説明

移動床式上向流連続砂濾過装置及びその運転方法

【課題】洗浄排水集合管につながる複数台の濾過槽に内蔵された濾過モジュールで詰りが発生した際に、懸濁物質を多く含んだ水が堰を越えて濾過水ノズルから排出されてしまうことを防止しつつ、詰り洗浄を容易に且つ効率良く行い得る移動床式上向流連続砂濾過装置及びその運転方法を提供する。
【解決手段】洗浄排水集合管7に対し、各濾過槽5に内蔵された濾過モジュールMでの詰り発生時に濾過水回収手段3と濾過層1との間の水を排出する詰り洗浄排水管8を接続し、該各詰り洗浄排水管8に開閉手段9を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動床式上向流連続砂濾過装置及びその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、上水、下水、産業排水等のあらゆる水の濾過と濾過砂の洗浄が同時に行える装置として移動床式上向流連続砂濾過装置が広く利用されている。
【0003】
図6は従来の移動床式上向流連続砂濾過装置の一例を示すものであって、砂等の濾材が充填された濾過層1と、該濾過層1の底部に原水を供給する原水供給手段2と、該原水供給手段2から濾過層1の底部に供給され且つ該濾過層1内を上昇することにより濾過された上澄水を濾過水として集めて抜き出す濾過水回収手段3と、前記原水から懸濁物質(SS:Suspended Solid)を捕捉した濾材を濾過層1の底部からの空気上昇と共に搬送し該濾材から懸濁物質を分離し洗浄排水として集めて抜き出すと共に懸濁物質が分離された濾材を濾過層1へ戻す濾材洗浄手段4とを有している。
【0004】
前記原水供給手段2は、濾過槽5の底部に、原水供給ヘッダ2aから上方へ延びる複数本の原水供給ノズル2bを濾過層1内に開口するよう配設すると共に、該各原水供給ノズル2bの上端開口部を覆い且つ濾過槽5と同心環状のディストリビュータ2cを配設してなる構成を有している。
【0005】
前記濾過水回収手段3は、濾過槽5の上部における外周所要箇所に、前記濾過層1内を上昇することにより濾過された上澄水をオーバーフローさせる堰3aと、該堰3aを乗り越えた上澄水を受ける受板3bとによって濾過水受部3cを形成し、該濾過水受部3cに濾過水ノズル3dを接続してなる構成を有している。
【0006】
前記濾材洗浄手段4は、前記濾過層1の中心部に、濾材を濾過層1の底部からの空気上昇と共に搬送するエアリフト管4aを上下方向へ延びるよう配設し、該エアリフト管4aの上端部に、その上端から溢流する濾材を受けて洗浄排水と濾材に分ける排水桶4bを設け、該排水桶4bに、洗浄排水を抜き出すエアリフト洗浄排水管4cを接続してなる構成を有している。前記エアリフト管4aの中心部には、濾過槽5の上方から空気を供給する空気導入管4dを配設して二重管構造とし、又、前記排水桶4bの底部には、前記エアリフト管4aの上部外周に同芯状に配設され且つ内部にラビリンス空間が形成された濾材戻し管4eを接続してある。
【0007】
前述の如き移動床式上向流連続砂濾過装置においては、図6(a)に示される如く、原水供給ヘッダ2aへ供給される原水は、前記原水供給手段2を構成する原水供給ノズル2bの上端開口部から濾過層1に吹き出され、ディストリビュータ2cにより濾過層1の全域に均等に振り分けられて該濾過層1を上昇する過程で濾材に懸濁物質が捕捉されることで、懸濁物質が取り除かれ、清浄な濾過水となり、前記濾過水回収手段3を構成する堰3aをオーバーフローして濾過水受部3cに流入し濾過水ノズル3dから排出される。
【0008】
