説明

積層フィルム

【課題】耐薬品性および耐汚染性に優れ、種々の用途に適用し得る積層フィルムを提供する。
【解決手段】基体と、前記基体の一方の面に形成されたコーティング層とを具備し、前記コーティング層が、ハロゲン含有ビニル系単量体およびアクリロニトリルを含む単量体成分が重合されてなる共重合体からなる、積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン含有ビニル系単量体とアクリロニトリルとの共重合体を含有する組成物によるコーティング層が形成されてなる積層フィルムおよびその積層品に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装に代わる表面加飾の方法として、印刷等の加飾したアクリル系樹脂フィルム(特許文献1、2)、またはウレタンアクリレート樹脂を主成分とした組成物によるコーティング層が形成されたアクリル系樹脂フィルム(特許文献3)等が広く使用されている。
【0003】
マーキングフィルム、自動車等車両の内外装材料、建設材料、家庭電化製品の保護用フィルムや加飾用フィルムとして使用する場合には、アルカリ洗剤、アルコール洗剤、オイル等に対する優れた耐薬品性、耐汚染性が要求される。
【0004】
しかしながら、これらのアクリル系樹脂フィルムを上記用途に適用できるに十分な耐薬品性、耐汚染性を有するものではない。そのため、上記用途に適用すると、外観が劣化して意匠性の上で問題となる。
【0005】
このことは、上記加飾用積層フィルムの使用条件を著しく限定することとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−323934
【特許文献2】特開平10−279766
【特許文献3】特開2003−211598
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐薬品性および耐汚染性に優れ、種々の用途に適用し得る積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記問題点について鋭意検討の結果、アクリル系樹脂フィルムの表面に、ハロゲン含有ビニル系単量体およびアクリロニトリルを含む単量体成分を重合してなる共重合体を含むコーティング層を形成させると、耐薬品性および耐汚染性性能を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、基体と、前記基体の一方の面に形成されたコーティング層とを具備し、前記コーティング層が、ハロゲン含有ビニル系単量体およびアクリロニトリルを含む単量体成分が重合されてなる共重合体からなる、積層フィルムに関する。
【0010】
本発明の積層フィルムにおいて、前記単量体成分は、ハロゲン含有ビニル系単量体30重量%〜70重量%、アクリロニトリル30重量%〜70重量%、その他の共重合可能な単量体0重量%以上10重量%未満含有することが好ましい。
【0011】
本発明の積層フィルムにおいて、ハロゲン含有ビニル系単量体が塩化ビニルおよび/または塩化ビニリデンであることが好ましい。
【0012】
本発明の積層フィルムにおいて、前記基体が、アクリル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体を含有する樹脂組成物で構成されたアクリル系樹脂フィルムであることが好ましい。
【0013】
本発明のマーキングフィルムは、本発明の積層フィルムを用いてなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐薬品性および耐汚染性に優れ、種々の用途に適用し得る積層フィルム、ならびにこれを用いたマーキングフィルムなどの積層品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の積層フィルムは、基体と、前記基体の一方の面に形成されたコーティング層と、を具備し、前記コーティング層がハロゲン含有ビニル系単量体とアクリロニトリルを含む単量体成分が重合してなる共重合体を含む組成物から形成されてなることを特徴とする。
【0016】
本発明のコーティング層は、ハロゲン含有ビニル系単量体およびアクリロニトリルを含む単量体成分が重合されてなる共重合体(以下、単に「共重合体」と称することがある。)を含む組成物から形成されてなる。
【0017】

本発明に使用される共重合体の単量体成分は、ハロゲン含有ビニル系単量体およびアクリロニトリルを含有するものであり、その他共重合可能なビニル系単量体を含有してもよい。
【0018】
単量体成分は、ハロゲン含有ビニル系単量体30〜70重量%、アクリロニトリル70〜30重量%、その他の共重合可能な単量体0重量%以上10重量%未満含有することが好ましく、より好ましくは、アクリロニトリル35〜65重量%、ハロゲン含有ビニル系単量体65〜35重量%、その他共重合可能なビニル系単量体0重量%以上6重量%未満である。耐溶剤性と密着性のバランスの観点から、共重合体は、ハロゲン含有ビニル系単量体およびアクリロニトリル共重合体であることが好ましく、上記含有割合を同様に適用できる(つまり、上記含有割合において共重合可能な単量体を0重量%とした場合)。アクリロニトリルの含有量が30重量%未満では製造されたフィルムの耐溶剤性、着色性、発色性、風合い、物性(強度、耐熱性等)などの性能を充分発現することが困難な場合があり、一方、アクリロニトリルの含有量が70重量%を超えるとハロゲン含有ビニル系単量体の含有量が少なくなり、ハロゲン含有ビニル系重合体由来の特性、例えば充分な密着性を発現することが出来ない場合がある。
