説明

磁性粒子、高周波用磁性材料及び高周波デバイス

【課題】高周波での磁気損失及び誘電損失を低減することである。
【解決手段】磁性粒子50は、金属磁性体51と、金属磁性体51の周囲を覆う酸化物、窒化物、炭化物又はフッ化物の被覆膜52と、を備える。磁性粒子50は、疎水化処理剤を用いて疎水化処理が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子、高周波用磁性材料及び高周波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、磁性材料は、各種磁気応用製品に用いられている。このような磁性材料のうち、弱い磁界で大きな磁化の変化をする材料をソフト磁性材料という。
【0003】
ソフト磁性材料は、材料の種別から金属系材料、アモルファス材料、酸化物材料に分類される。ソフト磁性材料のうち、周波数がMHz以上の高周波では、抵抗率が高く、うず電流損失を抑制できる酸化物材料(フェライト材料)が用いられている。例えば、高周波で用いられるフェライト材料として、Ni−Znフェライト材料などが知られている。
【0004】
このようなフェライト材料を含むソフト磁性材料では、1GHz程の高周波において、磁気共鳴に伴う複素透磁率実部Re(μ)の減衰と複素透磁率虚部Im(μ)の増加が生じる。このうち、複素透磁率虚部Im(μ)は、磁気エネルギーの損失をもたらす項であり、複素透磁率虚部Im(μ)が高い値であることは、磁心あるいはアンテナといった応用の上では実用上好ましくない。
【0005】
一方、複素透磁率実部Re(μ)は、磁束を集める効果あるいは電磁波に対する波長短縮効果の大きさを示す値であるため、高い値であることが実用上好ましい。
【0006】
また、磁性材料のエネルギー損失(磁気損失)を表す指標として、次式(1)で表されるタンジェントデルタ(tanδ)が用いられる場合もある。
tanδ=Im(μ)/Re(μ) …(1)
タンジェントデルタが大きい値であると、磁性材料中で磁気エネルギーが熱エネルギーに変換され、必要なエネルギーの伝達効率が悪化する。このため、タンジェントデルタは低い値であることが好ましい。以下、磁気損失をタンジェントデルタ(tanδ)として説明する。交流磁界Hを印加したときの単位体積あたりのエネルギー損失は、P=1/2・ωμRe(μ)tanδ・Hと表される(ω:角周波数)。
【0007】
ソフト磁性材料には、高周波帯(GHz帯)においてもtanδの低い薄膜材料が存在する。例えば、Fe基高電気抵抗軟磁性膜やCo系高電気抵抗膜といった薄膜材料が存在する。しかし、薄膜材料はその体積が小さいがゆえに、適用範囲が制限されてしまう。加えて、薄膜作成のプロセスが複雑であり高価な設備を使用しなければならないという問題がある。
【0008】
このような問題を解決するために、樹脂中に磁性材料を分散させた複合磁性材料に対して、樹脂成型技術を適用した例がある。例えば、ナノ結晶軟磁性体材料を粉末として得たものを樹脂と複合することによって、広帯域における電波吸収特性に優れている電磁波吸収体を提供する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、樹脂等の非磁性材料中にフィラーとして分散させることにより、該非磁性材料に磁性を付与する平板状軟磁性金属粒子が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−354973号公報
【特許文献2】特開2008−069381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来から良好な磁性材料が具備すべき特性として、高周波(MHz−GHz帯)における、磁気損失(tanδ)とともに、誘電体のエネルギー損失(誘電損失)を低減する要請があった。
【0012】
本発明の課題は、高周波での磁気損失及び誘電損失を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の磁性粒子は、
金属磁性体と、
前記金属磁性体の周囲を覆う酸化物、窒化物、炭化物又はフッ化物の被覆膜と、を備える磁性粒子であって、
疎水化処理剤を用いて疎水化処理が施されたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の磁性粒子において、
疎水化度が50%以上であることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の磁性粒子において、
前記金属磁性体は、複数の金属元素が含有され、
前記複数の金属元素のうち、鉄が最大の重量比率であることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁性粒子において、