同時に、図6(b)に示される如く、前記原水から懸濁物質を捕捉した濾材は、前記濾材洗浄手段4を構成する空気導入管4dから濾過層1の底部へ供給される空気と共にエアリフト管4aの内部に吸い込まれて上昇し、該エアリフト管4aの内部を濾材と水及び空気が異なる速度で上昇することにより、濾材が揉まれて懸濁物質が濾材から剥離し、前記エアリフト管4aの上端から溢流する濾材は、排水桶4bの内部で懸濁物質を含む洗浄排水が分離され、該洗浄排水は洗浄排水管から抜き出される一方、前記懸濁物質が除去された濾材は、濾材戻し管4eを流下しつつそのラビリンス空間内で残存する懸濁物質が更に分離され、濾過層1へ戻される。
【0009】
尚、図6中、6は前記濾過層1の底部にエアリフト管4aを取り囲むように配設された円錐状濾材案内手段であって、該円錐状濾材案内手段6により、濾過層1において上方から下方へ流下する濾材が濾過槽5の横断面全体に亘って均等に振り分けられると共に、円錐状濾材案内手段6の上方にある濾材の重量で円錐状濾材案内手段6の下方にある濾材が直接圧密されて流動しにくくなるのを防いでいる。更に、濾過層1において発生する気泡が捕獲され、円錐状濾材案内手段6上部に接続された気泡排出管(図示せず)から外部へ排出されるようになっている。
【0010】
そして、前記移動床式上向流連続砂濾過装置は、前記濾過層1と原水供給手段2と濾過水回収手段3と濾材洗浄手段4とを一つの最小単位としてまとめた濾過モジュールMとし、該濾過モジュールMが内蔵された濾過槽5を原水の処理量に応じて複数台配設することが一般に行われており、この場合、図7に示される如く、前記各濾過槽5に内蔵された濾過モジュールMのエアリフト洗浄排水管4cを洗浄排水集合管7に接続し、該洗浄排水集合管7にまとめる形で前記各濾過槽5からの洗浄排水を図示していない洗浄排水槽へ送るようになっている。尚、前記各濾過槽5に対しては、図示していない原水槽から一台のポンプにより原水が分配される形で供給されるようになっている。
【0011】
因みに、図6及び図7に示される移動床式上向流連続砂濾過装置は、前記濾過槽5を鋼板によって製造し、一つの濾過槽5の中に一つの濾過モジュールMを内蔵した、いわゆるシングル濾過モジュールタイプのものであるが、該濾過槽5をコンクリートによって製造したものも存在し、この場合、図8に示される如く、一つの濾過槽5の中に複数の濾過モジュールMを内蔵した、いわゆるマルチ濾過モジュールタイプのものがあり、各濾過モジュールMのエアリフト洗浄排水管4cは、濾過槽5の内部に配設された連結管4fを介し、前記洗浄排水槽へつながる洗浄排水集合管7に接続されるようになっている。尚、図6及び図7に示される濾過槽5をコンクリートによって製造したり、或いは図8に示される濾過槽5を鋼板によって製造したりすることが可能であることは言うまでもない。
【0012】
尚、前記移動床式上向流連続砂濾過装置と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1、2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公昭56−51808号公報
【特許文献2】特許第3853738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、前述の如き従来の移動床式上向流連続砂濾過装置では、例えば、懸濁物質の濃度が異常に高くなったり、或いは砂等の濾材に固着しやすい物質が多く含まれていたりして、流入する原水の性状が変化した場合、濾過層1に固まり部が生じて濾材の循環移動が不充分となり、原水を濾過する際の圧損が高くなると共に、濾過水の濁り度も高くなってしまう虞があり、速やかに何らかの対応を行う必要があった。
【0015】
