立体映像撮像装置、立体映像処理装置および立体映像撮像方法
【課題】視聴者が自然な立体映像を知覚することができる立体映像データを生成する。
【解決手段】立体映像撮像装置100は、それぞれの光軸130a、130bが略平行または撮像方向で交わる位置に配され、それぞれにおいて映像データを生成する複数の撮像部110a、110bと、映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体160と撮像部との距離と、主被写体以外の被写体である準被写体と撮像部との距離との差である相対距離を取得する距離取得部172と、相対距離に基づいて、主被写体および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する映像補正部174とを備える。
【解決手段】立体映像撮像装置100は、それぞれの光軸130a、130bが略平行または撮像方向で交わる位置に配され、それぞれにおいて映像データを生成する複数の撮像部110a、110bと、映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体160と撮像部との距離と、主被写体以外の被写体である準被写体と撮像部との距離との差である相対距離を取得する距離取得部172と、相対距離に基づいて、主被写体および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する映像補正部174とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の撮像部で生成された映像データを用いて立体映像を知覚させる立体映像データを生成する立体映像撮像装置、立体映像処理装置および立体映像撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ上に、水平視差(両眼視差)を有する2つの映像を提示し、観察者に対してあたかも被写体が立体的に存在するように知覚させる映像(立体映像)の技術が脚光を浴びている。かかる技術で用いられる2つの映像は、視点の異なる2つの撮像部で撮像された映像である。
【0003】
この2つの撮像部が成す輻輳角を、装置から撮像目的とする被写体までの被写体距離に応じて調整し、物体を輻輳点の位置で撮像する立体映像撮像装置が提案されている(例えば、特許文献1)。また、被写体距離に応じて映像データの一部を切り出し、電子的に輻輳角を制御する技術も提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−66967号公報
【特許文献2】特開平7−95623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、撮像装置は、携帯性を高めたいという撮像者の要望に応じ小型化および軽量化が進められ、それに伴ってレンズや撮像素子も小さくなっている。しかし、レンズや撮像素子の小型化は、被写界深度の深さに大きく影響を及ぼす。例えば、レンズの小型化により被写界深度が深くなった場合、撮像装置において、焦点が合う範囲が広くなり、撮像者の撮像目的である被写体(主被写体)以外の前後にある物や背景といった被写体(準被写体)まで焦点が合っている映像データが生成されてしまう。
【0006】
これは、上述した特許文献1、2に示すような立体映像撮像装置を用いた場合であっても同様のことが言え、人間が直接被写体を視認する場合と撮像部を通じて被写体を撮像する場合とで焦点の合い方が異なることとなる。このような映像データでは、視聴者は、本来知覚しなくてもよいはずの撮像目的である被写体以外の物や背景といった被写体まで視認してしまい、特に、立体映像の場合は平面的な映像(平面映像)よりも処理する視覚情報が多いため、長時間の視認によって眼が疲労してしまう。
【0007】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、視聴者が自然な立体映像を知覚することができる立体映像データを生成可能な、立体映像撮像装置、立体映像処理装置および立体映像撮像方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の立体映像撮像装置は、それぞれの光軸が略平行または撮像方向で交わる位置に配され、それぞれにおいて映像データを生成する複数の撮像部と、映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と撮像部との距離と、主被写体以外の被写体である準被写体と撮像部との距離との差である相対距離を取得する距離取得部と、相対距離に基づいて、主被写体および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する映像補正部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記距離取得部は、複数の撮像部で撮像された映像データ間で主被写体の視差と準被写体の視差を検出し、検出した主被写体の視差と準被写体の視差との差を相対距離としてもよい。
【0010】
上記距離取得部は、フレームデータ間の同一の被写体を特定する動きベクトル検出を用いて複数の撮像部それぞれが生成した映像データ間の被写体の視差を導出し、動きベクトル検出は水平方向のみを対象としてもよい。
【0011】
上記映像補正部は、相対距離が略0の場合、準被写体の鮮明度を最大とし、相対距離が大きくなるにつれて準被写体の鮮明度を小さくしてもよい。
【0012】
上記映像補正部は、鮮明度に、被写界深度に応じた係数を乗じてもよい。
【0013】
上記立体映像撮像装置は、映像データを所定のブロックに分割し、分割したブロックにおける画素の輝度の最大値と最小値との差分を導出する輝度差分導出部をさらに備え、映像補正部は、差分が所定閾値以下の場合、差分が所定閾値以下となるブロックの画素については、鮮明度の補正を行わなくてもよい。
【0014】
上記距離取得部は、映像データを所定のブロックに分割し、分割したブロック毎に、同一の被写体を示すブロック間の視差を導出し、導出した視差をブロック内の各画素に割り当てた後、隣接する画素間で割り当てられた視差の変化を抑えるように、割り当てられた視差を補正してもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の立体映像処理装置は、両眼視差による立体映像を知覚させるための立体映像データを取得する映像取得部と、立体映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と立体映像データを生成した撮像部との距離と、主被写体以外の被写体である準被写体と撮像部との距離との差である相対距離を取得する距離取得部と、相対距離に基づいて、主被写体および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する映像補正部と、を備えることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の立体映像撮像方法は、立体映像を生成するために、それぞれの光軸が略平行または撮像方向で交わる位置に配された複数の撮像部により、映像データを生成し、映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と撮像部との距離と、主被写体以外の被写体である準被写体と撮像部との距離との差である相対距離を取得し、相対距離に基づいて、主被写体および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明は、視聴者が自然な立体映像を知覚することができる立体映像データを生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態における立体映像撮像装置の概略的な機能を示した機能ブロック図である。
【図2】立体映像撮像装置の一例を示した外観図である。
【図3】主被写体距離の測定を説明するための説明図である。
【図4】相対距離および視差を説明するための説明図である。
【図5】距離取得部の動きベクトル検出を説明するための説明図である。
【図6】視差の補正を説明するための説明図である。
【図7】相対距離として用いる視差と、鮮明度との対応例を説明するための説明図である。
【図8】鮮明度の補正を説明するための説明図である。
【図9】輻輳角を固定とする場合の映像データにおける主被写体と視差との関係を説明するための説明図である。
【図10】輻輳角を固定とする場合の映像データにおける主被写体と視差との関係を説明するための説明図である。
【図11】映像処理による輻輳角の調整を説明するための説明図である。
【図12】映像処理による輻輳角の調整を説明するための説明図である。
【図13】第1の実施形態における立体映像撮像方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】第2の実施形態における立体映像撮像装置の概略的な構成を示した機能ブロック図である。
【図15】第3の実施形態における立体映像撮像装置を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
(第1の実施形態:立体映像撮像装置100)
図1は、第1の実施形態における立体映像撮像装置100の概略的な機能を示した機能ブロック図であり、図2は、立体映像撮像装置100の一例を示した外観図である。図1に示すように、立体映像撮像装置100は、撮像部110(図中、110a、110bで示す)と、操作部112と、ビューファインダ114と、距離測定部116と、映像処理部118と、映像併合部120と、映像圧縮部122と、外部出力部124と、中央制御部126とを含んで構成される。ここでは、立体映像撮像装置100としてビデオカメラを挙げているが、デジタルスチルカメラ、携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)、PDA(Personal Digital Assistant)等、撮像が可能な様々な電子機器を採用することができる。
【0021】
撮像部110は、図2に示すように、それぞれの光軸130a、130bが略平行または撮像方向で交わり、撮像者が立体映像撮像装置100の本体132を水平に把持した際に、その光軸130a、130bが同じ水平面に存在するように配置される2つの撮像部110a、110bで構成される。
【0022】
撮像部110は、焦点調整に用いられるフォーカスレンズ150と、露光調整に用いられる絞り(アイリス)152と、撮像レンズ154(図中、154a、154bで示す)を通じて入射した光を光電変換し映像データにA/D変換する撮像素子156(図中、156a、156bで示す)と、フォーカスレンズ150、絞り152、撮像レンズ154および撮像素子156を駆動させる駆動回路158とを含んで構成され、それぞれの撮像部110a、110bにおいて映像データを生成する。映像データは、撮像部110aが生成する、観察者の左眼に知覚させるための左眼用映像データと、撮像部110bが生成する、観察者の右眼に知覚させるための右眼用映像データとで構成され、動画および静止画のいずれでも形成可能である。
【0023】
操作部112は、レリーズスイッチを含む操作キー、十字キー、ジョイスティック、後述するビューファインダ114の表示面に配されたタッチパネル等のスイッチから構成され、撮像者の操作入力を受け付ける。
【0024】
ビューファインダ114は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成され、映像処理部118が出力した映像データや、操作部112と連動した撮像状態を示す情報をOSD(On-Screen Display)として表示する。撮像者は、操作部112を操作することで、被写体を所望する位置および占有面積で捉えることが可能となる。
【0025】
距離測定部116は、立体映像撮像装置100自体、特に撮像部110と、被写体のうち撮像目的の被写体である主被写体との距離(以下、主被写体距離と称する)を測定する。主被写体距離は、後述する撮像制御部170が輻輳角を調整する際に用いられる。
【0026】
ここで、主被写体は、ユーザが主に撮像を所望する被写体であって、例えば、撮像者による操作部112への操作入力に応じて、フォーカスを合わせたりすることで特定される。
【0027】
図3は、主被写体距離の測定を説明するための説明図である。図3(a)に示すように、距離測定部116は、主被写体160に赤外線を照射し、その赤外線の反射に費やす時間(TOF:Time Of Flight)を測定することで、撮像部110と主被写体160との距離を測定する。また、図3(b)に示すように、立体映像撮像装置100の正面に主被写体160が位置しない場合であっても、赤外線の照射角が予め広く設定されているので主被写体160からの反射光を受光し、図3(a)同様、主被写体距離を測定することができる。
【0028】
複数の被写体が認識される場合、距離測定部116は、例えば、最も近くにある被写体を、撮像目的の主被写体160として主被写体距離を測定したり、所定の距離範囲にある被写体をすべて主被写体160として、それぞれの主被写体160との距離の平均値を主被写体距離としたりする。
【0029】
また、フォーカスレンズ150の位置と主被写体距離とが対応しているので、距離測定部116は、駆動回路158を通じてフォーカスレンズ150の位置の情報である合焦情報を取得し、合焦情報に基づいて主被写体距離を求めてもよい。
【0030】
映像処理部118は、撮像部110で生成された映像データに対して、R(Red)G(Green)B(Blue)処理(映像データからRGB信号への変換、γ補正、色補正等)、エンハンス処理、ノイズ低減処理、ホワイトバランス調整処理等の映像信号処理を行う。ここで復調されたY色差信号は、後述する動きベクトル検出で用いられる。また、映像処理部118が行うホワイトバランス調整や撮像制御部170が行うアイリス調整は、色合い、明るさ等が右眼用映像データと左眼用映像データとで異ならないように同じ調整値を用いる。
【0031】
