説明

窒化物単結晶の評価方法、窒化物単結晶の製造方法及び窒化物単結晶

【課題】アモノサーマル法で成長させたアズグロウン状態の窒化物単結晶の結晶品質をそのままの状態で評価できるようにすること。
【解決手段】反応容器内で成長温度を500℃以上にして窒化物単結晶を成長させた後に、成長温度から降温しながら窒化物単結晶に対して表面処理を施し、表面処理が施された窒化物単結晶の表面を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物単結晶の評価方法、窒化物単結晶の製造方法及び窒化物単結晶に関するものであり、特にアズグロウン状態に特徴を有する窒化物単結晶とその製造方法および評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウムや窒化アルミニウム等窒化物の単結晶は、アモノサーマル法などを利用し、結晶を成長させることで得ることができる。アモノサーマル法は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニア等の窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。結晶成長へ適用するときは、溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる。
このようにして成長させたアズグロウン状態の窒化物単結晶は、成長後に反応容器から取り出してスライシングや研磨等の加工処理を施すことにより、窒化物単結晶基板(ウエハ)などに加工されている。このとき加工に用いられるアズグロウン状態の窒化物単結晶の品質評価は、スライシングや研磨等の加工処理を施した後、ウエハを分析することにより行われている。また、特許文献1では、一部のウエハを評価して、他のウエハとの相関関係からウエハを効率良く評価できる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−513179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの従来法による窒化物単結晶の評価は、スライシング等の加工処理を施してウエハに加工した後に行うことを前提にしている。即ち、アズグロウン状態の窒化物単結晶としての品質評価はウエハ加工後に実施されているため、評価までに時間がかかり、品質が悪いものでもいったんウエハ加工しなければならない。このため、コストがかかり、ウエハ等の製造効率が良くないという問題があった。
以上の課題を解決すべく、本発明者らは、アズグロウン状態の窒化物単結晶の結晶品質をそのままの状態で評価できるようにすることを目的として鋭意検討を重ねた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、結晶成長させた窒化物単結晶に表面処理を施すことにより、アズグロウンの状態で窒化物単結晶の結晶品質を評価できることを見出し本発明に至った。
[1] 反応容器内で成長温度を500℃以上にして窒化物単結晶を成長させる成長工程、および該成長温度から反応容器内を降温する降温工程を含み、前記降温工程中に前記窒化物単結晶に対して表面処理を施し、前記表面処理が施された窒化物単結晶の表面を評価することを特徴とする窒化物単結晶の評価方法。
[2] 前記表面処理がメルトバック処理である[1]に記載の窒化物単結晶の評価方法。
[3] 前記メルトバック処理により窒化物単結晶の表面から1μm以上の厚みを溶解する[2]に記載の窒化物単結晶の評価方法。
[4] 前記メルトバック処理が、超臨界状態および/または亜臨界状態の溶媒中で施される[2]または[3]に記載の窒化物単結晶の評価方法。
[5] 前記降温工程において、反応容器内における窒化物単結晶を成長させる領域の温度(T1)と反応容器内における前記窒化物単結晶の原料を溶媒中に溶解する領域の温度(T2)との高低関係を、前記成長工程における前記温度(T1)と前記温度(T2)との高低関係とは逆にする状態を少なくとも経る[1]〜[4]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の評価方法。
[6] 前記成長工程で正の溶解度特性を有する鉱化剤を用い、前記降温工程において、反応容器内における種結晶が配置され窒化物単結晶を成長させる領域の温度(T1)を反応容器内における前記窒化物単結晶の原料を溶媒中に溶解する領域の温度(T2)よりも高くする状態を少なくとも経る[1]〜[5]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の評価方法。
[7] 前記成長工程で負の溶解度特性を有する鉱化剤を用い、前記降温工程において、反応容器内における種結晶が配置され窒化物単結晶を成長させる領域の温度(T1)を反応容器内における前記窒化物単結晶の原料を溶媒中に溶解する領域の温度(T2)よりも低くする状態を少なくとも経る[1]〜[5]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の評価方法。
[8] 前記降温工程において、反応容器内の平均温度が500℃の際に反応容器内の圧力を100MPa以上に制御し、反応容器内の平均温度が400℃の際に反応容器内の圧力を50MPa以上に制御し、反応容器内の平均温度が前記結晶成長終了後に2時間以上かけて400℃以下まで降温するように制御する[1]〜[7]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の評価方法。
[9] 前記成長工程の後に、反応容器を開放することなく前記表面処理を行う[1]〜[8]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の評価方法。
[10] 前記成長工程において、超臨界状態および/または亜臨界状態の溶媒中で窒化物単結晶の成長を行う[1]〜[9]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の評価方法。
【0006】
[11] 反応容器内で成長温度を500℃以上にして窒化物単結晶を成長させる成長工程、および該成長温度から反応容器内を降温する降温工程を含み、前記降温工程中に前記窒化物単結晶に対して表面処理を施すことを特徴とする窒化物単結晶の製造方法。
[12] 前記表面処理がメルトバック処理である[11]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[13] 前記メルトバック処理により窒化物単結晶の表面から1μm以上の厚みを溶解する[12]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[14] 前記メルトバック処理が、超臨界状態および/または亜臨界状態の溶媒中で施される[12]または[13]に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[15] 前記降温工程において、反応容器内における窒化物単結晶を成長させる領域の温度(T1)と反応容器内における前記窒化物単結晶の原料を溶媒中に溶解する領域の温度(T2)との高低関係を、前記結晶成長における前記温度(T1)と前記温度(T2)との高低関係とは逆にする状態を 少なくとも経る[11]〜[14]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[16] 前記成長工程を正の溶解度特性を有する鉱化剤を用いて行い、前記降温工程において、反応容器内における種結晶が配置され窒化物単結晶を成長させる領域の温度(T1)を反応容器内における前記窒化物単結晶の原料を溶媒中に溶解する領域の温度(T2)よりも高くする状態を少なくとも経る[11]〜[15]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[17] 前記成長工程を負の溶解度特性を有する鉱化剤を用いて行い、前記降温工程において、反応容器内における種結晶が配置され窒化物単結晶を成長させる領域の温度(T1)を反応容器内における前記窒化物単結晶の原料を溶媒中に溶解する領域の温度(T2)よりも低くする状態を少なくとも経る[11]〜[15]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[18] 前記降温工程において、反応容器内の平均温度が500℃の際に反応容器内の圧力を100MPa以上に制御し、反応容器内の平均温度が400℃の際に反応容器内の圧力を50MPa以上に制御し、反応容器内の平均温度が前記結晶成長終了後に2時間以上かけて400℃以下まで降温するように制御する[11]〜[17]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[19] 前記成長工程の後に、反応容器を開放することなく、前記表面処理を行う[11]〜[18]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
