説明

空気調和機

【課題】コンプレッサの負荷変動を簡単にかつ正確に判定する。
【解決手段】1回転中に周期性がある負荷変動を持つ圧縮機と、前記圧縮機の出力軸を駆動するn極のブラシレスDCモータの速度制御装置において、前記ブラシレスDCモータの機械的な1回転を、6×n/2区間に分割し区間毎に位置検出間隔を検出し、同一のインバータ信号パターンでそれぞれ異なった領域の連続した区間の前記位置検出間隔を加算して得られる判定データをn/2領域分求め、それぞれの前記判定データを大小判定し、前記圧縮機のロータの機械的位置を決定するモータ速度制御装置を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は空気調和機の圧縮機の駆動において、圧縮サイクル1回転中に発生する負荷変動を判定するためのものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に空気調和機に用いられている圧縮機の圧縮動作は、大きく3つの過程に分けられ、まず圧縮機内部のシリンダ内に冷媒を満たす吸入過程があり、次にシリンダ内の冷媒を圧縮する圧縮過程があり、最後に圧縮した冷媒を圧縮機外部に放出する吐出過程がある。
また、圧縮機はその圧縮機構により、ロータリ方式、レシプロ方式、スクロール方式などがある。なかでもロータリ方式は他方式に比べ、構造が簡単で部品点数も少なく、低コストであり、シリンダ部分の構造により圧縮効率も良く、高効率化が容易である。
ただし、このロータリ方式は圧縮動作を行うために、偏心したロータリピストンがシリンダ内部で回転することにより、吸入・圧縮・吐出の各工程を行っている。このため1回転中の吸入・圧縮・吐出による負荷変動と回転軸の偏心により、振動や騒音が大きくなるといった問題があった。
【0003】
そのため、この負荷変動によるトルク脈動を減少させるためにトルク制御を行うが、トルク制御を行うためにはロータの機械的位置を検出する必要があり、その方法は機械角1回転(電気角2回転)中を12等分し、その12等分中から最大時間幅となる位置検出間隔、すなわち前記ブラシレスDCモータの負荷が最大となる部分を算出している。
【特許文献1】特開平6−90588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この従来の判定方法では、判定処理前に冷房から暖房、あるいは暖房から冷房への切り替え動作が行われた場合による低負荷(低圧力)状態の時や、あるいは判定処理中に低速回転で圧縮機を動作させることによる低負荷(低圧力)状態の時には、負荷変動(圧力差)が大きく現れず、正確な判定が困難な場合もあり、誤判定によりトルク脈動を増大させてしまう可能性がある。
また、従来の方法では4極の圧縮機のみに対応しており、極数の異なる例えば6極の圧縮機に対してはそれに対応するためのマイコンが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明はこの点に着目し上記欠点を解決する為、1回転中に周期性がある負荷変動を持つ圧縮機と、前記圧縮機の出力軸を駆動するn極のブラシレスDCモータを備えた空気調和機において、前記ブラシレスDCモータの機械的な1回転を、6×n/2区間に分割し区間毎に位置検出間隔を検出し、同一のインバータ信号パターンでそれぞれ異なった領域の連続した区間の前記位置検出間隔を加算して得られる判定データをn/2領域分求め、それぞれの前記判定データを大小判定し、前記圧縮機のロータの機械的位置を決定するモータ速度制御装置設けたものである。
【0006】
また、前記判定データとなる前記位置検出間隔の加算数は、2〜6個の間で任意に設定可能であるようにしたものである。
また、前記大小判定は任意に設定可能な規定時間以上で判定可能とし、規定時間未満の場合は判定不能としロータ位置を確定させないようにしたものである。
また、前記大小判定は最大時間区間の判定あるいは最小時間区間の判定を選択できるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、圧縮機のトルク脈動の判定精度が向上し、誤判定による騒音、振動あるいは過電流等を減少させることができる。
