説明

窒化物単結晶の製造方法

【課題】アモノサーマル法における自発核生成を利用して、最大寸法が1mm以上である窒化物単結晶を得ることができる、窒化物単結晶の新規製造方法の提供。
【解決手段】耐腐食性オートクレーブ内で、超臨界又は亜臨界状態にあるアンモニアの存在下、少なくとも1種類の窒化物多結晶を原料として用い、かつ、少なくとも1種類の酸性鉱化剤を該アンモニアに添加して、アモノサーマル法により該窒化物多結晶から窒化物単結晶を製造する方法において、
該耐腐食性オートクレーブ内には、該窒化物多結晶を配置する部位と該窒化物単結晶を析出させる部位とが存在しており、
該窒化物単結晶を析出させる部位の温度は、650℃〜850℃であり、かつ、該窒化物多結晶を配置する部位温度よりも、平均温度で、高く保持され、そして
該耐腐食性オートクレーブ内の圧力は、40MPa〜250MPaに保持されている、
ことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソルボサーマル法による窒化物単結晶の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、アンモニア溶媒を用いるアモノサーマル法において、酸性鉱化剤を用い、窒化ガリウムに代表される周期表第13族元素窒化物の結晶性の優れたバルク単結晶を得ることができる窒化物単結晶の新規製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム結晶は、発光ダイオードやレーザーダイオード等の発光素子に適用される物質として有用であり、その最も一般的な製造方法は、サファイアや炭化ケイ素などを基板として用いたMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法による気相成長を用いる方法である。しかしながら、この方法で得られる単結晶の品質が用途によっては十分とはいえないことから、これら窒化物単結晶のホモエピタキシー成長を可能とする、窒化物単結晶基板の開発が切望されている。
【0003】
例えば、窒化ガリウム単結晶の場合には、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法による自立単結晶基板があるが、広く普及するには至っていない。他の方法として、高温・高圧下で窒素とGaを反応させる高圧法(J. Crystal Growth 178 (1977) 174)や、フラックスを利用する方法(Jpn. J. Appl. Phys. 46 (2007) L103)、ソルボサーマル法などが検討されている。
【0004】
ソルボサーマル法とは、超臨界状態及び/又は亜臨界状態の溶媒を用いた結晶製造方法の総称であり、特に水を溶媒とする場合にはハイドロサーマル法(水熱合成法)、アンモニアを溶媒とする場合にアモノサーマル法(安熱合成法)などと称される。ハイドロサーマル法は、人工水晶の工業的製造方法であり、高い品質の結晶が得られる方法の一つであることが広く知られている。
【0005】
アモノサーマル法は、窒化ガリウムなどの窒化物バルク単結晶の製造方法として期待されており、アンモニアを溶媒として用い、温度と圧力を調整して原料を溶解又は反応させ、溶解度の温度依存性を利用するなどして結晶成長を行うものである。
アモノサーマル法において、GaNなどの窒化物バルク単結晶の製造のためには、鉱化剤を添加することが有効であるとされている。鉱化剤には、大きく分類して、アンモニアに溶解させた際、元の溶媒よりもpHを下げる働きのある酸性鉱化剤と、pHを上げる働きのある塩基性鉱化剤とが知られている。結晶成長を行うために好適とされる製造条件は、酸性鉱化剤と塩基性鉱化剤とで大きく異なっていることが知られており、例えば、アモノサーマル法で塩基性鉱化剤を用いた場合には、150〜500MPa程度の比較的高い圧力が必要とされているのに対し、酸性鉱化剤の場合には100〜200MPa程度の比較的低い圧力でよいとされている。また、酸性鉱化剤を用いた場合と塩基性鉱化剤を用いた場合とでは、反応容器等に要求される耐腐食性も異なってくる。このように、アモノサーマル法による窒化物単結晶製造技術においては、利用する鉱化剤の酸性、塩基性の違いによって、単結晶製造技術は大きく異なるものとなっている(例えば、以下の特許文献1、特許文献2を参照のこと)。
【0006】
