説明

窒化物単結晶の製造方法

【課題】速い育成速度と高い結晶品質とを両立することができる、アモノサーマル法による窒化物単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】耐腐食性オートクレーブ3内で、超臨界又は亜臨界状態にあるアンモニアの存在下、少なくとも1種類の窒化物多結晶を原料6として用い、かつ、少なくとも1種類の酸性鉱化剤をアンモニアに添加して、アモノサーマル法により窒化物多結晶から窒化物単結晶を製造する方法において、オートクレーブ3内には、窒化物多結晶を配置する部位9と、種結晶7を用いて窒化物単結晶を育成する部位10とが存在しており、種結晶7を用いて窒化物単結晶を育成する部位10の温度T1は、650℃〜850℃であり、かつ、窒化物多結晶を配置する部位9の温度T2よりも、平均温度で、高く保持され、そして耐腐食性オートクレーブ3内の圧力は、40MPa〜250MPaに保持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソルボサーマル法による窒化物単結晶の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、アンモニア溶媒を用いるアモノサーマル法において、酸性鉱化剤を用い、窒化ガリウムに代表される周期表第13族元素窒化物の結晶性の優れたバルク単結晶を得ることができる窒化物単結晶の新規製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム結晶は、発光ダイオードやレーザーダイオード等の発光素子に適用される物質として有用であり、その最も一般的な製造方法は、サファイアや炭化ケイ素などを基板として用いたMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)法による気相成長を用いる方法である。しかしながら、この方法で得られる単結晶の品質が用途によっては十分とはいえないことから、これら窒化物単結晶のホモエピタキシー成長を可能とする、窒化物単結晶基板の開発が切望されている。
【0003】
例えば、窒化ガリウム単結晶の場合には、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法による自立単結晶基板があるが、広く普及するには至っていない。他の方法として、高温・高圧下で窒素とGaを反応させる高圧法(J. Crystal Growth 178 (1977) 174)や、フラックスを利用する方法(Jpn. J. Appl. Phys. 46 (2007) L103)、ソルボサーマル法などが検討されている。
【0004】
ソルボサーマル法とは、超臨界状態及び/又は亜臨界状態の溶媒を用いた結晶製造方法の総称であり、特に水を溶媒とする場合にはハイドロサーマル法(水熱合成法)、アンモニアを溶媒とする場合にアモノサーマル法(安熱合成法)などと称される。ハイドロサーマル法は、人工水晶の工業的製造方法であり、高い品質の結晶が得られる方法の一つであることが広く知られている。
【0005】
アモノサーマル法は、窒化ガリウムなどの窒化物バルク単結晶の製造方法として期待されており、アンモニアを溶媒として用い、温度と圧力を調整して原料を溶解又は反応させ、溶解度の温度依存性を利用するなどして結晶成長を行うものである。
アモノサーマル法において、GaNなどの窒化物バルク単結晶の製造のためには、鉱化剤を添加することが有効であるとされている。鉱化剤には、大きく分類して、アンモニアに溶解させた際、元の溶媒よりもpHを下げる働きのある酸性鉱化剤と、pHを上げる働きのある塩基性鉱化剤とが知られている。結晶成長を行うために好適とされる製造条件は、酸性鉱化剤と塩基性鉱化剤とで大きく異なっていることが知られており、例えば、アモノサーマル法で塩基性鉱化剤を用いた場合には、150〜500MPa程度の比較的高い圧力が必要とされているのに対して、酸性鉱化剤の場合には100〜200MPa程度の比較的低い圧力でよいとされている。また、酸性鉱化剤を用いた場合と塩基性鉱化剤を用いた場合とでは、反応容器等に要求される耐腐食性も異なってくる。このように、アモノサーマル法による窒化物単結晶製造技術においては、利用する鉱化剤の酸性、塩基性の違いによって、単結晶製造技術は大きく異なるものとなっている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照のこと)。
【0006】
酸性鉱化剤を用いたアモノサーマル法については、バッフル板によって仕切られた下部の原料充填部及び上部の育成部とからなるオートクレーブ内において、下部に主に窒化物多結晶からなる原料を充填し、上部に種結晶を配置して、上部の温度を下部よりも低く保持することにより、上部の低温領域で種結晶を育成させる技術が開示されている(例えば、特許文献2を参照こと)。かかる方法は、人工水晶の工業的生産方法と類似しており、アモノサーマル法において酸性鉱化剤を選択すべき理由の一つと考えられてきた。