また、誤判定あるいは判定条件未達状態が減少し、短時間で判定が可能となる、あるいは判定時のコンプレッサ動作速度を低下できるので、判定中のトルク制御なし状態での騒音、振動等を減少させることができる。
また、コンプレッサの極数に依存せず共通の処理で判定可能となり、極数の異なる圧縮機でも共通のマイコンが使用できるので、部品の共通化によるコストダウンが可能となるものである。
【実施例1】
【0008】
図1はこの発明のブラシレスDCモータ速度制御装置の実施形態を示すブロック図である。図1において、直流駆動電源1はインバータ回路2に与えられる。このインバータ回路2は6個の半導体スイッチング素子が3相ブリッジ状に結線されており、インバータ回路2の出力電圧はn極の3相ブラシレスDCモータ3に供給されている。また、インバータ回路2には回生電流を流し、素子保護の為に各々の半導体スイッチング素子2aに対してダイオード2bが並列接続されている。
【0009】
ブラシレスDCモータ3の3相各巻線には誘起電圧検出回路4の入力が接続されており、この回路によってロータ磁極位置に応じて誘起電圧が検出され、これによりブラシレスDCモータ3のロータ位置を検出し、パルス信号を出力する。ロータが4極の場合は1回転あたり12個のパルスが、またロータが6極の場合は1回転当たり18個のパルスが出力され、制御回路5に与えられる。この制御回路5では、検出されたロータ位置信号に基づいて、インバータ回路2の各半導体スイッチング素子2aを動作させる駆動信号を作成し、駆動回路6に出力する。この駆動回路6では前記制御回路5からの駆動信号に基づいてオン−オフ制御され、インバータ回路2を動作させる。
【0010】
図2は位置検出の間隔差の検出方法を示す説明図で、加算開始区間がK2で加算個数が3個(3区間)の場合を示すが、判定データとなる前記位置検出間隔の加算数は、2〜6個の間で任意に設定可能である。
図2の(a)は圧縮機の1回転中のトルク変動を示し、1回転中に吸気・圧縮・排気の3つの行程があるため、図のような負荷変動が生ずる。また、図2の(b)は、インバータの信号パターンを示す。この時、1回転中のPWMデューティ比が一定の場合、モータに印可されるトルクは一定のため負荷変動に同期して位置検出間隔は変化する。これにより、図2(c)のように1回転中のロータ位置検出間隔から負荷変動の状態を検出できるものである。
【0011】
そして、負荷変動によるロータの位置検出間隔は、負荷変動幅が大きい場合については各区間の間で大きく差が現れるが、負荷変動幅が小さい場合は各区間の間で明らかな差として現れることは少ない。このような負荷変動幅が小さい状態で1区間同士の比較・判定を行っても、誤判定する可能性が大きくなる。このため、この発明では、同一領域内の特定区間を加算し(A,B,Cの加算T1)、さらに前記特定区間と同一のインバータ信号パターンを持つ他領域の特定区間を加算する(D,E,Fの加算T2)。これにより、1区間同士の比較の時は各区間の間の差は小さなものではあったが、図2の(d)のように加算する事で明確な差を導き出すことができる。
【0012】
加算で得られた各判定データ同士は、コンプレッサ1回転中の負荷トルク状態を求めるために比較し、最小あるいは最大となる領域を求める。領域は、測定中で初めに測定した領域を領域1、2番目に測定した領域を領域2とする。
前記大小判定は、最大時間区間の判定あるいは最小時間区間の判定をどちらを選択しても良いものである。
例えば、最小となる領域(軽負荷領域)を求める場合は以下のようにして求める。
・領域1が軽負荷
T2 ≧ T1 + 規定時間差
・領域2が軽負荷
T1 ≧ T2 + 規定時間差
・判定不能
T1 < T2 + 規定時間差
T2 < T1 + 規定時間差
また、逆に最大となる領域(重負荷領域)を求める場合は以下のようにして求める。
・領域1が重負荷
T1 ≧ T2 + 規定時間差
・領域2が重負荷
T2 ≧ T1 + 規定時間差
・判定不能
T1 < T2 + 規定時間差
T2 < T1 + 規定時間差
【0013】
前記で求めた結果を記憶させ、同様の測定・判定を繰り返し行う。規定回数連続で同一の判定結果となると判定を完了させ、機械的位置と電気的位置の設定を行う。