粒径が40(nm)以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性粒子において、
前記被覆膜は、膜厚が1〜10(nm)であることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明の高周波用磁性材料は、
請求項1から5のいずれか一項に記載の磁性粒子と、
熱可塑性樹脂と、が複合化されたことを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の高周波用磁性材料において、
前記磁性粒子の充填率が1〜60(vol%)であることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明の高周波デバイスは、
請求項6又は7に記載の高周波用磁性材料を有するアンテナ、インダクタ及び回路基板の少なくとも一つからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高周波での磁気損失及び誘電損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る実施の形態の磁性粒子の模式構造を示す図である。
【図2】磁性粒子のTEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)像を示す図である。
【図3】(a)は、FESEM(Field Emission-Scanning Electron Microscope;電界放射型走査電子顕微鏡)−EDX(Energy Dispersive X-ray spectrometry;エネルギー分散X線分光法 )による磁性粒子の粒子像を示す図である。(b)は、FESEM−EDXによる(a)の磁性粒子の粒子像における酸素の元素分布を示す図である。
【図4】(a)は、高周波用磁性材料を適用した第1のアンテナを示す図である。(b)は、高周波用磁性材料を適用した第2のアンテナを示す図である。(c)は、高周波用磁性材料を適用した第3のアンテナを示す図である。(d)は、高周波用磁性材料を適用した第4のアンテナを示す図である。
【図5】高周波用磁性材料を適用した第5のアンテナを示す図である。
【図6】高周波用磁性材料を適用したインダクタを示す図である。
【図7】高周波用磁性材料を適用した回路基板を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明に係る実施の形態を詳細に説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0024】
図1〜図7を参照して、本発明に係る実施の形態を説明する。先ず、図1〜図3を参照して、本実施の形態の磁性粒子50の性状について説明する。図1に、本実施の形態の磁性粒子50の模式構造を示す。図2に、磁性粒子50のTEM像を示す。図3(a)に、FESEM−EDXによる磁性粒子50の粒子像を示す。図3(b)に、FESEM−EDXによる図3(a)の磁性粒子50の粒子像における酸素の元素分布を示す。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態の磁性粒子50は、金属磁性体51と、被覆膜52と、からなる。図1では、金属磁性体51が球形状であり、被覆膜52が金属磁性体51の周囲を一定の厚さで被覆し、磁性粒子50が球形状である模式構造としている。実際には、図2に示すように、磁性粒子50及び金属磁性体51は、完全な球形状ではない。図2において、色が濃い部分が金属磁性体51であり、その周囲を覆う色が薄い膜部分が被覆膜52である。なお、図2のスケールは、8nmである。
【0026】
金属磁性体51は、少なくとも鉄(Fe)を含み、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)等、他の金属を含む複数の金属からなる。但し、金属磁性体51は、複数の金属のうち、Feが最大の重量比率である。
【0027】
被覆膜52は、酸化物としてのマグネタイト(Fe)とする。Feは、金属磁性体よりも高い比抵抗を有し、うず電流損失や誘電損失を低減する効果がある。また、化学的安定性が優れている為に、製造工程における金属磁性体の酸化防止や長期信頼性を向上させる効果がある。
【0028】
金属磁性体51は、液相法により製造される。液相法とは、(金属磁性体51の)原料を溶液に溶かし、溶液段階で反応させ、化合物(金属磁性体51)を作る方法である。または、同様に溶液中で金属磁性体の構成元素を含む前駆体を一旦合成し、還元雰囲気中での熱処理によって金属磁性体に転化することとしてもよい。被覆膜52は、金属磁性体51に酸化処理を施すことにより形成される。この酸化処理とは、例えば、金属磁性体51に酸素ガスを送り、自動的に反応させる自然酸化処理である。