[20] 前記成長工程において、超臨界状態および/または亜臨界状態の溶媒中で窒化物単結晶の成長を行う[11]〜[19]のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【0007】
[21] [11]〜[20]のいずれか1項に記載の製造方法により製造される窒化物単結晶。
[22] 顕微鏡により結晶表面上の0.1μm以上の欠陥を観察することができる[21]の窒化物単結晶。
[23] 結晶表面上に成長ステップが観察される[21]または[22]の窒化物単結晶。
[24] M面、C面、[10−1−1]及び[10−11]面の中から選ばれるいずれかの面の1cm2以上の領域が鏡面である[21]〜[23]の窒化ガリウム単結晶。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アズグロウンの状態で窒化物単結晶の結晶品質を評価することができる。スライシング等の加工処理を施す必要がないため、極めて簡便で安価にアズグロウンの状態の窒化物単結晶を評価することができる。したがって、本発明によれば、品質が良い窒化物単結晶だけを容易に選択して基板などに加工し、加工効率を上げ、加工コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。
【図2】実施例及び比較例について、降温工程における反応容器内の温度変化を示すグラフである。
【図3】本発明によるアズグロウン状態のGaN結晶のピットと線状欠陥を示す拡大顕微鏡写真である。
【図4】本発明によるアズグロウン状態のGaN結晶のピットを示す拡大顕微鏡写真である。
【図5】本発明によるアズグロウン状態のGaN結晶の成長ステップを示す拡大顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の窒化物結晶の評価方法や製造方法、およびそれに用いる結晶製造装置や部材について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
まず、六方晶系の結晶構造の軸と面との関係について説明する。本明細書において種結晶またはIII族窒化物結晶の「主面」とは、当該種結晶またはIII族窒化物結晶における最も広い面であって、通常は結晶成長を行うべき面を指す。本明細書において「C面」とは、六方晶構造(ウルツ鋼型結晶構造)における{0001}面と等価な面であり、極性面である。例えば、(0001)面とその反対面である(000−1)面を指す。III族窒化物結晶では、C面はIII族面又はV族面であり、窒化ガリウムではそれぞれGa面又はN面に相当する。また、本明細書において「M面」とは、{1−100}面、{01−10}面、[−1010]面、{−1100}面、{0−110}面、{10−10}面として包括的に表される非極性面であり、具体的には(1−100)面や、(01−10)面、(−1010)面、(−1100)面、(0−110)面、(10−10)面を意味する。さらに、本明細書において「A面」とは、{2−1−10}面、{−12−10}面、{−1−120}面、{−2110}面、{1−210}面、{11−20}面として包括的に表される非極性面である。具体的には(11−20)面や、(2−1−10)面、(−12−10)面、(−1−120)面、(−2110)面、(1−210)面、を意味する。本明細書において「c軸」「m軸」「a軸」とは、それぞれC面、M面、A面に垂直な軸を意味する。
【0012】
また、本明細書において「非極性面」とは、表面にIII族元素と窒素元素の両方が存在しており、かつその存在比が1:1である面を意味する。具体的には、M面やA面を好ましい面として挙げることができる。本明細書において「半極性面」とは、例えば、III族窒化物が六方晶であってその主面が(hklm)で表される場合、[0001]面以外で、m=0ではない面をいう。すなわち(0001)面に対して傾いた面で、かつ非極性面ではない面をいう。表面にIII族元素と窒素元素の両方あるいはC面のように片方のみが存在する場合で、かつその存在比が1:1でない面を意味する。h、k、l、mはそれぞれ独立に−5〜5のいずれかの整数であることが好ましく、−2〜2のいずれかの整数であることがより好ましく、低指数面であることが好ましい。前記III族窒化物結晶の主面として好ましく採用できる半極性面として、例えば(10−11)面、(10−1−1)面、(10−12)面、(10−1−2)面、(20−21)面、(20−2−1)面、(10−12)面、(10−1−2)面、(11−21)面、(11−2−1)面、(11−22)面、(11−2−2)面、(11−24)面、(11−2−4)面などを挙げることができる。
【0013】
[本発明の窒化物単結晶の評価方法]
(特徴)
本発明の窒化物単結晶の評価方法は、結晶成長させた窒化物単結晶に対して降温時に表面処理を施し、前記表面処理が施された表面を評価するものである。つまり、反応容器内で成長温度を500℃以上にして窒化物単結晶を成長させる成長工程、および該成長温度から反応容器内を降温する降温工程を含み、前記降温工程中に前記窒化物単結晶に対して表面処理を施し、前記表面処理が施された窒化物単結晶の表面を評価する方法である。
これにより、表面処理後に反応容器から取り出された窒化物単結晶を、そのままの状態で評価することができる。このため、スライスや研削・研磨などの時間とコストのかかる加工を実施する前に結晶の品質の良し悪しの選別が可能となり、作業時間の短縮及びコストの削減が可能である。
前記表面処理としては、例えばメルトバック処理やエッチング処理が挙げられ、好ましくはメルトバック処理である。メルトバック処理は、結晶成長させた窒化物単結晶の表面を溶解(メルトバック)する処理である。
【0014】
表面処理を行うことによって、結晶成長させて得られたアズグロウン状態の窒化物単結晶の表面は1μm以上の厚みを溶解して除去されることが好ましく、2μm以上除去されることがより好ましく、3μm以上除去されることが更に好ましく、4μm以上除去されることが特に好ましい。上限値については、100μm以下除去されることが好ましく、50μm以下除去されることがより好ましく、20μm以下除去されることが更に好ましく、10μm以下除去されることが特に好ましい。
前記表面処理を行うことによって、窒化物単結晶表面に存在するダメージや汚染物質を除去することができる。このため、反応容器から取り出した後の窒化物単結晶に対する洗浄工程等を、容易化したり簡素化したりすることができる。また、ピットや転位のように結晶性が悪い部分はメルトバックやエッチングで溶解しやすいため、前記表面処理によって窒化物単結晶表面が選択的に溶解されてピットや転位が表面に顕在化することから、結晶の表面状態が観察しやすくなる。このため、反応容器から取り出した後のアズグロウン状態の窒化物単結晶の品質評価を容易化し、その後の利用や加工を効率化し、加工品の歩留まりを向上させることができる。さらに、前記表面処理を行うことによって、窒化物単結晶の表面のみならず反応容器内に付着した自発核発生物質を除去することもできる。これにより成長工程後の反応容器の洗浄が容易になり、反応容器の再利用が促進される。
【0015】
前記表面処理は、結晶成長させた窒化物結晶を反応容器から取り出す前に、反応容器内で施されることが好ましい。なかでも、結晶成長させて得られるアズグロウン状態の窒化物単結晶を、反応容器を開放せずに表面処理することが好ましい。結晶成長は500℃以上の高温で行われるため、結晶成長終了後の降温時に表面処理を行うことが特に好ましい。降温時の表面処理は、降温過程の少なくとも一部において行えばよい。
