説明

窒化アルミニウム焼結体及びそれを用いた接合体

【目的】 従来に比べて信頼性に優れたパワーモジュール用基板等の回路基板の製造が可能となる窒化アルミニウム焼結体の提供。
【構成】 窒化アルミニウムとアルミン酸イットリウムとを特定割合で含有してなる窒化アルミニウム焼結体及びそれと銅板との接合体。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、回路基板特にパワーモジュール用基板として銅板等の厚い金属板を接合する際に使用される窒化アルミニウム焼結体及びそれを用いた接合体に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、産業機器の高性能化に伴い、大電力・高能率インバーター等パワーモジュールの変遷が進んでおり、半導体素子から発生する熱も増加の一途をたどっている。特に、近年、熱伝導性・電気絶縁性に優れ、しかも熱膨張係数がシリコンのそれに近い窒化アルミニウム基板の出現により、基板上に金属板特に銅板を接合し回路を形成後、そのまま銅板上に半導体素子を搭載する構造も採用されつつある。
【0003】従来、窒化アルミニウム基板に銅板を接合するには、銅板と窒化アルミニウム基板とを直接接合する、いわゆるDBC 法、及び銅板と窒化アルミニウム基板との間にTi、Zr等の活性金属を含むろう材を介在させて接合する、いわゆる活性金属ろう付け法がある。このうち、活性金属ろう付け法は、延性をもつ接合層が銅板と窒化アルミニウム基板間に存在するため、両者の熱膨張係数の差に起因する応力を緩和しやすく、ヒートサイクル・ヒートショック等の信頼性を低下させる原因となる基板のクラックの発生が起こりにくいので広く利用されているが、最近の電子部品の高性能に伴い、さらに高い信頼性が求められている。
【0004】一方、窒化アルミニウムのもつ優れた熱伝導性を発現させるため、従来から酸化イットリウムなどのイットリウム化合物を添加することが行われている。しかし、窒化アルミニウムを基板として使用するには、その表面状態も重要なポイントとなるが、一般に市販されている窒化アルミニウム粉の酸素量は、通常1.0重量%以上であるため、高熱伝導性を発現させるには、多量のイットリウム化合物を必要とする。そのため、生成する液相量が多くなり、緻密化に際し多量の液相が表面に押し出され、結果的に表面酸化物量が多くなると共にその存在状態も不規則なため、良好な表面状態が得にくいという問題があった。
【0005】また、上記のように表面に酸化物量が多い基板を、とくにパワーモジュールに使用した場合、弱い酸化物相からクラックが発生するという考えから、できるだけ表面酸化物の少ない基板が一般に使用され、本来の窒化アルミニウム基板のもつ優れた熱伝導性を充分に発揮できていないのが現状である。
【0006】ある一定量の酸素を有する窒化アルミニウム粉にイットリウム化合物の添加量を順次増加していくと、熱伝導率は向上し、酸化物相は、順次、3Y2O3・5Al2O3 、(3Y2O3・5Al2O3 +Y2O3・Al2O3 )、Y2O3・Al2O3 、(Y2O3・Al2O3 +2Y2O3・Al2O3 )と変化していき、その量も増加する。そのため、とくに信頼性を低下させるクラックの発生要因として従来考えられてきた表面酸化物量も増加することとなり、それを抑えるためには、添加量を少なくして3Y2O3・5Al2O3 の構成相が生成している基板を使用し、熱伝導率をある程度犠牲にするか、もしくは基板の内部を表面に比べて酸化物量が少ないという性質を利用し、厚み方向に基板をかなりの量まで除去したものを使用して経済性を犠牲にするしかなかった。