映像併合部120は、後述する映像補正部170が鮮明度を補正した映像データ(右眼用映像データと左眼用映像データ)を、サイドバイサイド方式、トップアンドボトム方式、およびフレームシーケンシャル方式等の、立体映像における所定の収録方式で併合し、立体映像データを生成する。
【0032】
映像圧縮部122は、立体映像データを、M−JPEG(Motion-JPEG)やMPEG(Moving Picture Experts Group)−2、H.264などの所定の符号化方式で符号化した符号データとし、任意の記憶媒体162に記憶させる。任意の記憶媒体162としては、DVD(Digital Versatile Disk)やBD(Blu-ray Disc)といった光ディスク媒体や、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等の媒体を適用することができる。なお、HDDは正確には装置であるが、便宜上、本説明では他の記憶媒体と同義として扱う。
【0033】
外部出力部124は、立体映像データをラインシーケンシャル方式、フレームシーケンシャル方式等の、立体映像における所定の表示方式のデータである立体表示データに変換し、立体映像撮像装置100に接続された立体映像表示装置164に出力する。立体映像表示装置164は、ビューファインダ114同様、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等で構成され、例えば、偏光特性が1ライン毎に異なるように形成されており、立体表示データを表示する。視聴者は、立体映像表示装置164に表示された立体表示データを左右で偏光特性が異なる眼鏡を通じて視認することで、立体映像を鑑賞することができる。
【0034】
また、外部出力部124は、通信に適した信号圧縮、および誤り訂正符号の付加等を行った符号データを、例えば、インターネット、LAN(Local Area Network)、携帯電話やPHS等の携帯機器の専用回線等の通信網を介して、立体映像表示装置164に出力してもよい。
【0035】
中央制御部126は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路により、立体映像撮像装置100全体を管理および制御する。また、本実施形態において、中央制御部126は、撮像制御部170、距離取得部172、映像補正部174、輝度差分導出部176、映像切出部178としても機能する。
【0036】
撮像制御部170は、主被写体160に対して、焦点調整や露光調整等の撮像を制御する。具体的に、撮像制御部170は、撮像を制御するための制御指令を撮像部120の駆動回路158に伝達し、駆動回路158は、撮像制御部170からの制御指令に従って、フォーカスレンズ150や絞り152を調整する。
【0037】
このとき、撮像制御部170は、例えば、右眼用映像データおよび左眼用映像データそれぞれの中央部の所定の領域をフォーカス調整に用いるフォーカス検出領域とし、この領域の映像データの高周波成分やコントラストが最大となるように、フォーカスレンズ150を調整してもよい。
【0038】
さらに、撮像制御部170は、撮像部110a、110bの結線(撮像部110a、110bの物側主点を結ぶ線)の垂直二等分線上の主被写体距離の位置に輻輳点が重なるように輻輳角を調整する(トーインセッティング)。撮像制御部170は、主被写体距離と撮像素子156a、156b間の距離から輻輳角を導出し、その輻輳角となるように、駆動回路158を通じて、撮像レンズ154a、154bと撮像素子156a、156bとを駆動させる。このとき、撮像レンズ154aと撮像素子156a、および撮像レンズ154bと撮像素子156bとは撮像制御部170の制御に従って連動する。また、撮像レンズ154a、154bは、左右対称に同角度回動する(左右対称に光軸130a、130bを交差させる)ことで輻輳角を調整している。
【0039】
また、輻輳角の調整は、例えば、撮像者が個々に入力した値(輻輳角、主被写体距離等)に基づいて行われてもよい。
【0040】
距離取得部172は、映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体160と撮像部110との距離(主被写体距離)と、主被写体160以外の被写体である準被写体と撮像部110との距離との差である相対距離を取得する。後述する映像補正部174は、この相対距離に基づいて鮮明度を補正する。
【0041】
相対距離は、主被写体160と、主被写体160以外の被写体である準被写体との撮像方向の距離なので、撮像部110a、110bでそれぞれ撮像される映像データにおいて検出される主被写体160の視差と準被写体の視差との差で表すこともできる。距離取得部172は、撮像部110a、110bで撮像された映像データ間で主被写体160の視差と準被写体の視差を検出し、検出した主被写体160の視差と準被写体の視差との差を相対距離とする。本実施形態において、主被写体160の視差は、撮像部110により撮像された映像データ間で検出される主被写体160の視差であり、準被写体の視差は、撮像部110により撮像された映像データ間で検出される準被写体の視差であり、以下、それぞれ単に主被写体160の視差、準被写体の視差と称する。
【0042】
このとき計算を容易にするため、主被写体160自体も相対距離0(ゼロ)で表す。ただし、本実施形態においては、主被写体160が輻輳点となるように、すなわち、主被写体160の視差が略0となるように輻輳角を調整しているため、距離取得部172は、相対距離として、撮像部110a、110bそれぞれが生成した映像データ間で検出される準被写体の視差を取得(導出)すればよい。
【0043】
図4は、相対距離および視差を説明するための説明図である。撮像制御部170は、主被写体160の位置に応じて輻輳角を調整する。そうすると図4(a)に示す各撮像レンズ154a、154bそれぞれの画角∠ABC、∠DEFには主被写体160以外の被写体である準被写体も入ってくる。このとき、右眼用映像データ、左眼用映像データそれぞれにおける主被写体160の位置は、図4(b)に示すように画面中央となる。
【0044】
このような輻輳角が主被写体160の位置に応じて調整された状態で、撮像部110との距離が主被写体160と同じ主被写体距離となる準被写体184aは、相対距離が0であり、右眼用映像データと左眼用映像データにおいて視差0で表わされる。一方、主被写体160よりも相対的に近くにある準被写体184bは左眼用映像データでは右端であるのに対し、右眼用映像データでは矢印186aに示すように中央よりとなる。また、主被写体160より相対的に遠くにある準被写体184cは、左眼用映像データでは左端であるのに対し、右眼用映像データでは矢印186bに示すように中央よりとなる。準被写体184dは、主被写体160よりも相対的に遠く、左眼用映像データでは右側に位置するが、右眼用映像データでは矢印186cに示すように、範囲外となり表示されない。
【0045】
このように、相対距離は、主被写体や準被写体といった被写体の視差によっても表わすことができる。この視差の導出には、フレームデータ間の同一の被写体を特定する動きベクトル検出が用いられる。ここで、フレームデータは、1の動画を構成する時系列に並べられた静止画データである。本実施形態では動きベクトル検出の対象である時間差のある2つのフレームデータを、同時に撮像された左右2つの映像データに置き換えている。距離取得部172は、映像データを所定のブロックに分割し、分割したブロック毎に、同一の被写体を示すブロック間の視差を導出する。
【0046】
図5は、距離取得部172の動きベクトル検出を説明するための説明図である。動画圧縮技術であるMPEGにおいては、ブロックマッチングに基づいて動きベクトルを検出する動きベクトル検出が用いられる。ここで動きベクトルは、2つのフレームデータ間における同一の被写体の変位をベクトルで示したものである。MPEGにおける動きベクトル検出では、図5(a)に示すように、フレームメモリから出力された過去の映像データを、所定のブロック(領域)190に分割し、過去のフレームデータから選択したブロック190aについて、現在のフレームデータのうち、同一の大きさで最も類似しているブロック190bを抽出し両者の位置関係から動きベクトル192aを検出している。
【0047】
本実施形態において、距離取得部172は、MPEGの符号化における動きベクトル検出とほとんど同等のアルゴリズムを用いるので、既存の動きベクトル検出技術を流用でき、右眼用映像データと左眼用映像データとの間の動きベクトルを検出する。
【0048】
具体的に、距離取得部172は、図5(b)に示すように、左眼用映像データから選択された比較元のブロック190cの各画素の輝度(Y色差信号)と、その画素に対応する右眼用映像データの比較先の任意の位置におけるブロック190dの各画素の輝度との差を取り、ブロック内のすべての画素の輝度の差の総和を導出する。続いて、比較先のブロック190dを所定距離移動し、輝度の差の総和を導出する処理を繰り返し、輝度の差の総和が最も小さくなる位置におけるブロック190dを、輝度が最も近いブロック190dとして抽出し、その変位をブロック190cの動きベクトル192cとする。
【0049】
また、距離取得部172は、図5(c)に示すように、右眼用映像データから選択された比較元のブロック190eの各画素の輝度と、その画素に対応する左眼用映像データの比較先の任意の位置におけるブロック190fの各画素の輝度との差を取り、すべての画素の輝度の差の総和を導出する。続いて、比較先のブロック190fを所定距離移動して、輝度の差の総和を導出する処理を繰り返し、輝度の差の総和が最も小さくなる位置におけるブロック190fを、輝度が最も近いブロック190fとして抽出し、その変位をブロック190eの動きベクトル192eとする。こうして、左眼用映像データおよび右眼用データのいずれのブロックも動きベクトルが検出される。
【0050】
かかる動きベクトル検出において、比較元のブロックは、例えば、映像データの左上から右方向に、右端に到達すると一段下げて再び左端から右方向に順次移動して選択され、最終的に映像データすべてが網羅される。
【0051】
また、本実施形態の動きベクトル検出では、比較先のブロックを全範囲から抽出しなくとも、水平方向のみを、比較先のブロックの対象とすることができる。すなわち、比較先のブロック190としては、比較元のブロック190c、190eに対して、垂直方向の座標が等しい領域(図5(b)、(c)において破線194a、194bで囲われた領域)のみが対象となる。
【0052】
上述したように、映像圧縮において動きベクトル検出の技術が確立しており、本実施形態では、その動きベクトル検出を利用して視差を求める。また、動画圧縮に用いられる動きベクトルの検出と異なり、視差は、映像における水平方向の変位としてしか表れないため、距離取得部172は、水平方向にのみ動きベクトルを検出すればよい。かかる動きベクトルの検出を水平方向に限る構成により、処理時間および処理負荷を著しく低減でき、延いては回路を小型化することが可能となる。
【0053】
距離取得部172は、図5に示すように、左眼用映像データのブロックについて、右眼用映像データ内で類似しているブロックを抽出すると、そのブロック間の動きベクトルを左眼用映像データのそのブロックの視差とする。同様に、距離取得部172は、右眼用映像データのブロックについて、左眼用映像データ内で類似しているブロックを抽出すると、そのブロック間の動きベクトルを右眼用映像データのそのブロックの視差とする。また、上記のように別々に算出した右眼用映像データの動きベクトルと、それに対応する左眼用映像データの動きベクトルは、大きさはほぼ同じであり、動きベクトルの向きが反対になっていると考えられる。そのため、この条件に当てはまらない動きベクトルが検出された場合には、動きベクトル検出におけるパラメータを変えて再度検出することにより、動きベクトル検出の精度を高める構成としてもよい。
【0054】
そして、距離取得部172は、導出した視差をブロック内の各画素に割り当てた後、隣接する画素間で割り当てられた視差の変化を抑えるように、割り当てられた視差を補正する。
【0055】
図6は、視差の補正を説明するための説明図である。距離取得部172は、ブロック190毎の視差を図6の如く導出した後、ブロック190の境界の画素に割り当てられた視差の急激な変化を抑えため、画素毎に低域通過フィルタを通過させ、図6の曲線198のように、映像データの水平方向の画素の並びに対して、隣接する画素に割り当てられた落差を減らし、視差の変化量を滑らかにする。かかる画素間で割り当てられた視差の変化を抑えるように平滑化する構成により、ブロックの境界において視差が急激に変化し、映像の連続性が損なわれて違和感が生じてしまう事態を回避することができる。
【0056】
そして、映像補正部174は、撮像目的の被写体である主被写体160と撮像部110の距離と、主被写体160以外の被写体である準被写体と撮像部110との距離との差である相対距離に基づいて、映像データに含まれる主被写体および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を画素単位で変更する。このとき、映像補正部174は、相対距離が略0の場合、準被写体の鮮明度を最大とし、相対距離が大きくなるにつれて準被写体の鮮明度を小さくしてもよい。
【0057】
図7は、相対距離として用いる視差と、鮮明度との対応例を説明するための説明図である。図7において、横軸が視差(相対距離)、縦軸が鮮明度を示す。本実施形態において、視差は、右眼用映像データ、左眼用映像データそれぞれにおいて、準被写体が右側にずれる程プラス、左側にずれる程マイナスの値を取ることとする。映像補正部174は、例えば、正規曲線200のように、視差が0の場合に準被写体の鮮明度を最大に、視差の絶対値が大きくなるにつれて、準被写体の鮮明度を連続的に弱くする。また、視差の絶対値が所定値以上となると、準被写体の鮮明度を所定の最小値に固定してぼかす処理を行うこととしてもよい。本実施形態において、鮮明度0は、映像データに対して鮮明度を変更する処理を何ら行わないことを示す。かかる鮮明度の補正を具体的に映像データに適用した例を図8を用いて説明する。
【0058】
