説明

空気入りタイヤの加硫装置および方法

【課題】加硫ブラダの上下温度差を小さくするとともに、加硫ブラダの熱劣化を抑制できるバグウェルタイプの空気入りタイヤの加硫装置および方法を提供する。
【解決手段】グリーンタイヤGを連続加硫する際に、モールド9を開型して閉型する間のドライサイクル中は、バグウェル7の周壁を厚さ方向にすき間をあけて設けた中空部7aに温調媒体Hとして加熱媒体を注入して、バグウェル7に収納している加硫ブラダ2の上下温度差を小さくし、グリーンタイヤGの加硫を長時間停止する長期ドライサイクル中は中空部7aに温調媒体Hとして冷却媒体を注入して、バグウェル7に収納している加硫ブラダ2の温度を下げて冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バグウェルタイプの空気入りタイヤの加硫装置および方法に関し、さらに詳しくは、加硫ブラダの上下温度差を小さくするとともに、加硫ブラダの熱劣化を抑制することができる空気入りタイヤの加硫装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加硫したタイヤの取り出し等を行なう際に、加硫ブラダをバグウェルの内部に収容した状態にするバグウェルタイプの加硫装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。加硫ブラダの内部にスチームを注入して膨張させるスチーム加硫では、加硫後に加硫ブラダの内部下側にドレーン水が溜まるため、加硫ブラダに上下温度差が生じる。
【0003】
バグウェルタイプの加硫装置では、グリーンタイヤを連続加硫する場合、加硫開始直後は、直前のタイヤの加硫の影響により、上述した加硫ブラダの上下温度差が残存している。この加硫ブラダの上下温度差が過大であると、加硫したタイヤの品質がばらつくという問題が生じる。
【0004】
また、加硫装置のメンテナンス等のために、加硫を長時間停止する長期ドライサイクル中には、加硫ブラダはバグウェルからの熱の影響を受ける。そのため、加硫ブラダの熱劣化が促進されて耐用期間が短くなる一因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−58387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、加硫ブラダの上下温度差を小さくするとともに、加硫ブラダの熱劣化を抑制することができるバグウェルタイプの空気入りタイヤの加硫装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の空気入りタイヤの加硫装置は、筒状の加硫ブラダと、この加硫ブラダの下側クランプ部を保持する下側クランプ保持部および上下移動して上側クランプ部を保持する上側クランプ保持部とを有する中心機構と、前記加硫ブラダを収納するバグウェルとを備えて、グリーンタイヤを加硫する際に、前記加硫ブラダをバグウェルから突出させてモールド内部のグリーンタイヤの内側で膨張させる構成にした空気入りタイヤの加硫装置において、前記バグウェルの周壁を厚さ方向にすき間をあけて中空部を設けた中空構造にするとともに、この中空部に温調媒体を注入する温調手段を設けたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の空気入りタイヤの加硫方法は、バグウェルに収納される筒状の加硫ブラダの下側クランプ部を中心機構を構成する下側クランプ保持部で保持するとともに、上側クランプ部を中心機構を構成する上下移動して上側クランプ部を保持する上側クランプ保持部で保持して、グリーンタイヤを加硫する際には、前記加硫ブラダをバグウェルから突出させてモールド内部のグリーンタイヤの内側で膨張させる空気入りタイヤの加硫方法において、前記バグウェルの周壁に厚さ方向にすき間をあけて設けた中空部に、前記加硫ブラダを前記バグウェルに収納している間、温調手段により温調媒体を注入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バグウェルの周壁に厚さ方向にすき間をあけて設けた中空部に、加硫ブラダをバグウェルに収納している間、温調手段により温調媒体を注入することにより、バグウェルを介して加硫ブラダを所望の温度に調節することができる。これにより、グリーンタイヤを連続加硫する際に、加硫後にモールドを開型してから次の加硫をするために閉型する間のドライサイクル中に、加硫ブラダの上下温度差を小さくすることができる。また、グリーンタイヤの加硫を長時間停止する長期ドライサイクル中は、加硫ブラダを冷却してバグウェルから受ける熱の影響を小さくして熱劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】モールドを閉型した状態における本発明の空気入りタイヤの加硫装置を縦半断面で例示する説明図である。
【図2】モールドを開型して加硫ブラダをバグウェルに収容している状態を縦半断面で例示する説明図である。
【図3】加硫ブラダをバグウェルに収容した状態を縦半断面で例示する説明図である。
