説明

移動農機

【課題】巻掛け伝動装置を覆うカバーに対する走行車輪からの泥はね等の影響を抑えるように構成された移動農機を提供する。
【解決手段】エンジン13からの動力を巻掛けベルト及びトランスミッションを介して走行車輪11及び耕耘部30に伝達してなる耕耘機1に、巻掛けベルトを覆うベルトカバー5を、平面視においてトランスミッションを覆うミッションケースと走行車輪11との間部分で、かつ該走行車輪11から所定間隔X離すように配置させることにより、走行車輪11によってはね上げられる泥や小石等によって、ベルトカバー5に汚れや傷が付くことを防ぐようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耕耘機等の移動農機に係り、詳しくは、走行する機体をオペレータが歩行しながら操作する移動農機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の耕耘機等の移動農機、特に歩行型管理機等の移動農機においては、走行用の主変速レバーとロータリ用の耕耘変速レバーとを別々に有することから、オペレータはこれら両レバーをそれぞれ操作することによって走行変速及びロータリ変速を行っていた。
【0003】
そこで、1本の変速レバーの左右又は上下方向の操作により、それぞれ走行変速及びロータリ変速の両操作を可能にし、上記操作を容易化させることによって移動農機の操作に不馴れな人であっても安全に作業させ得るものが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特公平8−11501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載された移動農機を含む一般的な移動農機では、エンジンの出力プーリからミッションケースの入力軸に固定されたプーリに亘り、駆動力を伝達するベルトが巻掛けられており、該ベルトやプーリ等はベルトカバーにて覆われた状態に構成されている。
【0006】
しかし、そのような従来の移動農機にあっては、上記ベルトカバーが、走行車輪と軸方向で非常に近接した位置に配設されていたり、また、走行車輪上方に被さるような平面視にて両者が干渉し合う位置に配設されていたりするものが見受けられ、走行車輪がはね上げる泥や小石等が擦れたり衝突したりすることによってベルトカバーが傷付けられる虞があった。
【0007】
そこで本発明は、巻掛け伝動装置を覆うカバーに対し、走行車輪からの泥はね等の影響を抑えるように構成し、もって上記課題を解決した移動農機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る本発明は(例えば図1ないし図3参照)、エンジン(13)からの動力を巻掛け伝動装置(5a)及びトランスミッションを介して駆動車輪(11)及び耕耘装置(30)に伝達してなる移動農機(1)において、
前記巻掛け伝動装置(5a)を覆うカバー(5)を、平面視において前記トランスミッションを覆うミッションケース(6)と前記駆動車輪(11)との間部分で、該駆動車輪(11)から所定間隔(X)離すように配置させてなる、
ことを特徴とする移動農機(1)にある。
【0009】
請求項2に係る本発明は(例えば図1ないし図3参照)、前記トランスミッションを操作する変速レバー(17)を前記ミッションケース(6)から延設すると共に、該ミッションケース(6)の上方を、前記変速レバー(17)のガイド溝(21)を有する変速パネル(23)で覆い、
該変速パネル(23)が、前記カバー(5)の上方を覆ってなる、
請求項1記載の移動農機(1)にある。
【0010】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る本発明によると、エンジンからの動力を巻掛け伝動装置及びトランスミッションを介して駆動車輪及び耕耘装置に伝達してなる移動農機において、巻掛け伝動装置を覆うカバーを、平面視においてトランスミッションを覆うミッションケースと駆動車輪との間部分で、該駆動車輪から所定間隔離すように配置させてなる。これにより、巻掛け伝動装置を覆うカバーが、駆動車輪と極端に近接したり上下方向で干渉したりしなくなるため、該駆動車輪によってはね上げられる泥等によって上記カバーに汚れや傷が付くことを防ぐことができる。また、駆動車輪からの泥はねを抑えるような場合、一般には泥除けカバー等の部材を配するが、本発明によればこのような新規な部材を用いず、部品点数を増やさずに実現することができる。
【0012】
請求項2に係る本発明によると、トランスミッションを操作する変速レバーをミッションケースから延設すると共に、該ミッションケースの上方を、前記変速レバーのガイド溝を有する変速パネルで覆い、該変速パネルが、カバーの上方を覆ってなる。これにより、変速パネルがカバーの上方を覆うこととなり、該カバーを上側から保護するものとなる。また、変速パネルが、ベルトカバーの形状に沿うように覆うことから、該変速パネルが機体後方にまで延びるような形態とならず、移動農機における機体の全長が冗長化されることを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に沿って、本発明に係る実施の形態について説明する。なお、図1は本発明に係る移動農機を適用し得る耕耘機の側面図、図2は耕耘機を斜め後方から見た斜視図、図3は耕耘機の平面図である。
【0014】
