説明

空芯トロイダルコイルの製造方法およびトロイダルコイル

【課題】専用の巻線機を使用しなくてもトロイダルコイルを容易に巻くことができるトロイダルコイルの製造方法を提供する。
【解決手段】可擁性及び非磁性をもつ素材により棒状のボビン10を形成する第1過程と、そのボビン10に剛性をもつ芯棒20を貫通する第2過程と、芯棒20で固定保持されたボビン10に巻線22を巻く第3過程と、巻線22を巻いたボビン10から芯棒20を抜き外す第4過程と、芯棒20を抜いたボビン10の両端の嵌合部12を嵌合受部14に嵌合させて環状に形成する第5過程によってトロイダルコイル24を形成する。このようにボビン10に芯棒20を通すことで通常の巻線機で棒状のボビン10に巻線22を線を巻くことが容易に行え、巻き終わった後で芯棒20を抜けば容易に環状に形成することができ、環状に形成した後、一端に設けた嵌合部12を他端に設けた嵌合受部14に嵌合させることでトロイダルコイルが容易に形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い周波数でスイッチング動作を行うスイッチング電源に用いられる空芯トロイダルコイルの製造方法およびトロイダルコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
入力電圧と異なる電圧を得る電源装置として、入力電源を断続制御してトランスにより電圧変換するスイッチング電源があり、従来はトランスにEI形状コアが用いられていたが、漏れインダクタンスが少なく、外部へのノイズを放散しにくい規格が要求されるスイッチング電源には図7のようなトロイダル形状コア1に巻線2を巻いたロイダルトランスが用いられることがある。
【特許文献1】特開平9−027425号公報
【特許文献2】実開平10−050534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながらトロイダル形状のコイルの巻き線作業はEI形状コアのトランスよりも巻き線作業が難しく、作業時間もEI形状コアのトランスよりも長くなり作業性が悪いために、専用の巻線機によりコイルを巻くようにしているが、汎用性に欠けるたため、少量多品種生産には適しないという課題を有していた。
【0004】
したがって、本発明は、作業性を向上させたトロイダルコイルの製造方法及びおよびトロイダルコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するために本発明は、可撓性及び非磁性をもつ素材により棒状のボビンを形成する第1過程と、ボビンに剛性をもつ芯棒を貫通する第2過程と、芯棒で固定保持されたボビンに巻線を巻く第3過程と、巻線を巻いたボビンから芯棒を抜き外す第4過程と、芯棒を抜いたボビンの両端を連結して環状に形成する第5過程によって空芯トロイダルコイルを製造することを特徴とする。このような製造方法をとることで従来は専用の製造機械を用いたり、長い製造時間が必要であったものが、簡単にかつ短時間で巻線を形成することができる。
【0006】
また本発明は、ボビン嵌合構造を特徴とするもので、第1過程は、棒状のボビンの一端に嵌合部と嵌合受部を形成することを特徴とする。このように構成することで環状にした形状を容易に保持することができる。
【0007】
また本発明はボビンの断面形状を特徴とするもので、第1過程は、棒状のボビンの断面形状を楕円又は矩形を含む任意の形状に形成することを特徴とする。このように構成することで従来は構成しにくかった円筒形などの特殊形状のコアも容易に実現することができる。
【0008】
また本発明はボビンに高熱伝導素材を使用することを特徴とするもので、第1過程は、更に熱伝導率の高い素材により前記棒状のボビンを形成することを特徴とする。
【0009】
また本発明はボビンに埋め巻きできる構造としたことを特徴とし、第3過程は、巻線を芯棒で固定保持されたボビンの外周に食い込むように巻き付けることを特徴とする。
【0010】
また本発明は可撓性性及び非磁性をもつ棒状の素材の両端を連結してドーナツ状に形成したボビンと、ボビンの外周に食い込み状態で巻かれた巻線で構成したコイルそのものを形成することを特徴とする。
【0011】
また本発明は放熱構造を特徴としたもので、ボビンを挟んで配置される放熱部材を備えたことを特徴とする。このように、熱伝導率の高い材質でボビンを形成したり、放熱部材で挟むことで放熱効率を向上させることができる。更にボビンの外周に食い込み状態で巻線を巻くことで、放熱部材にコイルが接触することを防止でき、絶縁性の問題を解決することもできる。
【0012】
また本発明は巻線をツイスト線、融着多芯線で形成したことを特徴とし、第3過程は、芯棒で固定保持されたボビンにツイスト線又は融着多芯線を巻くことを特徴とする。このように構成することで、一度の巻線によって巻線比1:1のトランスを容易に得ることができる。この場合、1本の線で巻けばチョークコイルになる。また、巻き数を複数回個別に巻くことで任意の巻き数比のトロイダルトランスが得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従えば、剛性を持つ心棒を貫通させた可撓性を有する素材からなるボビンに巻線を巻き、巻き終わったら心棒を抜き取って、ボビンを環状に変形させ端部を結合するだけの作業で良いため、軸回りにボビンを回転させるだけで巻線作業ができ、巻線作業が簡単になるとともに、トロイダル形状への変形も容易に行えるという効果が得られる。
