説明

立体観察装置

【課題】光学的な手段により、運動視差を含む人間の持つ複数の空間認識要素をすべて矛盾なく満足した形で、観察対象物を簡便に立体視できるようにする。
【解決手段】観察対象物1からの光が結像光学系(顕微鏡光学系20)によって結像されて空間中に観察像12が投射される。この立体観察装置では、回転モータ2A(および回転ステージ2)によって、結像光学系から見た観察対象物1の観察方向が周期的に変化する。従って、観察側には、異なる観察方向から見た観察対象物の像が観察像12として形成される。さらに、偏向ミラー7によって、回転モータ2Aによる観察方向の変化に同期して、結像光学系による観察像12の投射方向が周期的に変化する。これにより、運動視差に対応した立体視可能な立体像が観察像12として形成される。観察者から見ると、観察角度を変えたときに、その観察角度に対応して異なる角度から見た立体像が観察される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば観察対象物を拡大して立体視することができるようにするための立体観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、立体視が可能な光学式顕微鏡として実体顕微鏡が知られている。実体顕微鏡は、相異なる角度から見た観察対象物の拡大像を得る拡大光学系と、それら相異なる角度からの拡大像を、観察像としてそれぞれ左右の眼に送るための接眼光学系とを備えている。立体像の観察は、一対の接眼レンズを両眼で覗き込むことでなされる。
【0003】
また、特許文献1には、接眼レンズを用いることなく、観察像を立体視することができる光学装置が記載されている。この光学装置は、対物レンズの光束を右目用と右目用とに分離する手段と、分離された各光束による中間像を形成する手段と、各光束による中間像を接眼レンズを用いることなく観察可能にするための視野レンズおよび射出レンズとを備えている。また、この光学装置は、左右の光束による射出瞳の間隔を変えることができる一対の回転ミラーを有し、ひとみ間隔を観察者に応じて調整することができるようになっている。
【特許文献1】特開昭60−112016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、人間が立体を認識するための生理的要因としては両眼視差の存在が重要であるが、それ以外の要因として、輻輳角、運動視差、および調節(焦点調節)がある。人間が立体像を、より正確に把握するためには、それらの要因をすべて矛盾なく機能させる必要がある。そうしないと、人は相矛盾する情報に混乱してしまい誤った認識をするおそれや、それに伴う眼精疲労や脳の疲労により長時間の観察が困難となるおそれがある。しかしながら、従来の実体顕微鏡による立体視では、観察対象を極めて固定されたある方向から見た像の観察による、ある方向からだけの両眼視差情報と輻輳角とが得られるのみである。このため、視点を静止した状態では違和感なく立体的に見えても、視点を動かしたときには観察像が変化しない、すなわち運動視差が実現できていないので、視点を移動させたときに不自然に感じてしまう問題があった。つまり、人が立体を的確に誤りなく感じるためには、運動視差を得ることが極めて重要であって、観察対象を多少なりとも見る角度を変えながら観察できるようにすることが必要であるのだが、従来の実体顕微鏡では、それが実現できていない。上記特許文献1に記載の光学装置も同様に、運動視差のない擬似的な立体視しか実現できていない。
【0005】
また、実体顕微鏡では、両眼視差を得るために、一つの観察対象物を2つの光学系で観察する必要がある。しかしながら、レンズの大きさの制限やまたそれらのパーツを納めるためのスペースが確保できないといった問題があるために、あまり高倍率で観察できるような装置は実現できていない。一方、通常の光学式顕微鏡は、数百倍までの高倍率の観察は可能であるが、立体観察は不可能であった。このため昨今では、いろいろな角度で観察した画像をコンピュータに取り込み、それらの画像をコンピュータ上で合成し、観察像をコンピュータの画面上で回転させながら観察するという手法により立体構造の把握を手助けする方法が取られたりしているのが現状である。