【0019】
本発明において、ハロゲン含有ビニル系単量体とは、ハロゲン含有ビニル系単量体およびビニリデン系単量体を指し、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。中でも、入手のし易さ(経済的)の点から、塩化ビニル、塩化ビニリデンが好ましく使用される。1種、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
その他共重合可能なビニル系単量体としては、例えばアクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸の塩、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸の塩、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸の塩、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸の塩などが挙げられ、それらの1種または2種以上が用いられる。
【0021】
本発明に使用される単量体成分の重合方法は、特に限定するわけではないが、水系媒体を用いた乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法等によって製造できる。回分式、半回分式、連続式の何れの重合方法においても製造可能である。
【0022】
本発明に使用される単量体成分の重合では、水系媒体、溶剤系媒体の何れを用いることができるが、水系媒体を用いることが好ましい。
【0023】
重合時におけるモノマー反応率(全単量体成分100重量%における)は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましい。モノマー反応率が80重量%未満であっても品質的な問題はないが、とりわけ塩化ビニルを使用した際には、未反応の塩化ビニルを回収する工程が必要となるために工程の所要時間が長くなる、工程長が長くなる傾向がある。
【0024】
本発明に使用される共重合体は、比粘度が0.10〜0.50であるのが好ましく、0.13〜0.30がより好ましく、0.15〜0.25が更に好ましい。比粘度が0.10未満ではフィルムとして必要な物性を得ることが困難となる場合があり、一方、0.50を超えると溶液粘度(組成物の粘度)が高くなりすぎるため取り扱いが困難になったり、溶液粘度を適切範囲にすると低濃度となり溶剤の除去が困難になったりする場合がある。
【0025】
本発明のコーティング剤に使用される組成物は、ハロゲン含有ビニル系単量体およびアクリロニトリルを含む単量体成分を重合してなる共重合体を主成分として含有することが好ましく、アクリル系樹脂等の各種樹脂を含有させてもよい。
【0026】
本発明のコーティング剤に使用される組成物は溶媒を含有してもよく、具体的には、アセトン、MEK、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、DMF、DMSO、アセトニトリルなどであり、低沸点の点から、アセトンが好ましく、積層フィルムの乾燥温度が低く抑えられる。
【0027】
共重合体を溶剤に溶解又は分散させる際には、組成物中における共重合体の含有量が、好ましくは0.1〜90重量%、より好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは5〜35重量%になるように溶媒の添加量を調整する。該濃度を0.1重量%未満にすると、コーティング層の厚みを確保することが困難になる、また、溶剤蒸発にともなう発泡等によりコーティング層の表面平滑性が得にくくなる等の問題が生じることがある。一方、90重量%を超えた濃度にすると溶液粘度が高くなりすぎて得られるコーティング層の厚みや表面が均一になりにくくなるために好ましくない。
【0028】
コーティングする際、共重合体を溶剤に溶解又は分散させる場合は、共重合体を溶媒に溶解又は分散させたのち、基材にキャストし、乾燥してフィルムとするのが好ましい。溶液(組成物)の好ましい粘度は1.0Pa・s以上10.0Pa・s以下、さらに好ましくは1.5Pa・s以上8.0Pa・s以下である。
【0029】
本発明のコーティング剤に使用される組成物には、必要に応じて、シリカ、アクリルビーズ等の艶消し剤、顔料、分散安定剤、粘度調節剤、レベリング剤、熱安定剤、劣化防止剤、可塑剤等を添加することもできる。
【0030】
劣化防止剤としては、酸化による劣化を抑制する酸化防止剤、高温下での安定性を付与する熱安定剤、および/または紫外線による劣化を防止する紫外線吸収剤が使用され得る。また、本発明の共重合体および/または可塑剤に対して、分解により発生する遊離酸を吸収させる酸吸収剤を用いることもできる。