【0007】
しかしながら、アモノサーマル法による窒化物単結晶成長技術は、未だ十分に完成しているとはいえず、工業的に展開するためには、生産性を高めるためのより速い成長速度とより高い品質とを両立させなければならず、乗り越えるべき課題は多くあるのが実情である。
例えば、窒化ガリウムの場合、従来報告されているアモノサーマル法による窒化物単結晶育成技術においては、成長速度は30μm/day〜数ミクロン/dayであり、競合するHVPEやフラックス法と比較しても、遅い状況にある。このように、従来、窒化ガリウムの場合、速い成長速度と、平滑な面成長とを両立することは難しい状況にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−40699号公報
【特許文献2】特開2008−120672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記した技術水準に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、アモノサーマル法によって、速い育成速度と高い結晶品質とを両立しうる窒化物単結晶の新規製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決すべく、発明者らは、鋭意検討し、実験を重ねた結果、以下の手段により、課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりものである。
【0011】
[1]耐腐食性オートクレーブ内で、超臨界又は亜臨界状態にあるアンモニアの存在下、少なくとも1種類の窒化物多結晶を原料として用い、かつ、少なくとも1種類の酸性鉱化剤を該アンモニアに添加して、アモノサーマル法により該窒化物多結晶から窒化物単結晶を製造する方法において、
該オートクレーブ内には、該窒化物多結晶を配置する部位と、種結晶を用いて該窒化物単結晶を育成する部位とが存在しており、
該種結晶を用いて窒化物単結晶を育成する部位の温度(T1)は、650℃〜850℃であり、かつ、該窒化物多結晶を配置する部位の温度(T2)よりも、平均温度で、高く保持され、そして
該耐腐食性オートクレーブ内の圧力は、40MPa〜250MPaに保持されている、
こと特徴とする、アモノサーマル法による窒化物単結晶の製造方法。
【0012】
[2]該耐腐食性オートクレーブは、前記窒化物多結晶を配置する部位が前記種結晶を配置して窒化物単結晶を育成する部位よりも高い位置に存在する、前記[1]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【0013】
[3]該窒化物多結晶が、孔又はスリット状の隙間を複数設けた容器内に配置されており、そして該容器の側面と、前記耐腐食性オートクレーブの内壁との間には、少なくとも1mm以上の隙間が存在する、前記[1]又は[2]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【0014】
[4]前記窒化物多結晶を配置する部位は、前記耐腐食性オートクレーブの内部底面から少なくとも10mm以上の高さの位置に、存在し、かつ、該窒化物多結晶を配置する部位と前記耐腐食性オートクレーブ内部底面とにより画される空間内に、種結晶を配置する、前記[3]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【0015】
[5]前記窒化物多結晶を配置する部位と、前記種結晶を用いて窒化物単結晶育成する部位との間に、仕切り板が配置されている、前記[4]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【0016】
[6]前記窒化物多結晶が、気相法により製造されたものである、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の窒化物単結晶の製造方法。
【0017】
[7]前記1〜6のいずれかに記載の窒化物単結晶の製造方法によって製造された、窒化物単結晶からなる基板。
【発明の効果】
【0018】
本発明の窒化物単結晶の製造方法によって、30μm/day以上の、従来よりも速い速度での窒化物単結晶の育成が可能となる。また、本発明の窒化物単結晶の製造方法により得られる窒化物単結晶は、平膜状の成長層を有するため、本発明の方法により、様々な方位の基板を切り出すことのできるバルク窒化物単結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例で用いた窒化物単結晶の製造装置の概略図である。
【図2】実施例1で使用した種結晶(上)と、育成後に得られた単結晶(下)の図面に代わる外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の窒化物単結晶の製造方法について詳細に説明する。