【0014】
前記で確定した結果(軽負荷領域あるいは重負荷領域)を用いて、機械的位置(ロータ位置)と電気的位置(通電パターン)を一致させる。
軽負荷領域算出の場合は以下のようにする。
(ロータ位置) = (加算開始区間)
重負荷領域算出の場合は以下のようにする。
(ロータ位置) = (加算開始区間)+ 6
機械的位置と電気的位置の設定が完了したら、速度固定を解除し、さらにトルク制御を許可し、トルク制御を開始させ、通常の制御へ移行させる。前記確定結果が判定不能の場合は、速度固定を解除し、さらにトルク制御を禁止し、通常の制御へ移行させる。
【0015】
図3は4極ブラシレスDCモータ速度制御装置の起動から定常状態までの処理を示したフローチャートである。
起動後トルク制御の禁止を設定する。(S1)次に、S2にて強制転流モードが行われる。この強制転流モードとは、誘起電圧検出回路4において誘起電圧の検出が可能となる回転数(あるいは状態)までブラシレスDCモータ3を強制的に転流させ、誘起電圧の検出が行われる。
次にS3にて同期モード(位置検出モード)へ移行する。同期モード(位置検出モード)では、誘起電圧により検出された位置検出信号に従い転流を行う。
その後、速度を上昇させていき、特定の速度に到達したところでトルク変動測定の為に、ロータ速度を固定させる。(S4)この時、誘起電圧検出回路4より出力されるパルス信号(機械角1回転あたり12パルス)の各パルス間隔を求め、同時に、設定されている加算開始位置と個数に従い、求めたパルス間隔データの加算を繰り返し行った(S5〜16)後、比較データの大小判定を行う。(S17)
S17の結果が規定回数(例えば5回)同じ判定結果が出るまで続けるか、又は所定時間の経過でS19へ進む。(S18)
S19にて判定不能ならばS21でトルク制御は行わない。また判定できたならばトルク制御の許可信号を出力する。(S20)
【実施例2】
【0016】
実施例1では4極の圧縮機について行ったが、6極の圧縮機の場合は以下のように行う。
図4は図2と同様に位置検出の間隔差の検出方法を示す説明図で、加算開始区間がK2で加算個数が2個(2区間)の場合を示し、図4(a)は圧縮機の1回転中のトルク変動を示し、1回転中に吸気・圧縮・排気の3つの行程があるため、図のような負荷変動が生ずる。また、図4(b)は、インバータの信号パターンを示す。
また図4(c)は、1回転中のロータ位置検出間隔から、負荷変動の状態を検出できる。
図4(d)は、設定箇所の加算結果を示す。
【0017】
加算で得られた各判定データ同士を比較し、最小あるいは最大となる領域を求める。ここで領域は、測定中で初めに測定した領域を領域1、2番目に測定した領域を領域2、3番目に測定した領域を領域3とする。最小となる領域(軽負荷領域)を求める場合は以下のようにして求める。
・領域1が軽負荷
T2 ≧ T1 + 規定時間差 かつ
T3 ≧ T1 + 規定時間差
・領域2が軽負荷
T1 ≧ T2 + 規定時間差 かつ
T3 ≧ T2 + 規定時間差
・領域3が軽負荷
T1 ≧ T3 + 規定時間差 かつ
T2 ≧ T3 + 規定時間差
・判定不能
これらの条件以外
また、逆に最大となる領域(重負荷領域)を求める場合は以下のようにして求める。
・領域1が重負荷
T1 ≧ T2 + 規定時間差 かつ
T1 ≧ T3 + 規定時間差
・領域2が重負荷
T2 ≧ T1 + 規定時間差 かつ
T2 ≧ T3 + 規定時間差
・領域3が重負荷
T3 ≧ T1 + 規定時間差 かつ
T3 ≧ T2 + 規定時間差
・判定不能
これらの条件以外
【0018】
前記で求めた結果を記憶させ、同様の測定・判定を繰り返し行う。規定回数連続で同一の判定結果となると判定を完了させ、機械的位置と電気的位置の設定を行う。
【0019】
前記で確定した結果(軽負荷領域あるいは重負荷領域)を用いて、機械的位置(ロータ位置)と電気的位置(通電パターン)を一致させる。
軽負荷領域算出の場合は以下のようにする。
(ロータ位置) = (加算開始区間)
重負荷領域算出の場合は以下のようにする。
(ロータ位置) = (加算開始区間)+ 12