図8は、鮮明度の補正を説明するための説明図である。図8(a)は、鮮明度の補正前の映像データを、図8(b)は、鮮明度の補正後の映像データの一例を示す。映像補正部174は、撮像目的の被写体である視差の無い主被写体160と、その近辺にあり同様に視差の無い準被写体184aとは、鮮明度が強くなるように、視差が大きい(相対距離の大きい)準被写体184c、184bは、鮮明度が弱くなるように、右眼用映像データにおいて画角から外れた準被写体184dは、さらに鮮明度が弱くなるように補正する。
【0059】
本実施形態において、鮮明度は、例えば、シャープネス等、映像データの鮮明さの度合いを示す指標である。既存の撮像装置は、元々、生成した映像データについて、所定の周波数以上の高域周波数成分を強調するエッジ強調処理を通じて鮮明度を高める処理が行われている。したがって映像補正部174は、視差の無い主被写体160と、その近辺にあり同様に視差の無い準被写体184aには、このエッジ強調処理が施された映像データをそのまま利用し、視差が大きい準被写体184b、184cや、映像データのうちの一方において画角から外れた準被写体184dには、鮮明度を例えば0〜−20dB程度落とす処理を行う。
【0060】
その結果、立体映像表示装置164において表示される映像では、主被写体160および準被写体184aが強調され、それ以外の準被写体184b、184c、184dは鮮明度が弱く目立たなくなる。特に、右眼用映像データにおいて画角から外れた準被写体184dは、例えば、1080TV本のうち、約200TV本が何とか視認できる程度までぼやかす。ここで、TV本は、水平表示解像度を示す単位であり、1画素毎に白黒の点を表示させた場合に、識別できる点の数で表わされる、シャープネスの単位の一例である。
【0061】
このように、本実施形態の立体映像撮像装置100は、撮像目的の被写体である主被写体160や相対距離0の準被写体184aの鮮明度を相対的に強くし、一方で主被写体160と距離のある準被写体184b、184c、184dの鮮明度を相対的に弱めている。そのため、立体映像撮像装置100の被写界深度が深い場合であっても、人間が主被写体160を直接視認するときと同じような被写界深度となる映像データを生成することができる。
【0062】
また、主被写体160や準被写体184aの視差が略0であり、それ以外の物体をぼかして表示することで、立体映像を鑑賞するのに必要となる眼鏡が無い場合でも、主被写体160や相対距離0の準被写体184aを自然な平面映像として見る事ができる。そのため、立体映像データをそのまま平面映像データとして利用することが可能となり立体映像の普及を促進できる。
【0063】
さらに、鮮明度を弱めた背景や準被写体の情報量が減るため、同じ記憶媒体162により長時間の映像を記憶できたり、同じ帯域でより多くのチャネルの伝送が可能となったりする。
【0064】
また、映像補正部174は、補正後の鮮明度に、さらに、被写界深度に応じた係数を乗じる。かかる構成により、被写界深度が既に人の眼に近い場合において、鮮明度を補正しすぎて主被写体160から撮像方向の前後に離れた準被写体が直接視認する場合よりもぼやけてしまい、視聴者に違和感を生じさせてしまう事態を回避できる。
【0065】
輝度差分導出部176は、映像データを所定のブロックに分割し、分割されたブロックにおけるすべての画素において、輝度の最大値と最小値との差分を導出する。そして、映像補正部174は、輝度の差分が所定閾値以下の場合、差分が所定閾値以下となるブロックの画素については、鮮明度の補正を行わない。
【0066】
ブロック自体に含まれる画素の輝度の最大値と最小値との差分が所定閾値以下のブロックは、壁や空等の背景の一部と捉えることができ、鮮明度が強い映像である必要性が低い。また、このように輝度の差分が小さいブロックは、動きベクトルの検出を用いても視差を正確に導出できない。そこで、鮮明度の補正を行わない回路、例えばコアリング回路を用いて、このようなブロックの処理負荷を低減する。かかる構成により、鮮明度の補正が不要なブロックに対する無駄な補正や誤った補正を回避することができ、処理負荷を軽減することが可能となる。
【0067】
また、上述した実施形態では、輻輳角を制御する構成を述べたが、輻輳角を固定して撮像する場合においても、鮮明度の補正を行うことができる。以下、輻輳角を固定し、光軸130a、130bが所定の点で交わる場合について説明する。
【0068】
図9および図10は、輻輳角を固定とする場合の映像データにおける主被写体160と視差との関係を説明するための説明図である。ここでは理解を容易にするため、主被写体160が撮像部110a、110bの結線の垂直二等分線上の任意の位置にあるとする。輻輳角を固定とすると、図9(a)に示すように、主被写体160が輻輳点Mより撮像部110a、110bに近い場合、図9(b)に示すように、主被写体160は、左眼用映像データでは主被写体160が水平方向中央の垂直線10より右側に、右眼用映像データでは中心線210より左側に変位する。逆に、図10(a)に示すように、主被写体160が輻輳点Mより撮像部110a、110bに遠い場合、図10(b)に示すように、主被写体160は、左眼用映像データでは中心線210より左側に、右眼用映像データでは中心線210より右側に変位することになる。したがって、輻輳角が固定されている場合、主被写体160は、撮像部110a、110bとの主被写体距離に応じて図9(b)や図10(b)に示すような視差を有することになる。かかる視差は、輻輳角と主被写体距離とから以下のように導出することができる。
【0069】
図9に示すように、主被写体160が輻輳点Mより撮像部110a、110bに近い場合、撮像部110aの画角∠ABCの二等分線は、輻輳点Mを通る直線BMであり、∠MBCは画角∠ABCの半分の角度となる。ここでは、輻輳角が固定のため輻輳点Mも固定となる。∠MBDは、以下の数式(1)で導出される。
∠MBD=arctan(線分MD/線分BD) …(数式1)
ここで、線分BDは撮像部110a、110bの間の距離の半分であり、線分MDは輻輳角と線分BDからBD/tan(輻輳角/2)で特定できる。また、∠EBDは、以下の数式(2)で導出される。
∠EBD=arctan(線分ED/線分BD) …(数式2)
ここで線分EDは取得された主被写体距離である。この∠MBDから∠EBDを減算することで、∠MBEが導出される。
∠MBE=∠MBD−∠EBD …(数式3)
【0070】
ここで、左眼用映像データの水平方向中央の垂直線210を水平座標0とし、右側の画素程、水平座標が増加、左側の画素程、水平座標が減少するものとし、右端の水平座標をg、左端の水平座標を−gとする。左眼用映像データの主被写体160の水平座標aは、∠MBEを用いて以下の数式(4)で導出される。
a=g×(∠MBE/∠MBC) …(数式4)
【0071】
また、ここでは、主被写体160が撮像部110a、110bの結線の垂直二等分線上にあるので、右眼用映像データの主被写体160の水平座標は、左眼用映像データの主被写体160の水平座標aと大きさが同じで符号が逆の値−aとなる。したがって、主被写体160の視差は、a−(−a)=2aで表すことができる。
【0072】
同様に、図10(a)に示すように、輻輳点Mより主被写体160が撮像部110a、110bから遠い場合、撮像部110aの画角∠ABCの二等分線は直線BMであり、∠ABMは画角の半分の角度となる。また、∠EBDは、上述した数式(2)と同じ式で導出される。そして、∠EBDから∠MBDを減算することで、∠MBEが導出される。
∠MBE=∠EBD−∠MBD …(数式5)
【0073】
図9を用いて説明した輻輳点Mより主被写体160が近い場合と同様に水平座標を定義すると、左眼用映像データの主被写体160の水平座標aは、∠MBEを用いて以下の数式(6)で導出される。
a=−g×(∠MBE/∠ABM) …(数式6)
【0074】
ここでも、右眼用映像データの主被写体160の水平座標は、左眼用映像データの主被写体160の水平座標aと大きさが同じで符号が逆の値−aとなるので、主被写体160の視差は、a−(−a)=2aで表すことができる。
【0075】
そして、距離取得部172は、準被写体それぞれの視差から、上述した数式を通じて導出された主被写体160の視差2aを減算し、主被写体160の視差2aを相殺して、準被写体と主被写体160との視差の差を導出する。映像補正部174は、主被写体160の視差2aが減算された視差に基づいて主被写体160および準被写体の鮮明度を補正する。
【0076】
このように、立体映像撮像装置100は、輻輳角を固定した撮像であっても、主被写体160や相対距離が略0の準被写体の鮮明度を強く、主被写体160から撮像方向の前後に離れ相対距離の絶対値が大きくなると鮮明度を弱くすることができる。
【0077】
また、輻輳角を制御しつつ、表示面とは異なる、表示面の前後の任意の位置に主被写体160が結像されるように撮像する場合であっても、距離取得部172が、輻輳角と主被写体距離とを取得し主被写体160の視差を随時導出することで、本実施形態の鮮明度補正処理を実現することができる。
【0078】
また、距離取得部172は、上述した輻輳角や主被写体距離を用いず、単に、ビューファインダ114に表示されている映像データから、撮像者が操作部112を通じて指定した被写体を主被写体160として特定し、主被写体160の視差と主被写体160以外の被写体である準被写体の視差との差を導出することでも、本実施形態の鮮明度補正処理を実現することができる。
【0079】
主被写体160や準被写体は、それぞれ撮像部110との距離に応じて視差が生じる。その個々の撮像部110a、110bとの距離は、輻輳角が既知でなければ映像データから把握することができない。しかし、ここで必要なのは、主被写体160と準被写体との相対距離であり、相対距離は、主被写体160の視差と準被写体の視差との差から簡易的に求めることができるので、撮像者に指定された主被写体160の視差を基準に、他の準被写体の視差との差である相対距離を導出すれば、鮮明度を補正することができる。そのため、オートフォーカスや赤外線センサー等を用いた測定機構が設けられていない場合においても、本実施形態の目的を達成することが可能となる。
【0080】
さらに、輻輳角の調整は、撮像制御部170が実際に撮像レンズ154a、154bと撮像素子156a、156bとを駆動させる構成に限らず、撮像部110a、110bの光軸130a、130bを固定し、映像処理によって行うこともできる。
【0081】
映像切出部178は、撮像素子156から取得する映像データの切出範囲を変更させ、擬似的に輻輳角を調整してもよい。ただし、撮像素子156は、最終的に出力する映像データよりも、水平方向の画素数が多いこととする。
【0082】
図11および図12は、映像処理による輻輳角の調整を説明するための説明図である。ここでは、撮像部110a、110bがそれぞれ調整画角∠ABC、∠DEFの撮像能力を有し、その調整画角∠ABC、∠DEFから任意の切り出し画角∠A’BC’、∠D’EF’を切り出す処理を行う。
【0083】
例えば、輻輳点を無限遠とすることを試みた場合、映像切出部178は、図11(b)に示す左眼用映像データに関して、調整画角∠ABCを撮像した映像データ220aから映像データ222aを切り出す。すると、切り出した映像データ222aは、図11(a)の切り出し画角∠A’BC’に相当することとなり、その映像データ222aの水平方向中央の垂直線224aが図11(a)の撮像方向226aとなる。こうして、切り出した映像データ220aは、光軸が立体映像撮像装置100に垂直な、画角∠A’BC’の撮像部で撮像した映像データと等しくなる。
【0084】
また、右眼用映像データにおいても、調整画角∠DEFを撮像した映像データ220bから映像データ222bを切り出すので、切り出した映像データ222bは、図11(a)の切り出し画角∠D’EF’に相当することとなり、その映像データ222bの水平方向中央の垂直線224bが図11(a)の撮像方向226bとなる。切り出した映像データ222bは、光軸が立体映像撮像装置100に垂直な、画角∠D’EF’の撮像部で撮像した映像データと等しくなる。こうして、両光軸が無限遠に向かって平行となる映像データ220a、220bを得ることができる。
【0085】
また、輻輳点を撮像部110a、110bに近づける場合、映像切出部178は、図12(b)に示す左眼用映像データに関して、調整画角∠ABCを撮像した映像データ220aから映像データ222aを切り出す。すると、切り出した映像データ222aは、図12(a)の切り出し画角∠A’BC’に相当することとなり、その映像データ220aの水平方向中央の垂直線224aが図12(a)の撮像方向226aとなる。また、右眼用映像データにおいても、図12(c)に示す同様な処理を施すことで、その映像データ220bの水平方向中央の垂直線224bが図12(a)の撮像方向226bとなる。こうして、切り出した映像データ220aと映像データ220bとの中央線224a、224bで示される疑似的な光軸(撮像方向226a、226b)が図12(a)の如く、輻輳点Mで交差し、輻輳角∠BMEの映像データ220a、220bを得ることができる。
【0086】
このように、映像切出部178が映像データの切出範囲を変更させ、擬似的に輻輳角を調整することで、立体映像撮像装置100は、撮像部110a、110bを実際に駆動させて輻輳角を調整する機構を搭載する必要が無くなり、部品点数を削減し安価に製造できる。
【0087】
また、上述した立体映像撮像装置100では、視差の導出から鮮明度の補正までを画一的に実行しているが、かかる場合に限らず、立体映像撮像装置100において、視差の導出までを行い、立体映像表示装置164において、鮮明度の補正を行うこととしてもよい。
【0088】
この場合、距離取得部172は、導出した視差を外部出力部124に出力し、外部出力部124は、視差と、立体映像データとを、それぞれ立体映像表示装置164に出力する。このとき、外部出力部124は、視差と立体映像データとの同期をとるため、例えば、それぞれに同期のための識別子を付加したり、視差と立体映像データとが対応するように、一つのストリームとしてまとめて出力したりすることができる。
【0089】