【0029】
ここで、磁性粒子50の形状に関する各値について説明する。より具体的には、磁性粒子50の比表面積S(nm)と、磁性粒子50の粒径(直径)d(nm)と、被覆膜52の膜厚t(nm)と、を求める。
【0030】
磁性粒子50の微細構造モデルとして、図2に示すTEM像の観察結果に基づき、金属磁性体51がFeであり、被覆膜52がFeであるものとする。Feの密度ρ=7.87(g/cm)である。Feの密度ρ=5.24(g/cm)である。
【0031】
磁性粒子50の外観は、黒色を呈している。このため、被覆膜52がFeであると考えることは妥当であり、その他の非磁性金属元素の含有量は僅かであり考慮しないものとする。
【0032】
FESEM−EDXにより、図3(a)に示す磁性粒子50の粒子像において、図3(b)に示す酸素元素の分布が得られた。図3(a)において色が濃い部分が磁性粒子50である。図3(b)において色が薄くなるほど(白くなるほど)酸素の量が多い。図3(b)によれば、磁性粒子50の表面近傍に酸素が多く分布しており、金属磁性体51の表面に被覆膜52が被覆されていることが確認された。なお、図3(a),(b)のスケールは、50nmである。
【0033】
図1の球形状の磁性粒子50において、比表面積Sと粒径dとは、次式(2)を満たす。
【数1】

但し、式(2)の密度ρは、磁性粒子50の密度である。
【0034】
このため、式(2)に代入する密度ρは、次式(3)に示すFeとFeとの比率で決まる平均密度ρ’とする必要がある。
【数2】

ここで、a:FeとFeとの質量比、ρFe:Feの密度、ρFe3O4:Feの密度、である。
【0035】
FeとOとの質量比xは、次式(4)を用いて算出できる。
【数3】

ここで、MFe:Feの原子量、MO:酸素(O)の原子量、である。
【0036】
式(4)をaについて解き、次式(5)で示されるFeとFeとの質量比aが求められる。
【数4】

粒径dは、式(2)に式(3)及び式(5)を代入することにより求められる。ここで、比表面積SはBET法による測定値を使用し、FeとOとの質量比xは、SEM−EDXによる測定値を使用する。
【0037】
図1を参照して、次式(6)の関係が成り立つ。
d=2(r+t)…(6)
【0038】
また、金属磁性体51と被覆膜52の体積比は次式(7)の関係となる。
【数5】

式(6)および式(7)を用いて、被覆膜52の膜厚tを求める事が出来る。
なお、粒径dと膜厚tとは、図2に示すような磁性粒子50のTEM像から直接に測長して得ることとしてもよい。
【0039】
上記の性状の磁性粒子50には、疎水化処理が施される。ここで、磁性粒子50に施される疎水化処理について説明する。疎水化処理とは、疎水化処理剤(表面剤)としてのカップリング剤を用いて微粒子(磁性粒子50)に表面処理を施し、カップリング剤を微粒子に付着させて、微粒子の疎水性を高める処理である。
【0040】
疎水化処理は、スプレー法等の乾式法と、浸漬法、スラリー法等の湿式法と、がある。スプレー法とは、カップリング剤を水、アルコールやその他溶剤で希釈した溶液を、かきまぜを行っている微粒子の粉体中に対してスプレーする方法である。浸漬法とは、カップリング剤に微粒子を浸漬させ、乾燥させる方法である。スラリー法とは、カップリング剤に微粒子を入れてスラリー状にし、乾燥させる方法である。
【0041】
疎水化処理のカップリング剤は、チタン(Ti)系、シラン系又はジルコニウム系のカップリング剤とする。チタン系のカップリング剤は、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジ−トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート等のTiを有するカップリング剤である。
【0042】
シラン系のカップリング剤は、基本的にR−Si−(OX)の化学構造を有するカップリング剤である。ここで、Rは被処理物質(微粒子)の相手と強い親和性を有する化学的なグループである。(OX)は、メトキシ基−OCH、エトキシ基−OC等である。
【0043】