尚、以下の説明は、本発明の代表的な実施様態に基づいてなされるが、本発明はこれらの実施態様に限定されるものではない。また、本明細書中、数値範囲A〜Bの表記は、A以上B以下の範囲を表す。
【0021】
本発明でいう窒化物とは、窒化ガリウムに代表される周期表第13族元素(IUPAC、1989)の窒化物を意味し、GaNのように単一金属の窒化物のみでなく、AlGaN、InGaN、AlInGaNなどの多元化合物が含まれる。尚、これらの化学式は、窒化物の構成元素を示すだけのものであり、それらの組成比を表すものではない。
【0022】
多結晶とは、塊状、粒状、粉状などの種々の外観で得られる固体各々について、多数の微小な単結晶、すなわち微結晶が各々異なる方位を向いて分離不可能な形で存在している状態を意味している。微結晶のサイズや、微結晶の方位の揃い具合、すなわち配向性の程度については特に限定されない。
【0023】
本発明においては、窒化物多結晶は原料として用いており、前述の周期表第13族元素の任意の組成物が利用できるが、必ずしも完全な窒化物である必要はなく、ゼロ価の金属を含んでいてもよい。例えば、AlGaN等の多元窒化物や、AlNとGaNの混合物であっても、原料として用いることができる。
【0024】
原料となる多結晶原料の製造方法は特に限定されないが、例えば、GaNを例にとると、金属ガリウム又はGa2O3をアンモニアで窒化したもの、あるいはHVPE法のように、ハロゲン化物とアンモニアとの反応によって得られた窒化物を原料として利用することができる。
【0025】
本発明では、溶媒としてアンモニアを使用するが、含まれる不純物の量はできる限り少ないことが望ましい。用いるアンモニアの純度は、通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、より好ましくは99.999%以上である。
【0026】
溶媒であるアンモニアに添加する酸性鉱化剤としては、ハロゲン化アンモニウム等があげられる。例えば、酸性鉱化剤としては、塩化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、臭化アンモニウム、とりわけ、塩化アンモニウムが好ましい。
【0027】
アンモニア充填量は、選択した温度において、使用するオートクレーブ内部の圧力が40MPa〜250MPaとなる範囲になうように調整する。
アンモニア充填量を多くすると、単結晶を、より速く成長させることができるが、圧力が前記範囲の上限を超えてしまう場合には、バルブ操作を行ってアンモニアの一部を排出し、前記圧力範囲を超えないようにする。
【0028】
圧力は、高いほうが、単結晶の成長速度が速くなり好ましく、40MPa以上であれば、単結晶の成長速度として十分である。一方、使用するオートクレーブに対する負荷を考慮すると、圧力は、250MPa以下である。本発明では、圧力は、40MPa〜200MPaとすることが好ましく、より好ましくは50MPa〜150MPaであり、さらに好ましくは60MPa〜130MPaである。
【0029】
本発明に用いるオートクレーブは、窒化物単結晶を成長させる高温高圧条件に耐え得るものの中から選択する。具体的には、RENE41のように、Ni系の合金であって、高温での強度特性が優れるものが好ましい。
【0030】
本発明に用いる酸性鉱化剤は、アルカリ金属アミド等に代表される塩基性鉱化剤に対して、超臨界状態のアンモニアに対する溶解度が高いため、低い圧力での反応が可能となる。また、本発明に用いる酸性鉱化剤は、白金などの貴金属に対する腐食性が低いため、オートクレーブの内面をこれらの貴金属で被覆すれば、容器の腐食によって混入する不純物の影響を最小限に抑えることが可能となる。これらの貴金属としては、Pt、Au、Ir、Ru、Pd、Ag、及びこれらの貴金属を主成分とする合金が挙げられ、中でもPtを用いることが好ましい。従って、本発明で使用する耐腐食性オートクレーブは、オートクレーブ内表面をこれらの貴金属でライニング又はコーティングしたものであることもできる。
【0031】
原料である窒化物多結晶としては、塊状、粉末状等、任意の形状のものが利用できるが、これらを、孔又はスリット状の隙間を複数設けた容器、あるいはメッシュによって形成されたカゴ状容器内に入れることにより、使用するオートクレーブ内の特定の位置に配置することが可能となる。
容器の孔やスリット状の隙間等に関しては、用いる窒化物多結晶の形状に従って、好適な孔やスリットの大きさ、メッシュの目の粗さなどを選択すればよく、容器内に入れた窒化物多結晶原料が効率よくアンモニア溶媒と接触し、速やかに溶解されるようにすればよい。
【0032】