【0007】また、高い熱伝導性を有しつつ、しかも酸化物量を抑える方法としては、低酸素含有量の窒化アルミニウム粉を使用する方法もあるが、現状の技術レベルを考慮した場合、入手が困難であり、仮に入手できたとしても、はなはだ高価であるため、経済性に劣るという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】以上のような状況に鑑み、本発明者らは、主にパワーモジュール用基板として耐ヒートサイクル性・耐ヒートショック性を従来よりもさらに向上させた窒化アルミニウム基板を開発することを目的として鋭意検討を重ねた結果、熱伝導性向上効果のあるイットリウム化合物を添加して製造された窒化アルミニウム焼結体であって、ある特定構成相からなるものは上記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成したものである。
【0009】すなわち、本発明は、以下を要旨とする窒化アルミニウム焼結体及びそれを用いた接合体である。
(請求項1) 窒化アルミニウムとアルミン酸イットリウムを構成相としてなり、次の(1)〜(3)の関係を有してなることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
(1)アルミン酸イットリウムが3Y2O3・5Al2O3 とY2O3・Al2O3 からなること。
(2)焼結体の厚み方向に5μmまでの範囲で除去した表面を粉末X線回折法にて測定した際、窒化アルミニウムの101 反射の強度I101 、3Y2O3・5Al2O3 の400 反射の強度I400 、及びY2O3・Al2O3 の121 反射の強度I121 の間に以下の関係があること。
0.02≦I400 /I101 ≦0.18 及び 0.01 ≦I121 /I101 ≦0.45(3)焼結体の粉砕物の粉末X線回折法により測定した結果が以下の関係にあること。
0.01≦I400 /I101 ≦0.06 、 0.02 ≦I121 /I101 ≦0.20 及び0.07≦(I400 /I101 )+(I121/I101 )≦0.21(請求項2) 請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体と銅板とを一体化してなることを特徴とする接合体。
【0010】以下、さらに詳しく本発明について説明する。
【0011】本発明者らは、窒化アルミニウム基板表面ならびに内部に存在する酸化物相、具体的には、3Y2O3・5Al2O3 と3Y2O3・5Al2O3 及びY2O3・Al2O3 を有する窒化アルミニウム基板を種々作製し、銅板を活性金属ろう付け法にて接合し回路を形成後、信頼性試験を実施し基板のクラック発生状況を検討したところ、従来考えられてきた表面酸化物が多い程、クラックが発生しやすいということが必ずしも正しくないことを見い出した。
【0012】従来、3Y2O3・5Al2O3 とY2O3・Al2O3 が共存する窒化アルミニウム基板は、3Y2O3・5Al2O3 のみを含む基板に比べて熱伝導性は優れるが表面酸化物量が多くなるため、パワーモジュール用基板には向かないものと考えられてきた。しかし、本発明者らは、たとえ酸化物量が多くなったとしても、3Y2O3・5Al2O3 とY2O3・Al2O3 がある一定量の範囲にあると、逆に耐ヒートサイクル性・耐ヒートショック性が優れ、高い信頼性を有するパワーモジュール用基板が得られることを見い出したのである。
【0013】本発明において、アルミン酸イットリウムとは、窒化アルミニウム粉が含有する酸素とイットリウム化合物が反応してなるイットリウムとアルミニウムと酸素を構成元素とした化合物である。通常、窒化アルミニウム粉は少量の金属不純物を含み、さらに焼成工程でも不純物が加わるが、これらの不純物がアルミン酸イットリウムに固溶等により取り込まれた場合も、本発明においてはすべてアルミン酸イットリウムとみなす。
【0014】また、本発明においては、アルミン酸イットリウムを3Y2O3・5Al2O3 とY2O3・Al2O3 に限定しているが、これらY2O3−Al2O3 系の反応では、一部反応が不均一なため2Y2O3・Al2O3 相の生成も起こり得るが、本発明においては、X線回折法にて2Y2O3・Al2O3 の存在を確認できない量の範囲においては、その存在を何ら制限するものではない。