こういった緊急の対応を要する非常時には、詰り洗浄を行うことを目的として、原水を原水供給ノズル2bから供給しつつ、濾過層1に生じた固まり部を該濾過層1の上方からの高圧水の噴射等により直接解砕撹拌することが有効となるが、このような解砕撹拌を行った場合、懸濁物質を多く含んだ水が堰3aを越えて濾過水ノズル3dから排出されてしまうため、詰り洗浄前に濾過した清浄な濾過水を懸濁物質で汚す虞がある。そこで、例えば、濾過水ノズル3dに接続される濾過水管(図示せず)から仮設の強制排水管を分岐接続し、前記懸濁物質を含んだ水を回収する必要があった。しかしながら、前記濾過水管から仮設の強制排水管を分岐接続するのは、準備に手間がかかり、煩雑な作業が必要になるという不具合を有していた。
【0016】
又、前記懸濁物質を多く含んだ水が堰3aを越えて濾過水ノズル3dから排出されてしまうことを避けるためには、前記エアリフト洗浄排水管4cから排出できる洗浄排水の流量に見合う量の原水を少しずつ詰り洗浄用として原水供給ノズル2bから供給することも可能ではあるが、この場合、詰り洗浄を完了するまでに非常に時間がかかり、あまり好ましい対策であるとは言えなかった。
【0017】
更に又、前記濾過層1の上方に水中ポンプを投入し、該水中ポンプで前記懸濁物質を含んだ水を強制的に汲み上げて回収することも可能ではあるが、水中ポンプの手配等、作業が面倒になることは避けられず、やはり好ましい対策であるとは言えなかった。
【0018】
尚、特許文献1、2のいずれにも、緊急を要する非常時の詰り洗浄については、何ら記載はなされていない。
【0019】
本発明は、斯かる実情に鑑み、洗浄排水集合管につながる複数台の濾過槽に内蔵された濾過モジュールで詰りが発生した際に、懸濁物質を多く含んだ水が濾過水回収手段から排出されてしまうことを防止しつつ、詰り洗浄を容易に且つ効率良く行い得る移動床式上向流連続砂濾過装置及びその運転方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、濾材が充填された濾過層と、該濾過層の底部に原水を供給する原水供給手段と、該原水供給手段から濾過層の底部に供給され且つ該濾過層内を上昇することにより濾過された上澄水を濾過水として集めて抜き出す濾過水回収手段と、前記原水から懸濁物質を捕捉した濾材を濾過層の底部からの空気上昇と共に搬送し該濾材から懸濁物質を分離し洗浄排水として集めて抜き出すと共に懸濁物質が分離された濾材を濾過層へ戻す濾材洗浄手段とを有する濾過モジュールが内蔵された濾過槽を複数台配設してなる移動床式上向流連続砂濾過装置において、
前記各濾過槽に内蔵された濾過モジュールの濾材洗浄手段を、前記濾過層の中心部に上下方向へ延びるよう配設され且つ濾材を濾過層の底部からの空気上昇と共に搬送するエアリフト管と、該エアリフト管の上端から溢流する濾材を受けて洗浄排水と濾材に分ける排水桶と、該排水桶から洗浄排水を抜き出すエアリフト洗浄排水管とから構成し、
該各濾過槽に内蔵された濾過モジュールのエアリフト洗浄排水管を洗浄排水集合管に接続すると共に、該洗浄排水集合管に対し、前記各濾過槽に内蔵された濾過モジュールでの詰り発生時に濾過水回収手段と濾過層との間の水を排出する詰り洗浄排水管を接続し、該各詰り洗浄排水管に開閉手段を設けたことを特徴とする移動床式上向流連続砂濾過装置にかかるものである。
【0021】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0022】