【0014】
また、端部の結合はボビンの一端に嵌合部を設け、他端にその嵌合部と嵌合する嵌合受部を形成しておけばボビンが可撓性を有することから、容易に環状に形成することができる。
【0015】
また、ボビンの断面形状を楕円、矩形などの任意の形状とすることも容易であり、形状の自由度が大きいことから実装効率が良くなると言う効果を有する。
【0016】
また、ボビンに熱伝導率の高い素材を用いれば放熱効率を向上させることができる。
【0017】
また、ボビンに柔らかい素材を用いることによって、巻線をボビンの外周に食い込むように巻くことができ、この場合はボビンに放熱板で挟む構造としてもコイルが損傷しないという効果を有する。
【0018】
また、巻線にツイスト線あるいは融着多芯線を用いることによって容易にトランスとすることができるという効果を有する。
【0019】
また、柔らかい素材でボビンを構成したので、振動に対しても強く、シリコンゴムでボビンを形成すればシリコンとの融着性も向上して強固に固定でき、電源全体をポッティングすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は本発明を適用したトロイダルコアの製造工程を示す図であり、図1(A)は第1行程を示す図であり、例えばシリコンゴムのように可撓性を有し非磁性の物理的性質を有する素材で棒状のボビン10を形成し、棒状のボビン10の一端に例えばキノコ状の嵌合部12を設け、他端にその嵌合部12と嵌合する嵌合受部14を形成している。
【0021】
図1(B)は第2行程を示す図であり、棒状のボビン10に巻線が巻くときボビン10は可撓性があり巻線の作業性が悪いので、剛性を有する芯棒20をボビン10挿入することでボビン全体に剛性を持たせ、巻線作業を容易にしている。図1(C)は第3行程を示す図であり、剛性を持たせたボビン10に線を巻いて巻線22を形成する。この場合、巻線22は芯棒20で固定保持されたボビン10に食い込むように巻き付けても良い。巻線22を巻く場合、芯棒20で固定保持されたボビン10にツイスト線又は融着多芯線を巻いても良く、1本の線で巻いた場合はチョークコイルになり、ツイスト線又は融着多芯線で巻いた場合は巻線比1:1のトランスになるが、巻線比の違うものが必要な場合は別途必要な巻線を設ければよい。
【0022】
図1(D)は第4行程を示す図であり、巻線が終了したら心棒20を抜き外す。図1(E)は第5行程を示す図であり、芯棒20を抜き外すと素材が可撓性を有するため容易に環状にすることができることから、嵌合部12を嵌合受部14に嵌合させることで、トロイダルコイル24が形成される。
【0023】
なお、芯棒20を通し易くするために嵌合部12から嵌合受部14まで貫通孔を設けても良い。
【0024】
図2は他の実施態様を示す図であり、図1(A)において嵌合部12はキノコ状のものを一つだけ形成しているが、図2に示すように複数形成すれば、復元力の強い素材を用いても結合状態を確保しやすい。
【0025】
このようにして構成したトロイダルコイルはボビン10を用いているが、ボビン10は非磁性体を用いているため、磁性材料を用いたものに比べると漏れ磁束が多く結合も良くないが、トロイダル形状にすることでこれらの欠点をカバーできる。またスイッチング電源のスイッチング周波数を数MHz以上にした場合、磁性材料を用いたものでは鉄損が増加したり、透磁率が低下したりするので実際には数MHz以上のスイッチング周波数を使用できないことが多いが、本願発明のように磁性体を用いないことから鉄損が発生せず、透磁率低下の問題も起きないので、従来は用いることが困難であった高い周波数のいスイッチング電源を構成することが容易になる。
【0026】
図3は他の実施態様を示す図であり、トロイダルコイルを製作する場合、円筒形のものは製作しにくいが、ボビン10の形状は自在に形成できるので、断面が扁平のボビン10を使用すれば図3(A)のように円筒形のトロイダルコイル24も容易に形成できる。このように円筒形にして面積を小さくして実装効率を上げることができる。図3(B)は図3(A)の部分断面図であり、この例では楕円形の断面を有しているが、長方形断面あるいは任意の断面形状にしても良い。
【0027】
この場合、図示していないが嵌合部、嵌合受部はボビン10の一端及び他端にそれぞれ複数箇所形成しておけば嵌合性が確実になる。
【0028】
ボビン10は可撓性を有するために任意形状に変形でき、例えば図4のように自在な形状にすることもできるので、実装スペースに合わせた形とすれば、装置内の空きスペースに実装でき、実装効率も良くなる。この場合、密閉空間に収容すると放熱の問題が発生するようで有れば、ボビン10を熱伝導率の高いものとし、ボビン10を筐体などの放熱効果の高いものに接触させることで放熱の問題を解決できる。更に発熱が問題になるようで有れば、耐熱性あるいは難燃性の素材、あるいは熱によって物理組成の変化しにくい材料を用いることも考えられる。
