説明

移動体通信端末試験システム及び移動体通信端末の試験方法

【課題】ソフトウェアの入れ替えに係る処理を効率化することで試験時間を短縮する。
【解決手段】ソフトウェアを有する複数の試験装置を制御し移動体通信端末の各種試験を実行する試験実行部と、試験装置それぞれのソフトウェアの入れ替えを含む動作設定を1組のテストケースとして複数のテストケースを記憶するテストケース記憶部とを備え、試験実行部がテストケースに従い試験装置の動作設定を変更しながら試験を実行する移動体通信端末試験システムであって、予め複数のテストケースに含まれる複数の試験装置ごとに、動作設定を基に、全テストケースを通して動作設定を変更する時間が最大なる時間と、最小となる時間との差から処理時間差を算出し、少なくとも処理時間差が最も大きい試験装置において、全テストケースを通して動作設定を変更する時間が最小となるように複数のテストケースを並び替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信端末と通信接続可能な擬似基地局機能を有し、移動体通信端末に対し複数の試験を行う移動体通信端末試験システム及び移動体通信端末の試験方法において、各試験を実行する順序を組替えることで試験全体の効率化を図り試験時間を短縮する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のユーザが同時に通話できる「多元接続(Multiple Access)」方式のうち、周波数利用効率に優れる「符号分割多元接続:CDMA(Code Division Multiple Access)」方式が複数の方法で実用化できるようになった。これら複数の方式のうちで特に、国際電気通信連合(ITU)が定める世界標準規格IMT−2000の一方式である“W−CDMA(Wideband−Code Division Multiple Access)”と称する「広帯域・符号分割多元接続」方式があり、この接続方式を利用した移動体通信端末が実用化されている。さらに、LTE(Long Term Evolution)と呼ばれる次世代の移動体通信規格も策定されつつある。
【0003】
上述のW−CDMA方式やLTE方式に関する通信方式やデータフォーマットが3GPP(3rd. Generation Partnership Project)により検討され、国際標準規格として規格化されている。移動体通信端末や基地局装置はこの規格に準拠する必要があり、この規格への準拠性を検証するための移動体通信端末試験システムが提供されている。
【0004】
前記移動体通信端末試験システムの例として、特許文献1には、携帯電話(移動体通信端末)の試験時に、実行する試験に応じて必要な測定器を特定する技術が開示されている。特許文献1からもわかる通り、移動体通信端末試験システムによる試験は様々な試験装置(測定器)を組み合わせて実施する必要がある。
【0005】
移動体通信端末試験システムは、1つの移動体通信端末の機能・性能等に応じた試験項目(以降は「テストケース」と呼ぶ)があり、その試験項目に対応して各種試験装置を制御して試験を実施する。移動体通信端末の各試験は、各種のテストケースとして移動体通信端末試験システムにより管理されている。一つのテストケースは、一般的には、複数の測定装置を組み合わせ(動作条件も含む)、それらを測定制御装置(一般的にはパーソナルコンピューターなどが用いられる)に組み込まれたソフトウェア(例えば、組込ソフトウェアが該当する。以降は単に「ソフトウェア」と呼ぶ)で制御することにより実現される。一般的に試験装置の機能拡張等は、組み込まれているソフトウェアを新しく更新することで対応される。そのため、このソフトウェアの更新をバージョンで管理するとともに、試験装置や測定装置と組み合わせて管理している。これらバージョンの管理がその試験装置及び測定制御装置の機能や性能を一義に規定する。
【0006】
一方で、テストケースの実装の有効性は、その実装が法令あるいは自主規制項目に合致していることを、テストケースの作成元以外の第3者機関が認定することにより保証される。この第3者機関はテストケースの有効性を保証する際、実際にテストケースを実行した環境(以降は「テスト環境」と呼ぶ)、つまり試験装置の構成と該試験装置に組み込まれるソフトウェアのバージョンとを、テストケースに一義的に対応付けて保証する。ゆえに、有効性が保証されたテストケースを実際に使用して試験を行う場合は、有効性が保証されたテスト環境を再現して試験しなければならない。
【0007】
例えば、試験装置Aにバージョン1.01のソフトウェアが組み込まれ、試験装置Bにバージョン3.03のソフトウェアを組み込まれたテスト環境によりテストケース1を実行し、第3者機関がテストケース1の認定をしたとする。その後、認定を受けた業者は、この認定を受けたテストケース1を用いて移動体通信端末の規格への準拠性を確認するときには、試験装置Aにはバージョン1.01のソフトウェアを組み込み、試験装置Bにバージョン3.03のソフトウェアを組み込んだテスト環境のみで試験を実施しなければならない。このとき、試験環境の構成が1つでも異なる場合(例えば、試験装置Aに組み込んだソフトウェアがバージョン1.01と異なる場合)、テストケース1に関する規格への準拠性は保証されないことになる。
【0008】
上述したテストケースは、移動体通信端末の規格の追加や変更に伴い新たに追加されていく。例えば、LTEの規格への準拠性を新たに検証可能とする場合、LTEの規格への準拠性を確認可能なテストケースを作成し、第3者機関の認定を受ける必要がある。このとき、新たな規格への準拠にあわせてソフトウェアを改変した場合、改変前のソフトウェアで認定を受けているテストケースの実行には、改変後のソフトウェアを使用することはできない。もし、既に認定を受けているテストケースに改変後のソフトウェアを用いる場合、改変後のソフトウェアを組み込んだテスト環境で、新たに第3者機関の認定を受ける必要がある。
【0009】
テストケースの数は数百におよび、その数は規格の追加や変更に伴い増大していく。そのため移動体通信端末試験システムでは、一般的には、テストケースごとに、対応する試験で使用される試験装置と該試験装置に組み込まれるソフトウェアのバージョンとを対応付けて管理し、必要に応じて試験装置のソフトウェアを入れ替えながら試験を実行する構成としている。
【0010】
つまり、このような移動体通信端末試験システムでは、試験を実行する前に、テストケースに応じて各試験装置に組み込むべきソフトウェアのバージョンを確認し、そのテストケースに必要なバージョンのソフトウェアに入れ替えることで、テストケースを実行するためのテスト環境を再現する管理をしている。例えば、前述したテストケース1の環境を再現する場合は、試験装置Aのソフトウェアをバージョン1.01に入れ替え、試験装置Bのソフトウェアをバージョン3.03に入れ替えることで、テスト環境を再現することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−283446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の移動体通信端末試験システムでは、この試験装置に組み込まれるソフトウェアの入れ替えは、試験装置を操作する操作者がテストケースごとに手動で行っている。これは、操作者にとって大きな負担である。また、手動によりソフトウェアを入れ替える際に、誤ったバージョンのソフトウェアを組み込んでしまう可能性がある。
【0013】