一方、アモノサーマル法による窒化物単結晶の製造方法として、結晶成長領域に種結晶を配置して、この上に選択的に成長させる方法が知られている。これらの種結晶として、HVPE法やその他の手段で製造された単結晶や異種材料が一般的に使用されている。従来、種結晶を用いない場合、アモノサーマル法によって得られる窒化物単結晶として、細かな粉状の微結晶しか得ることができなかった。
【0007】
種結晶を用いず、アモノサーマル法で得られた自発核生成による微結晶を、引き続き行われる結晶成長の原料として用いることも検討されているが(例えば、以下の特許文献3を参照のこと)、このような自発核生成による微結晶は数ミクロンの粉末状で得られるため、これらを種結晶として利用することは事実上不可能であった。
近年、HVPE法などによって、ホモエピタキシャル成長が可能なGaN基板の製造が可能になりつつあるが、非常に高価であることと、用途によっては未だ十分な品質を有していないことから、広く利用されるには至っていない。
【0008】
HVPE法などに比較して、アモノサーマル法は、原理的に、一度に多くの結晶粒を成長させることが可能であり、例えば、人工水晶製造におけるハイドロサーマル法のように、高品質の基板を安価に供給可能とするポテンシャルを備えている製造方法であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−40699号公報
【特許文献2】特開2008−120672号公報
【特許文献3】特開2003−277182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記した技術水準に鑑み、アモノサーマル法によって、種結晶として利用可能な大きさ及び品質を有する結晶粒を得ることは、高品質な窒化物単結晶基板の工業的製造の確立において、大きな意義をもつことになる。すなわち、最大寸法が1mm以上である窒化物単結晶をアモノサーマル法で製造することができれば、これを種結晶として取り扱い、さらに大きな結晶に育成することが可能となる。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、アモノサーマル法における自発核生成を利用して、最大寸法が1mm以上である窒化物単結晶を得ることができる窒化物単結晶の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決すべく、発明者らは、鋭意検討し実験を重ねた結果、種結晶を利用しないアモノサーマル法によって、種結晶として利用可能な大きさ及び品質の窒化物単結晶の粒を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
【0012】
[1]耐腐食性オートクレーブ内で、超臨界又は亜臨界状態にあるアンモニアの存在下、少なくとも1種類の窒化物多結晶を原料として用い、かつ、少なくとも1種類の酸性鉱化剤を該アンモニアに添加して、アモノサーマル法により該窒化物多結晶から窒化物単結晶を製造する方法において、
該耐腐食性オートクレーブ内には、該窒化物多結晶を配置する部位と該窒化物単結晶を析出させる部位とが存在しており、
該窒化物単結晶を析出させる部位の温度は、650℃〜850℃であり、かつ、該窒化物多結晶を配置する部位温度よりも、平均温度で、高く保持され、そして
該耐腐食性オートクレーブ内の圧力は、40MPa〜250MPaに保持されている、
ことを特徴とする、アモノサーマル法による窒化物単結晶の製造方法。
【0013】
[2]前記耐腐食性オートクレーブは、前記窒化物多結晶を配置する部位が前記窒化物単結晶を析出させる部位よりも高い位置に存在する、縦型に配置された構造を有する、前記[1]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【0014】
[3]前記窒化物多結晶が、孔又はスリット状の隙間を複数設けた容器内に配置されており、そして該容器の側面と、前記耐腐食性オートクレーブの内壁との間には、少なくとも1mm以上の隙間が存在する、前記[1]又は[2]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【0015】
[4]前記窒化物多結晶を配置する部位は、前記耐腐食性オートクレーブの内部底面から少なくとも10mm以上の高さの位置に、存在し、かつ、該窒化物多結晶を配置する部位と前記耐腐食性オートクレーブの内部底面とにより画される空間内に、前記窒化物単結晶を析出させる部位が存在する、前記[3]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【0016】
