説明

磁気ディスクカートリッジ

【目的】 カートリッジ内においてカビ、バクテリア等に起因する不良を有効に防ぎ得る磁気ディスクカートリッジを提供すること。
【構成】 カートリッジ本体の内面に、磁気ディスクをクリーニングするライナシートを具えた磁気ディスクカートリッジにおいて、上記ライナーシートには、金属系防菌防黴剤を保持したゼオライトを少なくとも1重量%以上含有する樹脂繊維が含まれていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ディスク状の可撓性磁気記録媒体をカートリッジ本体内に回転自在に収容した、例えば、フロッピーディスクカートリッジの如き磁気ディスクカートリッジに関する。
【0002】
【従来の技術】従来は、磁気ディスクから発生する塵埃を除去し、且つ磁気ディスクを保護する目的で、カートリッジ本体を構成する上下シェル内面に、ライナーシートが配されている。また、塵埃除去を助けるものとしてリフタと称される弾性片を備えているものもある。更に、その塵埃除去及び捕集するという意味で流動パラフィンやシリコン化合物をライナー材に含浸させ、その塵埃除去能力の改善を図っているものもある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、磁気ディスクカートリッジ内に、ある条件で発生するカビやバクテリア等に対して、これらの化合物はいずれも優れた防菌防黴効果があるという訳ではなく、むしろこれらはライナーシートにおいて、カビ、バクテリア等の繁殖の原因、あるいは繁殖を助長する因子となっている。例えば、微生物による合成高分子材料の劣化は、大別すると真菌類、細菌類及び放射線菌類の3種類に分けられる。プラスチック及び合成ゴムなどは、一般に天然有機材料に比較して微生物に対する抵抗性は強い。しかし、プラスチックや合成ゴム等であっても微生物によって、表面の変色や斑点状の劣化が生じたり、また微細な穿孔を受ける場合がある。これは熱可塑性樹脂が一般に可塑剤、安定剤、滑剤その他の配合剤を含むため微生物の影響を受けやすいからであり、特に上述のパラフィンやその他の有機質は養分となりやすく、またセルロース繊維やポリエステル繊維等は微生物の影響を特に受け易い。
【0004】磁気ディスクカートリッジ内でカビ、バクテリア等がこのように繁殖すると、磁気記録波形の読み取り、書き込み及びトラッキング等が困難になることがあり、このため商品価値が失われるおそれがあった。従来このようなカビ、バクテリア等の影響はどの程度であるか余り考慮されてはいなかった。また、フロッピーディスク等の磁気記録媒体は、数年に渡って使用あるいは保存される場合が多い。特に、長期保存、保管されたもの、特に高温多湿地域における使用あるいは保存されたもので、カビ、バクテリア等に関するクレームが多く発生している。このため、このようなクレームを未然に防ぐことが急務となり、製品クレームの減少、引いてはユーザーへの信頼を高め、製造メーカーとしての責任を果たすことが課題となっている。従って、本発明の目的は、カートリッジ内においてカビ、バクテリア等に起因する不良を有効に防ぎ得る磁気ディスクカートリッジを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、磁気ディスクカートリッジ内で、カビ、バクテリア等が繁殖する場合、ライナーシートがその温床として適することが研究の結果判明したことに基づくものである。即ち、本発明は、カートリッジ本体の内面に、磁気ディスクをクリーニングするライナシートを備えた磁気ディスクカートリッジにおいて、上記ライナーシートには、金属系防菌防黴剤を保持したゼオライトを少なくとも1重量%以上含有する樹脂繊維が含まれていることを特徴とする磁気ディスクカートリッジを提供することにより上記目的を達成したものである。ここで、金属系防菌防黴剤としては、銀、胴、亜鉛等を含むものが挙げられ、またゼオライトは、比表面積の高いものが望ましく、また、ゼオライトの粒径は、数ミクロンオーダー以下であることが望ましく、他の一般繊維(a)と上記樹脂繊維(b)との混合率は99.9/0.1〜0.1/99.9(重量比)の広範囲な使用ができ、望ましくは20/90〜90/10の範囲である。
【0006】
