説明

空調機器の脱落防止金具

【課題】吊りボルトのナットの緩みや、締め忘れがあったとしてもワンタッチで確実に空調室内機の取付金具と吊りボルトとを固定できる脱落防止金具を提供する。
【解決手段】取付金具1の装着時に取付用切欠溝5を閉塞する垂直片11と、垂直片11の両端から同方向に延出された水平片12,13と、両水平片12,13の先端から垂直片11に向け、前記取付用切欠溝5に合わせて形成され、取付金具1に装着された時に前記取付用切欠溝5と重なり合って吊りボルト6の挿通空間を構成する固定用切欠溝15と、一方の水平片13に設けられ、該水平片13から垂直片11に向って切り起こされ、取付金具1に装着された時にその先端16が取付金具1の折曲片4に係合する係合片17とで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震のような大きな揺れが建物に入力した際に、空調室内機の取付金具に取り付けられた天井からの吊りボルトが、前記取付金具から脱落するようなことがない空調機器の脱落防止金具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりビルやマンションのような建築物の天井スラブに埋設されたアンカー或いは一般家屋の天井部分から吊りボルトを垂下させ、防振金具を介して空調室内機の側面に取り付けられた取付金具に吊りボルトの下端部を取り付けて空調室内機をシステム天井に一致させて設置していた。
【0003】
取付金具の形状は、空調室内機メーカーによって異なるが基本的には空調室内機の側面に取り付けられる金具本体と、金具本体の上端から屈曲されて水平に延びる水平取付片並びに該水平取付片の先端を下向きに折曲した折曲片とで構成されており、折曲片から水平取付片の中央に至る切欠溝が形成されている。そして、この切欠溝に側方から吊りボルトの下端部分を挿入し、水平取付片を上下からナット締めをして固定するようにしていた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−75240 図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
処がこのような空調室内機の設置部分は作業者の手が届きにくい高い天井部分にあって、水平取付片を上下から確実にダブルナット掛けをして固定するという作業が必ずしもなされないこともあり、或いは長期間の間に緩むということもあり、単に、空調室内機の四側面が取付金具によって吊りボルトに係止されているだけということもあった。
【0006】
このような状況で建物に大きな地震が入力すると建物全体が大きく揺れ、水平方向及び垂直方向において天井スラブと空調室内機との間に大きな相対変位と取付部分に大きな力が加わり、前記切欠溝から吊りボルトが外れ、空調室内機が室内に転落するというような事故があった。
【0007】
本発明はこのような従来の問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、たとえダブルナットの緩みや、締め忘れがあったとしてもワンタッチで確実に吊りボルトと取付金具とを固定できる脱落防止金具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の脱落防止金具(10)は、
(a)空調室内機(M)の側面に取り付けられる金具本体(2)と、金具本体(2)の上端から屈曲されて水平に延びる水平取付片(3)並びに該水平取付片(3)の先端を折曲した折曲片(4)とで構成され、折曲片(4)から水平取付片(3)の中央に至る吊りボルト(6)の取付用切欠溝(5)が形成され、取付用切欠溝(5)に吊りボルト(6)が取り付けられている空調室内機(M)用の取付金具(1)に装着するための脱落防止金具(10)であって、
(b)取付金具(1)に装着された時に取付用切欠溝(5)を閉塞する垂直片(11)と、
(c)垂直片(11)の両端から同方向に延出された水平片(12)(13)と、
(d)両水平片(12)(13)の先端から垂直片(11)に向け、前記取付用切欠溝(5)に合わせて形成され、取付金具(1)に装着された時に前記取付用切欠溝(5)と重なり合って吊りボルト(6)の挿通空間(6a)を構成する固定用切欠溝(14)(15)と、
(e)一方の水平片(13)に設けられ、該水平片(13)から垂直片(11)に向って切り起こされ、取付金具(1)に装着された時にその先端(16)が取付金具(1)の折曲片(4)に係合する係合片(17)とで構成されたことを特徴とする。
【0009】