例えば、テストケース1を実行する場合には、試験装置Aにバージョン1.01のソフトウェアを組み込まなければいけないとする。このとき、誤って異なるバージョン(例えばバージョン1.73)のソフトウェアを組み込んで試験を実行をした場合、テストケース1に関する規格への準拠性が保証されたことにはならない。このように、手動でソフトウェアを入れ替える場合、上述したように誤ったバージョンのソフトウェアを使用するといった事態を未然に防止することが困難である。これにより、被試験対象である移動体通信端末の規格への準拠性を確認し認定を行う際に、誤った結果に基づいて認定をしてしまう事故につながる可能性がある。
【0014】
一方で、試験装置に組み込まれるソフトウェアの入れ替えは、一般にダウンロードと呼ばれる処理が必要になる。具体的には、試験装置にソフトウェアを外部から導入し、該ソフトウェアを試験装置の記憶領域(例えば、内部不揮発性メモリ)に書込む処理が必要になる。この処理は、ダウンロードするソフトウェアの容量にもよるが、一般的に非常に時間のかかる処理である。
【0015】
近年では、W−CDMAの上位規格となるHSPA(High Speed Packet Access)などの技術仕様が盛り込まれ、LTEの規格が策定されるなど、仕様の範囲が追加・変更されている。このような規格の追加・変更に伴い新たなテストケースが増加し、それに伴い各ソフトウェアも機能追加等によりバージョンが増加している。バージョンの追加に伴いソフトウェアの入れ替えの回数も増加するため、試験の入れ替えにかかる時間も増加し試験時間も長くなる傾向にある。
【0016】
本発明は上記問題を解決するものであり、複数のテストケースについて連続して試験を実行する場合において、ソフトウェアの入れ替えの回数を低減することで処理を効率化し、試験時間を短縮して誤りなく試験を実行することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ソフトウェアを有する複数の試験装置を制御し被試験対象である移動体通信端末(2)の各種試験を実行する試験実行部(10)と、前記複数の試験装置それぞれを動作させるための前記ソフトウェアの入れ替えを含む動作設定を1組のテストケースとして、複数のテストケースを記憶するテストケース記憶部(12)とを備え、前記試験実行部が前記テストケースに従い前記試験装置の動作設定を変更しながら前記試験を実行する移動体通信端末試験システムであって、前記複数のテストケースが3以上備えられており、予め、前記複数のテストケースに含まれる複数の前記試験装置ごとに、前記動作設定を基に、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最大となるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の最大処理時間と、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の最小処理時間との差から処理時間差を算出する処理コスト算出部(113)と、少なくとも、前記処理時間差が最も大きい前記試験装置を特定し、それを基に全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替える実行順序決定部(114)とを備えたことを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、前記実行順序決定部が、前記処理時間差が最小となる前記試験装置において、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の、前記複数のテストケースの実行順序を基礎として、前記処理時間差が小さい前記試験装置の順に前記複数のテストケースの並び替えを行い、かつ、後にテストケースの並び替えを行う前記試験装置については、先に並べ替えられたテストケースの実行順序と、後にテストケースの並び替えを行う前記試験装置に対応した動作設定とを基に、前記複数のテストケースの実行順序を並び替えることを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、ソフトウェアを有する複数の試験装置を制御し被試験対象である移動体通信端末の各種試験を実行する移動体通信端末試験システムにおいて、複数の試験装置それぞれを動作させるための前記ソフトウェアの入れ替えを含む動作設定を1組のテストケースとして、前記テストケースに沿って前記試験を実行する試験方法であって、前記複数のテストケースに含まれる複数の前記試験装置ごとに、前記動作設定を基に、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最大なるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の最大処理時間と、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の最小処理時間との差から処理時間差を算出する処理時間差算出ステップと、少なくとも、前記処理時間差が最も大きい前記試験装置において、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替える並び替えステップとを備えたことを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の試験方法であって、前記並び替えステップにおいて、前記処理時間差が最小となる前記試験装置において、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の、前記複数のテストケースの実行順序を基礎として、前記処理時間差が小さい前記試験装置の順に前記複数のテストケースの並び替えを行い、かつ、後にテストケースの並び替えを行う前記試験装置については、先に並べ替えられたテストケースの実行順序と、後にテストケースの並び替えを行う前記試験装置に対応した動作設定とを基に、前記複数のテストケースの実行順序を並び替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る移動体通信端末試験システムは、複数のテストケースについて試験を実行するときに、テストケース間で異なるソフトウェアを使用する場合には、ソフトウェアの入れ替えを実行する。このソフトウェアの入れ替えに要する時間がより長い試験装置(例えば、ソフトウェアの容量がより大きい試験装置)について、同じバージョンのソフトウェアを使用するテストケースが連続して実行されるようにテストケース間の実行順序を並び替えることで、ソフトウェアの入れ替えの回数を低減する。これにより、本発明に係る移動体通信端末試験システムは、ソフトウェアの入れ替えに要する時間をより短くし、試験時間を短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る移動体通信端末試験システムのブロック図である。
【図2】各テストケースで使用する試験装置と、該試験装置に組み込まれるソフトウェアのバージョンの対応を管理するデータの例である。
【図3】処理コスト算出部が処理コスト差の算出に用いる、各試験装置における処理コストの一例である。
【図4】第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムにおけるテストケース間の実行順序の並び替えに関する処理を説明するための図である。