【0031】
劣化防止剤としては、例えば、リン酸エステル化合物、フェノール誘導体、エポキシ系化合物、アミン誘導体などが用いられる。フェノール誘導体としては、オクチルフェノール、ペンタフェノン、ジアミルフェノールなどが挙げられる。アミン誘導体としてはジフェニルアミンなどが挙げられる。
【0032】
本発明に係るフィルムは、フィルム形成時に存在する水分によるフィルム強度の低下を防止するために、フィルム化の際に用いる樹脂、ペレット、溶剤などを予め乾燥させてもよい。
【0033】
基体へのコーティング層の形成方法としては、ダイコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ディップコート法、リバースコート法など、公知の各種方法が使用できる。形成された塗膜は必要に応じて乾燥されてコーティング層を形成することができる。
【0034】
例えば、ハロゲン含有ビニル系単量体(特に塩化ビニルおよび/または塩化ビニリデン)/アクリロニトリル共重合体を溶剤に溶解又は分散させて適度の濃度の液にし、しばしば濾過により異物を除去する工程を経、基材上に注ぐか又は塗布し、即ちコーティングし、これを乾燥させる方法が挙げられる。
【0035】
乾燥は、一般にはフロート法や、テンターあるいはロール搬送法が利用できる。フロート法の場合、複雑な応力を受け、光学的特性の不均一が生じやすい。また、テンター法の場合、両端を支えているピンあるいはクリップの距離により、溶剤乾燥に伴う幅収縮と自重を支えるための張力を均衡させる必要があり、複雑な幅の拡縮制御を行う必要がある。一方、ロール搬送法の場合、安定な搬送のためのテンションは原則的に流れ方向(MD方向)にかかるため、応力の方向を一定にしやすい特徴を有する。従って、乾燥は、ロール搬送法によることが最も好ましい。また、溶剤の乾燥時に水分を吸収しないよう、湿度を低く保った雰囲気中で乾燥することは、機械的強度と透明度の高いフィルムを得るには有効な方法である。
【0036】
本発明のコーティング層中の残存溶媒量は、乾燥時間や温度により適宜調整できるが、残存溶媒量が多ければ、コーティング層の見かけのTgの低下や熱収縮、さらに長期間の使用に際する変形などが起こりうるので、一般的には、3重量%以下が好ましく、2重量%以下がより好ましく、1重量%以下がさらに好ましい。
【0037】
本発明の積層フィルムにおけるコーティング層の平均厚みは0.5〜10μmであることが好ましい。0.5μm以上であれば、基体の厚み精度が悪かった場合でも均一に塗ることができ好ましい。10μm以下であれば、コーティング層にクラックが発生しにくいことから好ましい。
【0038】
本発明のコーティング層は、ヘイズが10%以下であり、好ましくは1%以下である。ヘイズが前記範囲より高い場合、透明性が充分でなく、後述の用途によっては使用できない場合がある。
【0039】
次に、本発明の積層フィルムのうちの基体について説明する。
【0040】
本発明の積層フィルムに使用される基体には、公知の樹脂フィルムを使用でき、特に限定されるわけではないが、例えば、塩化ビニル樹脂フィルム、ポリオレフィンフィルム、アクリル系樹脂フィルム等を使用できる。
【0041】
本発明の積層フィルムの基体としては、透明性の観点から、アクリル系樹脂フィルムが好ましく、市販の軟質アクリル系樹脂フィルムを使用することができる。具体的には、アクリル系樹脂フィルムとしては、アクリル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体が含まれる樹脂組成物で構成されたアクリル系樹脂フィルムがより好ましく、より具体的にはアクリル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体(以下、単に「アクリル系グラフト共重合体(A)」と称することがある。)、およびメタクリル系重合体(B)を含有する樹脂組成物で構成されたアクリル系樹脂フィルムがさらに好ましい。
【0042】
アクリル系グラフト共重合体(A)としては、アクリル系ゴム状重合体の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(b)を重合して得られるものを使用できる。
【0043】
アクリル系ゴム状重合体としては、アクリル酸エステルを主成分とした架橋ゴム状重合体(アクリル酸エステル系ゴム状重合体)が好ましく、アクリル酸エステル、必要に応じて共重合可能な他のビニル系単量体、および、共重合可能な架橋剤からなる単量体混合物(a)を重合させてなるものが好ましい。単量体混合物(a)は、全部混合して使用してもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で使用してもよい。
【0044】
単量体混合物(a)において、アクリル酸エステルは単量体成分100重量%において60〜100重量%含有されるのが好ましく、80〜99重量%がより好ましく、85〜99重量%が最も好ましい。60重量%以上であれば耐衝撃性が向上し、引張破断時の伸びが向上し、フィルム切断時にクラックが生じにくくなるため好ましい。ここで「単量体成分」とは、単量体混合物(a)における共重合可能な架橋剤を除く単量体全てを指すものとする。