しかしながら、顕微鏡による観察像を、電子的なディスプレイ装置、例えば液晶ディスプレイなどを用いず、言い換えれば、通常の光学式顕微鏡と同じ様に光学的な手段を用いて、簡便に立体視する装置が実現できれば便利である。かつ、その立体視を、両眼視差と輻輳角だけでなく、運動視差も含めた、人間の持つ複数の空間認識要素をすべて矛盾なく満足した形で行えるようにすることができれば便利である。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、光学的な手段により、運動視差を含む人間の持つ複数の空間認識要素をすべて矛盾なく満足した形で、観察対象物を簡便に立体視することができるようにした立体観察装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の立体観察装置は、観察対象物からの光を結像して空間中に観察像を投射する結像光学系と、結像光学系から見た観察対象物の観察方向を周期的に変化させる観察方向変更手段と、観察方向変更手段による観察方向の変化に応じて、結像光学系による観察像の投射方向を周期的に変化させる投射方向変更手段と、観察方向変更手段による観察方向の変化の周期と投射方向変更手段による投射方向の変化の周期との同期制御を行う制御手段とを備えたものである。
【0008】
本発明の立体観察装置では、観察対象物からの光が結像光学系によって結像されて空間中に観察像が投射される。この立体観察装置では、観察方向変更手段によって、結像光学系から見た観察対象物の観察方向が周期的に変化する。従って、観察側には、異なる観察方向から見た観察対象物の像が形成される。さらに、観察方向変更手段による観察方向の変化に同期して、結像光学系による観察像の投射方向が周期的に変化する。これにより、運動視差に対応した立体視可能な立体像が形成される。観察者から見ると、観察角度を変えたときに、その観察角度に対応して異なる角度から見た立体像が観察される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の立体観察装置によれば、結像光学系から見た観察対象物の観察方向を周期的に変化させると共に、その観察方向の変化に同期して観察像の投射方向を周期的に変化させるようにしたので、異なる観察方向から見た立体視可能な観察対象物の像を、運動視差に対応した状態で形成することができる。すなわち、光学的な手段により、運動視差を含む人間の持つ複数の空間認識要素をすべて矛盾なく満足した形で、観察対象物を簡便に立体視することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
[第1の実施の形態]
【0011】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る立体観察装置の一構成例を示している。本実施の形態における立体観察装置は、立体視可能な光学式顕微鏡に関する。この立体観察装置は、顕微鏡像を、電子的なディスプレイ装置、例えば液晶ディスプレイなどを用いず、言い換えれば、(通常の光学式顕微鏡と同じ様に)光学的な手段を用いて、簡便に立体顕微鏡像を空間像として表示する装置である。
【0012】
この立体観察装置は、回転モータ2Aと、回転モータ2Aに直結され、観察対象物1が載置された状態で回転可能に構成された回転ステージ2と、間欠的な発光制御が可能に構成され、観察対象物1を可視光で照明する照明装置3と、観察対象物1を拡大して空間中に観察像(空間像、立体像)12を形成(投射)する顕微鏡光学系20とを備えている。この立体観察装置はまた、例えばガルバノミラーで構成され、観察像12の投射方向を変化させる偏向ミラー7と、回転ステージ2(回転モータ2A)の回転制御、照明装置3の照明タイミングの制御、および偏向ミラー7の偏向角制御を行う制御装置8とを備えている。
【0013】
顕微鏡光学系20は、内部が空洞の鏡筒5と、この鏡筒5の両端に設けられた対物レンズ4およびリレー・拡大レンズ6とを有している。対物レンズ4は、回転ステージ2上の観察対象物1からの光を拡大結像し、鏡筒5の内部に対物像(空間像)11を形成するようになっている。リレー・拡大レンズ6は、リレー光学系および拡大光学系としての機能を有し、対物レンズ4による空間像11をさらに拡大して鏡筒5の外部に引き出すものである。リレー・拡大レンズ6は、拡大率を変えられるようにズームレンズ(変倍光学系)を含んでいても良い。