ジルコニウム系のカップリング剤は、Zirconium IV 2,2(bis-2-propenolatomethyl)butanolato,trisneodecanolato-O、Zirconium IV,2,2-bis(2-propenyloxymethyl) butanolato,tris(dodecylbenzenesulfonato-O)-、Zirconium IV,2,2(bis-2-propenplatomethyl) butanolato,tris(dioctyl)phosphato-O、Zirconium IV,2,2(bis-2-propenplatomethyl) butanolato,tris 2-mehtyl-2-propenoato-O、Zirconium IV,2,2(bis-2-propenolatomethyl) butanolato,bis(para amino benzoato-O)、neopenthyl(diallyl)oxy,tri(dioctyl)pyrophosphato zirconate[Zirconium IV,2,2(bis 2-propenolatomethyl)butanolato,tris(diisoctyl)pyrophosphato-O] 、Neopenthyl(diallyl)oxy,triacryl zirconate[Zirconium IV,2,2(bis 2-propenolatomethyl)butanolato,tris 2-propenoateo-O] 、Zirconium IV,2,2(bis-2-propenolatomethyl)butanolato,tris(2-ethylenediamino)ethylato等の4価のジルコニウム(Zr)が中心の金属であるカップリング剤である。
【0044】
疎水化処理に関し、磁性粒子50の粉体の疎水性の評価を直裁的に表す値として疎水化度(m値)を測定する。疎水化度(m値)は、粉体濡れ性試験機を使用し、出発溶媒を純水とし、この溶媒に磁性粒子50を投入した溶液を攪拌しつつ、メタノールを3(ml/min)で加え、溶液の透過光強度が初期の90%に低下した時点のメタノール濃度を疎水化度(%)として定義した。この方法では、測定時間が数秒であるため、重力下でも液と磁性粒子50との親和性が小さいときには磁性粒子50は沈降せず、液の極性により疎水性を評価できる。
【0045】
上記の疎水化処理を施した磁性粒子50を用いて、高周波用磁性材料(高周波用磁性部材)を作製する。この高周波とは、UHF−GHz帯の周波数帯であり、200MHz〜3GHzの範囲を対象とし、特に700MHz〜1GHzの範囲に対して最適である。
【0046】
高周波用磁性材料は、磁性粒子50と、熱可塑性樹脂とを、二軸押出機により熱混練することで複合化して作製される複合材料である。この熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(PP)又はシクロオレフィンポリマー(COP)を用いる。
【0047】
次に、疎水化処理を施した磁性粒子50と熱可塑性樹脂とを複合化した高周波用磁性材料における適切な構成と、磁気特性を説明する。
【0048】
先ず、次表1に示すように、疎水化処理を施した磁性粒子50の元素の組成(wt%)、比表面積S(cm/g)、粒径d(nm)と、被覆膜52の膜厚t(nm)と、熱可塑性樹脂の種類と、高周波用磁性材料中の磁性粒子50の充填率(vol%)と、を変化させた磁性粒子50を含む高周波用磁性材料を、二軸押出機により熱可塑性樹脂と熱混練してシート状に成形し、幅27×厚さ1mmの複数のシート状試料を作製した。
【表1】

【0049】
そして、複数のシート状試料を4×4×0.7mmtの板状に機械的に加工して、本実施の形態の高周波用磁性材料の試料例1〜6と、比較例1と、を作製した。そして、磁気特性としての磁気損失(tanδ)の評価として、超高周波帯域透磁率測定装置を用いて、700MHzにおける試料例1〜6及び比較例1のtanδを測定した。また、表1の比表面積S、粒径d、膜厚tは、式(2)〜(7)を用いて算出した。
【0050】
表1によると、粒径dは、45nm以下において小さいtanδが得られる。粒径dは、望ましくは10〜36nmである。膜厚tは、1〜10nmであれば、混練工程における酸化や発火が生じず、小さいtanδと良好な再現性とが得られる。膜厚tは、望ましくは3〜6nmである。
【0051】
磁気損失の観点から粒径dは、小さい方がうず電流損失の発生が抑制される為に好ましい。一方で粒径dが小さすぎる場合には、単磁区化や超常磁性などの特異な磁化状態を取り好ましくないとされ、我々が行ったマイクロマグネティックシミュレーションでは、孤立して存在するFeの場合には粒径dが20nmでは単磁区構造を取る事が確認されている。しかしながら、試料例1〜6では、磁性粒子50間の相互作用や表面異方性などの効果によって、粒径dが小さくなっても顕著な特性劣化は無い。試料例5では、金属磁性体51の粒径は8.6nm(粒径d−膜厚t×2=18−4.7×2=8.6nm)であるが、良好な磁気特性が得られている。
【0052】
