説明

空気調和機、空気調和方法および加湿部材

【課題】水の汲上効率を向上できる新たな加湿部材を設ける。また、加湿部材への付着物の付着を抑制でき、定期的な洗浄作業を低減する。
【解決手段】貯水槽15内の水を加湿部材50によって水面より上部の加湿領域に汲み上げる一方、貯水槽15上の加湿領域に送風手段(シロッコファン22)によって空気を送風し、加湿部材50の周囲または内部を通過させることにより空気に水分を吸着させて機外に供給する空気調和機において、加湿部材50は、水を付着または吸着可能な多数の汲上部材51と、これら汲上部材51を貯水槽15内の水中から貯水槽15上の加湿領域に移動させて再び貯水槽15内の水中に循環移動可能に保持する保持部材52とを備えた構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加湿器や、加湿機能を搭載した空気清浄機および冷暖房機などの空気調和機、その空気調和方法および加湿部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の空気調和機による空気の加湿機構は、貯水槽内の水を加湿部材によって水面より上部の加湿領域に汲み上げる。また、貯水槽上の加湿領域に送風手段によって空気を送風し、加湿部材の内部を通過させることにより、空気に水分を吸着させて機外に供給するものである。そして、この空気に水分を吸着させるための加湿部材は、従来より種々提案されている。
【0003】
特許文献1には、樹脂製の複数のプレートにシャフトを貫通させるとともに、シャフトの両端にカバープレートを配設したフィルタ部材(加湿部材)を設け、このフィルタ部材によって貯水槽内の水を汲み上げるようにした加湿器が提供されている。このフィルタ部材は、カバープレートに設けたフィルタギヤにより、軸芯を中心として回転可能に構成されている。
【0004】
特許文献2には、格子状シートを円筒状に形成した加湿フィルタ保持具を設け、この加湿フィルタ保持具の外周部に円筒状をなすように加湿フィルタを配設した加湿部材を設け、この加湿部材によって貯水槽内の水を汲み上げるようにした加湿器が記載されている。この加湿部材は、特許文献1と同様に、軸芯を中心として回転可能に構成されている。また、加湿フィルタは、発泡ウレタン基材の表面にタルクとバインダーからなる溶液を含浸または塗布したものである。
【0005】
しかしながら、特許文献1の加湿器は、複数のプレートによって水を汲み上げる構成であるため、その汲上量が少ない。その結果、空気への水分の吸着効率が悪くなるため、加湿効率が悪い。
【0006】
また、各特許文献の加湿器は、使用につれて水に含まれるミネラルやカルシウムが加湿部材に付着すると、その付着物を除去する洗浄作業(お手入れ)が必要である。そして、特許文献1の加湿部材の洗浄作業は、シャフトからプレートを分解して1枚づつ清浄した後、組み立てる必要があるため、作業性が悪い。また、特許文献2の加湿部材の洗浄作業は、加湿フィルタを専用の薬剤によって洗浄する必要があるため、作業性が悪いだけでなく、コスト高になるという問題がある。
【0007】
さらに、特許文献1の加湿部材では、プレートの表面に付着物が付着すると、隣接するプレート間の隙間が小さくなる。その結果、空気の通気性が悪くなるため、加湿能力が低下する。同様に、特許文献2の加湿部材では、加湿フィルタに付着物が付着すると、目詰まりが生じる。その結果、空気の通気性が悪くなるため、加湿能力が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−329467号公報