例えば、懸濁物質の濃度が異常に高くなったり、或いは砂等の濾材に固着しやすい物質が多く含まれていたりして、流入する原水の性状が変化した場合、濾過層に固まり部が生じて濾材の循環移動が不充分となり、原水を濾過する際の圧損が高くなると共に、濾過水の濁り度も高くなってしまう虞があるため、原水を原水供給手段から供給しつつ、濾過層に生じた固まり部を高圧水の噴射等により直接解砕撹拌する詰り洗浄を行うが、該詰り洗浄を行う際に、詰りが発生した濾過モジュールが内蔵された濾過槽の開閉手段を開放すると、該濾過モジュールが内蔵された濾過槽の詰り洗浄排水管から排水作業が行われるため、懸濁物質を多く含んだ水が濾過水回収手段から排出されてしまうことが避けられると共に、前記各濾過槽に対しては、原水槽から一台のポンプにより原水が分配される形で供給されるようになっているため、前記詰りが発生した濾過モジュールが内蔵された濾過槽以外の濾過槽では、原水濾過及び濾材洗浄が同時進行される通常運転が継続して行われることとなる。
【0023】
これにより、従来のように、例えば、濾過水回収手段に接続される濾過水管から仮設の強制排水管を分岐接続し、前記懸濁物質を含んだ水を回収するのとは異なり、詰りが発生した濾過モジュールが内蔵された濾過槽の開閉手段を開放するだけで、準備に手間がかからず、煩雑な作業が一切不要になる。
【0024】
又、前記懸濁物質を多く含んだ水が濾過水回収手段から排出されてしまうことを避けるために、前記エアリフト洗浄排水管から排出できる洗浄排水の流量に見合う量の原水を少しずつ詰り洗浄用として原水供給手段から供給するのに比べ、詰り洗浄を完了するまでの時間を短縮することが可能となる。
【0025】
更に又、前記濾過層の上方に水中ポンプを投入し、該水中ポンプで前記懸濁物質を含んだ水を強制的に汲み上げて回収するのとは異なり、水中ポンプの手配等の面倒な作業も行わなくて済む。
【0026】
前記移動床式上向流連続砂濾過装置においては、前記詰り洗浄排水管の内径を、予め設定される管内流速に基づき、各濾過槽の原水供給流量に見合う流量の排水を許容する値とすると共に、前記洗浄排水集合管の内径を、予め設定される管内流速に基づき、各濾過槽の原水供給流量の総和に見合う流量の排水を許容する値とすることができる。
【0027】
又、本発明は、前記移動床式上向流連続砂濾過装置の運転方法であって、
詰りが発生した濾過槽の開閉手段を開放し、該濾過槽の詰り洗浄排水管から排水作業を行うと共に、前記詰りが発生した濾過槽以外の濾過槽での原水濾過及び濾材洗浄が同時進行される通常運転を継続することを特徴とする移動床式上向流連続砂濾過装置の運転方法にかかるものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明の移動床式上向流連続砂濾過装置及びその運転方法によれば、洗浄排水集合管につながる複数台の濾過槽に内蔵された濾過モジュールで詰りが発生した際に、懸濁物質を多く含んだ水が濾過水回収手段から排出されてしまうことを防止しつつ、詰り洗浄を容易に且つ効率良く行い得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の移動床式上向流連続砂濾過装置の第一実施例を示す概略平面図である。
【図2】本発明の移動床式上向流連続砂濾過装置の第一実施例における濾過槽に内蔵された濾過モジュールを示す概略断面図である。
【図3】本発明の移動床式上向流連続砂濾過装置の第二実施例を示す概略平面図である。
【図4】本発明の移動床式上向流連続砂濾過装置の第二実施例における濾過槽に内蔵された濾過モジュールを示す概略断面図である。
【図5】本発明の移動床式上向流連続砂濾過装置の第一実施例及び第二実施例における詰り洗浄排水管の開閉手段の変形例を示す概略図であって、(a)は詰り洗浄排水管の開口にゴム等の弾性体製の栓をねじ込む例を示す図、(b)は詰り洗浄排水管の開口に水圧で押し付けられる蓋を取り付ける例を示す図、(c)は詰り洗浄排水管の開口に支柱に沿って水面より上方位置まで引き上げ可能な蛇腹を設ける例を示す図である。