立体映像表示装置164は、立体映像撮像装置100で出力された立体映像データと視差とを取得すると、立体映像データの鮮明度を視差に基づいて補正し、立体映像における所定の表示方式に変換して表示する。この場合、視聴者は、立体映像の鑑賞時に、基準となる主被写体160の指定を変更することで、鮮明度の補正の度合いを調整できる。
【0090】
以上、上述したように、本実施形態の立体映像撮像装置100は、視聴者が自然な立体映像を知覚することができる立体映像データを生成することが可能となる。
【0091】
(立体映像撮像方法)
さらに、上述した立体映像撮像装置100を用いた立体映像撮像方法も提供される。図13は、第1の実施形態における立体映像撮像方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【0092】
撮像者が操作部112を通じて撮像を指示すると(S260のYES)、撮像部110a、110bが映像データを生成し(S262)、距離取得部172は、例えば、距離測定部116を通じて主被写体距離を取得する(S264)。そして、撮像制御部170は、撮像部110a、110bの結線の垂直二等分線上の主被写体距離の位置に輻輳点が重なるように輻輳角を調整する(S266)。
【0093】
距離取得部172は、映像データのうち、左眼用映像データから1のブロックを選択し(S268)、そのブロックにおける画素の輝度の最大値と最小値との差分が所定閾値以下であるか否かを判定する(S270)。所定値以下である場合(S270のYES)、ブロック選択ステップ(S268)に戻る。所定値より大きい場合(S270のNO)、距離取得部172は、左眼用映像データのブロックと垂直方向の座標が等しい、右眼用映像データのブロックと比較し、輝度が最も近いブロックと比較元のブロックとの視差(動きベクトル)を導出し、左眼用映像データのブロックに関連付ける(S272)。
【0094】
続いて、距離取得部172は、左眼用映像データのうち、まだ抽出を行っていないブロックがあるか否かを判断し(S274)、まだ抽出を行っていないブロックがあれば(S274のNO)、ブロック選択ステップ(S268)に戻って、同様の処理を繰り返す。
【0095】
左眼用映像データのすべてのブロックについて抽出処理を終えると(S274のYES)、距離取得部172は、右眼用映像データから1のブロックを選択し(S276)、そのブロックにおける画素の輝度の最大値と最小値との差分が所定閾値以下であるか否かを判定する(S278)。所定値以下である場合(S278のYES)、ブロック選択ステップ(S276)に戻る。所定値より大きい場合(S278のNO)、距離取得部172は、右眼用映像データのブロックと垂直方向の座標が等しい、左眼用映像データのブロックと比較し、輝度が最も近いブロックと比較元のブロックとの視差(動きベクトル)を導出し、右眼用映像データのブロックに関連付ける(S280)。
【0096】
そして、距離取得部172は、右眼用映像データのうち、まだ抽出を行っていないブロックがあるか否かを判断し(S282)、まだ抽出を行っていないブロックがあれば(S282のNO)、ブロック選択ステップ(S276)に戻って、同様の処理を繰り返す。
【0097】
そして、距離取得部172は、隣接する画素間で割り当てられた視差の変化を抑えるように、割り当てられた視差を補正(平滑化)する(S284)。
【0098】
映像補正部174は、画素毎に、割り当てられた視差(相対距離)に基づいて、主被写体160および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する補正処理を行う(S286)。そして、映像併合部120は、映像データを、立体映像における所定の収録方式で合成し、立体映像データを生成し(S288)、映像圧縮部122は、立体映像データを、所定の符号化方式で符号化した符号データとし(S290)、任意の記憶媒体162に記憶させる(S292)。
【0099】
上述したように、立体映像撮像装置100を用いた立体映像撮像方法によれば、視聴者が自然な立体映像を知覚することができる立体映像データを生成することが可能となる。
【0100】
(第2の実施形態:立体映像処理装置300)
上述した第1の実施形態では、立体映像撮像装置100は、撮像時において、視差に応じた鮮明度の補正処理を行っていた。第2の実施形態では、再生時において、鮮明度の補正処理を行う立体映像処理装置300について説明する。なお、上述した立体映像撮像装置100と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0101】
図14は、第2の実施形態における立体映像処理装置300の概略的な構成を示した機能ブロック図である。立体映像処理装置300は、映像取得部310と、操作部112と、映像復号部322と、表示部324と、中央制御部326とを含んで構成される。なお、上述した第1の実施形態と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略し、ここでは、構成が相違する映像取得部310、映像復号部322、中央制御部326を主に説明する。
【0102】
映像取得部310は、両眼視差による立体映像を知覚させるための立体映像データが符号化された符号データを立体映像撮像装置から取得する。映像復号部322は、符号データを復号し立体映像データに変換する。
【0103】
中央制御部326は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路により、立体映像処理装置300全体を管理および制御する。また、中央制御部326は、距離取得部172、映像補正部174、輝度差分導出部176、映像切出部178、表示制御部380としても機能する。
【0104】
本実施形態の立体映像処理装置300が、立体映像データを生成可能な撮像装置から立体映像データを取得すると、立体映像撮像装置100と同様、距離取得部172は、立体映像データに含まれる主被写体160と立体映像データを生成した撮像部との距離と、主被写体160以外の被写体である準被写体と撮像部110との距離との差である相対距離を取得し、映像補正部174は、相対距離に基づいて、主被写体160および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する。表示制御部380は、立体映像データを立体映像における所定の表示方式に変換し、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等で構成され、偏光特性が1ライン毎に異なるように形成された表示部324に表示させる。
【0105】
例えば、立体映像データを生成した立体映像撮像装置の被写界深度が深い場合であっても、立体映像処理装置300を用いることで、主被写体160を直接視認するときと同じように被写界深度が人の眼と同等となる立体映像として鑑賞できる。また、主被写体160や準被写体の視差を略0とする場合、それ以外の物体をぼかして表示することで、立体映像を鑑賞するのに必要となる眼鏡が無い場合でも、相対距離0の準被写体を自然な平面映像として見る事ができる。
【0106】
また、本実施形態の立体映像処理装置300によれば、予め生成された立体映像データについて、事後的に、鮮明度の補正を行うことが可能となり、視聴者は、例えば、立体映像の鑑賞時に鮮明度の補正の度合いを調整できる。
【0107】
(第3の実施形態:立体映像撮像装置400)
上述した第1の実施形態では、1つの視点から知覚される立体映像を鑑賞できる映像データを生成する立体映像撮像装置100について説明した。第3の実施形態では、複数の視点から知覚される立体映像撮像装置400について説明する。なお、上述した立体映像撮像装置100と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0108】
図15は、第3の実施形態における立体映像撮像装置400を説明するための説明図である。立体映像撮像装置400は、立体映像撮像装置100と実質的に等しい構成であるが、撮像部110a、110bに加えて、撮像部110cをさらに備える。ここでは、理解を容易にするため、撮像部が3つの例を挙げて説明する。
【0109】
3つの撮像部110a、110b、110cは、それぞれの光軸130a、130b、130cが略平行または撮像方向で交わり、撮像者が立体映像撮像装置100の本体132を水平に把持した際に、それぞれの光軸130a、130b、130cが同じ水平面に存在するように配置される。
【0110】
例えば、撮像部110aと撮像部110bとの間に配された距離測定部116が主被写体距離を測定すると、撮像制御部170は、主被写体距離に応じて輻輳角を調整する。撮像制御部170は、撮像部110a、110bを第1の実施形態同様、撮像部110a、110bの結線の垂直二等分線上の主被写体距離の位置に輻輳点が重なるように輻輳角を調整する。また、撮像部110cについて、撮像制御部170は、光軸130cが撮像部110a、110bの輻輳点を通過するように撮像部110cの撮像レンズおよび撮像素子を調整する。
【0111】
立体映像撮像装置400は、撮像者が操作部112を通じて選択した撮像部110の組(ここでは、撮像部110a、110b、または撮像部110b、110c)のうち、左側に位置する方が生成した映像データを左眼用映像データとし、右側に位置する撮像部110が生成した映像データを右眼用映像データとして、上述した立体映像撮像装置100と同様、鮮明度の補正処理を行う。
【0112】
このような立体映像撮像装置400を用いて生成した立体映像データの立体映像を視認する場合、撮像者は、撮像部110aと撮像部110bとの組み合わせ、または撮像部110bと撮像部110cとの組み合わせの二つの視点から所望する視点を自由に選択でき、特に、近景を撮像する場合、視点の組み合わせによって大きく異なる二つの立体映像を楽しむことができる。
【0113】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0114】
なお、本明細書の立体映像撮像方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、複数の撮像部が生成した映像データを用いて立体映像を知覚させる立体映像データを生成する立体映像撮像装置、立体映像処理装置および立体映像撮像方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0116】
100、400 …立体映像撮像装置
110(110a、110b、110c) …撮像部
130a、130b …光軸
172、372 …距離取得部
174、374 …映像補正部
176 …輝度差分導出部
178 …映像切出部
300 …立体映像処理装置
310 …映像取得部
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の撮像部で生成された映像データを用いて立体映像を知覚させる立体映像データを生成する立体映像撮像装置、立体映像処理装置および立体映像撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイ上に、水平視差(両眼視差)を有する2つの映像を提示し、観察者に対してあたかも被写体が立体的に存在するように知覚させる映像(立体映像)の技術が脚光を浴びている。かかる技術で用いられる2つの映像は、視点の異なる2つの撮像部で撮像された映像である。
【0003】
この2つの撮像部が成す輻輳角を、装置から撮像目的とする被写体までの被写体距離に応じて調整し、物体を輻輳点の位置で撮像する立体映像撮像装置が提案されている(例えば、特許文献1)。また、被写体距離に応じて映像データの一部を切り出し、電子的に輻輳角を制御する技術も提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−66967号公報
【特許文献2】特開平7−95623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、撮像装置は、携帯性を高めたいという撮像者の要望に応じ小型化および軽量化が進められ、それに伴ってレンズや撮像素子も小さくなっている。しかし、レンズや撮像素子の小型化は、被写界深度の深さに大きく影響を及ぼす。例えば、レンズの小型化により被写界深度が深くなった場合、撮像装置において、焦点が合う範囲が広くなり、撮像者の撮像目的である被写体(主被写体)以外の前後にある物や背景といった被写体(準被写体)まで焦点が合っている映像データが生成されてしまう。
【0006】
これは、上述した特許文献1、2に示すような立体映像撮像装置を用いた場合であっても同様のことが言え、人間が直接被写体を視認する場合と撮像部を通じて被写体を撮像する場合とで焦点の合い方が異なることとなる。このような映像データでは、視聴者は、本来知覚しなくてもよいはずの撮像目的である被写体以外の物や背景といった被写体まで視認してしまい、特に、立体映像の場合は平面的な映像(平面映像)よりも処理する視覚情報が多いため、長時間の視認によって眼が疲労してしまう。
【0007】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、視聴者が自然な立体映像を知覚することができる立体映像データを生成可能な、立体映像撮像装置、立体映像処理装置および立体映像撮像方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の立体映像撮像装置は、それぞれの光軸が略平行または撮像方向で交わる位置に配され、それぞれにおいて映像データを生成する複数の撮像部と、映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と撮像部との距離と、主被写体以外の被写体である準被写体と撮像部との距離との差である相対距離を取得する距離取得部と、相対距離に基づいて、主被写体および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する映像補正部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記距離取得部は、複数の撮像部で撮像された映像データ間で主被写体の視差と準被写体の視差を検出し、検出した主被写体の視差と準被写体の視差との差を相対距離としてもよい。