本発明における窒化物単結晶の成長方法としては、特に限定されず一般的に知られる気相法、溶液法、アモノサーマル法などを用いることができるが、中でもアモノサーマル法を用いることが好ましい。「アモノサーマル法」は、超臨界状態および/または亜臨界状態にあるアンモニアなどの窒素を含有する溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の窒化物単結晶を製造する方法である。アモノサーマル法による窒化ガリウム結晶成長は、高温高圧の超臨界アンモニア環境下での反応であり、さらに、超臨界状態の純アンモニア中への窒化ガリウムの溶解度は極めて小さいため、溶解度を向上させ結晶成長を促進させるために鉱化剤を用いることが好ましい。
【0016】
以下において、アモノサーマル法による窒化物単結晶の製造の詳細を説明する。
【0017】
(反応容器)
本発明の窒化物単結晶は、反応容器中で製造し、表面処理を施すことができる。
前記反応容器は、窒化物単結晶を成長させるときの高温高圧条件に耐え得るもの中から選択することができる。前記反応容器としては、特表2003−511326号公報(国際公開第01/024921号パンフレット)や特表2007−509507号公報(国際公開第2005/043638号パンフレット)に記載されるように反応容器の外から反応容器とその内容物にかける圧力を調整する機構を備えたものであってもよいし、そのような機構を有さないオートクレーブであってもよい。
【0018】
前記反応容器は、耐圧性と耐食性とを有する材料で構成されているものが好ましく、特にアンモニア等の溶媒に対する耐食性に優れたNi系の合金、ステライト(デロロ・ステライト・カンパニー・インコーポレーテッドの登録商標)等のCo系合金を用いることが好ましい。より好ましくはNi系の合金であり、具体的には、Inconel625(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標、以下同じ)、Nimonic90(Nimonicはスペシャル メタルズ ウィギン リミテッドの登録商標、以下同じ)、RENE41(Teledyne Allvac, Incの登録商標)、Inconel718(Inconelはハンティントン アロイズ カナダ リミテッドの登録商標)、ハステロイ(Haynes International,Incの登録商標)、ワスパロイ(United Technologies,Inc.の登録商標)が挙げられる。
これらの合金の組成比率は、系内の溶媒の温度や圧力条件、および系内に含まれる鉱化剤およびそれらの反応物との反応性および/または酸化力・還元力、pHの条件に従い、適宜選択すればよい。これらを反応容器の内面を構成する材料として用いるには、反応容器自体をこれらの合金を用いて製造してもよく、内筒として薄膜を形成して耐圧性容器の中に反応容器として設置してもよく、任意の反応容器の材料の内面にメッキ処理を施してもよい。
反応容器の耐食性をより向上させるために、貴金属の優れた耐食性を利用して、貴金属を反応容器の内表面をライニングまたはコーティングしてもよい。また、反応容器の材質を貴金属とすることもできる。ここでいう貴金属としては、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、Pd、Ag、およびこれらの貴金属を主成分とする合金が挙げられ、中でも優れた耐食性を有するPtを用いることが好ましい。
【0019】
図1を用いて前記窒化物単結晶の製造方法に用いることのできる反応容器を含む結晶製造装置の具体例を図1に示す。図1は、本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。図1に示される結晶製造装置においては、オートクレーブ1中に反応容器として装填されるカプセル20中で結晶成長を行う。カプセル20中は、原料を溶解するための原料溶解領域9と結晶を成長させるための結晶成長領域6とから構成されている。原料溶解領域9には原料8とともに溶媒や鉱化剤を入れることができ、結晶成長領域6には種結晶7をワイヤーで吊すなどして設置することができる。原料溶解領域9と結晶成長領域6との間には、2つの領域を区画するバッフル板5が設置されている。バッフル板5の開孔率は2%以上であるものが好ましく、3%以上であるものがより好ましく、また、60%以下であるものが好ましく、40%以下であるものがより好ましい。バッフル板の表面の材質は、反応容器であるカプセル20の材料と同一であることが好ましい。また、より耐浸食性を持たせ、成長させる結晶を高純度化するために、バッフル板の表面は、Ni、Ta、Ti、Nb、Pd、Pt、Au、Ir、Mo、W、pBNであることが好ましく、Pd、Pt、Au、Ir、Mo、W、pBNであることがより好ましく、Mo、W、Ptであることが特に好ましい。図1に示される結晶製造装置では、オートクレーブ1の内壁とカプセル20の間の空隙には、第2溶媒を充填することができるようになっている。ここには、バルブ10を介して窒素ボンベ13から窒素ガスを充填したり、アンモニアボンベ12からマスフローメーター14で流量を確認したりしながら第2溶媒としてアンモニアを充填することができる。また、真空ポンプ11により必要な減圧を行うこともできる。なお、前記窒化物単結晶の製造方法を実施する際に用いる結晶製造装置には、バルブ、マスフローメーター、導管は必ずしも設置されていなくてもよい。
【0020】
前記オートクレーブにより耐食性を持たせるためにライニングを使用することもできる。ライニングする材料として、Pt、Ir、Ag、Pd、Rh、Cu、AuおよびCのうち少なくとも一種類以上の金属または元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金または化合物であることが好ましく、より好ましくは、ライニングがしやすいという理由でPt,Ag、CuおよびCのうち少なくとも一種類以上の金属または元素、もしくは、少なくとも一種類以上の金属を含む合金または化合物である。例えば、Pt単体、Pt−Ir合金、Ag単体、Cu単体やグラファイトなどが挙げられる。
【0021】
(成長工程)
成長工程は、成長温度において窒化物単結晶を成長させる工程である。
アモノサーマル法により窒化物単結晶を製造する場合、種結晶、窒素等を含有する溶媒、原料、ならびに好ましくは鉱化剤を入れた反応容器内の温度および圧力を、前記溶媒が超臨界状態および/または亜臨界状態となるように制御して前記種結晶の表面に窒化物単結晶を成長させることができる。種結晶は必ずしも用いる必要はないが、効率よく大型の窒化物単結晶を得るために用いることが好ましい。
超臨界状態では一般的には、粘度が低く、液体よりも容易に拡散されるが、液体と同様の溶媒和力を有する。亜臨界状態とは、臨界温度近傍で臨界密度とほぼ等しい密度を有する液体の状態を意味する。例えば、原料充填部では、超臨界状態として原料を溶解し、結晶成長部では亜臨界状態となるように温度を変化させて超臨界状態と亜臨界状態の原料の溶解度差を利用した結晶成長も可能である。
【0022】
超臨界状態にする場合、反応混合物は、一般に溶媒の臨界点よりも高い温度に保持する。アンモニア溶媒を用いた場合、臨界点は臨界温度132℃、臨界圧力11.35MPaであるが、反応容器の容積に対する充填率が高ければ、臨界温度以下の温度でも圧力は臨界圧力を遥かに越える。本発明において「超臨界状態」とは、このような臨界圧力を越えた状態を含む。反応混合物は、一定の容積の反応容器内に封入されているので、温度上昇は流体の圧力を増大させる。一般に、T>Tc(1つの溶媒の臨界温度)およびP>Pc(1つの溶媒の臨界圧力)であれば、流体は超臨界状態にある。
超臨界条件では、窒化物単結晶の十分な成長速度が得られる。反応時間は、特に鉱化剤の反応性および熱力学的パラメータ、すなわち温度および圧力の数値に依存する。窒化物単結晶の合成中あるいは成長中、反応容器内の圧力は120MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上にすることがより好ましく、180MPa以上にすることがさらに好ましい。また、反応容器内の圧力は700MPa以下にすることが好ましく、500MPa以下にすることがより好ましく、350MPa以下にすることがさらに好ましく、300MPa以下にすることが特に好ましい。圧力は、温度および反応容器の容積に対する溶媒体積の充填率によって適宜決定される。本来、反応容器内の圧力は、温度と充填率によって一義的に決まるものではあるが、実際には、原料、鉱化剤などの添加物、反応容器内の温度の不均一性、およびフリー容積の存在によって多少異なる。