【図5】第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムの処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】変形例1に係る移動体通信端末試験システムにおけるテストケース間の実行順序の並び替えに関する処理を説明するための図である。
【図7】変形例1に係る移動体通信端末試験システムの処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
例えば、ある1つの試験装置のソフトウェアについて、連続するテストケース間で同じもの(同じバージョン)を使用する場合、このソフトウェアを入れ替える必要はない。しかし、連続するテストケース間で異なるもの(異なるバージョン)を使用する場合、このソフトウェアを入れ替える必要がある。このときソフトウェアの入れ替えに要する時間は、入れ替え対象のソフトウェアや試験装置ごとに異なる。以降は、試験装置ごとのソフトウェアの入れ替えに要する時間を「処理コスト」と呼ぶ。一連のテストケースを実行する場合の、試験装置ごとの処理コストの和は、テストケース間の実行順序によって増減する。これは、テストケース間の実行順序により、試験装置に対応するソフトウェアの入れ替えの回数が変わるためである。言い換えれば、テストケース間の実行順序により、処理コストの和が最大となる場合と、最小となる場合があることを示している。
【0021】
本発明に係る移動体通信端末試験システムでは、一連のテストケースを実行する場合に、試験装置のソフトウェアの入れ替えに要する時間の範囲(分布範囲)を示す係数(以降は「処理コスト差」と呼ぶ)を、処理時間が最大となる場合の時間と最小となる場合の時間との差から算出する。このとき本発明に係る移動体通信端末試験システムは、各試験装置に対し処理コスト差を算出する(処理コスト差の具体的な算出方法については後述する)。
【0022】
つまり、この処理コスト差が大きい試験装置ほど、テストケース間の実行順序により、処理コストの和として取り得る値の範囲が広いことを示している。言い換えれば、処理コスト差が大きい試験装置ほど、ソフトウェアの入れ替えの回数がより少なくなるようにテストケース間の実行順序を並べ替えた場合、より試験時間を短くすることが可能であることを示している。本発明に係る移動体通信端末試験システムでは、処理コスト差が大きい試験装置ほど、ソフトウェアの入れ替えの回数が少なくなるようにテストケース間の実行順序を並び替えることで、全体の試験時間を短縮することを特徴とする。
【0023】
まず、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムの構成について図1を参照しながら説明する。
【0024】
移動体通信端末試験システム1は、被試験対象である移動体通信端末2の試験を実施する移動体通信端末試験システムであって、主に疑似基地局として動作する。移動体通信端末試験システム1は、試験実行部10と、テストケース実行制御部11と、テストケース記憶部12と、操作部13とで構成される。
【0025】
試験実行部10は、試験に必要な複数の試験装置(試験装置A、B、又はC)と、各試験装置に対応したソフトウェア記憶部(ソフトウェア記憶部A、B、又はC)とで構成される。試験装置A、B、又はCの例としては、信号発生器、信号受信器、又は、スペクトラムアナライザー等があげられる。ソフトウェア記憶部A〜Cには、対応する試験装置を動作させるためのソフトウェアが、バージョンごとに記憶されている。具体的には、試験装置A〜Cを動作させるためのソフトウェアがバージョンごとに記憶されている。
【0026】
試験実行部10は、試験に必要な複数の試験装置(試験装置A、B、又はC)を制御し、移動体通信端末2の各種試験を実行する。なお試験実行部10は、試験を実行させる試験装置のソフトウェアを、異なるバージョンのソフトウェアに入れ替える必要がある場合、試験を実行する前に、該試験装置にソフトウェアを入れ替えさせる。このソフトウェアの入れ替えは、対応する試験装置に既に組み込まれているソフトウェアのバージョンが、試験の実行対象のソフトウェアのバージョンと異なる場合に行われる。例えば、前に実行されたテストケースで使用されたソフトウェアのバージョンと、次に実行するテストケースに対応付けられたソフトウェアのバージョンが異なる場合、対応する試験装置により、次のテストケースの実行前にソフトウェアの入れ替えが行われることになる。
【0027】
テストケース記憶部12は、テストケースごとに各試験装置に設定する動作条件をデータ(以降はこのデータを「テストケースデータ」と呼ぶ)として記憶するための記憶領域である。具体的には、例えば試験装置として信号発生器を用いる場合、該信号発生器の動作条件として、500MHzや1GHzといった信号の周波数がテストケースデータに記憶されていることになる。テストケース記憶部12には、実行対象となる各試験の条件ごとにテストケースデータが記憶されている。
【0028】
操作部13は、操作者が移動体通信端末試験システム1で実行される試験の条件を入力するためのユーザインタフェースである。試験の条件としては、例えば、信号発生器の周波数帯域や、各試験装置が出力する信号の出力レベルなどが含まれる。
【0029】
テストケース実行制御部11は、試験実行制御部111と、バージョン管理データ記憶部112と、処理コスト算出部113と、実行順序決定部114とで構成される。
【0030】
バージョン管理データ記憶部112は、各テストケースで使用する試験装置と、該試験装置に組み込まれるソフトウェアのバージョンとの対応関係を示すデータ(以降は「バージョン管理データ」と呼ぶ)を記憶している。つまりこのバージョン管理データを参照することで、1つのテストケースで使用される試験装置と、該試験装置に組み込まれるソフトウェアが一意に特定できることになる。バージョン管理データ記憶部112は、後述する試験実行制御部111の指示を受けて、処理コスト算出部113及び実行順序決定部114にバージョン管理データを出力する(処理コスト算出部113及び実行順序決定部114については後述する)。なお、各試験装置に組み込まれるソフトウェアもしくは該ソフトウェアを特定する情報(例えば、ソフトウェアのバージョン)が、該試験装置を動作させるための動作設定に相当する。
【0031】
図2は、バージョン管理データの例である。図2(a)は、各試験装置とソフトウェアのバージョンとの関係をテストケースごとに個別に管理する場合のバージョン管理データの例である。図2(b)は、各テストケースで使用する試験装置とソフトウェアのバージョンとの関係をテーブルの形式で管理する場合のバージョン管理データの例である。
【0032】
例えば、図2(b)において、テストケースCase2のバージョン管理データCd2は、テストケースCase2において、試験装置A〜Cが使用されることを示している。このとき、各試験装置に組み込まれるソフトウェアのバージョンは、試験装置Aが1.01、試験装置Bが2.13、試験装置Cが1.42であることを示している。また、図2(a)及び図2(b)において「使用せず」と表記されている部分は、そのテストケースにおいて対応する試験装置を使用しないことを示している。例えば、テストケースCase1のバージョン管理データCd1は、試験装置A及びBを使用し、試験装置Cは使用しないことを示している。このような場合、使用しない試験装置には、そのテストケースの実行中に、どのようなバージョンのソフトウェアが組み込まれていてもよい。
【0033】
