説明

空気入りタイヤ

【課題】気柱管共鳴音のレベルを低減され、排水性能が向上された空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】タイヤ周方向に延びる主溝1がトレッドに刻まれた空気入りタイヤにおいて、主溝1の両側の側壁10に、主溝1の深さ方向に延びる複数の長穴11と、トレッド面に対して斜めに延び長穴11を連通する連通溝12を備え、長穴11の幅w1及び深さd1は少なくとも0.2mm以上であって、主溝1の幅Wの0.01〜0.25倍であり、長穴11の高さhは、主溝1の深さDの50〜80%であり、長穴11の間隔p1は、少なくとも0.4mm以上であって、主溝1の幅Wの0.04〜1.0倍であり、連通溝12の幅w2及び深さd2は少なくとも0.2mm以上であって、主溝1の幅Wの0.01〜0.25倍であり、主溝1の接地長L内に連通溝12が2本以上存在する空気入りタイヤとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気柱管共鳴音のレベルが低減され、排水性能が向上された空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤが接地した状態では、タイヤ周方向に延びる主溝と路面とにより管状空間を形成する。タイヤが回転すると、管状空間に圧縮された空気が外に放出され、その結果、気柱管共鳴音が発生する。気柱管共鳴音は、周波数が1kHz前後の耳障りなノイズであり、従来から気柱管共鳴音を低減することが求められている。例えば、特許文献1に記載の空気入りタイヤでは、主溝の側壁に、主溝深さ方向に延びる、多数の長穴を設けている。当該長穴によって主溝内の空気の流れに対する摩擦抵抗が大きくなり、その結果、気柱管共鳴音が低減される。
【0003】
【特許文献1】特開平10−315711号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の空気入りタイヤでは、主溝内の空気の流れに対する摩擦抵抗が大きくしようとすると、長穴の深さや幅を大きくする必要があったが、その反面、排水性能が低下するおそれがあったので、十分に気柱管共鳴音を低減することができなかった。
【0005】
本発明の目的は、気柱管共鳴音のレベルを低減され、排水性能が向上された空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延びる主溝がトレッドに刻まれた空気入りタイヤにおいて、
前記主溝の両側の側壁に、主溝の深さ方向に延びる複数の長穴と、トレッド面に対して斜めに延び前記長穴を連通する連通溝を備え、
長穴の幅w1及び深さd1は少なくとも0.2mm以上であって、前記主溝の幅Wの0.01〜0.25倍であり、
長穴の主溝の深さ方向の高さhは、前記主溝の深さDの50〜80%であり、
長穴の間隔p1は、少なくとも0.4mm以上であって、前記主溝の幅Wの0.04〜1.0倍であり、
前記連通溝の幅w2及び深さd2は少なくとも0.2mm以上であって、前記主溝の幅Wの0.01〜0.25倍であり、
前記主溝の接地長L内に連通溝が2本以上存在することを特徴とする。
【0007】
従来タイヤと同様に主溝の深さ方向に延びる複数の長穴により主溝内の空気の流れに対する摩擦抵抗が大きくなる。連通溝により各長穴が異なる長さに分断されているので、主溝内を流れる空気の粒子速度が不均一となるので、気柱管共鳴音がより低減される。
【0008】
また、湿潤路を走行するとき、主溝内の水の排出は、連通溝12により促進されるので、排水性能が向上する。更に、連通溝は接地長Lより短いので、連通溝は接地長L内で閉塞しているため、連通溝が空気の流れに対する摩擦抵抗を減少させることがない。そのため、気柱管共鳴音が増大することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を用いて、本発明に係る空気入りタイヤの実施の形態を説明する。図1は、本発明に係る空気入りタイヤのパターンを示す図である。トレッドにはタイヤ周方向に延びる主溝1、2が刻まれ、更に横溝3、ラグ溝4が刻まれている。タイヤ幅方向の両端にはブロック列5が、更に内側にラグ溝備えたリブ6がそれぞれ形成されている。幅方向中央には、主溝1によりリブ7が形成されている。
【0010】
図2は、横溝が連結されていない主溝1の側壁を示す。側壁10には、複数の長穴11がタイヤ周方向に間隔をおいて配置されている。長穴11は、トレッド面22から溝底21に向かう方向(トレッド面に垂直な方向、主溝の深さ方向)に延びている。