【0010】
上記距離取得部は、フレームデータ間の同一の被写体を特定する動きベクトル検出を用いて複数の撮像部それぞれが生成した映像データ間の被写体の視差を導出し、動きベクトル検出は水平方向のみを対象としてもよい。
【0011】
上記映像補正部は、相対距離が略0の場合、準被写体の鮮明度を最大とし、相対距離が大きくなるにつれて準被写体の鮮明度を小さくしてもよい。
【0012】
上記映像補正部は、鮮明度に、被写界深度に応じた係数を乗じてもよい。
【0013】
上記立体映像撮像装置は、映像データを所定のブロックに分割し、分割したブロックにおける画素の輝度の最大値と最小値との差分を導出する輝度差分導出部をさらに備え、映像補正部は、差分が所定閾値以下の場合、差分が所定閾値以下となるブロックの画素については、鮮明度の補正を行わなくてもよい。
【0014】
上記距離取得部は、映像データを所定のブロックに分割し、分割したブロック毎に、同一の被写体を示すブロック間の視差を導出し、導出した視差をブロック内の各画素に割り当てた後、隣接する画素間で割り当てられた視差の変化を抑えるように、割り当てられた視差を補正してもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の立体映像処理装置は、両眼視差による立体映像を知覚させるための立体映像データを取得する映像取得部と、立体映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と立体映像データを生成した撮像部との距離と、主被写体以外の被写体である準被写体と撮像部との距離との差である相対距離を取得する距離取得部と、相対距離に基づいて、主被写体および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する映像補正部と、を備えることを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の立体映像撮像方法は、立体映像を生成するために、それぞれの光軸が略平行または撮像方向で交わる位置に配された複数の撮像部により、映像データを生成し、映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と撮像部との距離と、主被写体以外の被写体である準被写体と撮像部との距離との差である相対距離を取得し、相対距離に基づいて、主被写体および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明は、視聴者が自然な立体映像を知覚することができる立体映像データを生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態における立体映像撮像装置の概略的な機能を示した機能ブロック図である。
【図2】立体映像撮像装置の一例を示した外観図である。
【図3】主被写体距離の測定を説明するための説明図である。
【図4】相対距離および視差を説明するための説明図である。
【図5】距離取得部の動きベクトル検出を説明するための説明図である。
【図6】視差の補正を説明するための説明図である。
【図7】相対距離として用いる視差と、鮮明度との対応例を説明するための説明図である。
【図8】鮮明度の補正を説明するための説明図である。
【図9】輻輳角を固定とする場合の映像データにおける主被写体と視差との関係を説明するための説明図である。
【図10】輻輳角を固定とする場合の映像データにおける主被写体と視差との関係を説明するための説明図である。
【図11】映像処理による輻輳角の調整を説明するための説明図である。
【図12】映像処理による輻輳角の調整を説明するための説明図である。
【図13】第1の実施形態における立体映像撮像方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】第2の実施形態における立体映像撮像装置の概略的な構成を示した機能ブロック図である。
【図15】第3の実施形態における立体映像撮像装置を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
(第1の実施形態:立体映像撮像装置100)
図1は、第1の実施形態における立体映像撮像装置100の概略的な機能を示した機能ブロック図であり、図2は、立体映像撮像装置100の一例を示した外観図である。図1に示すように、立体映像撮像装置100は、撮像部110(図中、110a、110bで示す)と、操作部112と、ビューファインダ114と、距離測定部116と、映像処理部118と、映像併合部120と、映像圧縮部122と、外部出力部124と、中央制御部126とを含んで構成される。ここでは、立体映像撮像装置100としてビデオカメラを挙げているが、デジタルスチルカメラ、携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)、PDA(Personal Digital Assistant)等、撮像が可能な様々な電子機器を採用することができる。
【0021】
撮像部110は、図2に示すように、それぞれの光軸130a、130bが略平行または撮像方向で交わり、撮像者が立体映像撮像装置100の本体132を水平に把持した際に、その光軸130a、130bが同じ水平面に存在するように配置される2つの撮像部110a、110bで構成される。
【0022】
撮像部110は、焦点調整に用いられるフォーカスレンズ150と、露光調整に用いられる絞り(アイリス)152と、撮像レンズ154(図中、154a、154bで示す)を通じて入射した光を光電変換し映像データにA/D変換する撮像素子156(図中、156a、156bで示す)と、フォーカスレンズ150、絞り152、撮像レンズ154および撮像素子156を駆動させる駆動回路158とを含んで構成され、それぞれの撮像部110a、110bにおいて映像データを生成する。映像データは、撮像部110aが生成する、観察者の左眼に知覚させるための左眼用映像データと、撮像部110bが生成する、観察者の右眼に知覚させるための右眼用映像データとで構成され、動画および静止画のいずれでも形成可能である。
【0023】
操作部112は、レリーズスイッチを含む操作キー、十字キー、ジョイスティック、後述するビューファインダ114の表示面に配されたタッチパネル等のスイッチから構成され、撮像者の操作入力を受け付ける。
【0024】
ビューファインダ114は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成され、映像処理部118が出力した映像データや、操作部112と連動した撮像状態を示す情報をOSD(On-Screen Display)として表示する。撮像者は、操作部112を操作することで、被写体を所望する位置および占有面積で捉えることが可能となる。
【0025】
距離測定部116は、立体映像撮像装置100自体、特に撮像部110と、被写体のうち撮像目的の被写体である主被写体との距離(以下、主被写体距離と称する)を測定する。主被写体距離は、後述する撮像制御部170が輻輳角を調整する際に用いられる。
【0026】
ここで、主被写体は、ユーザが主に撮像を所望する被写体であって、例えば、撮像者による操作部112への操作入力に応じて、フォーカスを合わせたりすることで特定される。
【0027】
図3は、主被写体距離の測定を説明するための説明図である。図3(a)に示すように、距離測定部116は、主被写体160に赤外線を照射し、その赤外線の反射に費やす時間(TOF:Time Of Flight)を測定することで、撮像部110と主被写体160との距離を測定する。また、図3(b)に示すように、立体映像撮像装置100の正面に主被写体160が位置しない場合であっても、赤外線の照射角が予め広く設定されているので主被写体160からの反射光を受光し、図3(a)同様、主被写体距離を測定することができる。
【0028】
複数の被写体が認識される場合、距離測定部116は、例えば、最も近くにある被写体を、撮像目的の主被写体160として主被写体距離を測定したり、所定の距離範囲にある被写体をすべて主被写体160として、それぞれの主被写体160との距離の平均値を主被写体距離としたりする。
【0029】
また、フォーカスレンズ150の位置と主被写体距離とが対応しているので、距離測定部116は、駆動回路158を通じてフォーカスレンズ150の位置の情報である合焦情報を取得し、合焦情報に基づいて主被写体距離を求めてもよい。
【0030】
映像処理部118は、撮像部110で生成された映像データに対して、R(Red)G(Green)B(Blue)処理(映像データからRGB信号への変換、γ補正、色補正等)、エンハンス処理、ノイズ低減処理、ホワイトバランス調整処理等の映像信号処理を行う。ここで復調されたY色差信号は、後述する動きベクトル検出で用いられる。また、映像処理部118が行うホワイトバランス調整や撮像制御部170が行うアイリス調整は、色合い、明るさ等が右眼用映像データと左眼用映像データとで異ならないように同じ調整値を用いる。
【0031】
映像併合部120は、後述する映像補正部170が鮮明度を補正した映像データ(右眼用映像データと左眼用映像データ)を、サイドバイサイド方式、トップアンドボトム方式、およびフレームシーケンシャル方式等の、立体映像における所定の収録方式で併合し、立体映像データを生成する。
【0032】
映像圧縮部122は、立体映像データを、M−JPEG(Motion-JPEG)やMPEG(Moving Picture Experts Group)−2、H.264などの所定の符号化方式で符号化した符号データとし、任意の記憶媒体162に記憶させる。任意の記憶媒体162としては、DVD(Digital Versatile Disk)やBD(Blu-ray Disc)といった光ディスク媒体や、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等の媒体を適用することができる。なお、HDDは正確には装置であるが、便宜上、本説明では他の記憶媒体と同義として扱う。
【0033】
外部出力部124は、立体映像データをラインシーケンシャル方式、フレームシーケンシャル方式等の、立体映像における所定の表示方式のデータである立体表示データに変換し、立体映像撮像装置100に接続された立体映像表示装置164に出力する。立体映像表示装置164は、ビューファインダ114同様、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等で構成され、例えば、偏光特性が1ライン毎に異なるように形成されており、立体表示データを表示する。視聴者は、立体映像表示装置164に表示された立体表示データを左右で偏光特性が異なる眼鏡を通じて視認することで、立体映像を鑑賞することができる。
【0034】
また、外部出力部124は、通信に適した信号圧縮、および誤り訂正符号の付加等を行った符号データを、例えば、インターネット、LAN(Local Area Network)、携帯電話やPHS等の携帯機器の専用回線等の通信網を介して、立体映像表示装置164に出力してもよい。
【0035】
中央制御部126は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路により、立体映像撮像装置100全体を管理および制御する。また、本実施形態において、中央制御部126は、撮像制御部170、距離取得部172、映像補正部174、輝度差分導出部176、映像切出部178としても機能する。
【0036】
撮像制御部170は、主被写体160に対して、焦点調整や露光調整等の撮像を制御する。具体的に、撮像制御部170は、撮像を制御するための制御指令を撮像部120の駆動回路158に伝達し、駆動回路158は、撮像制御部170からの制御指令に従って、フォーカスレンズ150や絞り152を調整する。
【0037】
このとき、撮像制御部170は、例えば、右眼用映像データおよび左眼用映像データそれぞれの中央部の所定の領域をフォーカス調整に用いるフォーカス検出領域とし、この領域の映像データの高周波成分やコントラストが最大となるように、フォーカスレンズ150を調整してもよい。
【0038】
さらに、撮像制御部170は、撮像部110a、110bの結線(撮像部110a、110bの物側主点を結ぶ線)の垂直二等分線上の主被写体距離の位置に輻輳点が重なるように輻輳角を調整する(トーインセッティング)。撮像制御部170は、主被写体距離と撮像素子156a、156b間の距離から輻輳角を導出し、その輻輳角となるように、駆動回路158を通じて、撮像レンズ154a、154bと撮像素子156a、156bとを駆動させる。このとき、撮像レンズ154aと撮像素子156a、および撮像レンズ154bと撮像素子156bとは撮像制御部170の制御に従って連動する。また、撮像レンズ154a、154bは、左右対称に同角度回動する(左右対称に光軸130a、130bを交差させる)ことで輻輳角を調整している。
【0039】
また、輻輳角の調整は、例えば、撮像者が個々に入力した値(輻輳角、主被写体距離等)に基づいて行われてもよい。
【0040】
距離取得部172は、映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体160と撮像部110との距離(主被写体距離)と、主被写体160以外の被写体である準被写体と撮像部110との距離との差である相対距離を取得する。後述する映像補正部174は、この相対距離に基づいて鮮明度を補正する。
【0041】
相対距離は、主被写体160と、主被写体160以外の被写体である準被写体との撮像方向の距離なので、撮像部110a、110bでそれぞれ撮像される映像データにおいて検出される主被写体160の視差と準被写体の視差との差で表すこともできる。距離取得部172は、撮像部110a、110bで撮像された映像データ間で主被写体160の視差と準被写体の視差を検出し、検出した主被写体160の視差と準被写体の視差との差を相対距離とする。本実施形態において、主被写体160の視差は、撮像部110により撮像された映像データ間で検出される主被写体160の視差であり、準被写体の視差は、撮像部110により撮像された映像データ間で検出される準被写体の視差であり、以下、それぞれ単に主被写体160の視差、準被写体の視差と称する。