【0045】
ここで用いられるアクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、重合性やコストの点よりアルキル基の炭素数1〜12のものをより好ましく用いることができる。その具体例としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられ、これらの単量体は1種のみでも、2種以上併用してもよい。
【0046】
単量体混合物(a)には、必要に応じて共重合可能な他のビニル系単量体を使用してよく、その含有量は単量体成分100重量%において0〜40重量%含有することが好ましい。
【0047】
使用できる共重合可能な他のビニル系単量体としては、耐候性、透明性の点より、メタクリル酸エステルが特に好ましく、その具体例としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等が挙げられる。また、芳香族ビニルも好ましく、その具体例としてはスチレン、メチルスチレン等が挙げられ、シアン化ビニルも好ましく、その具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0048】
共重合可能な架橋剤としては、通常架橋剤として使用されるものを使用でき、例えばアリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトロメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートおよびこれらのアクリレート類などを使用することができる。これらの架橋剤は1種のみでも、2種以上使用してもよい。
【0049】
共重合可能な架橋剤の量は、アクリル系ゴム状重合体の平均粒子径と共に応力白化、引張破断時の伸びあるいは透明性に大きく影響する。すなわち、アクリル系ゴム状重合体の平均粒子径d(nm)と架橋剤量w(重量%)が次式を満たすことが好ましい。
【0050】
0.03d≦w≦0.06d
上記式に示される範囲外では応力白化が生じ、耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが生じやすく、透明性が低下し、フィルムの成形性が悪化する場合がある。
【0051】
アクリル系ゴム状重合体の平均粒子径は、50〜200nmが好ましく、より好ましくは50〜180nm、更に好ましくは50〜150nm、最も好ましくは60〜120nmである。50nm以上であれば耐衝撃性および引張破断時の伸びが低下しにくく、フィルム切断時にクラックが生じにくくなるため好ましく、200nm以下であれば応力白化が生じにくく、透明性を確保することができ好ましい。
【0052】
アクリル系グラフト共重合体(A)は、アクリル系ゴム状重合体5〜75重量部の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(b)95〜25重量部を重合させることより得られるものが好ましい。単量体混合物(b)中のメタクリル酸エステルは50重量%以上が好ましい。50重量%以上であれば得られるフィルムの硬度、剛性が低下しにくく好ましい。
【0053】
単量体混合物(b)に使用されるメタクリル酸エステルとしては、重合安定性の観点から、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、上記単量体混合物(a)で使用できるメタクリル酸エステルを同様に使用できる。
【0054】
単量体混合物(b)には、メタクリル酸エステルと共重合可能な単量体を使用でき、アクリル酸エステルが好ましく、上述した単量体混合物(a)に使用できるアクリル酸エステルを同様に使用できる。
【0055】
アクリル系グラフト共重合体(A)は、アクリル系ゴム状重合体の存在下、単量体混合物(b)を全部混合して使用してもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で使用して重合させて得られるものでもよい。例えば、応力白化の観点から、アクリル系ゴム状重合体の存在下、第1段階でメタクリル酸エステルを86重量%以上含有する単量体混合物を重合させ、第2段階でメタクリル酸エステルを85重量%以下含有する単量体混合物を重合させても構わない。 この際、アクリル系ゴム状重合体にグラフト反応せずに未グラフトの重合体となる成分が生じる。この成分はメタクリル系重合体(B)の一部または全部を構成する。グラフト共重合体はメチルエチルケトンに不溶となる。
【0056】
アクリル系ゴム状重合体に対するグラフト率は30〜200%が好ましく、より好ましくは50〜200%、最も好ましくは80〜200%の範囲である。グラフト率が30%以上であれば透明性が低下せず、引張破断時の伸びが低下せず、フィルム切断時にクラックが生じにくくなるため好ましく、200%以下であればフィルム成形時の溶融粘度が高くならず、フィルムの成形性が低下せず好ましい。
【0057】
本発明で用いられるメタクリル系重合体(B)は、メタクリル酸メチルを80重量%以上含有するものが好ましく、90重量%以上含有するものがより好ましく、92重量%以上含有するものがさらに好ましい。メタクリル酸メチルが80重量%以上であれば、得られるフィルムの硬度、剛性が低下しにくく好ましい。