なお上記では、バージョン管理データをバージョン管理データ記憶部112に記憶させる構成として説明したが、テストケース記憶部12に記憶させる構成としてもよい。この場合、例えば、図2(a)及び図2(b)に示したバージョン管理データを、テストケース記憶部12に記憶されたテストケースデータに対応付けて管理する構成としてもよい。また、バージョン管理データに相当する情報を、テストケースデータに含める構成としてよい。
【0034】
試験実行制御部111は、操作部13から操作者が指定した試験条件に従いテストケース記憶部12よりテストケースデータを抽出する。試験実行制御部111は、テストケースデータを抽出すると、処理コスト算出部113に処理コスト差を算出させ、実行順序決定部114に算出された処理コスト差を基にテストケース間の実行順序を並べ替えさせる(処理コスト算出部113及び実行順序決定部114については後述する)。試験実行制御部111は、実行順序決定部114が並び替えたテストケースを遂次読出し、試験実行部10を介して各試験装置に試験を実行させる。この一連の処理について以下に詳しく説明する。
【0035】
試験実行制御部111は、テストケースデータを抽出すると、抽出したテストケースデータを基にした処理コスト差の算出を処理コスト算出部113に指示する。また、試験実行制御部111は、バージョン管理データ記憶部112に、抽出したテストケースデータに対応するバージョン管理データの出力を指示する。
【0036】
処理コスト算出部113は、テストケース実行制御部11からの指示を受けて、抽出された一連のテストケースデータを実行する場合における、各試験装置の処理コスト差を算出する。以降に、処理コスト算出部113の処理コスト差の算出に係る処理について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、処理コスト算出部113が処理コスト差を算出するための、各試験装置における処理コストの一例である。図4は、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムにおけるテストケース間の実行順序の並び替えに関する処理を説明するための図であり、バージョン管理データで定義された、各テストケースで使用する試験装置と、該試験装置に組み込まれるソフトウェアのバージョンとの対応関係を示している。図4(a)は、テストケース間の実行順序を並び替える前の状態を示している。
【0037】
なお、図3に示す各試験装置の処理コストは、処理コスト算出部113に記憶領域を設けて、該記憶領域にあらかじめ記憶させておいてもよい。この場合、各試験装置に組み込まれ得るバージョンごとに、処理コストを処理コスト算出部113の該記憶領域にあらかじめ記憶させることになる。また別の方法として、処理コスト算出部113に処理コストを算出するための機能を、試験装置ごとに設けてもよい。この処理コストを算出するための機能とは、例えば「試験装置A」の場合、「ソフトウェアの入れ替えには1MBあたり3秒間かかるため、入れ替え対象となるバージョン1.31のソフトウェアの容量が0.9GBとすれば、ソフトウェアの入れ替えには45分かかる」といった処理ロジックが該当する。なお、上記は処理コストを算出するための機能の一例であり、試験装置やソフトウェア、試験環境(例えば通信環境)により、処理の内容や該処理で使用されるパラメータは異なる。
【0038】
処理コスト算出部113は、まず、バージョン管理データ記憶部112に記憶されたバージョン管理データを基に、各テストケースで使用される試験装置と、該試験装置で実行されるソフトウェアのバージョンを確認する。
【0039】
次に処理コスト算出部113は、1つの試験装置を対象としてテストケースを並び替えたとき、抽出された全テストケースについて、その1つの試験装置を動作させる場合に、連続する各テストケース間でソフトウェアの入れ替えに要する時間の和が最大となる時間(以降は「最大処理時間」と呼ぶ)と、最小となる時間(以降は「最小処理時間」と呼ぶ)を、各試験装置について算出する。処理コスト算出部113による、最大処理時間及び最小処理時間の算出方法について、1つの試験装置として「試験装置A」を対象とした場合を例に、以下に具体的に説明する。
【0040】
まず、処理コスト算出部113による最大処理時間の算出方法について、以下に示す<A1>〜<A3>に説明する。
【0041】
<A1>まず処理コスト算出部113は、1つのテストケースの初期状態を基準とし次のテストケースで使用するソフトウェアのバージョンに変更する場合に、最も処理コストの大きいテストケースを特定する。なお「初期状態」は、操作者により試験の条件を指定され試験が実行される直前の状態(各試験装置に既に組み込まれているソフトウェアのバージョン)を示している。
【0042】
図4(a)では、「試験装置A」の初期状態は1.01である。このとき、図3(a)に示した「試験装置A」の処理コスト(つまり処理時間)から、最も処理コストが大きくなる処理を確認する。このとき、2.01に変更する場合に最も処理コストが大きくなる。これにより、処理コスト算出部113は、図4(a)のテストケースCase1〜Case6の中から、「試験装置A」のソフトウェアのバージョンを2.01とするCase3を特定し、テストケース間の実行順序の先頭に並べる。なお、「使用せず」が設定されている状態へ変更する場合の処理コストは、0分として計算する。
【0043】
<A2>次に処理コスト算出部113は、直前にテストケース間の実行順序に並べたCase3の状態、つまり、「試験装置A」のソフトウェアのバージョン2.01を基準として、次のテストケースで使用するソフトウェアのバージョンに変更する場合に最も処理コストが大きくなるテストケースを、まだテストケース間の実行順序に並べていないテストケース(この場合、Case1、Case2、及びCase4〜Case6)の中から抽出する。Case3を基準とした場合、処理コスト算出部113は、「試験装置A」を1.31に設定するCase1を抽出することになる。処理コスト算出部113は、抽出したCase1を、基準としたテストケース(Case3)の次に並べる。
【0044】
<A3>以降、処理コスト算出部113は、<A2>と同様の方法で、全てのテストケースを、テストケース間の実行順序に並べる。これにより、連続するテストケース間で、対象とした試験装置の処理コストが最も大きくなるように、テストケースが並べ替えられることになる。この方法で、図4(a)に示すCase1〜Case6を並び替えた場合、Case3、Case1、Case2、Case6、Case5、Case4の順に並べられることになる。処理コスト算出部113は、このテストケース間の実行順序で対象とする試験装置(つまり試験装置A)を動作させる場合の、処理コストの和を最大処理時間として算出する。図4(a)の「試験装置A」の場合、最大処理時間は220分となる。
【0045】
次に、処理コスト算出部113による最小処理時間の算出方法について、以下に示す<B1>〜<B3>に説明する。処理コスト算出部113による最小処理時間の算出方法の考え方は、最大処理時間の算出方法の考え方と基本的には同じである。つまり、最小処理時間を算出する場合、対象とした試験装置について、連続するテストケース間で処理コストが最も小さくなるように、テストケースを並べ替える。このとき、対象とした試験装置について、初期状態を基準として、同じバージョンのソフトウェアを使用するテストケースが連続して実行されるように、テストケース間の実行順序が並び替えられる。
【0046】
<B1>まず処理コスト算出部113は、1つのテストケースの初期状態を基準とし次のテストケースで使用するソフトウェアのバージョンに変更する場合に、最も処理コストの小さいテストケースを特定する。
【0047】