【図6】従来の移動床式上向流連続砂濾過装置の一例を示す概略断面図であって、(a)は原水濾過の原理説明図、(b)は濾材洗浄の原理説明図である。
【図7】濾過モジュールが内蔵された鋼板製の濾過槽を複数台配設した従来の移動床式上向流連続砂濾過装置の一例を示す概略平面図である。
【図8】濾過モジュールが内蔵されたコンクリート製の濾過槽を複数台配設した従来の移動床式上向流連続砂濾過装置の一例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0031】
図1及び図2は本発明の移動床式上向流連続砂濾過装置の第一実施例(濾過槽5を鋼板によって製造したもの)であって、図中、図6及び図7と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図6及び図7に示す従来のものと同様であるが、本第一実施例の特徴とするところは、図1及び図2に示す如く、各濾過槽5の外部に配設される洗浄排水集合管7に対し、各濾過槽5に内蔵された濾過モジュールMでの詰り発生時に濾過水回収手段3と濾過層1との間の水を排出する詰り洗浄排水管8を接続し、該各詰り洗浄排水管8に開閉手段9を設けた点にある。
【0032】
本第一実施例の場合、前記開閉手段9は、通常運転時には閉じた状態に保持され且つ詰り発生時には開放されるバルブ9aとしてある。尚、前記バルブ9aの開閉に関しては、手動式或いは遠隔操作式のいずれの形式をも選定することができる。
【0033】
ここで、シングル濾過モジュールタイプであるか或いはマルチ濾過モジュールタイプであるかにかかわらず、濾過槽5の台数をN(図1の例ではN=3)とし、詰りが発生した濾過槽5の台数をn(n≦N)とし、各濾過槽5への原水供給流量をそれぞれQ[m3/s]とした場合、通常運転時におけるエアリフト洗浄排水管4cからの洗浄排水流量(シングル濾過モジュールタイプの場合、一本のエアリフト洗浄排水管4cからの洗浄排水流量であるが、マルチ濾過モジュールタイプの場合、複数本のエアリフト洗浄排水管4cからのトータルの洗浄排水流量)は、原水供給流量の5〜15[%]とするのが望ましいことから、m=0.05〜0.15とすると、前記洗浄排水流量は、
mQ
と表される一方、詰りが発生した濾過槽5においては、その濾過水回収手段3から濁った濾過水が排出されることを防ぐために、原水供給流量と同量の水を詰り洗浄排水管8から洗浄排水集合管7へ流出させる必要がある。
【0034】
このため、n台の濾過槽5で詰りが発生した場合に、洗浄排水集合管7を流れる洗浄排水流量をqnとすると、
[数1]
n=nQ+mQ(N−n)
となり、洗浄排水集合管7の内径をd[m]とすると、洗浄排水集合管7の内部断面積は、
πd2/4
と表されるため、洗浄排水集合管7の管内流速をv[m/s](一般に、v=0.2〜0.5)とすると、洗浄排水集合管7の内径は、
d=2×(qn/πv)1/2
となる。尚、マルチ濾過モジュールタイプの場合、濾過槽5へ供給される原水(原水供給流量Q)が各濾過モジュールに分配される形となり、該マルチ濾過モジュールタイプにおける濾過モジュールの数をjとすると、各濾過モジュールに供給される分配原水供給流量Q´はQ´=Q/jとなり、Q=jQ´となるため、前記[数1]は、
n=njQ´+mjQ´(N−n)
と表すこともできる。
【0035】