【0014】
ここで、本実施の形態において、回転モータ2Aおよび回転ステージ2が、本発明における「観察方向変更手段」の一具体例に対応する。また、偏向ミラー7が、本発明における「投射方向変更手段」の一具体例に対応する。また、顕微鏡光学系20が、本発明における「結像光学系」の一具体例に対応し、リレー・拡大レンズ6が、本発明における「投射レンズ系」の一具体例に対応する。また、制御装置8が、本発明における「制御手段」の一具体例に対応し、照明装置3が、本発明における「照明手段」の一具体例に対応する。
【0015】
回転モータ2Aは、図1に示したXZ平面内で回転ステージ2を回転運動させるものである。回転モータ2Aは、回転ステージ2を周期的に回転させることで顕微鏡光学系20から見た観察対象物1の観察方向を周期的に変化させるようになっている。偏向ミラー7は、回転ステージ2の回転平面と同一のXZ平面内で周期的に往復運動するようになっている。偏向ミラー7は、回転モータ2A(および回転ステージ2)による観察方向の変化に同期して、顕微鏡光学系20(のリレー・拡大レンズ6)から出射した光束を観察側に向けて周期的に偏向させることで、観察像12の投射方向を周期的に変化させるようになっている。この場合において、偏向ミラー7は、顕微鏡光学系20から見た観察対象物1の観察方向に対応した方向に観察像12の投射方向を変化させる。偏向ミラー7の偏向角と回転ステージ2(回転モータ2A)の回転角との相関関係については、後に具体例を挙げて詳述する。
【0016】
制御装置8は、回転モータ2A(および回転ステージ2)による観察方向の変化の周期と偏向ミラー7による投射方向の変化の周期との同期制御を行うようになっている。制御装置8はさらに、照明装置3による照明タイミングの同期制御を行うようになっている。制御装置8は、後述するように、偏向ミラー7が一定の角速度で偏向している期間のみ、観察対象物1が照明されるよう、照明装置3による照明タイミングの制御を行うようになっている。これらの同期制御については、後に具体例を挙げて詳述する。
【0017】
次に、本実施の形態に係る立体観察装置の動作を説明する。
この立体観察装置では、観察する被写体となる観察対象物1が、回転モータ2A上に搭載された回転ステージ2の上に載置され、回転モータ2Aの回転とともに回転する。観察対象物1は照明装置3により照明される。観察対象物1によって散乱された光は対物レンズ4によって鏡筒5内に導かれ、リレー・拡大レンズ6から放射される。放射された光は偏向ミラー7により反射され観察者の右眼10Rおよび左眼10Lに入射し観察像12が観察される。ここで、観察対象物1の像は、対物レンズ4およびリレー・拡大レンズ6によって拡大されて空間中に投射される。像が拡大される機構は通常の光学式顕微鏡と変わらないが、観察者が観察する像は通常の光学式顕微鏡が虚像であるのに対し、この立体観察装置による観察像12は空間像である。空間像は対物レンズ4によって一度鏡筒5内に結像する。その空間像(対物像11)はさらにリレー・拡大レンズ6のリレー光学系で引き出され、必要に応じてズームレンズ等の拡大光学系によって拡大され、再び空間像(観察像12)として結像する。この空間像を観察者は観察することになる。
【0018】
また、この立体観察装置では、回転ステージ2(および回転モータ2A)と偏向ミラー7との同期した運動機構により、空間像(観察像12)が立体像として観察される。この立体像が観察される機構について説明する。回転ステージ2の上に配置された観察対象物1を回転させながら対物レンズ4によって画像を取り込むと、回転に従い回転角に従った様々な角度から観察した観察対象物1の映像が対物レンズ4から取り込まれることになる。このため、表示される空間像は回転ステージ2の回転角に応じて様々な角度から観察した像として表示される。そこで、この空間像を表示するとき回転ステージ2の角度に一致した方向から表示すると立体像が構成される。
【0019】