[5]前記耐腐食性オートクレーブの内部底面と前記窒化物単結晶を析出させる部位との高さ方向の間に、耐腐食性の複数の孔を有する板が配置されている、前記[4]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【0017】
[6]前記窒化物多結晶が、気相法により製造されたものである、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の窒化物単結晶の製造方法。
【0018】
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の窒化物単結晶の製造方法によって製造された、最大寸法が1mm以上である窒化物単結晶。
【発明の効果】
【0019】
本発明の窒化物単結晶の製造方法によって、自発核からの単結晶粒を容易に得ることができる。得られた単結晶の粒は最大寸法が1mm以上の大きさを有するため、種結晶として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例で用いた窒化物単結晶の製造装置の概略図である。
【図2】実施例1で得られた窒化物単結晶を1個Si無反射板にのせて測定したX線回折パターン図である。
【図3】実施例1で得られた窒化物単結晶の図面に代わる外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の窒化物単結晶の製造方法について詳細に説明する。
尚、以下の説明は、本発明の代表的な実施様態に基づいてなされるが、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。また、本明細書中、数値範囲A〜Bの表記は、A以上B以下の範囲を表す。
【0022】
本発明でいう窒化物とは、窒化ガリウムに代表される周期表第13族元素(IUPAC、1989)の窒化物を意味し、GaNのように単一金属の窒化物のみでなく、AlGaN、InGaN、AlInGaNなどの多元化合物が含まれる。尚、これらの化学式は、窒化物の構成元素を示すだけのものであり、それらの組成比を表すものではない。
【0023】
多結晶とは、塊状、粒状、粉状などの種々の外観で得られる固体各々について、多数の微小な単結晶、すなわち微結晶が各々異なる方位を向いて分離不可能な形で存在している状態を意味する。微結晶のサイズや、微結晶の方位の揃い具合、すなわち配向性の程度については特に限定されない。
【0024】
本発明においては、窒化物多結晶は原料として用いており、前述の周期表第13族元素の任意の組成物が利用できるが、必ずしも完全な窒化物である必要はなく、ゼロ価の金属を含んでいてもよい。例えば、AlGaN等の多元窒化物や、AlNとGaNの混合物であっても、原料として用いることができる。
【0025】
原料となる多結晶原料の製造方法は特に限定されないが、例えば、GaNを例にとると、金属ガリウム又はGa2O3をアンモニアで窒化したもの、あるいはHVPE法のように、ハロゲン化物とアンモニアとの反応によって得られた窒化物を原料として利用することができる。
【0026】
本発明では、溶媒としてアンモニアを使用するが、含まれる不純物の量はできる限り少ないことが望ましい。用いるアンモニアの純度は、通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、より好ましくは99.999%以上である。
【0027】
溶媒であるアンモニアに添加する酸性鉱化剤としては、ハロゲン化アンモニウム等が挙げられる。例えば酸性鉱化剤としては、塩化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、臭化アンモニウム、とりわけ、塩化アンモニウムが好ましい。
【0028】
アンモニア充填量は、選択した温度において、使用するオートクレーブ内部の圧力が40MPa〜250MPaとなる範囲になるように調整する。
アンモニア充填量を多くすると、単結晶を、より速く析出させることができるが、圧力が前記範囲の上限を超えてしまう場合には、バルブ操作を行ってアンモニアの一部を排出し、前記圧力範囲を超えないようにする。
【0029】
圧力は、高いほうが、単結晶の析出が速くなる傾向があるが、使用するオートクレーブに対する負荷が過大にならないようにするためには圧力は低いほうが好ましい。かかる観点から、圧力は、上記したように40MPa〜250MPaの範囲とすることが好ましく、より好ましくは40MPa〜200MPa、さらに好ましくは50MPa〜150MPa、最も好ましくは60MPa〜130MPaである。