【0011】
更に、長穴11を連通する連通溝12が刻まれている。連通溝12は、トレッド面に平行ではなく、トレッド面に対して斜めに延びている。連通溝12の一端は、1つの長穴11のトレッド面22側の端部で終端し、連通溝12の他端は、別の長穴11の溝底21側の端部で終端している。なお、対向する主溝1の側壁(図示しない)にも長穴11及び連通溝12が刻まれている。
【0012】
長穴11により主溝1内の空気の流れに対する摩擦抵抗が大きくなり、気柱管共鳴音が低減される。長穴11はトレッド面22に開口せず側壁10内で閉塞しているので、効果的に気柱管共鳴音が低減される。しかも、トレッド面に対して斜めに延びる連通溝12により、各長穴11が異なる長さに分断されているので、主溝1内を流れる空気の粒子速度が不均一となるので、気柱管共鳴音がより低減される。
【0013】
一方、湿潤路を走行する場合、例えば図2の1点鎖線30まで水に浸かったとすると、主溝1内の水の排出は、連通溝12の1点鎖線30より溝底21側の部分により促進されるので、排水性能が向上する。連通溝12は接地長Lより短いので、連通溝12は接地長L内で閉塞しているため、連通溝12が空気の流れに対する摩擦抵抗を減少させることがない。そのため、気柱管共鳴音が増大することはない。
【0014】
長穴11の幅w1及び深さd1は少なくとも0.2mm以上であって、主溝1の幅Wの0.01〜0.25倍が好ましく、長穴11の高さhは、主溝1の深さDの50〜80%が好ましい。また、長穴11の間隔p1は、少なくとも0.4mm以上であって、主溝1の幅Wの0.04〜1.0倍が好ましい。これらの範囲から外れ、長穴11の幅w1や深さd1が小さかったり、高さhが低かったり、間隔p1が広かったりすると、気柱管共鳴音を低減する効果が小さくなる。逆に、長穴11の幅w1や深さd1が大きかったり、高さhが高かったり、間隔p1が狭かったりすると、主溝1の両側のリブ6、7剛性が低下しすぎて、操縦安定性が低下したり、偏摩耗が発生することがある。
【0015】
連通溝12の幅w2及び深さd2は少なくとも0.2mm以上であって、主溝1の幅Wの0.01〜0.25倍であることが好ましい。これらの範囲から外れ、連通溝12の幅w2や深さd2が小さいと、排水を促進する効果が小さい。逆に、連通溝12の幅w2や深さd2が大きいと、主溝1の両側のリブ6、7の剛性が低下しすぎて、操縦安定性が低下したり、偏摩耗が発生することがある。
【0016】
連通溝12がトレッド面22に対してなす角度θは15度〜30度とすることが好ましい。角度θが15度未満であると、連通溝12の長さが長くなるため、排水に掛かる時間が長くなり、その結果、排水を促進する効果が小さくなる。逆に、角度θが30度を超えると、車両進行方向への排水効果が低下する。
【0017】
排水性能を向上させる観点から、主溝1の接地長L内に完全に収まる連通溝12が2本以上存在するように、連通溝12の周方向長さp2を設定することが好ましい。したがって、図3に示すように、例えば、連通溝12同士が重なり合う部分13ができるように配置してもよい。ただし、連通溝12の本数が多くなると、主溝1の両側のリブ6、7の剛性が低下しすぎて、操縦安定性が低下したり、偏摩耗が発生することがある。したがって、連通溝12同士が重なり合う部分13の長さp3が連通溝12の周方向長さp2の1/2以内とすることが好ましい。ここで、主溝1の接地長Lとは、タイヤを正規リム(JATMA規定の標準リム)に装着し、正規内圧(JATMA規定の最高空気圧)、正規荷重(JATMA規定の最大負荷能力)で、主溝1が接地する部分の長さを言う。
【0018】
図4、5に示すように、連通溝12は、溝底21側に凸になるように湾曲してもよく(図4)、トレッド面22側に凸になるように湾曲してもよい(図5)。連通溝12が湾曲した場合であっても、図3に示したように、重なり合う部分でできるように連通溝12を配置できる。この場合、連通溝12がトレッド面22に対してなす角度θは、連通溝12の両端を通る直線とトレッド面22とがなす角度として定義される。
【0019】