また、高周波用磁性材料としての磁気特性は、製品設計(磁気応用製品の設計)に応じた値が適宜選択され、適当な充填率を選定する事で実現される。高周波用磁性材料の透磁率(複素透磁率実部Re(μ))は高いほうが、高周波用磁性材料をアンテナに用いる場合に、波長短縮効果を通じた小型化が可能であり、高周波用磁性材料をインダクタに用いる場合に、インダクタンス値(L)を大きくできる事から好ましい。一方で、充填率を選ぶ際に、充填率を過剰に高くすることは、混練性及び成形性を悪化させ、また磁気損失(tanδ)によるエネルギー損失が増加しむしろ製品特性を悪化させる。すなわち、充填率を過剰に高くすることは好ましくない。このため、充填率は、1〜60vol%が好ましい。特に好ましくは10〜40vol%である。
【0053】
次に、疎水化処理を施した磁性粒子50を含む高周波用磁性材料における疎水化処理の効果を説明する。先ず、疎水化処理前の表1の試料例2の構成の磁性粒子50に対応し、次表2に示す疎水化の条件で疎水化処理を施した。
【表2】

【0054】
疎水化処理は、疎水化処理剤としてチタン系カップリング剤を用い、トルエンを溶媒とした湿式法(スラリー法)で行った。この疎水化処理剤の濃度が異なる疎水化処理を施した磁性粒子50を含む高周波用磁性材料を、二軸押出機により熱可塑性樹脂としてのPPと熱混練してシート状に成形することにより、幅27×厚さ1mmの複数のシート状試料を作製した。このとき、高周波用磁性材料に対する磁性粒子50の充填率を20〜31.6(vol%)とした。そして、複数のシート状試料を3×70×0.5mmtの短冊形状に機械的に加工して、本実施の形態の高周波用磁性材料の試料例7〜9と、比較例2と、を作製した。比較例2の磁性粒子50には、疎水化処理が施されていない。
【0055】
また、上記疎水化処理における疎水化度(m値)の評価は、上記疎水化度(%)の測定方法により行った。
【0056】
そして、試料例7〜9及び比較例2の誘電損失(tanδ)について、空洞共振器を用いて測定周波数1GHzにおいて評価を行った。複素誘電率をε=Re(ε)−j・Im(ε)とすると、誘電損失(tanδ)は、Im(ε)/Re(ε)で定義される。誘電損失(tanδ)は、誘電体材料によるエネルギー損失の発生に関係する値であり、交流電界Eを印加したときの単位体積あたりのエネルギー損失は、P=1/2・ωεRe(ε)tanδ・Eと表される(ω:角周波数)。
また、試料例7〜9及び比較例2のせん断粘度について、キャピログラフを用いて、せん断速度を1216(1/s)として測定を行った。
【0057】
表2によると、磁性粒子50に疎水化処理を施した試料例7〜9は、比較例2に対して誘電損失が低下している。その理由は、疎水化処理によって磁性粒子50と熱可塑性樹脂との濡れ性が向上し、混練時のせん断発熱が抑制され、熱可塑性樹脂の熱劣化が抑制されたためである。本効果を得るには、磁性粒子50の疎水化度が50%以上である必要がある。
【0058】
次に、図4〜図7を参照して、疎水化処理を施した磁性粒子50と熱可塑性樹脂とを複合化した高周波用磁性材料(高周波用磁性部材)を高周波デバイス(アンテナ、インダクタ、回路基板)に適用した一例を説明する。図4(a)に、高周波用磁性材料を適用したアンテナANT1を示す。図4(b)に、高周波用磁性材料を適用したアンテナANT2を示す。図4(c)に、高周波用磁性材料を適用したアンテナANT3を示す。図4(d)に、高周波用磁性材料を適用したアンテナANT4を示す。図5に、高周波用磁性材料を適用したアンテナANT5を示す。図6に、高周波用磁性材料を適用したインダクタ111を示す。図7に、高周波用磁性材料を適用した回路基板121を示す。
【0059】
図4及び図5を参照して、疎水化処理を施した磁性粒子50と熱可塑性樹脂とを複合化した高周波用磁性材料を適用したアンテナの一例を説明する。図4(a)に示すアンテナANT1は、疎水化処理を施した磁性粒子50と熱可塑性樹脂とを複合化した高周波用磁性材料1Aと、グランド板2Aと、電極3Aと、を備える。アンテナANT1は、グランド板2Aの上に高周波用磁性材料1Aが形成され、高周波用磁性材料1Aの上に電極3Aが形成される構成となる。
【0060】
図4(b)に示すアンテナANT2は、疎水化処理を施した磁性粒子50と熱可塑性樹脂とを複合化した高周波用磁性材料1Bと、電極3Bと、給電点4と、を備える。給電点4は、アンテナ電流の給電ポイントを示す(図4(c)、図4(d)及び図5に示す給電点4も同様)。アンテナANT2は、高周波用磁性材料1Bの上に電極3Bが形成される構成となる。このとき、高周波用磁性材料1Bに電極3Bが組み込まれる構成としてもよい。
【0061】