【0030】
本発明に用いるオートクレーブは、窒化物単結晶を成長させる高温高圧条件に耐え得るものの中から選択する。具体的には、RENE41のように、Ni系の合金であって、高温での強度特性が優れるものが好ましい。
本発明に用いる酸性鉱化剤は、アルカリ金属アミド等に代表される塩基性鉱化剤に対して、超臨界状態のアンモニアに対する溶解度が高いため、低い圧力での反応が可能となる。また、本発明に用いる酸性鉱化剤は、白金などの貴金属に対する腐食性が低いため、オートクレーブの内面をこれらの貴金属で被覆すれば、容器の腐食によって混入する不純物の影響を最小限に抑えることが可能となる。これらの貴金属としては、Pt、Au、Ir、Ru、Pd、Ag、及びこれらの貴金属を主成分とする合金が挙げられ、中でもPtを用いることが好ましい。従って、本発明で使用する耐腐食性オートクレーブは、オートクレーブ内表面をこれらの貴金属でライニング又はコーティングしたものであることもできる。
【0031】
原料である窒化物多結晶としては、塊状、粉末状等、任意の形状のものが利用できるが、これらを、孔又はスリット状の隙間を複数設けた容器、あるいはメッシュによって形成されたカゴ状容器内に入れることにより、使用するオートクレーブ内の特定の位置に配置することが可能となる。
容器の孔やスリット状の隙間等に関しては、用いる窒化物多結晶の形状に従って、好適な孔やスリットの大きさ、メッシュの目の粗さなどを選択すればよく、容器内に入れた窒化物多結晶原料が効率よくアンモニア溶媒と接触し、速やかに溶解されるようにすればよい。
【0032】
本発明の窒化物単結晶の製造方法においては、原料となる窒化物多結晶を効率よく超臨界アンモニア中に溶解させることが重要である。そのため、使用するオートクレーブの内部において、溶媒である超臨界アンモニアの流れが滞らないように、原料を入れた容器の側面は、オートクレーブ内壁との間には、少なくとも1mm以上の隙間を存在させることが好ましい。
【0033】
本発明においては、窒化物単結晶を析出させる部位の温度(T1)の下限は、650℃以上であればよく、670℃以上であれば好ましく、690℃以上であればより好ましい。一方、窒化物単結晶を析出させる部位の温度の上限は、850℃以下に保持されていればよく、好ましくは800℃以下、より好ましくは750℃以下、特に好ましくは720℃以下である。
【0034】
さらに、本発明においては、窒化物単結晶を析出させる部位の温度(T1)は、窒化物多結晶を配置する部位の温度(T2)よりも、平均温度で、高く保持されていることが必要である(T1>T2)。
例えば、窒化物単結晶を析出させる部位の温度(T1)は、窒化物多結晶を配置する部位の温度(T2)より、1℃以上、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上高く、その差(T1−T2)は、最大150℃以下、好ましくは100℃、より好ましくは90℃である。
【0035】
本発明では、縦型オートクレーブを使用することが好ましく、縦型オートクレーブを用いる場合、窒化物多結晶を配置する部位を、単結晶を析出させる部位よりも、縦方向で高い位置に配置することが好ましい。なぜなら、このような位置関係とすることにより、窒化物多結晶を配置する部位と、オートクレーブの内部底面とにより画される空間を、単結晶を析出させる領域とし、窒化物多結晶を配置する部位から該領域に重力により落下してくる又は該空間で析出する単結晶を、該空間内で効率的に成長させることが可能となるからである。
【0036】
析出した単結晶は、他の単結晶粒との合一による多結晶化をできるだけ防ぐことが好ましいので、窒化物多結晶を配置する部位は、オートクレーブの底面から少なくとも10mm以上の高さにあることが好ましい。オートクレーブの底面からの、窒化物多結晶を配置する部位の高さの上限としては、例えば、底面からの高さが125mm以下であることができるが、結晶析出領域としての空間が確保されていればよく、オートクレーブの底面からの高さが10mm以上であれば、オートクレーブ内の空間全体の50%vol以下であっても構わない。
【0037】
オートクレーブの底面まで落下した結晶粒は合一して多結晶化し易いので、ある程度の大きさとなって落下してきた単結晶粒を選択的に捕捉して、その場所で成長させることが有効である。
したがって、オートクレーブの底面と窒化物単結晶を析出させる部位との高さ方向の間に、メッシュ材などの耐腐食性の複数の孔を有する板を配置することが好ましい。
【0038】