【0058】
本発明で用いられる樹脂組成物中のアクリル系ゴム状重合体の含有量は5〜25重量%が好ましく、10〜23重量%がより好ましい。5重量%以上であれば得られるフィルムの引張破断時の伸びが低下せず、応力白化が生じにくくなるため好ましい。25重量%以下であれば得られるフィルムの硬度、剛性が低下しにくく好ましい。
【0059】
本発明で用いられる樹脂組成物のメチルエチルケトン可溶分の還元粘度は0.2〜0.8dl/gが好ましい。0.2dl/g以上であれば得られるフィルムの引張破断時の伸びが低下せず、耐溶剤性が低下せず好ましく、0.8dl/g以下であればフィルムの成形性が低下しにくく好ましい。
【0060】
本発明で用いられる樹脂組成物のアクリル系グラフト共重合体(A)とメタクリル系重合体(B)の製造方法は特に限定されたものではなく、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が適用可能である。
【0061】
乳化重合法においては、通常の重合開始剤が使用される。具体例としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの無機過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、さらにアゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性開始剤も使用される。これらは単独または2種以上を組合せて用いられる。
【0062】
これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒド、スルフォキシレート、アスコロビン酸、硫酸第一鉄などの還元剤と組み合わせた通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。前記乳化重合に使用される界面活性剤にも特に制限はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。
【0063】
例えば、アルキル硫酸ソーダ、アルキルスルフォン酸ソーダ、アルキルベンデンスルフォン酸ソーダ、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリン酸ソーダなどの陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類とエチレンオキサイドとの反応生成物などの非イオン性界面活性剤などが示される。これらの界面滑性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0064】
アクリル系グラフト共重合体(A)とメタクリル系重合体(B)をそれぞれ重合してこれを混合して得ることができるが、製造に際しては同一の反応機でアクリル系グラフト共重合体(A)を製造した後、メタクリル系重合体(B)を続けて製造することもできる。混合する方法としてはラテックス状あるいはパウダー、ビーズ、ペレット等で混合が可能である。
【0065】
本発明の樹脂組成物には、着色のため無機または有機系の顔料、染料、シリカ、アクリルビーズ等の艶消し剤、熱や光に対する安定性をさらに向上させるための抗酸化剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などを単独または2種以上組み合わせて添加してもよい。
【0066】
紫外線吸収剤を含有させることは、耐候性の優れた成形品とすることができる点で、好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤を、それぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。
【0067】
なかでも高分子量のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、例えば、2,2’−メチレンビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール〕などが耐候性が高く、フィルムからの揮発も少ないことから好ましい。
【0068】
また、アクリル系グラフト共重合体(A)を構成する単量体成分と紫外線吸収性を示す単量体を共重合させることがさらに好ましい。そのことにより押出成形時にその一部が揮発することなく、押出成形時のロールおよび金属ベルト、また射出成形用金型への揮発成分の付着による汚れ少なくなる。
【0069】
紫外線吸収性能を示す単量体としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール類であり、2−(2’−ヒドロキシ−5’−アクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシプロピルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチル−3’−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらのうちでも、より好ましくは、コストおよび取り扱い性から、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールである。