【0042】
このとき計算を容易にするため、主被写体160自体も相対距離0(ゼロ)で表す。ただし、本実施形態においては、主被写体160が輻輳点となるように、すなわち、主被写体160の視差が略0となるように輻輳角を調整しているため、距離取得部172は、相対距離として、撮像部110a、110bそれぞれが生成した映像データ間で検出される準被写体の視差を取得(導出)すればよい。
【0043】
図4は、相対距離および視差を説明するための説明図である。撮像制御部170は、主被写体160の位置に応じて輻輳角を調整する。そうすると図4(a)に示す各撮像レンズ154a、154bそれぞれの画角∠ABC、∠DEFには主被写体160以外の被写体である準被写体も入ってくる。このとき、右眼用映像データ、左眼用映像データそれぞれにおける主被写体160の位置は、図4(b)に示すように画面中央となる。
【0044】
このような輻輳角が主被写体160の位置に応じて調整された状態で、撮像部110との距離が主被写体160と同じ主被写体距離となる準被写体184aは、相対距離が0であり、右眼用映像データと左眼用映像データにおいて視差0で表わされる。一方、主被写体160よりも相対的に近くにある準被写体184bは左眼用映像データでは右端であるのに対し、右眼用映像データでは矢印186aに示すように中央よりとなる。また、主被写体160より相対的に遠くにある準被写体184cは、左眼用映像データでは左端であるのに対し、右眼用映像データでは矢印186bに示すように中央よりとなる。準被写体184dは、主被写体160よりも相対的に遠く、左眼用映像データでは右側に位置するが、右眼用映像データでは矢印186cに示すように、範囲外となり表示されない。
【0045】
このように、相対距離は、主被写体や準被写体といった被写体の視差によっても表わすことができる。この視差の導出には、フレームデータ間の同一の被写体を特定する動きベクトル検出が用いられる。ここで、フレームデータは、1の動画を構成する時系列に並べられた静止画データである。本実施形態では動きベクトル検出の対象である時間差のある2つのフレームデータを、同時に撮像された左右2つの映像データに置き換えている。距離取得部172は、映像データを所定のブロックに分割し、分割したブロック毎に、同一の被写体を示すブロック間の視差を導出する。
【0046】
図5は、距離取得部172の動きベクトル検出を説明するための説明図である。動画圧縮技術であるMPEGにおいては、ブロックマッチングに基づいて動きベクトルを検出する動きベクトル検出が用いられる。ここで動きベクトルは、2つのフレームデータ間における同一の被写体の変位をベクトルで示したものである。MPEGにおける動きベクトル検出では、図5(a)に示すように、フレームメモリから出力された過去の映像データを、所定のブロック(領域)190に分割し、過去のフレームデータから選択したブロック190aについて、現在のフレームデータのうち、同一の大きさで最も類似しているブロック190bを抽出し両者の位置関係から動きベクトル192aを検出している。
【0047】
本実施形態において、距離取得部172は、MPEGの符号化における動きベクトル検出とほとんど同等のアルゴリズムを用いるので、既存の動きベクトル検出技術を流用でき、右眼用映像データと左眼用映像データとの間の動きベクトルを検出する。
【0048】
具体的に、距離取得部172は、図5(b)に示すように、左眼用映像データから選択された比較元のブロック190cの各画素の輝度(Y色差信号)と、その画素に対応する右眼用映像データの比較先の任意の位置におけるブロック190dの各画素の輝度との差を取り、ブロック内のすべての画素の輝度の差の総和を導出する。続いて、比較先のブロック190dを所定距離移動し、輝度の差の総和を導出する処理を繰り返し、輝度の差の総和が最も小さくなる位置におけるブロック190dを、輝度が最も近いブロック190dとして抽出し、その変位をブロック190cの動きベクトル192cとする。
【0049】
また、距離取得部172は、図5(c)に示すように、右眼用映像データから選択された比較元のブロック190eの各画素の輝度と、その画素に対応する左眼用映像データの比較先の任意の位置におけるブロック190fの各画素の輝度との差を取り、すべての画素の輝度の差の総和を導出する。続いて、比較先のブロック190fを所定距離移動して、輝度の差の総和を導出する処理を繰り返し、輝度の差の総和が最も小さくなる位置におけるブロック190fを、輝度が最も近いブロック190fとして抽出し、その変位をブロック190eの動きベクトル192eとする。こうして、左眼用映像データおよび右眼用データのいずれのブロックも動きベクトルが検出される。
【0050】
かかる動きベクトル検出において、比較元のブロックは、例えば、映像データの左上から右方向に、右端に到達すると一段下げて再び左端から右方向に順次移動して選択され、最終的に映像データすべてが網羅される。
【0051】
また、本実施形態の動きベクトル検出では、比較先のブロックを全範囲から抽出しなくとも、水平方向のみを、比較先のブロックの対象とすることができる。すなわち、比較先のブロック190としては、比較元のブロック190c、190eに対して、垂直方向の座標が等しい領域(図5(b)、(c)において破線194a、194bで囲われた領域)のみが対象となる。
【0052】
上述したように、映像圧縮において動きベクトル検出の技術が確立しており、本実施形態では、その動きベクトル検出を利用して視差を求める。また、動画圧縮に用いられる動きベクトルの検出と異なり、視差は、映像における水平方向の変位としてしか表れないため、距離取得部172は、水平方向にのみ動きベクトルを検出すればよい。かかる動きベクトルの検出を水平方向に限る構成により、処理時間および処理負荷を著しく低減でき、延いては回路を小型化することが可能となる。
【0053】
距離取得部172は、図5に示すように、左眼用映像データのブロックについて、右眼用映像データ内で類似しているブロックを抽出すると、そのブロック間の動きベクトルを左眼用映像データのそのブロックの視差とする。同様に、距離取得部172は、右眼用映像データのブロックについて、左眼用映像データ内で類似しているブロックを抽出すると、そのブロック間の動きベクトルを右眼用映像データのそのブロックの視差とする。また、上記のように別々に算出した右眼用映像データの動きベクトルと、それに対応する左眼用映像データの動きベクトルは、大きさはほぼ同じであり、動きベクトルの向きが反対になっていると考えられる。そのため、この条件に当てはまらない動きベクトルが検出された場合には、動きベクトル検出におけるパラメータを変えて再度検出することにより、動きベクトル検出の精度を高める構成としてもよい。
【0054】
そして、距離取得部172は、導出した視差をブロック内の各画素に割り当てた後、隣接する画素間で割り当てられた視差の変化を抑えるように、割り当てられた視差を補正する。
【0055】
図6は、視差の補正を説明するための説明図である。距離取得部172は、ブロック190毎の視差を図6の如く導出した後、ブロック190の境界の画素に割り当てられた視差の急激な変化を抑えため、画素毎に低域通過フィルタを通過させ、図6の曲線198のように、映像データの水平方向の画素の並びに対して、隣接する画素に割り当てられた落差を減らし、視差の変化量を滑らかにする。かかる画素間で割り当てられた視差の変化を抑えるように平滑化する構成により、ブロックの境界において視差が急激に変化し、映像の連続性が損なわれて違和感が生じてしまう事態を回避することができる。
【0056】
そして、映像補正部174は、撮像目的の被写体である主被写体160と撮像部110の距離と、主被写体160以外の被写体である準被写体と撮像部110との距離との差である相対距離に基づいて、映像データに含まれる主被写体および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を画素単位で変更する。このとき、映像補正部174は、相対距離が略0の場合、準被写体の鮮明度を最大とし、相対距離が大きくなるにつれて準被写体の鮮明度を小さくしてもよい。
【0057】
図7は、相対距離として用いる視差と、鮮明度との対応例を説明するための説明図である。図7において、横軸が視差(相対距離)、縦軸が鮮明度を示す。本実施形態において、視差は、右眼用映像データ、左眼用映像データそれぞれにおいて、準被写体が右側にずれる程プラス、左側にずれる程マイナスの値を取ることとする。映像補正部174は、例えば、正規曲線200のように、視差が0の場合に準被写体の鮮明度を最大に、視差の絶対値が大きくなるにつれて、準被写体の鮮明度を連続的に弱くする。また、視差の絶対値が所定値以上となると、準被写体の鮮明度を所定の最小値に固定してぼかす処理を行うこととしてもよい。本実施形態において、鮮明度0は、映像データに対して鮮明度を変更する処理を何ら行わないことを示す。かかる鮮明度の補正を具体的に映像データに適用した例を図8を用いて説明する。
【0058】
図8は、鮮明度の補正を説明するための説明図である。図8(a)は、鮮明度の補正前の映像データを、図8(b)は、鮮明度の補正後の映像データの一例を示す。映像補正部174は、撮像目的の被写体である視差の無い主被写体160と、その近辺にあり同様に視差の無い準被写体184aとは、鮮明度が強くなるように、視差が大きい(相対距離の大きい)準被写体184c、184bは、鮮明度が弱くなるように、右眼用映像データにおいて画角から外れた準被写体184dは、さらに鮮明度が弱くなるように補正する。
【0059】
本実施形態において、鮮明度は、例えば、シャープネス等、映像データの鮮明さの度合いを示す指標である。既存の撮像装置は、元々、生成した映像データについて、所定の周波数以上の高域周波数成分を強調するエッジ強調処理を通じて鮮明度を高める処理が行われている。したがって映像補正部174は、視差の無い主被写体160と、その近辺にあり同様に視差の無い準被写体184aには、このエッジ強調処理が施された映像データをそのまま利用し、視差が大きい準被写体184b、184cや、映像データのうちの一方において画角から外れた準被写体184dには、鮮明度を例えば0〜−20dB程度落とす処理を行う。
【0060】
その結果、立体映像表示装置164において表示される映像では、主被写体160および準被写体184aが強調され、それ以外の準被写体184b、184c、184dは鮮明度が弱く目立たなくなる。特に、右眼用映像データにおいて画角から外れた準被写体184dは、例えば、1080TV本のうち、約200TV本が何とか視認できる程度までぼやかす。ここで、TV本は、水平表示解像度を示す単位であり、1画素毎に白黒の点を表示させた場合に、識別できる点の数で表わされる、シャープネスの単位の一例である。
【0061】
このように、本実施形態の立体映像撮像装置100は、撮像目的の被写体である主被写体160や相対距離0の準被写体184aの鮮明度を相対的に強くし、一方で主被写体160と距離のある準被写体184b、184c、184dの鮮明度を相対的に弱めている。そのため、立体映像撮像装置100の被写界深度が深い場合であっても、人間が主被写体160を直接視認するときと同じような被写界深度となる映像データを生成することができる。
【0062】
また、主被写体160や準被写体184aの視差が略0であり、それ以外の物体をぼかして表示することで、立体映像を鑑賞するのに必要となる眼鏡が無い場合でも、主被写体160や相対距離0の準被写体184aを自然な平面映像として見る事ができる。そのため、立体映像データをそのまま平面映像データとして利用することが可能となり立体映像の普及を促進できる。
【0063】
さらに、鮮明度を弱めた背景や準被写体の情報量が減るため、同じ記憶媒体162により長時間の映像を記憶できたり、同じ帯域でより多くのチャネルの伝送が可能となったりする。
【0064】
また、映像補正部174は、補正後の鮮明度に、さらに、被写界深度に応じた係数を乗じる。かかる構成により、被写界深度が既に人の眼に近い場合において、鮮明度を補正しすぎて主被写体160から撮像方向の前後に離れた準被写体が直接視認する場合よりもぼやけてしまい、視聴者に違和感を生じさせてしまう事態を回避できる。
【0065】
輝度差分導出部176は、映像データを所定のブロックに分割し、分割されたブロックにおけるすべての画素において、輝度の最大値と最小値との差分を導出する。そして、映像補正部174は、輝度の差分が所定閾値以下の場合、差分が所定閾値以下となるブロックの画素については、鮮明度の補正を行わない。
【0066】
ブロック自体に含まれる画素の輝度の最大値と最小値との差分が所定閾値以下のブロックは、壁や空等の背景の一部と捉えることができ、鮮明度が強い映像である必要性が低い。また、このように輝度の差分が小さいブロックは、動きベクトルの検出を用いても視差を正確に導出できない。そこで、鮮明度の補正を行わない回路、例えばコアリング回路を用いて、このようなブロックの処理負荷を低減する。かかる構成により、鮮明度の補正が不要なブロックに対する無駄な補正や誤った補正を回避することができ、処理負荷を軽減することが可能となる。
【0067】
また、上述した実施形態では、輻輳角を制御する構成を述べたが、輻輳角を固定して撮像する場合においても、鮮明度の補正を行うことができる。以下、輻輳角を固定し、光軸130a、130bが所定の点で交わる場合について説明する。
【0068】
図9および図10は、輻輳角を固定とする場合の映像データにおける主被写体160と視差との関係を説明するための説明図である。ここでは理解を容易にするため、主被写体160が撮像部110a、110bの結線の垂直二等分線上の任意の位置にあるとする。輻輳角を固定とすると、図9(a)に示すように、主被写体160が輻輳点Mより撮像部110a、110bに近い場合、図9(b)に示すように、主被写体160は、左眼用映像データでは主被写体160が水平方向中央の垂直線10より右側に、右眼用映像データでは中心線210より左側に変位する。逆に、図10(a)に示すように、主被写体160が輻輳点Mより撮像部110a、110bに遠い場合、図10(b)に示すように、主被写体160は、左眼用映像データでは中心線210より左側に、右眼用映像データでは中心線210より右側に変位することになる。したがって、輻輳角が固定されている場合、主被写体160は、撮像部110a、110bとの主被写体距離に応じて図9(b)や図10(b)に示すような視差を有することになる。かかる視差は、輻輳角と主被写体距離とから以下のように導出することができる。