因みに、前記洗浄排水流量qnは、n=Nの場合に最大となるため、該最大となる洗浄排水流量qn(各濾過槽5の原水供給流量Qの総和に見合う流量)を流せるように、前記洗浄排水集合管7の内径dを設定すれば良い。但し、このように洗浄排水集合管7の内径dを設定すると、濾過槽5の台数Nが増す毎に洗浄排水集合管7の管径が太くなる一方、同時に詰り洗浄を行える人員も用具も限られ、現実的ではなくなるため、実際の運用では、例えば、万一、三台の濾過槽5が同時に詰ってしまったような場合には、順次、一台ずつ詰り洗浄を行っていくようにすることも一つの対策となり、このようにすれば、前記洗浄排水集合管7の管径が実現不能となるほど太くなることが避けられ、詰り洗浄を行う人員や用具の問題も解消されることとなる。又、前記詰り洗浄排水管8の内径d´については、予め設定される前記管内流速vに基づき、各濾過槽5の原水供給流量Qに見合う流量の排水を許容する値に設定すれば良い。
【0036】
次に、上記第一実施例の作用を説明する。
【0037】
例えば、懸濁物質の濃度が異常に高くなったり、或いは砂等の濾材に固着しやすい物質が多く含まれていたりして、流入する原水の性状が変化した場合、濾過層1に固まり部が生じて濾材の循環移動が不充分となり、原水を濾過する際の圧損が高くなると共に、濾過水の濁り度も高くなってしまう虞があるため、原水を原水供給ノズル2bから供給しつつ、濾過層1に生じた固まり部を高圧水の噴射等により直接解砕撹拌する詰り洗浄を行うが、該詰り洗浄を行う際に、詰りが発生した濾過モジュールMが内蔵された濾過槽5の開閉手段9のバルブ9aを開放すると、該濾過槽5に内蔵された濾過モジュールMの詰り洗浄排水管8から排水作業が行われるため、懸濁物質を多く含んだ水が堰3aを越えて濾過水ノズル3dから排出されてしまうことが避けられると共に、前記各濾過槽5に対しては、図示していない原水槽から一台のポンプにより原水が分配される形で供給されるようになっているため、前記詰りが発生した濾過モジュールMが内蔵された濾過槽5以外の濾過槽5では、原水濾過及び濾材洗浄が同時進行される通常運転が継続して行われることとなる。
【0038】
これにより、従来のように、例えば、濾過水ノズル3dに接続される濾過水管(図示せず)から仮設の強制排水管を分岐接続し、前記懸濁物質を含んだ水を回収するのとは異なり、詰りが発生した濾過モジュールMが内蔵された濾過槽5の開閉手段9のバルブ9aを開放するだけで、準備に手間がかからず、煩雑な作業が一切不要になる。
【0039】
又、前記懸濁物質を多く含んだ水が堰3aを越えて濾過水ノズル3dから排出されてしまうことを避けるために、前記エアリフト洗浄排水管4cから排出できる洗浄排水の流量に見合う量の原水を少しずつ詰り洗浄用として原水供給ノズル2bから供給するのに比べ、詰り洗浄を完了するまでの時間を短縮することが可能となる。
【0040】
更に又、前記濾過層1の上方に水中ポンプを投入し、該水中ポンプで前記懸濁物質を含んだ水を強制的に汲み上げて回収するのとは異なり、水中ポンプの手配等の面倒な作業も行わなくて済む。
【0041】
こうして、洗浄排水集合管7につながる複数台の濾過槽5に内蔵された濾過モジュールMで詰りが発生した際に、懸濁物質を多く含んだ水が濾過水回収手段3の堰3aを越えて濾過水ノズル3dから排出されてしまうことを防止しつつ、詰り洗浄を容易に且つ効率良く行い得る。
【0042】
図3及び図4は本発明の移動床式上向流連続砂濾過装置の第二実施例(濾過槽5をコンクリートによって製造したもの)であって、図中、図8と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図8に示す従来のものと同様であるが、本第二実施例の特徴とするところは、図3及び図4に示す如く、濾過槽5の内部に配設され且つ洗浄排水集合管7に接続される連結管4fに対し、各濾過槽5に内蔵された濾過モジュールMでの詰り発生時に濾過水回収手段3と濾過層1との間の水を排出する詰り洗浄排水管8を接続し、該各詰り洗浄排水管8に開閉手段9(バルブ9a)を設けた点にある。
