説明

空気入りタイヤ

【課題】気柱管共鳴による騒音を効果的に低減すると共に、スノートラクション性能を向上することができる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部にタイヤ周方向に沿って延びる縦溝11を備えた空気入りタイヤにおいて、縦溝11の溝側壁14の開口側端部に設けられ縦溝11の内方へ行くほど縦溝11の底部16へ傾斜するテーパ面15と、テーパ面15から突出し異なる方向に延びる一対の突条22a,22bが屈曲部で接続されてなる突起20とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、特には、トレッド部にタイヤ周方向に沿って延びる縦溝を備えた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤによって発生する騒音の低減が要求され、特に、1kHz前後の高周波領域における騒音の低減が望まれている。このような高い周波数領域における主要な音源の一つに気柱管共鳴による音がある。
【0003】
この気柱管共鳴は、トレッドに形成されたタイヤ周方向に延びる縦溝に起因して発生する騒音であり、走行時にトレッド面と路面との間で圧縮された空気が柱状をなす縦溝を通じて急激に放出されることによって生じる。
【0004】
そこで、下記特許文献1には、トレッド面にタイヤ周方向にのびる縦溝の溝側壁にトレッド面に向かって溝幅を拡大させる向きに傾く斜壁部を設け、この斜壁部に直線状の微細溝を設けることで、気柱管共鳴による騒音の抑制を図った空気入りタイヤが提案されている。
【0005】
しかしながら、下記特許文献1の空気入りタイヤでは、微細溝を設けた斜壁部の凹凸量が小さいため、気柱管共鳴による騒音の低減という要請に充分に対応できないことに加え、氷雪路面(スノー・アイス路面)などの滑りやすい路面の走行時に氷雪を斜壁部において引っ掻くことできず、スノートラクション性能の向上も期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−146024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の点を考慮してなされたものであり、気柱管共鳴による騒音を効果的に低減すると共に、スノートラクション性能を向上することができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る空気入りタイヤは、レッド部にタイヤ周方向に沿って延びる縦溝を備えた空気入りタイヤにおいて、前記縦溝の溝側壁の開口側端部に設けられ前記縦溝の内方へ行くほど前記縦溝の底部へ傾斜するテーパ面と、前記テーパ面から突出し異なる方向に延びる一対の突条が屈曲部で接続されてなる突起とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、縦溝の溝側壁の開口側端部に設けられテーパ面には、異なる方向に延びる一対の突条が屈曲部で接続されてなる突起が設けられているため、走行時にトレッド面と路面との間で圧縮されることで縦溝内に生じる気流が大きく乱され、気柱管共鳴による騒音を抑えることができるとともに、突起に設けられた屈曲部において氷雪を捉えて引っ掻きやすくなるためスノートラクション性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る空気入りタイヤのトレッドパターンの展開平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1に示す空気入りタイヤのトレッド部の要部拡大斜視図である。
【図4】図3をテーパ面の法線方向からみた平面図である。
【図5】第2実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の要部拡大斜視図である。
【図6】第2実施形態の変更例に係る空気入りタイヤのトレッド部の要部拡大斜視図である。
【図7】比較例に係る空気入りタイヤのトレッド部の要部拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
本実施形態に係る空気入りタイヤは、図示を省略したが、左右一対のビード部及びサイドウォール部と、左右のサイドウォール部の径方向外側端部同士を連結するように両サイドウォール部間に設けられたトレッド部10とを備えて構成されている。この空気入りタイヤは一対のビード部間にまたがって延びるカーカスを備える。
【0012】
カーカスは、トレッド部10からサイドウォール部を経て、ビード部に埋設されたビードコアにて両端部が係止された少なくとも1枚のカーカスプライからなり、上記した各部を補強する。
【0013】
トレッド部10におけるカーカスの外周側には、2層以上のゴム被覆されたスチールコート層からなるベルトが設けられており、カーカスの外周でトレッド部10を補強する。
【0014】
トレッド部10の表面(トレッド面)には、図1に示すように、タイヤ周方向に沿って延びる4本の縦溝11と、これらの縦溝11によって区画された5つの陸部12と、タイヤ周方向に所定間隔をあけて配された多数の横溝13とが形成されている。横溝13は、最外側に位置する縦溝11から傾斜する方向に延び、この縦溝11を挟んで隣り合う陸部12の途中で終端している。