【特許文献2】特開2009−97767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、水の汲上効率を向上できる新たな加湿部材を設け、それを用いた空気調和機および空気調和方法を提供することを第1の課題とするものである。また、加湿部材への付着物の付着を抑制でき、定期的な洗浄作業を低減できるようにすることを第2の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の空気調和機は、貯水槽内の水を加湿部材によって水面より上部の加湿領域に汲み上げる一方、前記貯水槽上の加湿領域に送風手段によって空気を送風し、前記加湿部材の周囲または内部を通過させることにより空気に水分を吸着させて機外に供給する空気調和機において、前記加湿部材は、水を付着または吸着可能な多数の汲上部材と、これら汲上部材を前記貯水槽内の水中から該貯水槽上の加湿領域に移動させて再び前記貯水槽内の水中に循環移動可能に保持する保持部材とを備えた構成としている。
なお、この空気調和方法は、貯水槽内の水に浸漬した加湿部材を構成する多数の汲上部材を、保持部材の駆動によって水中から水面より上部の加湿領域に移動させた後、再び貯水槽の水中に循環移動させる一方、送風手段によって貯水槽上の加湿領域に空気を送風し、前記汲上部材の周囲または内部を通過させることにより、該汲上部材に付着または吸着した水を空気に吸着させて機外に供給するものである。
【0011】
この空気調和機および空気調和方法では、加湿部材として水を付着または吸着可能な多数の汲上部材を用いているため、水を汲上可能な表面積または容積を増大できる。その結果、水の汲上量を増大できるため、空気への水分の吸着効率を向上でき、加湿効率を向上できる。
【0012】
この空気調和機では、前記保持部材は、前記汲上部材を収容保持する通水および通気可能な外筒部と、該外筒部の両端を前記汲上部材を脱落不可能に塞ぐ端壁部とを有し、前記外筒部の軸方向が前記貯水槽の水面と略平行に位置し、かつ、該外筒部の下部が前記貯水槽内の水に浸漬され上部が前記貯水槽上の加湿領域に露出するように配設されるものである。
なお、この加湿部材は、貯水槽の水面より上部の加湿領域に送風手段によって空気を送風し、空気に水分を吸着させて機外に供給する空気調和機において、前記貯水槽内の水を加湿領域に汲み上げるための加湿部材であって、水を付着または吸着可能な多数の汲上部材と、前記汲上部材を収容保持する通水および通気可能な外筒部と、該外筒部の両端を前記汲上部材を脱落不可能に塞ぐ端壁部とを有し、前記外筒部の軸方向が前記貯水槽の水面と略平行に位置し、かつ、該外筒部の下部が前記貯水槽内の水に浸漬され上部が前記貯水槽上の加湿領域に位置するように配設される保持部材と、を備えたものである。
このようにすれば、汲上部材を簡単な構成で循環移動させることができるとともに、加湿部材の組立作業性を向上できる。
【0013】
この場合、前記保持部材内に、前記汲上部材を転動可能な容積比で収容させることが好ましい。このようにすれば、加湿器本体内で汲上部材を確実に転動させ、互いに衝突させることができる。そのため、汲上部材の表面に付着物が付着したとしても、衝突時の衝撃で付着物を脱落させることができるため、付着物の付着を抑制できる。よって、加湿部材の定期的な洗浄作業数を低減できるとともに、送風手段によって供給された空気を確実に汲上部材間の隙間を通過させることができるため、空気への水分の吸着効率を向上できる。
【0014】
そして、前記保持部材内に、前記外筒部の軸芯へ向けて延び通水および通気可能な複数の仕切板を回転方向に所定間隔をもって設け、該保持部材内を複数の空間に区画することが好ましい。このようにすれば、転動可能な容積で収容した汲上部材を確実に貯水槽の水面上に移動させることができる。
この場合、前記保持部材の所定の空間を、前記汲上部材を収容させない非収容空間とすることが好ましい。このようにすれば、1つの収容空間を通過した空気が、非収容空間で混合した後に、他の収容空間を通過する。そのため、空気に対する水分の吸着効率を向上できる。
【0015】
または、前記保持部材内に、複数のリブを回転方向に所定間隔をもって設けることが好ましい。このようにすれば、汲上部材の転動作用を向上できるため、付着物の脱落作用を向上できる。
【0016】