【図4】従来例1と実施例1におけるグリーンタイヤのインナーライナの上下温度差を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の空気入りタイヤの加硫装置および方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1に例示するように、本発明の空気入りタイヤの加硫装置1は、筒状の加硫ブラダ2と、加硫ブラダ2の下側クランプ部3bを保持する下側クランプ保持部6bおよび上下移動して上側クランプ部3aを保持する円盤状の上側クランプ保持部6aとを有する中心機構4と、加硫ブラダ2を収納する円筒状のバグウェル7とを備えている。
【0013】
中心機構4のセンターポスト5は、バグウェル7を挿通して上下移動可能に立設されている。センターポスト5の上端に上側クランプ保持部6aが固定されていて、センターポスト5が下方移動することにより、加硫ブラダ2がバグウェル7に収納される。
【0014】
また、中心機構4には、加硫ブラダ2の内部にスチームを注入する注入ラインおよび加硫ブラダ2の内部からスチームを排出する排出ラインが設けられている。
【0015】
バグウェル7は、その周壁が厚さ方向にすき間をあけて中空部7aを設けた中空構造になっている。この実施形態では、周壁が厚さ方向に二重構造になっていて、周壁の上下端部が閉じられていて、内側の周壁と外側の周壁とのすき間が中空部7aになっている。
【0016】
さらに、この中空部7aに温調媒体Mを注入する温調手段8が設けられている。温調手段8は、制御部8aと、中空部7aに温調媒体Mを注入する注入路8bと、中空部7aから温調媒体Mを排出する排出路8cと、注入路8bおよび排出路8cのそれぞれに設けられた制御弁8d、8eとで構成されている。
【0017】
グリーンタイヤGはモールド9の内部に配置され、このグリーンタイヤGの内側に加硫ブラダ2が配置される。この実施形態のモールド9は、上側のモールド9a、下側のモールド9b、環状の上部プレート9c、環状の下部プレート9dで構成されている。
【0018】
以下、この加硫装置1を用いた本発明の空気入りタイヤの加硫方法を説明する。
【0019】
図1に例示するようにモールド9を閉型した後、グリーンタイヤGの内側で加硫ブラダ2にスチームを注入して環状に膨張させた状態で所定の圧力および温度でグリーンタイヤGを加硫する。加硫終了後は上側のモールド9aおよび上部プレート9cを上方移動させて開型する。加硫ブラダ2の内部のスチームは外部に排出する。
【0020】
次いで、図2に例示するように、センターポスト5を下方移動させることにより、加硫ブラダ2を収縮させる。さらに、図3に例示するように中心機構4を下方移動させて、加硫ブラダ2をバグウェル7に完全に収納する。
【0021】
この状態にした後、加硫したタイヤTを上方移動させて下側のモールド9bおよび下部プレート9dから取出す。連続加硫する場合は、加硫したタイヤTを取出した後、新たなグリーンタイヤGを開型したモールド9の中に配置する。次いで、中心機構4(センターポスト5)を上方移動させることにより、加硫ブラダ2をバグウェル7の上端開口から突出させる。加硫ブラダ2の内部にはガスを注入することにより、ある程度膨張させた状態にする。
【0022】
次いで、上側のモールド9aおよび上部プレート9cを下方移動させて閉型した後、グリーンタイヤGの内側で加硫ブラダ2にスチームを注入して環状に膨張させた状態で所定の圧力および温度でグリーンタイヤGを加硫する。上記の工程を繰り返して、新たなグリーンタイヤGを順次、連続加硫する。
【0023】
ところで、加硫後に加硫ブラダ2の内部では、スチームが冷えて生じたドレーン水が流れ落ちて、加硫ブラダ2の下側に溜まる。これにより、加硫ブラダ2の下側は上側に比して低温になるため、上下温度差が生じる。即ち、新たなグリーンタイヤGを加硫開始する時点で、加硫ブラダ2には上下温度差が残存している。
【0024】
そこで、本発明では、図2、図3に例示するように、グリーンタイヤGを連続加硫する際に、モールド9を開型して加硫したタイヤTを取出してから、新たなグリーンタイヤGをモールド9の中に配置して閉型する間のドライサイクル中に、加硫ブラダ2をバグウェル7に収納している間、温調手段8によって中空部7aに温調媒体Mを注入する。収納されている加硫ブラダ2の下側のモールド9bに対応する部分はバグウェル7の内周壁に接しているので、注入する温調媒体Mによってバグウェル7の温度を調節し、バグウェル7を介して加硫ブラダ2を所望の温度に調節する。
【0025】
具体的には、温調手段8の制御部8aによって、注入路8bの制御弁8dを開弁するとともに、排出路8cの制御弁8eを閉弁する制御を行なって、温調媒体源から、注入路8bを通じて中空部7aに温調媒体Mとして、加硫ブラダ2よりも高温の加熱媒体を注入する。これにより、直前のタイヤの加硫の影響により、上述した上下温度差が加硫ブラダ2に残存していても、その上下温度差を小さくすることができる。
【0026】
タイヤの製造工程では、メンテナンス等のために、加硫を長時間停止する長期ドライサイクルが存在する。長期ドライサイクル中は、加硫ブラダ2はバグウェル7から常時、熱の影響を受ける状況下に置かれる。そのままの状態にすると、加硫ブラダ2の熱劣化が促進されて耐用期間が短くなる。
【0027】
そこで、本発明では、長期ドライサイクル中は中空部7aに温調媒体Mとして、バグウェル7よりも低温の冷却媒体を注入して、注入する温調媒体Mによってバグウェル7の温度を調節し、バグウェル7を介してバグウェル7に収納している加硫ブラダ2を所望の温度に調節する。