図4(a)では、「試験装置A」の初期状態は1.01である。このとき、「試験装置A」のソフトウェアを入れ替えない場合に、最も処理コストが小さくなる。この場合、「使用せず」が設定されているテストケース、又は同じバージョンである1.01が設定されているテストケースへの処理コストが0となり最も小さい。この場合、処理コスト算出部113は、まず「使用せず」が設定されているテストケースを優先して特定する。そのため、処理コスト算出部113は、図3(a)に示す「試験装置A」の処理コストを基に、図4(a)のテストケースCase1〜Case6の中から、「試験装置A」を使用しないCase4を抽出し、テストケース間の実行順序の先頭に並べる。
【0048】
なお、「使用せず」が設定されているテストケース、及び同じバージョンである1.01が設定されているテストケースのどちらも存在しない場合、処理コスト算出部113は、図3(a)に示した試験装置Aの処理コストを参照して、最も処理コストが小さいテストケースを特定することになる。
【0049】
<B2>次に処理コスト算出部113は、直前にテストケース間の実行順序に並べたCase4の状態を基準とし、次のテストケースで使用するソフトウェアのバージョンに変更する場合に最も処理コストが小さくなるテストケースを、まだテストケース間の実行順序に並べていないテストケース(この場合、Case1、及びCase3〜Case6)の中から抽出する。このとき、「試験装置A」のソフトウェアのバージョンは初期状態から変更されていないため、1.01が設定されていることになる。このとき「使用せず」が設定されているテストケースは存在しないため、処理コスト算出部113は、「試験装置A」のソフトウェアのバージョンを1.01に設定するCase2を抽出することになる。処理コスト算出部113は、抽出したCase2を、基準としたテストケース(Case4)の次に並べる。
【0050】
<B3>以降、処理コスト算出部113は、<B2>と同様の方法で、全てのテストケースを、テストケース間の実行順序に並べる。この方法で、図4(a)に示すCase1〜Case6を並び替えた場合、Case4、Case2、Case5、Case1、Case6、Case3の順に並べられることになる。このテストケース間の実行順序で対象とする試験装置(つまり試験装置A)を動作させる場合の、処理コストの和を最小処理時間として算出する。図4(a)の「試験装置A」の場合、最小処理時間は95分となる。
【0051】
次に処理コスト算出部113は、算出した最大処理時間と最小処理時間との差を、処理コスト差として算出する。この処理コスト差が処理時間差に相当する。例えば、「試験装置A」の場合の処理コスト差は、(最大処理時間−最小処理時間)=(220分−95分)=125分となる。
【0052】
処理コスト算出部113は、その他の試験装置についても、試験装置Aと同様に<A1>〜<A3>及び<B1>〜<B3>に示した方法で最大処理時間及び最小処理時間を算出し、算出した最大処理時間と最小処理時間との差から処理コスト差を算出する。図4(a)の場合、「試験装置B」の処理コスト差は65分、「試験装置C」の処理コスト差は20分となる。処理コスト算出部113は、試験装置ごとに算出した処理コスト差を、実行順序決定部114に通知する。なお上記で説明した、処理コスト算出部113による処理コスト差の算出に係る処理が、処理時間差算出ステップに相当する。
【0053】
実行順序決定部114は、処理コスト算出部113から各試験装置に対応する処理コスト差を受けて、処理コスト差が最も大きい試験装置を特定する。図4(a)の場合、「試験装置A」の処理コスト差(125分)が最も高い。そのため実行順序決定部114は、「試験装置A」を特定することになる。
【0054】
実行順序決定部114は、特定した処理コスト差が最も大きい試験装置を対象として、連続する各テストケース間の処理コストの和が最小となるように、各テストケースを並び替える。このときの、テストケース間の実行順序の並び替えに係る処理は、前述した最小処理時間を求める場合の、各テストケースの並び替えに係る処理と同様である。そのため、このとき最小処理時間の導出時に求めたテストケース間の実行順序を用いてもよい。この場合、<B1>〜<B3>に示した、最小処理時間を導出するためのテストケース間の実行順序を求める処理を、実行順序決定部114にあらためて実行させる必要はない。
【0055】
図4(b)には、図4(a)で示した各テストケースを、「試験装置A」を対象とした、各テストケース間の並び替えの結果が示されている。これにより、「試験装置A」について、同じバージョンのソフトウェアを使用するテストケースが連続して実行されるように、テストケース間の実行順序が並び替えられる。なお上記で説明した、実行順序決定部114によるテストケース間の実行順序の並び替えに係る処理が、並び替えステップに相当する。
【0056】
次に、試験実行制御部111は、実行順序決定部114により実行順序が並び替えられたテストケースに対応したテストケースデータ及びバージョン管理データを逐次読み出す。試験実行制御部111は、バージョン管理データを読み出すと、各試験装置に既に組み込まれているソフトウェアのバージョンを確認する。試験実行制御部111は、試験装置に既に組み込まれているソフトウェアのバージョンが、読み出したバージョン管理データで指定されたソフトウェアのバージョンと異なる場合、試験実行部10を介して該試験装置にソフトウェアの入れ替えを指示する。試験装置に既に組み込まれているソフトウェアのバージョンが、読み出したバージョン管理データで指定されたソフトウェアのバージョンと同じ場合は、該試験装置にソフトウェアの入れ替えは指示しない。
【0057】
試験装置のソフトウェアの入れ替えが完了すると、試験実行制御部111は、読み出したテストケースデータを基に、試験実行部10を介して各試験装置に動作条件を変更させる。動作条件の変更が完了したら、試験実行制御部111は、試験実行部10を介して各試験装置に試験を実行させる。以降、試験実行制御部111は、全てのテストケースに対し、上記したソフトウェアの確認及び入れ替えの処理と、動作条件の変更及び試験の実行に係る処理とを実行する。
【0058】
次に、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムの処理について、図5を参照しながら説明する。図5は、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムの処理を説明するためのフローチャートである。
【0059】
(ステップS01)
まず試験実行制御部111は、操作部13から操作者が指定した試験条件に従いテストケース記憶部12よりテストケースデータを抽出する。
【0060】
(ステップS02)
試験実行制御部111は、テストケースデータを抽出すると、抽出したテストケースデータを基にした処理コスト差の算出を処理コスト算出部113に指示する。処理コスト算出部113は、試験実行制御部111からの指示を受けて、各試験装置の処理コストを基に、連続する各テストケース間でソフトウェアの入れ替えに要する時間の和が、最大となる最大処理時間と、最小となる最小処理時間を算出する。処理コスト算出部113は、各試験装置について、算出した最大処理時間と最小処理時間との差から処理コスト差を算出する。なお、この処理コスト算出部113による処理コスト差の算出に係る処理が、処理時間差算出ステップに相当する。
【0061】
(ステップS03)
