剤の材質及び比率が選択される。
従って、本発明の磁性体シートは、球状の磁性体粉を用いているため、有機結合剤中における各磁性体粉の位置変動や、磁性体粉の形状の変形の自由度が大きく、高温になっても、磁性体粉の熱膨張の応力が磁性体シートの全方向に分散され、発生する歪の大きさも小さく常温に戻るとその歪が解消される。また、本発明の磁性体コアは、高温になっても、その熱膨張の影響を小さくできるので、コアの強度が劣化したり、実数部透磁率が低下したりすることもない。
【実施例】
【0010】
以下、本発明の磁性体シート及びこの磁性体シートを用いた磁性体コアの実施例を図1乃至図8を参照して説明する。
図1は本発明の磁性体シートを用いた磁性体コアの実施例を示す分解斜視図、図2は本発明の磁性体シートを用いた磁性体コアの実施例を示す斜視図である。
磁性体シート11A〜11Eは、球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて、それぞれ厚みが10μm〜1mmになる様に形成される。球状の磁性体粉としては、例えば鉄とクロムとシリコンを含有した鉄クロムシリコン合金が用いられる。また、有機結合剤としては、例えばポリウレタン樹脂、硬化剤及び、難燃剤を組み合わせたものが用いられる。この有機結合剤は、鉄クロムシリコン合金に対して、ポリウレタン樹脂が8〜12重量部、硬化剤が0.5〜2重量部及び、難燃剤が1〜10重量部添加される。
この磁性体シート11A〜11Eは、所定の厚みになる様に複数枚積み重ねられ、圧着されて、図2に示す様な磁性体コア11が形成される。
【0011】
この様な磁性体コアは次の様にして製造される。まず、鉄クロムシリコン合金にポリウレタン樹脂8〜12重量部、硬化剤0.5〜2重量部及び、難燃剤1〜10重量部を添加し、さらに溶媒を添加して攪拌機で混合分散し、脱泡後、ドクターブレード法等で支持フィルム上に塗布することにより、図3(A)に示す様な、厚みが10μm〜1mmの磁性体シート21A〜21Eがそれぞれ形成される。この複数の磁性体シート21A〜21Eは所定の厚みになる様に複数枚積み重ねられ、これらに30〜50MPsの圧力を加えて圧着して、図3(B)に示す様な、磁性体シート積層体21が形成される。この磁性体シート積層体21は、刃型、プレス金型、カッターの様な刃物等を用いて、所定の大きさに点線の部分で切断されて、図2に示す様な磁性体コア11が形成される。
この磁性体コアは、コイルアンテナとして用いられる場合、図4に示される様に、磁性体コア41の外周に巻線42が巻回される。
【0012】
この様に形成された本発明の磁性体シートは、鉄アルミ珪素合金からなる球状の磁性体粉を用いて1mmの厚さにしたものと、鉄クロムシリコン合金からなる球状の磁性体粉を用いて1.2mmの厚さにしたものを125℃中に94時間放置したところ、磁性体シートの厚み方向の膨張率はそれぞれ0%、0.67%となった。これは、鉄アルミ珪素合金からなる偏平状の磁性体粉を用いて1mmの厚さにした従来の磁性体シートの厚み方向の膨張率が7.12%、それ以外の材質の偏平状磁性体粉を用いて厚さを0.3mm、0.5mm、1mm、3mmにした従来の磁性体シートの厚み方向の膨張率がそれぞれ3.15%、16.98%、28.54%、30.38%であるので、本発明の磁性体シートの高温における熱膨張率は従来の磁性体シートの高温における熱膨張率に比較して大幅に小さくなっている。
また、球状の磁性体粉を用いた本発明の磁性体シートと、偏平状の磁性体粉を用い磁性体シートの厚みをそれぞれ0.3mm、0.5mm、1mmにした従来の磁性体シートを温度が85℃、湿度が85%の大気中に500時間以上放置したところ、図5に示す様に、本発明の磁性体シートの厚み方向の膨張率51は、偏平状の磁性体粉を用い磁性体シートの厚みをそれぞれ0.3mmにした従来の磁性体シートの厚み方向の膨張率52、偏平状の磁性体粉を用い磁性体シートの厚みをそれぞれ0.5mmにした従来の磁性体シートの厚み方向の膨張率53、偏平状の磁性体粉を用い磁性体シートの厚みをそれぞれ1mmにした従来の磁性体シートの厚み方向の熱膨張率54のいずれのものものよりも小さくすることができた。
さらに、球状の磁性体粉を用いて厚みを1.5mmにした磁性体シートを積み重ねて形成した本発明の磁性体コアと偏平状の磁性体粉を用いて厚みを1.5mmにした磁性体シートを積み重ねて形成した従来の磁性体コアについてオートグラフによる屈曲試験をしたところ、図6に点線で示す様に従来の磁性体コアは1000サイクル程度で層間剥離が発生して強度が劣化したのに対し、図6に実線で示す様に本発明の磁性体コアは3000サイクル以上でも強度が劣化しなかった。
【0013】
図7は本発明の磁性体シートを用いた磁性体コアの別の実施例を示す斜視図である。
磁性体シートは、球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて、厚みが10μm〜1mmになる様に形成される。球状の磁性体粉としては、例えば鉄クロムシリコン合金が用いられる。また、有機結合剤としては、例えばポリウレタン樹脂、硬化剤及び、難燃剤を組み合わせたものが用いられる。この有機結合剤は、鉄クロムシリコン合金に対して、ポリウレタン樹脂が8〜12重量部、硬化剤が0.5〜2重量部及び、難燃剤が1〜10重量部添加される。