【0015】本発明において、窒化アルミニウム焼結体に含まれる3Y2O3・5Al2O3 とY2O3・Al2O3 の含有量を規定しているが、その方法は以下のとおりである。■まず、窒化アルミニウム焼結体の表面を粉末X線回折法にて測定する。その方法は通常行われている方法でよく、その一例を示せば、X線源としてCuを使い、測定条件は以下のとおりである。
電圧 電流:40KV 30mASLITS :DS 1°、RS 0.15mm 、SS 1°走査速度:2deg /分
【0016】■各構成相の存在量の数値化は次の規準で行う。窒化アルミニウムの101 反射のピーク高さ又はピークの積分強度値をI101 、3Y2O3・5Al2O3 の400 反射又はピークの積分強度値をI400 、Y2O3・Al2O3 の121 反射又はピークの積分強度値をI121 としたとき、3Y2O3・5Al2O3 量をI400 /I101 、Y2O3・Al2O3 量をI121 /I101 として数値化する。ただし、ピーク高さを用いる場合は、すべての相についてそのようにしなければならないし、ピークの積分強度値を用いる場合は、すべてをそれに統一しなければならない。
【0017】本発明において、パワーモジュール基板として銅板を接合し、回路形成後、ヒートサイクル試験やヒートショック試験等の信頼性試験において、優れた信頼性を示す領域は、焼成後に焼結体の表面を研削・研磨等の手段により厚み方向に5μmまでの範囲内で除去したいずれかの表面を粉末X線回折法にて測定した際に、0.02≦I400 /I101 ≦0.18 及び 0.01≦I121 /I101 ≦0.45の関係を有し、しかも窒化アルミニウム焼結体の粉砕後の粉末について粉末X線回折法により測定した結果が、以下の関係にある場合である。
0.01≦I400 /I101 ≦0.06 、 0.02 ≦I121 /I101 ≦0.20 及び0.07≦(I400 /I101 )+(I121/I101 )≦0.21
【0018】なお、本発明において、X線回折の測定を焼結体の5μmまでの表面及び粉砕後の粉末について行っているのは、前者では焼結体表面及びその近傍の酸化物量を、後者では全体の酸化物量をつかむためである。本発明では、焼結体表面と粉末の酸化物量を測定した場合、とくに表面酸化物量の最大値が粉末の最大値よりも大きいという特徴、すなわち表面の酸化物の存在量が内部よりも多いという特徴がある。
【0019】本発明の窒化アルミニウム焼結体は上記酸化物相により構成され、しかも酸化物量が上記の範囲にあることが何故、信頼性を向上させるかは未だ明かではなく、本発明者らは、これらの相と窒化アルミニウム粒子との高温時における濡れ性の点や、酸化物相とろう材中に含まれているTi、Zrなどの活性金属との反応性の点から検討を進めている。
【0020】以下、上記窒化アルミニウム焼結体と銅板を接合して製造された基板、とくにパワーモジュール用基板として用いられる接合体について説明する。
【0021】(原料混合工程)本発明の表面及び内部での酸化物量を有する窒化アルミニウム焼結体を得るには、成形体の焼成条件を充分検討しなければならないが、基本的には、原料混合段階での窒化アルミニウム粉とイットリウム化合物の混合比に大きく左右される。窒化アルミニウム粉は、広範囲の酸素含有量を有するものが市販されており、3Y2O3・5Al2O3 とY2O3・Al2O3 を生成させるには、原料の酸素量に応じてイットリウム化合物を添加すればよいが、酸化物相を所定量生成させるには、窒化アルミニウム粉の酸素量に応じてイットリウム化合物の添加量を調節する。