図4(c)に示すアンテナANT3は、疎水化処理を施した磁性粒子50と熱可塑性樹脂とを複合化した高周波用磁性材料1Cと、電極3Cと、給電点4と、を備える。アンテナANT3は、電極3Cが高周波用磁性材料1Cの内部に配される構成としても良い。
【0062】
図4(d)に示すアンテナANT4は、疎水化処理を施した磁性粒子50と熱可塑性樹脂とを複合化した高周波用磁性材料1Dと、グランド板2Dと、電極3Dと、給電点4と、を備える。アンテナANT4は、グランド板2Dの上に高周波用磁性材料1Dが形成され、高周波用磁性材料1Dに電極3Dが組み込まれる構成となる。また、電極3Dが高周波用磁性材料1Cの内部に配される構成としても良い。
【0063】
図5に示すアンテナANT5は、疎水化処理を施した磁性粒子50と熱可塑性樹脂とを複合化した高周波用磁性材料1Eと、グランド板2Eと、電極3Eと、を備える。アンテナANT5は、グランド板2Eの少なくとも一面と同じ高さに高周波用磁性材料1Eの一面が形成され、高周波用磁性材料1Eの上に電極3Eが形成される構成となる。
【0064】
図6に示すように、インダクタ111は、疎水化処理を施した磁性粒子50と熱可塑性樹脂とを複合化した高周波用磁性材料1Fと、端子11と、巻線12と、を備える。この構成により、高周波用磁性材料1Fは、インダクタ111に適用される。
【0065】
図7に示すように、回路基板121は、疎水化処理を施した磁性粒子50と熱可塑性樹脂とを複合化した高周波用磁性材料1Gと、ランド21と、ビアホール22と、内部電極23と、実装部品24,25と、を備える。図7は全層に高周波用磁性材料1Gが用いられているが、この内の少なくとも1層に高周波用磁性材料1Gを用いるとしても良い。この構成により、高周波用磁性材料1Gは回路基板121に適用される。
【0066】
以上、本実施の形態によれば、磁性粒子50は、金属磁性体51と、金属磁性体51の周囲を覆う酸化物の被覆膜52と、を備え、疎水化処理剤を用いて疎水化処理が施されている。また、高周波用磁性材料は、疎水化処理が施された磁性粒子50と、熱可塑性樹脂と、が複合化されている。このため、疎水化処理が施された磁性粒子50を含む高周波用磁性材料において、高周波での磁気損失及び誘電損失を低減できる。
【0067】
また、磁性粒子50の疎水化度が50%以上である。このため、疎水化処理が施された磁性粒子50を含む高周波用磁性材料において、高周波での誘電損失をより低減できる。
【0068】
また、金属磁性体51は、複数の金属元素が含有され、当該複数の金属元素のうち、鉄が最大の重量比率である。このため、疎水化処理が施された磁性粒子50を含む高周波用磁性材料において、透磁率(複素透磁率実部Re(μ))を高くすることができる。
【0069】
また、磁性粒子50の粒径が45(nm)以下である。また、被覆膜52の膜厚tが1〜10(nm)である。このため、疎水化処理が施された磁性粒子50を含む高周波用磁性材料において、混練工程における酸化や発火を防ぐことができ、磁気損失の低減と良好な再現性とを得ることができる。膜厚tは、望ましくは3〜6(nm)である。
【0070】
また、高周波用磁性材料における磁性粒子50の充填率が1〜60(vol%)である。このため、疎水化処理が施された磁性粒子50を含む高周波用磁性材料において、透磁率(複素透磁率実部Re(μ))を高くすることができるとともに、混練性及び成形性を良好にでき、また磁気損失によるエネルギー損失を低減し製品特性を良好にできる。
【0071】
また、疎水化処理が施された磁性粒子50を含む高周波用磁性材料を、アンテナ、インダクタ及び回路基板の少なくとも1つに適用した高周波デバイスとする。これにより、高周波デバイスにおける高周波での磁気損失及び誘電損失を低減できる。高周波デバイスがアンテナである場合に、磁気損失及び誘電損失の低い高周波用磁性材料を適用することで、アンテナの放射効率を高めることができ、装置の小型化を実現できる。高周波デバイスがインダクタである場合に、インダクタンス値(L)を高めることができる。高周波デバイスが回路基板である場合について、高周波回路でよく用いられる分布定数回路では、信号の1/4波長を基本単位として回路レイアウトが設計される。この回路基板に本実施の形態の高周波用磁性材料を用いる事で、波長短縮効果により信号の伝播波長が短くなり、配線の物理長を短縮できることから回路基板の小型が可能となる。
【0072】
なお、上記実施の形態における記述は、本発明に係る磁性粒子、高周波用磁性材料、高周波デバイスの一例であり、これに限定されるものではない。
【0073】
