説明

空気電池とその電池ケース

【課題】、空気電池の放置劣化をできるだけ防いで、より多種広範囲の機器で使用可能な空気電池を提供する。
【解決手段】酸素を正極、酸素より卑なる物質を負極として、該酸素を取り入れる空気孔を正極ケースを持つ空気電池において、空気孔またはその空気孔の周辺部を、JIS A硬度が20以上90以下となる材料で押えることによって外気と空気孔を遮断し、外気の影響による劣化を防止することで、放置劣化率を改善することができ、空気電池の適用される範囲を多種広範囲の機器に広げることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池の未使用時に外気と電池をできるだけ遮断し、使用環境の温度湿度の変化による影響を防止するようにした空気電池とその電池ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は単位体積当たりの容量が大きいことから、特に空気亜鉛電池が補聴器用やペイジャー用として使用されてきている。
近年、空気電池の高出力化への要望が高まり、重負荷でも放電可能な電池の開発が進められ、主に正極側への酸素供給量の向上により、かかる要望に応えている。
【0003】
しかしながら、空気電池は正極に大気中の酸素を使用するため、これを取り入れる空気孔を持つことから、外気の温度,湿度と、電池内の電解液との飽和蒸気圧の関係によって、相対的に外気の湿度が高くなれば電解液は水分を吸収して増加し、漏液や短寿命を引き起こす恐れがあり、逆に湿度が低くなれば電解液は減少して短寿命を引き起こす恐れがある。これらは放置劣化と呼ばれている。
【0004】
そこで、特許文献1に開示しているように、機器の電源スイッチの開閉と連動して、空気電池の空気孔を開閉する方法が提案されているが、開閉手段を付加する分、収納ケースが大きくなってしまうという欠点があった。また開閉手段によっては密閉性が十分でなく、空気電池の劣化防止という効果が十分に得られない場合があった。
【特許文献1】特公平5−21313号公報
【0005】
上記のような放置劣化を評価する尺度として、放置劣化率が用いられる。この放置劣化率は、一定の温度湿度において、空気孔を塞いでいるシールテープや電池を密閉する袋を除いてから、直後に放電した場合に得られる持続時間を100%として、同一の温度湿度において一定期間放置した後に放電した場合に得られる持続時間が直後に比較して何%となるかを表わすものである。
【0006】
本発明は、PR2330タイプの電池を20℃−60%RHにおいて100Ωで放電して得られた持続時間を100%として、同じく3ヶ月間20℃−60%RHにおいてシールテープを剥離した状態で放置した後に100Ωで放電した時に得られる持続時間の劣化率で表わし、これを評価する。
【0007】
従来技術では、電池として使用される機器と、その使用環境を予測して電池設計するため、必要な出力から電池内への酸素の供給量を設計し、これと予想される使用環境から電解液の量、濃度、負極活物質との配合について設計することが一般的であった。
【0008】
また、電池を利用する側でも、長期に使用しない場合は言うに及ばず、毎日使用する場合でも夜間使用しないときは電池を取り出してシールテープを貼ったり、袋に入れるなどして空気孔を密閉し、劣化を抑えることが一般的であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、このような煩わしさを防ぎ、あるいは、空気電池が持つ設計上の制約条件を、電池を使用する機器側、もしくは電池をセットする電池ホルダーや電池ケースなどの電池周辺部の設計によって回避し、空気電池の放置劣化をできるだけ防いで、より多種広範囲の機器で使用可能な空気電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、酸素を正極、酸素より卑なる物質を負極として、該酸素を取り入れる空気孔をアウターカンに持つ空気電池において、空気孔またはその空気孔の周辺部を、JIS A硬度が20以上90以下となる材料で押えることによって外気と空気孔を遮断し、外気の影響による劣化を防止する。
【0011】
該材料の形状は、リング形状と平面形状を組み合わせて、外気と空気孔を遮断する時に空気孔の周辺に空間を持っていることが好ましく、この場合リング形状の材料のみが本発明の条件を満たしていれば良い。
【0012】
ところで、電池ホルダーや電池ケースなどの電池周辺部の設計において、空気電池の状態には、使用時の酸素を積極的に供給させる状態と、未使用時の外気を遮断する状態がある。
【0013】
本発明では、未使用時の電池の状態で、必要十分な条件とするが、実用上では使用時の状態を考慮する必要があって、該材料の形状はリング形状と平面形状を組み合わせて、外気と空気孔を遮断する時に空気孔の周辺に空間を持たせて、使用時の空気拡散を十分行えるようにすることが好ましい。
【0014】
従って、未使用時の電池の状態のみを勘案すれば、材料の形状は何でも良く、平板で空気孔とその周辺を全て塞いでもよいし、突起形状の先端をもって空気孔だけを塞いでも良い。
すなわち、本発明においては、空気孔を塞ぐ方法の一つとして、柔軟性のある材料を用いることにより、できるだけ確実に空気孔と外気を遮断させるものである。