次に、実行順序決定部114は、処理コスト算出部113から各試験装置に対応する処理コスト差を受けて、処理コスト差が最も大きい試験装置を特定する。例えば図4(a)の場合、「試験装置A」の処理コスト差(125分)が最も高い。そのため実行順序決定部114は、「試験装置A」を特定することになる。
【0062】
(ステップS04)
次に、実行順序決定部114は、特定した処理コスト差が最も大きい試験装置を対象として、連続する各テストケース間の処理コストの和が最小となるように、各テストケースを並び替える。例えば、「試験装置A」を対象としてテストケースの並び替えを行う場合、図4(a)をテストケース間の実行順序の並び替え実施前の状態とし、図4(b)に示すような並び替えの結果が得られることになる。なお上記で説明した、実行順序決定部114によるテストケース間の実行順序の並び替えに係る処理が、並び替えステップに相当する。
【0063】
(ステップS05)
次に、試験実行制御部111は、実行順序決定部114により実行順序が並び替えられたテストケースに対応したテストケースデータ及びバージョン管理データを逐次読み出す。試験実行制御部111は、バージョン管理データを読み出すと、各試験装置に既に組み込まれているソフトウェアのバージョンを確認する。試験装置に既に組み込まれているソフトウェアのバージョンが、読み出したバージョン管理データで指定されたソフトウェアのバージョンと異なる場合、試験実行制御部111は、試験実行部10を介して該試験装置にソフトウェアの入れ替えを指示する。
【0064】
試験装置のソフトウェアの入れ替えが完了すると、試験実行制御部111は、読み出したテストケースデータを基に、試験実行部10を介して各試験装置に動作条件を変更させる。動作条件の変更が完了したら、試験実行制御部111は、試験実行部10を介して各試験装置に試験を実行させる。以降、試験実行制御部111は、全てのテストケースに対し、上記したソフトウェアの確認及び入れ替えの処理と、動作条件の変更及び試験の実行に係る処理とを実行する。
【0065】
以上、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムは、操作部13から操作者が指定した試験条件に従い抽出されたテストケース間で、処理コスト差が最も大きい試験装置を特定する。第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムは、特定した試験装置について、同じバージョンのソフトウェアを使用するテストケースが連続して実行されるようにテストケース間の実行順序を並び替える。これにより、処理コスト差が最も大きい試験装置について、ソフトウェアの入れ替えに要する時間がより短くなり、全体の試験時間を短縮することが可能となる。
【0066】
また第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムでは、バージョン管理データを基に、実行するテストケースに応じて、各試験装置にソフトウェアを入れ替えさせる。これにより、各試験装置のソフトウェアの設定ミスを防止し、誤った結果に基づいて認定をしてしまう事故の発生を抑止することが可能となる。
【0067】
なお、必ずしも上記説明のように全ての試験装置について処理コスト差を算出する必要はない。テストケース間の実行順序を変更しても試験時間の短縮の効果が小さいことが、あらかじめわかっている試験装置については、処理コスト算出部113による処理コスト差の算出に係る処理の対象から外せるようにしてもよい(つまり処理コスト算出部113は、あらかじめ決められた一部の試験装置についてのみ、処理コスト差を算出することになる)。この場合、実行順序決定部114は、処理コスト差を算出した試験装置の中から、テストケース間の実行順序の並び替えの対象とする試験装置を特定することになる。これにより、処理コスト算出部113による処理コスト差の算出に係る処理において、計算量を低減し処理時間を短縮することが可能となる。
【0068】
(変形例1)
第1の実施形態に係る実行順序決定部114は、処理コスト算出部113が算出した各試験装置の処理コスト差を受けて、処理コスト差が最も高い試験装置を対象として、テストケース間の実行順序を並び替えていた。
【0069】
変形例1に係る移動体通信端末試験システムでは、処理コスト差が最大の試験装置以外についても、同じバージョンのソフトウェアを使用するテストケースが連続して実行されるようにテストケース間の実行順序を並び替える。このとき、変形例1に係る移動体通信端末試験システムは、処理コスト差を基に各試験装置間で優先度付けを行い、テストケースの並び替えの対象とする(具体的な処理の内容については後述する)。以降に、変形例1に係る移動体通信端末試験システムについて説明する。
【0070】
変形例1に係る移動体通信端末試験システムは、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムと、実行順序決定部114の処理内容が異なる。本説明では、第1の実施形態と異なる実行順序決定部114aの処理内容に着目して説明する。なお、その他の処理ブロックの構成及び処理内容は第1の実施形態と同様のため、具体的な説明は省略する。
【0071】
変形例1に係る実行順序決定部114aの動作について、図6を参照しながら説明する。図6は、変形例1に係る移動体通信端末試験システムにおけるテストケース間の実行順序の並び替えに関する処理を説明するための図である。実行順序決定部114aは、処理コスト算出部113から各試験装置に対応する処理コスト差を受信する。例えば図6(a)は、テストケース間の実行順序を変更する前の状態を示している。なお、図6(a)は図4(a)と同じ状態を示している。そのため処理コスト算出部113により、図3に示した各試験装置の処理コストを基に算出された各試験装置の処理コスト差は、図4(a)と同様に、「試験装置A」が125分、「試験装置B」が65分、「試験装置C」が20分となる。
【0072】
実行順序決定部114aは、処理コスト算出部113から各試験装置に対応する処理コスト差を受けて、処理コスト差が小さい順に各試験装置を対象として、各試験装置について連続する各テストケース間の処理コストの和が最小となるように、テストケース間の実行順序を遂次並び替える。実行順序決定部114aのテストケース間の実行順序の並び替えに係る具体的な処理について、図6を参照しながら、以下に示す<C1>〜<C4>に説明する。
【0073】
<C1>まず実行順序決定部114aは、各試験装置の処理コスト差を比較し、最も処理コスト差が小さい試験装置を特定する。図6(a)の場合、「試験装置C」の処理コスト差が最も小さいため、実行順序決定部114aは、「試験装置C」を特定することになる。
【0074】
<C2>次に実行順序決定部114aは、特定した試験装置(この場合、「試験装置C」が該当する)を対象として、連続する各テストケース間の処理コストの和が最小となるように、各テストケースを並び替える。図6(b)は、図6(a)をテストケース間の実行順序の並び替え実施前の状態とし、「試験装置C」を対象として、連続する各テストケース間の処理コストの和が最小となるように、各テストケースを並び替えた場合の結果を示している。なお、各テストケース間の処理コストの和が最小となるように、テストケース間の実行順序を並び替える方法は、前述した最小処理時間を求める場合の、各テストケースの並び替えに係る処理と同様である。そのため、このとき最小処理時間の導出時に求めたテストケース間の実行順序を用いてもよい。この場合、<B1>〜<B3>に示した、最小処理時間を導出するためのテストケース間の実行順序を求める処理を、実行順序決定部114aにあらためて実行させる必要はない。