本発明の窒化物単結晶の製造方法においては、原料となる窒化物多結晶を効率よく超臨界アンモニア中に溶解させることが重要である。そのため、使用するオートクレーブの内部において、溶媒である超臨界アンモニアの流れが滞らないように、原料を入れた容器の側面とオートクレーブ内壁との間に、少なくとも1mm以上の隙間を存在させることが好ましい。
【0033】
本発明においては、種結晶を用いて窒化物単結晶を育成する部位の温度(T1)の下限は、650℃以上であればよく、好ましくは670℃以上、より好ましくは690℃以上である。一方、種結晶を用いて窒化物単結晶を育成する部位の温度の上限は、850℃以下であればよく、好ましくは800℃以下、より好ましくは750℃以下、さらに好ましくは720℃以下である。
【0034】
さらに、本発明においては、種結晶を用いて窒化物単結晶を育成する部位の温度(T1)は、窒化物多結晶を配置する部位の温度(T2)よりも、平均温度で、高く設定されていることが必要である(T1>T2)。
例えば、種結晶を用いて窒化物単結晶を育成する部位の温度(T1)と、窒化物多結晶を配置する部位の温度(T2)との温度差(T1−T2)は、150℃〜1℃とすることができる。この温度差を大きくすると結晶の成長速度が大きくなる傾向があるが、温度差を小さくしたほうが、結晶の品質が向上する傾向がある。
従って、結晶の成長速度(結晶の析出性)、及び結晶の品質の観点から、温度差(T1−T2)は、100℃〜5℃が好ましく、90℃〜10℃がより好ましい。
【0035】
本発明では、かかる温度条件を満たしている限り、原料としての窒化物多結晶の一部に、単結晶析出部位が混在していても構わない。例えば、種結晶を、その表面に結晶が育成可能な空間を保持しつつ、多結晶原料と一緒にメッシュ状の容器に入れれば、原料供給源に極めて近い場所での窒化物単結晶の成長が可能となり、大きな成長速度を達成することもできる。
【0036】
また、本発明では、縦型オートクレーブを使用することもでき、この場合、窒化物多結晶を配置する部位を、種結晶を用いて窒化物単結晶を育成する部位よりも、縦方向で高い位置に配置することにより、より効率的に単結晶を析出させることが可能となる。なぜなら、このような位置関係とすることにより、窒化物多結晶を配置する部位と、オートクレーブの内部底面により画される空間を、種結晶を用いて窒化物単結晶を育成する領域とし、窒化物多結晶を配置する部位から該領域に重力により落下してくる又は該空間で析出する単結晶を、該空間内で効率的に成長させることが可能となるからである。
【0037】
析出した単結晶は、他の単結晶粒との合一による多結晶化をできるだけ防ぐことが好ましいので、窒化物多結晶を配置する部位は、オートクレーブの底面から少なくとも10mm以上の高さにあることが好ましい。オートクレーブの底面からの、窒化物多結晶を配置する部位の高さの上限としては、例えば、底面からの高さが125mm以下であることができるが、結晶析出領域としての空間が確保されていればよく、オートクレーブの底面からの高さが10mm以上であれば、オートクレーブ内の空間全体の50%vol以下であっても構わない。
【0038】
酸性鉱化剤を用いた従来技術における通常配置(オートクレーブ下部に多結晶原料、上部に種結晶を配置)では、本発明に開示した温度領域では種結晶上の結晶成長は観察されない。
【0039】
本発明では、種結晶を用いるが、目的とする窒化物単結晶と一致又は適合した晶系、格子定数、結晶格子のサイズパラメータを有する材料を選択することが好ましく、例えば、窒化ガリウムの場合、窒化アルミニウムなどの窒化物単結晶、酸化亜鉛の単結晶や炭化ケイ素の単結晶等が利用できる。より好ましくは、窒化ガリウム単結晶が用いられる。種結晶の製造方法については特に限定されず、例えば窒化ガリウムの場合には、MOCVD法やHVPE法による単結晶基板やテンプレート基板、高圧法によって得られる自立基板、又はフラックス法で作製された自立GaN結晶などが利用できる。アモノサーマル法において、自発核生成によって得られた窒化物単結晶粒をそのまま、あるいは切断して利用することも可能である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例と比較例により、発明の特徴を具体的に説明する。
以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順は、本発明の範囲内で変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下の実施例により限定的に解釈されるものではない。
【0041】
尚、超臨界状態におけるオートクレーブの内部温度の測定は非常に困難であるので、空のオートクレーブの蓋を閉め、バルブを外した状態でヒーターにセットし、反応時と同じ条件でヒーターをコントロールした際のオートクレーブ内壁の各部の温度を、導管を通じて挿入した熱電対を用いて測定した値を、超臨界状態におけるオートクレーブの内部温度とした。
【0042】
(実施例1)