【0015】
また、本発明ではシリコンゴム製のリングを使用しているが、必ずしもこれに限定されるものではない。代表的な材料としてシリコンゴムを用いた理由は、同材料の硬度が、一般的に電池が使用される温度範囲の−10℃から80℃の間で少なくとも±10%に収まる程度に安定していることと、その絶縁性が良いからである。
【0016】
また、本発明は、柔軟性すなわち弾性を持つ材料で空気孔を塞ぐことであり、その代表的として硬度を規定しているが、これ以外に材料の中を中空にするなどして、必要な柔軟性を確保しているものでも、本発明と同一と見なすことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の空気電池によると、通常の単なる放置に比較して放置劣化率を小さく改善することができるので、空気電池の適用される範囲を多種広範囲の機器に広げることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。
図1は、本発明に係る代表的な空気亜鉛電池のPR2330(直径φ23、総高3mm)の断面図であり、その構成は、正極に大気中の酸素を取り入れる空気孔2を有する正極ケース1と、負極に集電と封口を兼ねる負極ケース11と、そのケース11内に亜鉛粉と電解液の苛性カリ水溶液によるゲル負極10とから構成され、正極ケース1と負極ケース11とはガスケット12を介してカシメられ密封口されている。また、空気孔2はシールテープ13を貼り付けられて塞がれている。
【0019】
同空気亜鉛電池は、電解液に30重量%の苛性カリ水溶液を用い、亜鉛には1%の水銀と500ppmの鉛を合金として含み、かつ、粒度が100〜300μmの汞化亜鉛粉を用い、この電解液と亜鉛粉の重量比を亜鉛粉1kgに対して電解液250gとした。そして、これらの材料とポリアクリル酸をゲル化剤として、共に混合し、ゲル負極10とした。
【0020】
一方、正極側は、底面にφ0.5mmの空気孔2を6個有し、さらに底面の外周部から連続する側面を持った正極ケース、すなわちアウターカン1と、その内部にPTFE膜からなる撥水膜8と酸素還元電極およびセパレータ7が載置されている。酸素還元電極は活性炭、マンガン酸化物、導電材、PTFE粉からなる正極触媒粉をシート状に成形した正極触媒層6をニッケルメッキされたステンレスネット製の正極集電体5に圧着充填することにより一体化され、更に、撥水膜8とは別のPTFE膜がセパレータ7と反対面に圧着して撥水層4を形成している。3は拡散紙であり、空気孔2を覆うようにアウターカン1の内側に載せられており、アウターカン1は拡散紙3の径に合わせて、底面で絞り込んでいる。このため、アウターカン1は電池底面で段差を持ち、電池の最外径はφ23mmであるが、拡散紙3付近のアウターカン1の段部外径はφ20mmであり、段部厚さは0.1mmである。
【0021】
図2は本発明で使用した治具の断面図、図3はこれら治具とPR2330のアウターカン1の底面部、およびその配置を示すものである。
図2に示すように、本発明で使用する治具はシリコンゴムリング20上に塩化ビニル板21が貼り付けられている。この治具を空気電池のシールテープ13に貼り付けて図1の空気電池のシールテープ13側から見ると、図3のように空気孔2はシールテープ13と塩化ビニル板21で外気と遮断されることになる。
【0022】
以下、実施例、従来例及び比較例について具体的に説明する。
(従来例1)
PR2330を[従来の技術]の項に示す通りn=10を20℃−60%RHに3ヶ月間放置し、その後100Ωで放電して、放置前の持続時間を100%としてその劣化率を計算した。電池はアウターカンの空気孔が下になるように平地に設置して放置した。平地の材質は塩化ビニルを用いた。
(従来例2)
電池の空気孔を上にして、従来例1と同様に放置した。
【0023】
(比較例1)
電池の空気孔を上にして、電池底面の空気孔の周辺に厚さ0.5mm、外径φ20、内径φ16、硬度110のシリコンゴム製リングを置き、その上にφ25、厚さ0.5mmの塩化ビニル製の板を置いて、従来例1と同様に放置した。
【0024】
(比較例2)
電池の空気孔を上にして、電池底面の空気孔の周辺に厚さ0.5mm、外径φ20、内径φ16、硬度10のシリコンゴム製のリングを置き、その上にφ25、厚さ0.5mmの塩化ビニル製の板を置いて、従来例1と同様に放置した。
【0025】
(比較例3)
電池の空気孔を上にして、電池底面の空気孔の周辺に厚さ1.5mm、外径φ20、内径φ16、硬度50のシリコンゴム製のリングを置き、その上にφ25、厚さ0.5mmの塩化ビニル製の板を置いて、従来例1と同様に放置した。
【0026】
(実施例1)
電池の空気孔を上にして、電池底面の空気孔の周辺に厚さ0.5mm、外径φ20、内径φ16、硬度90のシリコンゴム製のリングを置き、その上にφ25、厚さ0.5mmの塩化ビニル製の板を置いて、従来例1と同様に放置した。
【0027】
(実施例2)
電池の空気孔を上にして、電池底面の空気孔の周辺に厚さ0.5mm、外径φ20、内径φ16、硬度50のシリコンゴム製のリングを置き、その上にφ25、厚さ0.5mmの塩化ビニル製の板を置いて、従来例1と同様に放置した。
【0028】
(実施例3)