【0023】
本明細書において、反応容器内における窒化物単結晶を成長させる領域(結晶成長領域)の温度をT1、反応容器内における前記窒化物単結晶の原料を溶媒中に溶解する領域(原料溶解領域)の温度をT2として表記する。なお、以下の説明においては、各工程におけるT1またはT2を区別して表記している。各領域の「温度」は、反応容器の外面に接するように設けられた熱電対、および/または外表面から一定の深さの穴に差し込まれた熱電対によって測定され、反応容器の内部温度へ換算して推定することができる。これら熱電対で測定された温度の平均値をもって平均温度とする。
【0024】
例えば溶解度特性が正の鉱化剤を用いる場合、原料溶解領域を高温にし、結晶成長領域を低温にする。この場合、成長工程における原料溶解領域の温度(T2grow)と結晶成長領域の温度(T1grow)との差(ΔTgrow=T2grow−T1grow)は正の値となる。溶解度特性が負の鉱化剤を用いる場合、原料溶解領域を低温にし、結晶成長領域を高温にする。この場合、成長工程における原料溶解領域の温度(T2grow)と結晶成長領域の温度(T1grow)との差(ΔTgrow=T2grow−T1grow)は負の値となる。ここで、正の溶解度特性とは、温度上昇に伴い、アンモニアなどの溶媒に対するGaN原料などの溶質の溶解度が増加するような特性を意味する。一方で、負の溶解度特性とは、温度上昇に伴い、アンモニアなどの溶媒に対するGaN原料などの溶質の溶解度が減少するような特性を意味する。
【0025】
例えば溶解度特性が正の鉱化剤を用いる場合を例にとって説明すると、原料溶解領域の温度(T2grow)は、オートクレーブなどの反応容器の最高使用温度(Tmax)まで高くすることができるため、原料溶解領域の温度を反応容器の最高使用温度(Tmax)にすれば、結晶成長領域の温度(T1grow)は以下の式で表すことができる。
T1grow=Tmax−ΔT
温度差ΔTは、結晶が十分に成長するように一定の過飽和度が確保できるように設定する。一定の過飽和度を確保するための温度差は、溶解度曲線の傾きが大きいほど小さくなる。したがって、本発明においては、鉱化剤を適宜選択することにより結晶成長領域の温度(T1grow)を高く設定することが可能である。
前記成長工程おける温度差(ΔT)は、用いる鉱化剤により好ましい範囲が変わってくるが、一般的には、5℃以上に設定することが好ましく、10℃以上に設定することがより好ましく、15℃以上に設定することがさらに好ましく、また、70℃以下に設定することが好ましく、65℃以下に設定することがより好ましく、55℃以下に設定することがさらに好ましい。このように温度差を小さくして成長させることによって、自発核発生による微結晶の析出を抑えることができる。また、過飽和度が適切に制御されているため、種結晶上においてもスムーズな結晶成長が進行し、立方晶窒化ガリウムの混入が抑制された好ましい六方晶窒化ガリウムが成長する。
【0026】
前記成長工程では、結晶成長領域の温度(T1grow)を通常400℃以上、好ましくは450℃以上、より好ましくは495℃以上に設定し、上限値は好ましくは645℃以下に設定する。結晶成長領域の温度(T1grow)が400℃以上であれば、得られる窒化物単結晶が単層の六方晶になりやすく、結晶性に優れるため好ましい。ここでいう結晶成長領域の温度(T1grow)は、目的とする窒化物単結晶を成長させる領域の温度であり、窒化物単結晶を種結晶上に成長させる場合は種結晶とその近傍の温度である。原料溶解領域の温度(T2grow)は通常405℃以上、好ましくは455℃以上、より好ましくは500℃以上に設定し、上限値は好ましくは650℃以下に設定する。ここでいう原料溶解領域の温度(T2grow)は、原料が溶媒中に溶解する領域の温度であり、広い範囲で溶解する場合は原料溶解量が多い領域の温度である。なお、ここでいう結晶成長領域の温度範囲と原料溶解領域の温度範囲の各上限値は、最高使用温度(Tmax)が高い実用的な反応容器が開発されたときには、その新たに開発された反応容器の最高使用温度に応じて引き上げることができる。
【0027】
結晶成長領域の温度(T1grow)、原料溶解領域の温度(T2grow)、これらの温度差(ΔT)は、別の観点から規定することもできる。すなわち、アンモニアなどの溶媒に対する窒化物の過飽和度(ΔS)が0.03〜0.43の範囲内になるようにこれらの温度条件を決定することもできる。過飽和度は0.06以上になるように設定することがより好ましく、0.09以上になるように設定することがさらに好ましい。また、過飽和度は0.40以下になるように設定することがより好ましく、0.33以下になるように設定することがさらに好ましい。
たとえば、溶解度曲線の傾きが大きくなるような鉱化剤の組合せを採用して、温度差(ΔT)を小さくすれば、結晶成長領域内の温度ムラや温度変動も小さくすることができる。その結果、結晶成長に最適な温度領域が拡大し、結晶成長に最適な温度にある時間も長くなるため、安定した結晶成長が可能になる。結晶成長領域内の温度分布は小さいほど好ましいが、通常は0〜30℃の範囲内であり、0〜20℃の範囲内であることが好ましく、0〜10℃の範囲内であることがより好ましい。
【0028】
(降温工程)
前記降温工程は、前記窒化物単結晶の成長を行った前記反応容器内の温度を降下させる工程である。温度の降下(冷却)は、公知の温度制御手段を用いて行うことができ、成長工程を実施した反応容器内で成長工程終了後に続けて実施することが好ましい。本発明では、前記降温工程において窒化物単結晶にメルトバック処理などの表面処理を施すことが好ましい。
メルトバック処理などの表面処理は、反応容器内の温度を制御しながら降下させることにより行うことができる。表面処理を伴う前記降温工程は、前記成長工程に引き続いて、超臨界状態および/または亜臨界状態で実施することが可能である。前記降温工程中に表面処理を施す方法としては以下のような方法が挙げられる。
例えば、前記反応容器内の平均温度が500℃の際に前記反応容器内の圧力が100MPa以上、好ましくは110MPa以上、更に好ましくは120MPa以上となるように制御し、前記反応容器内の平均温度が400℃の際に前記反応容器内の圧力が50MPa以上、好ましくは60MPa以上、更に好ましくは70MPa以上となるように制御し、なおかつ、前記反応容器内の平均温度を2時間以上、好ましくは2.5時間以上、更に好ましくは3時間以上かけて400℃以下まで降温するように制御することにより、メルトバックなどの表面処理を実施することが可能である。
この際、メルトバックなどの表面処理時の原料溶解領域の温度(T2cool)と結晶成長領域の温度(T1cool)との差(ΔTcool=T1cool−T2cool)は、表面除去量制御の観点から、0℃〜200℃が好ましく、0℃〜150℃が更に好ましく、0℃〜100℃が特に好ましい。
【0029】
別の方法として、反応容器内の結晶成長領域の温度(T1cool)と原料溶解領域の温度(T2cool)との高低関係を、前記成長工程における前記反応容器内の結晶成長領域の温度(T1grow)と原料溶解領域の温度(T2grow)との高低関係とは逆の関係になるように、即ち、高低関係が逆転するように制御することにより、メルトバックなどの表面処理を行うこともできる。
例えば、鉱化剤として正の溶解度特性を有するものを用いた場合、成長工程において原料溶解領域の温度(T2grow)は結晶成長領域の温度(T1grow)よりも高く設定する(即ち、温度(T1grow)<温度(T2grow))。その後の降温工程において、結晶成長領域の温度(T1cool)を原料溶解領域の温度(T2cool)よりも高くすることで(即ち、温度(T1cool)>温度(T2cool))、種結晶にメルトバック処理を施すことができる。この場合、成長工程における結晶成長領域の温度(T1grow)と原料溶解領域の温度(T2grow)との差(ΔTgrow=T1grow−T2grow)は負の値となるが、降温工程のメルトバック処理時においては、結晶成長領域の温度(T1cool)と原料溶解領域の温度(T2cool)との差(ΔTcool=T1cool−T2cool)が正の値(T1−T2>0℃)となるように制御することになる。