さらに、前記端壁部のうち少なくとも一方を着脱可能に構成し、内部の汲上部材を取出可能とすることが好ましい。このようにすれば、洗浄時に多数の汲上部材を攪拌するようにして、汲上部材同士に衝撃を加えるだけで、簡単に付着物を脱落させることができる。よって、洗浄時の作業性を向上できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の空気調和機では、加湿部材として水を付着または吸着可能な多数の汲上部材を用い、水を汲み上げるための表面積または容積を増大させているため、空気への水分の吸着効率を向上でき、加湿効率を向上できる。また、汲上部材を転動可能に構成することにより、その転動時に周囲の他の汲上部材に衝突させることができるため、衝突時の衝撃で付着した付着物を脱落させることができる。よって、付着物の付着を抑制でき、加湿部材の定期的な洗浄作業数を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態の空気調和機である加湿器を示す分解斜視図である。
【図2】加湿器の構成を示す概略図である。
【図3】加湿器の構成を示すブロック図である。
【図4】第1実施形態の加湿部材の分解斜視図である。
【図5】(A),(B),(C)は加湿部材の洗浄作業時の組立工程を示す斜視図である。
【図6】加湿部材の要部断面図である。
【図7】加湿部材を構成する汲上部材の収容量と加湿量との関係を示す図表である。
【図8】第2実施形態の加湿部材を示す要部断面図である。
【図9】第3実施形態の加湿部材を示す要部断面図である。
【図10】第4実施形態の加湿部材を示す要部断面図である。
【図11】第5実施形態の加湿部材を示す要部断面図である。
【図12】変形例の加湿部材を搭載した加湿器の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0020】
図1乃至図3は、本発明の実施形態に係る空気調和機である加湿器を示す。この加湿器は、加湿部材50として多数の汲上部材51を用いる構成とした点で、従来の加湿器と相違する。まず、加湿器の従来と同様の概略構成について説明する。
【0021】
加湿器は、図1に示すように、加湿器本体10の側部に貯水タンク11が着脱可能に配設される。また、加湿器本体10の下部には、トレー12が着脱可能に配設される。このトレー12は隔壁13によって、貯水タンク11の下部に位置する水受部14と貯水槽15とに区画されている。これら水受部14と貯水槽15とは、隔壁13の下端に設けた連通口によって通水可能に連通している。
【0022】
貯水タンク11内の水は、加湿器本体10に装着することにより水受部14に給水され、この水受部14内の水が貯水槽15内へ供給される。これら水受部14および貯水槽15内が所定水位まで満たされると、貯水タンク11の下端が水で塞がれることにより、該貯水タンク11からの給水が停止する。そして、水受部14および貯水槽15の内部は、貯水タンク11内の水が無くなるまで、一定水位に維持される。なお、水受部14内には、貯水タンク11内の水が無くなったことを検出するために、水に浮動するフロートスイッチ16が水無し検出手段として配設されている。
【0023】
また、加湿器本体10の内部は、図2に示すように、トレー12の上部に上向きに延びる隔壁17が設けられ、この隔壁17により空気を吸引する側の吸引部18と、空気を送出する側の送出部19とに区画されている。図1に示すように、吸引部18の外壁には吸込口20が設けられ、その周囲に吸引した空気の湿度を検出する湿度センサ21が湿度検出手段として配設されている。また、吸引部18内には、図2に示すように、軸方向に沿って吸引した空気を径方向に送出するシロッコファン22が送風手段として配設されている。
【0024】
シロッコファン22から送出された空気は、このシロッコファン22の下部に配設した加熱手段であるヒータ23を通過することにより、所定温度に加熱可能である。また、ヒータ23を通過した空気は、トレー12の水面上である加湿領域にて、加湿部材50を通過することにより加湿された後、送出部19を通って加湿器本体10の送出口24から機外へ供給される。
【0025】
この加湿器には、加湿器本体10の上部に図示しない制御基板が内装されるとともに、動作条件等を設定操作するための操作パネル25が配設されている。そして、図3に示すように、制御基板に実装した制御手段であるマイコン26により、ユーザが操作パネル25を操作することによる設定条件で、各部品が駆動されて加湿制御が実行される。