【0075】
<C3>次に実行順序決定部114aは、直前にテストケース間の並び替えの対象とした試験装置の次に、処理コスト差の小さい試験装置を特定する。直前にテストケース間の並び替えの対象とした試験装置が「試験装置C」の場合、次に処理コスト差の小さい試験装置は「試験装置B」となる。そのため、このとき実行順序決定部114aは、「試験装置B」を特定することになる。
【0076】
実行順序決定部114aは、処理コスト差の小さい試験装置を特定すると、特定した試験装置を対象として、連続する各テストケース間の処理コストの和が最小となるように各テストケースを並び替える。このとき実行順序決定部114aは、直前に並び替えられたテストケース間の実行順序を、特定した試験装置を対象とした並び替えを実施する前の状態とし、各テストケースを並び替える。図6(c)は、図6(b)をテストケース間の実行順序の並び替え実施前の状態とし、「試験装置B」を対象として、連続する各テストケース間の処理コストの和が最小となるように、各テストケースを並び替えた場合の結果を示している。
【0077】
<C4>以降、実行順序決定部114aは、<C3>と同様の方法で、処理コスト差の小さい順に、残りの試験装置についても対象として各テストケース間の実行順序を並び替える。つまり実行順序決定部114aは、「試験装置B」の次には「試験装置A」を対象とし、テストケース間の実行順序を並び替えることになる。例えば、図6(d)は、図6(c)をテストケース間の実行順序の並び替え実施前の状態とし、「試験装置A」を対象として、連続する各テストケース間の処理コストの和が最小となるように、各テストケースを並び替えた場合の結果を示している。
【0078】
なお上記では、実行順序決定部114aが、処理コスト差を算出した全ての試験装置を遂次対象として、テストケース間の実行順序を並び替える例について説明した。しかし、必ずしも全ての試験装置を対象として、テストケース間の実行順序を並び替える必要はない。処理コスト差の小さい試験装置は、対象としてテストケース間の実行順序を並び替えても、試験時間の短縮に関する効果が小さい。そのため、テストケース間の実行順序の並び替えを行う前段階で、テストケースの並び替えの対象とする試験装置を特定してもよい。このとき、処理コスト差が所定値以上の試験装置のみを並び替えの対象として抽出してもよい。また、処理コスト差の大きい順に所定数の試験装置を対象として抽出してもよい。
【0079】
例えば、図6(a)を例に、処理コスト差が60分以上の試験装置を対象として抽出した場合、テストケースの並び替えの対象となる試験装置は、「試験装置A」と「試験装置B」となる。同様に、図6(a)を例に、処理コスト差の上位2つの試験装置を抽出した場合、テストケースの並び替えの対象となる試験装置は、「試験装置A」と「試験装置B」となる。
【0080】
また、実行順序決定部114aは、処理コスト差を算出していない試験装置がある場合、この試験装置を対象としたテストケース間の実行順序の並び替えは行わない。この試験装置は、前述した、処理コスト算出部113による処理コスト差の算出に係る処理の対象から外した試験装置に相当する。
【0081】
次に、試験実行制御部111は、実行順序決定部114により実行順序が並び替えられたテストケースに対応したテストケースデータ及びバージョン管理データを逐次読み出す。以降は、第1の実施形態と同様に、各試験装置のソフトウェアの入れ替えに係る処理と、動作条件の変更及び試験の実行に係る処理を、各テストケースについて実行する。
【0082】
次に、変形例1に係る移動体通信端末試験システムの処理について、図7を参照しながら説明する。図5は、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムの処理を説明するためのフローチャートである。なお、ステップS01及びステップS02に係る処理は第1の実施形態と同様のため説明は省略し、動作の異なるステップS11以降について着目して説明する。
【0083】
(ステップS11)
処理コスト算出部113が処理コスト差を算出したら、次に、実行順序決定部114aが、処理コスト算出部113が算出した各試験装置の処理コスト差を基に、テストケース間の実行順序の並び替えに係る処理を開始する。このとき、実行順序決定部114aは、処理コスト差を基に、あらかじめ並び替えの対象とする試験装置を抽出するようにしてもよい。
【0084】
(ステップS12)
次に、実行順序決定部114aは、各試験装置の処理コスト差を比較し、最も処理コスト差が小さい試験装置を特定する。例えば、図6(a)の場合、実行順序決定部114aは、「試験装置C」を特定することになる。
【0085】
(ステップS13)
次に、実行順序決定部114aは、特定した試験装置を対象として、連続する各テストケース間の処理コストの和が最小となるように、各テストケースを並び替える。例えば、「試験装置C」を対象としてテストケースの並び替えを行う場合、図6(a)をテストケース間の実行順序の並び替え実施前の状態とし、図6(b)に示すような並び替えの結果が得られることになる。
【0086】
(ステップS14)
次に、実行順序決定部114aは、抽出した全ての試験装置について、該試験装置を対象としたテストケースの並び替えを行ったかを確認する。
【0087】
(ステップS15)
まだ並び替えの対象としていない試験装置が残っている場合(ステップS14、N)、実行順序決定部114aは、並び替えの対象としていない試験装置の中から、処理コスト差が最も小さい試験装置を特定する。例えば、「試験装置C」を対象としてテストケース間の実行順序を並び替えた後ならば、実行順序決定部114aは、「試験装置C」の次に処理コスト差の小さい「試験装置B」を特定することになる。
【0088】
実行順序決定部114aは、試験装置を特定したら、特定した試験装置を対象として、再度テストケース間の実行順序を並び替える。このとき実行順序決定部114aは、直前に並び替えられたテストケース間の実行順序を、特定した試験装置を対象とした並び替えを実施する前の状態とし、テストケース間の実行順序を並び替える。例えば、「試験装置C」を対象としてテストケース間の実行順序を並び替えた後であれば、まず実行順序決定部114aは、図6(b)をテストケース間の実行順序の並び替え実施前の状態とする。次に実行順序決定部114aは、「試験装置B」を対象として、連続する各テストケース間の処理コストの和が最小となるように、各テストケースを並び替える。図6(c)が、実行順序決定部114aによる、「試験装置B」を対象としたテストケース間の実行順序の並び替えの結果に相当する。
【0089】
(ステップS05)
全ての試験装置について並び替えを行っている場合(ステップS14、Y)、実行順序決定部114aは、テストケースの並び替えに係る処理を終了する。なお上記で説明した、実行順序決定部114によるテストケース間の実行順序の並び替えに係る処理が、並び替えステップに相当する。
【0090】
次に、試験実行制御部111は、実行順序決定部114aにより実行順序が並び替えられたテストケースに対応したテストケースデータ及びバージョン管理データを逐次読み出す。試験実行制御部111は、バージョン管理データを読み出すと、各試験装置に既に組み込まれているソフトウェアのバージョンを確認する。試験装置に既に組み込まれているソフトウェアのバージョンが、読み出したバージョン管理データで指定されたソフトウェアのバージョンと異なる場合、試験実行制御部111は、試験実行部10を介して該試験装置にソフトウェアの入れ替えを指示する。
【0091】