【0030】
これに対し、鉱化剤として負の溶解度特性を有するものを用いた場合、成長工程において原料溶解領域の温度(T2grow)を結晶成長領域の温度(T1grow)よりも低く設定する(温度(T1grow)>温度(T2grow))。その後の降温工程において、原料溶解領域の温度(T2cool)を結晶成長領域の温度(T1cool)よりも高くする(即ち、温度(T1cool)<温度(T2cool))ことで、種結晶にメルトバック処理を施すことができる。この場合、成長工程における原料溶解領域の温度(T2grow)と結晶成長領域の温度(T1grow)との差(ΔTgrow=T2grow−T1grow)は負の値となるが、降温工程においては、原料溶解領域の温度(T2cool)と結晶成長領域の温度(T1cool)との差(ΔTcool=T2cool−T1cool)が正の値(T2−T1>0℃)となるように制御することになる。
【0031】
以下に前記窒化物単結晶の製造方法において用いられる、鉱化剤、溶媒、原料、種結晶について説明する。
【0032】
(鉱化剤)
本発明では、一般にアモノサーマル法において用いられる鉱化剤を適宜選択して用いることができる。用いる鉱化剤は、塩基性鉱化剤であっても、酸性鉱化剤であってもよい。塩基性鉱化剤としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属と窒素原子を含む化合物で、アルカリ土類金属アミド、希土類アミド、窒化アルカリ金属、窒化アルカリ土類金属、アジド化合物、その他ヒドラジン類の塩が挙げられる。好ましくは、アルカリ金属アミドで、具体例としてはナトリウムアミド(NaNH2)、カリウムアミド(KNH2)、リチウムアミド(LiNH2)が挙げられる。また、酸性鉱化剤としては、ハロゲン原子を含む化合物で、ハロゲン化アンモニウム等が挙げられる、例えば塩化アンモニウム(NH4Cl)、ヨウ化アンモニウム(NH4I)、臭化アンモニウム(NH4Br)、フッ化アンモニウム(NH4F)である。本発明では、ハロゲン化アンモニウムを含む酸性鉱化剤を用いることが好ましい。また、鉱化剤は1種を単独で用いてもよいし、複数種を適宜混合して用いてもよい。
なお、前記結晶成長を行う際には、反応容器にハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化シリコン、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化ビスマスなどを存在させておいてもよい。
【0033】
鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアなどの溶媒に対するモル濃度は0.1mol%以上とすることが好ましく、0.3mol%以上とすることがより好ましく、0.5mol%以上とすることがさらに好ましい。また、鉱化剤に含まれるハロゲン元素のアンモニアなどの溶媒に対するモル濃度は30mol%以下とすることが好ましく、20mol%以下とすることがより好ましく、10mol%以下とすることがさらに好ましい。濃度が低すぎる場合、溶解度が低下し成長速度が低下する傾向がある。一方濃度が濃すぎる場合、溶解度が高くなりすぎて自発核発生が増加したり、過飽和度が大きくなりすぎたりするため制御が困難になるなどの傾向がある。
前記正の溶解度特性を有する好ましい鉱化剤としては、例えば、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウムを挙げることができる。
前記負の溶解度特性を有する好ましい鉱化剤としては、例えば、ナトリウムアミド、カリウムアミド、フッ化アンモニウムを挙げることができる。
【0034】
(溶媒)
前記アモノサーマル法に用いられる溶媒としては、窒素を含有する溶媒を用いることができる。窒素を含有する溶媒としては、成長させる窒化物単結晶の安定性を損なうことのない溶媒が挙げられる。前記溶媒としては、例えば、アンモニア、ヒドラジン、尿素、アミン類(例えば、メチルアミンのような第1級アミン、ジメチルアミンのような第二級アミン、トリメチルアミンのような第三級アミン、エチレンジアミンのようなジアミン)、メラミン等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
前記溶媒に含まれる水や酸素の量はできるだけ少ないことが望ましく、これらの含有量は1000ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以下であることがさらに好ましい。アンモニアを溶媒として用いる場合、その純度は通常99.9%以上であり、好ましくは99.99%以上であり、さらに好ましくは99.999%以上であり、特に好ましくは99.9999%以上である。
【0035】
(原料)
前記製造方法において、前記原料としては、アモノサーマル法による窒化物単結晶の成長に通常用いられる原料を適宜選択して用いることができる。例えば、窒化ガリウム結晶を成長させる場合には、ガリウム源となる原料として金属ガリウム、窒化ガリウム、またはこれらの混合物を用いることができる。
その他の窒化物単結晶の成長条件等については、特開2007−238347号公報の製造条件の欄を参照することができる。
【0036】
(種結晶)
前記種結晶を用いる場合には、種結晶は特に限定されないが、成長工程において成長させる窒化物と同一の結晶を用いることが好ましい。前記種結晶の具体例としては、例えば窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)等の窒化物単結晶が挙げられる。
前記種結晶は、溶媒への溶解度および鉱化剤との反応性を考慮して決定することができる。例えば、GaNの種結晶としては、サファイア等の異種基板上に結晶成長させた後に剥離させて得た単結晶、金属GaからNaやLi、Biをフラックスとして結晶成長させて得た単結晶、液相エピタキシ法(LPE法)を用いて得たホモ/ヘテロエピタキシャル成長させた単結晶、溶液成長法に基づき作製された単結晶およびそれらを切断した結晶などを用いることができる。前記結晶成長の具体的な方法については特に制限されず、例えば、ハイドライド気相成長法(HVPE)法、有機金属化学気相堆積法(MOCVD法)、液相法、アモノサーマル法などを採用することができる。
【0037】
前記種結晶の主面の種類は特に制限されない。極性面であっても、非極性面であっても、半極性面であってもよい。ここでいう主面とは、結晶を構成する面のうち最大面積を有する面を意味する。前記種結晶としては、C面を主面とする種結晶、M面を主面とする種結晶、A面を主面とする種結晶、半極性面を主面とする種結晶を用いることができる。これらの主面は劈開して形成してもよい。例えば、劈開して生成したM面を有する種結晶を用いれば、未研磨のM面を有する種結晶や精密研磨したM面を有する種結晶を用いて結晶成長させた場合に比べて、高品質の窒化物単結晶を速い成長速度で製造することができる。例えば、前記窒化物単結晶が六方晶であってその主面が(hklm)で表される場合、h、k、l、mはそれぞれ独立に−3〜3のいずれかの整数であることが好ましく、−2〜2のいずれかの整数であることがより好ましい。前記窒化物単結晶の主面の具体例として、{10−10}面、{11−20}面、[10−11]面、[10−1−1]面、[20−21]面、[20−2−1]面などを挙げることができる。
種結晶には、前処理を加えておくことができる。前処理としては、例えば、種結晶の成長結晶成長面を研磨したり、種結晶をエッチング、洗浄したりすることなどが挙げられる。
【0038】
(窒化物単結晶)
アズグロウン状態で上述のメルトバック処理などの表面処理が施された窒化物単結晶は、必要に応じて洗浄を行った後に、結晶表面を顕微鏡等で観察し、表面状態を分析することで結晶品質を評価することができる。前記窒化物単結晶の製造方法によって得られた表面処理れた窒化物単結晶は、鏡面部位を有することが好ましい。例えば、得られた結晶が窒化ガリウムの場合には、M面、C面、[10−1−1]及び[10−11]面の中から選ばれるいずれかの面の1cm2以上の領域が鏡面であることが好ましい。