【0028】
具体的には、温調手段8の制御部8aによって、注入路8bの制御弁8dを開弁するとともに、排出路8cの制御弁8eを閉弁する制御を行なって、温調媒体源から、注入路8bを通じて中空部7aに温調媒体Mとして冷却媒体を注入する。これにより、バグウェル7に収納されている加硫ブラダ2の温度を下げて冷却できる。それ故、長期ドライサイクル中にバグウェル7から受ける熱の影響を小さくして熱劣化を抑制し、加硫ブラダ2の耐用期間を長くすることが可能になる。
【0029】
中空部7aに注入された後、不要になった温調媒体Mは制御弁8eを開弁して排出路8cを通じて中空部7aの外部に排出する。
【実施例】
【0030】
一般的な乗用車用タイヤを連続加硫する際に、通常のバグウェルタイプの加硫装置で加硫した場合(従来例1)と、図1に例示したバグウェルの周壁を厚さ方向に二重構造にして、その中空部にドライサイクル中に加熱媒体を注入することにより、バグウェルに収納している加硫ブラダの温度を調節して上下温度差を小さくした場合(実施例1)について、加硫中のグリーンタイヤのインナーライナの上下サイド部の温度差を測定した。その測定結果を図4に示す。図4の縦軸は上下温度差を指数表示していて、数値が大きい程、温度差が大きいことを示す。図4に示す結果から実施例1では従来例1に比して、加硫開始直後のグリーンタイヤの温度差を小さくすることができ、その後の温度差も小さく維持できることが分かる。
【0031】
また、加硫を長時間停止する長期ドライサイクルを同じ条件で設定した場合に、通常のバグウェルタイプの加硫装置で加硫した場合(従来例2)と、図1に例示したバグウェルの周壁を厚さ方向に二重構造にして、その中空部に長期ドライサイクル中に冷却媒体を注入することにより、バグウェルに収納している加硫ブラダの温度を調節して冷却した場合(実施例2)について、加硫ブラダが損耗して使用不可になるまでの耐用回数を測定した。その結果、実施例2では従来例2に比して耐用回数が約25%増加し、加硫ブラダの熱劣化を抑制することができた。
【符号の説明】
【0032】
1 加硫装置
2 加硫ブラダ
3a 上側クランプ部
3b 下側クランプ部
4 中心機構
5 センターポスト
6a 上側クランプ保持部
6b 下側クランプ保持部
7 バグウェル
7a 中空部
8 温調手段
8a 制御部
8b 注入路
8c 排出路
8d、8e 制御弁
9(9a、9b、9c、9d) モールド
G グリーンタイヤ
T 加硫したタイヤ
M 温調媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の加硫ブラダと、この加硫ブラダの下側クランプ部を保持する下側クランプ保持部および上下移動して上側クランプ部を保持する上側クランプ保持部とを有する中心機構と、前記加硫ブラダを収納するバグウェルとを備えて、グリーンタイヤを加硫する際に、前記加硫ブラダをバグウェルから突出させてモールド内部のグリーンタイヤの内側で膨張させる構成にした空気入りタイヤの加硫装置において、前記バグウェルの周壁を厚さ方向にすき間をあけて中空部を設けた中空構造にするとともに、この中空部に温調媒体を注入する温調手段を設けたことを特徴とする空気入りタイヤの加硫装置。
【請求項2】
グリーンタイヤを連続加硫する際に、加硫後にモールドを開型してから次の加硫を開始するために閉型する間のドライサイクル中は前記中空部に温調媒体として加熱媒体を注入する設定にし、グリーンタイヤの加硫を長時間停止する長期ドライサイクル中は前記中空部に温調媒体として冷却媒体を注入する設定にする請求項1に記載の空気入りタイヤの加硫装置。
【請求項3】
バグウェルに収納される筒状の加硫ブラダの下側クランプ部を中心機構を構成する下側クランプ保持部で保持するとともに、上側クランプ部を中心機構を構成する上下移動して上側クランプ部を保持する上側クランプ保持部で保持して、グリーンタイヤを加硫する際には、前記加硫ブラダをバグウェルから突出させてモールド内部のグリーンタイヤの内側で膨張させる空気入りタイヤの加硫方法において、前記バグウェルの周壁に厚さ方向にすき間をあけて設けた中空部に、前記加硫ブラダを前記バグウェルに収納している間、温調手段により温調媒体を注入することを特徴とする空気入りタイヤの加硫方法。
【請求項4】
グリーンタイヤを連続加硫する際に、加硫後にモールドを開型してから次の加硫をするために閉型する間のドライサイクル中は前記中空部に温調媒体として加熱媒体を注入して、前記バグウェルに収納している加硫ブラダの上下温度差を小さくし、グリーンタイヤの加硫を長時間停止する長期ドライサイクル中は前記中空部に温調媒体として冷却媒体を注入して、前記バグウェルに収納している加硫ブラダの温度を下げて冷却する請求項3に記載の空気入りタイヤの加硫方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−86385(P2013−86385A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229614(P2011−229614)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】