気相法によって製造されたGaN多結晶を原料としたアモノサーマル法によってGaN単結晶粒を作製した。自発核生成によって作製した窒化ガリウム単結晶から、長さ4mm、太さ0.7mm程度の自形が整った粒を種結晶として用いた。
オートクレーブとしては、白金又は白金系の合金で内面にライニングを施した、RENE41を材料として作製されたもの(内寸直径8mm、長さ250mm、内容積約12.5mL)を用い、種結晶は白金線により固定し、オートクレーブの底面から25mmの位置に吊るした。
気相法により製造されたGaN多結晶(大きさ1mm〜5mm程度)5.0gを0.3mm厚の白金板を加工して作製した円筒型容器(外形寸法5.5mm、高さ100mm、側面に幅0.5mm×長さ80mmのスリットを6本、底面にφ0.5mmの孔を5個)に入れた。円筒型容器は、充填された多結晶で満たされた。該容器を、種結晶をセットしたオートクレーブに、底面から50mmの隙間が保持されるようにセットし、次いで純度99.99%の塩化アンモニウムを0.426g入れ、オートクレーブの蓋を閉じた。容器を真空ポンプに接続し、内部を排気した。ターボ分子ポンプを用い、ポンプ直上での圧力が1.0×10-4Pa以下に到達するまで排気した。その後、ドライアイス/冷媒を用いてオートクレーブを冷却し、外気に触れることなく、純度99.999%のアンモニアを5.0g充填し、バルブを閉じた。(アンモニア量は-33℃でのアンモニア密度で換算して、オートクレーブ内容積の59%に相当した。)
【0043】
次いで、オートクレーブをヒーターにセットし、オートクレーブを加熱した。多結晶配置部位の平均温度を660℃(等間隔に681℃、663℃、645℃、646℃、644℃)に、そして単結晶析出部位の平均温度を697℃(等間隔に698℃、699℃、694℃)に保持した。この際、圧力は125MPaであった。
この状態で168時間保持した後、自然放冷し、内部のアンモニアを排出した。種結晶は元の形状から成長しており、長さ6.1mm、太さ1.1mmとなった。この時の成長速度を見積もると長さ方向に300μm/day、太さ方向に57μm/dayであった。
得られた結晶粒をSi無反射板に乗せて、X線回折測定をした結果、m面からのみの回折が得られ、単結晶であることが示された。
【0044】
(実施例2)
充填するアンモニア量を4.2gとし、-33℃の密度換算で充填量を容器の約50%とするとともに、酸性鉱化剤を0.357gに減らしたことと、反応時間を長くすること以外は、実施例1と同様の条件にて実施した。充填率の違いによって、保持時の圧力は70MPaとなった。480時間保持した後、自然放冷し、内部のアンモニアを排出した。種結晶は元の状態から成長しており、長さ7.2mm、太さ1.7mmとなった。この時の成長速度を見積もると、長さ方向に160μm/day、太さ方向に50μm/dayであった。
得られた結晶粒は、X線回折により、六方晶GaNであることが確認された。また、形の整った、1粒の結晶粒をSi無反射板に乗せて、X線回折測定をした結果、m面からのみの回折が得られ、単結晶であることが示された。
【0045】
(実施例3)
実施例2によって得られた太さ1.7mmの結晶粒を長さ方向に対して垂直に切断し、対辺約1.5mm、厚み0.5mmのGaN単結晶基板を得た。これを種結晶として用い、実施例1と同様の条件によって育成した。結晶は元の状態から成長しており、厚み0.9mm、対辺1.8mmにまで成長した。この時の成長速度を見積もると、厚み方向(c軸方向)に57μm/day、対処方向(m軸方向)に43μm/dayであった。
【0046】
(比較例1)
気相法によって製造されたGaN多結晶を原料としたアモノサーマル法によってGaN単結晶粒を作製した。自発核生成によって作製した窒化ガリウム単結晶から、長さ4mm、太さ0.7mmの自形が整った粒を種結晶として用いた。
オートクレーブとしては、白金又は白金系の合金で内面にライニングを施した、RENE41を材料として作製されたもの(内寸直径8mm、長さ250mm、内容積約12.5mL)を用い、種結晶は白金線により固定し、オートクレーブの底面から25mmの位置に吊るした。
気相法により製造されたGaN多結晶(大きさ1mm〜5mm程度)5.0gを0.3mm厚の白金板を加工して作製した円筒型容器(外形寸法5.5mm、高さ100mm、側面に幅0.5mm×長さ80mmのスリットを6本、底面にφ0.5mmの孔を5個)に入れた。円筒型容器は充填された多結晶で満たされた。該容器を、種結晶をセットしたオートクレーブに、底面から50mmの隙間が保持されるようにセットし、次いで純度99.99%の塩化アンモニウムを0.426g入れ、オートクレーブの蓋を閉じた。容器を真空ポンプに接続し、内部を排気した。
【0047】