前記窒化物単結晶の製造方法によって得られた表面処理された窒化物単結晶は、前記メルトバックなどの表面処理が施されていることから、顕微鏡等で観察することでピットや線状欠陥等の欠陥の有無、さらにはそれらの直径、深さ、長さ等のサイズを確認することができる。アズグロウン状態で表面処理を施した窒化物単結晶のピットの数は、1x107/cm2以下であることが好ましく、1x105/cm2以下であることが更に好ましく、1x103/cm2以下であることが特に好ましい。また、前記窒化物単結晶の製造方法によって得られたアズグロウン状態で表面処理を施した窒化物単結晶は、結晶表面上の無転位領域を観察することで、結晶の成長ステップを観察することができる。
前記窒化物単結晶の製造方法で製造される窒化物単結晶の主面は、前記種結晶の主面と一致することが、生産上の効率化の面から好ましい。
【0039】
前記窒化物単結晶は、自立結晶であることが好ましい。具体的には、結晶自体の厚さ(主面に垂直方向の厚み)は、100μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましく、1mm以上であることがさらに好ましく、5mm以上であることが特に好ましい。特に、非極性面または半極性面を主面とした種結晶上にHVPE法を用いて成長結晶をエピタキシャル成長させた窒化物単結晶は、その厚さが0.1mmを超えると成長結晶に内在する積層欠陥数が大幅に増えていく傾向にある。これに対し、アモノサーマル法で成長させた窒化物単結晶は、厚さを1mm以上とした場合であっても、積層欠陥数の増加が抑制されるため、良質な結晶の大型化が可能である。結晶(基板)の厚さやサイズは、成長結晶の厚さを調整したり、研磨、切断、エッチング等の処理を調節したりすることにより、所望の範囲内に調整することができる。
前記窒化物単結晶は、周期表13族金属窒化物単結晶であることが好ましい。例えば、種結晶および成長結晶を構成する窒化物として、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムやこれらの混晶などを用いたものが好ましく、この中でも窒化ガリウムがさらに好ましい。
前記窒化物単結晶を製造する際に、種結晶の形状を適宜選択することにより、所望の形状を有する窒化物単結晶を得ることができる。例えば、M面を有する種結晶を用いてアモノサーマル結晶成長などを行うことにより、m軸方向に厚みを有する窒化物単結晶が一段と高い生産効率で得られる。
前記窒化物単結晶は、そのまま使用してもよいし、加工してから使用してもよい。
【0040】
(製造工程)
前記窒化物単結晶の製造方法の一例について説明する。前記窒化物単結晶の製造方法を実施する際には、まず、反応容器内に、種結晶、窒素を含有する溶媒、原料、および鉱化剤を入れて封止する。ここで、前記種結晶としては、C面を主面として成長させた窒化物結晶を所望の方向に切り出すことによって、主面が非極性面または半極性面となる基板を得ることができる。これによって、M面などの非極性面、[10−11]、[20−21]などの半極性面を有する種結晶を得ることができる。特に、大口径のC面を有する窒化物単結晶を製造した場合は、c軸に垂直な方向に切り出すことにより、大口径の種結晶を得ることができる。
【0041】
前記材料を反応容器内に導入するのに先だって、反応容器内は脱気しておいてもよい。また、材料の導入時には、窒素ガスなどの不活性ガスを流通させてもよい。反応容器内への種結晶の装填は、通常は、原料および鉱化剤を充填する際に同時または充填後に装填する。種結晶は、反応容器内表面を構成する貴金属と同様の貴金属製の治具に固定することが好ましい。装填後には、必要に応じて加熱脱気をしてもよい。
図1に示す製造装置を用いる場合は、反応容器であるカプセル20内に種結晶、窒素を含有する溶媒、原料、および鉱化剤を入れて封止した後に、カプセル20を耐圧性容器(オートクレーブ)1内に装填し、好ましくは耐圧性容器と該反応容器の間の空隙に第2溶媒を充填して耐圧性容器を密閉する。
【0042】
その後、全体を加熱して反応容器内を超臨界状態および/または亜臨界状態とする(昇温工程)。
前記の反応容器内の温度範囲、圧力範囲を達成するための反応容器への溶媒の注入割合、すなわち充填率は、反応容器のフリー容積、すなわち、反応容器に多結晶原料、および種結晶を用いる場合には、種結晶とそれを設置する構造物の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積、またバッフル板を設置する場合には、さらにそのバッフル板の体積を反応容器の容積から差し引いて残存する容積の溶媒の沸点における液体密度を基準として、通常20〜95%、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上であり、また、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下とする。
反応容器内での窒化物単結晶の成長は、熱電対を有する電気炉などを用いて反応容器を加熱昇温することにより、反応容器内をアンモニア等の溶媒の亜臨界状態および/または超臨界状態に保持することにより行われる。加熱の方法、所定の反応温度への昇温速度に付いては特に限定されないが、通常、数時間から数日かけて行われる。必要に応じて、多段の昇温を行ったり、温度域において昇温スピードを変えたりすることもできる。また、部分的に冷却しながら加熱したりすることもできる。
【0043】
所定の温度に達した後の反応時間については、窒化物単結晶の種類、用いる原料、鉱化剤の種類、製造する結晶の大きさや量によっても異なるが、通常、数時間から数百日とすることができる。反応中、反応温度は一定にしてもよいし、徐々に昇温または降温させることもできる。所望の結晶を生成させるための反応時間を経た後、降温させる(降温工程)。降温方法は特に限定されないが、ヒーターの加熱を停止してそのまま炉内に反応容器を設置したまま放冷してもかまわないし、反応容器を電気炉から取り外して空冷してもかまわない。必要であれば、冷媒を用いて急冷することも好適に用いられる。これらの手段を適宜用いることにより、上記のメルトバック処理等の表面処理を行う。
【0044】
反応容器外面の温度、あるいは推定される反応容器内部の温度が所定温度以下になった後、反応容器を開栓する。このときの所定温度は特に限定はなく、好ましくは−80℃以上、より好ましくは−33℃以上であり、また、好ましくは200℃以下、より好ましくは100℃以下である。ここで、反応容器に付属したバルブの配管接続口に配管を接続し、水などを満たした容器に通じておき、バルブを開けてもよい。さらに必要に応じて、真空状態にするなどして反応容器内のアンモニア溶媒を十分に除去した後、乾燥し、反応容器の蓋等を開けて生成した窒化物単結晶および未反応の原料や鉱化剤等の添加物を取り出すことができる。
なお、前記窒化物単結晶の製造方法に従って窒化ガリウムを製造する場合、前記以外の材料、製造条件、製造装置、工程の詳細については特開2009−263229号公報を好ましく参照することができる。
【0045】
(評価基準)
本発明の窒化物単結晶の評価方法においては、例えば、メルトバック処理等の表面処理をした窒化物単結晶の表面を観察することで、ウエハを切り出す前にその結晶の品質を評価することができる。評価基準は特に限定はないが、前記表面処理をした窒化物単結晶は、結晶表面のピットや欠陥の形状等を観察することができることから、例えば、ピットや線状欠陥、転位密度、積層欠陥密度、クラックなどの欠陥の形状、サイズ、数を測定し、これらを基準に結晶の品質を評価することができる。例えば、ピットを基準にする場合には、ピットの数が1x103/cm2以下の結晶を優れた品質の結晶であると評価するように取り決めてもよい。また、クラックや線状欠陥のサイズを基準にする場合には、特定の長さを超える欠陥を有するものを、基準を満たさないものと評価してもよい。
【0046】
(ウエハ)