図1ないし図3に示すように、耕耘機(移動農機)1は、走行部10と耕耘部(耕耘装置)30とが一体的に構成されている。走行部10には、左右で一対の走行車輪(駆動車輪)11を軸支するミッションケース6が配設され、該ミッションケース6の前方で機体12上にはエンジン13が配設されている。該エンジン13の上方には、燃料タンク14が支持され、エンジン13及び燃料タンク14の側方にはエンジン13における排気の際の減圧消音を行うマフラー(図示せず)が配設されており、該マフラーはマフラーカバー25により覆われている。このマフラーカバー25の直下方からミッションケース6の側方に亘っては、エンジン13の動力を各部に伝える巻掛けベルト(巻掛け伝動装置)5a(図1参照)を覆ったベルトカバー(カバー)5が配設されている。
【0015】
また、機体12後部からは、上記ミッションケース6内のギヤ結合を変速操作する変速レバー17と、機体12の走行方向を操作するハンドルフレーム18とが、後方に延在するように配設されている。更に、燃料タンク14の後方下部には、上記変速レバー17の操作経路を案内するガイド溝21が形成された変速ガイドパネル(変速パネル)23が配設され、機体12後部側を沿うように覆っている。
【0016】
ハンドルフレーム18は、機体12後部から後ろ斜め上方に向かって延びる傾斜部18aと、該傾斜部18aの途中から屈曲して圃場面F(図1参照)と略々平行な水平状態となる水平部18bと、該水平部18bの最後端部に形成されたハンドル18cと、を有している。このハンドル18cは、オペレータが片手又は両手で把持し得るように、背面視における左右幅方向に延在する長尺状に形成されている。
【0017】
また、傾斜部18aから水平部18bへの移行部分には、ハンドル18cに対して接離可能に支持されたクラッチハンドル29が配置されている。このクラッチハンドル29は、ハンドル18c上部に重なる水平方向の位置(クラッチ接続状態となる位置)から、ハンドル18cに対して約60゜の角度に立ち上がる位置(クラッチ切断状態となる位置)まで、所謂がま口の口金状に回動し得る(図1の矢印Aに示す)ように支持されている。
【0018】
ハンドルフレーム18の右側上部(耕耘機1の背面視にて)には、機体12の前後方向に延在するレバー溝19に沿って回動操作されるデフロックレバー24が配設された操作パネル16が取り付けられている。該操作パネル16には、他の停止ボタン28やスロットルレバー27等が配設されている。
【0019】
デフロックレバー24は、差動装置(不図示)を作動状態又は非作動状態に切換え操作して、駆動力が伝わりにくい場所で一方の走行車輪11が滑って走行困難になった場合等に、左右走行車輪11,11を直結(即ち、左右走行車輪11,11による差動駆動をロック)し、駆動力を圃場面F(図1参照)に良好に伝えるようにする。停止ボタン28は、クラッチハンドル29の接続状態又は切断状態いずれの操作状態に拘らず、押下操作されることによってエンジン13を無条件で強制的に停止するように機能する。スロットルレバー27は、該スロットルレバー27に連結された不図示のワイヤによりエンジン13の回転数が調整され、耕耘機1の走行速度が調節される。
【0020】
一方、耕耘部30は、機体12に回転可能に支持された耕耘軸31と、該耕耘軸31に固定されて圃場を耕す耕耘爪32と、該耕耘爪32の上部を覆う耕耘カバー33と、該耕耘カバー33の後方に装着された後方カバー34とを有している。耕耘爪32は、耕耘軸31の周囲に多数装着され、側面視において前後で対象な形状となっており、耕耘軸31における正回転時又は逆回転時のいずれにも対応自在となっている。そして、耕耘軸31及び耕耘爪32は、変速伝動部を介して伝動されるエンジン13の出力により回転駆動される。
【0021】
ここで、前述したベルトカバー5及びその周辺部について更に詳細に説明する。
【0022】
ベルトカバー5は、機体12の側部に配置され、該ベルトカバー5内に配設されているプーリ(不図示)や巻掛けベルト5a等を介して、エンジン13からの動力をミッションケース6内のトランスミッションに伝え、該トランスミッションを介して変速された動力を走行車輪11及び耕耘部30に伝動する。上記ミッションケース6は、エンジン13の後側に位置しており、エンジン13とミッションケース6とは機体12に沿って前後方向に並んだ状態で配設されている。
【0023】
従って、ベルトカバー5は、エンジン13及びミッションケース6のそれぞれの側部に略々平行で且つ近接した位置、つまりマフラーカバー25の直下方から変速ガイドパネル23の端部下方に亘る位置に配設される。これにより、ベルトカバー5が、走行車輪11によってはね上げられる泥や小石等が衝突したり擦れたりしない程度の所定の間隔X(例えば10〜15cm)だけ走行車輪11から離すように配置されるものとなる。そして、ベルトカバー5が、上記したような位置に配設されると、ミッションケース6によって軸支された走行車輪11が、機体12から極端に離間されることなく、耕耘機1の左右幅がコンパクトに保たれた状態のままでベルトカバー5の外側に配設されることとなる。
【0024】
これにより、ベルトカバー5は、走行車輪11と軸方向で極端に近接し合ったり、上下方向で干渉し合ったりすることがなくなる。従って、走行車輪11によってはね上げられる泥や小石等のベルトカバー5への接触が防止され、該ベルトカバー5を汚したり傷付けたりすることを防ぐことができるようになる。また、走行車輪11からの泥はねを抑えるような場合、泥除けカバー等の部材を新規に配置させることが一般的に行われるであろうが、本実施の形態の耕耘機1によれば、新規な部材を用いず、部品点数を増やさずに実現できることとなる。