【0026】
次に、本発明の第1実施形態の加湿部材50を用いた加湿機構について具体的に説明する。
【0027】
加湿部材50は、トレー12とともに加湿器本体10に対して着脱可能に装着されるものである。本実施形態のトレー12には、加湿部材50を着脱可能かつ回転可能に配設するために、隔壁13に略U字形状をなす取付溝30が設けられるとともに、貯水槽15の対向壁31に同様の取付溝32aを有するブラケット部32が設けられている。また、加湿器本体10の内部には、加湿部材50を回転駆動させるために、駆動手段としてモータ33が配設されている。このモータ33の出力軸にはギアが配設され、このギアが隔壁13の水受部14の側に位置するように配置されている。なお、加湿器本体10の下部のトレー配設部には、トレー12が装着されているか否かを検出するトレー検出手段としてマイクロスイッチ34が配設され、トレー12の非装着状態では、加湿制御を実行しないように構成している。
【0028】
本実施形態の加湿部材50は、貯水槽15内の水を加湿領域に汲み上げることにより、シロッコファン22によって送風された空気に水分を吸着させるもので、多数の汲上部材51と、これら汲上部材51を収容保持する保持部材52とを備えている。
【0029】
汲上部材51は、転動可能な樹脂製の球状体からなり、その表面には、水の付着を促進するための親水性コーティングが施されている。この汲上部材51は樹脂製であるため、直径を含む形状が安定し、傾斜などによる転動作用を促進できる。但し、この汲上部材51は、水が表面に付着する樹脂製球状体に限られず、ゴム製であってもよいうえ、親水性コーティングに加えてシボ加工を施してもよい。また、水を吸着可能なセルロースなどからなる微小な孔を有する多孔質体により構成してもよい。さらに、汲上部材51は、楕円球状、多面体状、複数の突部を有する形状など、転動可能な形状であればいずれでも適用可能である。
【0030】
保持部材52は、トレー12の取付溝30,32a間に装着することにより、貯水槽15の水面と略平行に位置し、かつ、下部が貯水槽15内の水に浸漬され上部が貯水槽15上の加湿領域に露出するように配設されるものである。この保持部材52は、汲上部材51を内部に収容保持することにより、これら汲上部材51をモータ33の駆動によって貯水槽15の水中から加湿領域にかけて循環移動させる。この保持部材52は、図4に示すように、円筒状をなす外筒部53と、該外筒部53の両端を汲上部材51を脱落不可能に塞ぐ一対の端壁部54,62とを備えている。
【0031】
外筒部53は、通水および通気が可能な網状のもので、樹脂製または金属製のいずれでも適用可能である。この外筒部53は、例えば汲上部材51より小さい網目を有する網状シートを円筒状とし、付き合わさった端縁を接合することにより形成される。
【0032】
第1端壁部54は樹脂製であり、外筒部53の一端に外嵌して閉塞する蓋部55を備えている。この蓋部55の中心には、外筒部53の軸方向に沿って外向きに突出し、取付溝32aに挿通される第1軸部56が突設されている。また、本実施形態の第1端壁部54には、軸方向に沿って延びる軸芯部57が設けられている。この軸芯部57の先端外周部には、第2端壁部62を一体的に連結するためのネジ部58が設けられている。また、本実施形態の軸芯部57には、外筒部53の内面を当接支持するように、周方向に所定間隔をもって放射状に突出する仕切板59が設けられている。言い換えれば、仕切板59は、外筒部53の軸芯へ向けて回転方向に所定間隔をもって設けられている。これら仕切板59には、通水および通気を可能とするために、多数の貫通孔60が設けられている。本実施形態では、8枚の仕切板59が45度間隔で設けられ、これらにより保持部材52内を8個の収容空間61に区画している。なお、仕切板59は、貫通孔60を設ける構成であるため、別体で形成することが好ましい。勿論、軸芯部57も蓋部55と別体で形成してもよい。
【0033】