【0070】
樹脂組成物は、例えば通常の溶融押出法であるインフレーション法やTダイ押出法、あるいはカレンダー法、さらには溶剤キャスト法等によりフィルム(基体)に良好に加工される。
【0071】
必要に応じ、樹脂組成物をペレット化およびフィルム化する場合にステンレス鋼焼結フィルターによりろ過することもできる。この場合、フィルターのろ過精度は3μm以上であることが好ましい。なお、ろ過精度とは、95%以上の粒子をカットする大きさを表す。またフィルム状に成形する際、フィルム両面をロールまたは金属ベルトに同時に接触させることにより、表面性のより優れたフィルムを得ることも可能である。
【0072】
基体を構成するフィルムの厚みは、30〜400μm程度が適当であり、30〜100μmがより好ましい。30μm以上の厚みでは絵柄を印刷した場合に深みのある外観が得られ易いことから好ましい。また400μm以下の厚みではコストが高くなり過ぎないことから、より使用し易い。
【0073】
基材とコーティング層との付着性を首尾よく制御するために、基材のコーティング層を形成する面に、界面コーティングや放電処理を施してもよい。詳細には、界面コーティングや放電処理により、基材とフィルムの付着性を高めることができる。
【0074】
コーティング層が形成されていない面に絵柄を印刷する場合は、グラビア印刷、スクリーン印刷あるいはインクジェットプリンター等による印刷などの方法が採用できる。印刷層にはプライマーや接着剤を塗布することができ、公知の樹脂とコーティング層が設けられた面と反対側の面を基材樹脂と積層することができる。
【0075】
本発明の積層フィルムを使用して積層品を形成することができる。積層品を構成する基材樹脂としては、種類を問わず、公知の樹脂が使用可能である。樹脂として、例えば、ABS系樹脂、オレフィン系樹脂、AS系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、あるいはこれを主成分とする樹脂とラミネートして積層品とすることができる。
【0076】
本発明の積層フィルムを使用した積層品の製造方法は特に制限されるものではないが、二次元形状の積層品で、かつ基材が熱融着出来るものの場合は、熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。また熱融着しない基材に対しては、プライマー層または接着層を介して貼り合せることが可能である。三次元形状の積層品の場合は、加飾フィルムを成型品の最表面とするインサート成形法、インモールド成形法等の公知の方法を用いることができる。射出成形される樹脂としては、種類は問わず射出成形可能な全ての樹脂が使用可能である。
【0077】
本発明の積層フィルムを使用した積層品の使用方法は特に制限されるものではないが、特に耐薬品性がその特徴となり、マーキングフィルム、自動車内装や自動車外装等の各種乗り物の内装、外装部品に適している。例えばAV機器、パソコン機器、家具製品、携帯電話、各種ディスプレイ、レンズ、窓ガラス、小物、雑貨、等のその他各種用途等に使用することができる。その他、建築用材(特に表面材)、自動車用材(特に内装材)、電気機器用材(特に表面材)、包装材(医薬品、食品、香料品、非食品、工業用など)、防食用材、電気絶縁材、表示材など、いろいろな用途に適用でき、特に耐薬品性がその特徴となる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。実施例中の部及び%は、特に断りのない限りは重量基準である。
【0079】
[重合体中のアクリロニトリル含有量の測定]
ヤナコ製CHNコーダを用いて重合体中の窒素含有量を測定し、この窒素分をアクリロニトリル由来の窒素分とし、重合体中のアクリロニトリル含有量を計算した。
【0080】
[比粘度(ηsp)の測定]
重合体1.0gをジメチルホルムアミド500mlに溶解させオストワルド型粘度計を使用し、30℃で測定した。
【0081】
[ヘイズ]
得られたフィルムのヘイズは、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製 型式VGS−300A)を用いてJIS K 7361−1に準拠して測定した。
【0082】
(製造例1:塩化ビニル/アクリロニトリル共重合体の作製)
容量14Lの攪拌機付き重合反応缶にドデシル硫酸ナトリウム0.9部、硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)0.001部、硫酸0.25部、酸性亜硫酸ナトリウム1.0部、イオン交換水(pH=5.5)170部、アクリロニトリル4.5部、塩化ビニル53部を仕込み、50℃に昇温した。攪拌を実施しながら、重合温度を50℃に保ち、アクリロニトリル42.0部、イオン交換水15部に溶解したスチレンスルホン酸ナトリウム0.5部、イオン交換水20部に溶解した過硫酸アンモニウム0.27部を4時間30分掛けて重合反応缶に添加し、重合体ラテックスを得た。最終反応液量は10Lとなるように調整をした。重合体ラテックスを一般的な方法により塩析、熱処理、脱水、乾燥を行い、塩化ビニル/アクリロニトリル系共重合体を得た。反応率97.3重量%でアクリロニトリル含有量は49.4重量%、比粘度は0.172であった。