【0015】
縦溝11を区画している溝側壁14の開口側端部には、図2及び図3に示すように、縦溝11の内方へ行くほど縦溝11の溝底16へ傾斜するテーパ面15が形成されている。これにより、縦溝11は、溝底16側の溝幅がほぼ一定間隔に設けられ、テーパ面15の位置で縦溝11の開口端に行くほど溝幅が広がっている。
【0016】
縦溝11の溝側壁14に設けられたテーパ面15には、その長手方向Aに沿って所定間隔をあけて複数の突起20が設けられている。突起20は、互いに異なる方向に延びる一対の突条22a、22bと、一方の突条22a及び他方の突条22bの端部同士が接続されてなる屈曲部24を備える。本実施形態では、テーパ面15の長手方向Aに沿って所定間隔をあけて設けられた複数の突起20は、全て同一形状をなしており、テーパ面15の法線方向から見た形状が、テーパ面15の長手方向Aに対して対称な略く字形状をなしている。
【0017】
このような突起20を構成する突条22a,22bは、テーパ面15からの突出高さHを、例えば、1〜2mmに設定することができ、突条22a,22bの幅Wを、例えば、1.3〜4mmに設定することができる(図2参照)。
【0018】
突条22a,22bの突出高さHが1mmより小さいと縦溝11内の気流や氷雪を充分に捉えることができないため、気柱管共鳴による騒音を低減できず、スノートラクション性能も低下し、突条22a,22bの突出高さHが2mmより大きいと突条22a,22bの剛性が低くなるため、スノートラクション性能を向上させにくくなる。
【0019】
また、突条22a,22bの幅Wが1.3mmより小さいと突条22a,22bの剛性が低くなるため、スノートラクション性能を向上させにくくなり、突条22a,22bの幅Wが4mmより大きいとテーパ面15に突起20を効率的に配設することができなくなり、気柱管共鳴による騒音を低減できず、スノートラクション性能も低下する。
【0020】
また、図4に示すように、一方の突条22aは、テーパ面15の長手方向Aに対して±45度以内の角度αをなしており、他方の突条22bは、テーパ面15の幅方向Bに対して±45度以内の角度βをなしている。
【0021】
なお、本実施形態のように突起20を構成する突条22a,22bの幅Wが突条22a,22bの延びる方向で変化し、突条22aを形成する側面22a−1と側面22a−2の延びる方向が異なり、突条22bを形成する側面22b−1と側面22b−2の延びる方向が異なっている場合があるが、このような場合、突条22aを形成する少なくともいずれか一方の側面がテーパ面15の長手方向Aに対して±45度以内の角度αをなしいればよく、また、突条22bを形成する少なくともいずれか一方の側面がテーパ面15の幅方向Bに対して±45度以内の角度βをなしいればよい。
【0022】
以上のような空気入りタイヤでは、縦溝11を区画している溝側壁14の開口側端部にテーパ面15が形成されているため、陸部12の剛性を高めることができ、タイヤの横滑りを抑えることができる。
【0023】
また、本実施形態の空気入りタイヤでは、テーパ面15から縦溝11内に向けて突起20が突出しているため、この突起20が縦溝11内の気流や氷雪を捉えることができる。そのため、縦溝11内の気流を大きく乱して気柱管共鳴による騒音を抑えることができるとともに、スノートラクション性能を向上することができる。
【0024】
また、本実施形態の空気入りタイヤでは、突起20を形成する1対の突条22a,22bが屈曲部24で連結されているため、縦溝11内の気流や氷雪を捉える際に一対の突条22a,22bが相補的に働くことになり、突起20によって縦溝11内の気流や氷雪を効率的に捉えて気柱管共鳴による騒音の低減とスノートラクション性能の向上を図ることができる。
【0025】
更に、本実施形態の空気入りタイヤでは、一方の突条22aが、テーパ面15の長手方向Aに対して±45度以内の角度αをなしており、他方の突条22bが、テーパ面15の幅方向Bに対して±45度以内の角度βをなしている。そのため、前後方向に対して垂直に近い角度をなす他方の突条22bが前後方向に高い引っ掻き効果を発揮することに加え、氷雪路面などの滑りやすい路面の走行時に横滑りが発生すると、横方向(タイヤ幅方向)に対して垂直に近い角度をなす一方の突条22aが横方向に高い引っ掻き効果を発揮することができ、スノートラクション性能を向上することができる。
【0026】
しかも、本実施形態において、突起20を構成する一対の突条22a,22bは、一方の突条22aが異なる方向に延びる側面22a−1と側面22a−2を備え、他方の突条22bが異なる方向に延びる側面22b−1と側面22b−2を備えており、テーパ面15から異なる4つの方向に延びる面が突出しているので、種々の方向に対して大きな引っ掻き効果を発揮することができ、より一層、スノートラクション性能を向上することができる。
【0027】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図5及び図6を参照して説明する。
【0028】
上記した第1実施形態では、テーパ面15から突出する複数の突起20を、全て同一形状に設けたが、本実施形態では、形状の異なる複数種類の突起20をテーパ面15に設けている。
【0029】