第2端壁部62は第1端壁部54と同様に樹脂製であり、枠体65を介して外筒部53の他端を着脱可能に閉塞するものである。この第2端壁部62の中心には、外筒部53の軸方向に沿って外向きに突出し、取付溝30に挿通される第2軸部63が突設されている。この第2軸部63は中空軸状をなし、その内部空間は軸芯部57のネジ部58を螺合する雌ネジ部とされている。また、第2軸部63の先端には、モータ33のギアに噛み合って動力を受けるギア部64が設けられている。
【0034】
枠体65は、外筒部53の他端に外嵌することにより、外筒部53を第1端壁部54との間に保持するものである。この枠体65の中心には、ネジ部58を挿通する挿通孔66が設けられている。また、挿通孔66の周囲には、仕切板59により区画した収容空間61と対応する扇型形状の連通孔67が設けられている。なお、この枠体65は、連通孔67が収容空間61と一致した状態でのみ装着可能とするために、これらに位置決め用の凹凸部を設けてもよい。
【0035】
このように構成した加湿部材50は、図5(A)に示すように、外筒部53の一端に第1端壁部54を配置し、外筒部53内に軸芯部57および仕切板59を挿入して蓋部55で閉塞する。また、外筒部53の他端に枠体65を配置し、収容空間61と連通孔67とが一致するように取り付ける。この状態で、図5(B)に示すように、連通孔67から外筒部53内の各収容空間61に汲上部材51を収容させる。そして、図6に示すように、保持部材52の収容空間61内に汲上部材51を転動可能な所定量(容積比)で充填すると、図5(C)に示すように、第2端壁部62をネジ部58に締め付けることにより閉塞する。
【0036】
この加湿部材50をトレー12の取付溝30,32a間に装着すると、外筒部53の軸芯部57(軸方向)が貯水槽15の水面と略平行に位置し、かつ、外筒部53の下部が貯水槽15内の水に浸漬される。この状態で、加湿器の加湿器本体10に装着すると、加湿部材50の外筒部53の上部が貯水槽15上の加湿領域に位置する。
【0037】
そして、加湿制御が実行されると、マイコン26は、前述のように、シロッコファン22を駆動させることにより、室内の空気を吸引部18から吸い込んで、トレー12上の加湿領域へ送風し、送出部19を経て送出口24から室内(機外)に循環供給する。なお、ヒータ23は、ユーザによる加湿設定(強弱)に応じてオンオフされる。
【0038】
マイコン26は、この送風制御と同時にモータ33を駆動させる。これにより、保持部材52が軸芯部57を中心として回転する。これに従って、貯水槽15内の水に浸漬した領域に位置する多数の汲上部材51が、仕切板59によって押し上げられることにより、水中から水面より上部の加湿領域に移動される。その後、加湿領域を通過すると、再び貯水槽15の水中に循環移動される。
【0039】
加湿領域に移動された汲上部材51は、水を表面に付着させた状態をなす。勿論、保持部材52の外筒部53の表面にも水が付着した状態をなす。この際、本実施形態では、加湿部材50として水を付着または吸着可能な多数の汲上部材51を用いているため、水を汲み上げるための表面積を増大できる。そして、加湿領域を通過する空気は、外筒部53の外部から内部へ通過し、その際に外筒部53に付着した水を吸着する。その後、汲上部材51の周囲、即ち多数の汲上部材51の間に形成される隙間を通過し、その際に汲上部材51に付着した水を更に吸着する。この水分を含有した空気は、送出部19を経て送出口24から機外に供給される。この際、本実施形態の加湿部材50は、前述のように水を汲み上げる量が多いため、空気への水分の吸着効率を向上でき、加湿効率を向上できる。
【0040】
次に、保持部材52の各収容空間61への汲上部材51の充填量と加湿効率の関係について説明する。
【0041】
図7に示すように、1個の収容空間61に対して、直径6mmの汲上部材51を、略転動できない程度(容積比100%)に充填させた場合、加湿量は337m/Lである。これに対して、汲上部材51を転動可能な容積比(82%)で収容空間61に充填させると、加湿量は392m/Lであった。また、汲上部材51を更に少ない容積比(65%)で収容空間61に充填すると、加湿量は414m/Lであった。さらに、汲上部材51を更に少ない容積比(47%)で収容空間61に充填すると、加湿量は395m/Lであった。そして、汲上部材51を更に少ない容積比(30%)で収容空間61に充填すると、加湿量は377m/Lであった。