上記実施の形態では、被覆膜52が、酸化物としてのマグネタイトFeである例を説明したが、これに限定されるものではない。被覆膜52は、他の酸化物、窒化物、炭化物又はフッ化物としてもよい。他の酸化物としては、Al、BeO、CeO、Cr、HfO、MgO、SiO、ThO、TiO、UO、ZrO、CrO、MnO、MoO、NbO、OsO、PtO、ReO(β)、Ti、Ti、Ti、Ti、WO、V、V、V、V11、V13、V15、VO、V13がある。窒化物としては、BN、NbN、TaN、VNがある。炭化物としては、HfC、MoC、NbC、SiC(β)、TiC、UC、VC、WC、ZrCがある。フッ化物としては、AlF、BaF、BiF、CaF、CeF、DyF、GdF、HoF、LaF、LiF、MgF、NaF、NaAlF、Nal314、NdF、PbF、SrF、ThF、YF、YbFがある。但し、被覆膜52について、渦電流損失や誘電損失を低減するために、高い比抵抗が必要であるが、高周波デバイスでの使用周波数又は応用形態によっては必ずしも絶縁性である必要は無い。
【0074】
また、上記実施の形態では、磁性粒子50と複合化する熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン(PP)又はシクロオレフィンポリマー(COP)を用いる構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、熱可塑性樹脂として、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、塩化ビニル、ナイロン(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、変性ポリフェニレンエーテル(変形PPE)等を用いてもよい。
【0075】
また、疎水化処理を施した磁性粒子50と熱可塑性樹脂との混練装置として、二軸押出機を用いることに限定されるものではない。この混練装置として、二軸押出機以外の押出機、ニーダー、ビーズミル等を用いることとしてもよい。
【0076】
また、高周波用磁性材料の成形方法として、押出機による押出成形に限定されるものではない。この成形方法として、射出成形、圧縮成形等を用いることとしてもよい。
【0077】
その他、上記実施の形態における磁性粒子、高周波用磁性材料、高周波デバイスの細部構成及び詳細動作に関しても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0078】
50 磁性粒子
51 金属磁性体
52 被覆膜
ANT1,ANT2,ANT3,ANT4,ANT5 アンテナ
1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G 高周波用磁性材料
2A,2D,2E グランド板
3A,3B,3C,3D,3E 電極
4 給電点
111 インダクタ
11 端子
12 巻線
121 回路基板
21 ランド
22 ビアホール
23 内部電極
24,25 実装部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性体と、
前記金属磁性体の周囲を覆う酸化物、窒化物、炭化物又はフッ化物の被覆膜と、を備える磁性粒子であって、
疎水化処理剤を用いて疎水化処理が施されたことを特徴とする磁性粒子。
【請求項2】
疎水化度が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁性粒子。
【請求項3】
前記金属磁性体は、複数の金属元素が含有され、
前記複数の金属元素のうち、鉄が最大の重量比率であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁性粒子。
【請求項4】
粒径が45(nm)以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の磁性粒子。
【請求項5】
前記被覆膜は、膜厚が1〜10(nm)であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性粒子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の磁性粒子と、
熱可塑性樹脂と、が複合化されたことを特徴とする高周波用磁性材料。
【請求項7】
前記磁性粒子の充填率が1〜60(vol%)であることを特徴とする請求項6に記載の高周波用磁性材料。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の高周波用磁性材料を有するアンテナ、インダクタ及び回路基板の少なくとも一つからなることを特徴とする高周波デバイス。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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