この立体像として見える原理を、図2および図3を利用してさらに詳細に説明する。図2は、分かりやすくするために図1で示した構成を必要最小限に簡便に図示したものである。図1の観察対象物1は、光の散乱体であるので、発光点の集合で構成されていると考えて良い。そこで、その発光点の集合のうち、ある一つの発光点に注目して、そこから放射された光について考えると分かりやすい。本実施の形態における立体視の原理は、この一点の発光点についてさえ分かれば説明できる。なぜなら、観察対象物1の他の発光点も全く同様に考えることができ、そしてそれらのすべての発光点からの光の挙動を集め重ねあわせることで空間像が構成されるからである。以上の理由により、図2に示すように観察対象物1として、ある一点(物点1A)のみについて説明する。また、回転による観察状態の差を説明するため、物点1Aは、回転ステージ2上において回転中心2Bから離れた位置にあるものとする。
【0020】
図3は、偏向ミラー7の偏向角と回転ステージ2(回転モータ2A)の回転角との相関関係を示している。ここで、図中の偏向ミラー7と回転ステージ2上の物点1Aに付加してある番号P1,P2,P3は、偏向ミラー7の偏向角と回転ステージ2の回転角とを対応付けるため番号であり、偏向ミラー7がある番号の位置にあるときは、回転ステージ2の回転角はそれと同一の番号の位置にあるということを示している。また、時間の進展は、この番号の順番、P1,P2,P3の順に進み、図3では説明の都合上、「ある一定時間」の偏向ミラー7と回転ステージ2との状態が重ねあわされて示されている。顕微鏡光学系20は、分かりやすくするために「針穴写真機(ピンホールカメラ)」のような極めてシンプルな構造であるものとする。このような構造であるとしても、ここで説明しようとしている空間表示のメカニズムに関する一般性は失われない。図3に示した光線L1,L2,L3は物点1Aから放出した光のうち顕微鏡光学系20の絞りStの中心、すなわち、「針穴写真機」のピンホール(針穴)を通過した光線である。
【0021】
なお、図3の説明では、回転ステージ2上での回転角の位置が「P2」にあるときを基準角度(回転角0°)とし、「P1」側の回転角を−α、「P3」側の回転角をαとする。まず、図3に示すように、回転ステージ2(回転モータ2A)の回転角の位置が「P1」、すなわち、角度が−αの位置にあったとき、物点1Aから光線が発し、その中の光線のうちピンホールを通過した光線が破線の「光線L1」で示されている。回転ステージ2の回転角の位置が「P1」であるとき、偏向ミラー7の位置は「P1」、すなわち、偏向角度が−α/2にあるように制御されている。このため、前述の「光線L1」で示した光線は図3に示した方向に反射され観察者によって認識される。
【0022】
次に、図3に示すように、回転ステージ2が時間と共に回転し回転角の位置が「P2」、すなわち、角度が「0°」の位置にあったとき、物点1Aから光線が発し、その中の光線のうちピンホールを通過した光線が実線の「光線L2」で示されている。回転ステージ2の回転角の位置が「P2」であるとき、偏向ミラー7も時間と共に偏向し偏向ミラー7の位置は「P2」、すなわち、偏向角度が「0°」になるように制御されている。このため、前述の「光線L2」は図3に示した方向に反射され観察者によって認識される。そして、図3に示すように、回転ステージ2が時間と共にさらに回転し回転角の位置が「P3」、すなわち、角度が+αの位置になったとき、物点1Aから発せられた光線で、その中の光線のうちピンホールを通過した光線が一点鎖線の「光線L3」で示されている。回転ステージ2の回転角の位置が「3」の位置あるとき、偏向ミラー7も時間と共に偏向し偏向ミラー7の位置は「P3」、すなわち、偏向角度が+α/2になるように制御されている。このため、前述の「光線L3」で示した光線は図3に示した方向に反射され観察者によって認識される。
【0023】
以上の過程によって、物点1Aの空間像(観察像12)が観察者の前の「光線L1」、「光線L2」,「光線L3」が交差した場所に表示される。物点1Aの位置が「P1」にあるときは、顕微鏡光学系20の位置からは物点1Aを右側αの角度から眺めた映像が見える。そこから出発する「光線L1」を追跡していくと、偏向ミラー7で反射されるが偏向ミラー7の位置が「P1」で基準の角度から−α/2だけ偏向しているので、このミラー角度で反射された光線は観察者に対し左側αの角度から観察者に向かって進行する光線となる。すなわち、観察者の位置からすると、顕微鏡光学系20の出射側から見て左側αの角度の方向から、物点1Aを右側αの方向から見た映像が見えることになる。「光線L2」,「光線L3」についても同様に考えると、観察者の正面からは物点1Aの正面からの映像が、顕微鏡光学系20の出射側から見て観察者の右側からは物点1Aの左側の映像が見えることになる。ただ、これに加えて必要なことは、顕微鏡光学系20による物点1Aの空間像(観察像12)の焦点が上記各光線の交わったところに合っていることである。これは通常の光学系の合焦方法でピント合わせをすれば良い。以上では、観察対象物1からの複数の代表的な光線について考えたが、これらの代表的な光線の間の位置での光線についても同様である。