【0022】本発明では、酸素量が0.8 〜1.5 重量%の窒化アルミニウム粉を使用することが好ましい。なぜなら、酸素量が1.5 重量%を越える原料粉を使用すると、上記酸化物相を生成させるには、多量のイットリウム化合物を添加せねばならず、これにより得られる焼結体は、本発明の酸化物量の上限を越え、クラックが発生しやすくなると共に、銅板等の金属板を接合した際、金属板との接合強度が低くなりやすいからである。一方、酸素量が0.8 重量%未満の原料粉を使用した場合、イットリウム化合物を少なくすることで上記2相を生成することができるが、酸化物量は本発明の範囲外となり、パワーモジュール用基板とし使用した場合、クラックが発生しやすくなる。
【0023】本発明において使用されるイットリウム化合物とは、具体的にはイットリウムの酸化物、フッ化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩等があげられるが、とくに酸化イットリウムが好適である。ここで、酸化イットリウムを例にとり、その添加量を具体的に説明すると、酸素量が0.8 重量%の窒化アルミニウム粉に対しては、窒化アルミニウム粉と酸化イットリウム粉の総量中、酸化イットリウム粉が3.0 〜4.0 重量%となるように、一方、酸素量が1.2 重量%の原料粉に対しては4.0 〜5.0 重量%となるように、また酸素量が1.5 重量%の原料粉に対しては5.0 〜6.0 重量%となるように添加する。
【0024】本発明では、混合段階で有機成分を添加するが、成形方法たとえばプレス成形法とシート成形法では添加する有機成分が異なる。本発明は成形法には限定されるものではないが、とくに経済性を考慮した場合にはシート成形法が好ましい。
【0025】シート成形を行うためのスラリー調整について説明すると、窒化アルミニウム粉と酸化イットリウム粉との合計100 重量部に対し、有機結合剤、可塑剤、分散剤、溶剤を加える。有機結合剤としては、通常アルミナ基板の製造に用いられているポリビニルブチラール、ポバール、アクリルポリマーなどが使用できる。その添加量をポリビニルブチラールの例で示すと4〜12重量部である。また、可塑剤としてはジブチルフタレートやジオクチルフタレート、分散剤としては、脂肪族エステルが使用され、その量はそれぞれ2〜10重量部、1〜3重量部程度である。さらに溶剤としては、塩素系、ケトン系、芳香族系、アルコール系及びパラフィン系が使用できる。具体例を示すと、トルエン30〜40重量部、イソプロパノール10〜20重量部などである。これらをボールミルポットに投入し、さらにセラミックボールを加え、充分混合しスラリーを調整する。
【0026】(成形工程)上記のように、本発明は成形方法に限定されるものではないが、シート成形法がより好ましく、そのなかでもドクターブレード法が最適である。成形にあたっては、前工程として脱泡を行い、粘度等のスラリー調整を行うことが好ましい。
【0027】(脱脂・焼成工程)成形後のシートはプレス装置にて所定形状に打ち抜かれ、脱脂、焼成される。脱脂条件は、使用した有機結合剤により異なるが、通常は窒素又は空気中もしくは窒素と空気の混合ガス中で行うのがよく、温度も900 ℃を越えない温度、とくに空気を含む雰囲気を使用する場合は600 ℃を越えない温度で行うのが望ましい。空気を含む雰囲気中、600 ℃を越える温度で脱脂を行うと窒化アルミニウムが酸化されやすく、熱伝導率の低下を招くと共に酸素量が増加するため、本発明の窒化アルミニウム焼結体が得られにくくなる。
【0028】脱脂後のシートは焼成工程に移される。その際、焼成条件は本発明の窒化アルミニウム焼結体を得るうえで大きく影響を与えるので注意を要する。本発明で使用される窒化アルミニウム粉の製造方法としては、任意の方法で製造されたもの、例えば金属アルミニウムの直接窒化法、アルミナの還元窒化法、気相合成法等が可能であり、また製造方法により窒化アルミニウムの緻密化温度自体も異なるが、とくに安価に入手できること及び粉の性状が安定していることなどから直接窒化粉又はアルミナ還元窒化粉が好ましい。本発明の窒化アルミニウム焼結体の表面ならびに内部での酸化物量を所定の範囲におさめるためには、焼成温度、保持時間さらには冷却速度の制御が必要である。