尚、前記したように、本発明では、窒化物多結晶を配置する部位と、オートクレーブの内部底面とにより画される空間を、単結晶を析出させる領域とし、窒化物多結晶を配置する部位から該領域に重力により落下してくる又は該空間で析出する単結晶を、該空間内で効率的に成長させるようしているが、かかる空間以外、例えば、窒化物単結晶や、多結晶を配置する部位の一部も、単結晶析出部位として機能しうる。この場合、オートクレーブ内壁や多結晶原料入れた容器にも、単結晶が付着し、析出するので、前記した該原料容器の側面とオートクレーブ内壁に設けた隙間も、単結晶が析出する空間として機能することになる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例と比較例により、本発明を具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順は、本発明の範囲内で適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下の実施例により限定的に解釈されるものではない。
尚、超臨界状態におけるオートクレーブの内部温度の測定は非常に困難であるので、空のオートクレーブの蓋を閉め、バルブを外した状態でヒーターにセットし、反応時と同じ条件でヒーターをコントロールした際のオートクレーブ内壁の各部の温度を、導管を通じて挿入した熱電対を用いて測定した値を、超臨界状態におけるオートクレーブの内部温度とした。
【0040】
(実施例1)
気相法により製造されたGaN多結晶(大きさ1mm〜5mm程度)5.0gを0.3mm厚の白金板を加工して作製した円筒型容器(外形寸法5.5mm、高さ100mm、側面に幅0.5mm×長さ80mmのスリットを6本、底面にφ0.5mmの孔を5個)に入れた。充填された多結晶は円筒型容器に満たされた状態であった。多結晶を充填した容器を、白金又は白金系の合金で内面にライニングを施したRENE41を材料として作製されたオートクレーブ(内寸直径8mm、長さ250mm、内容積約12.5mL)内に、底面から50mmの隙間が保持されるようにセットし、次いで純度99.99%の塩化アンモニウムを0.426g入れ、オートクレーブの蓋を閉じた。容器を真空ポンプに接続し、内部を排気した。ターボ分子ポンプを用い、ポンプ直上での圧力が1.0×10-4Pa以下に到達するまで排気した。その後、ドライアイス/冷媒を用いてオートクレーブを冷却し、外気に触れることなく、純度99.999%のアンモニアを5.0g充填し、バルブを閉じた。(アンモニア量は-33℃でのアンモニア密度で換算して、オートクレーブ内容積の59%に相当した。)
【0041】
次いで、オートクレーブをヒーターにセットし、オートクレーブを加熱した。多結晶配置部位の平均温度を621℃(等間隔に680℃、647℃、610℃、588℃、580℃)に、そして単結晶析出部位の平均温度を715℃(等間隔に723℃、720℃、701℃)に保持した。この際、圧力は115MPaであった。
この状態で168時間保持した後、自然放冷し、内部のアンモニアを排出した。結晶析出領域のオートクレーブ内壁面、及び底面に、長さ1mm〜5mmの単結晶が析出しており、洗浄、乾燥後の重量は1.5gであった。多結晶は白金製容器中に3.0g残っていた。仕込み量との差0.5gは、洗浄工程で流出したか、オートクレーブ内部等に付着したものと考えられる。
図2に示すように、得られた結晶粒は、X線回折により、六方晶GaNであることが確認された。また、形の整った、1粒の結晶粒をSi無反射板に乗せて、X線回折測定をした結果、m面からのみの回折が得られ、単結晶であることが示された。得られた単結晶の外観写真を図3に示す。
【0042】
(実施例2)
オートクレーブの底面から10mmの位置に、目開き0.5mmの白金製メッシュを配置した他は、実施例1と同様の条件で実施した。実験終了後、メッシュ上に自形が整った3mm〜5mmの単結晶が析出していることが確認された。
得られた結晶粒は、X線回折により、六方晶GaNであることが確認された。また、形の整った、1粒の結晶粒をSi無反射板に乗せて、X線回折測定をした結果、m面からのみの回折が得られ、単結晶であることが示された。
【0043】
(実施例3)