【作用】上記カートリッジ本体内のライナーシートに、金属系防菌防黴剤を保持したゼオライトを少なくとも1重量%以上含有する樹脂繊維が含まれていると、金属系防菌防黴剤の作用により、カビ、バクテリア等の菌あるいは胞子が、製造工程上あるいは出荷以降に磁気ディスクカートリッジ内に混入した場合でも、ライナーシートが菌やカビ等の着床層となることはなく、その繁殖を妨げ、磁気ディスク不良を防止する。また、ゼオライトは比表面積が高く、金属剤に対して優れた保持能力を有しており、そして、ゼオライトの粒子径をなるべく小さくすると、紡糸した糸の表面でゼオライトは金属剤と共に保持され、金属剤は紡糸した糸、即ち当該樹脂繊維の表面で防菌防黴作用を充分に発揮する。このため、ライナーシートの防菌防黴剤の担持能力及び防菌防黴作用が大幅に増大され、ライナーシートとして問題とされる防菌防黴剤自身の移行等が抑えられ、磁気ディスクの諸特性に悪影響を及ぼす可能性も低くなる。
【0007】
【実施例】以下、本発明に係る磁気ディスクカートリッジの一実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明に係る磁気ディスクカートリッジの斜視図であり、図2は図1のカートリッジ本体内を示す内面図である。図1及び図2に示す如く、本発明に係る磁気ディスクカートリッジが、カートリッジ本体1の内面に、磁気ディスク4をクリーニングするライナシート7を備えていることは、従来の磁気ディスクカートリッジと同様な構造である。しかして、本発明に係る磁気ディスクカートリッジは、上記ライナーシート7に、金属系防菌防黴剤を保持したゼオライトを少なくとも1重量%以上含有する樹脂繊維が含まれている。
【0008】本発明に係る磁気ディスクカートリッジを更に説明すると、カートリッジ本体1は、上シェル2と下シェル3とからなり、磁気ディスク4が回転可能に収納されている。上シェル2と下シェル3にはそれぞれ窓5が形成され、磁気ディスク4は窓5を介して装置側のヘッドと当接する。また、窓5を開閉するためのスライドシャッター6が両シェル2、3を挟んで設けられている。図2に示す如く、下シェル3の内面3Aには窓部を切り欠いた略ドーナツ状のライナーシート7が取り付けられ、ライナーシート7面は磁気ディスク4の回転域となっている。また、下シェル3の所望の位置には必要によりリフター8が設けられ、リフター8はライナーシート7を下シェル内面3Aから浮き上がらせている。このように構成されたライナーシート7は磁気ディスク4から効率よく塵埃を採り除いており、また、ライナーシート7は以下のように製造される。
【0009】ライナーシート7は、一般に不織布、織布、場合によってはフィルム等を裁断して用いてもよいが、好ましくは不織布が用いられる。ライナーシート7の材質は、上述したようにゼオライトを含有するゼオライト含有樹脂繊維と一般の繊維とからなる。ゼオライト含有樹脂繊維におけるゼオライトは、重合前のモノマーに混合、若しくは紡糸の為の射出成形直前に混合してもよいが、原料モノマー時の混合がゼオライトの分散上好ましい。ゼオライトの含有量は、1重量%以上、特に1重量%〜10重量%であることが望ましく、この範囲の含有量であれば、紡糸方法に問題が生じることがなく、またゼオライトの防菌防黴作用をその樹脂繊維に発現させるとができる。樹脂の紡糸方法は、従来から公知の方法に基づいてすることができ特に制限はないが、本発明では、単なる紡糸方法でなく中空糸等のように表面積を高くした多孔質中空糸にしたものを樹脂繊維とすることが望ましい。
【0010】ゼオライトは、天然或いは人工のものでもよいが、本発明においては、Si02 /Al2 3 が14以下であることが望ましい。またゼオライトの比表面積の高いものが望ましく、特に比表面積が150m2 /g以上であることが望ましく、ゼオライの粒子径はなるべく小さいもの、特に数μm オーダー以下のものが望ましい。これは、ゼオライトの比表面積が大きく、粒子が小さいと、防菌防黴剤を十分に保持すると共に、繊維に均一に分散させることができるからである。このため、繊維の表面で十分に防菌防黴効果を発揮すると共に、その効果を十分に持続させることができる。ゼオライトに含有される防菌防黴剤は、防菌防黴作用を有する金属であり、例えば、銀、銅、亜鉛等が挙げられる。これらの金属系防菌防黴剤は、ゼオライトに対して、少なくとも1重量%以上含有されていることが望ましく、この範囲以上にあるゼオライトを用いると、ライナー7には十分な防菌防黴作用が付与される。
【0011】上記ゼオライトを含む樹脂繊維(b)と混合して用いることのできる他の一般の繊維(a)とは、その混合率(a)/(b)が99.9/0.1〜0.1/99.9(重量比)、望ましくは20/90〜90/10の範囲である。一般の繊維としては、従来公知の合成繊維を採用することができ、例えば、ポリエステル系合成繊維、ポリアミド系合成繊維、ポリアクリル系、ポリプロピレン系、セルロース及びその他の公知の樹脂繊維が挙げられ、これらは単独或いはこれらの混合物として用いることができる。また、塵埃等の除去を高めるためにライナーシートに流動パラフィンやシリコン化合物を塗布しても良い。