ターボ分子ポンプを用い、ポンプ直上での圧力が1.0×10-4Pa以下に到達するまで排気した。その後、ドライアイス/冷媒を用いてオートクレーブを冷却し、外気に触れることなく、純度99.999%のアンモニアを5.0g充填し、バルブを閉じた。(アンモニア量は-33℃でのアンモニア密度で換算して、オートクレーブ内容積の59%に相当した。)
次いで、オートクレーブをヒーターにセットし、容器を加熱した。多結晶配置部位の平均温度を638℃(等間隔に620℃、633℃、645℃、650℃、644℃)に、そして種結晶を配置した単結晶析出部位に相当する位置の平均温度を600℃(等間隔に590℃、602℃、610℃)に保持した。この際、圧力は96MPaであった。この状態で168時間保持した後、自然放冷し、内部のアンモニアを排出した。オートクレーブ内を確認すると、セットした種結晶はすべて溶解し、消失してしまっていた。
【0048】
(比較例2)
充填するアンモニア量を2.5gとし、-33℃のアンモニア密度換算で容器の約30%とするとともに、鉱化剤である塩化アンモニウムを0.213gに減らしたこと以外は、実施例1と同様の条件にて実施した。充填率の違いによって、保持時の圧力は27MPaとなった。168時間保持した後、自然放冷し、内部のアンモニアを排出した。オートクレーブ内を確認すると、セットした種結晶及び多結晶原料はほぼそのまま残っており、結晶成長は起こらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の窒化物単結晶の製造方法によって、30μm/day以上の、従来よりも速い速度での窒化物単結晶の育成が可能となる。また、本発明の窒化物単結晶の製造方法により得られる窒化物単結晶は平膜状の成長層を有するため、本発明により、様々な方位の基板を切り出すことのできるバルク窒化物単結晶を得ることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 圧力計
2 バルブ
3 オートクレーブ
4 導管
5 原料容器
6 窒化物多結晶原料
7 種結晶
8 電気炉(ヒーター)
9 窒化物多結晶配置部位
10 窒化物単結晶育成部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐腐食性オートクレーブ内で、超臨界又は亜臨界状態にあるアンモニアの存在下、少なくとも1種類の窒化物多結晶を原料として用い、かつ、少なくとも1種類の酸性鉱化剤を該アンモニアに添加して、アモノサーマル法により該窒化物多結晶から窒化物単結晶を製造する方法において、
該オートクレーブ内には、該窒化物多結晶を配置する部位と、種結晶を用いて該窒化物単結晶を育成する部位とが存在しており、
該種結晶を用いて窒化物単結晶を育成する部位の温度(T1)は、650℃〜850℃であり、かつ、該窒化物多結晶を配置する部位の温度(T2)よりも、平均温度で、高く保持され、そして
該耐腐食性オートクレーブ内の圧力は、40MPa〜250MPaに保持されている、
こと特徴とする、アモノサーマル法による窒化物単結晶の製造方法。
【請求項2】
該耐腐食性オートクレーブは、前記窒化物多結晶を配置する部位が前記種結晶を配置して窒化物単結晶を育成する部位よりも高い位置に存在する、請求項1に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項3】
該窒化物多結晶が、孔又はスリット状の隙間を複数設けた容器内に配置されており、そして該容器の側面と、前記耐腐食性オートクレーブの内壁との間には、少なくとも1mm以上の隙間が存在する、請求項1又は2に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記窒化物多結晶を配置する部位は、前記耐腐食性オートクレーブの内部底面から少なくとも10mm以上の高さの位置に、存在し、かつ、該窒化物多結晶を配置する部位と前記耐腐食性オートクレーブ内部底面とにより画される空間内に、種結晶を配置する、請求項3に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記窒化物多結晶を配置する部位と、前記種結晶を用いて窒化物単結晶育成する部位との間に、仕切り板が配置されている、請求項4に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記窒化物多結晶が、気相法により製造されたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法によって製造された、窒化物単結晶からなる基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−153055(P2011−153055A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17146(P2010−17146)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】