【0029】
図5は他の実施例を示す図であり、熱伝導率の高い棒状のボビン10の外周に食い込むように巻線22を巻き付けた後にボビン10を環状に形成したトロイダルコイルである。図6は図5のように構成したトロイダルコイルのボビン10を放熱板26と基板28によって挟み込み、放熱効果を向上させるものであり、巻線22が放熱板26に直接接触しないので、絶縁が確保しやすい。またこの場合、基板28もボビン10と接触する部分に銅箔を残しておけばより放熱効果が期待できる。この基板28は渦電流による損失を減らすため、電気抵抗が高いものが望ましく、また熱抵抗の小さいものを使用することで放熱効果を期待できる。
【0030】
また、また、柔らかい素材でボビンを構成しているので、振動に対しても強い。更にシリコンゴムでボビンを形成すればシリコンとの融着性も向上して強固に固定でき、電源全体をポッティングすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】製造工程を示す図
【図2】ボビンの他の実施態様を示す図
【図3】円筒形のボビンを形成する説明のための図
【図4】任意形状のボビンを形成する説明のための図
【図5】ボビンの外周に食い込み状態で巻線を巻いたトロイダルコイルを示す図
【図6】ボビンの外周に食い込み状態で巻線を巻いたトロイダルコイルを放熱板と基板で挟み込んだ状態を示す図
【図7】従来のトロイダルコイルを示す斜視図
【符号の説明】
【0032】
10: ボビン
12: 嵌合部
14: 嵌合受部
16: 貫通孔
20: 芯棒
22: 巻線
24: トロイダルコイル
26: 放熱板
28: 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性及び非磁性をもつ素材により棒状のボビンを形成する第1過程と、
前記ボビンに剛性をもつ芯棒を貫通する第2過程と、
前記芯棒で固定保持されたボビンに巻線を巻く第3過程と、
前記巻線を巻いたボビンから芯棒を抜き外す第4過程と、
前記芯棒を抜いたボビンの両端を連結して環状に形成する第5過程と、
を備えたことを特徴とする空芯トロイダルコイルの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の空芯トロイダルコイルの製造方法に於いて、前記第1過程は、前記棒状のボビンの一端に嵌合部と嵌合受部を形成することを特徴とする空芯トロイダルコイルの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の空芯トロイダルコイルの製造方法に於いて、前記第1過程は、前記棒状のボビンの断面形状を楕円又は矩形を含む任意の形状に形成することを特徴とする空芯トロイダルコイルの製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の空芯トロイダルコイルの製造方法に於いて、前記第1過程は、更に熱伝導率の高い素材により前記棒状のボビンを形成することを特徴とする空芯トロイダルコイルの製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の空芯トロイダルコイルの製造方法に於いて、前記第3過程は、前記巻線を前記芯棒で固定保持されたボビンの外周に食い込むように巻き付けることを特徴とする空芯トロイダルコイルの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の空芯トロイダルコイルの製造方法に於いて、前記第3過程は、前記芯棒で固定保持されたボビンにツイスト線又は融着多芯線を巻くことを特徴とする空芯トロイダルコイルの製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の空芯トロイダルコイルの製造方法に於いて、前記第3過程は、前記芯棒で固定保持されたボビンにトランス製造時は複数本の巻線を巻き、チョークコイル製造時は1本の巻線を巻くことを特徴とする空芯トロイダルコイルの製造方法。
【請求項8】
可撓性及び非磁性をもつ棒状の素材の両端を連結して環状に形成したボビンと、
前記ボビンの外周に食い込み状態で巻かれた巻線と、
を備えたことを特徴とするトロイダルコイル。
【請求項9】
請求項8記載のトロイダルコイルに於いて、更に、前記ボビンを挟んで配置される放熱部材を備えたことを特徴とするトロイダルコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−147821(P2006−147821A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335502(P2004−335502)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000103208)コーセル株式会社 (80)