機械的位置と電気的位置の設定が完了したら、速度固定を解除し、さらにトルク制御を許可し、トルク制御を開始させ、通常の制御へ移行させる。前記確定結果が判定不能の場合は、速度固定を解除し、さらにトルク制御を禁止し、通常の制御へ移行させる。
【0020】
図5は6極ブラシレスDCモータ速度制御装置の起動から定常状態までの処理を示したフローチャートである。
測定を開始するまでの処理は4極コンプレッサの場合と同様である。(S22〜25)
誘起電圧検出回路4より出力されるパルス信号(機械角1回転あたり18パルス)の各パルス間隔を求め、同時に、設定されている加算開始位置と個数に従い、求めたパルス間隔データの加算を繰り返し行った(S26〜37)後、比較データの大小判定を行う。(S38)
S39の結果が規定回数(例えば5回)同じ判定結果が出るまで続けるか、又は所定時間の経過でS40へ進む。(S39)
S40にて判定不能ならばS42でトルク制御は行わない。また判定できたならばトルク制御の許可信号を出力する。(S41)
6極コンプレッサの場合は、誘起電圧検出回路4より出力されるパルス信号(機械角1回転あたり18パルス)の各パルス間隔を求め、同時に、設定されている加算開始位置と個数に従い、求めたパルス間隔データの加算を行い、判定データを取得するものである。
また、大小判定は、任意に設定可能な規定時間以上で判定可能とし、規定時間未満の場合は判定不能とし、ロータ位置を確定させないことで、より誤判定による騒音、振動あるいは過電流等が減少させられるものである。
前記大小判定は、最大時間区間判定あるいは最小時間区間判定を選択できる事で、より誤判定による騒音、振動あるいは過電流等が減少させられるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施例1及び実施例2のブラシレスDCモータの速度制御装置のブロック図。
【図2】この発明の実施例1の位置検出間隔差の検出方法を示す図。
【図3】この発明の実施例1のにおけるトルク脈動判定の動作を示すフローチャート。
【図4】この発明の実施例2の位置検出間隔差の検出方法を示す図。
【図5】この発明の実施例2のにおけるトルク脈動判定の動作を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0022】
1 直流駆動電源
2 インバータ回路
3 ブラシレスDCモータ
4 誘起電圧検出回路
5 制御部
6 駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1回転中に周期性がある負荷変動を持つ圧縮機と、前記圧縮機の出力軸を駆動するn極のブラシレスDCモータを備えた空気調和機において、前記ブラシレスDCモータの機械的な1回転を、6×n/2区間に分割し区間毎に位置検出間隔を検出し、同一のインバータ信号パターンでそれぞれ異なった領域の連続した区間の前記位置検出間隔を加算して得られる判定データをn/2領域分求め、それぞれの前記判定データを大小判定し、前記圧縮機のロータの機械的位置を決定するモータ速度制御装置を設けた事を特徴とする空気調和機。
【請求項2】
前記判定データとなる前記位置検出間隔の加算数は、2〜6個の間で任意に設定可能である事を特徴とする請求項1記載の空気調和機。
【請求項3】
前記大小判定は任意に設定可能な規定時間以上で判定可能とし、規定時間未満の場合は判定不能とし、ロータ位置を確定させない事を特徴とする請求項1記載の空気調和機。
【請求項4】
前記大小判定は最大時間区間の判定あるいは最小時間区間の判定を選択できる事を特徴とする請求項1記載の空気調和機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−67752(P2006−67752A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250007(P2004−250007)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000000538)株式会社コロナ (753)
【Fターム(参考)】