電池の空気孔を上にして、電池底面の空気孔の周辺に厚さ0.5mm、外径φ20、内径φ16、硬度20のシリコンゴム製のリングを置き、その上にφ25、厚さ0.5mmの塩化ビニル製の板を置いて、従来例1と同様に放置した。
【0029】
(実施例4)
電池の空気孔を上にして、電池底面の空気孔の周辺に厚さ0.05mm、外径φ20、内径φ16、硬度50のシリコンゴム製のリングを置き、その上にφ25、厚さ0.5mmの塩化ビニル製の板を置いて、従来例1と同様に放置した。
【0030】
(実施例5)
電池の空気孔を上にして、電池底面の空気孔の周辺に厚さ1mm、外径φ20、内径φ16、硬度50のシリコンゴム製のリングを置き、その上にφ25、厚さ0.5mmの塩化ビニル製の板を置いて、従来例1と同様に放置した。
【0031】
以上の結果を表1にまとめて示した。
なお、放置試験前のPR2330、100Ω放電の持続時間はn=10の平均で81時間であった。劣化率(Y)は放置の結果得られた持続時間を(X)として、(Y)=(81−X)÷81×100:%で計算した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1の結果から、実施例1〜5は従来例1〜2、比較例1〜3に比較して、劣化率が明らかに改善されている。また、実施例の中では硬度の小さいもの、厚さの薄いものほど劣化率が小さいことからリングと電池底部の密着が良好なほど、空気孔の上の空間が小さいほど劣化率が小さくなると考えられる。
しかしながら、電池底部の形状は完全な平面ではなく、僅かに凸凹があるため、従来例1が示すとおり、完全平面な材料を置いても劣化はそれほど小さくならない。
【0034】
また、比較例1や比較例2から、硬度が大きくなったり、リングの厚さが大きくなることにより、リングが変形しづらくなって、外気を十分に遮断できなくなっていると考えられる。比較例3でも劣化率が大きくなっているが、これはリングの硬度が小さく、リングを電池に配置するにあたり、リングの横方向への変形が大きく、リングが空気孔の全てを覆うことができなかったためであり、他の例とは全く別の理由であるとともに、実用上も使用が困難であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る空気亜鉛電池の断面図。
【図2】本発明による個々の空気孔を塞ぐ治具の側面図。
【図3】図2の治具にて、図1の空気電池の空気孔を塞いだ状態を示す底面図。
【符号の説明】
【0036】
1…正極ケース、2…空気孔、3…拡散紙、4…第1の撥水層、5…集電体、6…正極触媒層、7…セパレータ、8…第2の撥水層、10…ゲル負極、11…負極ケース、12…ガスケット、13…シールテープ、20…シリコンゴムリング、21…塩化ビニル板。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を正極、酸素より卑なる物質を負極として、該酸素を取り入れる空気孔を有する正極ケースを持つ空気電池において、前記空気孔またはその空気孔の周辺部を、JIS A硬度が20以上90以下となる材料で押えることで外気と前記空気孔を遮断し、外気の影響による劣化を防止することを特徴とする空気電池。
【請求項2】
酸素を正極、酸素より卑なる物質を負極として、該酸素を取り入れる空気孔を有する正極ケースを持つ空気電池において、前記空気孔またはその空気孔の周辺部を、厚さが0.05mm以上1mm以下となる材料で押えることで外気と前記空気孔を遮断し、外気の影響による劣化を防止することを特徴とする空気電池。
【請求項3】
酸素を正極、酸素より卑なる物質を負極として、該酸素を取り入れる空気孔を有する正極ケースを持つ空気電池において、空気孔またはその空気孔の周辺部を、内部に空間を持つことにより弾性を示す材料で押えることで外気と前記空気孔を遮断し、外気の影響による劣化を防止することを特徴とする空気電池。
【請求項4】
該内部の空間に、その周辺部の材料とは別の材料を充填することにより全体として弾性を示す材料で、外気と空気孔を遮断することを特徴とする請求項3記載の空気電池。
【請求項5】
該材料の硬度が−10℃から80℃の範囲で±10%の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の空気電池。
【請求項6】
該材料が絶縁性を示すことを特徴とする請求項1記載の空気電池。
【請求項7】
該材料がシリコンゴムであることを特徴とする請求項1記載の空気電池。
【請求項8】
請求項1記載の空気電池を電源として使用する機器をケース内に収納していることを特徴とする電池ケース。
【請求項9】
請求項1記載の空気電池により駆動する機器をケース内に組み込まれていることを特徴とする電池ケース。
【請求項10】
請求項1記載の空気電池をケース内に保存することを特徴とする電池ケース。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−134636(P2006−134636A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320389(P2004−320389)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000003539)東芝電池株式会社 (109)
【Fターム(参考)】