請求項2は請求項1の他の例(図1〜7)で、「係合片(17)が設けられている水平片(13)の先端から他方の水平片(12)の先端に向けて屈曲片(18)が形成されており、屈曲片(18)と他方の水平片(12)との間に取付金具(1)の少なくとも水平取付片(3)が通過可能な間隙(19)が設けられている」ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の脱落防止金具(10)では、取付金具(1)に装着された時に取付用切欠溝(5)を閉塞する垂直片(11)の両端から同方向に水平片(12)(13)が延出され、この水平片(12)(13)に金具本体(2)の取付用切欠溝(5)に合わせて固定用切欠溝(14)(15)が形成されているので、取付金具(1)に取り付けられた吊りボルト(6)は取付金具(1)に装着された時に前記取付用切欠溝(5)と重なり合って吊りボルト(6)の挿通空間(6a)内を挿通することになり、しかもその時に係合片(17)が取付金具(1)の折曲片(4)に係合することになるので、如何に大きな地震が入力しても係合片(17)が取付金具(1)の折曲片(4)から外れない限り、脱落防止金具(10)が取付金具(1)から脱落することがなく、従って吊りボルト(6)が取付金具(1)から抜け出ることがない。
【0011】
そして、取付金具(1)に脱落防止金具(10)を装着する時には空調室内機(M)の方向に脱落防止金具(10)を押し込んで係合片(17)を撓ませ、係合片(17)を折曲片(4)に係合するだけでよいので、ワンタッチで取付金具(1)に脱落防止金具(10)を確実に装着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の脱落防止金具の装着前の斜視図である。
【図2】本発明の脱落防止金具の装着時の斜視図である。
【図3】(a)は図2の側面図であり、(b)はその変形例の側面図である。
【図4】図2の正面図である。
【図5】本発明の脱落防止金具の平面図である。
【図6】図5の側面図である。
【図7】図5を斜め下方から見上げた斜視図である。
【図8】本発明の他の脱落防止金具の装着前の斜視図である。
【図9】図8における脱落防止金具装着時の一部切欠側面図である。
【図10】本発明の他の脱落防止金具の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第1実施例を図1〜7に従って説明する。本発明に係る脱落防止金具(10)が適用される取付金具(1)は、空調室内機(M)の側面に装着され、吊りボルト(6)が取り付けられるものである。形状は空調機メーカーによってさまざまなものがあるが、基本的には1枚の金属板をプレス成形のみ或いはこれに折り曲げ加工を併用して形成したもので、空調室内機(M)の側面に取り付けられる金具本体(2)と、金具本体(2)の上端から屈曲されて水平に延びる水平取付片(3)並びに該水平取付片(3)の先端を下向き(即ち、金具本体(2)側)に折曲した折曲片(4)とで構成され、折曲片(4)から水平取付片(3)の中央に至る吊りボルト(6)の取付用切欠溝(5)が形成されている。折曲片(4)は上記のように空調室内機(M)を装着した場合に通常は下向きに取り付けられるが、勿論、折曲片(4)を上向きに取り付けてもよく、本発明に係る脱落防止金具(10)はその場合でも対応可能である。
【0014】
取付用切欠溝(5)の形状は吊りボルト(6)と空調室内機(M)との位置調整を容易にするために溝奥が溝入口に対して両方向に直角に切り取られたT字状に形成されている。そして、折曲片(4)は吊りボルト(6)に螺着されたナット(20)が脱落しないだけの十分な高さを持っている。
【0015】
脱落防止金具(10)も取付金具(1)同様に1枚の金属板をプレス成形のみ或いはこれに折り曲げ加工を併用して形成したもので、垂直片(11)と、垂直片(11)の両端から同方向に延出した水平片(12)(13)と、水平片(12)(13)の先端から垂直片(11)に向けて形成された固定用切欠溝(14)(15)と、一方の水平片(13)に設けられ、該水平片(13)から垂直片(11)に向って切り起こされ、取付金具(1)に装着された時にその先端(16)が取付金具(1)の折曲片(4)に係合する係合片(17)と、係合片(17)が設けられている水平片(13)の先端から他方の水平片(12)の先端に向けて屈曲された屈曲片(18)とで構成されている。
【0016】
そして、屈曲片(18)と他方の水平片(12)との間には取付金具(1)の少なくとも水平取付片(3)が通過可能な間隙(19)が設けられている。
【0017】