【0043】
本第二実施例の場合、図4に示す如く、原水供給ヘッダ2aが濾過槽5の内部に各濾過モジュールMを貫通するように延び、濾過水受部3cに関しても各濾過モジュールMを貫通するように延長させ、又、前記原水供給ヘッダ2aから下方へ原水供給ノズル2bを延ばしてディストリビュータ2cに接続し、該ディストリビュータ2cは、エアリフト管4aの外周に同芯状となるよう配設され且つ前記原水供給ノズル2bが接続されるセンターパイプ2dと、該センターパイプ2dを中心として傘の骨のように放射状に延び且つ下面側が開口された複数本の原水分散ガイド2eとから構成してあり、これらの点、並びにマルチ濾過モジュールタイプとしている点において、図1及び図2に示す濾過槽5を鋼板によって製造したシングル濾過モジュールタイプのものと構造は異なっているが、原水濾過及び濾材洗浄の原理は全く同様となっている。
【0044】
上記第二実施例においても、例えば、懸濁物質の濃度が異常に高くなったり、或いは砂等の濾材に固着しやすい物質が多く含まれていたりして、流入する原水の性状が変化した場合、濾過層1に固まり部が生じて濾材の循環移動が不充分となり、原水を濾過する際の圧損が高くなると共に、濾過水の濁り度も高くなってしまう虞があるため、原水を原水供給ノズル2bから供給しつつ、濾過層1に生じた固まり部を高圧水の噴射等により直接解砕撹拌する詰り洗浄を行うが、該詰り洗浄を行う際に、詰りが発生した濾過モジュールMが内蔵された濾過槽5の開閉手段9のバルブ9aを開放すると、該濾過モジュールMが内蔵された濾過槽5の詰り洗浄排水管8から排水作業が行われるため、懸濁物質を多く含んだ水が堰3aを越えて濾過水ノズル3dから排出されてしまうことが避けられると共に、前記詰りが発生した濾過モジュールMが内蔵された濾過槽5以外の濾過槽5では、原水濾過及び濾材洗浄が同時進行される通常運転が継続して行われることとなる。
【0045】
これにより、従来のように、例えば、濾過水ノズル3dに接続される濾過水管(図示せず)から仮設の強制排水管を分岐接続し、前記懸濁物質を含んだ水を回収するのとは異なり、第一実施例と同様、詰りが発生した濾過モジュールMが内蔵された濾過槽5の開閉手段9のバルブ9aを開放するだけで、準備に手間がかからず、煩雑な作業が一切不要になり、又、前記懸濁物質を多く含んだ水が堰3aを越えて濾過水ノズル3dから排出されてしまうことを避けるために、前記エアリフト洗浄排水管4cから排出できる洗浄排水の流量に見合う量の原水を少しずつ詰り洗浄用として原水供給ノズル2bから供給するのに比べ、詰り洗浄を完了するまでの時間を短縮することが可能となり、更に又、前記濾過層1の上方に水中ポンプを投入し、該水中ポンプで前記懸濁物質を含んだ水を強制的に汲み上げて回収するのとは異なり、水中ポンプの手配等の面倒な作業も行わなくて済む。
【0046】
こうして、第二実施例においても、第一実施例と同様、洗浄排水集合管7につながる複数台の濾過槽5に内蔵された濾過モジュールMで詰りが発生した際に、懸濁物質を多く含んだ水が濾過水回収手段3の堰3aを越えて濾過水ノズル3dから排出されてしまうことを防止しつつ、詰り洗浄を容易に且つ効率良く行い得る。尚、図3及び図4に示すような濾過槽5をコンクリートによって製造したものを、マルチ濾過モジュールタイプとせずにシングル濾過モジュールタイプとしても良いことは言うまでもない。
【0047】
因みに、前記第一実施例及び第二実施例においては、詰り洗浄排水管8の開閉手段9はいずれもバルブ9aとしてあるが、例えば、図5(a)に示す如く、詰り洗浄排水管8の開口を上方に向け、該開口にゴム等の弾性体製の栓9bをねじ込むようにしたり、図5(b)に示す如く、前記詰り洗浄排水管8の開口に水圧で押し付けられる蓋9cを取り付けるようにしたり、或いは、図5(c)に示す如く、前記詰り洗浄排水管8の開口に支柱9dに沿って水面より上方位置まで引き上げ可能な蛇腹9eを設けるようにすることにより、前記バルブ9aの代わりとして開閉手段9を構成することは可能である。