充填するアンモニア量を4.2gとし、-33℃のNH3密度換算で容器の約50%とするとともに、鉱化剤である塩化アンモニウムを0.357gに減らしたこと以外は、実施例1と同様の条件にて実施した。充填率の違いによって、保持時の圧力は70MPaとなった。168時間保持した後、自然放冷し、内部のアンモニアを排出した。結晶析出領域のオートクレーブ内壁面、及び底面に、長さ0.5mm〜3mm程度の単結晶が析出しており、洗浄、乾燥後の重量は0.9gであった。多結晶は白金製容器中に3.5g残っていた。仕込み量との差0.6gは、洗浄工程で流出したか、オートクレーブ内部等に付着したものと考えられる。
得られた結晶粒は、X線回折により、六方晶GaNであることが確認された。また、形の整った、1粒の結晶粒をSi無反射板に乗せて、X線回折測定をした結果、m面からのみの回折が得られ、単結晶であることが示された。
【0044】
(実施例4)
気相法により製造されたGaN多結晶(大きさ1mm〜5mm程度)5.0gを0.3mm厚の白金板を加工して作製した円筒型容器(外形寸法5.5mm、高さ100mm、側面に幅0.5mm×長さ80mmのスリットを6本、底面にφ0.5mmの孔を5個)に入れた。充填した多結晶は円筒型容器に満たされた状態であった。多結晶が満たされた容器を、白金又は白金系の合金で内面にライニングを施した、RENE41を材料として作製されたオートクレーブ(内寸直径8mm、長さ250mm、内容積約12.5mL)内に、底面から50mmの隙間が保持されるようにセットし、次いで純度99.99%の塩化アンモニウムを0.426g入れ、オートクレーブの蓋を閉じた。容器を真空ポンプに接続し、内部を排気した。ターボ分子ポンプを用い、ポンプ直上での圧力が1.0×10-4Pa以下に到達するまで排気した。その後、ドライアイス/冷媒を用いてオートクレーブを冷却し、外気に触れることなく、純度99.999%のアンモニアを5.0g充填し、バルブを閉じた。(アンモニア量は-33℃でのアンモニア密度で換算して、オートクレーブ内容積の59%に相当した。)
【0045】
次いで、オートクレーブをヒーターにセットし、オートクレーブを加熱した。多結晶配置部位の平均温度を660℃(等間隔に681℃、663℃、645℃、646℃、644℃)に、そして単結晶析出部位の平均温度を697℃(等間隔に698℃、699℃、694℃)に保持した。この際、圧力は125MPaであった。
この状態で168時間保持した後、自然放冷し、内部のアンモニアを排出した。結晶析出領域のオートクレーブ内壁面、及び底面に、長さ1mm〜5mm程度の単結晶が析出しており、洗浄、乾燥後の重量は1.1gであった。多結晶は白金製容器中に3.5g残っていた。仕込み量との差0.4gは、洗浄工程で流出したか、オートクレーブ内部等に付着したものと考えられる。
得られた結晶粒は、X線回折により、六方晶GaNであることが確認された。また、形の整った、1粒の結晶粒をSi無反射板に乗せて、X線回折測定をした結果、m面からのみの回折が得られ、単結晶であることが示された。
【0046】
(比較例1)
気相法により製造されたGaN多結晶(大きさ1mm〜5mm程度)5.0gを0.3mm厚の白金板を加工して作製した円筒型容器(外形寸法5.5mm、高さ100mm、側面に幅0.5mm×長さ80mmのスリットを6本、底面にφ0.5mmの孔を5個)に入れた。充填した多結晶は円筒型容器を満たす状態であった。多結晶を充填した容器を、白金又は白金系の合金で内面にライニングを施した、RENE41を材料として作製されたオートクレーブ(内寸直径8mm、長さ250mm、内容積約12.5mL)内に、底面から50mmの隙間が保持されるようにセットし、次いで純度99.99%の塩化アンモニウムを0.426g入れ、オートクレーブの蓋を閉じた。容器を真空ポンプに接続し、内部を排気した。ターボ分子ポンプを用い、ポンプ直上での圧力が1.0×10-4Pa以下に到達するまで排気した。その後、ドライアイス/冷媒を用いてオートクレーブを冷却し、外気に触れることなく、純度99.999%のアンモニアを5.0g充填し、バルブを閉じた。(アンモニア量は-33℃でのアンモニア密度で換算して、オートクレーブ内容積の59%に相当した。)
【0047】
次いで、オートクレーブをヒーターにセットし、容器を加熱した。多結晶配置部位の平均温度を638℃(等間隔に620℃、633℃、645℃、650℃、644℃)に、そして実施例4において単結晶析出部位に相当する位置の平均温度を600℃(等間隔に590℃、602℃、610℃)に保持した。この際、圧力は96MPaであった。