【0029】焼成温度は、1800℃以上1950℃以下が望ましい。また、この温度範囲にあっても保持時間によっては表面及び内部での酸化物量は変化するので、本発明の窒化アルミニウム焼結体を得るためには各温度において焼成時間を設定することが望ましい。たとえば、1900℃で焼成する場合は30分保持、1850℃で焼成する場合は1.5 時間保持などである。仮に、1800℃を越えない温度で焼成した場合、緻密化しにくくなると共にたとえ緻密化できたとしても、所定の表面酸化物量を有する窒化アルミニウム焼結体は得られにくくなる。また、1950℃を越える温度で焼成した場合、たとえ焼成時間が短くても粒成長が活発化し、焼成時に存在する液相の表面への移動量が多くなる結果、得られる焼結体の表面酸化物量が過剰になってしまう。なお、焼成時の雰囲気としては非酸化性雰囲気下とくに窒素中で行うのが望ましい。
【0030】本発明の窒化アルミニウム焼結体を得るためには、焼成後の冷却速度の制御がとくに重要である。通常の冷却速度は、焼結体の割れ防止の点から炉冷するので5℃/分以上となる。これに対し、本発明では、温度1700℃までの冷却速度を3℃/分以下好ましくは2℃/分以下とする。3℃/分を越える冷却速度では、本発明の窒化アルミニウム焼結体は得られにくい。
【0031】(表面処理工程)焼成後の焼結体の表面は、従来、過剰な酸化物がその後の物性に悪影響を及ぼすと考えられてきたため、この酸化物を除去することを目的に、また表面粗さを小さくすることを目的に、研削・研磨等の加工が行われ、コスト的にもあわない工程であったが、本発明の窒化アルミニウム基板では、所定量の表面酸化物の存在は、とくにその後のパワーモジュール用基板の信頼性試験ではよい結果をもたらすことから、従来の加工は必要でなくなる。従って、研削量はわずかでよく、例えばセラミックス砥粒などを吹きつけるホーニング処理で充分であり、ブラスト処理や研磨をするにしてもバレル研磨処理でよく、通常、表面から5μmまでの範囲内の研削で充分である。
【0032】(金属板の接合及び回路形成工程)次に、銅板を接合し回路を形成する方法について説明すると、まず、窒化アルミニウム焼結体上にペースト状もしくは箔状の接合材を所定の位置に配置し、さらにそのうえに銅板を搭載する。配置の形態は、その後の回路形成方法によって異なるが、通常、回路を銅板接合後そのまま形成してしまうには、接合材と銅板の両方とも回路状に配置する。また、エッチングにより形成する場合は、接合材は回路状に配置し、銅板は窒化アルミニウム焼結体と同形状のものを搭載する。なお、この接合材には様々な種類があるが、とくに本発明で使用される接合材の組成は、AgとCuもしくはCuを主成分としていることが望ましく、さらにTi、Zrなどの活性金属成分を含有するものが最適である。
【0033】銅板の搭載後、炉内にて加熱接合されて本発明の接合体となる。この際、雰囲気は不活性雰囲気でなければならないが、とくに真空が望ましい。
【0034】エッチングによる回路形成については、銅板が接合された接合体に回路を形成するために、まず回路形状にレジストを塗布後、エッチング液で不要銅板部を除去する。
【0035】(回路基板の評価工程)従来の窒化アルミニウム焼結体を使用した回路基板の問題点である耐ヒートサイクル性・耐ヒートショック性等の信頼性試験時に発生するクラックによる絶縁不良を窒化アルミニウム焼結体の改良により防止したことが本発明の特徴である。
【0036】ここで信頼性試験方法について説明すれば以下のとおりである。
(i) ヒートサイクル試験−40℃、30分保持後、室温にて10分保持、さらに125 ℃にて30分保持する。その後、室温にて10分保持後、再度、−40℃にて30分保持する。これを繰り返す。なお、−40℃及び125 ℃はフロリナート中で実施する。
(ii)ヒートショック試験−40℃にて5分保持後、約2秒にて150 ℃に移す。その温度で5分保持後、再度、約2秒後−40℃にもどす。この操作を繰り返す。
【0037】