本発明の製造方法によって得られた窒化物単結晶を所望の方向に切り出すことにより、任意の結晶方位を有するウエハ(半導体基板)を得ることができる。本発明の製造方法によって厚くて大口径のM面を有する窒化物単結晶を製造した場合は、m軸に垂直な方向に切り出すことにより、大口径のM面ウエハを得ることができる。また、本発明の製造方法によって大口径の半極性面を有する窒化物単結晶を製造した場合は、半極性面に平行に切り出すことにより、大口径の半極性面ウエハを得ることができる。これらのウエハも、均一で高品質であるという特徴を有する。
【0047】
(デバイス)
本発明の製造方法によって得られた窒化物単結晶やウエハは、デバイス、即ち発光素子や電子デバイスなどの用途に好適に用いられる。前記窒化物単結晶やウエハが用いられる発光素子としては、発光ダイオード、レーザーダイオード、それらと蛍光体を組み合わせた発光素子などを挙げることができる。また、前記窒化物単結晶やウエハが用いられる電子デバイスとしては、高周波素子、高耐圧高出力素子などを挙げることができる。高周波素子の例としては、トランジスター(HEMT、HBT)があり、高耐圧高出力素子の例としては、サイリスター(IGBT)がある。前記窒化物単結晶やウエハは、均一で高品質であるという特徴を有することから、前記のいずれの用途にも適している。中でも、均一性が高いことが特に要求される電子デバイス用途に適している。
【実施例】
【0048】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。以下に記載する実施例、参考例および比較例では、図1に示す反応装置を用いて窒化物単結晶を成長させることを試みた。
【0049】
<実施例1>
オートクレーブを耐圧性容器として用い、Pt−Ir合金製カプセルを反応容器として結晶成長を行った。原料として多結晶GaN粒を秤量し、カプセル下部領域(原料溶解領域)内に設置し、充填NH3量に対してハロゲン濃度が2.2mol%となるようにハロゲン系鉱化剤を秤量しカプセル内に投入した。
さらに、カプセルの下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域との間に、白金製バッフル板を設置した。種結晶としてHVPE法によって成長させたM面およびC面を主面とする両面ミラーウェハーを、白金ワイヤーにより、白金製種結晶支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域に設置した。つぎにカプセルの上部にPt−Ir製のキャップを溶接して接続した。
続いて、キャップ上部に設置されたチューブを通して真空脱気した後、真空状態を維持したままカプセルをドライアイスエタノール溶媒により冷却しながら、外気に触れさせることなくNH3を充填した。
次いで、カプセルをオートクレーブに挿入し、その後オートクレーブの蓋を閉じ、真空脱気した。さらに、真空状態を維持しながらオートクレーブをドライアイスエタノール溶媒によって冷却し、外気に触れさせることなくNH3をオートクレーブに充填した。
【0050】
続いてオートクレーブを複数のヒーターで構成された電気炉内に収納し、結晶成長領域の平均温度(T1)が約610℃、原料溶解領域(T2)の温度が約635℃になるまで昇温し4日間保持した。このときオートクレーブ内の圧力は約210MPaであった。また、種結晶上の窒化物単結晶の成長厚みは800μmであった。
その後、結晶成長領域の平均温度が原料溶解領域の平均温度よりも5℃高くなる状態を維持しながら、400℃付近まで2時間かけて冷却し、さらに室温まで2時間かけて冷却した。結晶成長領域が400℃の際、原料溶解領域の温度は395℃であった。この時、400℃付近でのオートクレーブ内の圧力は約140MPaであった。
続いて、オートクレーブ内のNH3を取り除いた後、カプセルを取り出し、更に、カプセル上部に設置されたチューブに穴を開けてカプセル内部からNH3を取り除いてから結晶を取り出した。
カプセル内部を確認したところ、カプセルの内壁および白金製種結晶支持枠には僅かに自発核成長による多結晶の付着が見られたが、各結晶上には自発核成長による結晶付着物は見られず、平滑なGaN結晶が成長していた。
各結晶を10%の塩酸および純水で洗浄後、結晶表面を顕微鏡で観察したところ、ピットや線状欠陥を確認することができた。また、一部の領域では成長ステップを観察することができた。さらに、結晶内部や表面に存在する微小なクラックも観測することができた。
【0051】
<実施例2>
オートクレーブを耐圧性容器として用い、Pt−Ir合金製カプセルを反応容器として結晶成長を行った。原料として多結晶GaN粒を秤量し、カプセル下部領域(原料溶解領域)内に設置し、充填NH3量に対してハロゲン濃度が1.8mol%となるようにハロゲン系鉱化剤を秤量しカプセル内に投入した。
さらに、カプセルの下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域との間に、白金製バッフル板を設置した。種結晶としてHVPE法によって成長させたM面およびC面を主面とする両面ミラーウェハーを、白金ワイヤーにより、白金製種結晶支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域に設置した。つぎにカプセルの上部にPt−Ir製のキャップを溶接して接続した。
続いて、キャップ上部に設置されたチューブを通して真空脱気した後、真空状態を維持したままカプセルをドライアイスエタノール溶媒により冷却しながら、外気に触れることなくNH3を充填した。
次いで、カプセルをオートクレーブに挿入し、その後オートクレーブの蓋を閉じ、真空脱気した。さらに、真空状態を維持しながらオートクレーブをドライアイスエタノール溶媒によって冷却し、外気に触れることなくNH3をオートクレーブに充填した。
【0052】
続いてオートクレーブを複数のヒーターで構成された電気炉内に収納し、実施例1と同じ温度条件で14日間保持した。このときオートクレーブ内の圧力は約215MPaであった。また、成長厚みは3.5mmであった。
その後、保持状態の温度勾配(ΔT=T2−T1=25℃)を維持しながら、室温付近まで9時間かけて冷却し結晶を取り出した(400℃付近までは保持状態の温度勾配を維持しながら、3時間かけて冷却し、さらに室温まで6時間かけて冷却した)。結晶成長領域が400℃の際、原料溶解領域の温度は425℃であった。なお、400℃付近でのオートクレーブ内の圧力は約140MPaであった。
冷却終了後、カプセル内部を確認したところ、カプセルの内壁および白金製種結晶支持枠には実施例1よりは多めの付着物が見られ、各種結晶上にも自発角成長によると思われる付着物が僅かに見られたが、育成したGaN結晶表面はほぼ平滑であった。
各結晶を10%の塩酸および純水で洗浄後、結晶表面を顕微鏡で観察したところ、ピットや線状欠陥を確認することができた。 また、一部の領域では成長ステップを観察することができた。さらに、結晶内部や表面に存在する微小なクラックも観測することができた。
【0053】
<実施例3>
オートクレーブを耐圧性容器として用い、Pt−Ir合金製カプセルを反応容器として結晶成長を行った。原料として多結晶GaN粒を500g秤量し、カプセル下部領域(原料溶解領域)内に設置し、充填NH3量に対してハロゲン濃度が6mol%となるようハロゲン系鉱化剤を秤量しカプセル内に投入した。
この後、各工程については実施例1と同じ手順で行い、結晶成長領域の平均温度が約575℃、原料溶解領域の温度が約600℃で14日間保持した。このときオートクレーブ内の圧力は約225MPaであった。
その後、保持状態の温度勾配(ΔT=T2−T1=25℃)を維持しながら、室温付近まで9時間かけて冷却し結晶を取り出した(400℃付近までは保持状態の温度勾配を維持しながら、3時間かけて冷却し、さらに室温まで6時間かけて冷却した)。結晶成長領域が400℃の際、原料溶解領域の温度は425℃であった。なお、400℃付近でのオートクレーブ内の圧力は約140MPaであった。
冷却終了後、カプセル内部を確認したところ、カプセルの内壁および白金製種結晶支持枠には実施例1よりは多めの付着物が見られ、各種結晶上にも自発角成長によると思われる付着物が僅かに見られたが、育成したGaN結晶表面はほぼ平滑であった。
各結晶を10%の塩酸および純水で洗浄後、結晶表面を顕微鏡で観察したところ、ピットや線状欠陥を確認することができた。また、一部の領域では成長ステップを観察することができた。さらに、結晶内部や表面に存在する微小なクラックも観測することができた。