この状態で168時間保持した後、自然放冷し、内部のアンモニアを排出した。実施例4における結晶析出領域に相当する部位周辺のオートクレーブ内壁面、及び底面には、析出物は確認されなかった。多結晶配置部位周辺のオートクレーブ壁面、及びオートクレーブ上部の導管近くには、微粉状の析出物が付着しており、これらはX線回折によって六方晶GaNであることは確認されたが、微粉体の凝集物のようであり、単結晶粒として分離することは不可能であった。走査型電子顕微鏡観察によって、六角柱に近い形状のものが含まれるものの、ミクロンサイズで凝集しており、単結晶として取り出すことは不可能であった。
【0048】
(比較例2)
充填するアンモニア量を3.0gとし、-33℃のアンモニア密度換算で容器の約36%とするとともに、鉱化材である塩化アンモニウムを0.256gに減らしたこと以外は、実施例4と同様の条件にて実施した。充填率の違いによって、保持時の圧力は30MPaとなった。168時間保持した後、自然放冷し、内部のアンモニアを排出した。多結晶原料は4.8g残っており、若干量は溶解していたが、オートクレーブ内部には、回収可能な析出物はほとんど見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の窒化物単結晶の製造方法より、種結晶としても利用可能な1mm以上の窒化物単結晶粒を得ることができる。したがって、本発明は、従来のアモノサーマル法では得られなかったサイズの高品質の単結晶粒を工業的に適応可能な温度・圧力で製造する方法に好適に利用しうるものである。
【符号の説明】
【0050】
1 圧力計
2 バルブ
3 オートクレーブ
4 導管
5 原料容器
6 窒化物多結晶原料
7 メッシュ板
8 電気炉
9 窒化物多結晶配置部位
10 窒化物単結晶析出部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐腐食性オートクレーブ内で、超臨界又は亜臨界状態にあるアンモニアの存在下、少なくとも1種類の窒化物多結晶を原料として用い、かつ、少なくとも1種類の酸性鉱化剤を該アンモニアに添加して、アモノサーマル法により該窒化物多結晶から窒化物単結晶を製造する方法において、
該耐腐食性オートクレーブ内には、該窒化物多結晶を配置する部位と該窒化物単結晶を析出させる部位とが存在しており、
該窒化物単結晶を析出させる部位の温度は、650℃〜850℃であり、かつ、該窒化物多結晶を配置する部位の温度よりも、平均温度で、高く保持され、そして
該耐腐食性オートクレーブ内の圧力は、40MPa〜250MPaに保持されている、
ことを特徴とする、アモノサーマル法による窒化物単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記耐腐食性オートクレーブは、前記窒化物多結晶を配置する部位が前記窒化物単結晶を析出させる部位よりも高い位置に存在する、縦型に配置された構造を有する、請求項1に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記窒化物多結晶が、孔又はスリット状の隙間を複数設けた容器内に配置されており、そして該容器の側面と、前記耐腐食性オートクレーブの内壁との間には、少なくとも1mm以上の隙間が存在する、請求項1又は2に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記窒化物多結晶を配置する部位は、前記耐腐食性オートクレーブの内部底面から少なくとも10mm以上の高さの位置に、存在し、かつ、該窒化物多結晶を配置する部位と前記耐腐食性オートクレーブの内部底面とにより画される空間内に、前記窒化物単結晶を析出させる部位が存在する、請求項3に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記耐腐食性オートクレーブの内部底面と前記窒化物単結晶を析出させる部位との高さ方向の間に、耐腐食性の複数の孔を有する板が配置されている、請求項4に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記窒化物多結晶が、気相法により製造されたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法によって製造された、最大寸法が1mm以上である窒化物単結晶。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−153052(P2011−153052A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16932(P2010−16932)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】