【実施例】以下、実施例及び比較例をあげてさらに具体的に本発明を説明する。
【0038】実施例1酸素量が1.2 重量%の窒化アルミニウム粉95重量部、酸化イットリウム粉5重量部、ポリビニルブチラールを8重量部、ジブチルフタレートを4重量部、グリセリントリオレートを1重量部、さらにはトルエンを35重量部、イソプロパノールを15重量部秤量し、これらを内張りがジルコニア製であるボールミルポットに投入し充分混合した。ただし、ボールもジルコニア製のものを使用した。上記スラリーを脱泡槽にかけ、粘度を15000CPSとした後ドクターブレード装置により、厚みが0.75mmのシート状に成形した。
【0039】上記シートをプレス装置にて80mm×40mmの形状に打ち抜き後、各成形体の表面にBN粉を塗布したものを5枚重ね、脱脂炉に投入した。脱脂条件は500 ℃、5時間保持であり、初めの2時間は窒素中で、残りの3時間は空気中で行った。
【0040】その後、脱脂した成形体の焼成を行い、68mm×34mmの焼結体を得た。焼成条件は1850℃で45分保持、窒素常圧下で行い、焼成後1700℃までの冷却速度を1.5 ℃/分とした。得られた窒化アルミニウム焼結体の表面をホーニング処理で2μm除去した。この焼結体について、表面酸化物量ならびに焼結体全体での酸化物量を粉末X線回折装置にて測定した。
【0041】X線走査条件は以下のとおりとし、機器として理学電機社製「ガイガーフレックスRAD-IIB 」を使用した。
X線源 :Cu電圧 電流:40KV 30mA走査速度 :2deg /分スリット :DS 1°、RS 0.15mm 、SS 1°
【0042】また、焼結体を10mmに加工後、レーザーフラッシュ法熱伝導率測定装置にて熱伝導率を測定した。
【0043】次に、上記窒化アルミニウム焼結体に銅板を接合して接合体を得た後、回路を以下の方法により形成した。窒化アルミニウム焼結体の片方の表面には、回路パターン状に、またもう一方の表面にはほぼ全面にろう材ペーストをスクリーン印刷した。なお、片面にほぼ全面に印刷するのは、この面に後の組立工程でヒートシンク材を半田付けするためである。
【0044】使用したろう材ペースト中の金属成分は、銀72重量部、銅28重量部、チタン20重量部であり、ペーストの単位面積当りの塗布量は6.5mg/cm2 とした。
【0045】印刷された窒化アルミニウム焼結体上に窒化アルミニウム焼結体と同形状の無酸素銅板を搭載した後、860 ℃、30分、真空中にて接合処理を行った。次いで、この接合体に回路を形成するため、まず銅板にレジストを回路形状に印刷し、さらに塩化第2鉄液でレジスト塗布域以外の銅板部分を除去した。
【0046】以上のような方法で得られた基板が銅板を回路とするパワーモジュール用基板であり、その基板について、ヒートサイクル試験とヒートショック試験を上記に従い実施した。
【0047】実施例2窒化アルミニウム粉を96重量部、酸化イットリウム粉を4重量部とし、成形体の焼成温度を1900℃、冷却速度を2.5 ℃/分、ホーニング処理による表面除去厚みを3μm、ろう材の金属成分としてチタンのかわりにジルコニウムを使用し、その量を30重量部、さらには接合処理温度を920 ℃としたこと以外は実施例1と同じ方法でパワーモジュール用基板を作製した。
【0048】実施例3酸素量が0.8 重量%の窒化アルミニウム粉96.5重量部、酸化イットリウム粉を3.5 重量部、有機結合剤としてポバールを7重量部とし、成形体の焼成温度を1950℃、保持時間を20分、冷却速度を3.0 ℃/分、バレル研磨による表面除去厚みを0.5 μm、さらにはろう材中のチタン量を5重量部としたこと以外は実施例1と同様な方法にてパワーモジュール用基板を作製した。なお、窒化アルミニウム基板の形状は、68.5mm×34.5mmであった。
【0049】実施例4実施例3と同じ窒化アルミニウム粉を96重量部、酸化イットリウム粉を4重量部、成形体の焼成条件を1920℃で30分、ホーニング処理による表面除去厚みを2μmとしたこと以外は実施例3と同様な方法にてパワーモジュール用基板を作製した。