【0042】
この結果から、汲上部材51は、多すぎても少なすぎても加湿効率が低下することが分かる。その中でも、汲上部材51が殆ど転動できない位に充填した場合、特に加湿効率が悪いことが分かる。これは、汲上部材51の間に形成される隙間が小さくなるためであると考えられる。なお、汲上部材51が少なすぎる場合には、汲み上げることが可能な水量が少ないためであると考えられる。そのため、所定容積の収容空間61に充填する汲上部材51の容積比は、約45〜85%で充填することが好ましく、約65%で充填することが更に好ましい。但し、加湿(吸着)効率は、空気の温度および送風速度に相関関係を有するため、汲上部材51が殆ど転動できない位に充填しても使用することは可能である。
【0043】
そして、転動可能な容積比で収容させた汲上部材51は、保持部材52の回転に伴って各収容空間61内で転動することが可能である。そのため、その際には周囲の汲上部材51,51同士が衝突する。一方、加湿器は次第に、保持部材52および汲上部材51に水に含まれるミネラルやカルシウムが付着する。しかし、本実施形態では、これらの付着物が付着しても、汲上部材51,51同士の衝突、および、保持部材52への汲上部材51の衝突により、その衝撃で付着物を脱落させることができる。よって、加湿部材50への付着物の付着を抑制でき、加湿部材50の定期的な洗浄作業数を低減できる。
【0044】
因みに、本発明の加湿部材50であっても、使用条件によっては付着物の付着を避けられない場合がある。そして、汲上部材51の表面に付着物が付着した場合には、各汲上部材51の直径が大きくなる。そうすると、本発明の加湿器では、特許文献2とは逆に、隣接する汲上部材51,51間に形成される隙間が大きくなる。その結果、加湿制御時には、空気の通気性が良くなるように作用するため、加湿能力が低下することはない。
【0045】
また、本実施形態では、第2端壁部62を着脱可能とし、内部の汲上部材51を取出可能に構成している。そのため、付着物の付着より加湿効率が低下した場合には、汲上部材51および保持部材52を洗浄可能である。そして、この洗浄時には、多数の汲上部材51を大きな容器に入れて攪拌し、汲上部材51,51同士で衝撃を加えるだけで、簡単に付着物を脱落させることができる。よって、洗浄時の作業性を向上できる。
【0046】
図8は第2実施形態の加湿部材50を示す。この加湿部材50は、仕切板59によって8つに区画した収容空間61のうち、1つ置きに汲上部材51を収容させ、隣接する収容空間61a,61aの間を汲上部材51を収容させない非収容空間61bとした点で、第1実施形態と相違している。なお、この第2実施形態では、枠体65の連通孔67は、収容空間61aと対応する部位だけに設け、非収容空間61bと対応する部位を閉塞する構成とする。これにより、汲上部材51を取り出して洗浄した後に、外筒部53内に汲上部材51を収容させる際に、収容空間61aだけに汲上部材51を入れることができる。
【0047】
このように構成した第2実施形態の加湿部材50を用いて第1実施形態と同様に加湿制御を実行すると、シロッコファン22から送風された空気は、収容空間61a内の汲上部材51,51間を通過すると、非収容空間61bに進入する。そして、この非収容空間61b内で水分を吸着した空気と殆ど吸着していない空気を混合できる。そして、この状態で、他の収容空間61aを通過する。その際に、水分を殆ど吸着していない空気に水分を吸着させることができる。即ち、空気は、水分を吸着可能な容量があるため、このような混合領域を設けることにより、空気への水分の吸着効率を向上できる。その結果、加湿効率を向上できる。
【0048】