なお、回転方向が指定されたタイヤでは、いずれの側壁においても、連通溝12が回転方向に延びるにつれ、溝底21側からトレッド面22側に延びるように配置されていることが好ましい。例えば、図2において、右向きを回転方向とすると、連通溝12が回転方向(右向き、車両進行方向は左向きとなる)に延びるにつれ、溝底21側からトレッド面22側に(右下がりに)延びている。対向する側壁では、回転方向は左向きになり、連通溝12が回転方向(左向き)に延びるにつれ、溝底21側からトレッド面22側に(左下がりに)延びている。このように連通溝12を設けると、車両進行方向に水が排出されるため、後輪の接地性が向上する。
【0020】
また、回転方向が指定されていないタイヤでは、一方の側壁で連通溝12が傾斜する方向と、他方の側壁で連通溝12が傾斜する方向とが互いに逆になるように、連通溝12が配置されていることが好ましい。例えば、主溝1のいずれの側壁においても、図2に示すように、連通溝12が右向きに延びるにつれ、溝底21側からトレッド面22側に(右下がりに)延びているか、その逆になるように延びている。このように連通溝12を設けると、一方の側壁10において、排水に関して有利な効果が得られる。
【実施例】
【0021】
本発明に係る実施例タイヤと比較例タイヤを製作して、それぞれを評価した。トレッドパターンは、図1に示すパターンで、タイヤサイズは225/45R17あり、リムサイズ17×7.5JJのリムに装着し、空気圧220kPaにて評価した。実施例及び比較例1以外の比較例は、長穴と連通溝を備えたタイヤであり、表1に示した寸法及び形状を有した。比較例1は連通溝を備えないタイヤ、比較例2は主溝の接地長内に連通溝が2本存在しないタイヤ、比較例3は、図6に示すように連通溝がトレッド面に平行に長穴の中心を延びているタイヤであった。
【0022】
評価結果は、表1に示すとおりである。排水性能は、排気量2500ccに乗用車に装着し、速度を徐々に上げて水深4mmの湿潤路面を走行し、ハイドロプレーニングが発生したときの速度の逆数を示し、比較例1を100とした指数で表している。したがって、数字が大きいほど排水性能が優れていることを示す。
【0023】
ノイズレベルは、JASO−C606に準拠した台上試験(速度は50km/h)で、1/3オクターブバンドの1kHzの気柱管共鳴音レベルを測定したもので、比較例1を基準としたデシベル値で表している。
【0024】
【表1】

【0025】
表1によれば、いずれの実施例のタイヤにおいても気柱管共鳴音レベルが低減され、排水性能が向上した。一方、比較例2では連通溝12が長く接地長内に2本未満であるため、比較例3では連通溝12がトレッド面に平行に延びているため、排水性能はさほど向上していない。また、比較例3では連通溝12が長穴11を均等に分断しているので、気柱管共鳴音レベルが低減されていない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る空気入りタイヤのトレッドパターンを示す図である。
【図2】主溝の側壁を示す図である。
【図3】主溝の側壁を示す図である。
【図4】主溝の側壁を示す図である。
【図5】主溝の側壁を示す図である。
【図6】比較例3に係る主溝の側壁を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1、2 主溝
3 横溝
4 ラグ溝
10 主溝の側壁
11 長穴
12 連通溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延びる主溝がトレッドに刻まれた空気入りタイヤにおいて、
前記主溝の両側の側壁に、主溝の深さ方向に延びる複数の長穴と、トレッド面に対して斜めに延び前記長穴を連通する連通溝を備え、
長穴の幅w1及び深さd1は少なくとも0.2mm以上であって、前記主溝の幅Wの0.01〜0.25倍であり、
長穴の主溝の深さ方向の高さhは、前記主溝の深さDの50〜80%であり、
長穴の間隔p1は、少なくとも0.4mm以上であって、前記主溝の幅Wの0.04〜1.0倍であり、
前記連通溝の幅w2及び深さd2は少なくとも0.2mm以上であって、前記主溝の幅Wの0.01〜0.25倍であり、
前記主溝の接地長L内に連通溝が2本以上存在することを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−126312(P2009−126312A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302401(P2007−302401)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)