【0050】実施例5酸素量が1.5 重量%の窒化アルミニウム粉を94重量部、酸化イットリウム粉を6重量部、成形体の焼成条件を1830℃で45分、冷却速度を1.0 ℃/分とし、さらに得られた焼結体の表面を5μm除去したこと以外は実施例1と同様な方法にてパワーモジュール用基板を作製した。
【0051】実施例6実施例5の窒化アルミニウム粉を96重量部、酸化イットリウム粉を4重量部、成形体の焼成条件を1800℃で1時間、冷却速度を0.8 ℃/分としたこと以外は実施例2と同様な方法にてパワーモジュール用基板を作製した。
【0052】比較例1酸素量が1.2 重量%の窒化アルミニウム粉を98重量部、酸化イットリウム粉を2重量部、冷却速度を8.0 ℃/分としたこと以外は実施例1と同様な方法にてパワーモジュール用基板を作製した。
【0053】比較例2酸素量が1.2 重量%の窒化アルミニウム粉を97重量部、酸化イットリウム粉を3重量部、冷却速度を7.0 ℃/分としたこと以外は実施例2と同様な方法にてパワーモジュール用基板を作製した。
【0054】比較例3酸素量が0.8 重量%の窒化アルミニウム粉を98.5重量部、酸化イットリウム粉を1.5 重量部、冷却速度を5.0 ℃/分としたこと以外は実施例3と同様な方法にてパワーモジュール用基板を作製した。
【0055】比較例4酸素量が0.8 重量%の窒化アルミニウム粉を99重量部、酸化イットリウム粉を1重量部、冷却速度を5.0 ℃/分としたこと以外は実施例4と同様な方法にてパワーモジュール用基板を作製した。
【0056】比較例5酸素量が1.5 重量%の窒化アルミニウム粉を96.5重量部、酸化イットリウム粉を3.5 重量部、冷却速度を10.0℃/分としたこと以外は実施例5と同様な方法にてパワーモジュール用基板を作製した。
【0057】比較例6酸素量が1.5 重量%の窒化アルミニウム粉を98重量部、酸化イットリウム粉を2重量部、冷却速度を8.0 ℃/分としたこと以外は実施例6と同様な方法にてパワーモジュール用基板を作製した。
【0058】実施例1〜6の結果を表1に、比較例1〜6の結果を表2に示す。なお、信頼性試験結果の評価は次のとおりである。
A:微小クラックがわずかに発生。
B:微小クラックがAより多めに発生。
C:耐圧不良。
【0059】
【表1】


【0060】
【表2】


【0061】
【発明の効果】本発明の窒化アルミニウム焼結体を基板として用いることにより、従来に比べて信頼性に優れたパワーモジュール用基板等の回路基板の製造が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒化アルミニウムとアルミン酸イットリウムを構成相としてなり、次の(1)〜(3)の関係を有してなることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
(1)アルミン酸イットリウムが3Y2O3・5Al2O3 とY2O3・Al2O3 からなること。
(2)焼結体の厚み方向に5μmまでの範囲で除去した表面を粉末X線回折法にて測定した際、窒化アルミニウムの101 反射の強度I101 、3Y2O3・5Al2O3 の400 反射の強度I400 、及びY2O3・Al2O3 の121 反射の強度I121 の間に以下の関係があること。
0.02≦I400 /I101 ≦0.18 及び 0.01 ≦I121 /I101 ≦0.45(3)焼結体の粉砕物の粉末X線回折法により測定した結果が以下の関係にあること。
0.01≦I400 /I101 ≦0.06 、 0.02 ≦I121 /I101 ≦0.20 及び0.07≦(I400 /I101 )+(I121/I101 )≦0.21
【請求項2】 請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体と銅板とを一体化してなることを特徴とする接合体。