垂直片(11)は長方形でその内のりの高さ(H)は、図3(a)(b)及び図6に示すように装着時に折曲片(4)が内側に収納できる高さとなっている。これに対して屈曲片(18)の高さ(h)は垂直片(11)に比べて若干低く、上側の水平片(12)との間に取付金具(1)の水平取付片(3)(又は折曲片(4))が通過可能な間隙(19)が設けられている。なお、図3(b)のように脱落防止金具(10)内にナット(20)を収納し、取付金具(1)の水平取付片(3)の下面にナット(20)を当接させるような場合には、ナット(20)が収納できる高さにすることになる。
【0018】
上側に位置する一方の水平片(12)は矩形状のもので、その先端から中央に向けて固定用切欠溝(14)が切り欠かれている。固定用切欠溝(14)は図5に示すように開口部から溝奥に向けて次第に幅が狭くなり、溝奥では半円状となっている。
【0019】
一方、下側に位置する反対側の水平片(13)も矩形状のもので、前記上側の水平片(12)より若干長く、その先端は前記水平片(12)の先端に向けて屈曲されている。この屈曲部分が屈曲片(18)である。そしてこの屈曲片(18)の先端から水平片(13)の中央に向けてもう一つの固定用切欠溝(15)が形成されている。固定用切欠溝(14)(15)は図5で平面視、実線で示すように同一形状でもよい。その場合は図2に示すように、下側の水平片(13)の固定用切欠溝(15)がナット(20)より幅が狭く、下側の水平片(13)にナット(20)が当接する。
【0020】
逆に、図5の2点鎖線で示すように上側の水平片(12)側の固定用切欠溝(14)を下側の水平片(13)の固定用切欠溝(15)より幅狭に設け、下側の水平片(13)の固定用切欠溝(15)はナット(20)が十分に嵌り込むだけの大きさとするようにしてもよい。その場合は、図3(b)に示すように上側の水平片(12)の下面にナット(20)が当接するようになる。
【0021】
屈曲片(18)は図3から分かるように、垂直片(11)より若干低く、上側の水平片(12)の先端との間で取付金具(1)の水平取付片(3)(又は折曲片(4))が通過可能な間隙(19)が設けられている。
【0022】
係合片(17)は下側の水平片(13)の両側辺部にL形の切り溝(17a)が刻設されており、垂直片(11)に向かって切り起こされている。切り起こしの先端(16)と上側の水平片(12)との距離(S2)が、折曲片(4)の高さ(S1)より小さい。該距離(S2)が狭いほど取付金具(1)の水平取付片(3)にその先端(16)が近接することになり、屈曲片(18)と協働して脱落防止金具(10)のガタつきを抑制する。また、前記先端(16)と垂直片(11)との間にも少なくとも折曲片(4)が十分嵌り込むだけの間隙が設けられている。
【0023】
しかして、空調室内機(M)を吊りボルト(6)に取り付けるに当っては、図1に示すように空調室内機(M)を天井の所定の高さで保持し、天井スラブから吊下げられた吊りボルト(6)の下端部を空調室内機(M)の側面に取り付けられた金具本体(2)の水平取付片(3)に設けた取付用切欠溝(5)に側方から挿入する。吊りボルト(6)には所定の間隔をあけて上下にナット(20)(21)が螺入されており、水平取付片(3)の挿入は上下のナット(20)(21)間である。勿論、下側のナット(20)だけでも良い。ここでは上下両側のナット(20)(21)を使用する例を示す。
【0024】
この状態で脱落防止金具(10)を水平取付片(3)に対してセットし、次いで水平取付片(3)方向に水平に移動させ、脱落防止金具(10)の隙間(19)に水平取付片(3)を通し、取付用切欠溝(5)と固定用切欠溝(14)(15)とが一致したところで脱落防止金具(10)を空調室内機(M)方向に押し込む。この押し込みに合わせて係合片(17)が折曲片(4)の先端に接触して水平片(13)方向に撓み、折曲片(4)を過ぎたところで係合片(17)の弾性により起き上がり、折曲片(4)に係合する。これによって固定用切欠溝(14)(15)と取付用切欠溝(5)とが重なり合って吊りボルト(6)の周囲を取り囲む挿通空間(6a)が形成される。
【0025】
然る後、図3のように取付金具(1)に装着された脱落防止金具(10)の上下両側においてナット(20)(21)を締め(或いは下側のナット(20)だけを締め)、天井の所定高さ位置に空調室内機(M)を吊設する。
【0026】
この状態で前述のような地震に見舞われ、空調室内機(M)が大きく揺れて吊りボルト(6)が取付金具(1)の取付用切欠溝(5)の開口側に向かって移動しようとしても、吊りボルト(6)が挿通空間(6a)内において脱落防止金具(10)の少なくとも固定用切欠溝(14)(15)のいずれかに当接して脱落防止金具(10)を前記取付用切欠溝(5)の開口側に向かって移動させようとするが、この時、係合片(17)が折曲片(4)に当接して脱落防止金具(10)のそれ以上の移動を阻止する。これにより確実に吊りボルト(6)の取付金具(1)からの脱落を確実に防止することができる。