この磁性体シートは、所定の厚みになる様に複数枚積み重ねられ、圧着されて、図7に示す様な磁性体コア71が形成される。
この様な磁性体コアは前述の実施例と同様に、まず、鉄クロムシリコン合金にポリウレタン樹脂8〜12重量部、硬化剤0.5〜2重量部及び、難燃剤1〜10重量部を添加し、さらに溶媒を添加して攪拌機で混合分散し、脱泡後、ドクターブレード法等で支持フィルム上に塗布することにより、厚みが10μm〜1mmの磁性体シートが形成される。この複数の磁性体シートは所定の厚みになる様に複数枚積み重ねられ、これらに30〜50MPsの圧力を加えて圧着して、磁性体シート積層体が形成される。この磁性体シート積層体は、刃型、プレス金型、カッターの様な刃物等を用いて、所定の大きさに切断されて形成される。
この磁性体コアは、無接点充電装置として用いられる場合、図8に示される様に、磁性体コア81の表面に、巻線を巻回した空芯コイル82が配置される。
【0014】
以上、本発明の磁性体シート及びこの磁性体シートを用いた磁性体コアの実施例を述べたが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。例えば、球状の磁性体粉としては、鉄アルミ珪素合金、鉄ニッケル、鉄コバルト合金、鉄コバルトシリコン合金、鉄シリコンバナジューム合金、鉄コバルトボロン合金、コバルト系アモルファス合金、鉄系アモルファス合金、酸化物磁性粉、カーボニル鉄、モリブデンパーマロイ、純鉄圧粉の磁性材料のうち少なくとも1種類以上を含有する磁性材料を用いてもよい。また、有機結合剤としては、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ニトリル−ブタン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム等の熱可塑性樹脂あるいはそれらの共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいは有機系難燃剤であるハロゲン化物、臭素化ポリマーのうち少なくとも1種類以上を含有するものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0015】
11A〜11E 磁性体シート
11 磁性体コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて形成されたことを特徴とする磁性体シート。
【請求項2】
前記球状の磁性体粉は、鉄アルミ珪素合金、鉄ニッケル、鉄コバルト合金、鉄コバルトシリコン合金、鉄シリコンバナジューム合金、鉄コバルトボロン合金、鉄クロムシリコン合金、コバルト系アモルファス合金、鉄系アモルファス合金、酸化物磁性粉、カーボニル鉄、モリブデンパーマロイ、純鉄圧粉の磁性材料のうち少なくとも1種類以上を含有する請求項1に記載の磁性体シート。
【請求項3】
前記有機結合剤は、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ニトリル−ブタン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム等の熱可塑性樹脂あるいはそれらの共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいは有機系難燃剤であるハロゲン化物、臭素化ポリマーのうち少なくとも1種類以上を含有する請求項1に記載の磁性体シート。
【請求項4】
球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて形成された厚さが10μm〜1mmの磁性体シートを複数枚積層したことを特徴とする磁性体コア。
【請求項5】
球状の磁性体粉と有機結合剤を有する絶縁性磁性体を用いて形成された厚さが10μm〜1mmの磁性体シートを複数枚積層し、可撓性を持たせたことを特徴とする磁性体コア。
【請求項6】
前記球状の磁性体粉は、鉄アルミ珪素合金、鉄ニッケル、鉄コバルト合金、鉄コバルトシリコン合金、鉄シリコンバナジューム合金、鉄コバルトボロン合金、鉄クロムシリコン合金、コバルト系アモルファス合金、鉄系アモルファス合金、酸化物磁性粉、カーボニル鉄、モリブデンパーマロイ、純鉄圧粉の磁性材料のうち少なくとも1種類以上を含有する請求項4又は請求項5に記載の磁性体コア。
【請求項7】
前記有機結合剤は、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ニトリル−ブタン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム等の熱可塑性樹脂あるいはそれらの共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいは有機系難燃剤であるハロゲン化物、臭素化ポリマーのうち少なくとも1種類以上を含有する請求項4又は請求項5に記載の磁性体コア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−23261(P2012−23261A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161330(P2010−161330)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】