【0069】
図9に示すように、主被写体160が輻輳点Mより撮像部110a、110bに近い場合、撮像部110aの画角∠ABCの二等分線は、輻輳点Mを通る直線BMであり、∠MBCは画角∠ABCの半分の角度となる。ここでは、輻輳角が固定のため輻輳点Mも固定となる。∠MBDは、以下の数式(1)で導出される。
∠MBD=arctan(線分MD/線分BD) …(数式1)
ここで、線分BDは撮像部110a、110bの間の距離の半分であり、線分MDは輻輳角と線分BDからBD/tan(輻輳角/2)で特定できる。また、∠EBDは、以下の数式(2)で導出される。
∠EBD=arctan(線分ED/線分BD) …(数式2)
ここで線分EDは取得された主被写体距離である。この∠MBDから∠EBDを減算することで、∠MBEが導出される。
∠MBE=∠MBD−∠EBD …(数式3)
【0070】
ここで、左眼用映像データの水平方向中央の垂直線210を水平座標0とし、右側の画素程、水平座標が増加、左側の画素程、水平座標が減少するものとし、右端の水平座標をg、左端の水平座標を−gとする。左眼用映像データの主被写体160の水平座標aは、∠MBEを用いて以下の数式(4)で導出される。
a=g×(∠MBE/∠MBC) …(数式4)
【0071】
また、ここでは、主被写体160が撮像部110a、110bの結線の垂直二等分線上にあるので、右眼用映像データの主被写体160の水平座標は、左眼用映像データの主被写体160の水平座標aと大きさが同じで符号が逆の値−aとなる。したがって、主被写体160の視差は、a−(−a)=2aで表すことができる。
【0072】
同様に、図10(a)に示すように、輻輳点Mより主被写体160が撮像部110a、110bから遠い場合、撮像部110aの画角∠ABCの二等分線は直線BMであり、∠ABMは画角の半分の角度となる。また、∠EBDは、上述した数式(2)と同じ式で導出される。そして、∠EBDから∠MBDを減算することで、∠MBEが導出される。
∠MBE=∠EBD−∠MBD …(数式5)
【0073】
図9を用いて説明した輻輳点Mより主被写体160が近い場合と同様に水平座標を定義すると、左眼用映像データの主被写体160の水平座標aは、∠MBEを用いて以下の数式(6)で導出される。
a=−g×(∠MBE/∠ABM) …(数式6)
【0074】
ここでも、右眼用映像データの主被写体160の水平座標は、左眼用映像データの主被写体160の水平座標aと大きさが同じで符号が逆の値−aとなるので、主被写体160の視差は、a−(−a)=2aで表すことができる。
【0075】
そして、距離取得部172は、準被写体それぞれの視差から、上述した数式を通じて導出された主被写体160の視差2aを減算し、主被写体160の視差2aを相殺して、準被写体と主被写体160との視差の差を導出する。映像補正部174は、主被写体160の視差2aが減算された視差に基づいて主被写体160および準被写体の鮮明度を補正する。
【0076】
このように、立体映像撮像装置100は、輻輳角を固定した撮像であっても、主被写体160や相対距離が略0の準被写体の鮮明度を強く、主被写体160から撮像方向の前後に離れ相対距離の絶対値が大きくなると鮮明度を弱くすることができる。
【0077】
また、輻輳角を制御しつつ、表示面とは異なる、表示面の前後の任意の位置に主被写体160が結像されるように撮像する場合であっても、距離取得部172が、輻輳角と主被写体距離とを取得し主被写体160の視差を随時導出することで、本実施形態の鮮明度補正処理を実現することができる。
【0078】
また、距離取得部172は、上述した輻輳角や主被写体距離を用いず、単に、ビューファインダ114に表示されている映像データから、撮像者が操作部112を通じて指定した被写体を主被写体160として特定し、主被写体160の視差と主被写体160以外の被写体である準被写体の視差との差を導出することでも、本実施形態の鮮明度補正処理を実現することができる。
【0079】
主被写体160や準被写体は、それぞれ撮像部110との距離に応じて視差が生じる。その個々の撮像部110a、110bとの距離は、輻輳角が既知でなければ映像データから把握することができない。しかし、ここで必要なのは、主被写体160と準被写体との相対距離であり、相対距離は、主被写体160の視差と準被写体の視差との差から簡易的に求めることができるので、撮像者に指定された主被写体160の視差を基準に、他の準被写体の視差との差である相対距離を導出すれば、鮮明度を補正することができる。そのため、オートフォーカスや赤外線センサー等を用いた測定機構が設けられていない場合においても、本実施形態の目的を達成することが可能となる。
【0080】
さらに、輻輳角の調整は、撮像制御部170が実際に撮像レンズ154a、154bと撮像素子156a、156bとを駆動させる構成に限らず、撮像部110a、110bの光軸130a、130bを固定し、映像処理によって行うこともできる。
【0081】
映像切出部178は、撮像素子156から取得する映像データの切出範囲を変更させ、擬似的に輻輳角を調整してもよい。ただし、撮像素子156は、最終的に出力する映像データよりも、水平方向の画素数が多いこととする。
【0082】
図11および図12は、映像処理による輻輳角の調整を説明するための説明図である。ここでは、撮像部110a、110bがそれぞれ調整画角∠ABC、∠DEFの撮像能力を有し、その調整画角∠ABC、∠DEFから任意の切り出し画角∠A’BC’、∠D’EF’を切り出す処理を行う。
【0083】
例えば、輻輳点を無限遠とすることを試みた場合、映像切出部178は、図11(b)に示す左眼用映像データに関して、調整画角∠ABCを撮像した映像データ220aから映像データ222aを切り出す。すると、切り出した映像データ222aは、図11(a)の切り出し画角∠A’BC’に相当することとなり、その映像データ222aの水平方向中央の垂直線224aが図11(a)の撮像方向226aとなる。こうして、切り出した映像データ220aは、光軸が立体映像撮像装置100に垂直な、画角∠A’BC’の撮像部で撮像した映像データと等しくなる。
【0084】
また、右眼用映像データにおいても、調整画角∠DEFを撮像した映像データ220bから映像データ222bを切り出すので、切り出した映像データ222bは、図11(a)の切り出し画角∠D’EF’に相当することとなり、その映像データ222bの水平方向中央の垂直線224bが図11(a)の撮像方向226bとなる。切り出した映像データ222bは、光軸が立体映像撮像装置100に垂直な、画角∠D’EF’の撮像部で撮像した映像データと等しくなる。こうして、両光軸が無限遠に向かって平行となる映像データ220a、220bを得ることができる。
【0085】
また、輻輳点を撮像部110a、110bに近づける場合、映像切出部178は、図12(b)に示す左眼用映像データに関して、調整画角∠ABCを撮像した映像データ220aから映像データ222aを切り出す。すると、切り出した映像データ222aは、図12(a)の切り出し画角∠A’BC’に相当することとなり、その映像データ220aの水平方向中央の垂直線224aが図12(a)の撮像方向226aとなる。また、右眼用映像データにおいても、図12(c)に示す同様な処理を施すことで、その映像データ220bの水平方向中央の垂直線224bが図12(a)の撮像方向226bとなる。こうして、切り出した映像データ220aと映像データ220bとの中央線224a、224bで示される疑似的な光軸(撮像方向226a、226b)が図12(a)の如く、輻輳点Mで交差し、輻輳角∠BMEの映像データ220a、220bを得ることができる。
【0086】
このように、映像切出部178が映像データの切出範囲を変更させ、擬似的に輻輳角を調整することで、立体映像撮像装置100は、撮像部110a、110bを実際に駆動させて輻輳角を調整する機構を搭載する必要が無くなり、部品点数を削減し安価に製造できる。
【0087】
また、上述した立体映像撮像装置100では、視差の導出から鮮明度の補正までを画一的に実行しているが、かかる場合に限らず、立体映像撮像装置100において、視差の導出までを行い、立体映像表示装置164において、鮮明度の補正を行うこととしてもよい。
【0088】
この場合、距離取得部172は、導出した視差を外部出力部124に出力し、外部出力部124は、視差と、立体映像データとを、それぞれ立体映像表示装置164に出力する。このとき、外部出力部124は、視差と立体映像データとの同期をとるため、例えば、それぞれに同期のための識別子を付加したり、視差と立体映像データとが対応するように、一つのストリームとしてまとめて出力したりすることができる。
【0089】
立体映像表示装置164は、立体映像撮像装置100で出力された立体映像データと視差とを取得すると、立体映像データの鮮明度を視差に基づいて補正し、立体映像における所定の表示方式に変換して表示する。この場合、視聴者は、立体映像の鑑賞時に、基準となる主被写体160の指定を変更することで、鮮明度の補正の度合いを調整できる。
【0090】
以上、上述したように、本実施形態の立体映像撮像装置100は、視聴者が自然な立体映像を知覚することができる立体映像データを生成することが可能となる。
【0091】
(立体映像撮像方法)
さらに、上述した立体映像撮像装置100を用いた立体映像撮像方法も提供される。図13は、第1の実施形態における立体映像撮像方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【0092】
撮像者が操作部112を通じて撮像を指示すると(S260のYES)、撮像部110a、110bが映像データを生成し(S262)、距離取得部172は、例えば、距離測定部116を通じて主被写体距離を取得する(S264)。そして、撮像制御部170は、撮像部110a、110bの結線の垂直二等分線上の主被写体距離の位置に輻輳点が重なるように輻輳角を調整する(S266)。
【0093】
距離取得部172は、映像データのうち、左眼用映像データから1のブロックを選択し(S268)、そのブロックにおける画素の輝度の最大値と最小値との差分が所定閾値以下であるか否かを判定する(S270)。所定値以下である場合(S270のYES)、ブロック選択ステップ(S268)に戻る。所定値より大きい場合(S270のNO)、距離取得部172は、左眼用映像データのブロックと垂直方向の座標が等しい、右眼用映像データのブロックと比較し、輝度が最も近いブロックと比較元のブロックとの視差(動きベクトル)を導出し、左眼用映像データのブロックに関連付ける(S272)。
【0094】
続いて、距離取得部172は、左眼用映像データのうち、まだ抽出を行っていないブロックがあるか否かを判断し(S274)、まだ抽出を行っていないブロックがあれば(S274のNO)、ブロック選択ステップ(S268)に戻って、同様の処理を繰り返す。
【0095】
左眼用映像データのすべてのブロックについて抽出処理を終えると(S274のYES)、距離取得部172は、右眼用映像データから1のブロックを選択し(S276)、そのブロックにおける画素の輝度の最大値と最小値との差分が所定閾値以下であるか否かを判定する(S278)。所定値以下である場合(S278のYES)、ブロック選択ステップ(S276)に戻る。所定値より大きい場合(S278のNO)、距離取得部172は、右眼用映像データのブロックと垂直方向の座標が等しい、左眼用映像データのブロックと比較し、輝度が最も近いブロックと比較元のブロックとの視差(動きベクトル)を導出し、右眼用映像データのブロックに関連付ける(S280)。
【0096】
そして、距離取得部172は、右眼用映像データのうち、まだ抽出を行っていないブロックがあるか否かを判断し(S282)、まだ抽出を行っていないブロックがあれば(S282のNO)、ブロック選択ステップ(S276)に戻って、同様の処理を繰り返す。
【0097】
そして、距離取得部172は、隣接する画素間で割り当てられた視差の変化を抑えるように、割り当てられた視差を補正(平滑化)する(S284)。
【0098】
映像補正部174は、画素毎に、割り当てられた視差(相対距離)に基づいて、主被写体160および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する補正処理を行う(S286)。そして、映像併合部120は、映像データを、立体映像における所定の収録方式で合成し、立体映像データを生成し(S288)、映像圧縮部122は、立体映像データを、所定の符号化方式で符号化した符号データとし(S290)、任意の記憶媒体162に記憶させる(S292)。
【0099】
上述したように、立体映像撮像装置100を用いた立体映像撮像方法によれば、視聴者が自然な立体映像を知覚することができる立体映像データを生成することが可能となる。
【0100】
(第2の実施形態:立体映像処理装置300)
上述した第1の実施形態では、立体映像撮像装置100は、撮像時において、視差に応じた鮮明度の補正処理を行っていた。第2の実施形態では、再生時において、鮮明度の補正処理を行う立体映像処理装置300について説明する。なお、上述した立体映像撮像装置100と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0101】
図14は、第2の実施形態における立体映像処理装置300の概略的な構成を示した機能ブロック図である。立体映像処理装置300は、映像取得部310と、操作部112と、映像復号部322と、表示部324と、中央制御部326とを含んで構成される。なお、上述した第1の実施形態と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略し、ここでは、構成が相違する映像取得部310、映像復号部322、中央制御部326を主に説明する。
【0102】