【0024】
図4(A),(B),(C)は、図3で説明した観察過程を一周期とした、偏向ミラー7、照明装置3、および回転モータ2Aの制御タイミングを示している。制御装置8は、偏向ミラー7、照明装置3、および回転モータ2Aについて、図4(A),(B),(C)で示したような同期制御を行う。偏向ミラー7は例えば図4(A)で示したような偏向角で往復運動し、回転ステージ2(回転モータ2A)は例えば図4(C)に示したような一定の角速度で回転運動する。偏向ミラー7は、例えば±25°(α=50°)の角度で往復運動し、回転モータ2Aは、例えば30Hzの周期で回転運動する。このような往復運動および回転運動が行われる場合、いつでも正常な空間表示動作が可能なわけではない。空間表示動作が可能な時間領域は、例えば図4(A),(B),(C)では「T1」の区間で示した時間領域である。この時間領域は、偏向ミラー7は一定角速度で偏向しており、回転ステージ2の角速度に同期させることが可能な領域である。この領域においては、さらに偏向ミラー7の偏向角の変化が回転ステージ2の回転角の変化のちょうど半分になる関係が常に保たれるように精度良く調整する必要がある。
【0025】
これまで述べたように、いつでも常に空間表示動作が可能ではない。このため、空間表示動作が不可能な時間領域においては、観察者に像が見えないようにする必要がある。このための一つの方法が図1に示した照明装置3を利用する方法である。観察者からは、照明を燈して明るくなった時にだけ見えるようにする。そして、照明が燈されるタイミングを図4(A),(B),(C)の「T1」で示した時間領域に選べば観察者からは空間表示動作が可能なときだけ観察像12が観察される。図4(B)は、そのような照明装置3が燈されるタイミングを示している。
【0026】
図4(B)に示したような照明の制御は、例えば照明装置3の発光源自体のオン/オフ(発光/非発光)制御により行う。ただし、この他にも例えば照明装置3を常に発光状態にしておき、観察位置までの任意の光路中に光を遮るシャッター等を配置するようにしても良い。この場合、シャッターで光路を塞ぐタイミングを図4(B)に示したように制御すれば良い。
【0027】
本実施の形態に係る立体観察装置によれば、結像光学系としての顕微鏡光学系20から見た観察対象物1の観察方向を周期的に変化させると共に、その観察方向の変化に同期して観察像12の投射方向を周期的に変化させるようにしたので、異なる観察方向から見た立体視可能な観察対象物の像を、運動視差に対応した状態で形成することができる。すなわち、光学的な手段により、運動視差を含む人間の持つ複数の空間認識要素をすべて矛盾なく満足した形で、観察対象物を簡便に立体視することができる。
【0028】
特に、本実施の形態によれば、結像光学系が顕微鏡光学系20となっているので、肉眼では観察できない小さな物体の光学式顕微鏡の像を立体像として自由空間中に空間表示でき、拡大された観察物体があたかもそこにあるかのように肉眼で観察することが可能となる。また、見る角度を変えて観察することができるので運動視差も加わり、人の持つすべての空間認識要素(両眼視差・輻輳・調節・運動視差)がお互い矛盾のない形で立体像を観察することが可能となる。このため、正確な観察と観察の誤謬の低減、さらには観察による疲労の低減を図ることが可能となる。
[第2の実施の形態]
【0029】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。なお、上記第1の実施の形態と実質的に同一の構成部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0030】