【0025】
一方、機体12後部側に位置する変速ガイドパネル23は、トランスミッションからの変速レバー17を操作案内するため、上下及び左右方向に枝別れするような一続きとなったガイド溝21を有した操作面23aを有している。該パネル23は、全体として機体12の後部側を後方に向かって徐々に下降するように傾斜しつつ覆うようなカバー部材となっている。
【0026】
変速ガイドパネル23の斜め上方で且つエンジン13上部に位置している燃料タンク14は、平面視にてエンジン13の幅と同程度の大きさを有している。更にこの燃料タンク14は、給油口を含む上部が一部露出するような状態でタンクカバー20に覆われており、該タンクカバー20によってその強度の向上が図られている。従って、タンクカバー20は、燃料タンク14に比してひとまわり大きく形成されていることから、耕耘機1の平面視においてエンジン13の前後及び左右の幅方向すべてを覆い隠すものとなっている。このタンクカバー20の後部をなすタンクカバー後端部20aは、その角部が面取りされることで全体として滑らかな曲面形状をなしている。
【0027】
そして、上記タンクカバー後端部20aに近接した位置(例えば1〜2cmの距離)からは、変速ガイドパネル23におけるパネル前端部23bが直線状となるように形成されている。そして、それらの横幅(図3の上下方向)にあっては、変速ガイドパネル23がタンクカバー20の左右幅を略々維持するように形成されるものとなっている。
【0028】
ベルトカバー5は、前述したように、ミッションケース6と走行車輪11との間にあって、走行車輪11から間隔Xだけ離れた機体12寄りの位置に配設されている。これにより、ベルトカバー5前部の側面部は、平面視においてタンクカバー20の片側端部より内側に位置するものとなっている。従って、変速ガイドパネル23の左右幅がタンクカバー20の左右幅と略々同様に形成されていることから、変速ガイドパネル23が平面視においてベルトカバー5をその上方で覆うものとなり、該ベルトカバー5が保護される。
【0029】
また、変速ガイドパネル23は、ベルトカバー5後端の形状に沿って下降するように傾斜しながら覆うので、該変速ガイドパネル23が機体12の後方にいたずらに延在するような形態(デザイン)となることを防ぐことができる。従って、耕耘機1における機体12の全長が冗長化されることを抑制することができるものとなる。
【0030】
ここで、上記構成を有する耕耘機1を用いた作業に際し、オペレータは、クラッチハンドル29が切断状態となっている際に、不図示のリコイルフックの握り部を引くことによってエンジン13を始動させる。そして、変速レバー17を適宜の位置にセットした後、クラッチハンドル29を接続状態とする。これにより、オペレータは、耕耘機1における後部でハンドル18cを操った状態で農作業を行うこととなる。
【0031】
このとき、本実施の形態における耕耘機1にあっては、ベルトカバー5が、走行車輪11から間隔Xだけ離れた機体12寄りに位置し、両者が極端に近接したり平面視において上下に重なり合ったりしないことから、該走行車輪11によってはね上げられる泥や小石等が接触(例えば擦れたり衝突したりするような状態)しなくなり、ベルトカバー5が汚れたり傷付いたりすることが防止される。また、タンクカバー20の左右幅と略々同様の比較的幅広に形成された変速ガイドパネル23は、平面視においてベルトカバー5をその上方で覆うことにより、該ベルトカバー5を保護するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る移動農機を適用し得る耕耘機の側面図である。
【図2】耕耘機を斜め後方から見た斜視図である。
【図3】耕耘機の平面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 移動農機(耕耘機)
5 カバー(ベルトカバー)
5a 巻掛け伝動装置(巻掛けベルト)
6 ミッションケース
11 駆動車輪(走行車輪)
13 エンジン
17 変速レバー
21 ガイド溝
23 変速パネル(変速ガイドパネル)
30 耕耘装置(耕耘部)
X 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力を巻掛け伝動装置及びトランスミッションを介して駆動車輪及び耕耘装置に伝達してなる移動農機において、
前記巻掛け伝動装置を覆うカバーを、平面視において前記トランスミッションを覆うミッションケースと前記駆動車輪との間部分で、該駆動車輪から所定間隔離すように配置させてなる、
ことを特徴とする移動農機。
【請求項2】
前記トランスミッションを操作する変速レバーを前記ミッションケースから延設すると共に、該ミッションケースの上方を、前記変速レバーのガイド溝を有する変速パネルで覆い、
該変速パネルが、前記カバーの上方を覆ってなる、
請求項1記載の移動農機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−7073(P2008−7073A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182392(P2006−182392)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)