映像取得部310は、両眼視差による立体映像を知覚させるための立体映像データが符号化された符号データを立体映像撮像装置から取得する。映像復号部322は、符号データを復号し立体映像データに変換する。
【0103】
中央制御部326は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路により、立体映像処理装置300全体を管理および制御する。また、中央制御部326は、距離取得部172、映像補正部174、輝度差分導出部176、映像切出部178、表示制御部380としても機能する。
【0104】
本実施形態の立体映像処理装置300が、立体映像データを生成可能な撮像装置から立体映像データを取得すると、立体映像撮像装置100と同様、距離取得部172は、立体映像データに含まれる主被写体160と立体映像データを生成した撮像部との距離と、主被写体160以外の被写体である準被写体と撮像部110との距離との差である相対距離を取得し、映像補正部174は、相対距離に基づいて、主被写体160および準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する。表示制御部380は、立体映像データを立体映像における所定の表示方式に変換し、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等で構成され、偏光特性が1ライン毎に異なるように形成された表示部324に表示させる。
【0105】
例えば、立体映像データを生成した立体映像撮像装置の被写界深度が深い場合であっても、立体映像処理装置300を用いることで、主被写体160を直接視認するときと同じように被写界深度が人の眼と同等となる立体映像として鑑賞できる。また、主被写体160や準被写体の視差を略0とする場合、それ以外の物体をぼかして表示することで、立体映像を鑑賞するのに必要となる眼鏡が無い場合でも、相対距離0の準被写体を自然な平面映像として見る事ができる。
【0106】
また、本実施形態の立体映像処理装置300によれば、予め生成された立体映像データについて、事後的に、鮮明度の補正を行うことが可能となり、視聴者は、例えば、立体映像の鑑賞時に鮮明度の補正の度合いを調整できる。
【0107】
(第3の実施形態:立体映像撮像装置400)
上述した第1の実施形態では、1つの視点から知覚される立体映像を鑑賞できる映像データを生成する立体映像撮像装置100について説明した。第3の実施形態では、複数の視点から知覚される立体映像撮像装置400について説明する。なお、上述した立体映像撮像装置100と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0108】
図15は、第3の実施形態における立体映像撮像装置400を説明するための説明図である。立体映像撮像装置400は、立体映像撮像装置100と実質的に等しい構成であるが、撮像部110a、110bに加えて、撮像部110cをさらに備える。ここでは、理解を容易にするため、撮像部が3つの例を挙げて説明する。
【0109】
3つの撮像部110a、110b、110cは、それぞれの光軸130a、130b、130cが略平行または撮像方向で交わり、撮像者が立体映像撮像装置100の本体132を水平に把持した際に、それぞれの光軸130a、130b、130cが同じ水平面に存在するように配置される。
【0110】
例えば、撮像部110aと撮像部110bとの間に配された距離測定部116が主被写体距離を測定すると、撮像制御部170は、主被写体距離に応じて輻輳角を調整する。撮像制御部170は、撮像部110a、110bを第1の実施形態同様、撮像部110a、110bの結線の垂直二等分線上の主被写体距離の位置に輻輳点が重なるように輻輳角を調整する。また、撮像部110cについて、撮像制御部170は、光軸130cが撮像部110a、110bの輻輳点を通過するように撮像部110cの撮像レンズおよび撮像素子を調整する。
【0111】
立体映像撮像装置400は、撮像者が操作部112を通じて選択した撮像部110の組(ここでは、撮像部110a、110b、または撮像部110b、110c)のうち、左側に位置する方が生成した映像データを左眼用映像データとし、右側に位置する撮像部110が生成した映像データを右眼用映像データとして、上述した立体映像撮像装置100と同様、鮮明度の補正処理を行う。
【0112】
このような立体映像撮像装置400を用いて生成した立体映像データの立体映像を視認する場合、撮像者は、撮像部110aと撮像部110bとの組み合わせ、または撮像部110bと撮像部110cとの組み合わせの二つの視点から所望する視点を自由に選択でき、特に、近景を撮像する場合、視点の組み合わせによって大きく異なる二つの立体映像を楽しむことができる。
【0113】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0114】
なお、本明細書の立体映像撮像方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、複数の撮像部が生成した映像データを用いて立体映像を知覚させる立体映像データを生成する立体映像撮像装置、立体映像処理装置および立体映像撮像方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0116】
100、400 …立体映像撮像装置
110(110a、110b、110c) …撮像部
130a、130b …光軸
172、372 …距離取得部
174、374 …映像補正部
176 …輝度差分導出部
178 …映像切出部
300 …立体映像処理装置
310 …映像取得部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの光軸が略平行または撮像方向で交わる位置に配され、それぞれにおいて映像データを生成する複数の撮像部と、
前記映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と前記撮像部との距離と、前記主被写体以外の被写体である準被写体と前記撮像部との距離との差である相対距離を取得する距離取得部と、
前記相対距離に基づいて、前記主被写体および前記準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する映像補正部と、
を備えることを特徴とする立体映像撮像装置。
【請求項2】
前記距離取得部は、前記複数の撮像部で撮像された映像データ間で前記主被写体の視差と前記準被写体の視差を検出し、前記検出した主被写体の視差と準被写体の視差との差を前記相対距離とすることを特徴とする請求項1に記載の立体映像撮像装置。
【請求項3】
前記距離取得部は、フレームデータ間の同一の被写体を特定する動きベクトル検出を用いて前記複数の撮像部それぞれが生成した映像データ間の被写体の視差を導出し、前記動きベクトル検出は水平方向のみを対象とすることを特徴とする請求項2に記載の立体映像撮像装置。
【請求項4】
前記映像補正部は、前記相対距離が略0の場合、前記準被写体の鮮明度を最大とし、前記相対距離が大きくなるにつれて前記準被写体の鮮明度を小さくすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の立体映像撮像装置。
【請求項5】
前記映像補正部は、前記鮮明度に、被写界深度に応じた係数を乗じることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の立体映像撮像装置。
【請求項6】
前記映像データを所定のブロックに分割し、分割した前記ブロックにおける画素の輝度の最大値と最小値との差分を導出する輝度差分導出部をさらに備え、
前記映像補正部は、前記差分が所定閾値以下の場合、前記差分が所定閾値以下となるブロックの画素については、前記鮮明度の補正を行わないことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の立体映像撮像装置。
【請求項7】
前記距離取得部は、前記映像データを所定のブロックに分割し、分割した前記ブロック毎に、同一の被写体を示すブロック間の視差を導出し、導出した前記視差を前記ブロック内の各画素に割り当てた後、隣接する前記画素間で割り当てられた視差の変化を抑えるように、割り当てられた視差を補正することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の立体映像撮像装置。
【請求項8】
両眼視差による立体映像を知覚させるための立体映像データを取得する映像取得部と、
前記立体映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と前記立体映像データを生成した撮像部との距離と、前記主被写体以外の被写体である準被写体と前記撮像部との距離との差である相対距離を取得する距離取得部と、
前記相対距離に基づいて、前記主被写体および前記準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する映像補正部と、
を備えることを特徴とする立体映像処理装置。
【請求項9】
立体映像を生成するために、それぞれの光軸が略平行または撮像方向で交わる位置に配された複数の撮像部により、映像データを生成し、
前記映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と前記撮像部との距離と、前記主被写体以外の被写体である準被写体と前記撮像部との距離との差である相対距離を取得し、
前記相対距離に基づいて、前記主被写体および前記準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更することを特徴とする立体映像撮像方法。
【請求項1】
それぞれの光軸が略平行または撮像方向で交わる位置に配され、それぞれにおいて映像データを生成する複数の撮像部と、
前記映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と前記撮像部との距離と、前記主被写体以外の被写体である準被写体と前記撮像部との距離との差である相対距離を取得する距離取得部と、
前記相対距離に基づいて、前記主被写体および前記準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する映像補正部と、
を備えることを特徴とする立体映像撮像装置。
【請求項2】
前記距離取得部は、前記複数の撮像部で撮像された映像データ間で前記主被写体の視差と前記準被写体の視差を検出し、前記検出した主被写体の視差と準被写体の視差との差を前記相対距離とすることを特徴とする請求項1に記載の立体映像撮像装置。
【請求項3】
前記距離取得部は、フレームデータ間の同一の被写体を特定する動きベクトル検出を用いて前記複数の撮像部それぞれが生成した映像データ間の被写体の視差を導出し、前記動きベクトル検出は水平方向のみを対象とすることを特徴とする請求項2に記載の立体映像撮像装置。
【請求項4】
前記映像補正部は、前記相対距離が略0の場合、前記準被写体の鮮明度を最大とし、前記相対距離が大きくなるにつれて前記準被写体の鮮明度を小さくすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の立体映像撮像装置。
【請求項5】
前記映像補正部は、前記鮮明度に、被写界深度に応じた係数を乗じることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の立体映像撮像装置。
【請求項6】
前記映像データを所定のブロックに分割し、分割した前記ブロックにおける画素の輝度の最大値と最小値との差分を導出する輝度差分導出部をさらに備え、
前記映像補正部は、前記差分が所定閾値以下の場合、前記差分が所定閾値以下となるブロックの画素については、前記鮮明度の補正を行わないことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の立体映像撮像装置。
【請求項7】
前記距離取得部は、前記映像データを所定のブロックに分割し、分割した前記ブロック毎に、同一の被写体を示すブロック間の視差を導出し、導出した前記視差を前記ブロック内の各画素に割り当てた後、隣接する前記画素間で割り当てられた視差の変化を抑えるように、割り当てられた視差を補正することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の立体映像撮像装置。
【請求項8】
両眼視差による立体映像を知覚させるための立体映像データを取得する映像取得部と、
前記立体映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と前記立体映像データを生成した撮像部との距離と、前記主被写体以外の被写体である準被写体と前記撮像部との距離との差である相対距離を取得する距離取得部と、
前記相対距離に基づいて、前記主被写体および前記準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更する映像補正部と、
を備えることを特徴とする立体映像処理装置。
【請求項9】
立体映像を生成するために、それぞれの光軸が略平行または撮像方向で交わる位置に配された複数の撮像部により、映像データを生成し、
前記映像データに含まれる被写体のうち、撮像目的の被写体である主被写体と前記撮像部との距離と、前記主被写体以外の被写体である準被写体と前記撮像部との距離との差である相対距離を取得し、
前記相対距離に基づいて、前記主被写体および前記準被写体のいずれか一方または両方の鮮明度を変更することを特徴とする立体映像撮像方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−188004(P2011−188004A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47666(P2010−47666)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】
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