詳細には、図5に示すように、突起20は、テーパ面15の長手方向Aと幅方向Bとに沿った突条22a,22bを備え、テーパ面15の法線方向から見た形状がL字形状をなしている。そして、テーパ面15には、L字形状の突起20と、これをテーパ面内で180度回転させテーパ面15の法線方向から見たときの形状が異なる突起20とを交互にテーパ面15の長手方向Aに沿って設けている。
【0030】
本実施形態では、形状の異なる複数種類の突起20をテーパ面15に設けることで、全て同一形状の突起20を設ける場合に比べて、テーパ面15から突出する突条22a,22bの配置が不規則になり、その結果、縦溝11内の気流を大きく乱して気柱管共鳴による騒音を抑えることができるとともに、種々の方向に対して大きな引っ掻き効果を発揮しやすくなりスノートラクション性能を向上することができる。
【0031】
また、本実施形態では、突起20がテーパ面15の長手方向Aと幅方向Bとに沿った突条22a,22bを備えるため、一方の突条22aが横方向に対して垂直に配置され、他方の突条22bが前後方向に対して垂直に配置されることになり、前後方向及び横方向の両方向に対して大きな引っ掻き効果が得られ、スノートラクション性能をより一層向上することができる。その他の構成は第1実施形態と同様であり、同様の作用効果が奏される。
【0032】
なお、本実施形態では、図5のようにテーパ面15内で回転させたり、あるいは図6のように反転させれば同一形状となる場合であっても、テーパ面15の法線方向(つまり、突起20が突出する方向)から見たときの突起20の形状が異なっていれば、形状の異なる突起20に該当する。
【0033】
また、上記した実施形態の空気入りタイヤは、スノートラクション性能に優れるため、スタッドレスタイヤ等の冬用タイヤや、オールシーズンタイヤなどに好適であるが、いわゆる夏用タイヤに適用してもよい。その他、一々列挙しないが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、タイヤの各性能評価は、次のようにして行った。
【0035】
(1)気柱管共鳴音
表1において、気柱管共鳴音は、新品タイヤをJASO C606に準拠した室内音響ドラム試験機にて気柱管共鳴音(1000Hz)のノイズレベルを計測した値であり、比較例1との気柱管共鳴音レベルの差を示し、数値が小さいほど気柱管共鳴による騒音が低いことを示す。
【0036】
(2)スノートラクション性能
雪上路面において、停止状態から20m地点到達までの最短時間の逆数であって、比較例1の結果を100として指数評価し、指数が大きいほどスノートラクション性能に優れていることを示す。
【0037】
実施例1の空気入りタイヤは図3に示す突起がテーパ面に形成されたトレッドパターンを備え、実施例2の空気入りタイヤは図5に示す突起がテーパ面に形成されたトレッドパターンを備えるタイヤである。比較例1の空気入りタイヤは、図7(a)に示すようなテーパ面の長手方向に対して垂直に延びる微細溝50がテーパ面に形成されたトレッドパターンを備え、比較例2の空気入りタイヤは、図7(b)に示すようなテーパ面の長手方向に対して傾斜する微細溝50がテーパ面に形成されたトレッドパターンを備える。実施例1,2、比較例1,2いずれもタイヤサイズが195/65R15である。なお、実施例1、2及び比較例1,2の空気入りタイヤに設けた突起、微細溝50の各種寸法は表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果から、実施例1、2の空気入りタイヤは、比較例1,2の空気入りタイヤに比べて、気柱管共鳴による騒音が低減するとともに、スノートラクション性能が向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0040】
10…トレッド部
11…縦溝
12…陸部
13…横溝
14…溝側壁
15…テーパ面
16…溝底
20…突起
22a、22b…突条
24…屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部にタイヤ周方向に沿って延びる縦溝を備えた空気入りタイヤにおいて、
前記縦溝の溝側壁の開口側端部に設けられ前記縦溝の内方へ行くほど前記縦溝の底部へ傾斜するテーパ面と、前記テーパ面から突出し異なる方向に延びる一対の突条が屈曲部で接続されてなる突起とを備えることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記テーパ面の長手方向に対する一方の前記突条の角度が±45度以内に設けられ、前記テーパ面の幅方向に対する他方の前記突条の角度が±45度以内に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記テーパ面上にタイヤ周方向に沿って複数の前記突起が設けられ、前記複数の突起が、形状の異なる前記突起を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−82263(P2013−82263A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222154(P2011−222154)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)