【0054】
<比較例1>
実施例1に記載した方法で結晶成長した後、オートクレーブ内のアンモニアを抜きながら400℃まで1時間で降温し、更に室温付近まで2時間かけて冷却する。 この時、500℃および400℃付近でのオートクレーブ内の圧力はそれぞれ約90MPaおよび約40MPaである。
カプセル内部を確認したところ、カプセルの内壁および白金製種結晶支持枠には、実施例1よりはやや多目の自発核成長による多結晶の付着が見られる。 一方、育成したGaN結晶表面は実施例1と同様、ほぼ平滑である。
冷却終了後、各結晶を10%の塩酸および純水で洗浄後、結晶表面を顕微鏡で観察したところ、ピットや線状欠陥を確認することができない。 また、成長ステップも観察することができない。
【0055】
<比較例2>
オートクレーブを耐圧性容器として用い、Pt−Ir合金製カプセルを反応容器として結晶成長を行った。原料として多結晶GaN粒を100g秤量し、カプセル下部領域(原料溶解領域)内に設置し充填NH3量に対してハロゲン濃度が3mol%となるようハロゲン系鉱化剤を秤量しカプセル内に投入した。
この後の工程は実施例1と同じ手順で行い、結晶成長領域の平均温度が約585℃、原料溶解領域の温度が約655℃で12日間保持した。このときオートクレーブ内の圧力は約260MPaであった。また、成長厚みは460μmであった。
続いて、オートクレーブ内のアンモニアを抜きながら400℃まで1時間で降温し、更に室温付近まで2時間かけて冷却した(400℃付近まで1時間かけて冷却し、さらに室温まで1時間かけて冷却した)。結晶成長領域が400℃の際、原料溶解領域の温度は400℃であった。この時、500℃および400℃付近でのオートクレーブ内の圧力はそれぞれ約90MPaおよび約40MPaであった。
カプセル内部を確認したところ、カプセルの内壁および白金製種結晶支持枠には、実施例1よりはやや多目の自発核成長による多結晶の付着が見られた。一方、育成したGaN結晶表面は実施例1と同様、ほぼ平滑であった。
冷却終了後、各結晶を10%の塩酸および純水で洗浄後、結晶表面を顕微鏡で観察したところ、ピットや線状欠陥を確認することができなかった。また、成長ステップも観察することができなかった。
【0056】
図2に各実施例及び比較例について、降温工程における反応容器内の温度変化を示したグラフを示す。また、図3に実施例1の表面処理をしたGaN結晶のM面におけるピットと線状欠陥を観察した拡大顕微鏡写真を示し、図4に実施例1の表面処理をしたGaN結晶の(10−1−1)面におけるピットを観察した拡大顕微鏡写真を示し、図5に実施例1の表面処理をしたGaN結晶のGa面無転位領域における成長ステップを観察した拡大顕微鏡写真を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果から明らかなように、結晶成長後メルトバック処理を施した実施例の結晶は、ピット・線状欠陥、成長ステップを観察することが可能であった。実施例の中でも、メルトバック処理時に、結晶成長領域(育成域)と原料溶解領域(原料域)の温度関係を逆転させた実施例1は、特に欠陥等を観察しやすかった。これに対し、結晶成長後にメルトバック処理を施していない比較例2は、結晶表面に付着した異物によって微小なクラック以外は、表面形状等を観察することができなかった。
【符号の説明】
【0059】
1 オートクレーブ
2 オートクレーブ内面
5 バッフル板
6 結晶成長領域
7 種結晶
8 原料
9 原料溶解領域
10 バルブ
11 真空ポンプ
12 アンモニアボンベ
13 窒素ボンベ
14 マスフローメーター
20 カプセル
21 カプセル内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内で成長温度を500℃以上にして窒化物単結晶を成長させる成長工程、および該成長温度から反応容器内を降温する降温工程を含み、前記降温工程中に前記窒化物単結晶に対して表面処理を施し、前記表面処理が施された窒化物単結晶の表面を評価することを特徴とする窒化物単結晶の評価方法。
【請求項2】
前記表面処理がメルトバック処理である請求項1に記載の窒化物単結晶の評価方法。
【請求項3】
前記メルトバック処理により窒化物単結晶の表面から1μm以上の厚みを溶解する請求項2に記載の窒化物単結晶の評価方法。
【請求項4】
前記メルトバック処理が、超臨界状態および/または亜臨界状態の溶媒中で施される請求項2または3に記載の窒化物単結晶の評価方法。
【請求項5】
反応容器内で成長温度を500℃以上にして窒化物単結晶を成長させる成長工程、および該成長温度から反応容器内を降温する降温工程を含み、前記降温工程中に前記窒化物単結晶に対してメルトバック処理を施すことを特徴とする窒化物単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記メルトバック処理が、超臨界状態および/または亜臨界状態の溶媒中で施される請求項5に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記降温工程において、反応容器内における窒化物単結晶を成長させる領域の温度(T1)と反応容器内における前記窒化物単結晶の原料を溶媒中に溶解する領域の温度(T2)との高低関係を、前記結晶成長における前記温度(T1)と前記温度(T2)との高低関係とは逆にする状態を少なくとも経る請求項5または6に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記成長工程を正の溶解度特性を有する鉱化剤を用いて行い、前記降温工程において、反応容器内における種結晶が配置され窒化物単結晶を成長させる領域の温度(T1)を反応容器内における前記窒化物単結晶の原料を溶媒中に溶解する領域の温度(T2)よりも高くする状態を少なくとも経る請求項5〜7のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記成長工程を負の溶解度特性を有する鉱化剤を用いて行い、前記降温工程において、反応容器内における種結晶が配置され窒化物単結晶を成長させる領域の温度(T1)を反応容器内における前記窒化物単結晶の原料を溶媒中に溶解する領域の温度(T2)よりも低くする状態を少なくとも経る請求項5〜7のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記降温工程において、反応容器内の平均温度が500℃の際に反応容器内の圧力を100MPa以上に制御し、反応容器内の平均温度が400℃の際に反応容器内の圧力を50MPa以上に制御し、反応容器内の平均温度が前記結晶成長終了後に2時間以上かけて400℃以下まで降温するように制御する請求項5〜9のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項11】
前記成長工程の後に、反応容器を開放することなく、前記表面処理を行う請求項5〜10のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項12】
前記成長工程において、超臨界状態および/または亜臨界状態の溶媒中で窒化物単結晶の成長を行う請求項5〜11のいずれか1項に記載の窒化物単結晶の製造方法。
【請求項13】
請求項5〜12のいずれか1項に記載の製造方法により製造される窒化物単結晶。
【請求項14】
顕微鏡により結晶表面上の0.1μm以上の欠陥を観察することができる請求項13に記載の窒化物単結晶。
【請求項15】
結晶表面上に成長ステップが観察される請求項13または14に記載の窒化物単結晶。
【請求項16】
M面、C面、[10−1−1]及び[10−11]面の中から選ばれるいずれかの面の1cm2以上の領域が鏡面である請求項13〜15のいずれか1項に記載の窒化ガリウム単結晶。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−91597(P2013−91597A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232984(P2012−232984)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】