図9は第3実施形態の加湿部材50を構成する保持部材52を示す。この保持部材52は、仕切板59を形成する間隔を変更した点で、第2実施形態と相違している。具体的には、汲上部材51を収容させる収容空間61aは、周方向の角度を広くすることにより、容積を大きくする一方、汲上部材51を収容させない非収容空間61bは、周方向の角度を狭くすることにより、容積を小さくしている。このように、収容空間61aと非収容空間61bの容積を変更することにより、空気への水分の吸着効率を向上させることができる。
【0049】
図10は第4実施形態の加湿部材50を構成する保持部材52を示す。この保持部材52は、仕切板59によって保持部材52内を回転方向に4区画した点で、第1実施形態と相違している。このようにしても第1実施形態と同様の作用および効果を得ることができる。また、このように4区画とした場合でも、第2実施形態と同様に、収容空間と非収容空間を形成する構成してもよい。勿論、この場合には、第3実施形態と同様に、収容空間の容積を大きくし、非収容空間の容積を小さくなるように構成してもよい。
【0050】
図11は第5実施形態の加湿部材50を構成する保持部材52を示す。この第5実施形態では、外筒部53を樹脂製とし、仕切板59の代わりに、外筒部53に軸芯部57に向けて突出する複数の第1リブ68を、回転方向に所定間隔をもって設けた点で、各実施形態と大きく相違している。また、本実施形態では、軸芯部57にも放射状に突出するように第2リブ69を設けている。この第5実施形態では、内部に収容させた汲上部材51は、一部がリブ68,69上に載った状態で水中から加湿領域に移動される。また、残りは隣接するリブ68,69間の隙間から隣接する収容空間61に移動可能である。その結果、転動作用が増大するため、付着物の脱落作用を向上できる。
【0051】
なお、本発明は前記実施形態の構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。特に、本発明は、多数の汲上部材51を移動させることによって、貯水槽15内の水を加湿領域に汲み上げることが特徴であり、そのように移動させるための保持部材52の構成は、種々の変更が可能である。
【0052】
例えば、各実施形態では、保持部材52の外筒部53を円筒状に形成したが、多角筒状に形成してもよい。また、各保持部材52は、軸芯部57を有する構成としたが、この軸芯部57が無い断面円形状の空間により構成してもよい。この場合、第5実施形態のように、外筒部53を樹脂により形成して、この外筒部53に仕切板59またはリブ68を設けることが好ましい。即ち、保持部材52は、汲上部材51を収容可能な構成であれば、区画(仕切板59やリブ68)の有無や区画の形態などは、希望に応じて変更が可能である。
【0053】
また、保持部材52は、図12に示すように、各実施形態と同様の外筒部53と、該外筒部53内で軸方向を中心として回転可能なスクリュー部材70とで構成してもよい。この場合、トレー12の貯水槽15の底を、加湿領域の下部が最も深くなるように傾斜させる。また、貯水槽15の底には、吸上部材を内部に取入可能な取入口を有し、外筒部53を外嵌して取付可能な装着部71を設ける。かつ、この装着部71の中心に、スクリュー部材70の下端を連結し、非接触状態で動力を受けることが可能なマグネット式連結部72を設ける。さらに、加湿器本体10には、トレー12の装着状態でマグネット式連結部72の下部に位置するようにモータ33を配設し、その出力軸にマグネット73を配設する。
【0054】
このよう構成した保持部材52によれば、汲上部材51は、水中で装着部71内に移動してスクリュー部材70の羽根に載り、スクリュー部材70の回転により上向きに押し上げられて水面より上部の加湿領域に移動される。その後、外筒部53の上端に位置すると外側へ溢れ、自重で水中に移動する。このようにしても、汲上部材51に水を付着または含有させて加湿領域に汲み上げることができ、この加湿領域にてシロッコファン22からの空気に水分を吸着させて、機外へ供給することができる。
【0055】
また、前記実施形態では、本発明の空気調和機として加湿器を用いて説明したが、加湿機能を搭載した空気清浄機や冷暖房機などであっても同様に適用可能であり、同様の作用および効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0056】