【0048】
尚、本発明の移動床式上向流連続砂濾過装置及びその運転方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、濾過槽に内蔵される濾過モジュールの数は適宜選定可能であること、濾過槽はシングル濾過モジュールタイプ或いはマルチ濾過モジュールタイプにかかわらず鋼板又はコンクリートのいずれでも製造可能であること等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0049】
1 濾過層
2 原水供給手段
3 濾過水回収手段
4 濾材洗浄手段
4a エアリフト管
4b 排水桶
4c エアリフト洗浄排水管
5 濾過槽
7 洗浄排水集合管
8 詰り洗浄排水管
9 開閉手段
M 濾過モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾材が充填された濾過層と、該濾過層の底部に原水を供給する原水供給手段と、該原水供給手段から濾過層の底部に供給され且つ該濾過層内を上昇することにより濾過された上澄水を濾過水として集めて抜き出す濾過水回収手段と、前記原水から懸濁物質を捕捉した濾材を濾過層の底部からの空気上昇と共に搬送し該濾材から懸濁物質を分離し洗浄排水として集めて抜き出すと共に懸濁物質が分離された濾材を濾過層へ戻す濾材洗浄手段とを有する濾過モジュールが内蔵された濾過槽を複数台配設してなる移動床式上向流連続砂濾過装置において、
前記各濾過槽に内蔵された濾過モジュールの濾材洗浄手段を、前記濾過層の中心部に上下方向へ延びるよう配設され且つ濾材を濾過層の底部からの空気上昇と共に搬送するエアリフト管と、該エアリフト管の上端から溢流する濾材を受けて洗浄排水と濾材に分ける排水桶と、該排水桶から洗浄排水を抜き出すエアリフト洗浄排水管とから構成し、
該各濾過槽に内蔵された濾過モジュールのエアリフト洗浄排水管を洗浄排水集合管に接続すると共に、該洗浄排水集合管に対し、前記各濾過槽に内蔵された濾過モジュールでの詰り発生時に濾過水回収手段と濾過層との間の水を排出する詰り洗浄排水管を接続し、該各詰り洗浄排水管に開閉手段を設けたことを特徴とする移動床式上向流連続砂濾過装置。
【請求項2】
前記詰り洗浄排水管の内径を、予め設定される管内流速に基づき、各濾過槽の原水供給流量に見合う流量の排水を許容する値とすると共に、前記洗浄排水集合管の内径を、予め設定される管内流速に基づき、各濾過槽の原水供給流量の総和に見合う流量の排水を許容する値とした請求項1記載の移動床式上向流連続砂濾過装置。
【請求項3】
請求項2記載の移動床式上向流連続砂濾過装置の運転方法であって、
詰りが発生した濾過槽の開閉手段を開放し、該濾過槽の詰り洗浄排水管から排水作業を行うと共に、前記詰りが発生した濾過槽以外の濾過槽での原水濾過及び濾材洗浄が同時進行される通常運転を継続することを特徴とする移動床式上向流連続砂濾過装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−94769(P2013−94769A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243225(P2011−243225)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000001834)三機工業株式会社 (316)
【Fターム(参考)】