【0027】
次に、その変形例として固定用切欠溝(15)が図5の2点鎖線で示すように下側のナット(20)より幅が大きい場合では、予め、空調室内機(M)を天井の所定の高さに下側のナット(20)で調節しておいて吊りボルト(6)に吊設し、その状態で前述のように脱落防止金具(10)を水平取付片(3)に向かって水平方向に移動させ、取付用切欠溝(5)と固定用切欠溝(14)(15)とが一致したところで空調室内機(M)側に脱落防止金具(10)を押し込むと前述の作用で脱落防止金具(10)が取付金具(1)に装着される。然る後、上側のナット(21)が吊りボルト(6)に螺入されている場合にはこれを締め込んで固定する。このようにすれば脱落防止金具(10)の装着前に空調室内機(M)の高さ設定を完了させておくことが出来より好ましい。この場合、図3(b)ではナット(20)が脱落防止金具(10)内に収納されるようになっているが、勿論、これに限られず、ナット(20)が下側の固定用切欠溝(15)に嵌り込むようにし、下側の水平片(13)からナット(20)の一部が覘くようにしてもよい。
【0028】
次に、図8〜10に従って第2実施例を説明する。重複する箇所は煩雑さを避けるため第1実施例の説明を援用する。この場合は、図10に示すように、脱落防止金具(10)に屈曲片(18)を設けない場合である。そして、前述の変形例で示したように、取付金具(1)の水平取付片(3)に吊りボルト(6)を取り付け、少なくとも下側のナット(20)で天井の所定の高さに空調室内機(M)を設置する。この場合は、屈曲片(18)がないので、図8に示すように脱落防止金具(10)の固定用切欠溝(14)(15)と水平取付片(3)の取付用切欠溝(5)とを一致させた状態で空調室内機(M)に向かって脱落防止金具(10)を移動させると前述の作用によりワンタッチで係合片(17)が折曲片(4)に係合し、これによって固定用切欠溝(14)(15)と取付用切欠溝(5)と重なり合って吊りボルト(6)の周囲を取り囲む挿通空間(6a)が形成され、装着が完了する。この場合も上下の固定用切欠溝(14)(15)の関係は、同じ形状に切欠されるか、下側の固定用切欠溝(15)がナット(20)を超える幅に形成される点は同じである。
【0029】
これにより、ワンタッチで脱落防止金具(10)が取付金具(1)に装着でき、しかも地震に遭遇しても空調室内機(M)の室内への落下を確実に防止できる。
【符号の説明】
【0030】
(M)・・・空調室内機
(1)・・・取付金具
(2)・・・金具本体
(3)・・・水平取付片
(4)・・・折曲片
(5)・・・取付用切欠溝
(6)・・・吊りボルト
(6a)・・挿通空間
(10)・・・脱落防止金具
(11)・・・垂直片
(12)(13)・水平片
(14)(15)・固定用切欠溝
(16)・・・係合片の先端
(17)・・・係合片
(18)・・・屈曲片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調室内機の側面に取り付けられる金具本体と、金具本体の上端から屈曲されて水平に延びる水平取付片並びに該水平取付片の先端を折曲した折曲片とで構成され、折曲片から水平取付片の中央に至る吊りボルトの取付用切欠溝が形成され、取付用切欠溝に吊りボルトが取り付けられている空調室内機用の取付金具に装着するための脱落防止金具であって、
取付金具に装着された時に取付用切欠溝を閉塞する垂直片と、
垂直片の両端から同方向に延出された水平片と、
両水平片の先端から垂直片に向け、前記取付用切欠溝に合わせて形成され、取付金具に装着された時に前記取付用切欠溝と重なり合って吊りボルトの挿通空間を構成する固定用切欠溝と、
一方の水平片に設けられ、該水平片から垂直片に向って切り起こされ、取付金具に装着された時にその先端が取付金具の折曲片に係合する係合片とで構成されたことを特徴とする脱落防止金具。
【請求項2】
係合片が設けられている水平片の先端から他方の水平片の先端に向けて屈曲片が形成されており、屈曲片と他方の水平片との間に取付金具の少なくとも水平取付片が通過可能な間隙が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の脱落防止金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−96649(P2013−96649A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240267(P2011−240267)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000224994)特許機器株式会社 (59)