【0012】以上の如く構成された磁気ディスクカートリッジでは、後述の実施評価からも明らかなように、ライナーシート7は防菌防黴効果を充分に発揮する。このため、カビ、バクテリア等の菌あるいは胞子が増殖せず、製造工程上あるいは出荷以降に磁気ディスクの読み込み、書き出し不良等を起こす原因となるおそれがない。例えば、上記磁気ディスクカートリッジが、数年に渡って使用あるいは保存される場合、特に、高温多湿地域における使用あるいは保存されたとしても、カビ、バクテリア等に関する不良を発生させることはなく、製品クレームの減少、引いてはユーザーへの信頼を高めることができる。
【0013】尚、上記実施例においては、ライナーシート7を下シェル3に取り付けたが、これに限るものではない。ライナーシート7を上シェル2に取り付けてもよく、更には両方に取り付けても良い。
【0014】次に、上記実施例に基づいて種々のライナーシートを作製し、その防菌防黴効果についての評価を比較例と共に行った。尚、本発明は、以下の実施例に限るものではない。
・実施例1平均粒子径5〜6μm、比表面積500〜600m2 /g、Si02 /Al23 モル比が約2であり、銀3重量%、銅5重量%をイオン交換により賦与してあるA型ゼオライト(商標名:バクテキラーA350BN,シナネンニューセラミック社製)を用いて多孔質中空糸を成形して樹脂繊維とした。上記樹脂繊維とポリエステル繊維を40/60の割合で混合して不織布を製造し、これをライナー材として用いて、カートリッジ本体に使用した。
【0015】・実施例2実施例1と同様の樹脂繊維とナイロン繊維を40/60の割合で混合して不織布を製造し、これをライナー材として用いて、カートリッジ本体に使用した。
・実施例3実施例1と同様の樹脂繊維とレーヨン繊維を40/60の割合で混合して不織布を製造し、これをライナー材として用いて、カートリッジ本体に使用した。
【0016】比較例1ポリエステル繊維のみで不織布を製造し、これをライナー材として用いて、カートリッジ本体に使用した。
・比較例2ナイロン繊維とレーヨン繊維を50/50の割合で混合して不織布を製造し、これをライナー材として用いて、カートリッジ本体に使用した。これらの不織布(7cm×7cmに切取り、10枚用意した)に各種のカビの胞子懸濁液を接種し、市販のGPLP寒天培地に置き、30℃で7日間静置培養後、生育したカビのコロニーを計測した。結果を表1に示した。
*カビ種類■アスパギルス ニガー(Aspergillus niger )■アスパギルス フラヴィス(Aspergillus flavus)■ペニシリウム サイトリウム(Penicillium citrinum)■デョトリウム グリボシュム(Dhaetomium glibosum )■クラァドスポリウム ハベリウム(Cladosporrium herbarum)■クラァドスポリウム クラァドスポロジウス)(Cladosporrium cladpsporoides)。
【0017】
【表1】


【0018】
【発明の効果】本発明に係る磁気ディスクカートリッジは、カートリッジ内においてカビ、バクテリア等に起因する不良を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る磁気ディスクカートリッジの斜視図である。
【図2】図1のカートリッジ本体内を示す内面図である。
【符号の説明】
1 カートリッジ本体
2 上シェル
3 下シェル
4 磁気ディスク
7 ライナーシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】 カートリッジ本体の内面に、磁気ディスクをクリーニングするライナシートを具えた磁気ディスクカートリッジにおいて、上記ライナーシートには、金属系防菌防黴剤を保持したゼオライトを少なくとも1重量%以上含有する樹脂繊維が含まれていることを特徴とする磁気ディスクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−96551
【公開日】平成6年(1994)4月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−243331
【出願日】平成4年(1992)9月11日
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)