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る立体観察装置の一構成例を示している。
図1の構成例では、観察対象物1を回転ステージ2の上に配置し観察対象物1自体を回転させることで観察方向を変化させるようにした。これに対し、図5の構成例では、観察対象物1を固定ステージ22の上に固定的に配置する方法を示している。固定ステージ22は観察対象物1を置くだけなので回転ステージ2を利用するより観察が容易となる。図5の構成例では、観察対象物1を回転させるかわりに偏向ミラー21をあらたに搭載し、これを往復運動させることで観察対象物1のいろいろな角度からの映像を対物レンズ4に送り出すシステムとなっている。以下、本実施の形態では、物体側の偏向ミラー21を「物体側偏向ミラー21」、観察者側の偏向ミラー7を「観察側偏向ミラー7」と称する。物体側偏向ミラー21は、観察側偏向ミラー7と同様、例えばガルバノミラーで構成され、観察側偏向ミラー7と同様に図5のXZ平面内で周期的に往復運動するようになっている。
本実施の形態において、物体側偏向ミラー21が本発明における「観察方向変更手段」の一具体例に対応する。
【0031】
本実施の形態では、図1の構成例における回転ステージ2および回転モータ2Aに代えて、物体側偏向ミラー21と固定ステージ22とを備えた点が違うのみで、立体視の光学的な原理は、上記第1の実施の形態と同様である。本実施の形態では、制御装置8が、物体側偏向ミラー21の偏向角度の変化の周期と観察側偏向ミラー7の偏向角度の変化の周期とを同期制御する。
【0032】
図6(A),(B),(C)は、本実施の形態に係る立体観察装置における、観察側偏向ミラー7、照明装置3、および物体側偏向ミラー21の制御タイミングを示している。制御装置8は、観察側偏向ミラー7、照明装置3、および物体側偏向ミラー21について、図6(A),(B),(C)で示したような同期制御を行う。
【0033】
図1の構成例とは異なり、本実施の形態では、原理的には観察側偏向ミラー7と物体側偏向ミラー21とを同期させて完全に同じような往復運動による偏向をさせることができる。観察対象物1は照明装置3によって照明されるが、照明するタイミングとしては、観察側偏向ミラー7と物体側偏向ミラー21とが完全に同期して偏向しているのであれば、常に照明しっぱなしでも構わない。しかしながら、図6(B)に示すように、片方の運動方向(往路または復路)に偏向している期間T2にだけ照明するしても良い。こうすることによって、観察側偏向ミラー7および物体側偏向ミラー21の個体差による偏向バラつきによって観察像12が2重に見えるのを回避することが可能である。例えば、観察側偏向ミラー7および物体側偏向ミラー21が往復運動をする場合において、往路と復路とで偏向のバラつきが生じると、観察像12が2重に見えてしまうおそれがあるが、どちらか一方の運動方向のみで偏向させることで、それが防止される。
【0034】
以上説明したように、本実施の形態に係る立体観察装置によれば、物体側偏向ミラー21によって、観察対象物1からの光を顕微鏡光学系20(の対物レンズ4)に向けて周期的に偏向させるようにしたので、回転ステージ2を用いる場合に比べて観察対象物1自体を回転させることなく、顕微鏡光学系20系から見た観察対象物1の観察方向を簡便に変化させることができる。
[第3の実施の形態]
【0035】
次に、本発明の第3の実施の形態を説明する。なお、上記第1および第2の実施の形態と実質的に同一の構成部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0036】
図7は、本発明の第3の実施の形態に係る立体観察装置の一構成例を示している。
上記第1および第2の実施の形態では、観察側偏向ミラー7と回転ステージ2(図1)、または、観察側偏向ミラー7と物体側偏向ミラー21(図5)とを水平H方向に偏向角度が変化するように運動させることで、運動視差を実現するようにしていたが、これにより実現できるのは水平H方向についての運動視差のみである。すなわち、観察者が観察方向を水平H方向(左右方向)に変えるのに従って観察像12の見え方が変化する。しかしながら、観察者が観察方向を垂直V方向(上下方向)に変えたとしても、観察像12の見え方は変化しない。すなわち、垂直V方向についての運動視差は実現できていない。
【0037】