10…加湿器本体
11…貯水タンク
12…トレー
15…貯水槽
22…シロッコファン(送風手段)
30,32a…取付溝
33…モータ(駆動手段)
50…加湿部材
51…汲上部材
52…保持部材
53…外筒部
54…第1端壁部
59…仕切板
61,61a…収容空間
61b…非収容空間
62…第2端壁部
64…ギア部
65…枠体
68,69…リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯水槽内の水を加湿部材によって水面より上部の加湿領域に汲み上げる一方、前記貯水槽上の加湿領域に送風手段によって空気を送風し、前記加湿部材の周囲または内部を通過させることにより空気に水分を吸着させて機外に供給する空気調和機において、
前記加湿部材は、水を付着または吸着可能な多数の汲上部材と、これら汲上部材を前記貯水槽内の水中から該貯水槽上の加湿領域に移動させて再び前記貯水槽内の水中に循環移動可能に保持する保持部材とを備えることを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
前記保持部材は、前記汲上部材を収容保持する通水および通気可能な外筒部と、該外筒部の両端を前記汲上部材を脱落不可能に塞ぐ端壁部とを有し、前記外筒部の軸方向が前記貯水槽の水面と略平行に位置し、かつ、該外筒部の下部が前記貯水槽内の水に浸漬され上部が前記貯水槽上の加湿領域に露出するように配設されることを特徴とする請求項1に記載の空気調和機。
【請求項3】
前記保持部材内に、前記汲上部材を転動可能な容積比で収容させたことを特徴とする請求項2に記載の空気調和機。
【請求項4】
前記保持部材内に、前記外筒部の軸芯へ向けて延び通水および通気可能な複数の仕切板を回転方向に所定間隔をもって設け、該保持部材内を複数の空間に区画したことを特徴とする請求項3に記載の空気調和機。
【請求項5】
前記保持部材の所定の空間を、前記汲上部材を収容させない非収容空間としたことを特徴とする請求項4に記載の空気調和機。
【請求項6】
前記保持部材内に、複数のリブを回転方向に所定間隔をもって設けたことを特徴とする請求項3に記載の空気調和機。
【請求項7】
前記端壁部のうち少なくとも一方を着脱可能に構成し、内部の汲上部材を取出可能としたことを特徴とする請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載の空気調和機。
【請求項8】
貯水槽内の水に浸漬した加湿部材を構成する多数の汲上部材を、保持部材の駆動によって水中から水面より上部の加湿領域に移動させた後、再び貯水槽の水中に循環移動させる一方、
送風手段によって貯水槽上の加湿領域に空気を送風し、前記汲上部材の周囲または内部を通過させることにより、該汲上部材に付着または吸着した水を空気に吸着させて機外に供給する
ことを特徴とする空気調和方法。
【請求項9】
貯水槽の水面より上部の加湿領域に送風手段によって空気を送風し、空気に水分を吸着させて機外に供給する空気調和機において、前記貯水槽内の水を加湿領域に汲み上げるための加湿部材であって、
水を付着または吸着可能な多数の汲上部材と、
前記汲上部材を収容保持する通水および通気可能な外筒部と、該外筒部の両端を前記汲上部材を脱落不可能に塞ぐ端壁部とを有し、前記外筒部の軸方向が前記貯水槽の水面と略平行に位置し、かつ、該外筒部の下部が前記貯水槽内の水に浸漬され上部が前記貯水槽上の加湿領域に位置するように配設される保持部材と、
を備えることを特徴とする加湿部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−80676(P2011−80676A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232709(P2009−232709)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000002473)象印マホービン株式会社 (440)
【Fターム(参考)】