試験装置のソフトウェアの入れ替えが完了すると、試験実行制御部111は、読み出したテストケースデータを基に、試験実行部10を介して各試験装置に動作条件を変更させる。動作条件の変更が完了したら、試験実行制御部111は、試験実行部10を介して各試験装置に試験を実行させる。以降、試験実行制御部111は、全てのテストケースに対し、上記したソフトウェアの確認及び入れ替えの処理と、動作条件の変更及び試験の実行に係る処理とを実行する。
【0092】
ここで、テストケース間の実行順序の並び替えの結果について、変形例1に係る移動体通信端末試験システムと、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムとを、図4(b)及び図6(d)を参照しながら比較する。図4(b)は、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムにおけるテストケース間の実行順序を並び替えた結果を示している。また図6(d)は、変形例1に係る移動体通信端末試験システムにおけるテストケース間の実行順序を並び替えた結果を示している。
【0093】
例えば、処理コスト差の最も大きい「試験装置A」を対象として、図4(b)と図6(d)との間でソフトウェアのバージョンを比較した場合、双方で同じ並び順となっている。そのため、「試験装置A」に係る処理の時間は、図4(b)と図6(d)とでは同じである。しかしながら、図4(b)に示した「試験装置B」に着目すれば、テストケースCase4、Case2、Case5の実行順序を、図6(d)のように、Case4、Case5、Case2の実行順序に変更した場合、「試験装置B」についてソフトウェアの入れ替えを行うタイミングが2回から1回に減少する。
【0094】
図3(b)に示した「試験装置B」の処理コストを基に、初期状態を基準としてCase2、Case4、及びCase5を処理する場合における動作条件の変更に係る処理コストを計算する。この計算結果によると、変形例1に係る移動体通信端末試験システムは、第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システムより該処理コストが20分短縮されることになる。具体的に示すと、図4(b)におけるCase4とCase2の間及びCase2とCase5の間にかかる処理コストの和(45分)から、図6(d)におけるCase5からCase2の間にかかる処理コスト(25分)に短縮されることになる。
【0095】
以上、変形例1に係る移動体通信端末試験システムでは、処理コスト差が最大の試験装置以外についても、同じバージョンのソフトウェアを使用するテストケースが連続して実行されるようにテストケース間の実行順序を並び替える。これにより、処理コスト差が最大の試験装置のみを対象としてテストケース間の実行順序を並び替える場合(第1の実施形態に係る移動体通信端末試験システム)よりも更に、全体の試験時間を短縮することが可能となる。
【符号の説明】
【0096】
1 移動体通信端末試験システム 2 移動体通信端末 10 試験実行部
11 テストケース実行制御部 12 テストケース記憶部 13 操作部
111 試験実行制御部 112 バージョン管理データ記憶部
113 処理コスト算出部 114、114a 実行順序決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソフトウェアを有する複数の試験装置を制御し被試験対象である移動体通信端末(2)の各種試験を実行する試験実行部(10)と、前記複数の試験装置それぞれを動作させるための前記ソフトウェアの入れ替えを含む動作設定を1組のテストケースとして、複数のテストケースを記憶するテストケース記憶部(12)とを備え、前記試験実行部が前記テストケースに従い前記試験装置の動作設定を変更しながら前記試験を実行する移動体通信端末試験システムであって、
前記複数のテストケースが3以上備えられており、
予め、前記複数のテストケースに含まれる複数の前記試験装置ごとに、前記動作設定を基に、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最大となるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の最大処理時間と、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の最小処理時間との差から処理時間差を算出する処理コスト算出部(113)と、
少なくとも、前記処理時間差が最も大きい前記試験装置を特定し、それを基に全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替える実行順序決定部(114)とを備えたことを特徴とする移動体通信端末試験システム。
【請求項2】
前記実行順序決定部が、前記処理時間差が最小となる前記試験装置において、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の、前記複数のテストケースの実行順序を基礎として、前記処理時間差が小さい前記試験装置の順に前記複数のテストケースの並び替えを行い、かつ、後にテストケースの並び替えを行う前記試験装置については、先に並べ替えられたテストケースの実行順序と、後にテストケースの並び替えを行う前記試験装置に対応した動作設定とを基に、前記複数のテストケースの実行順序を並び替えることを特徴とする請求項1に記載の移動体通信端末試験システム。
【請求項3】
ソフトウェアを有する複数の試験装置を制御し被試験対象である移動体通信端末の各種試験を実行する移動体通信端末試験システムにおいて、複数の試験装置それぞれを動作させるための前記ソフトウェアの入れ替えを含む動作設定を1組のテストケースとして、前記テストケースに沿って前記試験を実行する試験方法であって、
前記複数のテストケースに含まれる複数の前記試験装置ごとに、前記動作設定を基に、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最大なるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の最大処理時間と、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の最小処理時間との差から処理時間差を算出する処理時間差算出ステップと、
少なくとも、前記処理時間差が最も大きい前記試験装置において、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替える並び替えステップとを備えたことを特徴とする試験方法。
【請求項4】
前記並び替えステップにおいて、前記処理時間差が最小となる前記試験装置において、全テストケースを通して前記動作設定を変更する時間が最小となるように前記複数のテストケースを並び替えた場合の、前記複数のテストケースの実行順序を基礎として、前記処理時間差が小さい前記試験装置の順に前記複数のテストケースの並び替えを行い、かつ、後にテストケースの並び替えを行う前記試験装置については、先に並べ替えられたテストケースの実行順序と、後にテストケースの並び替えを行う前記試験装置に対応した動作設定とを基に、前記複数のテストケースの実行順序を並び替えることを特徴とする請求項3に記載の試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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