本実施の形態に係る立体観察装置は、この垂直V方向についての運動視差をも実現可能にしたものである。具体的には、図5の構成例における観察側偏向ミラー7および物体側偏向ミラー21を、水平H方向のみならず、垂直V方向にも偏向角度が変化するように往復運動させて偏向方向を垂直V方向にも変えるようにしたものである。このような互いに直交する2方向での偏向運動を実現する偏向ミラーとしては、例えばピエゾ偏向デバイスなどを利用することができる。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態に係る観察装置によれば、水平H方向のみならず、垂直V方向についての運動視差を実現するようにしたので、より現実に近い立体視を行うことができる。
【実施例】
【0039】
図8(A),(B),(C)は、上記第1の実施の形態に係る立体観察装置(図1)によって実際に観察される観察像12の一例を示している。図9は、図8(A),(B),(C)に示した観察像を模式的に示したものである。
【0040】
図8(A),(B),(C)は、観察対象物1として一辺の長さが約0.1mm程度のグラニュー糖を観察したものである。このときの拡大倍率は約50倍程度である。図8(A),(B),(C)では、図1の立体観察装置によって実際に空間像が表示できていることを示すことが目的であって、そのために観察物体の空間像が空間のある場所にあたかもあるように見えていることを示している。図8(A),(B),(C)に示した画像はそれぞれ、図9の(A),(B),(C)方向(図3のP3,P2,P1方向に対応する)から撮影したものである。金属棒81は、空間の場所を示すための目印である。空間表示されたグラニュー糖の粒80は、図9に示すように金属棒81の先端付近に表示されている。実際、図8(A),(B),(C)に示すように、(A),(B),(C)のどの方向から見ても、グラニュー糖の粒80が金属棒81の先端付近に写っていることで、グラニュー糖の粒80の空間像が金属棒81の先端付近に表示されていることが分かる。また、その見え方は(A),(B),(C)の方向に応じて変化している。すなわち、運動視差が実現できている。
【0041】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変形実施が可能である。
例えば、本発明の立体観察装置は、顕微鏡に限らず内視鏡にも適用可能である。内視鏡として適用する場合、鏡筒5に代えてバンドルファィバを用いると良い。また、かならずしも拡大観察をするものに限らず、例えば等倍の像を結像して等倍観察を行うようなものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る立体観察装置の一例を示す構成図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る立体観察装置を簡略化して示す構成図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る立体観察装置の光学的な作用についての説明図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る立体観察装置における偏向ミラー(A)、照明装置(B)、および回転モータ(C)の制御タイミングを示す説明図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る立体観察装置の一例を示す構成図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る立体観察装置における観察側の偏向ミラー(A)、照明装置(B)、および物体側の偏向ミラー(C)の制御タイミングを示す説明図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る立体観察装置の一例を示す構成図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る立体観察装置による実際の観察像を示す図である。