【実施例1】
【0083】
製造例1の塩化ビニル/アクリロニトリル共重合体:100部、マグネシウムカルボキシレート・ホスファイト系複合安定剤:0.13部、ポリグリシジルメタクリレート:3.50部、チヌビン1577FF:0.57部からなる組成物の16%アセトン溶液を室温攪拌により調製し、(株)カネカ製のアクリル樹脂系透明フィルムSD018XA88H(厚さ75μm)の基体上にバーコーター(Print Coat InstruMents Ltd.製 K303 MULTI COATER、掃引速度:1m/min)を用いて塗布した。60℃で5分、続いて85℃で6分乾燥させ、厚み5〜10μmのコーティング層を備えた積層フィルムを得た。ヘイズは0.39%であった。
【0084】
得られた積層フィルムの耐薬品性および耐候性を次の方法により評価した。その結果を表1及び2に示す。
【0085】
(耐薬品性評価)
得られた積層フィルム上にガソリン、キシレン、トルエン、MEK、MIBK、酢酸エチルを一滴垂らし、フィルムの変化を目視で次の基準で評価した。
○:変化が認められない。
×:滴下跡が認められる。
【0086】
(耐候性評価)
JIS Z 9117に準拠し、ブラックパネル温度;63±3℃、サイクル条件:水スプレー12分・照射48分、300〜800nmの照射照度;255W/mにて、サンシャインウフェザー;S80型(スガ試験機社製)により促進耐候性試験を行った。評価時間を0、500、750時間の3水準とし、ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製 型式VGS−300A)を用いてJIS K 7361−1に準拠しヘイズを測定し、当該値を耐候性指標とした。
【0087】
(比較例1)
(株)カネカ製のアクリル樹脂系透明フィルムSD018XA88H(厚さ75μm)の基体をそのまま用いた。アクリル樹脂系透明フィルムのヘイズは0.64%であった。
【0088】
アクリル樹脂系透明フィルムの耐薬品性・耐候性を、実施例1と同様にして評価した。その結果を表1及び2に示す。
【0089】
(比較例2)
製造例1の塩化ビニル/アクリロニトリル共重合体の16%アセトン溶液を室温攪拌により調製し、PETフィルム上にバーコーター(Print Coat InstruMents Ltd.製 K303 MULTI COATER、掃引速度:1m/min)を用いて塗布した後、PETフィルムから剥離し、60℃で5分、続いて85℃で6分乾燥させ、厚み約60μmのフィルムを得た。ヘイズは0.81%であった。
【0090】
得られたフィルムの耐候性を、実施例1と同様にして評価した。その結果を表2に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
比較例1に対し、実施例1のフィルムは、いずれの溶剤に対しても変化が認められなかった。
【0093】
【表2】

【0094】
比較例2に対し、実施例1のフィルムは、耐候性評価において変化が認められなかった。
【0095】
実施例1および2の結果から、基体の一方の面に形成されたコーティング層を具備する本発明の積層フィルムは、耐薬品性および耐候性を兼ね備えていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体の一方の面に形成されたコーティング層とを具備し、
前記コーティング層が、ハロゲン含有ビニル系単量体およびアクリロニトリルを含む単量体成分が重合されてなる共重合体からなる、積層フィルム。
【請求項2】
前記単量体成分が、ハロゲン含有ビニル系単量体30重量%〜70重量%、アクリロニトリル30重量%〜70重量%、その他の共重合可能な単量体0重量%以上10重量%未満含有する、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
ハロゲン含有ビニル系単量体が塩化ビニルおよび/または塩化ビニリデンである、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記基体が、アクリル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体を含有する樹脂組成物で構成されたアクリル系樹脂フィルムである、請求項1〜3のうちいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
請求項1〜5のうちのいずれかに記載の積層フィルムを用いたマーキングフィルム。

【公開番号】特開2012−30438(P2012−30438A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170714(P2010−170714)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】