【図9】図8に示した実際の観察像の説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1…観察対象物、1A…物点、2…回転ステージ、2A…回転モータ、2B…回転中心、3…照明装置、4…対物レンズ、5…鏡筒、6…リレー・拡大レンズ、7…偏向ミラー(観察側)、8…制御装置、11…空間像(中間像、対物像)、12…観察像(空間像、立体像)、20…顕微鏡光学系、21…偏向ミラー(物体側)、22…固定ステージ、81…金属棒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象物からの光を結像して空間中に観察像を投射する結像光学系と、
前記結像光学系から見た前記観察対象物の観察方向を周期的に変化させる観察方向変更手段と、
前記観察方向変更手段による観察方向の変化に応じて、前記結像光学系による前記観察像の投射方向を周期的に変化させる投射方向変更手段と、
前記観察方向変更手段による観察方向の変化の周期と前記投射方向変更手段による投射方向の変化の周期との同期制御を行う制御手段と
を備えたことを特徴とする立体観察装置。
【請求項2】
前記投射方向変更手段は、前記結像光学系から見た前記観察対象物の観察方向に対応した方向に前記観察像の投射方向を変化させる
ことを特徴とする請求項1に記載の立体観察装置。
【請求項3】
前記観察方向変更手段は、前記観察対象物が載置される回転ステージと、前記回転ステージを周期的に回転させることで前記結像光学系から見た前記観察対象物の観察方向を周期的に変化させる回転モータとを有し、
前記投射方向変更手段は、前記結像光学系から出射した光束を観察側に向けて周期的に偏向させる偏向ミラーを有し、
前記制御手段は、前記回転モータの回転角の変化の周期と前記偏向ミラーの偏向角度の変化の周期とを同期制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の立体観察装置。
【請求項4】
前記観察方向変更手段は、前記観察対象物からの光を前記結像光学系に向けて周期的に偏向させることで前記結像光学系から見た前記観察対象物の観察方向を変化させる物体側偏向ミラーを有し、
前記投射方向変更手段は、前記結像光学系から出射した光束を観察側に向けて周期的に偏向させる観察側偏向ミラーを有し、
前記制御手段は、前記物体側偏向ミラーの偏向角度の変化の周期と前記観察側偏向ミラーの偏向角度の変化の周期とを同期制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の立体観察装置。
【請求項5】
前記観察方向変更手段および前記投射方向変更手段に同期して前記観察対象物を間欠的に照明する照明手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記観察方向変更手段による観察方向の変化の周期と前記投射方向変更手段による投射方向の変化の周期と前記照明手段による照明タイミングとの同期制御を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の立体観察装置。
【請求項6】
前記投射方向変更手段は、前記結像光学系から出射した光束を観察側に向けて周期的に偏向させる偏向ミラーであり、
前記制御手段は、前記偏向ミラーが一定の角速度で偏向している期間のみ、前記観察対象物が照明されるよう、前記照明手段による照明タイミングの制御を行う
ことを特徴とする請求項5に記載の立体観察装置。
【請求項7】
前記結像光学系は、
前記観察対象物からの光を結像して空間中に対物像を形成する対物レンズと、
前記対物像を観察側に投射して空間中に観察像を形成する投射レンズ系とを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の立体観察装置。
【請求項8】
前記投射方向変更手段は、前記投射レンズ系を出射した光束を周期的に偏向させることにより、前記観察像の投射方向を周期的に変化させる
ことを特徴とする請求項7に記載の立体観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−275668(P2008−275668A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115657(P2007−115657)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】